氷人形が攻めてくる
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/11 19:05



■オープニング本文

 最初は単なる自然の産物かと思われた。
 日にきらめき、雪原に立つ雪の像。――像ともいえない歪な人型は、石や木に雪が降り積もりそう見えるだけの物体に近かった。
 ところが、少し日が曇っている間にそれは位置を変えた。
 数はそのまま。形――というか格好を少し変えた程度で、像はより人里に近い場所に動いていた。
 なので、次に考えられたのが誰かの悪戯だった。雪の上に何か動いたような跡もあり、そう考えてもおかしくは無かった。
 けれど、すっかり日が暮れて。凍えそうな風をものともせず、繰り手も無く動き出した像を見て、さすがに楽観するのは馬鹿だろう。
「アヤカシが出た」
 夜回りで外を見回っていた警備がたまたま先に気付き、大方は逃げおおせた。
 夜間に里に乗り込んだ氷像はひとしきり暴れた後、そこが無人であるのに気付き、早々と後にした。

 けれど、それでどこかに逃げ帰るはずがない。次の標的を求めて、新たな人里へと向かいつつあった。

「が、その途中で日が昇って氷像――氷人形は動きを止めた。また日が沈めば動き出すだろう」
 アヤカシ・氷人形は熱や日差しを嫌って、夜や降雪時の活動を好むらしい。
 だからといって、火や日があろうと動けないでも無い。苦手ともいえず、単に休んでいるだけ。ちょっかいを出せば、その場で戦闘になるだろう。
 勿論、夜になれば自然動き出し、一番近い人里が狙われる。
「里には事情を話し、一旦避難してもらっている。かといってこのまま放っておけないし、無遠慮に暴れられても困る」
 里に迫る巨大アヤカシに至急対処してほしい。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
夏葵(ia5394
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ピスケ(ib6123
19歳・女・砲
ツカサ・ニウエル(ib9542
18歳・女・弓
島津 止吉(ic0239
15歳・男・サ
厳島あずさ(ic0244
19歳・女・巫


■リプレイ本文

 陽に照らされて、雪原は白く輝いてすら見える。
 見通しのいい景色には、数日前までは無かった八つの氷像が転がっている。
 無骨な氷像も殺風景な景色にはいい和みにも思える。が、動き出し、人を襲うとなれば放ってはおけない。

 近くの人里には避難を促し、開拓者たちが呼ばれる。
 かんじきで雪原を移動して、開拓者たちはまずは遠くから氷像を確認する。
「かんじきの様子は大体分かりました。後は、本番ですね」
 走ったり跳んだりも試しながら、倉城 紬(ia5229)は慣れぬ履物を自身に馴染ませていく。
「寒いのはあまり好きでは無いのだけれど」
「寒いのは嫌いなのです」
 ツカサ・ニウエル(ib9542)が邪魔な上着を脱ぐ。冷えて動きを鈍らせる訳にはいかないが、ぬくぬく着膨れたままうごけないのもまた問題だ。
 対照的に夏葵(ia5394)は防寒具をかき集めて身を縮ませる。
 空は晴天。太陽は見えているのに、風は冷たく、吐く息も白い。
「なぁに。動いていればすぐに温まるさ」
 ルオウ(ia2445)は身構え、今にも飛び出していきそうなほど。
 昼の内であれば、氷人形は動きを止めている。熱や日差しを嫌うので主に夜間動くらしいが、かといってそれが弱点でもない。近付けば向こうも戦闘に入るだろう。
「攻撃手段は殴る引っかく物を投げる……と肉弾戦らしい。ならば、まずは長距離から武器を当てて、投擲間合いを測る」
 動かぬ氷像を見つめたまま竜哉(ia8037)が告げる。
「その射程がよく分からないのが不安ですね。一応ここまで引っ張れたら壁にできるよう、簡易に雪を積んでおきました」
 ピスケ(ib6123)がかき集めていた雪を叩く。
 もっとも、あの巨体といい得意なのが肉弾戦といい、付け焼刃の壁ではどこまで持つか。
「それでは、皆様の速さを底上げします。接近戦を行う方は霍乱・攻撃をお願いできますでしょうか? その隙にわたくしも近付いて、弱体化を狙ってみます」
「分かった。けど無茶はするなよ」
 ルオウが心配する。厳島あずさ(ic0244)はやや表情を強張らせながらも意見を変える気は無い。
 まずは神楽舞「速」を舞うあずさ。合わせて紬も神楽舞「瞬」と加護結界を披露する。
 二人の巫女の支援を受けながら、夏葵は狐の面をしっかりとつける。醸し出す雰囲気も引き締まり、手にした弓にも力が込められる。


「一番距離を出せそうなのはあたしですね。――参ります」
「ああ、いつでもいいぜ!」
 ロングボウ「フェイルノート」を引き絞る夏葵に、ルオウは元気な声を上げる。
 遠くから仕掛けて敵の動きを見る。その意味も勿論あるが、手を抜く気も無い。
 夏葵は鷲の目で敵を見据えると、構えた矢には錬力を流し込む。
 放てば、風を切る音を残して矢は一気に加速した。
 その音を聞きつけ、氷像が身じろぎをした気もする。だが、完全に動き出す前に矢は一体に突き刺さり、積もった雪ごと氷の身体も砕いていた。
 そして、夏葵の一矢と同時、他の開拓者たちも動き出していた。

 攻撃。接近する人影。氷人形たちは即座に立ち上がり、反撃に出た。近い者は雪を蹴散らして駆け寄ってくる。
 ツカサは見習いの弓を構えて、後方から氷人形の全体の動きを見ていた。
 迫る氷人形たちのさらに向こう、雪を固めている個体に気付く。
「回避!」
 危険を知らせると同時に、氷人形が雪玉を投げつけてきた。固く氷玉と化した玉は勢いよく開拓者たちまで届いてくる。
「射程が長いですね。これはこちらも気をつけないと」
 魔槍砲「アクケルテ」では届かない。ピスケ(ib6123)は距離を詰めると、狙いをつける。
「よっしゃあぁ! きやがれぇえええ!」
 ルオウが咆哮を上げる。大地を揺るがす雄たけびに、氷人形たちの視線が彼に向く。
 途端、方々から氷玉が投げられる。不動で身を固め、ルオウはそれらに向き合う。だが、身軽なルオウは割と簡単に見極めて躱していく。
「ちょっと拍子抜けか?」
 雪原に空いた穴を複雑な思いで見つめる。
 夏葵は変わらず距離を保ち、矢を的確に氷人形に当てる。
 ツカサは見習いの弓で、六節による素早い射撃を行う。的は大きい。まずは数を減らすのが先と狙いやすい胴体に仕掛けていく。
 そして、ピスケは魔槍砲の宝珠に錬力を集中させる。迫り来る氷人形、後方から氷玉を投げつけてくる氷人形。それらを一直線に結ぶと、遠慮無しに引き金を引いた。
 轟音が大気を震わせ、光線が一直線に伸びていく。
 射線上にいたすべてを打ち抜く威力。氷人形たちにも傷が入る。が、身体が欠けても気にせず氷人形たちは動きを止めない。
 どうやら痛覚なんてものも無いらしい。まさに氷の人形だ。
「構わん。示現の戦士は全力をぶつけて、さっさと死んで次の戦士に場所を開けるのがたしなみと習うたのでの! わしのすべきことは一つじゃ」
 防御など考えず島津 止吉(ic0239)が飛び込んでいく!
「ケキャアアアアア!」
 上げた奇声は猿叫。氷の塊でもどこかに耳でもあるのか、あるいは気迫負けか。
 怯んだ相手に、太刀「鬼神大王」を最上段に構え、一気に振り下ろす。
「っ! 硬いな」
 刀を持つ手が痺れた。さすがは氷の塊。
 さらに、氷人形には確かに傷が入っているのに、それを苦にもせず、太い腕を振り上げてくる。
 引くつもりも無く、止吉はさらに二撃目を仕掛ける。
 さらに深い傷を入れる。が、太い氷の腕が止吉を捕らえた。
 力のままに殴られ、止吉がすっ飛ぶ。
 氷人形が間合いを詰めて、止吉を踏み潰そうとする。
「させるか!」
 ツカサがすかさず弓を射掛ける。六節による素早い射撃で、矢は次々と氷人形に当たる。
「肩と胴体の継ぎ目はどうだ。比較的もろいだろう」
 竜哉も使う技は示現流。一足飛びに間合いを詰めると、上段から霊剣「迦具土」を振り下ろす。
 果たして。ばきり、と鈍い音を立てて腕が落ちた。
 左右の重さが変わって体勢崩し、氷人形がよろめく。止吉は起き上がるや、跳ね飛ぶように氷人形に仕掛けた。息を合わせて竜哉も仕掛ける。
 二人からの攻撃に氷人形に大きな亀裂が入った。
 氷人形の胴体には色が違う部分があった。それもむき出しになる。
「下がってください!」
 すかさずピスケの魔槍砲が火を噴く。
 色の違う箇所――核が打ち抜かれると、氷人形は動きを止め、雪に倒れた。
 じわりと瘴気が立ち上っていくが、それを見届ける暇は無い。
「遠距離組は、氷人形の射撃を邪魔してくれると助かる。その間に、接近戦でしとめる!」
 竜哉が後方に投げかける。
 頭から雪をかぶったまま、止吉は次の氷人形も向かおうとする。
「お待ち下さい、お怪我は? 恋慈手にて癒させていただきます」
「今は無用。わしの役目は切り込み隊長。ただ自分の役を果たすのみよ。死んだら骨ば拾ってくれえ」
「けれど……」
 あずさが止めて癒そうとするが、止吉はそのまま敵へと走る。
「あまり無茶はしないで欲しいですね」
 そのまま見送るような真似もしない。
 紬は、せめて防御になるようにと神楽舞「瞬」と加護結界を味方に届ける。


 雪原は踏み荒らされ、あちこちに穴やら小山やらが出現する。
「足場の確保がきついねぇ」
 相手の拳を躱して間合いを開け……竜哉は軽く顔を顰めた。
 かんじきはただでさえ動きづらい。加えて、凸凹の地面ではいつ足を取られるか。
「だったら、こいつはどうだ!」
 ルオウが放つ地断撃。衝撃波で雪が吹き飛び、視界も曇る。
 一直線に衝撃波の跡がつく。が、足場確保にはまだまだ狭い。
 気にせず、ルオウは仕掛けていく。こだわり模索するよりも、敵への一撃を優先させた。

「うぉっと!」
 飛んでくる氷球に気付き、ツカサは慌てて飛びのいた。
 牽制はしているが、痛みを感じない氷人形には難しい。だが、命中率は悪いようで落ち着いて軌道を読めば、巫女たちの加護を得てツカサでも何とか躱せる。
 さらに、
「神と共に歩むと誓い、人のために生きると誓ったからこそ精霊達は力を……貸してくださります!」
 危険を承知で氷人形たちの中に飛び込んで、あずさは神楽舞「縛」を舞う。霊鈴「斜光」を鳴らせば、氷人形の動きが鈍る。
 無事術がかかるのを見届けてほっとするのもつかの間。頭部に強烈な痛みを食らった。
 氷玉を食らったのだ。
 めまいがして頭に手をやれば、かじかむ手に流れるのは融けた雪と赤い血と。
 そんなあずさに別の氷人形が迫る。
「そっちじゃねぇだろ!」
 ルオウは雄叫びを上げた。氷人形が声に引かれ振り向いた所に、棍棒「石の王」を叩き込む。
 音を立てて頭部が砕け散った。わたわたともたつく氷人形に、さらに仲間から容赦ない追撃が入る。
「やっぱりこういう奴には刀よりも、こいつがいいだろ。さあさあ、次はどいつだ。仲間に手出しなんざさせるかよ!」
 ルオウがどこか楽しげに挑発し、飛んでくる雪玉も打ち落とし、あるいは打ち返す。
 あずさは頭を振りめまいを振り払うと、怪我にもめげず神楽舞を続ける。へこたれてなんていられない。まだ氷人形は残っている。

 止吉としては、目標は四体、その身に深く傷を入れたい。止めを入れられずとも、まずは核を攻撃させるのが先と、雪原走り回って、氷人形に切りかかるのを優先した。
「せいっ!」
 一太刀に全力をつくし、倍からある敵に襲い掛かる。
 さっくりと切れたというより、氷人形が割れる。核が露出しているのを確認して、少しだけ間合いを置かせてもらった。
 固い手ごたえは予想以上に力を必要とする。息が少々荒い。
「わしの仕事はここまでよ! あとは頼んだぞ、仲間じゃけえの!」
「そうですか。御苦労様です」
 夏葵は静かに告げつつ、止吉のつけた傷めがけて矢を射抜く。的確にひびを広げ、その強度を低下させている。
「ま、ゆっくり休んでいてくれてもいいな」
 ツカサは雪原を移動しながら、氷玉を投げそうな敵を阻害するよう矢を打ち続けていく。
 身体がひびだらけになろうと、氷人形の動きは鈍らない。数自体を減らさねば、この戦い楽にはなりにくい。
 氷人形の正面に回りこむと、むき出しの核に向けて矢を放つ。
「後はこちらでも対処できますね。御苦労様」
 ピスケもファストリロードで充填発砲を繰り返しながら、隙あらばすかさず核を打ち抜く。
 核を残せばまた体を再生させて氷人形は復活してくる。確実に止めを刺さねばならない。
「そうとまで言われると立つ瀬なしに思えるのぉ」
 止吉は苦笑すると、もう一度刀に力を込める。
 まだ敵はいる。息を整えると自分の力の及ぶ限り、全力を尽くす。


 最後の一体が打ち砕かれ、重い音を上げて氷の塊が散らばる。
 氷人形自体はそれで視界から消えた。
 紬とあずさが傷を癒して回ると、ルオウは緊張した面持ちで懐中時計「ド・マリニー」を手にすると、あちこちと歩いて回る。
「万一にでも核が残ってたら厄介だからな」
 けれど、怪しいと思える場所は無く。
 絶対とも言い切れないが、ひとまずほっと息をつく。後はしばらく監視を頼んで異変あれば即座に駆けつけるのが妥当か。
「終わりましたか……。御疲れ様です」
 狐の面を外して身を整えると、夏葵は微笑み礼を取る。
「終わったなら早々と撤収しよう。……今ばかりは熱燗が恋しいよ」
「甘酒なら用意してますよ。報告がてら、里で暖をとらせてもらってもいいでしょう」
「いいね。暇な奴も一緒にどうだい。昼酒に興じるのも悪くないのかもしれないね」
 吹く風の冷たさを思い出し、上着を着込んだツカサが身を震わせる。
 ピスケが告げると、ツカサも他の面々を誘う。
 
 避難していた里の人にも事件の収束を告げる。
 活気が戻った里にて、しばし暖かな歓迎を受ける。冬の寒さは致し方ないが、それを楽しむ暖かさが人の営みにはある。
 それを邪魔する無粋な客は雪原に沈んだまま、復活の気配は微塵も見せなかった。