【神代】朱藩 武器と絨毯 
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 16人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/18 19:39



■オープニング本文

●襲撃
 開拓者ギルド総長、大伴定家の下には矢継ぎ早に報告が舞い込んでいた。
 各地で小規模な襲撃、潜入破壊工作が展開され、各国の軍はそれらへの対処に忙殺され、援軍の出陣準備に手間取っている。
 各地のアヤカシも、どうやら、完全に攻め滅ぼすための行動を起こしているのではなく、人里や要人などを対象に、被害を最優先に動いているようだ。
「ううむ、こうも次々と……」
 しっかりと守りを固めてこれらに備えれば、やがて遠からず沈静化は可能である。が、しかし、それでは身動きが取れなくなる。アヤカシは、少ない労力で大きな被害をチラつかせることで、こちらの行動を縛ろうとしているのである。
「急ぎこれらを沈静化させよ。我らに掛けられた鎖を断ち切るのじゃ」
 生成姫がどのような策を張り巡らせているか、未だその全容は見えない。急がなくてはならない。

●朱藩にて
 朱藩内、とある武器商の倉庫。
 単なる工芸品やら、実用に足る武具まで幅広く扱っている。当然高価で実用性の高い品ほど、厳重に保管されている訳だが。
「……なんだ、この絨毯。うちの品じゃない……よな」
「あれ。主任も知らないんですか? じゃあ誰が運んだんでしょう?」
 倉庫の壁に、無造作に立てかけられた絨毯を見つけて倉庫番たちは首をかしげた。
 物は悪くないし、柄もよさげ。売ればそれなりの値はつきそうだが、いかんせん、そこは武器商。縁も所縁も無い品だ。
 大体、誰に聞いても、いつ誰がそこに置いたのかさっぱり分からない。
「誰かから預かったとか?」
「旦那様が新しく事業を広げられるとか?」
 最初は不思議がるだけ、だったのだが。
「お、おい。あれ……」
 作業員の一人があらぬ方を指差した。そこも武器商の敷地内。そこに別の絨毯が放り出されている。
 先ほどまで、そんなもの置かれていなかったのに……。
 唖然としていると、ぼさり、と大きな音を立ててまた絨毯が降ってきた。
 どこから来るのか、重そうな絨毯が数を増やしていく。

「倉庫を閉めろ! 怪しいぞ」

 さすがにまずい、と感じて。慌てて倉庫番は倉庫に鍵をかけようとした。
 それを察したかのように。それまでただそこにあるだけだった絨毯が動き出した。
 風も人も無いままに、絨毯はひとりでに広がり、ふわり、と宙を浮いた。そのまま空を横切ると、倉庫に殺到した。
 鍵番が押されて倒れるが、その上を軽々と通過。倉庫に侵入すると中にあった武具を手当たり次第に包み込む。
「アヤカシか。畜生、逃がすな!」
 倉庫に閉じ込めようとするも、扉にすがりつくや、絨毯に体当たりされあっけなく弾き飛ばされる。
 多くの武具を包み込んだアヤカシ絨毯は、そのままうろたえる従業員たちには目もくれず、東の方へと飛び去った。

 そして、冒険者ギルドに依頼が出される。
「朱藩各地でアヤカシ絨毯は武器を奪う事件が相次いでいる。人への被害は少ないが、問題は奪った武器を持ってヤツらは五行へと向かっているらしい。動き出した大アヤカシの元に届けるつもりか。あるいは鬼などの手に渡すのか。どちらにせよ、脅威になりかね無い」
 空飛ぶアヤカシ絨毯は、現在は朱藩から五行の海上を移動中らしい。
 管理に問題があったせいだからと、奪われた側は奪還を諦めている。それでも、むざと見逃すわけには行かない。
 急ぎ追いつき、敵に武器が渡らぬようにして欲しい。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 鷲尾天斗(ia0371) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 胡蝶(ia1199) / キース・グレイン(ia1248) / ルオウ(ia2445) / 菊池 志郎(ia5584) / 千見寺 葎(ia5851) / 和奏(ia8807) / そよぎ(ia9210) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / エラト(ib5623) / 沙羅・ジョーンズ(ic0041) / スチール(ic0202


■リプレイ本文

 遮る物のない海の上。集団で飛ぶ絨毯はよく目立った。
「目標発見。逃がすな、全速前進だ!」
「はい!」
 快速小型船にて、ルオウ(ia2445)の指示に合わせて船員たちがきびきびと動く。その中には、同乗しているそよぎ(ia9210)の姿もある。
 やはり同乗している鷲尾天斗(ia0371)は、どこか苦々しげに動き回る船員たちを見る。
「こんな時に動けねぇとは。ツイてねェなァ」
 五行で暴れる大アヤカシ。その戦火にあって、すでに負傷していた。
「マッタク! 天斗は大事な仕事を前に重傷とは情けない! 不甲斐無い! どうしようもない!!」
 連れてきた人妖のねねはそんな主に辛辣な言葉を浴びせつつ、頭を小さな手で叩いている。
「あまり心配かけさせないでくれ……バカ」
 一方で、神風恩寵をかけるのも忘れない。
 かけられる優しさに、天斗も申し訳なさげに口端を上げた。
 身体的な能力は低下しても、それで逃げる気は無い。重傷ならそれで出来る事をするのみ。
 船の目的は、奪われた武器の回収。
「せっかくの武器、アヤカシにくれてやんのも捨てちまうのももったいないしな」
 ルオウの目は、迫るアヤカシたちに向けられている。
 五十のアヤカシがそれぞれ荷運びとなると、奪われた品数はかなりの数になる。
 商人たちも溜まったものじゃない。
「ソシテ、コッソリアツメテウリトバスノネー」
「キティ! 人を泥棒みたいに言わないでよ! 武器商さんに届けてお礼をもらうのよ!」
 ちょいちょいと手招きするさまは、巨大な招き猫そのもの。だが、一体何を招くつもりか。
 不穏当な台詞を口にする土偶ゴーレムのキティを、そよぎは真っ赤な顔でたしなめる。……もっとも、彼女も全く下心無しではない。
 海の上を飛び、アヤカシたちもこちらに気付いているはず。だが隊列を崩す気は無いようで、荷物も運んでとなると飛ぶ速さは、自然、制限が加わる。
 追っ手である自分たちとの距離はぐんぐんと近付いている。いつでも行動に移れるよう、天斗は銃器を構え、ねねも指定席の頭にしっかりと張り付く。
「迎撃にはロートケーニッヒ、頼んだぞ」
 ルオウが声をかけると平行して飛翔していた炎龍が一声高く吠える。
「キティも猫の手貸してね。回収作業も大変なんだから」
「ヤレヤレ、ネコヅカイガアライ」
 回収用に借りた漁網で準備にかかるそよぎに、キティは億劫そうに動き出した。

 勿論、アヤカシ絨毯に迫るのは飛空船だけでは無い。
 その周囲では、飛翔できる相棒に乗り開拓者たちが展開している。こちらの狙いは主にアヤカシの殲滅。
「何故絨毯かと思えば……。確かに運びやすそうだな」
 妙にうずうずしている駿龍の風天を御しつつ、无(ib1198)は感心している。
 絨毯が乗せる武器の山。時には小物アヤカシを乗せて飛行する絨毯アヤカシだけあってか、荷運びもお手の物という訳か。
「所詮は運び屋。使われモノって訳? アヤカシとしても絨毯としても粗悪品ね。廃棄処分だわ」
 金の髪をなびかせて、胡蝶(ia1199)は鼻で笑う。人を襲って荷物を奪う品物など、あってはならない。
「アヤカシに武器を渡すわけにはいかないですね」
 と言いつつ、菊池 志郎(ia5584)は回収袋も用意している。
 武器商人たちは回収を諦めているが、どこかで期待もしているはずだ。
「できればあの武器も回収したい所だが。その為にも、あの絨毯を倒さなければな」
 甲龍・頑鉄の背で、羅喉丸(ia0347)は申し訳なさそうにする。
 無言の期待は想像つく。が、武器を気にして逃げられては元も子もない。


 近付いたのを見計らい、エラト(ib5623)はリュート「激情の炎」を奏でる。黒猫白猫の軽快なリズムが奏でられる中、開拓者たちは動き出す。
「まずは。纏めてなぎ払う」
 魔槍砲「連昴」を構えると、沙羅・ジョーンズ(ic0041)は魔砲「メガブラスター」を放つ。
 一直線に伸びる光線。射線上にいた絨毯たちがあっという間に、焼かれほつれる。
 合わせて、仲間からの精霊砲や、矢に凍て付く冷気と、次々にアヤカシ絨毯を呑み込んでいく。
「群れに突撃してちょうだい」
 エラトの指示が飛ぶや、鷲獅鳥の奏は翼を大きく広げ、臆する事無く一直線にアヤカシたちに突っ込む。まとう真空の刃が触れたアヤカシたちをきり飛ばしていく。
 そして、騎乗するエラトも負けてはいない。雄雄しい鷲獅鳥にまたがりつつ、魂よ原初に還れを奏で続ける。
 長い長いその曲は魂を無に還す。アヤカシに魂があるのかは分からないが、力を失った絨毯が落下。瘴気へと還っていく。
「風天。掴め……抛れ」
 无の指示で、駿龍は惑うアヤカシをつかんで飛空船に放り込もうとする。无としては、あくまで武器を回収しろ、との意味だが、風天はそう取らなかった。もっともアヤカシの持つ武器を一つ一つちまちまと接近してつかみ上げるよりも、持ってる相手を振り回すほうが纏めて運べる。
 絨毯の飛行は身軽で、駿龍でも捕まえるとなると簡単にはいかなかった。
 それも仕方が無い。相棒だけに任せる気も無く、无は魂喰で絨毯を撃破する。
 
「おー、危ない!!」
 ボロ布となったアヤカシから、奪われた武器が落ちる。
 飛空船は群れの下に回りこむ。甲板で投網や毛布を広げていたそよぎたちは、降ってくる武器から避難する。鞘も当れば痛いし、衝撃で火薬に火でもつけばいらない怪我を負いかねない。箱にでも入っていたらなお危険だ。
「飛空船を落とすのは勘弁してくれよな」
 大事な機体に損傷が出ないよう。ルオウは、降る武器を見極め、回収しやすくこちらが無事に済みそうな位置取りを細かく指示する。

 飛空船の動きに構わず、開拓者たちからの絨毯への攻撃は手加減が無い。
「氷龍で動きも鈍い。トドメをお願い!」
 胡蝶の氷龍が冷気を撒き散らす。切り刻もうが平気でいる絨毯も、まとわりつく冷気は重い。
「了解しましたよぉ」
 へらっと笑みを浮かべながら、不破 颯(ib0495)はレンチボーンから矢を繰り出す。
 態度は軽いが、攻撃の手は確か。
 五行に回らせないよう、他方面に追い込むように――そして、逃げ延びる前にと、駿龍・瑠璃の素早い動きを巧みに乗りこなし、颯はバーストアローで一掃する。
「なにせ向こうも大変で、これ以上厄介になられても困るんでねぇ。ここで全員、消えてもらうよぉ」
 もっとも、五行方面に逃げられても、早々と突破などさせない。
「武器を破損させてしまう可能性はあるが……敵に使われる事を思えば」
 甲龍・グレイブを五行側に回らせ、キース・グレイン(ia1248)は咆哮で敵をひきつける。
 向かってくる絨毯たちにもグレイブは落ち着いた動きで、頭から突撃。傷跡の目立つ体をアヤカシ絨毯にぶつけ、体勢を崩させる。


「白嬰」
 千見寺 葎(ia5851)はまだ若い駿龍の首を叩く。
 ただそれだけで相棒は飛速を上げた。群れの只中に飛び込み、一体に狙いをつけるとビーストクロスボウで矢を放ちつつ、即座に足布を巻いた脚で蹴り上げる。
 駿龍が移動すれば、葎も当然移動する。只中にあり、葎は風神を放った。真空の刃が周囲のアヤカシを切り刻む。
 その射程は短いといえば短い。飛行する相手ならすぐにも反撃できる距離。
 けれど、アヤカシ絨毯たちは向かっては来なかった。
 落ちた仲間もたくさんいるが、その弔いは無関心。逃げを優先し、四方散り散りになる。
「バーニング、スピードを上げてくれ。――そこで急降下だ!」
 その個体に追いつくよう指示すると、スチール(ic0202)は落下を利用して炎龍を襲わせる。
 バーニングブレスは獰猛な炎龍の性質のままに、爪を立てて絨毯に迫る!
 けれども、その爪は空を切る。強そうに見えない絨毯だが、どうも逃げるのは上手いようだ。
 だったら、当るまで突撃あるのみと、スチールは炎龍と共に空を駆ける。諦めや退きは、毛頭考えていない。

 群れの上空に炎龍・ヒムカは回り込み、柚乃(ia0638)が御結五十鈴を鳴らす。
 繰り出される重力の爆音に巻き込まれた絨毯も多いが、難を逃れるアヤカシの方が多い。速度を上げ、ヒムカの横も通り過ぎるが、すれちがいざまでも何も仕掛けては来ない様子。
「ひきつけたかったですが……、関心無しですか」
瘴索結界「念」をはり、アヤカシの動きは追っているが向こうは隠れるつもりも……もとよりその場所も無い。五行へと急ぐモノもいれば、朱藩に引き返すモノもいる。空高く飛び上がるモノに、海面すれすれまで下降するモノ。沖を目指すモノ、陸を目指すモノ……。まさしく蜘蛛の子を散らすようだ。
「逃がすかよ!」
 キースが咆哮を放つ。その雄叫びに惹きつけられ、アヤカシ絨毯の動きが変わった。
 アヤカシを引きつれ、グレイブは飛び回りつつ――かと思えばいきなり身を翻し、強力な尾の一撃を御見舞いしている。
「……とすると、聞いてくれる『耳』はあるんでしょうか?」
 首を傾げつつ、柚乃は完全に逃げられる前に、夜の子守唄を奏でる。
 まったりとした曲調。さて、効果はあるのかと半信半疑だったが……。
「眠るんですね……」
 落下するアヤカシたちを柚乃は見下ろす。ヒムカも呆れてるようだ。

 もっとも子守唄では眠るだけ。海面か、あるいは飛空船にでも落ちればさすがに気付き、絨毯は慌てて跳ね回る。
 寝ぼけた拍子に武器も落とす。
 覚めて、海上に浮かぶなけなしの武器を拾おうとする個体もいたが、もっとまとめて欲しがるモノもいた。
 飛空船に散らばる武器を目当てに、絨毯が乗り込もうとする。
 ロートケーニッヒが気流を利用してアヤカシたちを翻弄する中、天斗は宝珠銃「エア・スティーラー」を素早く撃ち、かと思えば魔槍砲「アクケルテ」で焦げ痕を作る。
 そよぎは柚乃と合わせ、ローレライの髪飾りを用いて夜の子守唄をその声を響かせる。
「ヒトノモウケヲカスメトルノハダメヨー」
 キティは不気味な唸り声で相手を威嚇する。その声に怯えて、絨毯たちが逃げ出そうとする。
 そこを炎龍がはらい、その敵に素早く天斗が次の一撃を入れる。
「結構、裏方は疲れるんだァよなァ……」
 と言いつつ、休もうとしない主をねねははらはらしながら見守る。


 武器を持ち逃げしようとする個体を追いかけ、開拓者たちの動きも活発になる。
「ポチ、抜け出したヤツを追うわよ! 風を捕まえなさい!」
 胡蝶を乗せて、駿龍は高速飛行で瞬く間にアヤカシの前方へと回り込む。構わず突っ込んできた絨毯を華麗に回避。その後ろに回り込む。
「陰陽師の式から逃げられると思わないことね、切り裂きなさい!」
 胡蝶の繰り出される斬撃符から、絨毯は逃げ出せない。
 駿龍の風天は加速し、遠くにいる敵に追いつくと風焔刃を放つ。
「とすると、こちらも届くか」
 仕留めきれず、と踏み、无は黄泉より這い出る者を放った。
 途端、絨毯がもだえた。送られた相手は血反吐を吐くというが、さすがに絨毯には無いようだ。
 次の標的を探せば、遠くにいる。いや、逃げる方角が違うのでそう感じるだけだ。
「どこに逃げようと最終的には向かう地は一つ。――五行まで行かせるか。頼むぞ、頑鉄」
 羅喉丸に頼まれるも、甲龍の飛翔は遅い。その遅さを攻撃行動で補う。勢いつけると、スタンピードで持ち逃げしようとする絨毯に体当たり。
 勢いで、絨毯から武器が零れ落ちる。身軽になった絨毯に、羅喉丸がロングボウ「ウィリアム」で矢衾に射抜きあげる。
 落ちた武器もそのまま落ちるわけでは無い。
 それをすかさず拾い上げようとする絨毯もあったが、
「武器の回収はこちらが行います。勝手に持っていかないで下さい」
 武器の行方もきっちり見ていた葎が、掌に気を集中させるや苦無「烏」を放つ。拾い上げようとしたその武器ごと、アヤカシを鋭く粉砕していた。
 
 中には運ぶ武器を失い、身軽になったのを幸いにと攻撃に転じるものも出始める。
「邪魔をする気? 孤立分断しないよう、仲間の位置にも気をつけて」
 沙羅が炎龍・スポッターを促し、飛び回らせる。
 もっとも向かってきてくれるなら、それもありがたい。散らばる敵に各個撃破で宝珠銃「エア・スティーラー」を御見舞いしていたが、集まれば魔槍砲を構えて大爆射で一気にしとめる。
 その間を巧みにすり抜け、虹色は持ち逃げしようとする絨毯に追いつく。
 虹色の鋭い爪が絨毯を切り裂き、志郎は白梅香で一体一体確実に仕留める。
 回収できる武器は袋に入れて。重くなる背中に、鷲獅鳥は何とも言い難い目をする。
「はいはい。こっちだよアヤカシ共ぉ? いい感じだな。……ではさらば」
 颯は即射で矢を射かけ続け。駿龍の速さに任せ、逃げる絨毯の鼻先に回り込み、その逃げる方向を無理矢理変えさせ、ある程度纏まるようにそれとなく誘導。
 纏まれば、後はバーストアローでまとめて射抜く。
 ぼろぼろになった個体には、キースがソルジャークロスボウで射掛ける。


 逃さないよう、開拓者や相棒たちは動き回るが、敵の数も多い。
「何体かは……逃げられちゃいましたね」
 周囲にアヤカシの気配が無いのを確認してから、柚乃がしょんぼりとうなだれる。
 どうしても手が届かず、逃げ伸びた運のいいアヤカシもいる。だが、数としては少数。奪われた武具も知れたものだ。
 飛空船は着水し、相棒たちも甲板に降り立つとしばしの休息をとる。敵が逃げを優先したせいもあり、目立つ怪我をした者はほとんどいなかった。
「もっとも、回収できた武器も少ないかな」
 船に積まれた沙羅が、やれやれと肩をすくめる。
 がんばって回収したが、こうして改めてみると案外少ない。海に落ちれば、ほとんどはそのまま沈んでいった。
 だが、箱詰めや軽い武器などは運よくまだ波間を漂っている。 
「御疲れ様、白嬰。でももう少しだけお願い」
 戦闘でまだ息も整わない相棒を労りつつ、葎は波間に降りる。その後を何人かが続く。
 奪われた武器は仕方がない。大局を揺るがすような数でもなさそうなので、後は人のがんばり次第だ。