鬼を退治せよ
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/18 20:22



■オープニング本文

 秋の実りも本格化。
 頭を垂れる稲穂に、色付く山には栗柿ブドウなど果実がそろう。
 畑の芋も掘り返せば丸々と太り。冬を前にした蓄えに、どこの村でも忙しくなる頃。
「やられた。どこの誰だ!」
 とある村で、農民が悲鳴を上げていた。
 丹精込めて育て上げた畑の野菜。それがごっそりと消え去っていたのだ。
「獣……ケモノ……でもないな。足跡?」
「子供のような? どこかの悪がきのしわざか?」
「いや、かなりの集団のようだ。山に伸びている」
 遠慮無しに踏み荒らされた痕跡を調べ、農民たちは後を追ったが。

 追うのは簡単だった。足跡は残っているし、分捕った野菜はぼろぼろとこぼしている。もっと丁寧に扱えと別の怒りも湧いてくるが、同時に、一体何のために野菜を盗んだのかという疑問がおこる。
 売り目的、食用ならこんな雑には扱わないだろう。
 やがて、行く先に見当がついた。山奥にある古びた小屋。昔は猟師が使っていたが、今は誰もいなくなって久しい。崩れてないならねぐらにするには十分だ。
 嫌な予感がする。
 慎重に周囲に気をつけながら、農民たちはとりあえず出来るだけの情報を持ち帰ろうとした。
 小屋の周辺まで来ると、思った通りに、嫌な姿を見つける。
 小鬼。下級のアヤカシだ。
 少ないなら成人男性が揃えばどうにでもなるが、そこにいるには二十体ほどいて、さらに武装までしている。
 壊れた小屋には、色鮮やかな野菜や果物が垣間見える。とすれば、やはり野菜泥棒はヤツラか。
 アヤカシが野菜を食べるなど聞いた事が無い。彼らが食らうのは人間のみ。とすれば、泥棒は人を釣る……つまりは、自分たちをおびき寄せる罠か。
「なめやがって」
「だが危険だ。あとはギルドに任せよう」
 子供じみた手段に腹がたったが、それにひっかかった自分たちも迂闊だった。
 けれども、八つ当たりでアヤカシに挑むほど愚かではなく。急いで、事態を知らせに戻ろうとした。
 その矢先に、四方から石が飛んできた。何かを投げた程度では無い。明らかに道具を使い、急所を狙って撃ってきていた。
「まだいたのか!」
 小屋周辺にいた小鬼たちとは別に、周囲の木々の中にやはり小鬼が見え隠れしている。彼らは手にした小型の投石器で、農民たちを容赦なく撃つ。威力もそれなりで、すぐに農民たちは血だらけになる。
 急所だけをかばって、農民たちは急いで逃げ帰ろうとした。
 しかし、その騒ぎを聞きつけたか。小屋のとれかけた扉が中から吹き飛ばされた。
「何だ、あいつは!!」
 出てきたのは、小鬼どころでは無い。人の倍以上はあるきわめて巨大な鬼だった。まるまると太った肥満体は、縦どころか横にも同じぐらいあり、非常に目立つ。そしてそれゆえに、小屋の扉につっかえて出られなくなっていた。
 壁には大穴もあいている。恐らく入る時はそっちから入ったのだろう。だが、そちらから出直すという手段は思いつかないらしく、力任せに小屋を揺らして出ようともがいていたが、変に作りがいいのか、出られない。
「ウ……ウオオオオオオオォ!!」
 焦れてもがいた大鬼の周囲に、無数の円錐が生まれる。鋭くとがった角が四方へと向けられており、周囲にいた小鬼たちが一斉に逃げた。
 農民たちへの攻撃も止んだ。その間に、急いで農民たちは走る。
「ウガアアアアーー!!」
 大鬼がほえると同時に、大量の角が周囲に射出された。
 小屋が一瞬にして粉砕。周囲に飛び散る角に突かれて、逃げ遅れていた小鬼も犠牲となり、怪我などで動けなかった農民たちも次々と貫いていた。

 命からがら逃げ延びた農民たちから、ギルドに話が伝わる。
「山奥の小屋に、小鬼の群れと砲角大鬼。今はそこにとどまっているようだが、小鬼が村まで来た事からしてその内、襲いに来るのは想像に難くない」
 被害がこれ以上大きくなる前に、これらを退治してきて欲しい。


■参加者一覧
ヘラルディア(ia0397
18歳・女・巫
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
月酌 幻鬼(ia4931
30歳・男・サ
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔
破軍(ib8103
19歳・男・サ
葵 左門(ib9682
24歳・男・泰
三葉(ib9937
14歳・女・サ


■リプレイ本文

「田畑を荒らし野菜泥棒……。挙句人を襲うか……傍迷惑なものじゃが、アヤカシとは然様なものよな」
 椿鬼 蜜鈴(ib6311)は煙管を弄ぶように振り回す。陰鬱な眼差しだが、その実、その場にいない敵に向けての怒りを燃やす。
「折角丹精込めて作った野菜じゃと云うに、奪われ斯様な扱いとはの……。村民も嘸や悔しかろうて」
 野菜泥棒を追ってみれば、それは小鬼で。さらにその棲家には醜悪な砲角大鬼まで潜んでいた。
 小鬼の数も多く、武装までしている。村人程度では相手にならず、探索に出て帰ってきた者は出かけた時より少なく、傷の無い者などいなかった。
「鬼退治だけならば容易いこと。ですが、潜む小鬼たちを逃さず撃ち果たすならば、少々策が必要になるでしょう」
「そうですね。下級とはいえ、残しておいても他に被害が及ぶだけ。殲滅です」
 ジークリンデ(ib0258)の懸念に、柚乃(ia0638)も有頷く。
 敵の数が多いとはいえ、その大半が下級の小鬼。おそらく正面から乗り込んでも、勝ちは出来よう。
 しかし、小鬼も危険と判断する頭ぐらいはある。無策に踏み込み大量に逃がせば、後にまた徒党を組んで暴れ出す。
 それは畑荒しだけで済む訳も無く。また別の砲角大鬼を連れてくるようなら元の木阿弥だ。
 すでに犠牲者は出ている。これ以上の被害はもう必要ない。
「小鬼は鼻が利く。風下より接近して後は迅速に叩くしかないか」
 静かに告げる破軍(ib8103)。
「村人から周辺地形は伺いました。ただ、鬼たちも周囲を把握している可能性はありますし、すでに移動しているかも」
「その時はその時だ。小鬼も数が優勢で砲角大鬼がいる内は自分たちの優位と信じて簡単には逃げないだろう」
 葵 左門(ib9682)が、くつくつ、と喉を鳴らして皮肉げに笑う。
 三葉(ib9937)も、ここで気を揉んでも仕方ないと、聞いた山小屋周辺の情報を一通り他の者たちへと知らせる。
「あー、くそったれ。……苛々しやがる」
 唇を噛み、不機嫌を抑えようとしている月酌 幻鬼(ia4931)に、左門は軽く肩を竦める。
「そうかな? アヤカシの鬼、天儀の鬼、鬼を名乗る者……。こんなにも仲間が居ると楽しくなるじゃないか? ……相成れる存在かは、別問題だがねぇ」
 そう言って笑う彼を、幻鬼はただ無言で見つめていた。


 小屋の周囲は鬼が来る前から放置されていた為、荒れ放題だという。
 近付くに連れて、草を掻き分ける音、落ちた枝を踏む音など注意して進む。
「います」
 唇に指を立てて、小さく柚乃が告げる。瘴索結界「念」で引っ掛かった瘴気の位置。それを身振りで知らせると、他の者も無言で頷いた。
 示された地点を注意して見れば、小鬼がうろつく様を視認出来た。一応見張りをしているのか、木の上や大木の影にも存在があるという。
 風向きにも気をつけ、さらに慎重に進めば。
「なんとまぁ、醜悪な」
 蜜鈴の顔が歪んだ。
 小屋は破壊され、そこだけ山の景色がぽかりと開いて見える。小屋の残骸の上に立ち、丸々太った砲角大鬼が揺らいでいた。
 何をしているのかといえば……多分何もしていない。することが無く、思いつきもしないので、ただじっとそこに留まり続けている。そんな感じだった。
「見るからに愚鈍そうですけど、動き出すと厄介なのでしょうね」
 ぶよぶよの肉の塊は重そうに動くのも大変そう。だが戦闘となればあの巨体はそれだけで脅威だし、周囲の瘴気から角を作り出し射出する能力もある。
 心配げなヘラルディア(ia0397)だが、それを幻鬼が鼻で笑い飛ばす。
「何であろうと、全力でやるだけ。さっさと始めてくれ」
 言って、砲角大鬼を睨み据えて構える幻鬼。
 そんな彼に少し微笑み、けれどその表情をすぐに消してヘラルディアも鬼たちの動向に集中する。
 瘴索結界にかかる瘴気もちらほら。けれどそれがこちらに向かってくる気配はまだ無い。

「それでは、先ずは小鬼たちを蹴散らそうか」
 三葉は小太刀「霞」を抜くと、隼人を用い、手近にいる小鬼へと駆け出した。
 薄い刃の小太刀は小鬼を易々と捕らえて切り裂く。
「ギャア!」
 という悲鳴は隠しようが無く、周囲に散らばっていた小鬼に襲撃者がいる事を知らせた。
「ギ、ギギギ!」
 途端、周囲から小石が飛んで来た。小鬼たちの攻撃だ。
 投石器を使っているとはいえ、威力は致命傷には遠い。が、痛いのは変わらない。無駄な怪我を避け、三葉が素早く身を退けば、小鬼たちは勢い付けて追ってきた。
 そこを纏めてジークリンデがブリザーストームを浴びせる。
 吹き荒れる吹雪に小鬼が凍える。声も無く倒れて、そのまま瘴気に返る。その威力を目の当たりにして、他の小鬼たちは攻撃をためらう。
 すかさず柚乃が精霊鈴輪を鳴らし、軽快なリズムを刻む。
 彼女の周りで人影がステップを踏む幻影が踊り出せば、その支援を受けて砲角大鬼目掛けて開拓者たちは飛び出していた。

 蜜鈴のアークブラストが砲角大鬼を捉える。硬直した砲角大鬼に向けて、左門は泰剣「飛刀」を投げ付ける。
 的は外しようが無かったが、肉が厚いのか、表層を少し傷つけて刺さらず地に落ちた。飛刀の宝珠は風を生み、たちまち左門の手元に戻る。
 駆け寄った幻鬼はその勢いのまま長巻「松家興重」を上段から振り下ろし、破軍はその膨らんだ腹へと霊剣「迦具土」を突き立てる。
 共に手応えはあった。だるだるの肉も傷跡を作る。
 が、砲角大鬼は多少むっとした表情を見せた後、素早く回転した。負った傷など気にも止めず、拳を突き出し、回転の勢いを利用して二人を振り払う。
 両者共に、あっさりと見切って距離を置く。間合いを開けたその先で、砲角大鬼は一人くるくると回り、やがてゆっくりと回転を緩め、よたりながら止まった。
「あー……。くそったれが。苛々するな、マジで」
 幻鬼が苛立ちも露わに、歯軋りをする。
 のっそりとした動きはこちらを馬鹿にしているように見える。それは勘違いで、深い考えなどきっと持っていない。だからこそ、なおさら癇に障る。
「所詮図体がデカイだけのゴミが……少しは楽しませろ……」
 破軍が仕掛ける。斬れば確実に当たる。躱す素振りを見せてはいるが、太りきった巨体は素早さとは程遠い。
 けれど、当たったからといってそれが致命傷に即至らない。肥えた肉が技の衝撃を弱め、汗だか油だか分からないが刃を滑らせる。
「ウガガガ!!」
 砲角大鬼が呻く。その手に瘴気が集まり、角が生み出される。
「うぉっ!!」
 射出されたその角を幻鬼はギリギリで躱す。愚鈍な動きと侮っていたが、角は意外に速く鋭く飛んでくる。
「ふん。余所見してもらっちゃあ困るな」
 破軍が咆哮を上げる。眼の色を変えたのは、砲角大鬼よりむしろ周囲の小鬼たちだった。

 引き寄せられた小鬼たちも武器を手にして襲い掛かる。弓矢などは砲角大鬼に当たる確率が高い。さすがにそれは分かるのか、剣や棍棒を手に割り込もうとする。
 割り込んだとて力量が違う。何が出来るとも思えないが、邪魔にはなる。
「邪魔はしないで貰いたいな。そんな頭も無いようだがな」
 笑いながら、左門は小鬼に泰剣で切りつける。
「見苦しい肉の塊。狙い甲斐は有るというものじゃが……。塵芥は邪魔じゃ。散れ」
 砲角大鬼からは眼を離さず――と言っても嫌でも眼に入るが――、蜜鈴は群がる小鬼をブリザーストームで蹴散らす。
「あたしじゃ一撃とはいかないかな。けど、倒れないなら、何回でも斬ってあげるよ」
 三葉は手近な小鬼を見つけてはまずは足を狙って刻んでいく。たまに手にした盾で攻撃を防ぐ者もいたが、一体の戦闘は長引かない。数度切り結べば、隙を見つけて三葉は深く切り込む。
 剣はどうしても一対一の勝負になる。取り囲まれればやはり危うい。
 そうなる前に先手先手で仕掛け、首を落とす機会があれば即座に刃を叩き込む。危うくなる前に離脱。
「逃げられる前に、平定させていただきますわ」
 ジークリンデはトルネード・キリクを唱えると、周囲を一挙に吹き飛ばす。
 巻き込まれた枝が折れ、葉が舞う。
 小鬼といえど容赦は無い。風に巻かれ、真空に斬られ、範囲内にいた小鬼たちはあっという間にぼろぼろになる。
「腕を傷つけずとも集まってきますけど、忙しいです」
 鈴を鳴らして、柚乃も重力の爆音で小鬼を押さえつける。その威力で粉砕される小鬼もいれば、万一に免れても近付いた三葉の刃の下に倒れる。
 纏まった敵がいなくなれば、ジークリンデはアイシスケイラルで個別に氷の矢を放つ。
 仲間が次々と倒され、状況が不利になってくると保身を図る小鬼も出る。
「南東の大木のそば。動きがあります」
「みーつけた。――逃げるか、斬られるか、どっちにする?」
「逃がしちゃ駄目ですよ。後が大変です」
 瘴索結界で動きを見張るヘラルディアの指示で、三葉が動く。柚乃も位置を探ると技を仕掛ける。

 小鬼が少なくなろうと、砲角大鬼の動きは変わらない。
 よたよたと揺らめきながらも、生み出される角は的確に投げ付けてくる。
 その攻撃を掻い潜り、一撃二撃と加えてもなかなか決定打に至らない。
 いい加減幻鬼でなくともいらつくが、それはアヤカシ側も同じだった。
「グオオオオ!!」
 大きな音を立てながら、鋭く息を吸い込む。同時に砲角大鬼の周囲に次々と生み出されていく大量の角。
 とっさにヘラルディアは解術の法を仕掛けるが変化は無い。攻撃を無効化する力は無いようだ。
 けれど、それだけの数を生み出すには時間もかかる。その隙を逃す開拓者では無いし、その機を待っていた。
「防御ががら空きだな。足元も疎かになっているぞ」
 八尺棍「雷同烈虎」を持ち直すと、気力を高め、身を屈めて砲角大鬼の膝裏目掛けて空気撃を放つ。
 見事に砲角大鬼は後ろ向きにすっ転ぶ。同時に放たれた角は無差別に周囲を襲った。元より狙いも制御もあって無いようなもの。数うちゃ当たるような角の攻撃に、左門はとっさに手近の小鬼を盾にしやり過ごす。
 そんな哀れな小鬼は勿論の事、その他の味方のはずの小鬼も巻き込んでいる。
 掠め飛んだ角に冷やりとしたが、小鬼の掃討はおかげでかなり進んだ。大きな怪我はヘラルディアが癒して回り、残る小鬼を始末しにかかる。
 砲角大鬼はといえば、引っくり返ったまま起き上がれずに居る。膨れ上がった体では起き上がるのも大変。その上、左門の渾身の一撃はアヤカシの足を奇妙な方向に捻じ曲げていた。それでは立てまい。
 丸い体にくっついた小さな手足をばたつかせて、砲角大鬼はもがいている。それを不快そうに開拓者は見つめる。
「態々隙を作るとは、我等相手に余裕じゃのう」
 蜜鈴は無意識に煙管を弄びかけて、やめる。まだ戦いは終わっていない。間抜けな姿に思わず気が抜け掛けたが、眼の前の敵に集中する。
「おんしの後に道は無い。此処で散るが天命じゃ」
「立派な緩衝材だったが。精々打ち込みの練習に使わせてもらおうか……」
 宣言する蜜鈴に、破軍も構える。
 立ち上がるのを断念した砲角大鬼は、玉のように転がりながら角を生み出し攻撃を続ける。時には動きを止め、大量の角を生み出し放つ。
 それでも、小鬼を掃討し終わればそちらに対処していた開拓者たちも加わり。
 丸い鬼が消えゆくには、十分な時間が過ぎていった。


 負った傷はヘラルディアが閃癒をかける。
 そうして傷は癒えても、失われた命は返らない。
「遺体は食われたか、消し飛んだか。こんな瘴気の溜まり場に野ざらしにして鬼に堕ちてもらってもつまらんからなぁ」
 軽く笑いながら告げる左門に、柚乃は少し目を向けたが、何も言わない。
 静かに目を閉じると、いなくなった人たちの冥福を祈る。
「手間ばかりかけさせやがって」
 気を沈めるように幻鬼は深く息を吐く。

 いずれまたどこかでアヤカシ被害は出る。けれど、今しばらくだけでも、心静かにあらん事を。