強行偵察
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/21 02:54



■オープニング本文

 国境防備の砦にアヤカシ『弾卵鬼』複数体が強襲。二刻の戦闘の後、守備隊は後退し砦失陥。
 砦周辺に設けられた支援拠点数箇所も同日陥落。
 即座に反攻作戦が計画される。弾卵鬼一に対し開拓者五乃至熟練の兵士十を必要戦力と見積もり、拠点と砦に同時に攻撃を仕掛ける。
 主力は各領主より集めた兵力で、ギルド開拓者は助攻及び間接的な援護に当たる。
 過去の戦歴から相手の手の内はある程度知れている。そして、十分な兵力もある。勝算は十分にある。

 事実、作戦は順調に進んでいた。支援拠点に1〜2体ずつ居た弾卵鬼を駆逐し、兵を合流させ砦攻略に取りかかる。砦に篭る四体の弾卵鬼の内、二体を既に討ち果たし、残る二体も腕などが欠け、勝ちが見え始めた。
 これで武人の本分と名誉を保てる、そう部隊長が胸を撫で下ろしたその時。
 彼の眼前で兵士達が比喩ではなく消し飛ぶ。弾卵鬼がそれを成す可能性のある攻撃、瘴気砲を撃った形跡は無い。何よりも今の一撃は横薙ぎであった。正面に居る弾卵鬼には不可能だ。
 部隊長の判断は速かった。残る兵に退却の命令を出しつつ、自らは謎の脅威への足止めのため前に出る。志体を持たない身だが、渾身の一撃を当てれば味方の退却する隙くらいは作れるだろう。
 避けや受けの困難な流れるような斬撃。防ごうと思えば防御に専念しなければならない。
 しかし目の前まで迫っていた‥‥恐らく兵士達を殺した相手であろう‥‥漆黒の影は足を止めることなく無造作に胸板で刀を受け、押しのけるように腕の一本を軽く振う。
「馬鹿な‥‥流し斬りが完全に入ったのに‥‥」
 胴から切り離された部隊長の首が最期に見たものは、漆黒の巨体が逃げようとする部下達に斬り込む姿だった。


「失敗したんだろうな、全滅したんだろうな、というのは薄々想像はつくが」
 砦の奪還に関する報せが途絶えた事を受けて、受付が問題の砦の見取り図をひらつかせながら開拓者に言う。
「実際のところ、何が起きたのかがさっぱりわからん。周辺拠点を落とした段階で受けた早馬では、弾卵鬼に対して犠牲は出ているが勝ち越しているという話だったし、砦に居た数が4〜5体という事実もごく短期間で大量発生したのでもない限り動かないだろう。少なくとも一兵すら逃げれず全滅する根拠は事前情報の段階では全く無いわけだ」
 砦の見取り図を見る限り、極端な罠がそうと気取られず仕掛けられる構造でもない。
「わからないなら調べてみよう、というのが今回の依頼だ。砦に潜入して、数十人の兵士を皆殺しにした元凶を確認して欲しい。砦は見ての通り単純な構造だが、見つからず動くには四隅の見張り櫓や本丸内部で効果的に戦う為の絞り入口が厄介だな」
 受付は見取り図を丸めると開拓者達にそれを渡す。
「さっきも言ったように相手の数は最大で五体。もっとも今回の依頼はあくまで偵察、これをどうにかするのは依頼の範囲外だ‥‥倒したところで砦を維持する人手が足りないからな。どんな危険があるかはわからない、やばいと思う前に逃げるくらいの心積もりで頼む」


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
琉宇(ib1119
12歳・男・吟


■リプレイ本文

「門は大解放状態アルな」
 梢・飛鈴(ia0034)が目を凝らして見る限り、門は殆ど吹き飛び大破した状態にある。
「瓦礫も残さず吹き飛んでくれているお蔭で、出入り口に使えそうなのが幸いですね」
 藁束の陰から同じく様子を窺う珠々(ia5322)が呟く。
 砦は随分と破損しているのがわかる。正面側の櫓の内一方は焼け落ち、土壁もところどころ壊れ、他より低くなっている。
「元々アヤカシの群れを誘引しながら殲滅する為の砦らしいからの。門から本陣まで一直線なのも、囲うと言った搦め手を避けず突撃を誘う為らしいが‥‥」
 貰ってきた図面を睨みながらむぅ、と呻く輝夜(ia1150)。
「少し知恵が回るなら、本陣で待ち伏せするのが守り手にとって都合がいい、か」
 横から覗く柳生 右京(ia0970)の指摘通り、本陣への入り口は二度ほど一人分の幅まで細くなる。その時を狙われると最悪1対3の戦いを先頭の一人は強いられる。
「だから討伐軍は門を抜けた後は本陣前の広場で派手に戦いつつ相手が来るを待つことにして、多分作戦は図に当たったんだろうけど‥‥」
 琉宇(ib1119)はそこで言葉を止める。仕事を前にして余り良くない言霊を残したくない。
「それより、藁束は沢山あるから少し使っていいかな?陣笠とか着せて案山子にしとこうと思うんだけど」
「偽装の基本じゃな。我は巫女服を着せておこう‥‥尤も、今回も通じるかはわからぬが」

 周囲を回って様子を確認していた開拓者達も戻ってくる。
「見張りはあの壊れとらん方の櫓に1、それと対角線にある櫓に1や」
「さすがに、遠巻きだと本陣の中までは確認できませんでした‥‥が、外で警戒しているアヤカシはその2体のみのようです」
「弾卵鬼のうち一体の片腕が見えなかったのが気になります。無いのか、見えないだけかは判別できませんでしたが‥‥」
 斉藤晃(ia3071)、朝比奈 空(ia0086)、鈴木 透子(ia5664)のそれぞれの内容を琉宇が書きとめる。
「随分と間抜けな警戒だな」
 広大な範囲を覆う心眼でも持たない限り、空いた2箇所の櫓近辺が完全に死角になってしまう。
「ですが、二体のみで最大限の範囲を視ようと思うと的確な配置でしょうね」
「んー、どういうことダ?」
「余裕が無い状態での最善手を相手が取っている、つまり罠とかではなく討伐隊の尽力でアヤカシの数が減っていると考える事ができる、という事です」
 飛鈴に透子が答え‥‥
「そんな討伐隊をやってまえるだけのモンがみえん所に居る、と言うことや」
 晃がにやりと笑う。
「こらこら、此度は偵察。右京ともども血気に逸るでないぞ」
「では‥‥敵の死角を縫って、行ける所まで接近しましょう」

「あっさり近付けすぎて逆に不安になるナ」
 藁束を転がした飛鈴が落ちつかないように辺りを見回す。
「戦記譚なら銅鑼や太鼓の音と共に伏兵が出てくるパターンだよね」
「縁起でも無いことを言わないでください」
 櫓に引っ掛けた縄の状態を確かめていた珠々が琉宇を睨む。
「伏兵‥‥ではありませんが、新たな瘴気の反応があります。ここからまっすぐ奥のほうに」
 空の言葉を聞くや否や見取り図を開く輝夜。
「わかりやすくも本陣のド真ん中じゃな」
「黒い巨体の関係者ですかね?」
 櫓上の弾卵鬼は向きを変えて周囲を見張る様子はあるが、開拓者に気付いた風でも無く、積極的に巡回する様子も無い。
「空さん、他には反応はありませんね?」
「はい‥‥少なくとも瘴気はそれだけです」
「では、壁の中まで移動しましょう。脱出路の一つがここである事を皆さんお忘れなく」
 透子の言葉を受けて、次々と縄を上る開拓者。まずは身軽な飛鈴と珠々が降り立ち、周囲の様子を見る。

 門内、本陣正面の一帯を中心に幾つもの兵士の死体が転がっている。多くは一刀の元に横か或いは縦に両断されている。
 透子達が近付いて一応の生死確認をし、その目を閉じてやる。
「‥‥おかしい」
 その惨状の景色に、珠々はある違和感を感じる。
「弾卵鬼は、どちらかというと飛び道具を得意としているはず」
「そういや、そうだったアルな」
 後続の仲間達もなるべく音を抑えて入ってくる。
「黒い巨体こそ警戒すべきではあろうが、一体どのような能力を使うのかが見当がつかない」
「ふん、最悪ひと当てすればわかるだろう」
「右京さん、それは本当に最悪の場合だと思うよ」
「死体の数は、討伐隊の人数と概ね一致するようじゃな‥‥とはいえ、バラバラの死体を含むので正味の数はわからぬが」
「生存者の可能性はどうなんでしょうか?」
 そこで全員が黙り、視線が珠々に集まる。珠々はゆっくりと呼吸すると、耳に神経を集中させる。
 ‥‥弾卵鬼が向きを変える時の、甲虫の脚が動くような音‥‥本陣からは一定のリズムで響く金切音のような不気味な音‥‥
「残念ながら、生存者を思わせる『音』は絶望的。代わりに本陣からよくわからない音がする‥‥呼吸音?」
 沈黙。意味するところは討伐隊四七人は皆殺しになっている事実とそれを為した戦闘力・気性の持ち主を直接探らねばならない事。
「パクリと開いた虎の口に飛び込むよりは、外に出てきてもらった方がいいかもね」
 琉宇が弾卵鬼の居る櫓を見上げながら言う。

「それじゃ、こいつらにはさっさと退場願うアルか」
「倒す頃に増援に駆けつけるくらいだと丁度良いんじゃがな」
 奥の櫓では、飛鈴の苦無が戦闘開始を告げる。下から攻撃を受けた弾卵鬼は足場としては心許ない櫓を見切り、巨体に似合わず身軽に降り立つ。
「この弾卵鬼は片腕のようですね。ならば、遠慮なく死角を突かせて貰う」
 珠々は常にアヤカシから見て左側に移動し、関節部分に集中して苦無を投げる。
「叩きあいは苦手だからね。一曲弾いていこうか」
 琉宇のバイオリンが奏でる陰鬱な曲が瘴気弾の力を奪う。
「豆鉄砲並じゃな。腕を潰す、汝は頭を叩くがよい」
「この一発で片付けてやるアル」
 弾を槍で払いのけながら輝夜が歩を早め、間合いに入ると同時に弾卵鬼の腕を叩く。瘴気砲を撃とうと開いた口、外皮の保護の無い剥き出しの顎を飛鈴が打ち抜く。
「何か聞いてたより脆いアルな」
「弱ってる感じだよね」

「うりゃあ!」
 手前の櫓‥‥本陣に居るのが『黒い巨体』なら高確率で現れる側では晃が力任せに櫓を揺する。
 撃ち降ろしで迎撃しようとした弾卵鬼はしかし大きく姿勢を崩し、櫓上より落下する。
「動きに切れが無い‥‥いや、手負いであれば納得だな」
 落下と同時に千切れ飛んだ弾卵鬼の片脚を見ながら右京が言う。
「負傷‥‥討伐隊によるものでしょうか」
「だとすれば、弾卵鬼相手であればそれほど苦戦をしていたわけではないのでしょうか。空さん、瘴気の動きはどうですか?」
「はい‥‥え、居ない‥‥いえ、すぐ近くに!」
 空が指差す本陣の石壁の上に、日の光も吸い尽くすような漆黒の巨人が立ち開拓者達を見下ろしている。
 反応した透子が結界を張るが、巨人はそのまま微動もせず見下ろしている。
「待ってくれるそうだ。我々も舐められたものだな」
「案外実体を持たん幻覚かもしれんのぅ。本体は既におらんとかか?」
 弾卵鬼は動けないながらも両腕だけを独立した存在のように動かし瘴気弾を乱射するが、熟達のサムライ二人を相手取るには役者不足過ぎる。
 狙い付けに不自由しない晃の鬼切の一撃で砕かれると、崩れた外皮の中から速閃鬼が真っ直ぐに突きかかる。
「馬鹿が。その速度は回避に使ってこそ脅威。愚直な攻撃では自滅を早めるだけだ」
 待ち受けていた右京の一太刀で真っ二つに両断される。

 戦いの決着を見届けた巨人は石壁から飛び降りる。直立していた時は日の陰になってわからなかったが、より鋭角的で無駄を省いてはいるが甲虫系の外皮、戦いの為の構えであろう、頭が地に着くほど腰から上を落とした姿勢、人と逆の膝関節など弾卵鬼との類似点が随所に見られる。
「影があるから、実体ではある。あとは姿隠しの術や防御能力に注意を‥‥」
 透子が結界を重ねながらそこまでいいかけた時。
 黒い巨人の腕が陽炎のように揺らめき、刹那荒れ狂う衝撃波の爆音が辺りを包んだ。

 崩れた櫓と、土壁の煙が辺りを覆う中、淡い光が輝く。
「げ、げほっ。まさか、結界二枚を撃ち抜いてあれだけの威力があるなんて」
「あれはただの地断撃だ。私達サムライの技と過程は異なるが、結果は限りなく近い」
 血を拭い払いながら右京が忌々しげに呟く。
「ですが、明らかに地断撃とは異なる複数の‥‥!」
 いいかけた透子が黒い巨人を見て再度驚愕する。ゆらりと腕が動いた時、相手の腕が増えたような気がした。気がしたのではない、現実に増えた‥‥否、もともと四対八腕がこのアヤカシの姿なのだろう。
「八本の腕から同時に放てば、八方の敵を討つ事も八枚の防壁を一瞬で破る事も可能」
「くっくっく、全く、こっちが必死であれこれ考えたのがアホらしゅうなるわ」
 瓦礫から抜け出た晃も不敵に笑う。
「最初は見える姿は囮なだけかと思うとったが‥‥少なくともてめぇが本体っちゅうことがわかって安心したわ」
 そのままドスドスと前進すると、振り上げた斧を渾身の力で打ち下ろす。
「物理が全く効かんわけじゃのうて安心したわ。しかしなぁ‥‥わしは一応、全力で打ち込んだはずなんやけどな?」
 顔面でその刃を受けたアヤカシは外皮に少々傷を受けながらも斧を押し返す。そして、手に手に得物を持った八本の腕が次々に襲い掛かる。
(「斬、突、これは流し斬りか‥‥?!いかん、骨法は分が悪い!」)
 一般人から見れば、アヤカシが一歩踏み出した瞬間晃が吹き飛んだようにしか見えないだろう。
「だ、大丈夫ですか!」
 空の閃癒の光が輝く中、追撃を押し留める為に牽制の真空刃を放った右京はアヤカシの連続攻撃をより正確に見届けた。
「斉藤、次は私が受ける。しかし流し斬り、骨法、地断撃、不完全な両断剣‥‥まさか」
「いえ、そう考えると弾卵鬼の一連の行動を含め、一番自然なんです。あのアヤカシは弾卵鬼を使って、私達の戦い方を観察し、私達の技を真似ている」

 奥櫓組が駆けつけてみると、明らかに窮地に立たされた仲間達の姿があった。
「何か既に大ピンチ状態アルよ!?」
「こっちで引きつければ向こうは逃げれるだろうが‥‥我等は果たして逃げ切れるのかのう」
「自律するアヤカシだろうという賭けを信じるしかないんじゃないかな、うん」
 あまり気休めにならない琉宇の言葉に深く溜息を付きながら輝夜が進み、珠々の苦無を事も無げに背中で弾くアヤカシに叫ぶ。
「我が名は輝夜、サムライじゃ。お相手願おうか!」
 その咆哮を受け、アヤカシが向き直り、不快な金切音を立てながら威圧感を与えるようにゆっくりと歩いてくる。輝夜は透子達に今の内に動くよう目配せをする。
「隙ありいっ!」
 横合いから握った拳を叩き付けた飛鈴がそのまま反対側に跳ぶ‥‥もとい、カウンターを受けて弾き飛ばされる。一撃で飛ばされたが為に連続攻撃の餌食にならなかったのが幸いである。
「気功掌が完全に入ったのにー」
(「さて、効いたは良いがどれ程時間稼ぎすればよいものかのう」)
 そう輝夜が思っていると、アヤカシが徐に足を止める。アヤカシの外皮の継ぎ目から目に見えるほどの濃い瘴気が噴出すと、アヤカシの腕の内四本が武器を掌中に納め、石でも握って投げるかのような動きで後ろに居る四人を狙って瘴気弾を撃つ。
「ええい、咆哮を無理矢理解くとかどれだけチートなんじゃ!」

「輝夜さんがああ叫ぶってことは、効いたって事でいいんだよね、うん」
 琉宇は、ただ一体のアヤカシに聴かせるための演奏を始める。それにアヤカシが反応する一瞬は、攻撃を加えるには全く足りない。

 しかし離脱を行う為には値千金の一瞬である。透子の呼び寄せた瘴気の霧が辺りを覆う。
 視界と知覚を乱されたアヤカシは、直感的に門を塞ぐ為に移動する。だが、開拓者は予め準備していた脱出経路、壁越しの荒縄を登り、藁束のクッションに飛び降りて順次脱出する。
 殿を務めた右京は、砦門前に屹立するアヤカシを一瞥し
「‥‥その姿、忘れんぞ」
 そう呟くと、荒縄を断ち切り飛び降りた。

 砦を脱出した開拓者は、先ず距離を稼ぐ為急いでその場を離れた。相手に知覚系能力があればそのまま追ってくる可能性があるからだ。
 案の定、アヤカシは暫く砦周囲を徘徊し、案山子の影を見てそちらに駆け込む。が、ある程度近付くと足を止め案山子を無視して暫く周囲を見渡す。
(「あ、あの距離まで近付くと判るんだ」)
(「おそらく動き、または生体感知能力の射程範囲かと」)
 刈り取った茂みを被った琉宇と透子がアヤカシの様子を観察する。距離が遠いので細かい動作まではわからないが、少なくとも視覚にある程度依存している事は判明した。
 気付かれる前に、開拓者はその場を後にした。


「そうかそうか、お疲れさん」
 幾つかの貸出品を回収しながら、ギルド受付が開拓者に労いの言葉をかける。
「少なくとも現状では技を使ってくるのはその個体のみで、アヤカシ全体がそうなるわけではないとは思いますが」
「透子の仮説は検証議案に載せておこう‥‥で、あっちは何を睨めっこしてるんだ?」
「直接殴りあった面子による対策会議だそうです」

 酒やらお茶の入った器を手に各々が率直な感想を述べる。
「強い敵は歓迎‥‥とは言ったものの、面倒な相手やな」
「硬い鎧は隙間を狙うが常道じゃが、そのあたりはどうかのう」
「下地に当る部分も硬度的には大差無い。殻の下は柔らかいという常識は通じんようだ」
「気功掌も今一効きが悪いナ」
「やせ我慢の可能性は?」
「表情が無くても通りが良い時は手応えでわかるアルよ」
「技を迂闊に使うと覚えられるというのは厄介ですね」
「だが、不完全な技、見たはずなのに使ってこなかった技があることからそこまで行くには一定の条件があるという事だろう」
「あの‥‥憶測ではありますが」
 空が戦い方に意見するのは珍しい。
「アヤカシならば、精霊のお力を借り受ける技は使えないのではないでしょうか」
「ほんまや、空はええこと言うのぉ」
「誰もが取れる手立てではないが一考の価値はあるな」
 喧々諤々。

「やる気になってるみたいだな。次はそのアヤカシを追い出す依頼でも出そうか?」
「にゃー!?昨日の今日は勘弁してください」
「ああいう化け物は叙事詩の外には出てきて欲しくないよね、うん」