希儀 通れない道
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/20 20:38



■オープニング本文

 大樹ヘカトンケイレスが消滅し、主要なアヤカシの多くを討ち果たした希儀――明向。かつての宿営地として建設されたその名は、やがて、隣接する都市の名として通ずるようになっていった。
 希儀には精霊門も開かれ、大型輸送船の定期航路開通も決定。
「入植予定の方はこちらで身分改めを願います」
 ギルド職員が木のメガホンを手に大声を張り上げる。希儀は無人の大地が広がっているとあって、天儀各国はおろか、アル=カマルやジルベリア、泰からも入植者を受け容れることとした。無論、土地は非常に安価であるか、魔の森に追われた家庭など、対象者の状況によっては一銭も徴収されない。
 明向周辺は人口も急増し、俄かに活気付き始めた。


 精霊門が開かれ、飛空船による空路も確立。街に人も入り、整備も整う。緩やかに。
 けれど、街に住めればそれでいいわけでも無い。
「陸路が寸断されたままだと、流通に不便だなぁ……」
 明向から程近い街。ただしそこに至る手段は限定されていた。
 街の発見は空から。入植時の移動は主に船を使った。
 今も物資の運搬は船か飛行船に頼っている。しかし、港は大きくも無く、飛空船を停めるなら船を出さねばならないような場所。
 何より乗り物が特殊すぎて、気軽に街を出入り出来ない。
 調べると、かつてはその街から他へと通じる街道があったようだ。
 年月の内に、路面は砕け、草木が蔓延り、土砂に埋もれてしまっている。そのままではとても通れたものじゃないけれども。
「とりあえず、明向までの道を確保できれば、もっと商品の流通も楽になる」
 そう考え、明向までの街道をもう一度整備することにした。

 しかし、それで順調に終わるなら開拓者ギルドも楽でいい。


「街道の一部が鷲獅鳥の縄張りにかかり、そこの作業をしていると攻撃される。負傷者も出て、おかげで工事が中断してしまっている」
 開拓者ギルドに入った報告を、ギルドの係員が説明している。
 相棒としては頼もしい鷲獅鳥も、本来は強力なケモノである。
 野にあっては獰猛で攻撃的。人にもなれにくく、縄張り意識が非常に強い。下手に出会えば、餌にされるだけの相手だ。
「縄張りを避ける手段も検討されたが、あいにくヤツラの行動範囲も広い。迂回して、さらに一から街道を作り直すとなると、いつまでたっても終わらなくなる」
 壊れているとはいえ、すでにある街道を修復するからこそ時間も短縮できる。
 それに野山を切り拓いたところで、また別のケモノに出くわすだけだ。
「現れる鷲獅鳥は五体。野生である以上、戦闘訓練されておらず、相棒に比べれば弱い個体になる。落ち着いてかかれば、十分対処できるはずだ。なんなら無傷で捕らえてくれてもいい。調教師のヤツラが喜ぶだろう。それと、現地からはついでに瓦礫や倒木の除去も手伝ってくれると助かるとのことだ」
 さらり、となんだか追加を言い渡された気がする。しかし、それは手が空けばでいいはず。
 最優先は、邪魔になる鷲獅鳥たち。奴等をどうにかせねば、安全は無い。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
春吹 桜花(ib5775
17歳・女・志
帚木 黒初(ic0064
21歳・男・志
ヴィオレット・ハーネス(ic0349
17歳・女・砲


■リプレイ本文

「こういうのが開拓者魂、とか言うのですかね? いやいや、道なき道でもないだけまともですよねえ……」
 希儀の地に至り。帚木 黒初(ic0064)は感慨深く現場を見つめる。
 森を抜ける一本道。そこはかつて人の行き交う場所だった。いずれの街にか通じ、人や馬などが歩き、荷が動いたのだろう。
 今は放置されて無残な姿。森の木に石畳も歪み、落石倒木でとても通れた物では無い。
 けれど、道は道。もう一度整備すれば、また近くの町まで行き来が楽になる。
 ゆっくりとでも、自分たちの手で住めるべき土地を切り拓いていく。
 大変だとは思うものの、やらねばなるまい。それに、その苦労でまた土地への愛着も湧いてくるのだろう。
 だが、それにも限界がある。

 指定の場所まで来れば、工事用の道具や荷車が放り出されている。あちこちには、大きな爪痕。
 鷲獅鳥五体。空から来るケモノの攻撃は、移住者たちには危険すぎた。
「アヤカシ勢に捕らわれる前に見つかっただけましですかね」
 人にしても鷲獅鳥にしても。
 杉野 九寿重(ib3226)も複雑に嘆息ついた。
 見通しの悪い森。その奥に何が潜むのか。主だった上級アヤカシに大アヤカシは討伐済みだが、雑魚のようなアヤカシは今だ目撃例がある。
「ケモノでも。縄張りに道を通そうとしてるのはこっちなので、心苦しくはあるの」
 水月(ia2566)が、しゅん、と項垂れる。
 工事の邪魔だからどうにかして欲しい、とは頼まれた。
 けれど、そもそもここに先に住んでいたのは鷲獅鳥たちに他ならない。
 依頼であっても、胸は痛む。もっとも承知で受けた依頼だ。手を抜くつもりも無い。
 幸いか、ギルドの方で捕獲の準備を整えてくれている。かくなる上は、生け捕りにして別の共存の道を探すだけ。

「さてさて。相手にこちらの言葉が通じてくれればよいのだがなぁ」
「相手はケモノ。しかも鷲獅鳥は気位が高い。こちらの力も示さねばならないでしょう」
 重く告げるからす(ia6525)に、菊池 志郎(ia5584)は傍に控える鷲獅鳥の虹色を見つめた。
 今回、鷲獅鳥を連れてきた開拓者たちも多い。まだ若い鷲獅鳥は何となく嬉しそうにしている。
 水月の鷲獅鳥・闇御津羽もまだ若いが、こちらは堂々としながらも何やら主人に緊張した風を見せてもいる。だが、水月が命じれば直ちに従うのはここに来るまでに分かっている。
 他の鷲獅鳥たちにしても、人には慣れている。言葉に従う。だが、それは培った絆や経験で察してくれているだけとも言える。
 今回の鷲獅鳥たちは、人間と接するどころか初めて見るのかもしれない。そんな相手が、すんなりこちらに従うとはさすがに誰も信じてはいない。

 からすは大きく息を吸う。
「我らは天儀から来た! ここは元々そなたらが住む地とは重々承知しておるが、こちらにも事情がある。ここを明け渡すか、討伐されるか……あるいは我々の仲間になってはくれないか!? その為の力は示そう! ――というのを訳してくれないか?」
 天に向けて高らかと叫び、最後は自身の鷲獅鳥に頼む。
 彩姫もどこまで分かったのか。小鳥のような鳴き声を続けてあげる。
 その声が消えても、鷲獅鳥たちは姿を見せなかった。
「いいえ、来てますよ。警戒して様子見、あるいは襲い掛かる機会を窺っているという所でしょう」
 心眼を使った黒初が、木の裏岩の陰を次々と指し示す。
 開拓者たちを包囲する五つの気配。いつでも取り掛かれるよう身構える開拓者たちに、相棒たちも緊張しだす。

「お腹が空いてるならお寿司を食べればいいもふ。美味しいもふ」
 緊張の欠片も無く、もふらのもふべえは朗らかに告げる。
「鷲獅鳥に関しては、皆に任せるでやんす。あっしらはそれよりこちら。いつか通るかも知れない道を、通れる用に協力するでやんす」
「もふ!」
 春吹 桜花(ib5775)は鷲獅鳥を相手にする気は無い。いると告げられた森から目を外すと、荒れて険しい街道に目を向ける。
「対応はお任せするけど、作業の邪魔をされるのもまた困るよな」
 重い胸を揺らして肩をほぐすと、ヴィオレット・ハーネス(ic0349)は、魔槍砲「瞬輝」を構える。
 古くに敷かれた街道。行く手を阻む障害物に狙いを定めると、放つは魔砲「メガブラスター」。
「こちらは危ないという事はしっかり分かってもらわないとな」
 光線が全てを吹き飛ばす。合わせて響く轟音が、始まりの合図となった。


 音に弾かれたか、鷲獅鳥たちも一斉に動き出した。影から姿を現し、その姿をさらす。
 飛び上がった鷲獅鳥に、すぐに開拓者たちも相棒の背に乗り、大空へと舞い上がる。
「とりあえず、こちら五名に向こうも五体。一人一体ずつで、いいでしょうか」
 数えて返事も聞かないまま、九寿重は一体に目をつけて鷲獅鳥の白虎を向かわせる。
 空を舞う鷲獅鳥は共に猛々しく。
 けれど、あまり高く飛ばれては葛切 カズラ(ia0725)の手では届かなくなる。連れている相棒は羽妖精で、カズラは飛行させられない。
「地上からでも出来る事はあるわ。まさか逃げようとか考えてないわよね?」
 一体に目をつけると、大龍符をすかさず使う。
 巨大な龍が鷲獅鳥に牙を剥く。剥くが、それ以上攻撃はしない。実体の無い巨大龍だからしょうがない。それに、その大きさだけで威圧は十分だ。
 怯んだ鷲獅鳥が体勢を崩し、そちらに気を取られる。だがその間にも、相棒のユーノが近付き魅惑の唇を放つ。
 鷲獅鳥が震えた。これはやれた、と思った束の間、鋭い鍵爪がユーノに襲い掛かった。
「きゃあ!」
 小さな悲鳴を上げながらも、これを回避。慌てて主人のいる場所まで下がる。
 龍はすでに消えている。それで怖い物なしと判断したか、勢い良く鷲獅鳥が向かってくる。
「あらまぁ。やっぱりしつけは必要ね」
 カズラはウィップ「カラミティバイパー」をしごくと、突っ込んできた鷲獅鳥を躱し、ぴしゃりとその尻を叩いた。
 痛みはあれども、傷はつけないような手加減する。
 鷲獅鳥から哀れな鳴き声が上がった。
 さらに蟲を這わせ、呪縛符で絡めとる。
 そうやって動きを鈍らせた所で、さらにユーノが投げキッス。魅了にかかった所でようやく一頭を捕まえる。
「こうまでしないと私の魅力に参らないなんて、ずいぶんと強情な子ですこと」
「調教のしがいはありそうだけど、後のお楽しみ。他の方の応援に回るわよ」
 拗ねるユーノに、カズラも笑う。すぐに他の開拓者の動きを読むと、その支援へと向かう。

 からすが彩姫に命じたのは「力を示し、説得せよ」。
 即座に彩姫が吠えた。猛き唸りで攻撃力を上げると、野生の彼らに向けて飛び掛る。
 からすも弓「蒼月」で風撃を放つ。縦横無尽に動き回る相棒の背からでも、安息流騎射術で見事乗りこなして、その矢はぶれずに放たれる。
 不規則に軌道を描く矢は、しかし相手の鷲獅鳥には当たらない。
 元より当てる気も無い。虚をつき、先即封で牽制も交え、鷲獅鳥を翻弄させ疲弊させるのが目的だ。
 獅子咆哮を上げたものの、彩姫も必要以上に接近はせず、近付けば鷲返撃のような動きで踵を返すと、加速して間を取る。
「虹色も。無茶はしないように」
 志郎も、追ってくる鷲獅鳥をあえては攻撃せず。けれども逃がさないよう、挑発を交えて飛んでもらう。
 時折精霊砲を撃ち、虹色も真空刃を放つ。こちらも当てはしない。
 鷲獅鳥たちを引っ掻き回し、疲れた所をすかさず捕らえる。
 けれども、無駄に動き回れば向こうがへばる前に、こちらが息切れしてしまう。上手く動きを制してこちらは疲労しないように注意しなければならない。
 落下の勢いで爪を立てる鷲獅鳥を、志郎たちは際で躱した。急な動きに、虹色の翼から綺麗な羽根がはらりと落ちる。
「こちらの心意気を分かっておとなしくなってくれないでしょうか」
「縄張りから逃げたとあっては、この地の明け渡しにもなるからな。向こうも生半では折れてはくれぬだろう。――彩姫、なるべく後方の上空についてくれないか。そこから狙ってみよう」
 執拗に追い回してくる野生たちにため息をつきつつ、からすは弓を片付けると鎖分銅を手にする。

「相手の上を取るのは基本中の基本ですね。飛んで、闇御津羽」
 志士咆哮で猛ると、飛翔翼を用いて直ちに闇御津羽は舞い上がった。開拓者と共にある鷲獅鳥と野生では、経験が違う。後ろを取るのも上を取るのも容易かった。
 加えて、闇御津羽に対する……いや水月に対する鷲獅鳥の動きは少々妙だった。明らかに彼女と戦うのは避ける素振りを見せる。ヴィヌ・イシュタルの効果が効いているのだろう。
 逃がさないよう白虎を回り込ませ、九寿重も鷲獅鳥と相対する。
「仕草、視線、体捌き、行動の方向などを読み取れば、大方の予想はつきます。ここはおとなしく御縄についてくれませんか?」
 荒縄を手に鷲獅鳥を睨む。けれど、こちらには容赦する気は無い様子。
 それでも力量の差が見えてくると、向こうも本能的に打算を働かせる。
 間合いが少しずつ開くのは逃走の準備か。けれど、それも先に読むと、水月が白狐を放ち、闇御津羽もその黒い翼を大きく広げてすれちがいざまに真空の刃で切りかかる。
 勿論こちらもあえて狙いは外す。威力を示す為に狙われた巨木はたちまち切り刻まれ、枝葉が地上へと落下していく。
 その落ちる枝葉は、落下の際に他の枝葉に当って跳ねて、あらぬ方向に飛んでいく。
 落ちる先はよりにもよって、工事途中の街道。
 即座に、桜花が瞬風波で打ち砕く。
「ごめんなさい! そちらにはいかないよう気をつけてましたのに」
「大丈夫もふ。ゴミはお片付けもふ」
「そっちは任せるでやんす。だからこっちにも気にせず、任せるでやんす」
 頭上の騒ぎは何のその。黙々と街道整備に勤しんでいた桜花ともふべえが、新たな落下物を始末にかかる。
 それを足元遠くに見てから、水月は気を取り直して、大きく息を吸う。
「こちらの力はもう十分に分かったはずです。私たちは命まで取る気はありません。どうかおとなしくついてきてくれませんか?」
 吹く風に乗せて。ローレライの髪飾りによる薄緑の燐光を纏いながら、鷲獅鳥への説得を心の旋律で歌い上げる。
 牛肉を見せての餌付け。気を惹かれた風ではあるけれども、それですんなり従うような相手でも無い。
 迷う素振りはほんのしばし。逃げるも無理と分かると、相手は果敢に奪いに来た。
「頭を垂れさせるのは難しいですね」
 鍵爪を立てて飛び交う鷲獅鳥に、やれやれと九寿重は白虎に指令を出す。こちらは九寿重の意を汲み、迅速に動いてくれる。
「しっかり言う事を聞かせたければ、愛の魔力で縛るべきですね」
 上から押さえ込むことで、鷲獅鳥の飛ぶ高度は下がり気味。射程に捕らえると、ユーノが魅惑の唇で心を動かす。カズラの術でおとなしく地上に横たわった相手を、九寿重は荒縄で縛り上げる。

「残りも時間の問題、と言った所ですか。――何やら不満そうですね」
 鷲獅鳥を追いかけ、追い回される、頭上の騒ぎ。そちらに注意しながらも、街道整備を続ける黒初が相棒に語りかける。
 連れてきた相棒は炎龍。鷲獅鳥と同じく気性の激しい個体が多い相棒だ。しかも空を飛ぶ翼も持っている。
 ――なのに、どうして倒木拾いを手伝わなきゃならない?
 とでも言いたげに、いらついた気配が届く。すぐにでも参戦したいような殺気を振りまきつつ、主人の言う通りに刈った草木を纏めたり瓦礫を撤去したりと強力で手伝っている。
 もっとも、地上にいるからといって油断も出来ない。先のように思わぬ破片が降る時もあれば、思いがけず開拓者たちを翻弄し、地上にまで爪を伸ばしてくる鷲獅鳥もいる。
 ある程度まで近付けば、斜陽で牽制。それでも向かってくるなら、大薙刀「蝉丸」を振り上げ紅蓮紅葉で攻撃する。
 そうなると炎龍も容赦は無しに加勢しようとする。
「待った。あくまで担当は上の方々です」
 それを止めると、不承不承と言った表情ながらも作業に戻る。
 地上で攻撃された鷲獅鳥は、避けるように飛び上がるが、飛んでもそこには開拓者たちが待ち構えている。
 魅了して穏便に、弱った所を縛り上げ、あるいは強引に手綱をつけて。
 五体の鷲獅鳥をどうにか束縛し、五体の鷲獅鳥を生け捕った。


 ギルドから用意された檻に入れると、さすがに観念した風を見せる。
 けれど、まだまだ従う気にはならないようで。こちらが迂闊に近付こうモノなら、檻の隙間から鋭い爪を御見舞いしてくる。
「よさんか。人に手をかけるなら、こちらとて容赦はせんぞ」
 開拓者も相棒も、そして捕らえた鷲獅鳥。治療を受けて傷らしい傷は無い。
 低く唸る彼らを、からすは嗜める。
「折角の食事も食べてはくれぬでやんすか。残念でやんす」
 寿司の折詰を差し出す桜花だが、鷲獅鳥たちは見向きもしない。持ってきた食料や水も口にはせず、警戒を露わにしている。
「もふ。今だけもふ。悪いこと無いと分かれば仲良くなれるもふ。ご主人と一緒にいるとこんなに美味しいものが食べられるもふ〜。幸せもふ〜」
 と、もふべえは幸せいっぱいに寿司の折詰を頬張る。
「人と関わり無く自由に生きてきた動物ですから。朋友となることが幸せかどうかは分かりませんが……」
 警戒を解かない鷲獅鳥たち。志郎はやはり自身の相棒と見比べてしまう。後はどうなるかギルド経由で調教師に任せるだけ。
「でも、これで心置きなく作業に取り掛かれるな」
 一息つくと、ヴィオレットは魔装砲に向き合う。主だった障害物は撃ち砕いたが、小さな破片に浮いた石畳など、やらねばならないことは残っている。
「安全に通るには、この道を均す必要もありますね。帰る時間まで手伝わせてもらいましょう」
 破片は取り除き、石畳をもう一度土に埋めなおす。泥だらけの作業になるのも気にせず。九寿重は気合いと共に腕をまくる。
「魅了でおとなしいままなら助かるけど。こうも反抗的だと、いきなり解けて逃げられるのも困るわね」
 鷲獅鳥を惜しそうにカズラは見る。労働力としてあてにしていたが、元の木阿弥になっては困る。

 危険が無くなったことを告げると、住人たちもすぐに戻ってきて。檻に入れられた鷲獅鳥をしげしげと見つめた後で、早速作業再開となった。
「では私は皆様の為に、心躍る希望の歌でも。――闇御津羽は皆様を手伝って下さい」
 力仕事を相棒に任せ。自分にも出来ることをと、水月は美声を響かせる。
 これまでの後れを取り戻そうと住人達も作業に熱が入る。

 そして。
 夕闇迫る希儀の空を、最後の仕上げとばかりにヴィオレットは滑空艇・神風で飛び出していた。
 風に乗り、辺りを一巡しても、襲い掛かってくる影は無い。空はどこまでも広がっている。
 けれど、
「道を切り拓いて行くっていうのもいいもんだ」
 見下ろせば、広大な森に伸びる一筋の線。その先には出来たばかりの街がある。
 まだまだ繋がっていない箇所はあるが、落ちている瓦礫などは大まかに撤去した。
 いずれ希儀のあちこちにまた道は敷かれる。人も荷も行きかう。今はまだほんの一歩でしかない。