走龍を捕まえて
マスター名:からた狐
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/24 21:38



■オープニング本文

 灼熱のアル=カマルで激闘が繰り広げられている昨今。
 天儀のとある牧場でも、異変が起きていた。

「もふらさまが変身したー!」
「んな訳あるかー!!」
 開拓者ギルドに飛び込んできたミツコがいきなり叫んだので、係員も負けじと叫び返す。
「あったんだよぉー。さっき牧場を見てみたら、いつものもふらさまじゃなくて何だかすらっとした足の長い凶暴そうな姿に!!」
「へーへー」
 一生懸命ミツコが説明するが、係員はどうせウソか勘違いと即座に踏んだ。
 その通り、後から入ってきたハツコが呆れた声を上げる。
「ミーツコー。もふらさまは数日前から全員御仕事でおでかけしてるってばー。今いないのが当然でしょ」
「あ。そか」
「やっぱりなぁ」
 指摘されて思い出すミツコ。納得したと係員も頷いていたのだが。
「待てよ。もふらがいないのは分かったが、その足の長い凶暴そうな奴って何だ?」
 もふら牧場にそんな危険そうなのを置いておくものか。
 幻覚ならまだいい。もしかするとアヤカシだろうか。このおとぼけ女子どもはやや危機感に欠けるところがある。もしそうなら、笑って見過ごしてる場合じゃない。
 だが、それにもあっさりとハツコが答えた。
「ああ、走龍よ。あんた慌てて出て行ったから、よく見てなかったでしょ」
 天儀では分布に偏りがあり、場所によっては珍しかったりそうでも無かったりする龍。
 神楽の都では、相棒として連れ歩く開拓者もいるので、それなりに目にする機会はある。
「そういえばそれっぽかったなー。でも、なんでそんなのがいるんだよー」
「それをあんたが聞く?」
 口を尖らせるミツコに、ハツコが目を細める。
 とはいえ、二人とも心当たりは無い様子。
「とすると、もしやこいつらか?」
 ギルドの係員が、依頼書の中から一枚取り出す。
「龍舎から調教前の走龍八体が逃げ出して行方知れずになったそうだ。探して連れ戻して欲しいという話が来ているんだが」
「そういや八体いたわ」
 読み上げる係員に、ハツコがぽんと手を打つ。
「牧場の柵なんて、もふらさま用だからせいぜい人の高さぐらいしかないもん。走龍なら越えられるっしょ。水辺はあるし、木陰あるし、走り回る広さはあるし、もふらさま用の果樹作ってるから小動物来るし、餌には困らなさそうだしって居心地もいいだろうね」
 ミツコも手を打ち、得心行ったと喜んだが。
「あ、でもこのまま居付くと困っちゃう。留守中に知らないよその子入れるだなんて、もふらさま帰ってきたら浮気したと泣いちゃうかもー」
「そういう話なのか? ……まぁ、そうかもしれないが」
 疲れて帰ってきたなつかしの我が家。そこに我が物顔に居座っている訳の分からぬよそ者の姿を見た時、一体何を思うのか。
 何故か妙に気持ちが分かると言わんばかりに、係員も同意している。
「まぁ、こうして依頼も来ている事だし。見つかったのなら好都合だ。開拓者たちを寄越してすぐに捕まえてもらおう」
「何だかよくわかんないけどよろしくねー。出来る事があれば、なるべく協力するよ」
 もふらさまが帰ってくる前に、邪魔者は出て行ってもらわねばならない。
 現場の協力をこぎつけると、係員は開拓者らに依頼を出す。
 もふら牧場をうろついている走龍八体を捕まえて欲しい。
 ただし、龍舎に引き渡すので傷つけない事。乱暴な真似をして後に技や薬などで癒すというのも、警戒心を強くして後の調教に支障が出かねないので不可。あくまで穏便に捕まえて欲しいそうだ。
 やや面倒な依頼なので、相棒と共に頑張ってもらいたい。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
喪越(ia1670
33歳・男・陰
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
からす(ia6525
13歳・女・弓
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
キルクル ジンジャー(ib9044
10歳・男・騎
エルシア・エルミナール(ib9187
26歳・女・騎


■リプレイ本文

 もふら牧場に現れた生物。
 不在のもふらに代わって我が物顔で作ろうそいつらは走龍。天儀では地域によってはいたりいなかったりする龍になる。
「右良し、左良し……。牧場といや恐ろしきやつらの巣窟だが、今そこには姿在らず。よし問題ない」
「もふら様、見たい……。え、いないの?」
 肝心のもふらは現在仕事でお出かけ中。本当にあの姿が見えないと確認してからくりの菊浬(ククリ)は項垂れているが、緋那岐(ib5664)はほっと胸を撫で下ろす。
 そんな緋那岐の肩をぽふぽふと誰かが叩く。
 「ん?」と振り返ってみると、そこにはもふらの顔が!
「ぎゃあ!!」
「ふふふ。勝ったー!」
 思わぬ接近に悲鳴を上げる緋那岐と、主の危機に身構えるからくりの。その前で、ミツコはまるごともふらを脱ぐとドヤ顔を作っていた。
「とまぁ、こういうトラウマを作らないようにあの走龍を安全に捕まえってって事でお願い」
「人を変な説明に巻き込まないでくれ」
 淡々と告げるハツコに、ぐったりとしながらも緋那岐は抗議を入れる。しかし、聞き入れてもらったようには見えない。
「傷つけるのは身体的にも精神的にも駄目。ここってこういう依頼が多いと思う」
「だって、形振り構わずでいいなら誰だって対処出来るもの。開拓者に頼まず、自分らでやるって」
 鈴木 透子(ia5664)の感想に、ハツコがからからと笑う。確かにその通りだが、困った時の便利屋扱いなのは否めない。
「トラウマを与えるなね……。何してもトラウマになりそーだし、術は慎重に使いますか」
 面倒そうに顔をしかめる鴇ノ宮 風葉(ia0799)に、頭の上で羽妖精の鴇ノ宮・瑞も頷いている。 
「霊騎とは正反対の、気性の荒そうな龍でございますね。少なくとも、武器は預けてから向かった方が良さそうでありまする」
 エルシア・エルミナール(ib9187)は霊騎・フェルミオンをなでる。
 同じ走る事を得意とする相棒でも、性質はまるで違う。走龍は制御できるかが一人前の条件とみなす場所があるほど、乗りこなすのも簡単では無い。
 ただその獰猛さも魅力の一つ。下手に追い回して、心を挫いて戦場で逃げ回るような性質にでもなれば、使い物にならない。慎重にいって欲しいのも分かる。
「まぁ、もふら様の牧場に入り込んでいるのは、精霊に携わる身としてはあまり放っておく訳にもいかないからね。走龍も折角居場所が分かったのだから、これ以上どこかに行く前にここで終わらせたいところだわ」
 元々別の龍舎から逃げてきた龍。依頼元はそちらになるが、この際そういう細かい事はいい。熾弦(ib7860)の意見もっともだ。


 走龍は広い牧場で思い思いに寛いでいる。開拓者たちの到来に気付き、遠方から警戒した眼差しを向けてきている。
「ど〜も〜。フーテンのもっさんこと、モツゴロウです〜」
「からくりの綾音です。モツ煮込みみたいな名前ですね。あれはいつか食してみたい物の一つです」
 独特の動きで、ポーズを決める喪越(ia1670)の隣で、メイド姿の綾音が淡々と頭を下げる。
「さておき。今回は、あの獰猛な事で有名な走龍とのスキンシップにチャレンジなさるとか」
「はい〜。彼等の獰猛さは、警戒心の強さの裏返しなんですね。こちらに敵意が無い事を伝えれば、必ずお友達になれるんですよ〜」
「と言いつつ、人魂ですか。まったく信用してませんね」
 まだまだ調教途中なので野生気質も残っている。小鳥に変化した式で偵察して、走龍の様子を見る喪越。
 走龍は警戒したものの、小鳥と見てか知らん振り。中には美味しそうな目を向けている個体もいるが、そこは捕まらない程度の距離を保つ。
「さて、これからどうするのでしょう」
 実況の綾音が見守る中で、おもむろに喪越は走龍との距離を詰めていく。真剣な顔つきだが、足取りは軽い。
 そして、警戒されるギリギリの距離を見極めると、いきなりその場で寝転がった!
「アハハハハ〜☆ ほら、怖くないよ、大丈夫だよー」
 横になり昼寝を始めたかと思うと、今度は満面の笑みで蝶と戯れだす!
 大丈夫なのかと見守る開拓者が心配する中、やっぱり走龍も嫌そうに退いていく。
 やはりダメか。そう思われたその時、勇気ある走龍が一頭、そろそろと近寄り始めた。
 寝転んだまま、喪越は果実を差し出す。興味深そうに走龍はその果実に顔を寄せたが……。
「あ、モツゴロウさん食われてる」
「おお、他のも寄って来た」
「さすが主。戯れ成功です」
 危険は無いと判断してか。我も我もとモツゴロウさんに群がる走龍。まだまだ野性の残る相手は、割と何でも食べてしまうようで。
 隙を見極め、緋那岐が結界呪符「黒」が立てる。突然出現した壁に驚いている隙に、とりあえずモツゴロウは逃げ出した。

「ふふふ、これで走龍の警戒も解けたはず。後は任せた……。チェキラー」
「モツゴロウさん、ありがとうございました」
 噛み痕をつけた喪越が地に伏すと、綾音が棒読みで会話を切り、木陰に移す。見た目以上に元気にしているので、まぁ無事だろう。
「鳥さん……。いいなぁ」
「あれは上級者向けの戯れ方だから菊浬は真似しないように」
 乗りたそうに走龍を見ていた菊浬が、喪越にも羨望の眼差しを向けるのを感じて、緋那岐が止める。同じ手段で近寄られても困る。
「とりあえずは餌付けか。……しかし、いい案思いつかねぇ。俺は見守っている」
 餌を幾つか用意しながらも、暴れた時用に少し離れたところで緋那岐が待機する。
「戯れ……じゃなくて捕獲なのですねー。仲良くなるよう頑張るですー。トマホーク、手伝ってですー」
 キルクル ジンジャー(ib9044)が告げると、相棒の走龍が軽やかに鳴いて答える。のはいいが、とりだしたワッフルを目にするやそれを寄越せと追いかけ出す。
「違うですー。これはあちらの方々に渡すですー」
 けれど、走龍に追い回されるキルクルを見て、他の走龍も集まってきた。
 トマホークはそんな走龍たちを睨みつける。親交を深めているのか、餌の奪い合いをしているのか。
 体格のいい一体が進み出ると、トマホークと目を合わせる。そのままガンを飛ばしあう二体。
 互いに位置も変え、体勢も変えながら、じわじわと間合いを図り……。
 さっ、とトマホークは目を逸らした。どうやら負けたらしい。そして、一目散に逃げ出した。
「って、痛い、痛いですー」
 悔しさのあまり、トマホークはキルクルをげしげし蹴っている。その一人と一体のそばに走龍たちは寄ってくる。
 囲んでくる走龍たちを、恨めしそうな目でトマホークは見渡していたが、
「キュイ!」
 いきなりキルクルを嘴で摘むと、走龍たちへと差し出す。どうやら手土産代わりのようだ。
「はい、ワッフル食べるですかー? って手は食べちゃダメですー!!」
 土産にされたと気付いて無いのか。笑顔でキルクルはワッフルを差し出す。
 何だこれ? と不審そうにワッフルを見ていた走龍だが、どうやら食べ物だと分かるとおもむろにキルクルごと食べ出す。
 またしても緋那岐が助けを出す一方。トマホークはといえば、手土産を差し出して満足したか、皆から離れた場所でうとうとし出していた。
「吉備団子で仲間にするのも難しそうだな。兎羽梟は説得も出来ない……か……」
 からす(ia6525)が冷えたお茶と吉備団子を差し出すが、やはり威嚇される。予想出来たので追い回される前に距離を置いたものの、気付けば相棒の兎羽梟が彼らと睨み合っている。走龍がからすに攻撃する気と見てか、兎羽梟も少々憤慨ぎみ。
 一旦戻れ、とからすが指示すると、すぐに走龍たちを振り切り、穏やかな顔立ちでぴょんぴょんと跳ねるように戻ってきた。
 その走龍たちはといえば、邪魔者を追い払ってそれで満足したか。増えた御飯を堪能している。
 何だかんだで、最初より開拓者たちとの距離は縮まっているが……。
「人に慣れて来ているというか、なめてきてる感じですね」
「時間をかけたら十分回収可能そうだけどな。……もふらはいつ帰ってくるんだ?」
 見ていた透子が首を傾げる。緋那岐の問いにミツコは首を傾げる。
「どうだろー? 早く帰りたければとっとと動くけど、のんびりしたいなら呼ぶまで帰ってこないかもー」
 そこらはもふらの気分次第。
「見たい……」
「いいや、その前に帰る。とするとこちらはあまりのんびりしてられないか」
 菊浬のお願い視線に、慌てて緋那岐は首を振る。
「暢気な話になりますが、雨が降るのは待っては駄目でしょうか。雨宿りできそうな檻を仕掛ければ自分から入って行ってくれるのでは」
「うーん。夕立が来るかどうかだね。来てくれたら、確かに楽そう」
 走龍を見て、空を見上げる透子に、ミツコも並んで見上げている。
 青い空に白い雲。日差し強し。雨が降る気配は今のところ無い。
「危険の無い依頼だと思いましたが……確かに一般人が対処するのは大変ですねぇ」
 透子はてるてる坊主を逆さに吊り下げる。それで雨を呼んでくれるかは天の機嫌次第か。
「でも、餌付けで一応軟化もしてきてるのは確かだわ。逃げてきたせいかしら、どうも他者に過敏になってるみたいね。風花、試しに透明化で近付いてもらえる?」
 熾弦の頼みに、羽妖精の風花は無言のままこくりと頷く。
 走龍たちに向けて飛んでいた風花の姿がじわりと消える。目を凝らせば、景色が歪んでいる場所があると分かるが、それも距離を開くに連れて分かりにくくなる。
 近付けば気配がするのか、走龍たちは妙に緊張した面持ちで周囲を見渡す。警戒が過ぎて暴れ出す前に、風花は魅惑の唇で大人しくさせる。
 熾弦もローレライの髪飾りで心の戦慄を歌い上げる。特に効果は無い技だが、雰囲気作りには役に立つ。小鳥の囀りも歌うが、こちらはどうも寄って来た小鳥を走龍が狙おうとするので可哀想。
 まだ鍛えていない走龍では、羽妖精の魅了には抗し難く、風花のそれと無い指示にも従っている様子。
「あれで全部捕まえられるんじゃないの?」
 と皆が期待する中で、ふらりと風花が熾弦の元に帰ってくる。
「どうしたの?」
「……練力、足りないの」
 尋ねる熾弦に、ぽそりと羽妖精は答えた。


 とりあえず魅了で一頭は確保し繋いだが、他の走龍は元気に牧場を駆け巡ったまま。
 ただ、開拓者はもはや警戒する必要無しと見たか。始めに比べるとずいぶんとのんびりのびのびしている。かといって、こちらの言う事を聞いてくれる訳でもなく、行動は実に気まま。
「完全に慣れるのを待っては時間がかかり過ぎるか。多少強引にやるしかない」
 からすが兎羽梟に跨ると、一頭に近寄る。鋭く睨みをつけてきた走龍だが、逃げる気配は無い。ただ警戒だけは怠らないようで、じっとこちらを見つめている。
 気の荒い走龍は、必要以上に兎羽梟が接近するとただちに威嚇する体勢に入った。
「あにかなー。こんなにあったかいし、昼寝の方が楽しいと思うけどなー」
「寝に来たんじゃないの。他のが来ないか警戒しておいて」
 エルシアの霊騎・フェルミオンに乗っかり走龍のそばまで来た風葉。その風葉の頭に乗っかり羽妖精・鴇ノ宮・瑞はきょろきょろと周囲に目を向けている。
 集団で来られては面倒で、なるべく逸れているモノから手を付ける。
 フェルミオンで逃げられない位置に回りこむと、そこでエルシアの方が降りて走龍に近付いていく。
 食べ物を持って近付くと、いい加減慣れた調子で、けれどそこはかとなく警戒しながら走龍が近付いてくる。
 案外このまま釣られてくれるかと考えた瞬間、走龍が鋭い牙を見せて襲い掛かってきた。
 エルシアはガードを掲げてそれを防ぐ。
「グルルル」
 防ぐエルシアを、時折威嚇しながら走龍は隙を探すように噛み付いて来る。さっさとどこかに行かない、けれど攻撃もして来ないエルシアが不満なようだ。
 その間に、風葉は走龍の死角から近付く。
 十分な距離を近付くと、そこからアムルリープを仕掛ける。魅了と同じく抗しきれるはずなく相手は眠りに落ちた。
「ふぅ。まずは一つ成功でございまするか。爪は袋を被せておきましょう。縄は……止めておいた方が良さそうですか」
 鋭い足に袋を被せて、エルシアは他の走龍を見遣る。
 そちらではからすと兎羽梟が奮闘中。
「兎羽梟、並んで!」
「キュウ!」
 噛み付きにかかる走龍を巧みに躱しながら、兎羽梟はなるべく走龍のそばによる。
 からすは走龍に手綱「赤い糸」をかけて宥めようとする。とはいえ、暴れる相手に手綱をかけるのも難しい。
 そうこうする内に、兎羽梟に蹴りを食らわせると走龍の方が面倒はゴメンだとばかりにその場を離れようとする。
「遮那王、逃げる前に止めて」
 透子の指示に、遮那王が走龍の前に回りこむ。吠え立てる忍犬に、まだ気が立っている走龍はしきりと威嚇するが、忍犬を追い回してそれとなく誘導されてもいた。
 そうして追い込んだ先で、熾弦が夜の子守唄を歌い上げている。熾弦の周囲に一体、また一体と寝こける走龍が集まる。
「効果が切れたらまたどこか行きかねないのでは」
 戻った遮那王を褒めて撫でてやりながら、透子が眠る走龍を見つめている。
「依頼元の龍舎に連絡して、なるべく早く引き取りに来てもらいましょう。元はといえば逃がした向こうの責任だし。それぐらいの協力は願えるはず」
 目が覚まさないよう注意しながらも、熾弦は連絡を入れるようミツコたちに頼む。
「とりあえず、木に括りつけるぐらいはしておいた方がいいかな。切られちゃうかな。ともあれ、こっちも気持ちよく寝てる間に、次に行きますか!」
「了解いたしました。……フェルミオン、次はあちらの走龍を狙いましょう」
 エルシアが手綱を引くと、フェルミオンは簡単に動き出す。
「ま、待ってよぉ」
 弾みで、乗っていた風葉の頭からころりと瑞が落ちる。どうやらこちらも居眠りをしていた様子。地面につくまでに浮き上がると主たちの後を追う。
 遠くにいる走龍はそれだけ気も弱いという事なのか。霊騎の接近に逸早く気付くと逸早く距離を置こうと駆け出した。
「回り込んで下され!」
 高速走行で速さを増すと、フェルミオンは走龍の前に滑り込む。そのまま落ちるようにエルシアが降りると、さすがに走龍は逃げもせず興奮したように声を上げて鳴いた。


 走龍たちを誘き寄せて囲い込み、そして眠らせていく。
 たまに起き出した者は呪縛符や暗影符で封じた隙に大人しくさせ。ついでに食べ物を用意して、なるべくご機嫌を取るように努める。
 そうして、どうにか全ての走龍が大人しくさせられた頃、知らせを受けた龍舎からようやく頑丈な檻が届き、走龍たちが繋がれていく。
「機会があったらまた遊びに来るよ」
 からすが撫でようとした手を、走龍は口を広げて噛み付いてきたので、慌てて引っ込める。
「やっぱり危ないわよねぇ」
「もふらさまのが可愛いしー」
 もふら牧場の二人には不満なようだが、鍛えれば役に立つ相棒ではある。
「何を仰る。意地っ張りは、寂しさの裏返し。繊細なハートを分かってやれば恐れる事などないってね。ほら、よ〜しよしよし」
 独特の曲調に乗って体を揺らし、華麗な足さばきで走龍に近寄ると、喪越はその長い首をぎゅっと抱きしめ撫で上げる。
「食われてるよー」
「あーでも、諦めた」
「さすが主です。動物の心を見事掴みました」
 抱き付かれてあからさまに嫌そうに喪越に噛み付いた走龍だが。それも無駄と悟ったのか。やがてそっぽを向いて、知らん顔を始めた。
「こちらの不手際でご迷惑をおかけしました。申し訳ない」
 龍舎の職員が、丁重に頭を下げると、走龍たちは彼らに連れられて龍舎に戻っていく。
 いずれまた会う機会もあるだろうか。その時にはもう少し慣れているといいなと、開拓者たちは行く末を見送った。