もふらは貝になりたい?
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/30 13:00



■オープニング本文

 新緑薫る天儀の世界で。
 もふらはその事実に戦慄した。


「真珠が無いもふ!」
 地響きを立てて、開拓者ギルドに飛び込んでくるや、ギルドの係員を踏みつけ、白もふらが高らかに吠える。
「これは一大事もふ! 由々しき問題もふ! 三つ揃ってこそ宣伝文句にもなるのに、金と銀だけではダメもふ! 急いで真珠を用意するもふ!」
 口走りながら、そのままごろごろと係員にじゃれ付く白もふら。自分より大きなもふらにもふもふされて、係員は苦しそうにしているが、周囲はむしろうらやましげに見ている。
「つまり、真珠が無くなったのか? それなら確かに一大事だが……」
「違う。最初から無いのよ」
 何とか自力で脱出し、改めて聞く体制に入った所で、ようやくもふらの関係者である二人が入ってくる。
 ミツコとハツコである。

「詳細は知らないけど、金銀銅のもふらさまを集めると何かもらえる売り出しをやってるんでしょう? 見物に行ったもふらさまが帰って来るなり『真珠がない。三点せっとには金銀真珠もふ!』って騒ぎ出してさ」
「……。そういう事は経営店舗に直接言ってくれ」
「んー。そういう話でも無いんだよねー」
 事態を説明するハツコに、係員は頭をかかえる。
 けれどもそんな係員の意見を、さらにミツコが暢気に否定する。

「すなわち、無い物は作ればいいもふ!!」
 そして、白もふらは宣言する。
「真珠は貝から出来るもふ! 貝の中に詰め物をすればいいもふ! だから、もふは貝に入るもふ! それにはとても大きな貝が必要もふ。どうせ入るなら、ふかふかで寝転がっても大丈夫な場所がいいもふ! 貝は閉じてもいいもふけど、密閉されると息苦しくなるので、その工夫は欲しいもふ。勿論水につけるのもダメもふ。もふがあっぷあっぷしてしまうもふ! 入る前にはキレイに毛並みを整えるもふ。そしたらさらにキレイ度が増すもふ!」
 聞いていた係員は、何も言わずただ考える。

 考えて、少ししてから口を開いた。
「これは確認だが。……つまり、自分が真珠のもふらになって売り出されようと?」
「うちのもふらは売り物じゃないよー」
「その通り。もふは非売品もふ」
 口を尖らせるミツコに、白もふらも何故か胸を張る。
 そして、また係員は考える。考えて、結論を出す。

「単に入念にブラッシングしてもらった上で、貝型の寝床で寝てみたいと?」

「要約すると、そうなるわ」
 恐る恐る告げる係員に、ハツコがあっさりと頷いた。
「どこの愛の女神だそれは」
「あれって、誕生の場面じゃなかったー?」
 机に突っ伏すギルドの係員に、ミツコは真面目に首を傾げる。
 白もふらからも反論は無い。何故か自信たっぷりに胸を張ったまま。
 依頼要請を受け取るだけで、何故か係員は疲れている。
「まぁいい。つきあうのは開拓者たちだし。しかし、そんな大きな貝殻が見つかるのか?」
 開拓者募集の手続きをしながら、首を傾げる。
 白もふらはかなり大きいもふらだ。人よりも大きい。いや、例え小型のもふらでも、それが入るとなれば貝としてはかなり大きな部類になるはず。
「そこは開拓者たちに任せるわ。どっからか巨大貝を見つけてくれてもいいし、何か見た目で作り上げてくれてもいいし」
「巨大貝か。ケモノでならいそうだが、あいにくそういう依頼は見当たらないな。本物でなくてもいいなら作った方が楽か」
 寄せられる依頼書を確かめて、係員はうめく。

「一応聞くが、真珠のもふらは一体でいいのか? そっちの六体はどうする?」
 係員に声をかけられ、依頼人たちにくっついてきていた他のもふらたちは顔を見合わせた。
「もふもふ。別に興味ないもふ。でも、そこまで言うなら折角なので、もふたちにも用意するもふ」
 しまった。余計な事を言った。
 ありありと後悔の表情が係員に浮かぶが、後の祭りだ。
「もふ? 全員で真珠になるもふ?」
「それはダメもふ。どうせなら金銀真珠を揃えるもふ」
「金が一つで銀が五つもふ? 丁度そろうもふ!」
「もふ? 銅はいらないもふか?」
「銅だけにどうでもいいんだろ」
「もふもふ。座布団没収もふ」
 脱力した係員が口を挟むと、即座に座っていた椅子を跳ね飛ばされた。
「どうでもいいけど。金銀真珠って贈る側が揃えてるのよね?」
「うちの子たちは非売品だし、贈答品でもないもん! 見るだけ、貸すだけ!」
「もふ!」
「あー、もう好きにしろっ!!」
 床に投げ出された係員が叫ぶ。
 ギルドで騒ぐもふらたちを黙らせるべく、至急彼らの御遊びに付き合える開拓者を探し出した。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
ルース・エリコット(ic0005
11歳・女・吟
ユエン(ic0531
11歳・女・砲
蔵 秀春(ic0690
37歳・男・志


■リプレイ本文

「もふらさま、いっぱいなのです」
「もふら、さま……もよろし…………ぴぁあ!? ひぃい!」
 ギルドに現れた七色のもふらに、ユエン(ic0531)がうっとり。
 一方で、がちがちに緊張したルース・エリコット(ic0005)が悲鳴を上げる。
「よろしくもふー。今回はお願いするもふー」
 当のもふらはといえば、いつもの調子でもふもふと二人にのしかかる。一度にのしかかられて、あっという間に二人の姿がもふらに消えた。
「おいおい、随分でかいな。抱えるのが一苦労だ」
 ぺしぺしと赤もふらを叩いてみて、蔵 秀春(ic0690)が大きさを確かめる。
 七体全てが人以上ある大きさ。圧巻なのやらうざったいのやら。
「金銀パールか。そのキャンペーンはもう終わったんじゃないか。今回には関係ないか」
「もふもふ。終わったならまた始めればいいもふ」
「あげないからね!」
 一応言ってみる羅喉丸(ia0347)だが、やっぱりもふらは気にしない。調子に乗って、贈物にまでされてはたまらないと、ミツコはしっかりと釘を刺す。
「理由どうあれ、引き受けたからには、全力を尽くす。それが開拓者の矜持であると同時に――遊びは真剣にやるからこそ楽しいからな」
「お願いするもふ」
 頼もしく笑う羅喉丸に、白もふらも嬉しげに笑う。
 とりあえず、ギルドは手狭。主な作業や話は、もふら牧場でと後にする。


 一旦はもふらたちと離れ、羅喉丸は貝の代用品を探しに街中に繰り出す。
 貝になりたいもふらさま。――もとい、大きな貝で寝てみたいもふらさま。
 とはいえ、もふらの大きさは確認済み。白もふらが納まるほどの貝など通常ありえない。――けれど、全く諦めきった訳でも無い。
「籠に布に綿、と……。それと、何かこれくらいの巨大な貝がいたりはしないだろうか? 欲しいのはそれぐらいの貝殻なんだが」
 材料調達がてら、情報収集も合わせて集めていく。
 ただ成果の方は、やはりというべきか。芳しくない。
「そんな奴がいるなら、噂ぐらいにはなってるだろうからなぁ。下手したら人や船が襲われる可能性もあるからねぇ」
「そうですか」
 足を向けた漁村でも、難しい顔をされてしまう。
 気を張り、耳を澄まし、目を凝らして。集中して探すもやはり状況は同じ。
「もっと遠くまで足を伸ばすか、あるいは人の来ない海辺に潜るか……」
 言いつつ、羅喉丸は空を見上げる。
 陽もそろそろ高くなっている。あまりこちらに時間を割いていては、代用品すら作る時間が無くなる。
 さすがに切り上げる頃合か。


 もふら牧場では、もふらたちが帰りを待って、ごろごろとしていた。
 ユエンが櫛でもふらたちの毛を丁寧に梳いていく。
「痛くは無いですか?」
「大丈夫もふー」
「もふもお願いするもふー」
「もふー」 
 一匹がただでさえ大きい上に、梳いている途中で別の一匹もすり寄ってきたりする。優雅に見えて大変ではあったが……。
「気持ちいいのです」
 そんな苦労など些細なことか。
 ユエンがもふらに優しくマッサージするように触れると、もふもふの毛皮に手が沈む。

 やがて、羅喉丸も合流。真珠の組み立てにかかる。
 そうなると、ただでさえ好奇心の強いもふらさまたち。待ち時間の飽きもあって、何をしているのかと覗いたり、そのままじゃれて遊んだりと小さな騒動を次々起こす。
 宥めるとおとなしくなってくれるが、その度にまた毛が乱れて、ユエンは最初から梳き直しする羽目に。
 ……案外、それを見越して暴れてるのかもしれない。
「綺麗にしてから寝床で寝たいのですよね?」
 ユエンは、ふと疑惑の目をもふらに向ける。
 もふらは空々しく目をそらした。
「それは白いのもふ。もふたちには関係ないもふー」
 少し口を尖らせ、視線はちらちらと、羅喉丸が取り組んでいる真珠の寝床に注がれている。どこかうらやましそうに。
「案外立派なのが出来そうで、嫉妬したって所か?」
 苦笑する秀春に、ニヤリともふらが笑う。その分かりやすい態度に、笑いはさらに増した。
「ぶーたれねーの。八つ当たりもよくないな。自分がどうにかしてやっからよ?」
「もふもふ。別に真珠は欲しくないもふ。……本当もふよ?」
「分かってる。金ぴか銀ぴかだろ。それにあれを作れと言われても、自分はあいにく裁縫は苦手でね。布より指を縫う回数の方が多いと来たもんだ」
 とほほ、と秀春はおどけて泣く。
 簪職人としての腕は確かであるはずが――何事にも相性というのはあるのだ。
「という訳で、あんたらにはこれだ。金色の布を巻いて簪で留める。簪の扱いなら任せておけって」
 金色の布を広げた上で、くるりと秀春は簪を回す。
「えっ……と。銀色に、関しては……。こちらの……包帯、を巻い……てみようと、思います……が……良い、でしょう、か?」
 脇で見ていたルースがおずおずと進み出る。
「もふもふ。金の方が豪華っぽいもふ」
「そ、それは……。巻いた包帯に……色を塗るので……、対応、可能……。問題は……無いと、思う……です」
 緊張が解けないのと、恐れ多さが相俟って、ルースは怯えてるようにも見える。
 蚊の鳴くような声もやっと絞りだし、ぎこちない動きでもふらさまに手を伸ばす。
「さ……触っても、よろしい……ですよね?」
「もふ? 大丈夫もふ。怖くないもふー」
「わわわ」
 恐る恐ると近付くルースに、善意か悪戯かよく分からない動きで、もふらがのしかかっていた。
「あの、お手伝いしましょうか?」
「だ、……大丈夫。こちらは……が、が、がんばっ、て……みます」
 もみくちゃにされてふらふらとなりながら、ルースはユエンにそう告げる。

 白もふらを除く六体が御色直し。
 そちらは二人に任せて、ユエンは羅喉丸に声をかける。
「お手伝いすることありますか? 買出しとか、足りないものがあれば言って下さい。ユエンも、御裁縫が出来るのです」
「すまない。それじゃあ、この袋の口を開けておいてくれ」
 渡された大きな袋をユエンが開けると、羅喉丸は綿を詰める。巨大な真珠貝のぬいぐるみを作ろうというのだ。
 布と綿だけでは形も崩れると、籠を作って骨組みとしている。
「子供の玩具と同じ。謝って踏んづけても、壊れにくくないとな」
「踏んづけるどころか、寝そべりますからねぇ」
 強度を確かめる羅喉丸。ユエンは困ったようにもふらを見る。
 何度見ても白もふらは大きい。これが寝転ぶ上、寝返りとかどうなるのだろう。
 強度に満足すると、羅喉丸はユエンにも協力してもらいながらその袋口を閉ざしていく。
 確実に仕上がっていく寝床を、白もふらは満足そうにずっと見つめていた。

 六体のもふらは、布や包帯を巻きつけてもらう。
「きつく……ない、ですか? 痒い所があったら……仰って……下さい」
「もふもふ。苦しうないもふ。ささ、こっちに近ぅよるもふー」
「あーれー、もふー」
「それは……違う、遊び……ですよね?」
 折角巻いた包帯を引っ張って、解かれ。ルースはやれやれと思いつつ、包帯を巻きなおす。
 最初こそ、気後れもあってキツク締めすぎたり逆に緩すぎて解けたりしていたが、いろいろ慣れてきて適度に締め付ける加減も分かってきた。
 弾力のある毛を潰していいのか気にしたものの、こだわるもふらもいないようで。
「この、感じ……。もふらさまって……毛が、無く……ても、丸っこそう……ですね」
「ふかふかの毛もいいけどな。――この毛を使えばいい素材になりそうだな」
 秀春も布を巻きつけながら、はみ出た毛を指先で確かめる。
「もふらさまの簪とかあったら、かわいいと思うのです」
 ユエンも秀春細工のもふら簪などを想像してみる。さて、これでどんな簪が出来上がるか。いろいろと完成図が頭に浮かんでくる。
 考え事をしながらでも、彼らの手の動きは止めない。
 秀春はきっちりと金の布を巻くと、簪で飾りつける。
「ほらよ、綺麗になったろ」
 整えて、ぽんと背中を叩くと、金色になったもふらは誇らしげに胸を張った。
「――。しまったもふ! 銀では五体で金一体もふ! 価値が低いもふ!」
 金色になったもふらを見ていた別のもふらが、はっ、といきなりその事実に気付く。
「金……色に……塗りますか?」
 包帯に色をつけていたルースは、金もあると見せて示すが、相手はきっぱりと首を振る。  
「それだと、銀が五つ揃わないもふー。交換できないもふー」
「別に何も交換とかないからね!」
 苦渋を滲ませるもふらさま。
 ミツコが念の為にとくどく口を挟んでくる。 
「まぁ、そうぶーたれなさんな。何なら、後で巻きなおしてやるから。今はこれでも食って機嫌直せ」
「もふもふ。いただくもふ」
「もふもー」
「い……今、動い……ては、困ります……」
 秀春が、食べ物を差しだす。
 食いしん坊のもふらさま。すぐに機嫌も直して、腹を満たしにかかる。のはいいが、他のもふらもそわそわ動いて、慌ててルースが残りのもふらにも包帯を締めて回る。


 食べてる間にも、包帯を綺麗に整える。
「よし、出来た。完成だ!」
 腹を満たして機嫌を直した所で、羅喉丸が声を上げた。
 御手製の真珠寝床。開いた貝は、当然本物よりも柔らかく厚みがあるが、その分とても寝心地良さそうに仕上がっている。
 それでは、と、もふらたちが真珠の周りに集まる。
「完成を記念して! 金のもふらと……」
「「「「「銀のもふら五体もふ!」」」」」
 金のもふらと、銀のもふらたちが自信満々に声をそろえる。
「金と銀のもふら型木乃伊って気もするけど……って言っちゃダメかしら?」
 率直な感想を漏らすハツコに、秀春は自身ありげに否定する。 
「そんな物より、派手で綺麗で御利益だってありそうだろ?」
「それは言えてるー」
 ハツコも明るく同意する。
「そして、真珠のもふらもふ!」
 ユエンに梳かしてもらった白もふらが遠くから走りよると、大きく空へと跳び上がり、作ったばかりの真珠へと飛び込む!
「こら! 壊してももう作り直させなんてしないからね!」
 悲鳴のようにハツコが叫ぶ。
「もふもふ。だいじょうぶもふ。いい感じもふ。金銀真珠と揃って、これで一安心もふ」
 もふらが動くと、真珠の寝床も揺れる。籠が軋む音も聞こえるが、今はどうにか耐えている。
 布と綿がふかふかで。これならすぐに眠れると、もふらは横になるなり高いびきを始める。
 食事を貰っていい感じになっていたのだろう。他の金銀もふらたちもその周りで思い思いに寝そべり、食後の居眠りと相成った。
(こうして間近で見ても、……やはり大きいな)
 羅喉丸は寝そべるもふらたちをじっくりと観察。石鏡の大もふ様のように、ひょっとして大きいほど格が高かったりするのかと、それとなく聞いてもみた。
 が、そんな事は無く。ミツコたちに言わせればまだまだひよっこ連中だという。
「特に修行とかさせてないから、適当だしねー」
「身体の大きさなんて関係ないの。すごいもふら様は……うん、まぁすごいらしいの」
 のんびりと告げるミツコと、何故か目をそらすハツコ。
 だが、すごいのかそういうのはこの寝姿を見てるとどうでも良くなってくる。
 ごろんごろん、と、寝返りをうっている金と銀と真珠のもふら様は、金銀真珠揃えて何をもたらしてくれたのか。
「……なんだか……いい、感じですよね……」
 照れくさそうに笑いながら、そっとルースは手を合わせてみた。