|
■オープニング本文 ●金 陰殻国、伊宗の里―― 「中々どうして、開拓者共も頑張るではないか」 見たところ、年の瀬は十歳前後、といったところだろうか。その少女は紫煙を漂わせ、喉を鳴らした。煙草の葉は、大きく二、三も吸えば燃え尽きる。くるりと煙管を廻し、甲高い音と共に灰を落とした。 当初、彼等陰殻の里長達は、緑茂の里は落ちると睨んでいた。 開拓者は足並を揃えられずに討ち取られるのがオチだ、と見積もっていたのだ。だが、予想に反し、開拓者は想像以上に戦えている。 「――して、何用じゃ。用無く立ち入ったのであれば、首を刎ねるぞ」 新たに煙草を詰める傍ら、言葉を投げ掛ける。 「理穴国より言伝」 天井裏より響く声。 同時に、少女の背後――ただし、かなり離れた位置に、一人のシノビが降り立った。 「文を」 言うや否や、彼の姿は消え、後には一枚の文が残される。 少女は立ち上がり、歩み寄ってそれを手にした。何の術かは解らぬが、煙管からは突然に紫煙が立ち上る。 「‥‥ふふ、そうよ。何事でも先立つものがなくてはの」 そこには、理穴よりの援軍要請が記されていた。 ただし、援軍の要請などは今までにも届けられているし、これまでも、一部の里が独自に兵を、少数ではあるが出してはいる。 しかしながら。今回の援軍要請には、今までのものと違う点があった。ではその違いが何かと問われれば――「金」だ。要するに、それ相応の金子を用立てる故、有償で援軍を出して貰いたい、という事である。 だが―― 「安いな」 文を懐にしまいながら、呟く。 (これでは、北條辺りは動いても、名張辺りは渋るであろうが、さて‥‥) 再び煙管を叩き、少女は、慕容王はその姿を消した。 ●虚実 暗い部屋の中、車座でいくつかの人影が話し合っている。 「で、金子の方は?」 「既に出立の支度をかためているとの事」 「ほほう、さすが即金というだけの事はある」 「奴らのほうは如何に?」 「蜂の巣の慌しさよ」 「我らに向かう金子を懐に収めつつ知らぬ顔でも決め込むのではあるまいか?」 「くく、安い安いとごねながら、その安い金に随分とご執心よの」 「笑い事ではあるまい。下手を打てばこちらも受け取り手の損失で大損害を被るやもしれぬ」 「奴らの目をくらます囮が必要か」 「さりとて、安易な囮は奴らに読まれるじゃろうて」 「それが狙いよ。囮には銭を積ませる」 「‥‥銭文字か」 「左様。囮の体をした大物よ」 「それなら、万が一の際も失うものは少なし。上策よの」 「然らば、そのように」 そして人影は皆煙のように消えた。 ●囮 開拓者が重い荷車を押して数日、やっと使者と合流予定の日。森の一本道を合流地点まで進んでいた開拓者だが、困った状況に陥っていた。 ここ暫くの晴天にも関わらず、道はぬかるんでいた。荷車がようやく通れる道を選んでいった所、どんどんと森の奥に入っていく破目となり、今や進退窮まるといった状況。 泥濘の中開拓者達が必死で荷車を押そうとしたその時、頭上より幾人かの声が響く。 「われらが泥蜘蛛の術中にはまった以上、如何にあがこうと先へは進めぬ」 「荷を捨てよ、さすれば追わぬ。足掻いて死にとうはあるまい」 「否、来た道を引き返すだけでも構わぬぞ。主らは囮と存じておる」 陰殻、北條側の提示した条件は奇妙なものであった。 「金子は全て銅銭にて、荷支度は例の如し」 妨害が予想される為金子の受け渡しは秘密裏に、という条件であったはずだが、用意された金子は大きな荷車に満載の銅銭と、いくら幌で覆ってあるとはいえとても秘密裏と呼べる代物ではなかった。 しかもそれを運ぶ開拓者達には、彼らの運ぶ金子が「囮」であると明らかにされていた。囮としてはあまりにも稚拙だ。 事実、妨害者と思しき上からの声も、開拓者が運ぶ荷が囮だと見抜いている。これが真実囮の任務なら、既に失敗だろう。 だが、退くわけにはいかない。ギルドで受けた依頼は「使者に積荷を届ける」事なのだから。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
美空(ia0225)
13歳・女・砂
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
ジンベエ(ia3656)
26歳・男・サ
流星 六三四(ia5521)
24歳・男・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●秘術「泥蜘蛛」 「くくくっ、おのれら俺の金を奪おうとはいい度胸や。貴様らなんぞにびた一文わたさへんで!!」 周囲を取り囲む忍達に天津疾也(ia0019)が鬼気迫る表情で怒鳴る。ちなみに当然だが運んでいる金は彼の物ではない。 忍達も白兵戦は避けてのことか、木々を利用して射撃戦を挑んでくる。 「ふふ、そうこうしている間にも泥蜘蛛がじわりと主等を捕らえていくぞ。早く諦めたらどうだ」 「お前たちのたわ言など知ったことではないであります。美空たちは美空たちの仕事をするだけなのです。さっさとあっちに行くでありますよ。おとといきやがれなのであります。しっしっ」 罠に嵌ってしまったことにお冠の美空(ia0225)が怒涛の勢いで啖呵を切る。尤も彼女の可愛らしい容姿ではどれ程の威嚇効果があるか定かではないが。 不利な防戦を強いられた開拓者達だが、荷車の陰では反撃に出る為の話し合いがもたれていた。 「ま、本当に天変地異の術ってこたぁあらへんわな」 「絶対、無いね。慕容王だってそこまでは無理じゃないかな。幻術の類って線も薄いと思うよ」 斉藤晃(ia3071)の言葉に、自身もシノビである流星 六三四(ia5521)が力強く頷く。 「あるとしたら大掛かりな仕掛じゃないかなぁ」 「何らかの手段で事前に水源などから水を誘引し、狙った地点を泥濘と化す術でござろうか」 「うん、僕も故郷の伝承で聞いたことがある。乾いた田園地帯へ敵軍を誘き寄せ、順に水を流し込み泥濘を作り、機動を削ぐって術を」 相馬 玄蕃助(ia0925)の予想と赤マント(ia3521)の記憶が全く同じ方法に行き着く。誰が言いだすでもなく、開拓者達は4人ずつに別れ、荷車の死守と水源探索に向かっていく。 ●水源と土中 水源探索の先行班は、妥当な水源である川へと向かう。 「注意して進んでくださいよ。敵の領域なんですから」 菊池 志郎(ia5584)が注意を促すも、六三四はどこ吹く風で木の上を渡っていく。 「跳んで、跳んで、跳んで〜♪」 「やっぱり地の利のある人は早いね‥‥悔しいなぁ」 神速に誇りを持つ赤マントはそんな六三四を羨望の眼差しで見る。地面はところどころに深い泥沼が出来ていて、慎重に進まなければ足を取られてしまいそうだ。 「ちょ、流星さん言ったそばから‥‥あ」 「わぷっ!?」 ぴょんぴょんと軽快に進む六三四を志郎がたしなめようとした瞬間、六三四の足元の枝が折れ、頭から泥に突っ込んだ。固い地面に落ちるよりは怪我は少ないので一長一短ではある。 「気をつけてくださいよ‥‥」 「だね。これ‥‥木の上も絶対安全ってわけじゃなさそうだし」 赤マントが持ってきた、六三四と一緒に落ちてきた枝には鋸による切込みが入っていた。 「そういやそんなやり方もあるって里で聞いたような‥‥」 「俺は知ってるから止めようとしたんですけど」 「早く言ってくれよ!」 しらっと言い放つ志郎と泥まみれの六三四の言い合いを仲裁するように玄蕃助が割って入る。 「はっはっは、まあまあ二人とも。ここは地道に進むが上策でござる。例えばこれ、開拓者名物七尺棒にござる!」 と、取り出した槍で地面を突きながら進む。石橋も落とし穴もこれで叩いて進むのが開拓者のお約束。 そして七尺一寸先や突いたり叩いたくらいでは判明しない強度で仕掛けられているのが罠のお約束でもある。 「うぁあ〜〜〜!」 「わあ、玄蕃助さん!?」 ほうほうの体で助け出される中、玄蕃助が小声で仲間たちに囁く。 「この道の先のほうに、気配がするでござるよ」 足が埋まりかけた瞬間、奇襲を警戒して咄嗟に心眼を使ったらしい。怪我の功名といったところか。 警戒しながらも駆け足で向かうと、手につるはしやシャベルを持った人影を捕捉する。 「き、貴様等!」 どうやら襲撃者の一味のようだ。 「よし、追いついたよ!」 赤マントは周囲の木の枝や落ち葉を足で引き寄せ、即席の足場がためをする。 「道が無いなら作るまで!行くよ!」 「ここでの小競り合いが理穴だけでなく陰穀の滅亡にも繋がるかもしれないですよ?そうならないためにも敵の皆さんにはここで引いてもらえると有難いです」 内部対立に思うところがあるのか、志郎は説教にも聞こえる勧告を行う。 二人の忍は数の不利を悟り、逃げの体勢を取る。が、当然ながら倍の数が居る開拓者もそう簡単に逃げ出す隙は与えない。 すると、忍は不思議な構えを取る。 「仕方あるまい、喰らえ、流水遁!」 そして土中にシャベルを突き立てる。すると‥‥ 「うおぉ!?」 土中から勢い良く水が噴き出し、開拓者に降りかかる。 「あっ‥‥く、逃げられましたね」 一瞬水に気を取られ、隙を作った自分をたしなめる志郎。一方六三四はこれ幸いと泥を流していた。 「やーっと顔が洗えるぜ!冷てっ!‥‥冷てぇ?」 顔を洗いながらあることに気付く。明らかに川の流水の温度だ。 「ね、さっきの忍が地面を突いた時‥‥」 「何やら竹を割ったような音が小さく聞こえたでござるな」 赤マントと玄蕃助はより本質的なことに気付く。 「じゃ、掘ってみようぜ!」 六三四の提案で一同は忍が突いた地面を掘り進んでみる。水で緩んだ土は柔らかく掘りやすい。そして‥‥ 「なーるほど、こいつが泥蜘蛛の正体か」 「案外普通でござったな」 六三四はよその氏族の術の正体を嬉しそうに手帳に書き記しているが、手品の種明かしを聞いた時のように玄蕃助はつまらなそうに言う。 「‥‥こんなのをあそこまで繋げてたんだ!?」 逆に赤マントは大いに驚いた。手間といい準備といい、素直に襲ったほうが早そうな気がする。 「まあ氏族ごとに得手不得手がありますし、使える環境に持ち込むところまでが術ですから」 何で敵の擁護をしているんだろうかと思いつつも忍術の用意の難しさを語る志郎。 「それより、これで水源を使ってることが確実になりましたし、川まで急ぎましょう!」 ●泥仕合 「どぉりゃあああ!‥‥やれやれ、悪いなジンベエ、手伝わせてもおて」 「一先ず、成すべき事を成さねばならんからな」 裾を泥で汚したジンベエ(ia3656)がクカカと笑う。 荷物班では忍たちの攻撃を疾也と美空が弓で牽制し、その隙に晃とジンベエが強力を活かして荷車を深みから引きずり出した所。 「疾也ぁ、周りはどないなっとるか?」 「飛び道具は止んどるけど、諦めんと方々から囲んどるな。どないする?」 状況自体は特別好転したわけではない。さてどうしようといったところだ。 「先行した四人が戻るまでは無理をすることもあるまい。ゆるゆると動く手筈でも整えようかね」 ジンベエは周囲の忍を気にする風も無く、敷板やその土台になる岩石などを探して回る。晃も斧で木を削りながら、忍を挑発し、疾也もそれに乗る。 「おらぁ!指くわえてみてるだけやったらわしらの脱出の手伝いか邪魔でもしに来ぃやへたれどもがぁ!」 「まぁ本気でこの数に掛かられたらやばいんやけどな」 しかし忍は動かない。代わりにこんな事を言ってくる。 「ふふふ、足掻こうと無駄無駄。泥蜘蛛は生半可では抜け出せぬ。叫びに隠した貴様等の不安が手に取るようにわかるぞ」 「‥‥何か、無駄にむかつくやっちゃのう」 その頃美空はこの一種の戦闘停止状態の内に用足しと偽り周辺を歩いていた。 「あの荷車を奪おうとしてるって事は、必ずそれを通せる道があるはずなのです」 ただ見えない、もしくは見えない形にした何かがあるはず。地面を触って、丹念に調べ上げる。 やがて見つかったのは、予想していた乾いた道とは異なっていた。泥中にところどころ、金属の杭のようなものが埋まっている。しかも等間隔に。 「これは‥‥?‥‥あ!わかった!多分そういう事なのです。でもこれで通すとなると相当大きくて厚みが無いとだめなのです」 一人ごちる美空に疾也の声が聞こえる。 「小か大か知らへんけど済んだら早よ戻りぃ。奴さんら、また来るみたいやで!」 「そういう下品な言い方はするもんじゃないです!」 ぷりぷりと怒りながら慌てて仲間のところへ戻る。 「とはいえワシらが暇を持て余すのは変わらんのう」 手裏剣を打ち払いながら晃がぼやく。敵の二波目は相変わらずの射撃戦。近寄れば離れ、戻れば寄ってくる戦い方は正面決戦型の彼にはいらつくやり方だ。 逆に弓術に天分のある疾也は敵はおろか味方も引くような形相で乱射している。 「俺の銭は渡さへんでぇ!どうしても欲しいなら六文だけくれてやるさかい、三途の渡しで使って来ぃやあ!」 「ジンベエさんジンベエさん、ゴニョゴニョゴニョ‥‥」 美空の耳打ちにジンベエがふむ、と頷く。 「成る程、渡し板用の杭か。しかし間隔がそれだけあると、手持ちの小物では使えんな。連中にご退場頂く方が早いかも知れんね」 そしてまた唐突に攻撃がやむ。三度心眼を開いた疾也は真っ直ぐ近づいてくる気配を感じ取る。 「新手、いや多分これは先行してた皆やな」 ●正体見たり 「で、上手くいったんかいな」 「まあまあ、そう焦る事はないでござるよ」 「これを見てください」 と、志郎が取り出したのは一本の竹筒。節がくり抜かれ、両端に金具の留め口、そしてところどころに小さな穴が開いている。 「泥蜘蛛の糸、とでも言いましょうか」 「‥‥成る程。それを土中に仕込んでおったか」 「いっやぁ、あそこまで大掛かりとは思わなかったぜ!」 先行班が川縁を掘ると次々と出てくる竹の水道管。そこから汲み上げた水で地中から徐々に泥化させていたらしい。原理は不明だが流し込む先を多少は操作できるようだ。 「結局、水源付近の管を片っ端から切断してきたという次第でござる」 「ほんっと大変だったよねー」 「どうせなら陰穀の水利の為とかにその技術を使ってくれればいいのに‥‥」 こっそりと話してはいたのだが、忍達には聞き取られていたのだろう。襲撃者の頭分らしい忍が木の上で哄笑する。 「ふはは、我らが里は既に上下水完備よ!これ程整った設備は遭都にもあるまいて!」 「この言い草は絶対、石積だ」 「石積でしょうね‥‥」 石積(いずみ)の里。忍としてより工兵集団として雇われる事が多い。戦場建築から屋敷の縄張りまで、土木建設技術には定評がある。 「なんや、ばれると割とあっけないな」 「忍術はばれないことが一番大事なんだぜ!」 いかな秘術であれ、原理がわかれば相手は対策が取れてしまう。それに未知であることが引き起こす恐怖こそ忍術の極意であるといえる。 秘密が露見すれば、泥蜘蛛の脅威は半減以下になったも同然である。 「さて、水の手を絶った以上泥蜘蛛も長くは持ちませんよ。素直に通してもらえませんか」 「愚かな!既に異変を察し、半数を修復に差し向けておるわ!我が里の技術を甘く見るな!」 自慢げに語る忍。語るに落ちたともいう。 「つまり‥‥そっちは今戦力半減ということやな」 「クカカカカ、待ちに待った時が来おったか」 「さて、俺達は退路を断ちますか」 「よし、競争しようぜ!」 志郎と六三四が勢い良く早駆する。逃げの一手を打つシノビに追いつけるものはシノビしかいない。 「僕も負けないよ‥‥わわっ」 「おっと」 二人を追って跳び上がろうとして滑りかけた赤マントを、晃が腕を支柱にして一回転着地させる。 「ごめんごめん、助かったよ」 「いやいや、何の(赤か‥‥)」 「(赤でござったな‥‥)」 晃と玄蕃助の視線の理由をなんとなく察した赤マントだが、むきになって怒りはしなかった‥‥二人の頭を踏み台にしただけで。 「うおっ!?」 「ぐへっ!?」 「二人とも、待て待てー!」 顔面に泥の足跡のついた二人に美空がボソリと 「天罰覿面なのです」 「よぉし、俺が足止めしてる間に上手く捕まえてくれよ!」 疾也が弓で牽制しながら言う。 「ふむ、やはり生け捕りかね。しからば例の如くいくとするか」 「了解なのです」 ジンベエ、晃、玄蕃助が忍の立つ木の根元に駆け寄る。 「きゅっと行くのです」 美空が手を捻るように動かすと、忍の足場で力が歪む。 「ぐおっ!」 「クカカ、観念せい」 「拙者たちとて無駄な命取りをする気はござらんからな」 「ちっ、回り込まれたか」 「おっしゃあ!俺達の方が一枚上手だぜ!」 早々に撤退を図った三人の忍たちも六三四と志郎に行く手を阻まれた。 二人の雷火手裏剣を受けながら、忍の一人が言う。 「こやつ等も決して上手ではないぞ!拙者が弾く内にお前らは駆け抜けい!」 「俺達二人だけならそれで正しい判断なんですけどね」 その言葉の意図に気付く前に忍の一人が吹き飛ぶ。 「はあっ!」 「赤マントちゃん、助かるぜぇ!」 蹴りを入れた赤マントはそのまま木の幹に足を掛ける。 「やっとここの走り方に慣れてきたよ」 「さ、これで三対二、しかも挟み撃ちですよ。どうします?」 選択権は無い、とばかりの笑顔で志郎は言った。 ●忍の渡と銭文字 「わ、わかった!我々は引き上げる!」 数人が捕虜に取られたのを見た忍頭はあっさりと降参する。しかし泥蜘蛛に散々手を焼かされた開拓者達がそれで満足するはずも無く‥‥ 「調子こいとらんと降りて来いやわれぇ!」 「はっはっは、降伏といえば土下座が作法でござろう」 「クカカ、いつまで耐えられるかのう」 怖いおじさん‥‥お兄様達がげしげしと木に蹴りを入れる。 「わ、わかった!道を用意する!するから蹴るのを止めろ、止め、止めてくれぇ!」 「案外あっさりしてるね。僕はてっきりシノビって殺すか死ぬかだと」 「正面決戦ではサムライや志士には敵いませんから。目的を果たすか果たさないかの方が大事ですし、無駄死には寧ろ罪ですね」 「俺ならあんな目にあったらちびるね」 忍頭が口笛を吹くと、手に手に工具を持った忍達がやってくる。程無く、一本の木製の渡し道が完成する。 「異常に早いのです」 「さすが本職、てとこやな」 そそくさと逃げる忍を見送りながら美空や疾也は感心する。忍としてやっていけなくなったら大工に転職できるだろう。 紆余曲折の末着いた合流点では数人の下忍を伴った使者が待っていた。 「ご苦労‥‥始めろ」 命令と同時に下忍は荷を解き、銭を確認している。 「む、真贋の確認でござるか?」 「鐚銭だろうが粘土細工だろうが構わん。我らが見るは銭文字よ」 銭文字‥‥結び目や一束の枚数などを印とした暗号文。北條では地図すら暗号化できるほど発達している。 「いいんですか?他の里のシノビや開拓者の前で開陳してしまって?」 「知ったところで解けねば意味はあるまい。それより主ら、湯治場に案内する故泥を落としていくが良い」 「ほんと!?いやっったぁー!!」 色々書いていた手帳を放り出して六三四が喜ぶ。 「風呂で一杯か、悪くねぇ」 「上がったらおはぎ休憩しようよ!」 「勿論無料やろうな?」 ぞろぞろと湯に向かう開拓者の中で、玄蕃助が使者にそっと耳打ちする。 「こ、混浴でござるか?」 さて、その返答は‥‥ |