理穴 禁足地の攻防
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/17 21:45



■オープニング本文

「何てことだ」
 目撃例を聞いて、村長は戦慄した。
 発見できたのはまさに神の加護か。それは偶然に近い。用があって、近くを通りかかった村人がたまたまその姿を認めた。
 羽の生えた猿が森を飛び交う。勿論、そんな獣がいるはずはない。
 アヤカシ。
 となると、直に近くの村が襲われるに違いない。それを阻止する為、今の内に討伐してもらわねばならないが……。
「村長、どうします?」
「とりあえず、開拓者ギルドで相談しよう」
 硬い表情のまま、村人たちはギルドへと出向いた。

 そして、ギルドにて依頼が出される。
「理穴の森に、羽猿が現れました。人程の大きさをしている、文字通り翼の生えた猿です。――といっても、高くは飛べず、木から木へ身軽に乗り移る為のもののようですけど」
 何故か困ったように、依頼文の説明をするギルドの係員。
「数は四体とまだ少なめ。だからなのか森の奥に留まったまま、近隣の村も無事です。ですが、遠吠えで遠くの仲間と連絡を取る事もある為、いずれは数を集めて悪行をしでかすでしょう。なので、今の内に、現場に出かけてただちにこれらを退治してください。――ただし、開拓者は抜きで」
「は?」
 変な声を上げた開拓者は少なくない。声を上げずとも、説明を聞いていた者たちは一様に目を丸くしていた。
 落ち着いて、と、係員が指示を出す。
「羽猿のいる森は、昔、神が棲んでいたという謂れがあり、今でも特別な日以外は人が立ち入るのを許されていない場所なのです。アヤカシがいるのに、と思う方もいるでしょうが、そうはいっても周辺の方々の心情もあります。説得すればあるいは可能かもしれませんが、それには時間もかかるでしょう。なので、今回は開拓者抜きで、相棒たちだけで討伐に赴いてもらいます」
 人はダメだけどそれ以外なら。というのが、依頼に来た村長と話し合った結果だという。
「武装もしているようですし、そこそこの強さを持つ相手。厄介かもしれませんが、数の少ない今の内ならあるいは」
 急な申し出に、一緒に聞いていた相棒たちも驚いている。
 とはいえ、そういう事情があるなら仕方も無い。無理に立ち入って、周辺住人と揉める結果になってもギルドとしてはよろしくないのだから。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
露羽(ia5413
23歳・男・シ
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
アルクトゥルス(ib0016
20歳・女・騎
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰
九条・颯(ib3144
17歳・女・泰
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰


■リプレイ本文

 理穴の森にてアヤカシ発見。その報告にただちに開拓者たちは動き出すものの……。
「いやー、まさか開拓者抜きでとはな……」
 水鏡 絵梨乃(ia0191)がしみじみと現場を見る。
 しきたりで森には普段人は入れず、しかし、入らねばその奥に潜むアヤカシを倒せない。
 だったらここは相棒たちに任せてみよう、と、ギルドから言い渡される。
 実際現場まで足を運べば、大きな鳥居には立ち入り禁止の縄が張られている。跨げば通れる簡素な縄だが、そこに込められた信仰を軽々越えるのは難しい。
 敵の数は四体。こちらは八体。種族様々で数も勝るが、如何せん主の目の届かぬ所まできちんと行動を守ってくれるか。その不安は大なり小なり付き纏う。
「この先に人が入ることは許されぬのですね。相棒だけを送り出すのは心配ですけど……きっとやり遂げてくれると信じています。頼みましたよ、黒霧丸」
「ワォン」
 心配そうな露羽(ia5413)だが、しかし、当の忍犬はいつも通りの真摯な眼差しを主に向ける。
 ぴたりと露羽に寄り添い、命令を待っている。後は行けと言えば、すぐにでも行動に移るだろう。
「プルケリマも人型だが……まぁ細かい事を気にしても始まらんな。やれるのか?」
「仰せとあらば。マスター」
 禁足地をいぶかしげに見ていたアルクトゥルス(ib0016)。自身で整理をつけると、自身のからくりに命じる。
 美しい彼女はささいな疑問など気にもせず、主の言葉に粛々と応える。
 形式的なもので、形は関係ないのかもしれない。そもそも人の立ち入りを禁じたのは昔の話なので、その頃にはからくりはいない。想定外だろう。
「いいブライ? 取るべき作戦はよく話して聞かせた通りだからね。スバシッコイ猿にアヤカシ補正の入った面倒な相手だけど、ブライならやれるな?」
 自身の迅鷹に懇々と九条・颯(ib3144)は説明するも、ブライは聞いてるような無いような風で森を見つめている。これからしとめる獲物を思うのか。はたまた、森に美味しい果実でもないかと考えているのか。
「それじゃ、行ってらっしゃいなの〜」
「行ってきます、が……。あまり人様には迷惑をかけないように」
 笑顔で手を振るプレシア・ベルティーニ(ib3541)に、人妖のフレイヤの方が何やら心配そうに顔を曇らせている。外見こそ両者そっくりなのだが、性格の違いが行動や表情に表れていた。
「じゃあ、行くとするか。相棒がいないと何も出来ないなんて思うなよ。丸腰でも立派に戦ってみせるぜ」
 意気揚々とアーニャ・ベルマン(ia5465)の猫又・ミハイルが告げる。
「行ってらっしゃい。――ヒダマリなら大丈夫だよね!」
「ワォン」
 じゃれていた忍犬のヒダマリは、レビィ・JS(ib2821)が手を振るのを見ると名残惜しげにしながらも森へと入っていく。
 何の問題なく。相棒たちは実にあっけなく縄を越えて、禁足地へと入っていく。
「知能の低い動物のような連中だけで、本当にアヤカシ退治なんて可能なのかな」
 ピィピィ鳴きながらも他の朋友についていくミヅチの水尾を見送りつつ、なおも藤本あかね(ic0070)は不安そうな目を向ける。
 もっとも、相棒には人並みに立ち回れる知恵を持つ者もいる。彼らに指揮してもらえば、猿程度のアヤカシ四体早々後れは取らない……はず。

 そして、森を入ってからもフレイヤは心配そうに振り返る。
 見送りにきた開拓者は相棒たちに仕事を託せば、後はやることが無い。
 待つ身も暇か。御茶に御菓子に酒と何やら準備万端だ。その中で、にこにこと食べ物に手を伸ばしている主を見て、ほんの少しため息をついていた。


 人が入らないとあって、森はほとんど手入れがされてない。
 うっそうと茂る木々の隙間を縫って、人魂で変化したフレイヤは羽猿の姿を探す。
「敵影見当たらず。けど、仕掛けるならば……」
 ざっと周囲を見渡したフレイヤの言葉で、相棒たちはその場に伏せて待つ。
 その中で、絵梨乃の花月だけが飛び上がる。上級の迅鷹、ではあるが、何も装備はしていない。桜色の体に風を直接捕らえ、無防備のまま悠々と森を飛ぶ。
 闇雲に探し回った所で、森林戦は向こうが有利。ならば、少しでもこちらに有利になりそうな場所で待ち構えた方がいい。その為の行動を言い渡されている。
 
 森の上を花月はざっと一回りした後に、手頃な枝で翼を休める。
「ウキャ!」
 そこに木の影から羽猿から飛び掛ってきた。間一髪で逃げる。そのまま木々を縫うように逃げ出した花月を、羽猿たちは軽々と追いかけていく。
 つかず離れずのまま追いかけっこは続いた。勿論ただ逃げたのではない。羽猿たちをひきつける為だ。まんまと羽猿たちは思惑に乗ってくれたようだ。
 不意に花月は高度を落とした。羽猿たちもそれに続く。彼らの行く先には、さらに一匹の猫又。 
「フニャアアア〜〜?」
 不意の襲撃。白黒の猫又が驚いたように立ち竦み、悲痛な鳴き声を上げる。
 間際を通り過ぎる迅鷹。
 羽猿たちが二匹のどちらを標的にしたかは分からない。迅鷹が加工し、標的が重なった所で一斉に襲い掛かろうとし。
「くくく、かかったな」
 ミハイルがにやりと意地の悪い笑みを見せて、ひょいと白い前足を突き出す。
 飛び掛ってくる羽猿を十分に引き付けた上で閃光。眩んだ羽猿たちの動きが鈍った。

 ミハイルの一手と同時に、相棒たちは攻撃に動き出していた。
 目が眩みながらもとっさに後退しようとする羽猿もいた。
「ケエエエーッ!」
 すかさず飛び出したブライが相手の動きが鈍い内に頭上を取り、高く飛べないよう鋭い牽制を入れる。
 そして、射程内にある内に、忍犬たちもまた動いていた。
 黒霧丸は地を強く蹴ると、捕らえた一体を咥えるとそのまま噛み締め地へと引き釣り落とす。
 ヒダマリは周囲に立ち並ぶ樹を上手く利用し駆け上がった。と、その姿が空中で二つに分かれた。
 影分身。二匹のヒダマリもまたそれぞれ獲物を捕らえて噛み付くと、手近な木へと引き寄せて自由を奪おうとする。
「ウキャ! キーキー!」
 どうにか逃れた一体が、木の上から「仲間を放せ」とばかりに高らかに威嚇。だが途端、その足元から盛大な水が吹き上がり、羽猿が突き上げられる。
 皆の後ろに控えながらも、水尾は懸命に水柱を念じていた。

「目標捕獲確認。近接格闘に移ります」
 短く宣言するや、プルケリマは制限解除。美しい面差しの表情は変わらず、されど眼差しは鋭く一体を捕らえている。機闘術による機敏な動きで木を登ると、分身が消え自由になった方の羽猿を素早く掴み上げる。
 枝の上では暴れる範囲も狭い。そう判断すると、羽猿と共に地上へと飛び降りていた。
 なすがままに叩き落された羽猿に、すかさずプルケリマはグラントガントレットをつけた拳で殴りつける。
 どこから拾ったか。羽猿は鎧を着けて身を守っているが、そういうアヤカシだとは聞いている。プルケリマは構わず防具の隙間を狙って攻撃を続ける。
 が、羽猿とてやられっぱなしでは無い。奇声を上げると、腰の刀を抜いた。力任せの太刀筋だが、刃は本物。
「くっ!」
 思わずプルケリマが退く。その隙に素早く羽猿は体勢立て直し、手近な枝からさらに上へと逃げようとして、
「ケェエェエエ!」
 見逃す筈は無い。すかさず滑空してきたブライが強い冷気を纏った獣爪「氷裂」で掻く。
 掴んでまた地上へと叩き落そうとするブライを、羽猿は刃を振り回して追い払おうとはする。
「樹から降りないつもりでしたら」
 プルケリマが妖精の礫を構える。気付いたブライが距離を開けた隙に、すかさず羽猿へと撃ち込んでいた。

 水尾が念じて水が吹き上がる度に、羽猿が舞い上がり溺れる。ダメージ自体はそんなに強い技では無いが、強烈な水圧で羽猿はふらふらと動きが定まらない。
 それでも水とミズチに関係ついたか。怒りと共に羽猿が跳び上がり、水尾に斬りかかろうとする。
「シャアアア!」
 だがその接近を、さらに空から容赦なく花月が飛んで邪魔をした。爪や嘴での鋭い攻撃を繰り出すや、飛速に任せて即座にまた上空に飛び上がる。
 そちらを追いかけようと羽猿が目を離せば、途端に水柱が突き上げる。
「キュ! キュキュ!」
 懸命に自分に出来ることをとばかりに、水尾は水柱を連打する。
 ふらふらになりながらも、羽猿は翼はばたかせ飛びかかろうとし、けれど、その翼が鋭い風に巻かれ、無残に切り刻まれる。
 翼失くした羽猿が、一体誰の仕業とばかりに周囲を見渡す。
 見ていたのはミハイルで、鎌鼬を放ったのも同じ。
 察して羽猿が睨むが、それもまたミハイルの思う壺。
 両者しばしにらみ合ったが、やがて羽猿がふらふらとぼーとしたり刀を捨てたりと奇妙な行動を取り出す。混乱したのだ。
「キエェーー!!」
 そして、奇声を上げると羽猿は猛然と走り出し、プルケリマたちの方へと走り出す。
 否、結局ブライに枝から落とされ、彼女と組み合っていた仲間の羽猿に向かって。
 仲間の羽猿を殴り倒し、さらに飛び掛ろうとした所でまた水に押し上げられる。
 殴られた方は訳が分からず抗議の奇声を発しているが、それも束の間。そちらはあっという間に迅鷹に突かれ、からくりに叩きのめされる。
 その間に、花月が水尾に竜巻の刃で同化しようとするが、これは上手くいかなかった。それでは仕方がないと、混乱している羽猿の頭を掴んで毛をむしらんばかりに爪を立てる。

 忍犬に押さえられた羽猿たちもいつまでも捕らわれたままではない。
「ギャ!」
 機動力を削ぐべく、執拗に翼をむしる黒霧丸に短く吠えると、羽猿は煉獄牙へと手を伸ばす。
 剥いで奪おうとしたのか。けれども伸ばされた手を、構わず黒霧丸は噛み締める。
 傷めた羽猿がギャアと鳴くが、それでやけくそになったか、黒霧丸の顔を引っかこうとする。
 避けようと忍犬が顔を背けた所で、さらに羽猿ががむしゃらに暴れだした。ただでさえ自分よりやや大きめの相手。押さえきれずに投げ出されてしまう。
 黒い犬を何とか跳ね除けると、羽猿は即座に逃げの体制に入った。翼をもがれ、傷を負い、まだ仲間があがいてはいるが、勝ち目はもうないと判断したようだ。
 翼無くてもさすが猿型というべきか。機敏な動きで、跳ねるように走る。けれど、忍犬の脚力も負けてはいない。
 手負いの相手を逃がしてなるかとばかりに、黒霧丸は猛ダッシュ。
 逃げる方も必死だが、その行く手にはしっかりやはりブライが目を光らせていて、落雷のように降り来て行く手を遮る。
 さほどの距離も逃げられない内に羽猿はまた押さえ込まれ、容赦ない忍犬の爪を御見舞いされていた。

 別の樹ではヒダマリを振りほどき、羽猿がさらに別の枝に一旦退こうとする。翼を広げ、枝に手を伸ばし掛けたところで、
「ウググ!?」
 羽猿は頭を押さえると、いきなり失墜した。
「ガルルル!!」
 頭を押さえて苦しんでいる間に、ヒダマリが木の上から飛び掛る。気付いた羽猿がどうにか躱したものの、ほっとする間も無く、その死角をついてさらにフレイヤが鴉丸で斬りかかっていた。
「早くしないと。目を離すと何をしでかすんだか――!」
 主を気にかけつつも人妖は匠に切りつける。飛び回る人妖が鬱陶しいと感じたか。羽猿が刃をがむしゃらに斬りまわし始めた。
 でたらめな剣技は太刀筋が読めず、むしろ近寄りがたい。フレイヤは十分距離を置くと呪声を唱える。
 声無き声が直接アヤカシを襲う。頭を押さえて悲鳴を上げた羽猿に、即座にヒダマリが食らいつく。
 普段から気に入った相手にはじゃれ付く忍犬だが、勿論初見のアヤカシに懐く訳無い。威圧的な唸りを上げるやその喉元へと鋭く牙を食い込ませていた。


 最後の一体が倒れたのを見届けてから、静かにプルケリマが宣言する。
「制圧完了」
 討伐の証拠として首の一つも持ち帰ろうかと思ったが、ぐずぐずに崩れたアヤカシの体はじわじわと瘴気に返りだしていた。
 もうこれ以上ここに用は無い。そう判断するや、相棒たちはそれぞれ行動を始める。
 回復しようとフレイヤが診断する前に、水尾やブライはさっさとその場から立ち去っていく。他の面々にしても、しばしの後には踵を返していた。
 勿論、その行く先は同じなのだが。

 鳥居の前では、まだ開拓者たちの姿があった。
 帰って来る相棒たちの姿を見て、それぞれがほっとした表情を作る。
「お疲れさまっ!」
 無事で何よりと出迎えはいいが。その際レビィがうっかり禁足地に踏み込みそうになる。
 誰も見てないならいいのかもしれない。けれど、それを言ったら相棒が苦労して向かった意味も無くなってしまう。
 慌てて周囲に止められている主に、ヒダマリの方から駆け寄り。出てきたところを両者がっしりと抱き合う。
「よくやりました」
 黒霧丸も主から労いの言葉と共に抱きしめられ。いつもの通りの待機姿勢で寄り添う忍犬だったが、その尾はどこか嬉しげに揺れてもいる。
 改めてフレイヤは相棒たちの怪我が無いかを確かめて回る。プルケリマは主に見てもらっているが、どうやらそもそもさほどの怪我は負ってない。治療に当たりながら、アルクトゥルスの周囲に転がっている酒の肴や瓶、酒気などを冷静に分析していた。
「そういえばだ。花月で空を飛べないのかな。出来るならお願いしたい」
 黒眼鏡もきっちりかけなおして、ミハイルが期待を込めて絵梨乃とその相棒に声をかける。
「アーニャからも聞いてるけどどうだろう。お願いできるかな?」
 言われて、芋羊羹を熱心に突いていた花月は動きを止め、絵梨乃をじっくりと見つめる。
 無言でも、眼差しは雄弁に語る。討伐分とこの分と、きっちり好物で支払ってもらいますよ、と……。

 ただ、この飛び猫計画は残念ながらうまくいかなかった。
 帰路に着き。報告がてら開拓者ギルドで訊ねてみると、どうやら他者同化は人間やからくり以外には効かないらしい。