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■オープニング本文 「相変わらず暑いねぇ」 「そろそろ涼しくなってくれてもいい頃合なんだが‥‥」 九月に入ってもうだるような暑さに、道行く人々もばてたような表情で暑い暑いと挨拶をする、そんな昼下がりのこと。 「はーーーっはっはっはぁ!!」 一際暑苦しい高笑いが遠くから近付いてくる。 「こ、この声は‥‥奴らだ!」 「奴らが来たぞ!隠れろーー!」 それまでのんびりぐったりとしていた人々の顔が青ざめる。ある意味では涼しくなったと言えなくもない。 誰もが慌てて近くの建物に避難し、戸を固く閉じる。 「う、うわ!逃げ遅れた‥‥誰か、誰か助けてくれえ!」 逃げ遅れた人々が悲鳴を上げる。 「はーーーっはっはっはぁ!!諸君、暑いのならば‥‥身を覆う物など取り除け!男子は褌、女子は水着こそ炎天下を乗り切る鍵だ!」 「ぎぃやあああぁぁぁ!!」 「と、暑い日に外で暑い暑いと言っている人々がこの集団『灼熱の炎天下を裸身で乗り切る会』略して『灼天裸会』に半裸に剥かれる被害が続出している」 いくつか突っ込みたいことがあるが、さてどこから突っ込んだものだろうか。 「被害者に関連性は無いことから、この集団の主張に基づく無差別の行動であろうとギルドでは判断している」 「暑さを理由に異性を脱がす変態集団という可能性は?」 「男性は男性会員が、女性は女性会員が脱がしているからギリギリ大丈夫だな」 大丈夫とかそういう問題ではないと思うが、ひょっとすると受付も暑さで思考をやられているのかもしれない。 「これを何とかするのが依頼なんだが、叩きのめしてしかるべきところに突き出したくらいでは反省もしないし数日で釈放されるぞ、バカだから」 出来れば関りたくもないところだが‥‥ 「口車に乗せて彼らの存在意義を揺るがせる事が出来れば当分は大人しくなるだろう。が、あまり難しい事を言っても理解できないだろうな、バカだから」 そもそも服を脱ぐことと暑さをしのぐことに関係はあるのだろうか。 「彼らは実際にそれで涼しくなるんだろうな。バカだから」 ‥‥受付の説明が不穏当になる前に、早々に退散した方がよさそうである。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
浅葱 恋華(ib3116)
20歳・女・泰
イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)
21歳・女・泰
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔
ウィリアム・ハルゼー(ib4087)
14歳・男・陰 |
■リプレイ本文 「あ〜あ、今年はまだまだ暑いねぇ」 「いやほんと、今年の残暑は厳しくて、詰襟な神父服はさすがに暑いったらありゃしません。教会に夏服の提案をしてみたいですねぇ」 その声に、周囲の人々がぎょっとした顔で見る。別にもう暑くないとかそういうわけではなく。『暑い』と下手に口にすると‥‥ 「はーーーっはっはっはぁ!!」 通りの向こうから、一団が走ってくる。 「暑ければ‥‥脱げばよかろうなのだぁ!!」 四天王を先頭に灼天裸会が魂の叫びを上げる。 「変態と馬鹿はいつの世、どこの地にも尽きないものだな‥‥しかし、どうやって聞きつけているのやら」 「理屈じゃないってことじゃないかしらね〜」 脱がされる気は微塵も無いので囮から離れて、通り沿いの茶店で様子を見ながら溜息をつくイクス・マギワークス(ib3887)に、浅葱 恋華(ib3116)が答えになっているようななっていないような事を言う。 「ははは、僧衣など脱ぐが良い!僧侶は清貧、裸一貫が王道よ!!」 「貴方がそう言いながら迫ると色々と洒落にならないのでせめて神父服と‥‥ぎゃぁぁぁーー!聖職者はむやみに肌をさらすわけにはいかないのですーー」 エルディン・バウアー(ib0066)が褌大王に掴みかかられる図は確かに色々とアブない。 「む‥‥こ、これは!」 木綿褌を手にエルディンを押し倒し、神父服を剥いた大王の目に映るのは、もふ毛をふんだんに利用した男の粋の極み、極楽もふんどし。 「おお、褌こそ漢が全てを託すもの。そこに気合を込めるとは、まさしく我らが魂の兄弟!」 「わかっていただけましたか‥‥てい」 感極まって無防備に抱きついてくる大王に当身をして沈黙させる。これ以上往来で薔薇色の構図を見せると以後の生活や説教に差し障ってしまう‥‥手遅れかもしれないが。 「ふふふ‥‥さあ、君も素晴らしきコチラ側へ‥‥!」 色々勘違いを招く言葉を発しながら間合いを詰める褌将軍の顔に、不破 颯(ib0495)は自ら脱いだ和服・羽織を投げつける。視界が塞がった所に皮の鞭を取り出し、片腕と頭部を拘束する。 「いいか良く聴け、俺は今自分で脱いだから涼しいが他人、しかも同姓に脱がされても涼しくも何ともないんだよぉ!お前らだって自分で脱いでるだろうが!強引に脱がされんのと自ら半裸になるのとどっちが開放感溢れて涼しさ満喫できるか知らねぇのか!」 「おふぅ‥‥私は、私は君の手で脱がされるのも‥‥!」 (「あ、やばい。息が荒くなってるし変な性癖に目覚めかけてる」) 颯としてはこのままギリギリと縛り上げながら説教するつもりだったが、ただのご褒美になってしまいそうなのできゅっと鞭を引いて気絶させる。 「ふぅ、予想外に危険な相手だったぜ。馬鹿は良いが、やっぱり変態っ気もあるのかね?」 「二人とも動くな‥‥水着に入らないその脂肪の塊、切り取ってから着替えさせてやんよ‥‥」 何か病んだ目で物騒な事を言いながら、刀を手にした水着姫が迫る。 「あ、言ってるだけで実行した事はないのでお気になさらず」 同姓の原則に則って褌侍は高みの見物をしている。 「いや、気になるから刃物をしまうよう言ってほしいんだけど」 イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)とウィリアム・ハルゼー(ib4087)に向けられる殺意は下手なアヤカシより強力‥‥な気がする。 「それに、ボク男の子ですよ〜ですよね?」 ウィリアムの言葉に、目を丸くした褌侍が「本当に!?」という目でイゥラの方を見る。 「嘘だと思うけど、一応本当」 「死、ねぇええええええ!!」 「だから、あんた達そういう組織じゃないでしょ!?肝が冷えるのと涼しくなるは違うのよ!」 どこからどう見ても本気の目で襲い掛かってくる水着姫の攻撃を避けながらイゥラが叫ぶ。もっとも手にした刀は刃が入っていないようなので大怪我まではしないだろうけども。 「私より胸の大きい女は死あるのみ!」 「天儀の女の九割に死ねと?」 非常に的を得た感想である。が、真実はそれに耐えられない者には無慈悲な刃になる。イゥラの言葉にびくんと軽く震えると白目を剥いて動きを止める水着姫。 「水着姫様!ああ、姫様が立ったままショックでお亡くなりに!」 「誰もが思っても口にしなかった事を、この人殺し!」 「え、何、私のせいなの?」 口々に非難の声を上げる会員。水着姫は後で何とか蘇生しました。 「あの‥‥どうしても脱がなきゃいけませんか?すごく恥ずかしいんですけれど‥‥あまり見ないでください」 言いながらノリノリで服をはだけ始めるウィリアム。返事すら出来ず硬直する褌侍。 (「あれ?おと‥‥こ?でもなんかおっぱいついてるっぽいし‥‥あれ?え?」) ウィリアムの最強(?)装備、偽乳。古くは泰国の拳士達が用いてきた防具『外付身体(おうばあぼでぃ)』などが有名な、生身に見せかける装着物の系譜に属する。 技術力次第では生身と寸分違わず見せかける事も出来る。ウィリアムのそれも、おっぱいの達人ならさておき褌侍の節穴では看破出来ようはずもない。 「見ないでくださいっ‥‥うっく‥‥ひっくっ‥‥こんなの嫌ですぅ」 (「じ、自分で脱ぎ始めたのに俺のせいにされている‥‥!この理不尽!どうすれば!?他の四天王ならどうしている」) ウィリアムから見ても錯乱してるのが良くわかる。落とせる!とばかりに涙目で畳み掛ける。 「こんなことをしてはいけません。脱がされる方はとても恥ずかしいんです。わかりましたね?」 「くそ、俺だって四天王だ!」 がし、と勢い良く肩を掴むが、そこが彼の限界だった。ウィリアムを真正面から見た後、鼻血を噴きながら轟沈する。 「うう‥‥もうお嫁にいけません‥‥あれ?」 気絶した相手にそのまま追い討ちをかけるウィリアムの服をぐぐぐっと引き上げるように着直させながら腕を取る秋桜(ia2482)。「ハルゼー様、私達の仕事は彼らを説得する事ですよ?」 「二度と往来を歩けなくなれば、それもそれで解決するかと思うんです〜」 「それは結構ですが‥‥周囲から私達も同じ目で見られつつある事にそろそろ気付きやがってくださいこの偽乳!!」 そのままウィリアムを抱え上げ180度向きを変えさせると、脳天落としからやや角度をつけた状態で地面に叩き付ける。 「きゅう‥‥」 偽乳が真っ先に激突する為体に怪我は無いが、その衝撃は彼を失神させるには十分である。 「おお、可変式脳天砕き!というか、乳砕き!」 「巨乳殺し!他の人間にやっても危なそうだけど!」 (「‥‥ちっ、壊す勢いで叩き付けたのに、頑丈な偽乳です事」) 周囲の歓声をよそに目的を果たせなかった秋桜は渋い顔である。 「皆様、今の内にどこか建物内に放り込みましょう」 「あいよ」 「ほとんど悪役のやり方よねぇ」 御陰 桜(ib0271)が呆れた風に言う。 「話を聞かせるにも、まず同じテーブルについてもらえなければなりませんから。神もお許しになるでしょう」 とりあえずズボンを穿きながらエルディンが印を切った。 「まず言わせて貰うが、君達の行動は二ヶ月ほど遅い。暦の上では最早初秋、今日も正直然程の気温ではない。既に半裸ではいささか寒いのでは無いか?」 イクスのいうとおり、真夏に比べて今の暑さは「普段に比べて」程度に落ち着きつつある。だが、彼らに寒暖の判断を尋ねるのはまずかった。 「はーーっはっは!何を愚かな事を!見よ、こうして話している間にも吹き出るこの汗!」 「私の体も心も今にも燃え尽きてしまいそうだよ‥‥ああ、不破殿」 「そぉねえ、暑いか寒いかと言われれば毎日暑いわね〜」 「おい、何か変なのが混じってないか」 先程から将軍が自分に注ぐ視線に颯が身震いする。 「‥‥わかった、異常体質の君達に尋ねた私が悪かった。だが、私のように日焼けする前に、肌を痛める者もいる。君達はそうした者の痛みを緩和する術はあるのだろうか?もし無いのなら‥‥」 「はーっはっはっは!そこな女子よ、杞憂は無用!褌将軍の不自然な白さを見ればわかろう!奴は秘伝の塗薬とやらで日に焼けるのを防いでいるのである!希望者には漏れなく与えておるゆえ、安心いたせい!」 大王の紹介を受けて黄緑色の薬を愛しげに取り出す将軍。色彩からして不安を掻き立てるが、言っても聴いてくれそうにはない。 (「独善‥‥と言っても聞く耳持たんだろうな。仕方ない、バウアー殿」) (「わかりました」) そそっとブロックサインを送ると、エルディンが頷く。 「ちょっとトイレへ‥‥」 そういって店の外へ出たエルディンは、店の窓から見えるあたりを目掛けてブリザードストームを放つ。 「いやはや、付近住民の皆さんすみませんね」 「と、今見てもらったとおり実は既に雪すら降る季節なわけだ」 「もう止んだみたいだが?」 「にわか雪だからな」 「にわかなら仕方ないな」 相手が馬鹿で助かった、と思う瞬間である。 「にわか雪なら数日もすれば活動再開できるな!」 その理屈はおかしい。 「いやいやいや、ちょっと待て」 「そうです、脱がせたところで急に冷え込んできたらどうするんですか。三寒四温といって暑いと思った3,4秒後にはもう寒くなっている季節です。脱がせている間に風邪を引かれたら一大事でしょう」 慌てて戻ってきたエルディンがもっともらしい顔で言う。 (「そんな意味だったか?」) (「日単位だと告げたらその数日間で暴れかねませんので‥‥」) 「むむ、それはいかん!健康な肉体は至宝であり、害するなどもっての他!」 だん、と叩き壊しかねない勢いで机を叩く褌大王。 「そうでしょうそうでしょう」 「‥‥何と言うか、聞くだけで頭が痛くなる会話によく笑顔で望めるな」 こめかみを押さえながら感心するイクス。 「ふむ、では次に暑くなるまで諸君、さらばで‥‥」 ここで逃がしたら意味が無い。慌てて腕を掴む颯。 「待て待て待て、俺達が言いたいのはそれだけじゃない。そもそも、力づくで脱がそうとするのが問題なんだ。例えば、だ。誰もが着たくなるような褌や水着を作れば一人ひとり脱がして回らなくても、皆が勝手に着てくれるだろ」 「純白の褌ではいかんと?」 「駄目だ。というわけで恋華とイゥラが用意しているので刮目すると良い」 「ちょっと恋華!?着替えるのは自分でやるから‥‥ちょ、何処触って‥‥♪」 「んふふ〜〜、さすがはイゥラ、良く似合ってるわよ〜♪」 扉の向こうから楽しげ(?)な声が聞こえる。 「遊んでないで早く入れ」 「はいは〜い。もう、せっかちなんだから」 恋華に引っ張られるようにしてイゥラが入ってくる。その姿は、お尻の半ばまでしか裾の無い薄水色のワンピース+純白のローライズのセット。 「おー、似合ってるじゃないか」 「それなら街中も歩けますね」 「勝手な事言うなー!」 冷やかす開拓者と、真剣な表情で無言でまじまじと見る四天王の温度差がちょっと怖い。 (「ああ、でも向けられる視線が心地よ‥‥って違うわぁ!」) 一人で百面相をしていると、褌大王が口を開く。 「ふむ‥‥成程、これが涼しくて『ふぁっしょなぶる』な衣類の例であるか。しかし、下着を堂々と出す破廉恥な真似をすると、まるで痴女‥‥」 「褌一丁のあんたらが言うな!」 全力で大王を殴り飛ばすイゥラ。 「痴女じゃない!下着じゃないわよこれは!だから恥ずかしくないの!」 ものすごく恥ずかしそうな顔で断言する。秋桜がフォローする。 「そ、そうですよ。こうした衣類を作って広めれば人々も涼しくなり、灼天裸会が感謝されること間違い無しです」 ふむふむとわかったような顔で聞く四天王。多分「感謝される」の部分以外解っていないが。 「灼天裸会の魂を具現化したような衣類を作ればよかろうということだな!任せておくがいい!では諸君、世話になったな、さらばである!はーーっはっはっはぁ!!」 開いている窓から飛び出す大王と、それを追って退散する残りの四天王。 「‥‥体よく逃げられた、か?」 「まぁ、彼らの性格からして当分は服作りに勤しんでくれるでしょう‥‥その事を忘れなければ」 エルディンが深く、深く溜息をつく。何だかどっと疲れた。 嵐のように現れ、去っていった灼天裸会は開拓者達に教訓を残してくれた。 「ほらほらイゥラ〜。この後付き合ってよ、もっと熱くいかないとね〜♪」 「ま、待って恋華、せめて着替えてからにして〜〜!」 無理強いは良くないことと、羞恥心は大切だという事を‥‥ |