希儀 サソリ退治
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/25 20:32



■オープニング本文

●新たな大地
 大樹ヘカトンケイレスが消滅し、主要なアヤカシの多くを討ち果たした希儀――明向。かつての宿営地として建設されたその名は、やがて、隣接する都市の名として通ずるようになっていった。
 希儀には精霊門も開かれ、大型輸送船の定期航路開通も決定。
「入植予定の方はこちらで身分改めを願います」
 ギルド職員が木のメガホンを手に大声を張り上げる。希儀は無人の大地が広がっているとあって、天儀各国はおろか、アル=カマルやジルベリア、泰からも入植者を受け容れることとした。無論、土地は非常に安価であるか、魔の森に追われた家庭など、対象者の状況によっては一銭も徴収されない。
 明向周辺は人口も急増し、俄かに活気付き始めた。


 山野を切開き一から開拓する場所もあるが、希儀には過去の文明が数多く残っている。
 その中でも現存はしているが特に価値も無いと判断された場所は、そのまま入植者へと開放されている。
 希儀の住居は石造りが基本。木造で畳で土臭い生活が基本の天儀人にとっては、いささか慣れぬ住居に戸惑いも多い。
 今の所、気候は温暖。寒い事は寒いが、どうやら雪の心配は無い様子。残された資料から、寒くはならない風土のようだし、季節の移り変わりもあるようで、最近は暖かくなりつつもあった。
 環境は悪くない。多少の苦労は覚悟の内。住めば都、数年暮らせば何とか慣れるさ、と多少の虚勢も交えて新しい住人となった移住者たちは、新生活を作り出そうと動き出す。
 けれど、多少ではすまされない苦労もたまには出る。

「希儀のある街で、サソリのケモノが大量発生中だ」
 希儀からの連絡を受けて、開拓者ギルドに開拓者が呼び集められる。
 サソリは希儀に普通に生息している。そのケモノもいても当然。刺される被害も報告されている。しかし、それも想定内の出来事のはずだったが……。
「廃墟に人が入り、環境が変わったせいだろう。その街ではどこぞからぞろぞろと湧き出て、被害が続出しているそうだ」
 湧き出て、という言い方は妙だが、街はいまやそういう状態らしい。
 家の物陰から、石畳の裏から、屋根の上から、布団の中からぞろぞろと。這い出たサソリに街は占拠された状態だ。
 毒もあり、一般人が刺されると酷く腫れる。致死ではないものの、手当てが遅れれば命に関わる可能性もあるという。
 幸い、現地に巫女がいた為、できる手当ては完了。大きな被害には至っていない。
 日々の生活は始まったばかり。サソリはケモノとはいえ強くなく、一般人でも十分対処できる。毒に耐えられそうな屈強な若者中心に駆除を試みているが、何せ数が多いし毒も痛い。作業には手を焼き、なかなか成果を得られない。
 用心して、体力の無い者や子供を中心に街を離れているぐらいだ。
 街はまだまだ手を入れねばならない箇所がたくさんある。
 開墾も始まったばかりだというのに、このままではサソリ退治に手を割かれ、開発は遅れに遅れる。下手すれば、この街を放棄せねばならなくなるかもしれない。
「なので、街に現れたサソリを排除して欲しいと現地からの要請だ」
 志体持ちが刺されても、一般人ほどでは無いがやはり腫れるし、放っておけばじわじわと体力を削る。現地の巫女が手当てはしてくれるようだが、頼りすぎると一般人の手当てに手が回らなくなる。
 危険で面倒な相手だが、新たな生活を円滑に進めるべく、街の平和を取り戻して欲しい。 


■参加者一覧
時津風 美沙樹(ia0158
22歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
何 静花(ib9584
15歳・女・泰
八甲田・獅緒(ib9764
10歳・女・武
パルファム(ic0532
20歳・男・魔


■リプレイ本文

 事前の準備は、まず土地の把握。
 街の人が作った地図を書き写し、情報を集める。
「とにかく大勢に話を聞いて、街の様子を見てくるのですぅ。天狗駆を使えば多少は早い……わきゅ!」
「危ないヨ!」
 便利な技も、発動前で油断したのか。勇んで飛び出そうとした八甲田・獅緒(ib9764)が、早々と転びかける。
 パルファム(ic0532)が慌てて手を伸ばして襟首をつかむ。
 転倒こそ免れたが、もたついた足が古い石畳を蹴飛ばした。ひびも入り、もろくなっていたのだろう。あっけなく地面から剥がれた石板。その下では小さなサソリがハサミを広げていた。
「うひぃ!!」
 獅緒が獅子の尻尾をぴんとたてて飛び退く。
 勿論、見つけたサソリは早々と退治した。あっけないものだ。が、こうも簡単に見つかったとなると、他はどれだけ潜んでいるのやら。
「ユー! きっちり足元を見て。転ぶならサソリよりはミーにしておけ!」
「あ、ありがとう、ございます」
 不安げに見てくるパルファムに、獅緒はおどおどと礼を告げる。
「子供や赤ちゃんなんかはいつ刺されるか分からないから、住民の方は不安でしょう」
「だからこそ、僕らの出番〜♪ 住民には危険なのだし〜♪ 決して被害が及ばないよう纏めて片付けて見せるんだねぇ〜♪」
 石畳には隙間があるようには見えなかった。どこに潜んでいるのか、油断も隙も無い。
 案じる菊池 志郎(ia5584)に、門・銀姫(ib0465)は歌うように告げて笑みを見せた。
「拠点はどうする? とりあえず郊外で寝泊り出来る様、小型天幕は持ってきたが」
 何 静花(ib9584)が尋ねる。生真面目故、飛び入り参加と気にした様子で少々態度が硬い。
 そんな静花の肩を時津風 美沙樹(ia0158)が軽く叩く。
「さっさと片をつければ、街中で十分に休ませもらえるわ。折角の新天地ですもの。移住した方々も安心して暮らせるようになりたいよね」
「住処に入り込んだのは人の方だし、サソリに罪は無いけれど。放っておく事はできないわ。これからも共存していく為にも、人とケモノの棲み分けはきちんとしておかないといけないものね」
 フェンリエッタ(ib0018)が少し目を伏せるも、すぐに毅然と顔を上げて街を見つめた。


 サソリの毒から逃れる為に、体力や年齢で劣る者は街から出ている。その為、昼日中というのに、街はどこも閑散としていた。
 敵は夜行性。日が暮れてから活発に動き回る。ならば日中の内に虱潰しに潰していこうと、開拓者たちは町中を見て回る。
「実は希儀は初めてなんですよね」
 志郎は物珍しく視線を彷徨わせる。
 サソリを探すがてら、当然街の様子も目に付く。古い石作りの街は、長い年月放置されたにも関わらず、少し手を加えれば住めるほど破損が少ない。道には石畳。
 全体的に装飾などはジルベリアを思わせる造りだが、窓の向きや大きさなど、割と暖かい地方なのだと思わせる。
 じっくり見物したいところだが、今はすべきことがある。それは依頼を終えてからと、志郎はサソリが入り込みそうな場所を見る。
「水道の類はさすがにまだないようね。どうも街全体に満遍なく散ってる感じだわ」
 目撃談や被害状況などを美沙樹は地図に記していく。
 被害は、家の中など生活している空間が多い。だが、それは単に人の数に比例しているだけのようだ。
「多分、この街自体がサソリの棲家というか、住みやすい場所だったみたい。潜んでいたのを起こしてしまったのね」
 サソリはケモノだ。ならばヌシがいないかと、フェンリエッタは大きめの個体を探す。
 サソリの大きさも様々。大きいのがヌシかと探すも、今の所、見つけたサソリにその気配はない。
「袋小路に遮蔽物〜♪ 隠れる所は多いね〜♪」
「ま、街の人も、なるべく潜む場所が無いよう、荷物は整理して壁の修理とか急いでるそうです。でも、作業用にちょっと置いてた大八車に潜まれて、とかも多いみたいです」
 地形を調べて地図に書き込む銀姫に、獅緒も聞いた情報を伝える。

 志郎が箸を石壁の隙間に突っ込む。手ごたえを感じて素早く手を引っ込めると、隙間から毒針が飛び出してきていた。
「ユー! その臭いには耐えられそうも無いネ! 消えちゃいなヨ!」
 隙間の奥へとパルファムがサンダーを仕掛ける。身動きしなくなったサソリを、志郎は改めて隙間の奥から引っ張りだす。すると、その影から別の一体が一緒に引き釣り出される。
「おっと」
 箸を捨て、持ち替えた苦無「凶星」を素早く投げつける。胴を貫かれたままもがいていたサソリは、直にその動きを止めた。
「大丈夫。その穴にはいないわ」
「他には」
「たくさん」
 心眼「集」を使ったフェンリエッタがげんなりと両手を上げる。
 隠れていても御見通し。気配は簡単にとらえられたが、その数はざっと数えても両手に余る。しかもそれらは動く。昼とはいえ、全部が寝てるとは限らない。
「家の中でも家具の下とか裏とか中とか。許可を貰ってやるしかないわね」
 それを一軒一軒廻って。空き家にも住み着いてるだろう。街中をとなると、確かに大変だ。
「しかし、それでは効率も悪い。……煙で燻し出せないか」
 静花が、ふと迷ったように主張する。
 開拓者たちは顔を見合わせていた。


 物置代わりに使われていた小屋に、静花は七輪を設置する。
「では、行くぞ」
 火加減を調整して、煙を立たせる。風の向きも合わせ、小屋の中はすぐに煙でいっぱいになる。
「出てくるわよ」
 小屋を注意していたフェンリエッタが声を上げる。と、たちこめる煙から逃れるように、サソリが大量に這い出してきた。
「皆、がんばって。刺されても任せてちょうだい」
「私も多少は癒せますので言ってくださいね」
 美沙樹が神楽舞「速」を舞い、獅緒も双龍旋棍を構える。
「あちらからもこちらからもお出ましだね〜♪ 何はともあれ、まずは纏めてやっつけようよ〜♪」
 銀姫が平家琵琶を鳴らす。発される重低音。ほとんどがその一撃で吹き飛ぶが、中には耐え抜く強靭なサソリもいる。
 耐えても、無傷では無いし、音の重さにやられて動きは鈍っている。一足飛びに踏み込むと獅緒は瞬く間にサソリたちに止めを刺す。
「これだけ湧くとオゾマシイね。そんな所に、ユーにはあまり飛び出して欲しくないネ。いつ何があるかとハラハラするヨ」
 顔を顰めながらも、はぐれたサソリに雷を落としていたパルファム。
 獅緒は心配をよそに、囲まれぬよう、反撃を受けぬよう、一撃と同時に離脱を繰り返す。
「へ、平気です。私だって開拓者。毒耐性への加護もあれば、この程度の相手ぐらいいいいい!?」
 雨絲煙柳。精霊の影をまとい、軽い足取りで踏み込む獅緒にサソリたちはついてはこれなかった。
 けれども、飛び退こうと引いた足が、大きなサソリの屍骸を踏みつける。寸前で踏みとどまるが、こけてサソリまみれになる所だった。
 
「どうやらこの小屋は綺麗に出来たわね」
「足音らしきもの無くなったね〜♪」
 サソリが出なくなったのを確認し、フェンリエッタが小屋を探れば、銀姫も超越聴覚で探る。
「結構痛いな」
 うっかり蹴り上げた拍子に反撃を食らい。静花は毒針を刺された腕を動かす。
 毒も怪我も治療済み。だが、痺れた感覚は忘れない。たしかにこれを一般人が食らい、治療できずにいるなら危険だ。
 小屋の周囲にはサソリの山。パルファムじゃなくても胸が悪くなる景色だ。
 そのサソリの屍骸を箸で摘むと、志郎は持ってきた袋に納める。
「食べるのか? サソリ鍋?」
 覗きこむ静花に、志郎は苦笑する。
「後で纏めて焼却するんです。犬猫や子供が触ったりするかもしれませんので」
 毒がいつまで残るかは知らないが、大事に越したことは無い。放ったままでは見栄えも悪い。
「駆除は終わったけど、このままじゃまた家に入られちゃうわね。目張りするだけでもマシとは思うけど、その辺りは街の人にお願いしてもいいかしら」
 美沙樹が交渉に赴けば、住人たちは快く了承し、早速小屋の手入れが始まる。
「煙でいぶすのは悪くないようだネ。スモーク臭くなるのは否めないケド」
 自身の匂いを嗅ぐパルファム。普段から香りに強くこだわるだけに、この結果には微妙な面持ちでいる。
「そうか。住宅だと嫌がられるかな」
 どうやらうまくいったと涙を流していた静花も、濡れた頬をぬぐうや、心配そうに街を眺める。
「害虫駆除を頼んできて断る家もそうないと思うわ。危険だし。でも、毒があるといっても、一般人でも対処できるんだもの。残るサソリが集まるのは、人がいない区画になりますわねぇ」
 美沙樹が地図を広げると、人の手がはいらず、サソリの棲家になってそうな場所に当たりをつける。


 煙で燻し出せるなら、それで追い出せばいい。駄目なら、乗り込んで地道に見つける。
 どの道、一日では終わりそうになく。
 日が落ちるに連れて、通りの人は減り、家は厳重に戸締りがされる。寂しかった街はさらに寂しさを増した。
「これは酷い」
 フェンリエッタが松明を掲げる。照らし出されたそこかしこでサソリの姿を簡単に目にできる。
 昼も結構潰したと思ったが、どこにまだ隠れていたのか。
 刺されないよう、開拓者たちは金属製のブーツで足を覆っている。だが、油断すると這い上がろうとしてきたり、屋根に上ったものが降ってきたりと油断ならない。 
「いっそ特産品にするか」
「いい香料になってくれるならネ」
 げんなりとする静花に、パルファムも身を震わせて答える。
「ほ、本当に数が多いですぅ。毒を貰わないよう気をつけていきましょぅー!」
 震えるのは怖気か、武者震いか。
 気合を入れると獅緒は武器を握りしめる。
「昼間は丹念なローラー作業〜♪ 夜は片っ端から迎撃だね〜♪ 全方位死角を作らないよう気をつけて〜♪」
 数はいようとやることは変わらない。銀姫が重力の爆音を奏でれば、パルファムはサンダーを、志郎も力の歪みを飛ばして距離を置いてサソリを攻撃。
 こぼしたサソリを中心に、静花は踏みつけていく。自分でも十分相手に出来るケモノ。だが、そう思っていると毒針振り上げ突き刺そうとしてくる。
 
 夜通し戦うのも身が持たない。静花の用意した天幕で適度に休憩を入れながら、サソリ退治を続ける。
 日が昇るとあれだけいたサソリが姿を消していく。
 昨日、回れなかった箇所を中心に街を歩き、サソリを駆除していく。
 地道な作業の結果は十分で、二日目の夜には、街をうろつくサソリの数は格段に減っていた。
 さらに数日の作業の後、とりあえず目に付くサソリはようやくいなくなった。
「今後のサソリ予防としては、屋外にあまり物を置かず、巣になりそうな暗がりや隙間を作らない事かしら」
 言いながらも、フェンリエッタは完全に行うのは難しいのもまた理解している。
「また何かあった時には〜♪ ボクらを呼んでくれればいいだけさ〜♪ 安全安否の助力には又任せて欲しいよね〜♪」
 早く避難した人たちを呼び寄せて、と促す銀姫。それを待たずに、もう伝令に走った者もいるとか。
 つかの間の平和かもしれない。どの道住人はこの地で生きていかねばならない。
「その時までには何か香水を作っておいて欲しいネ」
 パルファムの申し出に「考えておく」と街の人は笑って答えていた。
 今はまだ自分たちの生活が手一杯。土産や装飾品にはまだまだ手が回らないという。