【猫族】空と海から
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/03 20:38



■オープニング本文

 泰国で獣人を猫族(ニャン)と表現するのは約九割が猫か虎の姿に似ているためだ。そうでない獣人についても便宜的に猫族と呼ばれている。個人的な好き嫌いは別にして魚を食するのが好き。特に秋刀魚には目がなかった。
 猫族は毎年八月の五日から二十五日にかけての夜月に秋刀魚三匹のお供え物をする。遙か昔からの風習で意味の伝承は途切れてしまったが、月を敬うのは現在でも続いていた。
 夜月に祈りの言葉を投げかけ、地方によっては歌となって語り継がれている。
 今年の八月十日の夕方から十二日の深夜にかけ、朱春の一角『猫の住処』(ニャンノスミカ)において、猫族による大規模な月敬いの儀式が行われる予定になっていた。
 誰がつけたか知らないが儀式の名は『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』。それ以外にも各地で月を敬う儀式は執り行われるようだ。
 準備は着々と進んでいたが、秋刀魚に関して巷では不安が広がっていた。


 猫族の祭りを守る為、泰の開拓者ギルドは大忙し。頼み込まれる依頼に対処し、目当てにやってくる開拓者に振り分ける。それでも次から次へと依頼は舞い込んで来る。
「そういう訳で、これも海でアヤカシ退治だ。ちゃっちゃと行って倒して来い」
 ギルドの係員は言って、地図を広げる。泰儀を取り巻く海。その一角を指し示す。
「ここだ。秋刀魚は勿論、他の魚も狙いやすいいい魚場で、故に近くの漁師がよく訪れていた」
 そして、人が集まる所はアヤカシにも狙われやすい。夏の暑さにアヤカシも浮かれたか、大挙して押し寄せてきたという訳だ。
「貪魚。小型の魚のアヤカシだ。水のある場所ならどこにでもいるような下級アヤカシで、一匹だとそれほど脅威では無い。ただ、群れで出現されるとその鋭い歯と強靭な顎で志体持ちも食い散らかされる」
 水の中の相手。船の上まではなかなか襲えず、なので被害は無かったが。人がいないならと辺りの魚を手当たり次第に襲い出したという。
 早急に討伐せねば、豊かな漁場が死の海に変わる。
「貧魚だしな。最初は気をつけながら、漁師たちも討伐したり動向を見ながら魚を取ったりしていたそうだが……。どこからか人面鳥までもがやってきて人を襲うようになった」
 人面鳥は、女の胴体に鳥の翼のような腕がついたアヤカシ。低空を好んで飛びまわり、魅了などの技を駆使して人を襲う。死肉が好物なので、襲われた人は腐るまで放置されることもある。
 これが五体。
 正直貧魚相手なら、数こそ怖いが、注意さえすれば漁師たちでも相手に出来る。しかし、空からも襲ってくるとなると、もう迂闊に近づけない。
「数が多くて厄介だが、放ってはおけない。近隣漁師たちも協力すると言っているから船は貸してもらえるだろうし、相棒の同伴も許可されている」
 水中戦と空中戦。どちらも強敵とは言い難いが、数も悪けりゃ場所も悪い。面倒な依頼だった。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
奈々生(ib9660
13歳・女・サ


■リプレイ本文

 空と海から、開拓者たちは沖合いへと進む。
 泰儀で起きている異変。各地の海でアヤカシが暴れている為、秋刀魚が不作になっているという。
 八月に入れば月敬いの儀式。備える秋刀魚が必要なのは勿論、猫族は糠秋刀魚を作って保存しておくほど秋刀魚が好きだ。
 この一大事に、泰の開拓者ギルドも積極的にアヤカシ退治に乗り出している。今回もその一つ。
「海が涼しそう……全部倒したら、入ってみる? ヴァーユ」
 海風に乗って漆黒の翼を広げる鷲獅鳥のヴァーユ。その背から海を見下ろし、フィン・ファルスト(ib0979)は思わずそう漏らす。
 陸から離れるほどに、海の青、波飛沫の白、陽の輝きが際立つ。空から照り付けてくる暑い太陽も、高度を取れば幾分和らぐ。けれど、光線は肌にきつく当たり、飛び込めるなら飛び込みたい。そんな誘惑に駆られる。
 話しかけられたヴァーユはといえば、特に返事もせず。そんな主を少し見ただけでまたすぐに前に飛ぶ事を優先する。今は仕事が先決だと言わんばかりに。
「猫族のお祭りってどんなお祭り……なのかな。でもその前に、漁師さんたちがとても困ってるみたいだから、討伐しないと」
 炎龍・ヒムカと共に柚乃(ia0638)は空を行く。
 猫族の月敬いの祭りこと『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』。地域で差異はあるが、概ね秋刀魚を祈りの言葉と共に月にお供えして、組んだ木を燃やして囲んで踊る、というもの。猫の住処では、朱春近郊の三つの山で送り火を焚く『三山送り火』が有名で、図案は毎年変わり、三つの山それぞれで毎年競いあってるのだとか。
 どこでも秋刀魚は欠かせない。秋刀魚を守る事が、祭りを守ることにも繋がるのだ。
「海だー、お魚だー……なんて、はしゃいでる場合じゃないか。大変な事になってるなぁ」
 奈々生(ib9660)も炎龍と共に急ぎながら、表情は浮かない。同じ獣人種族。奈々生は白兎の耳を風になびかせているものの、気持ちは分かる。
「魚の癖に、魚食い荒らすなんてふてぇアヤカシだぜ! 俺らで退治してやんねぇとな」
 船で走龍フロドと進みながら、ルオウ(ia2445)は拳を固める。
 他の魚を捕食する魚もいる。だが、生態系を食い荒らすほど貪欲な魚などケモノでもいやしない。そんな事をしては自分たちが将来生きていけなくなる。
 おかまいなしに食い荒らすのはアヤカシぐらい。その欲は留まる事を知らない。
 祭りの為にも、何より生きる人の為にも、アヤカシはのさばらせておいてはいけない。
「出るのは魚だけじゃない。さて、どちらが先に現れるか……」
 琥龍 蒼羅(ib0214)は駿龍・陽淵で現場に赴く。
 船から異変の声も無く。開拓者たちは順調に進んでいたが、やはり空の方が隠れる場所が無い。
「来たわね」
 彼方から飛んでくる影を見つけて、フィンが告げる。同時に、ヴァーユが機敏に体勢をそちらへと向ける。
 鳥に似た生き物が開拓者たちに迫りつつあった。しかし、それはよくいる鳥とは形が異なる。寧ろ胴体は人間の女に似ていた。
 人面鳥。その数五羽。どこに隠れ住んでいるのかは知らないが、この界隈にいると獲物――つまりは人間たち目掛けて飛んでくるそうだ。なので、なおさら漁師たちはお手上げ状態。
 けれど、開拓者はむざと手をこまねいてはいない。
「人面鳥に向かう。海は任せた」
「ああ。任せておけ!」
 蒼羅が言うが早いか、陽淵とヴァーユが人面鳥と退治すべく軌道を変える。主と共に。
「さてと。こちらもそろそろか」
 船から魚の死骸を投げ捨てるルオウ。それは撒き餌であるが、瞬く間に船の周囲にも魚影が集まって来ていた。


「回避は任せるぞ、陽淵」
 藍色の身体で風斬る駿龍。高速飛行で迫るその速さに振り落とされぬよう、慎重に蒼羅は斬竜刀「天墜」を構える。
「ヴァーユも回避専念。後ろの注意は任せなさい」
 獲物を前にすでに臨戦態勢に入ってる鷲獅鳥。不測の動きに振り落とされぬよう、フィンは鎖分銅で相棒と自分とを繋ぐ。
 人面鳥は低空を好む。海に近く、翼を風に乗せて近付いてくる。
 それよりもさらに早く。彼らは人面鳥へと向きあっていた。
 自分たちを目指してやってくる獲物に、若干人面鳥は慌てたようだが、それも束の間、すぐに間を置き、遠距離から攻撃を仕掛けようとする。
 人面鳥が歌う。他の者には聞こえぬ呪いの声は、直接陽淵の頭に響き、苦しめる。
「追いつけ。そうすれば、必ずしとめる」
 表情から察した蒼羅だが、さすがに代わってもやれない。
 遠距離からは陽淵もビーストクロスボウで攻撃できるが、一度撃てば再装填に時間がかかる。あまり乱発も出来ない。
 苦しげにしていた陽淵だが、人面鳥の一羽に狙いを定めると、大きな翼に力を込めてたちまちの内に追いつく。
 陽淵自身は移動に専念。だが、すれ違い様、これこそ代わりに蒼羅が刀を鞘走らせる。
 一瞬の抜刀。その刃は人面鳥を軽々と両断。二つに割れた相手は飛ぶ術もなくして海へと落ちる。
「向こうには行かさないんだから!」
 オーラで輝く魔槍「ゲイ・ジャルグ」を振り回すフィンはさながら鬼神の如く。狙うは頭か翼。なるべく一撃でしとめにかかると、力を込める。
 オウガバトルを使用した彼女の一撃で、また一つ、人面鳥が波間に落ちて消える。
 瞬く間に二体が殺られ、手強さを知った残る人面鳥は慎重に距離を置く。その動きを読み、的確に駿龍と鷲獅鳥は回り込む。 
 人面鳥に焦りが見える。近寄られれば死あるのみ。だが、逃げる事も難しい。
 けれども、開拓者自身は移動できないとふんだか、人面鳥は積極的に相棒たちに向けて攻撃を仕掛ける。
 人面鳥の一体に回り込んでいた陽淵が突然激しく身体を逸らせた。振り落とされそうになり、蒼羅はとっさに手綱を掴むも姿勢は崩れる。そこに人面鳥が爪を立ててくる。陽淵は避けようともせず、その背で何とか蒼羅は凶器を躱す。
 明らかに様子がおかしい。人面鳥の魅了にやられたようだ。
「ほら、ヴァーユ! いつもみたいにしっかり!」
 フィンがヴァーユを叩くも、相手は人面鳥に近付く気配なし。むしろフィンに怒りの矛先を向けようとすらする。
「ダメかー。しょうがない、柚乃さん、やっちゃって」
 相棒たちに振り回され、フィンは柚乃に呼びかける。
「分かっています。……ヒムカは振り落とさないでね」
 柚乃がそっと炎龍に語りかける。
 一応下に水着を着ているとはいえ、意味無く濡れるのは面白くないし、落ちるのも落ちて貪魚に咬まれるのも勘弁して欲しい。
 大量の魚アヤカシを相手にするなら、別の相棒の方が良かったかとちらりと考えていた柚乃。
 そんな事は無い、と話せたなら言い出しそうな気迫で、炎龍は空中の開拓者たちに近寄る。間合いに入ると、柚乃は解術の法でただちに状態異常を解く。
 正気に戻った陽淵は、身を正して主人の動きを補佐する。さらに速く、特徴的なその翼が一枚の大きな翼のように広がって見えた。
 その背で蒼羅は素早く姿勢を戻すと、燕のような見事な飛速と安定さで人面鳥に迫る陽淵と呼吸を慌て、再び抜刀。
 落ち着いて対処すれば力量の差は歴然。けして恐ろしいアヤカシでは無い。
「天墜の名は……、伊達ではない」
 告げる蒼羅の背後で、二分割されたアヤカシがまた落ちていく。


「ノンケだからって油断してちゃまずいって事かぁ」
 空の戦いを見て、奈々生は軽く肩を竦めた。
 航行中に、朋友が魅了されれば面倒な事になる。そもそも術であれば、男女の差はあまり関係ない。
 他の開拓者らは鍛錬を積んでおり、人面鳥程度どうとないかもしれない。が、まだまだこれからの奈々生は油断すれば操られるかもしれない。
 幸い、空の敵はフィンたちに阻まれてこちらには来れない。頭上は気にせずに、海へと集中できそうだ。
 漁師から貰った餌を撒き散らす。ほとんど待たずに、海を埋めるかのように大量の魚が集まってきた。
 いや、外見こそ魚と同じだが、それもアヤカシ。鋭い牙は人間を求めて蠢いている。
「よし、フロド。引き上げろ!!」
 ルオウの合図で、フロドは船を駆ける。走龍の速さであっという間に船の端まで着く。尻尾に撒きつけていた縄が同じ速さで引っ張られる。
 波間から顔を出す貪魚。
 漁師たちが姿を見せなくなってどのくらいか。その間の食を埋めるかのようにまさしく貪欲に。勢いをつけて、船上にいるルオウたちすら餌食にせんと、飛び上がろうとすらする。
「船をやられたらヤバイな。どうせ泳ぐなら岸近くの方がいい」
 着いてくる速度を保ちながら、船を岸へと戻し出すルオウ。落ちても水中呼吸器があれば、息は持つ。しかし、水中は向こうの方が分がある。数も多いとなれば囲まれては痛いだけ。
 上がってこようとする貪魚に向けて、フロドは器用にコンバットクロスボウで攻撃する。本当に弱いアヤカシだ。ただの一矢で瘴気に還る。
 ただ数は多い。まずは減らす事が先決か。
「網は千切らないなら使えそうだけど。船に水揚げしたら、ルオウが危ない?」
「いいさ。船が壊れる前にやってしまえ」
 ルオウが明るく告げる。
 ごりごりと船の周囲から嫌な音が響いている。強靭な顎で、船をバラバラにして獲物を落とすつもりらしい。飛び上がって喰らいついてこようとする者もいれば、船に体当りしてくる者もいる。統率は全く取れていない。
 炎龍の高度を落とすと、奈々生は海に網を投げ込む。龍の力も借りて引き揚げると、手応えは思いの他少ない。やはり弱くともアヤカシ。縄ぐらいは噛み千切るか。
 ぼろぼろと大きくなった穴から抜け落ちる貪魚。それでも幾つかは船に上げられ、跳ね回りながらルオウやフロドに噛み付こうとする。
 しかし、水中では早い魚も陸に上がればどれ程のものか。その動きに注意しつつ、ルオウは殲刀「秋水清光」で斬り刻み、フロドも龍尾で遠心力をつけた攻撃をお見舞いする。
 アヤカシを斬る刀ではないとまで言われる外道の刀は瞬く間に船の上の魚を瘴気に還していった。人を斬るほど心穏やかになるというが、ではアヤカシを斬るほどに如何な心地になるのか。……手応えが無さ過ぎて分からないか。
 一回二回で網は襤褸で使い物にならなくなる。どれだけ引き上げられたか。まだまだ魚は泳ぎまわっている。
 役に立たない網を捨てると、奈々生は炎龍を水面近くまで降下させる。見習いの刀で、海面に顔を出していた貪魚を斬り始めた。
 油断すれば、水面から飛び上がって噛み付かれかねないのはどこも同じ。炎龍も咬まれないよう、適度な速さと高度は保っている。
 その頭上から白い光弾が飛んだ。白霊弾だ。見ると、柚乃とヒムカが高空より舞い戻っていた。
 最後の人面鳥も落ち、フィルや蒼羅も魚狩りに加わる。
「やっぱり効率悪いかな」
 炎龍の首を撫でながら、柚乃は懐を気にする。けれど、その心配を払拭するように、炎龍は自分も負けじと火炎を吐いて貪魚を焼き上げていく。
 蒼羅も陽淵に騎乗したまま、刀で届く範囲の敵を捌く。
「完全に沈没するとフロドが大変か。ここらだな」
 走龍は多少泳げるが、泳ぎながらの戦闘はまた大変だろう。船があるならその方がいい。
 ルオウは水中呼吸機を付けると、水中にあっけなく飛び込む。そして、咆哮。もっとも上げるまでも無く、落ちてきた獲物に、我先にと貪魚は群がってきた。
 四方八方から押し寄せてきた敵に対して、素早くルオウは刀を大きく振り回す。回転切りを二連続。瞬く間に出来た小さな危険な渦。
 その刃を逃れた貪魚が、ルオウに噛み付こうとするのを見つけ、柚乃が慌てて白霊弾で始末する。
「よぉし、私も!」
 刀を手に、奈々生も海に飛び込む。相棒含めて支援は十分。ただ囲まれるとまずいので、敵の少なくなった場所の残党狩りに勤しむ。
「あらら。巻き込まないように気をつけないとね」
 敵に混じって暴れる味方に、フィンは海面の貪魚に天狗礫で応戦。巻き込む危険が無くなればすかさず槍を大きく振り回し、一気に貪魚を仕留めていく。


 手間はかかったが、所詮は下級のアヤカシたち。熟練の開拓者が多ければ、怖くもない。
 ルオウが咆哮を上げる。寄るアヤカシがいなくなったのを確認してから、現場を後にする。
 討伐完了を知らせると、漁師たちはほっとした表情を見せる。これで漁に出られる、祭りの秋刀魚もどうにか間に合うだろうと。
「無事に依頼終了したし、お魚皆で食べたいなー」
「糠秋刀魚ならありますけど」
 奈々生に、柚乃がもらいものの糠秋刀魚を取り出す。
「あいにく漁に出ておりませんで、新鮮な魚はございませんが、糠秋刀魚でよろしければ用意しましょう。折角なのでお土産にもどうぞ」
 村の女性たちが、幾ばくかの魚を用意してくる。
 折角なので、素直に受け取る開拓者たちだが、
「秋刀魚もいいけどね。その前に」
 げんなりと肩を落としたフィンが、蒼い海に飛び込む。
 ずっと空でもう限界。泰の夏は、ジルベリア生まれには堪えるようだ。
 続けて鷲獅鳥も一緒に飛び込み、水飛沫を上げる。泳ぐのは苦手でも水浴び程度なら問題ない。
 そのまま海に浸かっていると、小さな魚が集まってくる。空には海鳥が軽やかに舞う。
 人を襲う危険な動きはその中にはもう無い。