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■オープニング本文 ざわり‥‥と、山から吹き降ろした風が、森の木々を揺らしている。それは木々を抜ける間に強烈な突風となり、里へと降りてきていた。 「今日も風が強いなぁ」 「いつもの事さ。さっさと帰ろう」 山間の道。両側を崖に囲まれた細い道は、世が世なら天然の要塞と観光名所になるような場所だった。 だが、今はよその土地に見聞を広めにいけるのは、ごく限られた者達。なぜなら、その崖の上に広がる森には、闇が潜んでいるから。 その闇に急かされるように、家路につく人々。だがその直後だった。 きしゃ、きしゃああ‥‥。 森の中から抜け出るように、獣の声が響いてくる。闇に光るいくつもの目。どさりと崩れ落ちる人の音。そんな、悲しみの連鎖に繋がる光景が、里のあちこちで響いている。 『大殿、さまの、ために‥‥』 生き残った人々は、そんな声を聞いたとか何とか。 ●理穴首都、奏生 奏生のはずれ、小高い山の上に築かれた砦からも見える負の森はゆっくりとその姿を拡大していた。 報せによれば、緑茂の里から見下ろす森は全てを飲み込むかのような姿となっているらしい。 「ケモノやアヤカシの討伐が多い‥‥。これは、緑茂の里の戦力だけでは追いつかないでしょう」 儀弐王は里の被害状況を幾ばくかの愚痴と共に述べられた報告書を細い指で折り曲げる。二十代半ばの年齢以上に落ち着いた雰囲気を持つ、彼女の眉が僅かに動いた。 「神楽のギルドに連絡をしてください。ここのところのアヤカシ達の動き、小競り合いで終わるとは思えません。‥‥負の森の広がりを見れば、最悪の事柄である可能性は否定できないでしょう」 「ははっ。神楽及び各里に伝令をおくります。‥‥どうか、ご無事で」 彼女が、少数の共をつれ、被害の出ている里へと出発したのと、ギルドに各種依頼が舞い込んだのは、間もなくの事であった。 ●峠封鎖 「紫判峠がアヤカシに封鎖されただと!?」 理穴への支援準備として編成された陣中で大将格らしき男が部下の報告に気色ばむ。 「人型が4、高所に陣取り木‥‥と呼べるかどうか怪しい材質の柵で峠道を塞ぎ、飛び道具で威嚇をかけてきております」 紫判峠は切立った崖の合間を通る細道で、斜面から多くの樹木が斜めに生えており上背のある者が通ると頭を枝にぶつけると言われる。為に難所ではあるが上方からの射撃や奇襲の心配が無く巨体のアヤカシは進入が困難な為、今回の異変に当たり行軍・非難路として確保しようとする、まさにその矢先であった。 「先を越されたなど‥‥儀弐王に申し開きが立たぬではないか!」 退路を奪うアヤカシたちの戦術行動。 「とは言え横隊は3人が限界、こちらは木々に邪魔され弓兵の支援もままならぬとあっては攻略は難しいかと」 「両側面は山頂まで勾配のある斜面が続きます。迂回強襲は不可能に近いかと」 「偵察隊より伝書!理穴側にも同様の柵が置かれている模様」 幕僚達の言葉を歯がみしながら聞いていた陣大将が何かを思いついたように顔を上げる。 「‥‥つまり同数での切り合いでアヤカシに遅れを取らず、上手くすれば樹木に覆われた斜面を駆け上がる体術を持つような者であればよいのであろう。ギルドに伝令を送れい!事後の峠確保は受け持つゆえ、アヤカシを見事討果たす開拓者を求むとな!」 |
■参加者一覧
紅鶸(ia0006)
22歳・男・サ
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
ロウザ(ia1065)
16歳・女・サ
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
錐丸(ia2150)
21歳・男・志
侭廼(ia3033)
21歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
野家・クロード(ia5058)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●両面作戦 「こっそりですよ‥‥こっそり」 那木 照日(ia0623)、ロウザ(ia1065)、野家・クロード(ia5058)の三人は峠道を慎重に進む。道は三人が横に並ぶのが限界。両脇にそびえる急斜面からは木々が無造作に伸び、枝葉がトンネルのように道の上を覆う。 「ろうざ せんし!あやかし やっつける!がう!」 「わわっ、危ないですよ!‥‥」 ロウザが元気良く振り回す手斧が横の二人に当たりそうになる程の、お世辞にも広いとは言い難い道だが整備は比較的行われている為邪魔な岩なども無く綺麗に伸びている。尤も、今の状況ではありがたい事ではない。山上から見下ろす布陣のアヤカシからは丸見えな上に遮蔽も無いのだから。 「もり しずか‥‥。あやかし ちかく いる!」 くんくんと何かを嗅いだロウザの声で、三人とも臨戦態勢に入る。じりじりと登っていくと、やがて道の脇に転がるものがいくつか見える。 「岩?遮蔽には低過ぎ‥‥いや、あれは‥‥」 クロードが蒼い目を細めて視認したそれは、最初の遭遇時に矢を受けて死んだ兵達の屍。回収も行えぬまま野晒しになっている。 「もう少しだけ、待っていてください。アヤカシを退治した後で弔いを‥‥」 片手で祈りを捧げる照日の前を矢が横切る。 「あわわ!?」 「なるほど、つまりはこの辺りからは敵の射程圏内ですか。オン、マリシエイソワカ―いざ、往かん!摩利支天の加護ぞある!」 「しょうか!くろーど!ゆみや ろうざに まかせる!いくぞ!はしれ!」 ロウザを中心にクロード、照日が脇を固め、鏃状の陣で一気に駆け上がる。前方から三本の矢が真っ直ぐに放たれるが、柵に視界が遮られて射手の姿ははっきりとは視認できない。 「まずはあそこまで取り付かないといけませんね」 「アオォーン!」 ロウザが一声吠えると、彼女を狙う矢の比率が増す。 「無茶はするな!厳しくなったら俺‥‥私達が代わって矢除け役になります!」 戦場の興奮でやや地が出かかったクロードが柵への一太刀目を入れる。木柵では有り得ない頑丈な手ごたえは、長丁場を予見させるものであった。 「さて、向こうは始めたようだが‥‥」 峠のアヤカシの陣を挟んだ反対側では衛島 雫(ia1241)、紅鶸(ia0006)、侭廼(ia3033)が弓矢の有効距離ギリギリ付近で待機をしていた。 「こちらも陽動をかけて戦力を分散させる程度はしてやらねばなるまい‥‥アヤカシの後手に回るのは癪だがな」 盾を正面に構えながら雫が眉をひそめる。通常であれば数日は優に要する迂回を精霊門を通じて迅速に行う事は出来た。とはいえアヤカシが一丸となって動けるのに対し開拓者側はニ分割を余儀なくされている。兵法上不利であることは否めない。 「ふむ、アヤカシでもこういうことができるのですねぇ」 紅鶸は感心したように見上げる。封鎖に防御設備を備え、排泄などが不要なアヤカシの特性も考えればほぼ無期限に立て篭もれる防御陣地の構築。しかも人を喰らうアヤカシが射殺した死体を打ち捨てたままにし、引き込んでより多く殺すことよりも近寄らせず、進軍を阻止する事を目的にしている。 「それとも賢いのはこいつらの後ろ‥‥でしょうか」 理穴国内でのきな臭い動き。それに連動した駒の一つと考えるとこの動きは合理性がある。 (「向こうは大丈夫かねぇ。クロードの奴、張り切りすぎて空回りしなきゃいいんだが」) 顎に手を当てて、侭廼は柵の向こうで戦っているであろう仲間へと思いを馳せる。特に知り合いの女サムライの事を考えると、ついつい保護者のつもりになってしまう。 全く違う内容だが、考えを巡らせる事に意識が集中している男二人を雫がギロリと睨む。 「気を抜くな!威嚇とはいえ我々には手傷を癒す手段は少ないのだぞ!」 ●崖から見下ろす景色 紫判峠の両脇は垂直に等しい角度の斜面がそびえ立っている。為に普通は整備された道のみを通る。しかし体術を駆使し、無造作に生い茂っている樹木を伝うことで危険ではあるが一本道以外を進む事も決して不可能ではない。 「よし、やっぱりコイツを履いてきて正解だったな」 片足を木の根元に乗せ、もう片足を斜面にかけて体重を散らしながら錐丸(ia2150)は足元を見る。ジルベリア革靴の造りを取り入れた革足袋は頑丈で摩擦が強く、しかも指先が動かしやすいのでこうした斜面などで踏ん張るには具合が良い。そのまま木の硬さとしなりを確かめてから手元の荒縄を縛り付けると、縄のもう一端を持つ赤マント(ia3521)が曲芸のように縄ごと跳び、さらに先の木の枝に飛び乗る。 「俺に同じ事やれとかいうなよ?」 苦笑しながら言う錐丸に赤マントが言い返す。 「同じことされたら僕がもっと速く動く方法を考えないとダメじゃないか」 「違いねぇ」 彼らの眼下は道を屋根のように覆う枝葉に隠れ、下で戦っている仲間達の様子は見えない。ただ、緑の屋根の頂点にあたる部分だけは覆いが無く、そこが目的地であると知らせてくれる。 「こーんな場所に罠が仕掛けられるとは思わないけど、アヤカシのする事だから注意はしとかないとね」 人知の外にあるアヤカシであれば、このような場所に罠を仕掛ける事も可能かもしれない。急いで、かつ慎重にこの斜面を越えるのは中々の難題だ。 「楽な仕事じゃねェが‥‥任務成功といかせてもらうぜ」 ●激闘の結末 「かたい!でも ぬめぬめ!へんな さくだ!」 盾を掲げて手斧を振りかざすロウザの声は、行く手を阻む物体をある意味正確に描写していた。 「これは‥‥木柵状のアヤカシとでも言うべきなのでしょうか」 咆哮による引き付けをクロードに代わってもらった照日が十字組受の構えを解きつつ誰へとも無く問う。それは木柵のようでありながら軟質と硬質の入り混じった金属のようでもあった。これに似た物質が何であるかと言われれば、確かにアヤカシのようとしか形容しようがない。 「あわわ、しかし本っ当に硬い!」 通常柵には付き物の交差部分を縛る縄も繋ぐ釘も無く、格子状の一体形成物に見えるそれはこれといった崩しどころが見えず、只ひたすら得物を叩きつける他対処法が見えない。 そして近づいてみるアヤカシたちは冑の下には頬当てをした髑髏が、顎を揺らしカタカタと音を鳴らしている。 「くそっ、笑うな!」 苛つきながら盾の陰でクロードが毒づく。熟練の兵は戦場にあって笑いながら相手を殺めると言う。矢を番えた髑髏の顎の下がった顔は、正しく笑っているように見えるのだ。 時間にして数分の後。 「下が騒がしいってこたぁまだちゃんと生きて戦えてるってことだな」 錐丸と赤マントは崖上からアヤカシを見下ろす位置まで辿り着いていた。仲間の姿は確認できないが、せわしなく矢を放っているということは狙われている相手が健在だという何よりの証左だ。 ここから二人が駆け下り、柵を内側から崩せば戦局は一変する。防御柵は性格上、守勢が追撃に回る時の為に内側から倒し易く作られているものが多い。 「結構な距離があるね」 崖を駆け下りる際の移動距離はここまでで一番長い。二人ともここまで大過こそないが擦過傷は少なくない。直降下は転べば大惨事、擦るだけでも肉がそげるくらいの怪我にはなるだろう。 「ビビッたか?」 「まさか!ただ、キミの持ってきたロープがだいぶ磨り減ってるから途中で千切れたら嫌だな〜、と思っただけ」 「そこまでの安物を買った覚えは無いぜ」 言いながらも錐丸も荒縄を引っ張って強度を確認する。ここまで命綱代わりなどに活用してきたが、最後の降下に際しては途中までを滑り降りる為に使う。途中で千切れれば確かにまっ逆さまだ。 「じゃ、お先に!」 小柄で装備も軽い分、綱や支点への負荷が少ないだろうという判断から赤マントが先に飛び降り、暫く後に錐丸が仲間への合図も兼ね、雄叫びを上げながら続く。 「む、奇襲班が首尾よく到達したようだな。侭廼、紅鶸、走るぞ!」 矢だらけになった盾を下ろし、雫が手招きする。 「おぉし、ようやく出番ってわけか」 「やれやれ、そろそろ腕が重くて参ってきてたんですよね」 ふっと瓢箪の酒を刀に吹き付けた侭廼と、畳盾を背にかけ太刀を抜いた紅鶸が素早く応じる。彼らが駆け上がるのを見越したかのように、柵がゆっくりと内側から倒れてくる。 「よう!待たせたな!」 倒れた柵の向こうでは、錐丸が二対四腕を持つアヤカシと切り結んでいた。 「なるほど‥‥一匹にしては手数が多かったと思えばそういう事か」 雫が軽く苦笑する 「二人ともよくやってくれた!あとは照日達との合流の害となる悪鬼共を山上の露と化すのみ。覚悟!」 音声を上げてアヤカシの注意を改めて自分に引き付けつつ、手斧と盾を構え直す。 「何でこんなに硬いんですかー!!」 照日が悲鳴に似た声を上げる。柵への攻撃はまるで鉄の棒に斬りかかるかのようで、壊れ方も徐々に切込みが入り、横木の一本、二本は切ったもののそこから大きく崩れる様子も無く、柵としての機能は依然残ったままだ。 「く、まだまだ!開拓者としてこの程度の化生に押されるわけには‥‥!」 「くろーど むりするな!ろうざに また ゆみや まかせる!ガァルルルゥ!!」 入れ替わりでの矢避けも一巡、三人とも守備を固めている為致命傷は無いが、かすり傷も手数が増えれば命数を削る凶器となる。 その時、場違いなほどに軽い声が響く。 「危ないよ、下がってー!っと、てりゃあ!」 言うが早いか、目の前の柵が倒れ掛かってくる。その裏から、体勢を崩したアヤカシを踏み台にしてアクロバティックな飛び蹴りを柵にかます赤マントの姿。 「あわわわわ!ほ、本当に危なかったじゃないですか!」 「何とか‥‥間に合ってくれましたか」 照日とクロードの姿が見えると、赤マントは後ろで弓を捨て刀を抜くアヤカシたちに構わず声を掛ける。 「二人とも無事で何より‥‥二人!?わぁ!ロウザー、大丈夫ー!?」 慌てて柵から仲間達のほうに飛び降り、心配そうに柵のほうを見る。すると、ぐぐっと柵が浮き上がる。 「わはは!だいじょうぶ あかまと!ろうざ ちからもち!さく かえすぞ!」 元々の怪力を強力でさらに増しているのか、自分より大きな柵を持ち上げたロウザは、それをそのままアヤカシ達に投げつける。 「さく たおした!つぎ オマエタチ!」 そのまま制止をかける間もなくアヤカシの一体に組み付く。 「では、私も一体引き受けます。ようやくのご対面ですね‥‥私の二刀、避けきれますか?」 先ほどまで慌てていた照日も攻勢の気配に気を改め、攻防両面に切り替えれる十字の構えで前進する。 残り一体、二体一で掛かれるというクロードの認識を、赤マントの一言が打ち消す。 「そうだ、向こうで敵の大物が暴れてるんだった!ボクは掩護に行くからアイツは任せたよ!」 乱戦の合間を縫うようにすり抜けた赤マントは、坂の向こうに行ってしまった。 信頼の証なのだろうが、アヤカシとの本格的な実戦は初めてのクロードには重い期待に感じられた。矢傷や疲労で動きの鈍った隙を突かれたか、アヤカシのほうから一気に踏み込んでくる。 「くっ‥‥!」 「よう、笑いに来たぜ」 聞きなれた声と共に、背を縦一文字に斬られたアヤカシがのけぞる。侭廼がいつも通り嗤う顔が見えた。 「ご自慢の刀術が泣いてるみてぇだな」 「何だよ、侭廼。礼は言わねぇぞ。お前さんと違って‥‥」 まだ弱い、手傷を負った、そんな言い訳の言葉を飲み込む。 「ここからなんだよ!俺の全力‥‥その目に焼き付けておけ!」 密集戦向けの突きの構えのアヤカシに右半開の体勢を取り、心への一突きを急所を外す程度の避け方で受けながら、体重を乗せて袈裟懸けに斬り下ろす。 アヤカシの上半身が斜めにずれ落ちていく。活殺剣法とも呼ばれた古流の技だ。 「いい切れ味だが、アヤカシ相手に詰めが甘いぜ。消え失せるまで目をそらすなよ」 満足げに目を細める侭廼の声は緊張と高揚の中にあるクロードに届いたか否か。 「私が引き付ける、攻めは任せたぞ!」 嵐のように繰り出される四腕アヤカシの連撃を受け流しながら雫が叫ぶ。 「そうしたいのはやまやまなんだが‥‥おっと!」 二刀を雫に向けつつ、尚残りの二刀で錐丸、紅鶸を相手にする。どこに目があるのか、背後からの攻撃にも的確に対応してくる。 「手数で押し切るのが上策でしょうね。赤マントさんが来れば‥‥」 「ごめん、遅くなっちゃって!」 紅鶸が噂をするや否や、赤マントが滑り込んでくる。 「一番の大物だね!転ばすから一気に仕掛けて!」 「来るなりそれか。ま、話が早いと言やぁ早いがな」 「俺としてもこうした力技のほうが単純で好きですよ!」 練り上げた真っ赤な気を纏った赤マントの打剄に、アヤカシが大きくぐらつき膝をつく。 「起き上がる暇はやれねえぜ。喰らいな!」 錐丸の燃え上がる長巻が打ち下ろされ、アヤカシを砕けた側から焼き切っていく。 「この状態で避けられるほど未熟だとは思ってませんよ!」 紅鶸の強打も的確に深手を与える。開拓者の有効打を連続して浴び、倒れかかったアヤカシの頭を雫が掴む。 「王手だな。御首、頂戴する」 最後の一体が、照日の弐連足す弐連‥‥四連撃を受け、ばらばらと崩れる。 「可哀相に‥‥」 刀を鞘にしまった照日の後ろで、アヤカシの残骸の上で手斧を振り上げながらロウザが勝利の雄叫びを上げる。 「ろうざたち いきのこった!あやかし ぜんぶ たおれた!これ しょーり!がう!」 ●後始末 「大儀成。以後の防備は我らが果たそう」 あくまで面目を保とうと上からの姿勢は崩さない陣大将は滑稽に見えるが、後ろで忙しなく働く兵たちを見るに糧道確保の上では無能な人物ではないのだろう。 「ご承知とは思いますが、ギルドではここ同様、理穴国内の動きに呼応したかのようなアヤカシの動きに対処する依頼が多く舞い込んでいます。ご注意を」 紅鶸は陣対象に返礼しつつ忠告する。 「理穴全土で不穏な動きがあるという。我々も心せねばな」 雫の言葉通り、暫く不穏なアヤカシの動きに対処する依頼は絶えないだろう。 ふと照日が紫判峠を振り返ると、山向こうの理穴の空は未だ暗雲に包まれているかに見えた。 |