|
■オープニング本文 村の一角から悲鳴があがり、血の臭いと家の焼ける煙が漂ってくる。 自衛戦力である若者達はめいめいの作業の手を止め、手に手に武器を取り広場へと集まる。 「若衆、集まったぞ!奴らはどこだ!」 しかし、物見櫓の上の若者は首を横に振るだけである。 「駄目だ、もう見えなくなってる。逃げ足が速すぎる‥‥」 「近所の集落にも警戒をするよう伝えよう‥‥尤も、次に狙われる村にとっては既に手遅れだろうけどな」 ここ、辺境の村々は武装した小鬼の襲撃に晒されていた。 領主の兵による庇護が十分でないこれらの地域では、村の自衛組織は最低限の実?邉??ノ入れている。小鬼の数匹であれば、犠牲は出るものの撃退することもあるだろう。 問題は、今回襲撃を繰り返している小鬼達に対しては刃を交える機会すら与えられていないという事である。 騎兵は歩兵より高い機動性を持つ。為に人は馬や龍を乗りこなし、騎兵は歩兵と混ぜずそれのみで編成された専門部隊となる。 アヤカシであっても、獣型のものは総じて人型より脚が速い。小鬼達は化猪を乗騎に使い、白昼堂々と村々に電撃的な襲撃を繰り返しては自警団の到着前に離脱を繰り返していた。 日中、大人たちは外で働く為自然家の中にいるのは老人や子供、病人や身重の女性など非力なものが多い。小鬼は一方的に彼らを蹂躙し、家を焼き払い、あっという間に逃げ去っていく。村人達の怒りと悲しみたるや、幾許のものであろうか。 「というわけで追いつけない事には話にならないからな。朋友許可が出てる仕事だ。勿論騎乗朋友以外でも追いつく手段とか用意できるなら問題はないわけだが」 丸めた書類でぽんぽんと肩を叩きながら話を続ける受付。大事な書類をぞんざいに扱うのは如何なものか。 「迎撃の起点として考えられるのは二箇所。一つは襲撃を受ける家の中で待つ場合。これは最初の襲撃を防いで村人を助ける上では有効だが、逃走する敵を後ろから追う形になるので工夫が要る。もう一つは始めから道で待つ場合。通過しようとする小鬼の頭を抑えられるのはでかいが、その過程でほぼ間違いなく犠牲者が出ている。さらに、共通の問題点として相手が必ず張った網にかかってくれるとは限らない。襲う家にしても通る道にしても向こうが自由に選べるわけだからな」 分散すれば網を広げることは出来るが、その分いざ遭遇した時の戦力は不足気味になる。 「確実な数はわかってないが、足跡から見て五騎以下と予想されている。それと大事なことなんだが、この小鬼と化猪のセット、明らかに化猪の方が強い。つまり上に乗ってる小鬼を始末した後、重荷が無くなって自由に暴れられるようになった化猪を相手にする段階になってからが正念場という事だ」 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
細越(ia2522)
16歳・女・サ
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「ちゃんとここに来るのかな〜〜?」 叢雲・暁(ia5363)の前では囲炉裏にくべられた鍋の湯が煮える音だけが聞こえる。 彼女と柳生 右京(ia0970)、天津疾也(ia0019)。追跡能力の高い三人は村で小鬼を迎撃、追走する役目を引き受けている。といっても待つ間はひたすら待つのが仕事だが。 「未だ襲われていない村々の中からこの村を選び、さらに十軒以上ある家屋の中よりここを選ぶ可能性を等分で計算すれば、常識的な数字は出るだろう」 「‥‥それって、物凄く低いとか言わない?」 「その低い確率をぐいっと引き上げるのが今頃待伏せの皆がやっとる仕込みや。稼ぐ為にはしっかり投資せんとな」 「どうだぁいジークリンデ(ib0258)、余裕はありそうかい?」 「目的の村の防衛に必要な分、戦闘用の余力、それを考えると精々二、三枚分しか搾り出せませんね」 犬神・彼方(ia0218)達待伏せ班は、それぞれ分散して小鬼騎兵の進路を制約する工夫を試みていた。村の入り口に罠を張るsジークリンデにストーンウォールを余分に使えるかどうか打診しているのもその一環である。 「十分、十分。こっちがばぁらけても限度があるからぁね、大元の分岐をそれで隠しちまぁおう」 「犬神様、撒菱を撒くのはあの地点でよろしいですか」 「あそこなぁら足を遅らせれば脇道の皆が追いつける場所になるかぁらねぇ、頼むよ細越(ia2522)」 「とほほ‥‥折角美人が大勢一緒だというのにむさっ苦しい大孔墳と二人っきりで潜まねばならぬとは‥‥ぬおっ、お互い様と言いたいのはわかるがいきなり尾で叩くとは如何なる了見でござるか!」 「相馬、暴れて擬装が剥がれているぞ」 相馬 玄蕃助(ia0925)と愛(?)龍が殴り合っている横を衛島 雫(ia1241)が冷ややかな目線で見ながら通る。 「おぉ衛島殿、それがしに会いたくて訪ねて来てくれたのでござるな!」 「安心しろ、ただの通りすがりだ。廣翁の隠れられる所は限られるからな」 がっくりとうなだれる玄蕃助。聞かなければ良いのに、というのは野暮であろう。 「さぁて、小鬼の逃げっぷりぃが勘だけでなけれぇば、この網で上手ぁくいくはずなんだがねぇ」 黒狗と共に身を潜める彼方の耳に、かすかに耳障りな呻き声が聞こえてくる。 (「獣型のアヤカシに乗ってるなぁら、鼻や耳に優れぇてるだろぉからねぇ。待伏せの皆を散らぁばらせてみたんだけどねぇ」) 果たして、声は次第に遠ざかっていく。 グルル‥‥ルルゥヴァァアア‥‥ 森の中から、耳をそばだてていなければ聞こえないような大きさだが、小鬼の呻きが聞こえてくる。 その特徴的な呻き方は常の威嚇や雄叫びとは異なる。人が家畜を誘導する時に使うような声色といったところだろうか。やがて声の主達が村への入り口をくぐる。 バキィ、と勢い良く木戸が砕かれる。日中に屋内にいる住人を狙った小鬼だが、当てが外れてそこには武装した開拓者が三人待ち構えている。 「ほんとに来た!」 こちらもやや驚きながら、暁は一気に踏み込んで小鬼に一撃を見舞う。迷わず逃走を選んだ小鬼達を追うべく、外に出た三人は呼び笛で龍や忍犬を呼ぶ。 「ハスキー君!あっちに追い込むよ!」 「説明どおり逃げは早いな‥‥伏兵と上手く連動せねばな。行くぞ、羅刹」 「ジークリンデの仕込が効けば、追いつくのは何とかなるやろ。そうでなくても疾風の脚ならおいつけるんやけどな!」 納屋や他の民家の影から出てきた龍に跨り、追撃を開始する。 「ここで速度を削げれば、追撃も楽になるでしょう」 小鬼の後をつけるように村の入り口まで来たジークリンデは、数枚のストーンウォール、そしてその隙間にフロストマインを仕掛ける。 過剰に警戒させると罠を踏まない可能性があるので、自分の姿はまだ隠したままだ。 グルル・‥‥ルヴァァ‥‥。手綱も無く、声だけで化猪を乗りこなす小鬼達が駆けて来る。来た時より狭まった出口を走りぬけようとするその瞬間。 氷の爆発が上がり、先頭の一騎が転倒する。残る四騎は躊躇無く仲間を踏み、或いは飛び越えそのまま森の道へと入っていく。それでも、後から追う開拓者達との相対距離は多少は縮んだだろう。 「この一騎を仕留めたら私も追います。群れの方をそのまま追って下さい」 「‥‥任せた」 三人も森に消えるのを見届けながら、罠にかかった相手を見る。フロストマインの被弾時に猪から投げ出された小鬼は踏みつけられて既に絶命している。その代わり、「荷物」の無くなった化猪は戦意に満ちた目で睨んでいる。 「炎龍、前衛は任せます。手負いの獣に遅れを取ってはいけませんよ」 杖に冷気の魔力を集めながらジークリンデも猪を見据える。 「白き死が貴方に訪れる‥‥さようなら、もう会うことはないでしょうけれど」 杖から噴き出す吹雪が、辺りを白く染めていく。 後ろから追走しつつ観察すると、四騎の小鬼騎兵のうち一騎だけ、猪に鞭を入れ手綱をつけて操っているのがわかる。 「はい!僕あの一頭仕留める!アレだけは絶対逃がさないように!」 「その辺は待伏せ班次第やなぁ」 何に勘付いたのか妙に興奮気味に強弁する暁に苦笑する疾也。 「じゃあこの近くに伏せてる人!早く!早く回り込んで!」 「どうれ、女子の黄色い声援を受けてそれがしが動かぬわけには参らんでござる」 背上で気取る玄蕃助とは裏腹に、大孔墳はのっそりと重い足取りで猪達の前に立ちふさがる。その威圧感の無い様子が小鬼騎兵達をもって突破可能と考えさせたのか、そのまま突撃を仕掛けてくる。 「ぬうぅ、耐えてみせんか大孔墳、お主はやれば出来る子でござろう!」 複数体からの突撃を受けて大きく傾く大孔墳だが、玄蕃助の叱咤によって四股を踏むようにして体勢を立て直す。 逆に小鬼達は突破を阻止され、疾走も一度途切れた状態になっている。踵を返し、別方向に逃れようとした小鬼の首がするりと落ちる。 「情報どおり逃げ足だけは一人前だったが‥‥真っ向から手合えばこの程度か。」 一刀の下に小鬼を切り捨てた右京が龍の背から飛び降りる。 「羅刹、後は好きに暴れろ。私もおまえも好きに闘る方が好ましかろう」 グアア、と喜ぶように吼えながら炎龍が自分と同じほどの身の丈の猪に喰らいつく。残る三騎は右京の咆哮にも動じず‥‥寧ろ自らの吼え声に熱狂しつつ、強行突破して脇道へと入っていく。 「ここの始末は私一人で十分だ、お前達は追撃を続けろ」 「言われなくてもそうするよ〜〜!肉!待て待てーー!!」 「はぁ、ではそれがしも‥‥こら大孔墳、まだお役目はおわっておらんでござるよ!ちゃんと暁殿についていければあれやこれやが拝める絶好の機会!」 相棒の心を知らずしてか知った上でこの態度か、玄蕃助の龍は緩慢な動作で暁達に続く。 「行ったか。さて、乗り手よりは斬り応えがあると良いのだが」 右京の構えた刀に炎が揺らめく。 「追撃の喧騒が聞こえる‥‥長柳、準備を」 細越の甲龍もまた、道を塞ぐように陣取って小鬼騎兵を待ち受ける。 現れた騎兵の内、先頭の一騎が撒菱を踏み、脚をもつらせるようにしながら長柳にぶつかる。残る二騎は何と、仲間と龍を踏み台にしてそのまま突破を試みる。 徹底して「一騎になっても良いから逃げ切る」動きを崩さない姿勢は敵ながら見事というべきか。 「逃さん」 逃げる小鬼の背中に、細越の矢が当たる。致命傷かは判断できないが、かなりの深手であることは間違いない。それでも速度を緩めない騎兵に対し、今度は猪の脚目掛けて矢を放ち、頑丈な毛皮を貫いて射抜く。さすがに速度は下がるも、倒れることなく射程外へと逃走していく。 「速いな‥‥仕方ない、目前の一頭を確実に仕留めるか‥‥ん?」 見ると、長柳のそばの猪に忍犬が纏わりつきながら吠え掛かっている。 「でかしたハスキー君!てや〜〜〜っ!」 逃げた小鬼を追う仲間達の中から、暁がかくんと角度を変えて、起き上がって忍犬や細越に襲いかかろうとしていた猪に踊りかかる。 「‥‥助太刀は有難いが、逃げた連中を追わなくていいのか?」 「あの一頭だけ手綱付いてるの見てティンと来たんだ。これは絶対肉になるって!」 「済まんが判るように言ってもらえないか」 判りやすく言うと、阿吽の呼吸で動いていた他の四騎と異なり、馬具を用いて無理矢理操っていたこの猪はケモノか、獣であり倒した後食べれるんじゃないか、ということらしい。 「本来の主旨から外れてる気もするが‥‥」 「どうせ全部倒すんだから、美味しい方がいいってヴぁ!」 「なるほど、一理ある」 あるのか。 「とまれ、手負いの獣は一番手強い。油断はゆめゆめせぬように」 「わかってるって!さぁハスキー君、しっかりしめていこう〜〜」 暁と忍犬が交互に牽制し、長柳が巨体で猪の移動を押し止め、細越が弓で確実に弱らせていく。即席とは思えない連携技術で猪を追い詰めていく。 「肉〜〜〜〜〜っ!」 「吼えるな」 「さぁて、見えるは二騎‥‥両方止めるのもありだけど、ここは確実にいこぉかねぇ」 彼方は呼子笛を一度だけ鳴らす。最奥部で待伏せる雫に向かった敵の数を知らせる符号である。 「さぁて、鳴らした手前、一頭はきちぃんと止めなぁいとね。黒狗ぅ?」 符を打ちながら龍の名を呼ぶと、巨木のようなその尻尾が動きの鈍った猪の背に座る小鬼を殴打する。 「玄蕃ぁ、あんたは残んなぁよ。龍の顎が上がってるじゃなぁい」 「くうっ、日頃あれほど運動しておけとそれがしが言うておったのに‥‥」 自分は長距離走型じゃない、と言わんばかりに鼻を鳴らすと猪の背に急降下してのしかかる。 「折角何重にぃも仕掛けたんだ、これで逃がしましたはぁ無しだよ!」 「承知!」 片腕で猪の毛を掴んだ玄蕃助が飛び乗り、小鬼を殴り飛ばす。転げ落ちた小鬼の前には彼方が待ち受けていた。 「随分好き放題していたようだぁけど‥‥さぁ、観念するんだぁねぇ?」 小鬼達に殺された人々の無念を込めたかのような瘴刃烈破の槍先が防御姿勢を取れない小鬼を刺し貫く。 「さ、後はぁ考えの浅い猪だぁけ、とっとと片付けよぉ」 「ようやっと追いついたでぇ、面倒かけさせおって」 疾也の疾風の速度をもってしてもここまで逃げられてきたのは迷いの無い逃げの一手故。それでも、幾度もの伏兵による攻撃で確実に距離を詰め、追走しながら射かけれる距離まで接近している。 「流鏑馬とか遊びと思わずもちっとしといてもよかったかもなぁ」 精霊力の具現化した葛の絡んだ矢が、猪の腿を刺す。急に脚の遅まった猪の背から小鬼の姿が消える。 「なんや、あっさり落馬‥‥いや落猪か?」 小鬼の場所を確認しようと開いた心眼には、猪の腹部に反応がある。腹の下にしがみつく小鬼には直接矢が届きづらい。 「ちっ、落ちたと見せて弾除けたぁやるやないか」 やや上方から狙う疾也にとっては完全に死角になる。さりとて翼を開いて飛ぶ疾風が猪の側面につけれるだけの広さはさすがに無い。 効果的な一撃を出せぬまま、二頭は森の中の小さな橋に辿り着く。そしてそこには‥‥ 「ここを通ると思っていたぞ」 開拓者側の最後の伏兵、雫が万全の状態で待ち構えていた。 「彼方の読み通りだったな。廣翁、ここを奴らの墓場にしてやれ!」 唸る甲龍が正面から猪に全身を叩き付ける。 「で、おまえらは何をしている?」 「解体!」 「さすがに、このまま運ぶには巨体過ぎて‥‥ 「食べがいありそうだよね〜〜、うふふ」 右京とジークリンデが追った先では、暁と細越がケモノの解体を始めていた。 「先に逃げた小鬼達を追わないのですか?」 「だってぇ、もう足がクタクタだったし?」 「長柳の脚では追いつけないと判断して叢雲様の援護を優先しました」 援護、というとそれらしく聞こえなくも無い。 「近くに川があってよかったね〜〜」 その頃、同じ川の上流では最後の一騎との戦いが繰り広げられていた。 「向こうの狙いは逃走だ。川に飛び込まれないように気をつけろ」 「は!ここまで追うてそないなへま打つかいな」 二頭の龍も道の両側に陣取り、逃げ道を塞ぐような位置取りを取る。小鬼は猪を乗り捨てて川に飛び込もうとする。 「言うが早いかか。単純で助かるわ」 疾也の矢が小鬼を橋板に縫い付ける。刀を抜いた雫がすかさずその首を取る。 「よし、後は猪が暴れて橋を壊さないよう心がけるだけだ。付近の住民の貴重な道だからな。天津、そちらの龍はまだいけるか?」 「二頭がかりで動きを封じる、か。構わん、疾風はまだまだ元気一杯や」 龍達が吼えながら爪牙を食い込ませる。鼻先に疾也の矢を受けて怯んだ猪の首筋に雫が深々と刃を突き下ろす。 「しかし、普通の小鬼とは随分やり口が違ったな」 「アヤカシなんて手を変え品を変えがいつもやけどなぁ」 後方の様子を確認しに戻る四人が出くわしたのは猪の解体現場。 「で、あんたたちなにしてぇるんだぁい?」 「毛皮と牙は見舞い金代わりに近所の村の人たちにあげようって話になったの〜〜〜」 彼方がしたかったのはその前にまずなぜ追撃を止めて解体していたのかという質問だったのだが、まぁこの際あまり変わらない。 「足の遅い者が多かったから、あの状況からの追撃は無理と判断した。策どおりならそれでも四人で二騎を追う状況だったので問題なかろうと判断したまでだ」 「柳生様、助言ありがとうございます」 やれやれと肩をすくめて、彼方も笑顔に戻る。 「仕方なぁいねぇ、最初にいた村に戻って鍋でもしよぉかい。頼めば肉と野菜を交換してぇもらえるだろぉしねぇ」 「やたっ!」 猪の血が川へ流れ去るように、一帯の受けた傷も少しずつ癒されていくことだろう。 |