【希儀】接敵
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/05 21:41



■オープニング本文

●ある日の希儀
「未知の調査、情報の入手、結果の推測、そして断定。面白いね」
 希儀に関する情報は今まで天儀等に無かった様な代物も含まれており、知的探究心を擽るものが多かった。
 学者風の魔術師は宿営地にて資料の整理や解析に従事していた。
「神殿の方では大層な奴を見つけたんだろ?」
「神霊なる存在の様だが……一度お目に掛かりたいかな」
「やれやれ、物好きな奴だぜ」
 肩を竦めたサムライの男は休憩がてらに此処を訪れたらしい。
「アヤカシとの具体的な接敵報告もあがりはじめたな」
「不在が証明された訳じゃあねーからな」
 事実、そういった気配が有る事は間違いない。ケモノや妖精の存在は認められている。寧ろ、アヤカシが居ない方が不気味なのだ。
「今度の調査の結果か」
 そう言うと、サムライの男は答えを待たずに自身の仕事場へと戻っていく。
「北部、南部の開拓。中央方面にも人員が割かれているし……」
 学者風の魔術師は大きく溜息を吐いて、報告書の端を揃えて脇に積んだ。
 椅子から立ち上がり、仲間に声を掛けて休憩に行く事にしたのだ。
 本日も晴天なり。風は乾燥し、少し強めである。
「まぁ、面白くなりそうな事だけは確かかな」


 天儀より訪れた開拓者たちは、拠点を築くや希儀への探索へと乗り出していった。
 この儀に果たしてまだ人がいるのか。どこもかしこも荒れ放題。
 探し当てた街も無人で崩れ放題。自然が支配し、森に飲まれている場所もある。
 歩きやすそうな道を探して突き進んでいけば、ほぼ確実にそれはケモノ道で、ヌシたちに追いまわされる事もしばしば。
 日が昇り、沈み。何日たったか。
 気付けば、探索の範囲は日に日に広がり、移動は船や騎獣も使って奥へ奥へと突き進んでいく。それなりの成果は得ているが、望む結果はまだ見えない。
 だから開拓者たちは探索を止めない。
 人や精霊、ケモノ……この際、アヤカシでもいい。この沈黙した儀に何が起きたのか、何があるのか。それを調べ、求める為に。

 水飛沫を上げて、快速小型船は海に着水した。
 そのまま手近な場所に接岸し、開拓者たちは希儀の大地へと上陸した。
「……と言っても何もないな」
 一人の呟きに、他の面々も苦笑して答えるしかない。
 南方の神殿跡周辺を調査すべく、上空から飛び回ってみたものの、彼らが担当した区域にめぼしいものは見当たらなかった。なので、一旦上陸し地上から細かく調べていこうと相成った。
 小型とはいえ、飛空船の着水も場所を選ぶ。
 上陸可能そうな場所を探してみれば、さらに何にもなさそうな所に落ち着かざるを得なかった。
 船内で窮屈していた体を伸ばすために外に出て、さてそれではこれからどう動くかを頭つき合わせて考え出した時だった。
 岸辺に打ち上げてくる白波。そこから射出されるように、人型の影が飛び出してきた。
 人――ではない。
 ジルベリアに近い甲冑を着込み、ハルバードを手にしているが、その頭は山羊。ケモノでもない。アヤカシだ。
「人間か! 人間だな! ひゃひゃひゃ」
 興奮のあまりか、口から泡を吹きながら羊頭鬼――カプリコンは槍斧を振り回してくる。
 海から現れたカプリコンの数は、全部で十二。
 しかも、
「まずい、船が!」
 先に足を潰そうというのか。内、五体のカプリコンが船に取り付いている。
 下肢を魚に変えて水中から忍びより、極短時間ながらの飛行も可能なカプリコンは瞬く間に船に乗り込んでいる。
 まずい事に開拓者たちは全員船から下りている。船に戻るには七体のカプリコンを越えねばならない。
「何年ぶりだ? 久しぶりの人間だ! 何十年ぶりか! 血祭りだ、血祭りだ!」
「ぎゃはははは。変なものがあるぞぉ! 破壊しろ、ぶっ壊せ!」
 探索用に借りた飛空船だ。壊されては大目玉どころか、今後の探索にも関わる。何より、拠点に戻る足が無くなる。相棒と自分の足で戻れなくは無いかもしれないが――非常に辛い。
 幸い、相棒たちが船にまだ残っている。奮戦しているようだ。なんとか持ちこたえて欲しい。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
海神 江流(ia0800
28歳・男・志
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
からす(ia6525
13歳・女・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
劫光(ia9510
22歳・男・陰
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文

 新しい儀――希儀。
 探索は進むが、人の姿は無く。出会うのはほとんどケモノばかりで、開拓の範囲は見る間に広がっていった。

 アヤカシの襲撃はほとんど聞かれなかった。
 けれど、いない訳でもなさそうで。
 飛空船から降り立ち、とりあえずの周辺捜査をする間も無く、死角を狙ってアヤカシたちが襲撃してきた。
 海から飛び出てきた山羊のようなアヤカシ――カプリコン。明らかに歓喜の声を上げて、開拓者たちへとハルバードを振り回す。
「やっぱり居るのか。……しかし、数十年ぶりってどういうことだ」
 興奮して口走ったアヤカシの言葉が、竜哉(ia8037)は気にかかった。
 返答を期待したわけでは無いが、鼻息荒いアヤカシたちはその呟きを聞き逃さず、大声で笑いたてた。
「言葉のままさ! 殺しつくし、食らいつくした!」
「人で遊べなくなったのは残念だがなぁ。だが、こうしてわざわざ他の儀からやってきてくれるとは。イヒャヒャ、ありがたい事だ」
 蹄で地を蹴り、カプリコンたちが開拓者へと迫る。その下半身は海から出た時には魚だった。たっぷりと濡れた磯臭さからして、海を泳いできたのは確実。

 そして、五体が海に停泊中の飛空船へと飛びついた。
 幸い、他の開拓者たちが連れてきた相棒たちは船に残っている。すぐに船をどうこうされる心配は無いが、相棒たちだけではやはり力不足。なんとか船に戻らねば、相棒たちも危うそうだ。
「水にも対応可能のアヤカシとはな。だが、こちらも何も対策していない訳では……」
 召喚系の相棒を呼び出そうとしたからす(ia6525)。だが、肝心の召喚符が見つからない。
「もふ! 一大事であります! どうするでありますか!?」
「そうか。今回はあいつを連れてきてたんだった……」
 飛空船から、自身が連れてきたもふらの浮舟が指示を仰いでいる。からす、うっかりミスだ。
「なんだ、このみょうちくりんなケモノ。いや、精霊か?」
 どうやらカプリコンたちは、もふらに見覚えないらしい。胡散臭そうな目で、浮舟を見ている。
「ならば、浮舟。そこから睨みつけていろ。すぐにそちらに戻る!!」
「了解であります! でもお早くであります」
 浮舟が船の上で身構える。が、がんばってもやはりもふらだ。幾らも戦えない。

 からすを始め、開拓者たちは船に戻ろうとする。
「おおっと! そうはさせねぇな!」
 けれど、七体のカプリコンたちがその邪魔として立ちふさがる。降りた開拓者たちは八人。数の上では互角だが、まごまごしていては借り物の船を失ってしまう。
「こう離れた時に狙うなんて嫌らしいわね」
 星天弓を構え、海月弥生(ia5351)はバーストアローを放った。矢が衝撃波を纏い、カプリコンたちを吹き飛ばす。
「ははは、意気がいいな! おもしろいじゃねぇか!!」
 だが、カプリコンたちは笑いながら向こうから突進してくる。すぐ倒れるような雑魚では無い。
「双樹! 悲恋姫!」
 陸地から劫光(ia9510)が、船にいる自身の人妖へと短く警告を出す。何をするつもりか――他の開拓者たちにはすでに伝達済みだ。
「皆さん、下がって!」
 その短い言葉だけで意味を悟り、双樹ははっと声を上げる。
 陸地の開拓者たちはすでに劫光をおいて逃げている。――逃げたと見てカプリコンたちは浅はかにも距離を詰めている。
 一方で、狭い船内では逃げ場はあまり無い。相棒たちが引けば、カプリコンたちは船に乗り込もうとする。そこにいる相棒達を巻き込まぬよう注意を払いながら、劫光は怨念の集合体を呼び出す。
 相棒によく似た怨念体が悲鳴の声を響かせる。広範囲に渡る恨みの声は、敵も味方も容赦ない。だからこそ、巻き込まれないよう、前もって味方には知らせておいたのだ。
「ぬお!」
「ぐぐぐ!」
 苦しむカプリコンたち。反撃に対処しきれてない内にと、劫光は続けて悲恋姫を撃つ。
 そして、術の終了の合図と同時に、海神 江流(ia0800)は船へと走り出していた。
「やるな、人間風情が!」
 その江流に、カプリコンが突進してくる。
 頭上の角もまた凶器。それに引っ掛けられても痛いでは済まない。なんとかかわし、太刀「阿修羅」に精霊の雷を纏わせ、刃として放つ。
 雷鳴剣で撃たれたカプリコンは悲鳴を上げた。しかし、受けた痛みもまた楽しいとばかりにけたたましく笑う。アヤカシの士気はまだまだ落ちそうに無い。
「知性も品の無い物言いだ事で……。そんな奴にやられて、徒歩で帰るとか洒落にならんだろう。何とか船を守ってくれ!」
「分かったわ。……火薬臭くなるけれど、そうも言ってられないわね」
 からくりの波美−ナミ−が答え、相棒銃「テンペスト」を船を登ってきたカプリコンに向けて撃ち放つ。轟音が響くや、カプリコン一体が吹き飛び、すがり付いていた船から海へと落ちた。
「動く人形だと!? そこの小さい妖精もどきといい、外の人間はおもしろい手下を使う」
「手下じゃありません。相棒です」
 驚きと嘲りと入り混じった目で見てくるアヤカシに、双樹は呪声をぶつける。
 声無き声に、カプリコンが苦しむ。その怯んだ隙に、波美が銃弾を叩き込む。

 地を駆けるカプリコンたち。開拓者たちを執拗に狙う彼らを狙い、愛染 有人(ib8593)はマスケット「バイエン」で後方から味方を支援する。
 その手を休ませず、目を敵から離さず、船に向けて叫ぶ。
「今の内に、楓達で飛空船を操作するんだ、やり方は分かるね?」
「お任せ下さい、姫。操作法の学習は道中で済ませてます。後は実践あるのみです」
「姫じゃないー!!」
 叫びながらも、有人はカプリコンに狙いをつけて発砲。撃てばすぐ場所を移動する。
 前装式は装填にも時間がかかる。気付かれぬよう準備を整え、また狙いをつける。相棒の直らない間違いをじっくり訂正したい所でもあるが、その暇は無い。また、相棒も返事をするや船内へと向かいすぐに姿は見えなくなった。
 船上の騒ぎは一旦他の相棒たちに任せ、楓は操船に挑む。
「鈴音もだ。全力で船を護れ!」
「OK、マスター」
「おらぁも手伝うべ」
 それと知った鷲尾天斗(ia0371)もからくりの鈴音に指示を出す。
 その動きを見ながら、弥生の土偶ゴーレム・『縁』も急いでタラップを片付けにかかった。
 開拓者たちが戻って来てないが、今は船大事。ご主人たちは大丈夫と信じて、飛行準備を急ぐ。

 飛行船は『人』が動かすのを前提に作られている。相棒にたやすく動かせるものでも無い。
 だが、幸いにもからくりは大きさ等ほとんど人と変わらない。知識があれば、どうにか動かせる。
 飛空船での移動の間に、楓は有人から操船方法は習っていた。それを思い出しながら、宝珠を起動させる。
 沈黙していた船が、息を吹き返す。
「宝珠の出力は何とかします! 誰か、舵を!」
「試してみます」
 浮き上がった船の舵を、鈴音が取る。ほとんど見様見真似ながら操作すれば、危なっかしい動きで船は上昇を開始した。
「逃がすか!」
 浮き始めた船に、陸にいたカプリコンも慌てて加勢に向かう動きを見せた。
「易々と乗り込ませるものか」
 脚絆「瞬風」の宝珠を用いて、竜哉はどうにか船の前に回りこむ。
 船に走りこんでくるカプリコンたちに魔槍「ゲイ・ボー」を向けると、ペネトレイターを繰り出す。自身が一つの槍のようになりながら、数体のカプリコンたちを跳ね飛ばす。
 聖堂騎士剣の力で、カプリコンの傷からは塩が流れている。傷も浅くは無い。
 けれど、カプリコンは高く飛び上がって竜哉も越えると、そのまま空から船へと飛び込もうとする。

 水鏡 絵梨乃(ia0191)が高らかに指笛を鳴らした。すぐに迅鷹の花月が空から舞い降りてきた。
 薄桃色の身体が煌く光となって溶けると、絵梨乃に一体化。絵梨乃は背に輝いた翼で一気に陸の戦場を飛び越える。
 船に下りると、乗り込んでいたカプリコンの一体が、絵梨乃めがけてハルバードを振り下ろしてきた。振り下ろされる寸前刃が揺らめき、その軌道を惑わす。
 刃は惑いの中から飛び出てきた。並の開拓者なら不意をつかれ、手傷を追ったかもしれない。
 が……。
「その程度の攻撃、ボクには当たらないよ」
 軽く笑って絵梨乃はかわすと、重い武器が振り上げられぬ間に素早く蹴りつける。
 指先に気を集中。極神点穴を叩き込む。
 神布「武林」は輝くのは花月が同化しているから。相棒の力も受け、増した攻撃がカプリコンの体内で爆発する!
「げはぁ!!」
 『く』の字に折れたカプリコンは、偽りの血反吐を吐き出す。
「船動かすのは不得手でも、出来る事はあるっぺ。おめぇさんたちの乗船許可は出せねぇべ」
 縁は身体を硬質化させると、ギロチンシザーズを振り回し、跳躍して踏みつける。
 だが、カプリコンの速さは易々と土偶ゴーレムの動きをかわす。
「ゴーレム風情が、俺たちに叶うと……うぉ!」
「油断大敵じゃの」
 頭上を飛んでいた小鳥が人妖に変わる。いや、人魂で人妖が小鳥に変化していたのだ。カプリコンの死角を取ると、竜哉の人妖・鶴祇が姿を現し、落下の勢い合わせてギロチンシザーズを突き立てる。
 寸手で気付いたカプリコンはそれをかわす。かわして体が揺らいだ所を、絵梨乃が船外へと蹴りだす。
 落下していくカプリコンを、波美が狙いをつけて放火。地上からも弾や矢が容赦なく飛ぶ。
 カプリコンは飛び回りながらそれをかわそうとする。水中の他、空中の動きも問題無いと見える。
 しかし、自在に飛び回るかに見えたカプリコンも、船への距離を測ると忌々しげに地上に降りていく。どうやら飛行できるのは短時間のようだ。
「とすると、奴らが飛び移れないぐらい高高度まで上げて振り切ればよいか」
「分かった。――操船を代わって。奴等の対処を相棒たちに任せちゃうけど、とにかく今は全速で逃げるよ」
 鎖分銅を投げつけ、地道に船を登ってきたからすと、絵梨乃が操船を交代した。
 たちまち飛空船が勢いを増す。
「はははは! 上等だ! 全部叩き壊してやるよ!」
「そんな事をされては、主に顔向けできなくなるわ」
 かろうじて乗り込んできたカプリコンがハルバードを船に打ちつける。
 波美は防御姿勢をとると、船とアヤカシの間に割り込ませ、その凶器を身体で受け止めた。
 無痛の盾で損害は機能の低い部分に留まるが、それでも損傷は損傷。何度も受けていい場所では無い。
 制限解除した鈴音が機闘術を展開。カプリコンを殴りつけると、波美が即座に銃を構えて銃弾を放つ。
「そういう事です。さっさと降りて下さい」
 双樹が呪声を響かせる。肉体派なのでこの手の術は苦手かと思えば、意外と効きは悪い。
 それでも、苦痛で怯んだところを狙い、鈴音はグラントガントレットで殴りつけ、船外へと放り出した。

 放り出しても飛翔し、追いつこうとするカプリコンたち。それを、相棒達は銃や術で牽制。手をかけようものなら、大鋏で切りつける。
 すぐに追っ手の姿は消えた。

 アヤカシがいないのを確かめるも、相棒達の様子は浮かない。
 カプリコンたちは逃げる相棒や船を追うより、陸に残った開拓者を葬ることを優先しただけ。こちらでしとめられなかった分も、陸地に戻ったと見る。
「マスターたちは無事でしょうか」
 心配するからくりたちに、絵梨乃は軽く笑う。
「そんな簡単にやられる開拓者じゃないよ。一応様子見に戻るから、操縦はお願い」
「任せるっぺ。例えまた来ようとも船は守りきって見せるべ」
 ぐるりと首を回すと、縁は簡易補修キットを手に船の破損した箇所を修復にかかる。
 船の高度を一旦下げると、迅鷹の同化を利用し絵梨乃は陸地へと戻る。
 


 船に向かったアヤカシたちだが、叩き落された挙句に肝心の船が発進してしまい取り残される。
 それで諦めるはずも無く。海に落ちたカプリコンもすぐにまた陸へと戻ってきた。
「少し逃がしたか。まぁいい。先にこっちを片付けてやる!」
 数を増やし、調子付くカプリコンたち。
 だが、そうして突進してくるアヤカシをさらりとかわすと、天斗はその眉間に狙いをつけてあっさりと引き金を引いた。
 轟音と共に、カプリコンの身体が仰け反る。
「ひゃははは、どーよ鉛玉のお味は! 気持ち良くて逝っちまうだろォ?」
 宝珠銃「エア・スティーラー」から魔槍砲「アクケルテ」に持ち替えると、槍として切り込む。頭を撃たれてふらつくカプリコンが、瞬く間に残骸と化していく。
「足を潰しても飛翔するか。本当に面倒な相手だな」
 唸りを上げるハルバードをかいくぐり、竜哉は槍を繰り出す。
 とにかく身軽で、その突進も侮れない。ならばと移動を削ぐべく足を狙うが、足が崩れても飛び上がって逃げられる。
 もっとも、長時間飛べないのは先刻承知。また、宙に逃げても銃や術で狙い撃ちにされる。逃げた所で、命をほんの少々永らえさせたに過ぎないのだが、うっとうしい。
 いらだたしく思いながらも、確実を優先。少しでも移動を削ぐべく、槍を繰り出す。
 足を取られて倒れかけるカプリコン。その姿に隠れ、背後から続けざまに別の個体が竜哉に襲い掛かる。
「キエエエエエ!」
 上段から振り下ろされるハルバードは、微妙な揺れを醸して軌道を読ませない。
 かわしたつもりで、少し傷を入れられる。竜哉も不服だが、アヤカシも不満で、すぐにハルバードを振り回してきた。
 二回三回とどうにかかわすと、横合いから銃声が響きカプリコンが爆ぜた。見れば、有人がまだ煙の残るマスケットと共に、別の場所へと走り出していた。
 感謝をしつつ、竜哉は飛び込んできたカプリコンの喉元へと刃先を振るう。
「瞬発力は恐るべし……だが」
 手裏剣「無銘」を江流は投げる。身軽にかわしたカプリコンは、即座に突進してきた。
 もとより挑発目的。水辺に逃げ込ませず岸へと誘い込む為。何より、しとめる為に。
 向かってくる相手に、江流はあえて間合いを自分からつめると、交差の瞬間を狙い、太刀に白梅香を纏わせ、切りつける。
 角がかかり傷も負うも、それ以上の傷を与えてカプリコンは倒れた。
 そのやり取りの後方から。さらに別の一体が江流に飛び込もうとする。
 しかし、その手前で地面から浮かび上がった霊体がカプリコンに襲い掛かった。予期せぬ攻撃に、カプリコンが驚愕の声を上げた。
「ああ、先ほどまでそこにいたか。迂闊に動くと仲間に迷惑がかかるかもしれんな」
 ちらりと冷たい目を送って、劫光は告げる。
 その劫光にはまた別の一体。だが、劫光へと踏み込んだカプリコンは地縛霊に捕まる。次の動作が出来ぬ内に、劫光は霊剣「御雷」を振るう。
「ほら、こっちにもいるよ! 相手は誰だい?」
 友なる翼で飛んだまま、絵梨乃がカプリコンたちを招く。
 飛んだままではまともに戦えない。下手すればそこで集中砲火に合うが、絵梨乃は微塵も恐れを見せない。
 カプリコンたちが遠距離を攻撃できる術を持ってなさそうだ。ならば、絵梨乃を狙うにはその高さまで飛ぶ必要がある。
 しかし、飛び上がれば当然目立つ。
「もらったわよ!」
 六節で次々弓引くと、弥生は瞬く間に一体を矢衾に仕立て上げる。
「この!!」
「きゃあ!」
 その弥生めがけ、破れかぶれか敵はハルバードを投げつけてきた。唸りを上げて飛んできた武器が弥生に刺さる。
 傷口に手を出せば、ぬるりとした感触がある。痛みが広がり、傷を中心にしびれもある。
 けれど、身体はまだ動く。戦えるならと傷は気にせず、手ぶらになった眼前のカプリコンを、弥生は鼻で笑った。
「その程度? この状況で武器を手放すなんて本当に単純ね」
「何だと、言わせておけば」
 角を突き出しカプリコンが突進してくる。武器を手放した分、攻撃は劣るが動きが身軽になっている。
 けれども、挑発され怒りも露わなカプリコンの動きは直情的だ。
「もらった!!」
 カプリコンの角が弥生を貫く前に、横合いから全身にオーラを纏わせた竜哉の一撃がアヤカシを貫いていた。


 船は傷つける訳にはいかなかった。その為にアヤカシを振り切り逃げ帰っても、叱られも笑われもしなかったはずだ。
 それでも討伐に動いた辺り、開拓者としては見過ごせなかったか。
 アヤカシたちが瘴気に返り、新手の気配も無いと知ると開拓者たちは息をついて座り込んだ。
 花月が知らせに飛び、飛空船が戻ってきた時には陸地は惨憺たる有様だった。
「微力ながら、傷を治させてもらおうかの」
「はいはい! 手伝います!」
 土ぼこりと血が混じる主たちに、鶴祇は唇を噛むと、神風恩寵の範囲を測る。ポニーテールをぶんぶん揺らして、双樹も術の準備を始める。
 自身の傷をよそにして、スペアパーツを用意していた天斗を鈴音は慌てて止める。
「マスターも怪我をしています。手当てならマスターを優先に……」
「なァに生意気言ってんだァ? お前は俺のマスターなんだから黙ってオレに従ってりゃイイんだよ」
 鈴音の心配を笑い飛ばすと、欠いた部分を確認する。
「怪我も酷い。アヤカシが出た報告もせねばならない。ここは一旦戻って出直す方がいいだろう」
「傷が痛む人を運ぶであります! そのまま休んでくれても構わないであります」
 からすの言葉に一同頷く。
 今、ケモノにでも出会えば厄介だ。アヤカシならなおさらに。動こうと思えばできるが、無理をする必要も無い。
 
 全員の乗船を確認すると、船は帰路につく。
 希儀の大地が見る間に遠ざかる。戦いの痕跡も小さくなっていき、やがてその岸辺自体が遠くに消える。
 時間が経てば、あの戦闘の痕跡も消えてしまう。
「殺しつくし、食らいつくした……か……」
 カプリコンが口走った言葉を、竜哉は暗く口にする。
 希儀も広い。天儀ほどでは無いようだが、それでも一国程度はあると推測される。
 そんな儀で何があったのか。あのカプリコンが全てを語ったとも限らないし、嘘をついた可能性もある。
 だが、人のいないこの状況。あまりいい話が思いつかないのも事実だった。