【混夢】八条島if
マスター名:からた狐
シナリオ形態: イベント
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 2人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/30 21:58



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。
※本編での浪志組の事件などを参考にしていますが、整合性はとりません。
※今後八条島のシナリオが本編で関係しても、このシナリオは全く関係しません。

 天儀を治める朝廷。その頂点に立つ帝。帝を支える官僚。
 強大な財力と裏打ちされた歴史に支えられ、彼らは長くこの地を治めてきた。
 しかし、長く続いた権力は時には歪みをもたらす。
 その歪みを正す為に、力付くで現体制を崩壊させ、新しい秩序を築こうとした者たちがいた。
 彼らはまず現体制を支援する名目で組織を作り、金を集めて、武器を集め。そうして自分達に賛同する者たちを集めていった。
 そして、機は熟し。帝も訪れる大祭の最中、都に火を放ち、混乱の内に全てを打倒する計画を立てた。
 けれども、その計画は直前で露呈し。計画に加担した者は悉く捉えられた。
 死罪こそ免れたものの、下された罪は遠島。
 遠く離れた八条島に送られ、朝廷の支援も受けず、精霊門も閉ざされ、天儀との行き来は全て遮断された上で生かされる事になった。


 流された者たちはどれほどか。多くも無いが少なくも無い。千人はさすがに越えないだろう。
 計画には加担していないが、流される家族や恋人と離れるのを良しとせず、苦労すると分かっててなおついてきた者たちもいる。その中にはまだ年端の行かぬ小さな子供から、腰の曲がった老人までもいる。年齢層は幅広い。
 島は広いものの、元はとある貴族が時折利用する程度の別荘地。住める場所はひどく限られる。ましてこれだけの人数が暮すとなると、寝る場所の確保だけでも一苦労だ。
 物資も足りない。
 当面生活する程度なら朝廷も温情を見せてくれた。食料も贅沢せず節約すれば、半年ほどはこの人数でも持つ。けれど、それがつきたら?
 精霊門があったならすぐに買いに戻れるが、それはもう出来ない。空は気流が複雑で竜も船も飛べず、海は遠くで巨大なアヤカシが時折姿を見せる剣呑さ。
 さらに精霊門が閉ざされた後、大量にそれらの物資が減っている事に気付いた。
 打倒朝廷と人を集めたが、志同じくしても性根が同じとは限らない。
 足手まといと一緒にいたくない、負けた首領に従う気はもう無い、一人で島を研究したい、などなど。様々な理由から、幾つかの集団に分かれ、島のあちこちで住居を構えだしていた。
 その中には、朝廷は倒せなかったがこの島での天下は自分たちが制しようと、武器を持ち力で支配しようとする気配がすでにあった。
 隙を見せれば物資を奪われる。あるいは自由を奪われ、彼らのいいようにこき使われる。
 取り締まる法はもはや無い。自分の身は自分で守らねばならない。

「皆なかよく平等に、とは簡単に申せませぬが。やはり難しゅうございますね」
 とりあえず別荘地を拠点とし、ケモノ避けとそういった外部に流れた集団の襲撃を避ける為の柵を作りながら、真坂カヨはこれからを考える。
 やるべき事は山とある。ただどこから手をつけるべきか。
 限られた空間、限られた人たち、限られた物資でこれより先暮さねばならない。永遠に。


■参加者一覧
/ 无(ib1198) / アルマ・ムリフェイン(ib3629


■リプレイ本文

「門を閉めよ。以後の交流まかりならん」
 役人の号令を最後に、やがて精霊門は力を失った。
 別れの挨拶は済ませている。名残惜しげに八条島に渡った人々は閉ざされた精霊門をしばし見入っていた。
 けれど、この現実を受け入れるしかない。
 今より閉ざされた島で生きていかねばならないという現実を……。
 誰ともなしに、門とは別れを告げ、人々は島の一角へと集まる。新たな居住地へと。
 問題が発生するまで、さほどの時間はかからなかった。
 しばしの生活用に渡された品が幾つか紛失し、渡った顔ぶれの一部が姿を消していた。
「好きにやらせてもらう。互いに達者でな」
 わざわざ挨拶に来てくれた者もいれば、黙って荷を持ち出した者もいる。持ち出す所を見つかり乱闘になった時も。
「物資は一応あるから、先に皆の安全確保したいな。カフチェはご老人や子供の手伝いを。……それと護衛もお願い」
「了解しました」
 連れてきたからくりのカフチェが丁重にお辞儀をして、不安そうにしている住人たちの方へと向かっていった。
 それを見届けて、アルマ・ムリフェイン(ib3629)はこれからやる事をもう一度確認する。
 奪われた物資と残った物資の確認。それからそれらと皆を守る為の柵作り。
 困った人々は先生や年配の真坂カヨへと相談を持ちかけている。彼らも己が責任を果たしているが、頼りっぱなしにしてしまうと何かあった時に困ってしまう。
 浪志組――もうこちらではその肩書きは必要ない。元・浪志組と言うべきか――でもある彼としては、向こうで役に立たなかった分、こちらで役に立ちたい。その気持ちが強くある。
「ところで、海のアヤカシの様子は?」
「襲ってくる様子はないようです」
 アルマが問いかけると、カフチェが耳にした情報を伝える。その周囲では子供たちが騒いでいる。きちんと言われた事をこなしていた。
 赤褐色の肌をした長身のからくりを、珍しそうに見上げながら子供たちは笑う。
 この状況を彼らがはっきり悟るのはまだ先だろう。が、その時不便な思いはさせたくない。この笑顔を曇らせたくない。
「とすると、やっぱり陸地が先だね」
 雨露を凌げて、安心に過ごせる場所を。
 元は別荘地とはいえ、突然の大所帯。朝廷も便宜は色々図ってくれているが、快適な居住空間とは程遠い。
 出て行った連中も気になる。それ以外にも島内にどんな生物が潜んでいるか。アヤカシがいる可能性もある。
 脅威を減らす為に、忙しい日が続きそうだ。

 慌しい日々の中、暇を見つけては、起きた出来事を无(ib1198)は書き記す。
 過酷な環境が予想できるこちら側。保護していた子供らをこちらに連れ込むのを良しとせず、天儀に残す条件として『組以外の者が歪めず伝える事』との条件を言い渡されていた。
 歴史に関する書物も、許される範囲で持ち込めた。
 向こう数十年は天儀本土との交流は無いだろう。もしかすると数百年か。
 けれどいつか罪も時に埋もれ、やがて解放される時が来るかもしれない。その時真実を知らずして、またあらぬ争いを生むのは避けたい。
「とはいえ、紙も貴重だからな。口伝という手もあるが、歪む可能性も否めんし。どうしたものかな」
 暇そうにしている尾無狐のナイが「さあねぇ」と言わんばかりに耳を震わせて、また寝そべる。
 これに関しては手伝ってくれそうにない。……手伝うと言われても困る。
「すまん。ちょっと来てくれ」
 部屋の外から声がかけられる。
 どうやら相談事らしい。
 普段は簡単な講義を中心として、合間に食糧確保の方法から人間問題の相談、釣りに狩り、ケモノや陰陽術研究、たまに悪漢退治と結局天儀といた頃と同じ内容の生活を送っている无だが、何せ島には人がいない。使える人は限られる。
 剣術話術は得意でも、畑仕事はてんで駄目。刀を鍬や鋤に変えても、慣れないタコや出ない成果に苛立って荒事に走りやすい。
 意見違いや些細な喧嘩。一つ済んだと思えば、すぐに別の案件が二つ三つと持ち上がっている。
 ゆっくり出来る暇はほとんど無い。


 薪には事欠かないが、何分娯楽に乏しい。日のある内は労働に勤しむので、日が落ちれば幾らもせずに人々は眠りにつく。
 けれど、その隙を狙ってやって来る輩もいる。
 こっそり盗って出て行った者もいるが、餞別と思えば安いものだ。だが、それだけでは飽き足らず、夜陰に乗じて舞い戻り、収穫をくすね取ろうとする連中は後をたたない。
 畑仕事より容易いと、交代で見張りを買って出る者はそれなりにいた。彼らと手分けして周辺に異変がないかを見回っていく。
 カフチェを連れて、アルマもまた見回りに出歩く。月明かりを頼りに、柵が破られていないか、食料は無事かなど一つずつ確かめていくが……。
「どうしました?」
 不意に足を止めたアルマをカフチェがいぶかしむが、それを無言で制す。
 狐の耳が忙しなく動く。超越聴覚で周囲の音を拾うと、やがて静かに気になる音の方へと歩き出した。
 どうも柵の外で妙な音がする。小さな動物が無造作に動き回る音。
 山の中だ。鼠も兎も珍しくない。ただそれが齧りついたり叩いてみたりと、どうも動物らしからぬ物音を静かに立てているのが気になる。
 アルマは笛を構える。夜の子守唄で眠らせ、いざとなればカフチェの手も借りればいい。
 だが、気をつけて歩いたつもりも、敵も気配に気付いたか、正体を確かめる前に消えていた。
「カフチェ。明かりを用意してくれないかな」
 幾らも待たずにカフチェが火を用意してくる。
 照らしながら、消えた地点を確認してみれば柵に齧られた痕跡が見えた。さらに周辺には小さな足跡に、毛。
 もう一度耳を済ますが、何も異変は無い。
「面倒な事にならないといいけどね」
 不安そうにするアルマに、カフチェも一歩離れて頷いていた。

 明けて昼日中。
 食料捕獲用に仕掛けた罠を前に、无はナイと立ち止まる。
「おや珍しいものが」
「た、助けてくれ〜」
 獲物の代わりにかかっていたのは人だった。都合、住居を共にする者たちとは少なからず顔を合わせている。見覚えがないなら、出て行った口か。
「何故、ここへ?」
「それより離してくれないか?」
「返答如何だな」
 情けない声をあげているが、自由にした途端、暴れかねない。法など無いに等しいこの地では、人相手も油断できない。ナイも分かっているのか、それとなく間合いを測っている。
「山を歩いていたら、突然何かに襲われたんだ。逃げ回っていたら、うっかりこいつに嵌まってしまったんでね」
「何か? どんな?」
「さあ、急だったんでよくは……」
 夜で暗かったし、襲われて動転してしまいロクに確かめられなかったという。ただ、木の上から毛むくじゃらが背中に入り込み、着物の中を駆け回ったそうだ。
 その他、幾つか質問するが、嘘をついている気配は無い。
「……。それで。山の中、どんな獣がいるかまだ分からないだろうに。夜間うろついていたのは何故なんだ」
 唐突に切り出せば、相手はあからさまにうろたえた。よからぬ理由と見た。
 さすがにそれは白状しない。无は静かに嘆息付く。
「こちらとて余裕は無い。戻って来たいなら戻っていいが、害を為すなら相応の処分があると思え」
 念入りに釘を刺して、待遇は相手自身に決めさせる。

「どうも、よろしからぬのがいるようで」
 報告に戻った无。その手には、罠にかかっていた相手の着物に付着した毛があった。
 アルマが見つけた物と合わせて同じものと見る。
「話を聞いて足跡などを調べたが。獣ではなく、ケモノだな。多分鼠のような」
「アヤカシで無いだけマシって訳か」
 胸を撫で下ろすも、アルマも複雑な表情をしている。マシなだけでいい訳ではない。
「寝床と思しき場所も目星がついた。相手の正体を探ってくる」
「分かった。こっちは任せておいて」
 荷物を纏める无に、アルマは笛を握り締める。
 腕の立つ者も多いが、そうでない者もいる。彼らに安心して生活してもらう為にも、気は抜けない。

 同行を申し出た者と共に、无は山に踏み入る。
 時にケモノはアヤカシすら倒す。相手は小さそうだが、だからといって油断しては痛い目に合う。手に負えない場合、誰かが詳細を知らせに戻らねばならない。
 だが、心配には及ばなかった。
「おう、やっと来たか」
 不意に声だけが聞こえた。ナイが素早く耳を動かし、しゃっと威嚇する。
 ナイの視線を辿れば、木の枝に鼠が一匹止まっていた。
「なんじゃ小僧が。わしに意見する気か」
 ただの鼠が喋る訳無い。どうやらこれがケモノ。それも話すとなれば相当年経た相手だ。
「もしかして、山のヌシ……ですか?」
「おうよ。わしに許可無く大勢でがやがやと。うるそうて叶わん」
 長い尻尾を木に叩きつけ、ヌシは不愉快を露わにしている。
「小さいと思って馬鹿にするなよ。わしを怒らせたら、山の眷属引きつれ骨も残さず喰らいつくしてくれる」
「それは申し訳ありません。何分来たばかりで土地に不慣れなものでして」
 話が通じるなら上等。丁寧に詫びを告げると、互いに危害を加えぬ事を約束する。

 その日の内に、无たちが無事に帰ってきた事にアルマはほっとする。
 両手いっぱいに山の収穫がある辺り、上手くいったのはすぐに知れた。
 大事な報告だからと手土産もって、无は東堂たちの元へと向かう。
「そんな者がおりましたの?」
「別荘に来る人間は山まで滅多に入らなかったので、向こうも知らんふりしてたそうです」
 目を丸くするカヨに、无は苦笑する。
 ところが大勢の人間がやってきて、山のあちこちに住み着くようになった。餌場も棲家もあらされ、一体何事とようやく重い腰を上げるに至ったという。この場合迷惑をかけたのは果たしてどっちか。
「山を拓く許可ももらったので、とりあえずこの一帯はこちらの自由にしてもいいらしい。ただ出来た作物の一部を奉納しろと約束させられたが」
 ちゃっかりした鼠に无の笑みが止まらない。
「それぐらいで鼠被害を抑えられるなら安いものだね。畑を荒らされるのは困るから」
 ほっとしながらアルマは外を見る。
 生き抜く為に動き始めた人々。
 これからも厄介ごとは次々に訪れるだろう。
 身を守れぬ者でも安心して生活できる場所になるよう。そんな場所が作れるよう。ただそれだけを今は願う。