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■オープニング本文 ● 武天の砂浜に漂着した一隻の飛空船――それは、どこの国のものともつかぬ調度品を積んだ古い大型船であった。 「結局どこからの船なんだろう」 船着場、飛空船を率いて周辺空域を護衛するコクリ・コクル(iz0150)はひょいと首をもたげた。波が打ちつけるたび波止場には滴が飛び、かもめがみゃあみゃあと遊んでいる。 「一応秘密なんだよね……うーん?」 コクリの手元には、やれ宝船だの呪いの幽霊船だのと書きたてられた怪しげな瓦版があった。やはり、これだけの大事件だ。隠しきれるものではないらしい。 「おい、誰かいるか!」 タラップを駆け上がり、ゼロが、姿を現した。 「こいつはどうもでかいヤマだ」 「どうしたんですか?」 「西に未知の儀がある! 新大陸だよ!」 思わず立ち上がり、コクリは息を飲んだ。開拓者ギルドにおいては、朝廷文武百官と各国王の連名のもとに新大陸探索の命が下されていた。天儀暦1012年、夏も暮れのことであった。 ● 人の口に戸は立てられない。 隠そうとした所で、船一隻は消しようが無い。目撃者はいるし、開拓者はやたら呼ばれているし、それで秘密となれば、むしろ関心を煽った形になる。 瓦版は売り上げを伸ばす。その中には、どこからそんな話が? というあからさまに眉唾物の記事もやたらある。謎の船を肴に巷もお祭り騒ぎになっていた。 開拓者ギルドに入ってきた酒天も、落ちていた瓦版に気付いて呆れる。 「笛幾村の宝船ねぇ。そんなご立派な船にも見えなかったがな」 「それはガセ。実際の所はどうなのか、もう聞いてるんだろ」 「まあな」 ギルドの係員から声をかけられ、あっさりと酒天は頷く。 本人不本意ながらも船内から発見された美術品の修復に関わらされた。 精霊かと思しき姿を彫り上げられた緻密な大理石の像。天儀古語と不明の文字で記された何かの歴史か神話と思しき石碑。赤と黒を基調にした絵が描かれている壷や皿。 天儀は勿論、他儀でもあまり見かけない独特の芸術性。僻地で密かに作られた可能性もあったが、知らない儀から来たとする方が納得出来る。 「希望の儀――希儀。新しい儀か。確かに変わった美術品ばかりだったがな」 「やたら精巧に作られた彫像って奴か……」 うんうん、と聞き入っていた係員だが。 やがて周囲をうかがうと、酒天を小さく手招いて声を潜めた。 「……実は少し気になっていたのだが。その彫像、何者かに石化をかけられていた、なんて可能性はないのか?」 人を石にする術は無くもない。そういう能力を持ったアヤカシもいる。 石にされて運ばれてきたとなると、相当な何かがあったはずだ。とすれば危険な船の警備にまたギルドも備えなければならない。 が、係員の真剣な態度とはうらはらに、酒天は吹き出して大笑いする。 「それはない。やたら作りが細かいから、一応疑って最初に探ってみたが、どれも本物の石だ。……少なくとも俺が関わった範囲ではな」 そして、意地の悪い笑みを見せる。所詮、調査に関わったのは全体の一端でしかない。 現に謎の渡航方法も別の場所から発見されたようで、ギルドを通じて開拓者たちが動き出している。 「そうか。まぁとりあえずよかった。石になってるとはいえ、粉々の死体をどうこうなんてなんて話は笑えないからな」 ほっとして、係員は胸を撫で下ろす。 「……で、用件はそれだけか?」 「いいや。新儀の探索準備が行われているのはもう知ってるだろう? まずは嵐の壁突破と魔神・不死鳥の封印。それらの条件が整い次第、出発となるのだろうが。それまでに向こうの情報をなるたけ多く集めておきたい」 「新儀についてなんて、俺が知る訳ねぇだろ」 なんせ、泰すらも知らなかったのだから。 「そんな事は百も承知だ。そうじゃなくて、関わった美術品からも何か現地について推測できるような事柄はあるだろう? 船を作って美術品があるって事は、相応の文明があるってことだ。彫像やレリーフ、皿に壷、それらに描かれていた絵画の対象を調べれば、どんな事に関心を寄せていたか、どんな文化があったか推測はつけたりできるだろ」 必死に説明する係員だが、言われた酒天は顔を引きつらせる。 「野郎の裸に関心を持つ儀? …………。このまま閉ざしておいた方がよくね?」 「そういう言い方をされると、確かに嫌だな」 係員もげんなりと顔を歪ませるが、すぐにその想像を振り払う。 「いやまぁ、しかし。それも春画とは意味が違うだろ。それに石碑の文章も意味深だ。アヤカシが暴れているとなると、期待してばかりもいられない」 開拓はいい事だらけでも無い。もしかすると、こちらの手に負えない事態が潜んでいる可能性もまたある。 だが、危険を恐れて踏み込まずにいれば、それはそれで魔の森を滅する手段を見過ごす可能性も出てくる。 吉凶どう出るか。けれども、注意深く情報を集めていれば、凶事に遭遇しても対応できるはず。 「勿論、その手の専門家も調査するだろうが。あちこち出歩いて見識のある開拓者のほうがより幅広い視点から何かを見つけ出すだろう、って事で、美術品の調査の依頼が入ったわけだ。特にお前さんは、昔の事も知っているわけだからな」 「……もしかして。まだまだあのくそ小難しい古語を読めとか言うんじゃないだろうな? ……冗談じゃねぇぞ! いい加減、辞書だかなんだか貸し出し許可も下りてるだろう。それに調べた所で二〜三百年前――美術品ならそれ以前の話って事も考えられる。手がかりになるのか? 自分たちでやれよ」 「それぐらい向こうさんも分かってる。その上で、考えつく事は考えておきたいって話だ。気軽に考えろ。お茶に菓子や弁当ぐらいは出るぞ」 「いらん」 「酒も用意しているとか。呑み放題だ」 「よし、行こう!」 さっそくとばかりにギルドから飛び出していく。まったくやる気があるのか無いのか。 やれやれと嘆息付くと、開拓者たちを呼び集めて説明する。 「と、いうわけで。美術品を調査して、あらかじめどんな儀なのか、何か気をつけておくような事がないか探ってくれないか? ただ、推測つけた所で、答えが出るのは儀に渡れてからの話になる。成否などあまり考えすぎないようにもして欲しいとの事だ」 その為の茶会の準備なのだとか。 肩の力を抜いて気楽に意見して欲しい。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 八十神 蔵人(ia1422) / 海月弥生(ia5351) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / ルヴェル・ノール(ib0363) / フィン・ファルスト(ib0979) / 无(ib1198) / ケロリーナ(ib2037) |
■リプレイ本文 武天に漂着した謎の船。 聞きつけた瓦版が怪しげに書きたてる中、どうやら新儀から来たと正式に発表された。 新しい儀は希望の儀――希儀と呼ばれ、ギルドにはさらに関連依頼が出されだす。 「まぁ、大方の予想通りって感じね」 公表された内容に、海月弥生(ia5351)は軽く笑みを浮かべる。 空賊所有の飛空船なら、所在不明でもおかしくはない。しかし、難破船は分類するなら超大型船。空賊如きが手に入れ、乗り回すには大きすぎる。 さらに発見された品々は、どこの儀で作られたのか分からない。どこかの酔狂の作とも考えられるが、全く未知の地から来たと考えるのは実に容易かった。 「それにしても遥かなる『西』の方から来たとはね。なら泰よりも向こう側という所かしらね」 「ご苦労なこった」 新儀に思いを寄せる弥生に、酒天童子は軽く肩を竦めて息を吐いていた。 難破船捜索の頃から、かなりの開拓者が集められている。その調査の一環で、新儀から来たという以外にも、いろいろな事実が判明した。 ただ、壊れた美術品の修復に(無理矢理)呼び出された酒天としては、あまりいい印象にないようだ。 そんな彼とは逆なのが開拓者たち。これからに向けて張り切るのは、ケロリーナ(ib2037)だけではない。 「これから不死鳥さんとかの問題でも新しい儀の言葉が出てくるかもしれないから、辞書を作っておくですの〜」 新しい儀が見つかったとなれば、そこに向かうのは必然。嵐の壁にいる魔神も判明し、封印に向けて動いている開拓者もいる。 負けるという事は考えない。今は、そこを突破した時、次に何をするかが大事なのだ。 「良かったね、世の中の役に立てて……ペコちゃん」 「誰がペコだ。っていうか、何でペコ!? 大体俺はいつだって役に立ってる!」 「だって、爺呼ばわりすると嫌がるから……。それに……ねぇ」 酒天の肩を叩き、ほろりと涙を流す柚乃(ia0638)。 言われた当人が抗議するも、柚乃は首を傾げたままだ。 「今回は前と違い、新儀解明の為に周囲も協力してくれている。辞書だけでひっぱり出される事は無いさ」 美術品を解析した資料や纏めた報告書と混じって並べられているのは、年季の入った辞書の類。そこには『持ち出し禁止』の文字も見えるが、この大事の前では小事に違いない。 竜哉(ia8037)が指摘すると、八十神 蔵人(ia1422)もまた笑う。 「せや。気楽に意見を出してくれ、って言われてきたんやし。ちゅう訳で、宴会とかの準備しとくでー。けど、仕事終わるまでつまみ食いするなよー。酒は鍵付きの蔵にでも閉まっとけー」 「マテ! 飲みながらでも十分いけるだろ!」 「資料汚したらあかん」 「そんなヘマするか」 飛び跳ねて蔵へと走ろうとする酒天を、ひょいと蔵人は襟首をつかむ。 「飲んだくれてないで、ペコちゃんももっと役に立ってもらわないと」 「ケロリーナも手伝うですの〜」 柚乃が長い髪を気分転換に三つ編みをしだすと、ケロリーナも酒天が捕まっているのを幸い遊び出す。 賑やかな様子を苦笑して見ていた羅喉丸(ia0347)だが、ふと険しい視線を資料の山に向ける。 「危険を冒してでも嵐の壁を突破しようとした船だ。きっと何かを伝えたかったんだろう。彼らの勇気を……無駄にしたくないな」 ぼろぼろの飛空船。魔戦獣を突破して、なお何を携えていたのか。 それは名付けられた『希望』とはうらはらに、どことなく不穏な思いを胸に抱かせる。 ● 見事に壊れていた美術品は、開拓者が前に来た際、大まかに修復された。 けれども、手の回らなかった品も多い。今回いい機会だからと、残っていた陶器類や細かなレリーフに着手する開拓者も少なくない。 「ふ、ふふふふ。こういう手作業の方が向いてるのよ、あたし」 壊れた陶器の破片を重ねて、フィン・ファルスト(ib0979)が静かに笑う。 何せ壊れ物だ。手元一つ狂えばさらに木っ端微塵で取り返しようが無い。 汚れを払い、つながりそうな絵を見つけて慎重に繋げ合わせていく。根気と集中力の要る作業で、余計な事を考える余裕は無い。 けれど。ただ図柄を眺めるだけでも、何となく気付くこともある。 「この蛇みたいの攻撃してる絵多いけど……。アヤカシかな、これ。酒天くん、何か心当たりある?」 「よせやい。蛇のアヤカシなんざ珍しくもないだろ」 「そうなんだなぁ」 フィンに尋ねられるも、酒天は顔をしかめる。 同じ表情で同意しながら、ルヴェル・ノール(ib0363)は手にした幾つもの紙の束をどんと机の資料に追加した。 「『蛇を攻撃する人』を元にフィフロスで調べたが、蛇をアヤカシに絞ってもやはり大まかすぎるな。神楽の都図書館での本だから、天儀始め既存の儀にある話に限られるが、伝説・御伽噺は実に山とある」 大蛇を倒す英雄の話から、畑の蛇を退治する農民まで。蛇というのは悪役にしやすい。 疲れた表情で、神の束を叩く。一応まとめたが、ここからさらに手がかりを探すのも大変。さらに未知の儀の話なら、そんなもの無い可能性もある。 「そもそも、これって何の為に作られたのでしょう?」 「というと?」 問い返す酒天に、和奏(ia8807)は品々をじっと見つめたまま。 「像や茶碗などは元々美術品ではなく他の目的で作られた物ですよね」 「とも限らないだろ。家とか庭の飾りとか、素っ気無いから何かおもしろいもん置いとこうってのもあるぜ。大体、ン百万もする茶碗で飯食っても気ぃ使うばかりで、喉に通らないだろ」 「まぁ、そんなところもあるそうですが。それにしても、わざわざ船に積まれていた品。何か、理由があるのでしょうか……」 素っ気無く肩を竦める酒天に、和奏は首を大きく傾げていた。 「あるから、わざわざ危険な航海に持ち込んだ、と考えるのが普通だろう。像は単体として、レリーフに皿、壷か……」 羅喉丸は、似た場面を題材にしてないかを探す。 だが、残っていた美術品を分かる程度にまで直してみると、全体を通しての共通点を見つけだすのは難しかった。しいていえば、どの美術品も壊れてさえいなければ非常に価値が出そうだというぐらい。 「戦っている場面かと思ったが、人二人並んで槍投げしているだけっぽかったり。何してるんだ?」 「てか、神話とか歴史とか大掛かりな所は現地行ってみな分からんやろ。さしあたって必要そうなわかりやすい所から見てみたらどやー?」 軽い調子の蔵人だが、目は真剣になっている。 「分かりやすいといえば、やはりこの蛇か……だが」 酒天が唸るのも良く分かる。 蛇、といっても組み立ててみれば、同じ蛇でもない。巨大な蛇にまかれた恐ろしい女が武装した女性に槍を突きつけられていたり、頭が三つある蛇が人を追いかけていたり、尻から蛇が生えている獣の図や、肩から伸びる蛇の図など様々だ。蛇かと思いきや、実は魚の図だったなんてのもあり、さらに魚の下半身に山羊の上半身がついていたりする。 ただまぁ、それら共通して、どうやらそれらは良くないモノらしいとは構図から読み取れる。 「蛇……龍とも思いましたけど、本当に蛇のようですね。封じられし六柱の神とも違うようです」 柚乃は肩を落とす。 それ以外にも目玉を沢山持つ巨人や、鵺のような絵柄もある。そちらは考えるでも無くアヤカシだろう。いずれも勝利し、喜ぶ戦士がそばに描かれている。 「どこの儀にもアヤカシは存在するのですね。遥か昔から……」 彼女の率直な感想が、胸に痛い。 「そして、木、か」 羅喉丸が呻く。 装飾やちょっとした背景以外でも、明らかに様子の異なる樹が幾つか描かれている。 明らかに巨大に描かれるその樹は、人々の祈りを受けて生い茂る様を描いてもいれば、一方で巨大な蛇などを吐き出して人を攻め立てる悪役にもなっていた。六人の人が取り巻く木の下には押しつぶされてもがく何かがいる図もある。 それが一体何を意味するのか。 「六人、六柱の神? 例えばこの世界には六つの儀があって、昔、嵐の壁は無くて自由に行き来していた?」 「天儀、泰儀、ジルベリア、アル=カマル、そして希儀。陽州も入れていいのかな? そしたらもう儀は無いって事?」 考え込む柚乃に、フィンが指折り数える。酒天が、待て待てと手を振った。 「という推測もできるって事だろ。さすがにそこまで断定するには材料が少なすぎらぁ」 「今のところ絶対言えるんは、蛇には要注意、っちゅうことぐらいちゃう? もしかしたら、こん中に大アヤカシもおりそうやけどな」 蔵人の解釈に否定を入れるものは無かった。 ● 組み終わっていた彫像群は、改めて見ても圧巻だった。人そっくりの姿大きさで台座にまで乗っているのもあるのだ。今にも動き出しそうな出来栄えの良さは、文化の違いを軽く越えて魅せられる。 「かといって、これらが一連なりになるのかどうかはよく分からないわね。何か表題とか見つかってないの?」 「無いな。あっても文字の類は碑文が一番で考えてたから、そっちに混じってる可能性が出てくる。下手すりゃ一からやり直しだな」 「それも怖いわねぇ」 何の気無しの問いかけに返った言葉は、弥生に限らずぞっとさせた。 結構な時間と人手を費やした修復作業。それが何か間違えてました、やり直しです、なんて言われたならば、では一体あの苦労はなんだったのかと問いたい。 勿論本当に間違っているならやらねばならない。けど、今の所その可能性は低い。どこにはめていいのかいいのか分からない欠片は、結局どれとも合わないから不明なのだ。もし表題だったとしても、数ある中のどの美術品の物か分からない。 「人で無い姿のもたくさんあるけど、怖い感じには作られてない。お皿の蛇さんみたいに敵ではなさそうだけど、だからといって誰なのかもよく分からないわね。やっぱり芸術品以外の評価は今の所下せないかしら」 彫像と同じポーズを真似してみながら、弥生はそう結論付けるしかない。 ただ、その彫像群にはもちろん、レリーフにも皿や壷などのどこを探しても見当たらない姿もある。 「もふらさまはいないんだ……」 「あいつらはどうやら天儀特有らしいからな」 柚乃はがっくりと肩を落とすのを、酒天はどこか困った様子で見ている。 他の儀へも連れられたりして見かけるもふらだが、基本はそうらしい。 ● 「気ぃ取り直して飯にしよやー。腹が膨れたら別の意見も出るんちゃうかー」 蔵人が蔵の鍵を開ける。 「酒も用意してきたからな。……潰れるとは思わないが、まぁ多少に控えてくれ」 「阿呆。俺がそんな真似するか」 心配しながらも極辛純米酒を差し出すルヴェルから、掻っ攫うように酒天は受け取る。 「口に合うか?」 「口を合わせるもんだよ」 あっという間に空にしていく酒天に、ルヴェルはむしろ感心してしまう。 柚乃からの月見団子に餡各種、手製という果実酒も遠慮なく平らげながら、悪びれなく問いかけてくる。 「で、辞書作りの方はどうなってる?」 「酒天くんがもっと協力してくれたら早いですの〜」 その姿勢にケロリーナは口を尖らせる。 当の酒天は、 「辞書があるだろ、調べるのも勉強」 と、のんびり酒飲んで、ほとんど手伝ってくれない。 「理解出来ている部分から、単語を抜き出し、天儀古語から対応する希儀の言葉を捜して現代語に当てはめる――。これは結構な時間がかかるな」 今の所できた箇所を見て竜哉は、目頭を揉んだ。 分かりやすい箇所から取り掛かるが、完成にはまだまだ遠い。 「練力が先に尽きそうだ」 ルヴェルもやや疲れ気味。 フィフロスを使えば、該当しそうな箇所が載る頁行数が目次のように頭に浮かぶ。分厚い辞書から探す場所が限定されるだけでも楽にではある。 今回許された時間中には終わるまい。やり方を調査隊に指導して、後は任せる事になりそうだ。 (天儀語は他の儀でも使われている。希儀にも見られるのは天儀と交流があったという事か。何もかも秘されても、それに慣れきっている現代、か……) 竜哉は、飲んだくれてる酒天を見る。彼の復活がなければ、修羅もまた秘されたまま。浪志隊の騒動でも結局事件の裏には歴史の真実が隠れていた。 隠しているのは、誰なのか。真っ先に思いつく相手は、真っ向から挑むには厄介な相手でもある。 道遠く険しく。けれども、確実に進んでいく。 「おなかいっぱいになった所で、酒天くんも手伝って下さいですのー」 「やだ。考察ぐらいはするけどな」 「だったらしっかり考えろ。希儀の人にも関わる案件が隠れているかもしれないだろ」 腕を引くケロリーナから顔を背ける酒天に、羅喉丸も喝を入れる。 来るべき時の為に。 ゆっくりと準備は整い始めていく。 |