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■オープニング本文 ●砂漠の戦士たち 神託は正しかったな―― 調度品の整えられた白い部屋の中、男は逞しい腕を組み、居並ぶ戦士たちを前に問いかける。男が多いが、女性も少なくは無い。 「さて、神託の続きはかの者らと共に道を歩めということだが‥‥」 皆が顔を見合わせてざわつく。俺は構わないぜと誰かが言ったかと思えば、例え神託と言えども――と否定的な態度を見せる者も居た。お互いに意見を述べ合ううち、議論は加速する。諍いとは言わないが、各々プライドがあるのか納得する素振りが見えない。 と、ここで先ほどの男が手を叩く。 「よし。皆の意見は解った。要は、彼らが信頼に足る戦士たちかどうか。そういうことだな?」 一度反対した者はそう簡単には引かない、彼らも彼らなりに考えがあってのこと。であれば。 「ならば、信頼に足る証を見せれば良い‥‥そうだろう?」 だったら話は早いと言わんばかり、戦士たちは口々に賛意を示した。男はそれを受けて立ち上がり、剣の鞘を取り上げて合議終了を宣言する。男の名はメヒ・ジェフゥティ。砂漠に生きる戦士たちの頭目だ。 ●船に巣食う 「と、いうわけでジェフゥティ殿から涙が出て胃液を吐くほどありがたい申し出を仰せつかったわけだが」 オリジナル・サンドシップ。アル=カマル国における目に見える伝説。今回の神託による邂逅を受け、アル=カマルではこのオリジナル・サンドシップの回収を行わんとする動きがある。 当然いくつかの問題はあるが、最もわかりやすいものとしてこの船は現在アヤカシの巣窟になっていること、そしてそのアヤカシの数が百をくだらない事が挙げられる。 様子見の偵察がてら、これらのアヤカシを排除する。それが今回の依頼である。 ●疾きもの 勿論、大量の群れに正面切って突っ込むわけにはいかない。少しずつ誘き寄せては数を減らす、地道な戦いを繰り返すのが最も妥当であろう。 「この作戦で行く際に問題になるアヤカシが、スリッドガーゴイルと呼ばれる種類だ」 歪んだ嘴と鋭い鉤爪、大きな翼を持つ砂の彫像状のアヤカシ。ただの像と違うところは、動いて人を襲う点。他のガーゴイルと違うところは、その翼は足の裏についており、空を飛ばず砂の上を滑る点。 奇矯なようで、これがなかなかどうして恐ろしい。こと砂漠において、これより早く動けるものはまずいない。凄まじい高速で接近しての一撃離脱を好むこのアヤカシ相手には、前後の別は意味を成さず、固く守る陣を組めば縦横の動きに翻弄される。 このアヤカシ最大の弱点は、この移動速度についてこれるものは人にも『アヤカシにも』いないこと。 誘き出しに真っ先に反応し開拓者に襲い掛かる時点では確実に突出した形になる。 「他のアヤカシが追いつく前に始末する事、これが今回の仕事になる。鬱陶しいのを残したままでは偵察も調査も無理だからな」 |
■参加者一覧
あざみ(ia5548)
18歳・女・シ
ルティス・ブラウナー(ib2056)
17歳・女・騎
リリア・ローラント(ib3628)
17歳・女・魔
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
現見 司(ib6528)
19歳・男・サ
アイラ=エルシャ(ib6631)
27歳・女・砂 |
■リプレイ本文 「はふ、暑いですね」 「はは、砂漠でそれだけ着込めば暑くもなるさ」 アイラ=エルシャ(ib6631)が笑うルティス・ブラウナー(ib2056)の装備‥‥ぐるりと覆うマントの下で白く輝くジルベリアの重鎧は砂漠を歩き回るのには少々厳しい。 それでも敢えてこの装備で挑むのは騎士の気概が半分と 「敵が居て、恐ろしく足が速いとわかっている以上防備は疎かにできませんし」 ということになる。 「前方に不自然な砂塵。恐らく敵さんだ」 現見 司(ib6528)の言葉に全員が反応する。 「ぶつかる前に気付けただけ幸運か。水撒き始めっぞ」 「は、はいー」 水筒をひっくり返しながらいうウルグ・シュバルツ(ib5700)に急かされるようにあざみ(ia5548)も周囲に水を撒く。 「乾くまで長くは無いから、早めに済ませないと駄目ね」 「‥‥!くっそ、あいつら馬鹿みたいに速い!壁役、頼む!」 アイラの助言で足場を固める間に目当を覗いたウルグが叫び、そのまま牽制に一発放つ。 開拓者が慌てて得物をかざしたところに、ガーゴイル達が一斉に切りかかる。 「皆、怪我は!?」 一番前に立ちふさがったルティスが後ろを向く。鉤爪を受けたガードは表面が傷ついてはいるが、浅い傷に収まっている。 「こちらも大丈夫。ふん、ボクの‥‥」 「後ろに回った、距離を取ってまた仕掛けてくるぞ!」 「‥‥ボクの美声に捉われる事を恐れて逃げ回っているようだね」 言葉を遮られたフランヴェル・ギーベリ(ib5897)が、ちょっとイラつきながらも自慢げに言う。 「‥‥あっという間に魔法の届かないとこにいっちゃいました‥‥」 咆哮すら振り切る速度となると、リリア・ローラント(ib3628)の魔法も追いすがれない。しょぼーんとする彼女にアルマ・ムリフェイン(ib3629)が助言を出す。 「相手を直接狙うより、先読みで来ると思う場所を狙ったほうがいいと思うよ」 無論、その先読みが一番難しくもあるが。 「手の内は大体つかめてきたな」 「それが好転に繋がらないから晒してるのかもね、と。そろそろ当たってちょうだいな!」 アイラの銃弾がガーゴイルの表皮を叩く。開拓者が遠距離から撃てる事を知ると、アヤカシは直進から左右にジグザグに動きながら接近するようになった。恐るべきはその状態でも近づくまでの速度が殆ど落ちていない事か。 「くっ!」 ガリッと木を削る音がする。アヤカシの一撃がルティスの盾を削る音だ。 スリッドガーゴイルの攻撃は、自らの移動を妨げず、すれ違いざまに斬り抜けるように一撃を入れるもので、抜刀騎兵のやり口に近い。一撃の威力は低く、連続攻撃の恐れも無いが普通に受け止めても全く速度が落ちない為、反撃をかけようという頃には既に遥か先へと逃げられてしまう。 「せめて障害物の一つもあれば、動きを邪魔できるんだがな」 「あ‥‥アイアンウォールでどーん!と止めちゃうのはどうでしょう?」 「それだ!先出しでも効果があるしな。じゃ、そこはリリアに任せた」 ルティスに向かってくるアヤカシの進路上に、ズヒュンと現れる鉄壁。迂回するには加速がつきすぎているはずだ。 「さあ、事故ってしまえボーダー共!」 激突かと思った刹那、ガーゴイルの翼はスルリと壁の表面を走り、そのまま飛び越える。 「嘘ぉ!?」 「ほう、やるもんだ‥‥が」 銃を構えたウルグとアイラは、慌てることなく引き金を引く。 「移動ルートが絞られてる事には変わりが無いのよね」 脚を撃ち抜かれたガーゴイルは、さすがに堪らず転倒する。そこに一斉に斬りかかる開拓者達。 「あんまり格好がつきませんねー」 「そういうのはもうちょっと余裕のあるときにするといいわね」 「ああ、ボクの可愛い幼姫!心の底から我が愛を捧げん!」 複数枚の鉄壁が並んだ裏で、岩清水で喉を整えたフランが高らかに叫ぶ。 狙って咆哮を仕掛けるのが難しいなら、向こうが近づくまで練力の続く限り叫べばいい。姪への愛の言葉ならば、何時間でも叫び続ける自信がある。 「きみの行くところ、地の果てでも向かおう!そして日となり陰となり、見守り続けよう!」 段々と危ない領域に踏み込んでいる。殆どストーカー宣言だ。 「愛してるっ!膝の裏を舐めたいっ!今舐めた‥‥」 ガキィッ!繰り出されたアヤカシの鉤爪を、予め構えていた刀で受け止める。 「ふ‥‥ふふふふふ、いけないなぁ、愛の歌の邪魔をしては。ボクは!その程度では!叫ぶのを止めない!」 これまで予測のつきづらかったアヤカシの動きが、複数の障害物とフランの誘導で収束していく。 「これで決めないと後が無さそうだな」 あまり時間をかけると、戦闘に気付いた後続のアヤカシがやってきかねない。 「このまま演奏の機会が無いんじゃないかと冷や冷やしたよ」 バイオリンの弦に弓を当て、準備に入るアルマ。ガーゴイル達がフランに殺到した瞬間が、演奏の始まりだ。 重力の爆音が奏でられる中、リリアも一網打尽の好機に動く。 「近くの人たちは避けてくださいね、巻き込んじゃいますよっ」 砂漠には珍しいであろう氷雪の嵐が吹き荒れる。足場の状態の急変に、アヤカシ達の足運びが一旦止まる。 「さあ第二楽章だ。一気にけりをつけよう!」 弓を離さず、アルマの旋律は勇壮な剣の舞へと変化する。 「脚を止めるには転がすのが一番だ。次々行くぞ!」 呼吸を整えたウルグが撃っては火薬を込め、込めれば間断なく空撃を放ちアヤカシの体勢を崩していく。 「1,2,3‥‥と、二匹ほど間に合わん!」 調子を取り戻したガーゴイルが、距離を取ろうと動き出す。 「逃げちゃ駄目ですよー」 すかさずリリアのフローズが足元を凍らせる。そこに、あざみが荒縄を繋いだ手裏剣を投げつけ絡めとる。 「うー。主さまに『やれ』って言われたら、絶対もっとがんばれるのにー」 幸いにしてガーゴイルは比較的軽量な為、頑張ればそのまま引き倒せそうだ。 「っと、後一匹‥‥これは、逃げられたか?」 「私が押し止める!」 反対側の守りにいたルティスが、盾を構えながら猛突進する。正面からがっしりと、盾を押し付けるようにしてアヤカシの動きを制する。 それを確認したアイラはカービンの最後の一発を放つと、長巻を抜いて気炎を上げる。 「よぉし、皆、組打ちで片付けるよ!このまま立ち上がらせないで!」 「承知」 「やっぱり、速度頼みで腕力はそれほどでもないみたいだね‥‥押し倒すのが醜いアヤカシというのは興醒めだけど」 アヤカシの鉤爪を束ねた鞭で器用に引っ掛けると、フランは体重を乗せた一突きを突き立てる。 「逃げられないようにむしっちゃいますよー」 「足が見えるまで毟っちゃうよ!」 リリアとあざみが縄で絡め取られたガーゴイルの脚の翼をぶちぶちと毟っていく。岩のような見た目に反して意外と毟りやすくて面白い。 癖になりそうだ。 「アル=カマルでアヤカシの好きにさせるつもりはないわよ。覚悟しなさい」 アイラの長巻がガーゴイルの首を打ち落す。 「こっちも仕留めた。後は何匹だ?」 司も取った首を投げ捨てている。 「あざみさん達位ね。そろそろ片付きそうだけど」 「さて‥‥サンドシップの見学もしたかったけど、そこまでの余裕はなさそうだね」 演奏を止めたアルマが彼方を見る。影こそ見えないが、砂の巻き上がり方からして次のアヤカシの群れが動いている事は察する事ができる。 「後退を始めましょうか。殿は引き受けます‥‥ちゃんと水分は補給してからですよ。リリアさん、暑さや敵の動きで目を回してませんか?」 「大丈夫ですよー、ルティスさん」 ちょっと足元がふらふらしてる気がする。 多少の水や布の置いてある補給ポイント。円滑な撤退のためにギルドが所々に用意している場所だ。 「お風呂、入りたいかもっ」 砂を払いながらあざみがむくれる。砂漠の戦闘はどうしても砂が入ってくる。 「町かオアシスに辿り着くまではお預けですね‥‥」 「あは。アルマさん、しっぽが砂だらけ‥‥」 アルマの尻尾にブラシがけしながら、リリアが嬉しそうに言う。尻尾をパタパタさせながら、アルマが答える。 「十分に水は飲んだかい、リリアちゃん。帰りも長い道だから気をつけないとね‥‥で、アヤカシの群れのほうはどうかな」 「こっちが見える距離だと向こうにも気付かれる可能性があるから、それぞれの種類を見分けるのはちと無理だな」 「一戦交えた後だ、厄介ごとの可能性は避けたほうがいいな」 ウルグが首を振り、司も無理に偵察する気はなさそうだ。 「さて、それじゃ皆、町まで帰るわよ。連動して動く他の部隊も上手くやってるといいわね」 アイラに続いて、開拓者達は補給所を後にした。 オリジナルサンドシップへの道は、確かに一歩ずつ進めているはずだ。 |