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■オープニング本文 遺跡の中のそこかしこにはどこから現れるのかアヤカシが住まう。一口にアヤカシといっても外のアヤカシとは様々な差異と共通点がある。最たる共通点は、いずれにしてもこれを討つことが開拓者の生業の一つであるという事だ。 「お前ら、蜘蛛の巣掃除は好きか?」 普通、好きだと答える人間はそうそういない。更にギルドの受付がわざわざ言ってくるということは、ただの蜘蛛の巣ではないのだろう。 話を聞けば予想通り、栢山遺跡の一角に大量の蜘蛛アヤカシの巣食う区画があって、そこから先の調査が出来ず足踏み状態になっているらしいとの事。 一帯は蜘蛛の巣が縦横に張り巡らされ、うかつに近寄れば粘る糸に絡まれて動くも戦うも容易ではなくなる。 こうした蜘蛛の巣に対して常であれば有効な火で焼き払う方法は、どこに貴重な記録があるかわからない遺跡の中で迂闊に使う事ができない。 「何せ壁や天井、糸を伝って空中と移動できる相手だ。さして広くもない空間に結構な数がいるみたいだが、大物はさほどいないようなのは救いだな。討ちもらしを出さないことと、倒した後に宝珠があれば、回収を忘れないようにな」 |
■参加者一覧
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
高倉八十八彦(ia0927)
13歳・男・志
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
銀雨(ia2691)
20歳・女・泰
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
羊飼い(ib1762)
13歳・女・陰
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「遺跡に蜘蛛の巣がかかってる、って風情じゃないわね」 霧崎 灯華(ia1054)が嘆息するのも無理は無い。曲がり角の隅を起点にして床や壁一面が白い蜘蛛糸で覆われ、通路のところどころでは縒られた糸が鍾乳石のように伸び天井と床を繋いでいる。 「まずはあの角のところを凍らせましょうか?」 「いえ、擬装でないと言い切れません。出方を見て有効な目標を選んでからにしましょう」 朽葉・生(ib2229)に佐久間 一(ia0503)が答える。 壁のさほど強くない灯りは蜘蛛の巣で隠され、光源は松明の炎のみ。離れた暗がりの中でカサカサと動く音はすれど、蜘蛛の姿を明確に捉えることは出来ない。 「わわっ、よくくっつきますねぇ」 ねこのてで蜘蛛糸を触っていた羊飼い(ib1762)の言。触ったそばから絡み付いてくる。迂闊に蜘蛛の巣地帯に踏み込めば足に同じことが起きるだろう。 「これが為に油を撒いたり焼き払えないのが口惜しくござるな」 足元の糸を松明で焼き払いながら相馬 玄蕃助(ia0925)がふむ、と唸る。糸を焼き払った下からは浮き彫りや文字らしきものが覗いている。極端な放火や広範囲に及ぶ技はこれらに被害を与えかねないため、使用を控えるようにと言われている。 そうして徐々に道を作っている中、奥の暗闇に目耳を凝らしていた銀雨(ia2691)がぴくんと反応する。 「音が変わった。うじゃうじゃ動いてるな」 「ならわしの結界で見てみょうかいな‥‥っと、うおぉ!?」 外見に似合わず豪快な地方語を使う高倉八十八彦(ia0927)が瘴索結界を使うや否や叫び声を上げる。 「狭い範囲にえっと群れよるわ、空きが三分で敵が七分じゃ、来るぞぉ!」 紅い複眼を光らせながら、化け蜘蛛の群れが躍り出る。 「は〜ぃ、灯りの追加ですよぅ」 羊飼いが玄蕃助の頭上に夜光虫を飛ばす。お蔭で前衛が松明を手放せる半面、次々やってくる蜘蛛の大群が嫌が応にも目に入る。 「うぜぇええ!次から次へと雑魚ばっかり湧いてきやがって!」 ブラッディ・D(ia6200)が叫びながら剣を振るう。化け蜘蛛は文字通り蜘蛛の子を散らすように離れるが、逃げ際に糸を撒いてくる。 武器で受けてもそのまま絡みつき、避けを試みれば追撃の機を逃してしまう。一方で一匹一匹の強さは然程でも無く、一が体勢を崩しながら投げつける手裏剣でも十分に止めがさせる。 「先程から小物しか出てこないのが気になりますね」 しかも単調で散発的な襲撃が多い。まるで蹴散らしてくれと言わんばかりだ。 「‥‥八十八彦!」 「わかっとるわい!」 再度展開した結界には、壁や天井を近付いてくる瘴気や奥から凄まじい速度で急接近してくる瘴気が確認できる 「裏じゃ、壁や天井の糸の裏側を伝って近付いとる!後は奥から骨のある奴の到着じゃあ」 奥からは5体の大蜘蛛が天井に糸を飛ばして振り子の要領で跳んでくる。 「使い時が来たようですね。フローズッ!」 生は大蜘蛛の糸目掛けて氷結の魔力を放つ。糸を凍りつかされた二体が前衛の前でべたりと地面に落ちる。 更に一体を銀雨が掴んで地面に叩き付ける。 それでも残る二体はそのまま跳ねながら後衛に頭上から飛び掛ってくる。更には、壁や天井伝いに近付いてきた蜘蛛達が、蜘蛛糸に覆われた領域を拡大させながら攻撃を仕掛けてくる。 「そろそろ一度下がったほうが良くないか?」 「向こうがそうさせてくれりゃあいいんだけどな。くぉのっ、雑魚は散れぇ!」 Dの一振りごとに化け蜘蛛の脚や胴が切り離されていく。既に両手の指に余る数を切ったはずだが、いまだ多数の蜘蛛がわらわらと湧いてくる。 「これ、ボスを倒さないと無限に出てくるパターンじゃないだろうな?」 「埒が明かないのは確かでござるな。まずは大蜘蛛を狩るのが上策、殿は拙者に任せてお二人が先に下がりくだされ」 (ふふふ、この男気で好感度+1でござるな) 残念ながら玄蕃助の格好付けを気にする余裕は誰も持ち合わせて無い。 「てことで、後衛も早めに後退準備しとけよ〜」 大蜘蛛と格闘しながらの銀雨の声が響く。 「了解っと。抜かれると思って色々温存しといた甲斐があったわね」 呪声で大蜘蛛の足を止めながら、無理の無い後退法を思案する灯華。 「羊飼いは松明を振り回しながら真っ先に下がんなさい」 「は〜いぃ、お先に失礼ですよぅ」 張りたての薄い巣は熱を近づけるだけでも溶けるように燃えていく。 「それじゃ、あたし達もささっと逃げるわよ。生、逃げがてら壁の継ぎ目辺りを凍らせておいて」 「やはり、そこを潜って移動してきてる蜘蛛がいましたか」 「見る時間があったからね」 生のフローズが細い隙間の蜘蛛糸を凍らせる。封印、とまではいかないが当面、ここからの増援は防げるだろう。 「しかし回復役のわしまでさっさとずらかってもええのんか?」 「危なくなったら逃げてくるわよ」 「すみません、後衛と合流、立て直してから再突入します」 「テンカウントで立て直せよ!」 後衛に襲い掛かろうとしている群れに対処する為速やかに下がらねばならない前衛に代わって、銀雨の位置が擬似的に前線になる。もっとも玄蕃助もたかられながら踏ん張っている‥‥はずだが。 「こっからが本番だってのに仕方ねえな」 赤い気を纏い、積極的に攻めながら蜘蛛の足止めに動く。 「潰しちまえば、後ろに抜けれないからな!っと、残念だな、今の俺は背中にも目があるんだぜ」 天井から糸を垂らして降りてきた蜘蛛にもすかさず一撃を放つ。そして、群がる蜘蛛に飛び込んで大蜘蛛を狙う。全力の正拳突の前にはさしもの大蜘蛛も腹を潰され糸を吹きながら事切れるが、死前に顎を振い、銀雨の拳に傷をつける。 「っ痛て、掠っちまったか。ん‥‥芋虫、じゃないな、玄蕃助か」 腕と足首を糸に絡まれた玄蕃助がごろごろと転がりながら逃げてくる。 「むむむ、こうしたプレイは拙者以外のほうがサービスになると思うでござるが‥‥むむ!」 下から覗ける、というのは中々良いアングルであることに気付く。気付いた直後に顔面を蹴飛ばされたが。どっちが原因かは不明だが、鼻血を垂らしたまま真面目な顔になって報告を続ける。 「先程蜘蛛の首領格と出くわしたでござるよ。あまりに斬新な外観に最初は通りすがりの新手の変質者と思っているうちに見失ったでござるが」 「今日一番の大物かぁ。仕方ない、そろそろ後ろの連中も整えなおしてるだろうし合流すっか」 「‥‥動きが良くなったわね」 基本的には目に付くそばから襲い掛かってきていた蜘蛛達が、開拓者を囲うことを狙い始めた。 「小蜘蛛は牽制主体だから、大蜘蛛の動きを優先的に警戒して。誰かが大蜘蛛の攻撃を受けた時は、八十八彦が解毒をして頂戴」 「灯華さんは、この動きの変化をどう見ます?自分は餓鬼蜘蛛の判断によるものかと思いますが」 「一の予想と大体一緒。殿の二人は大丈夫かしらねー」 一応大丈夫だったらしく、二人とも特にひどい怪我も無く帰ってくる。すると、最後方で「蜘蛛糸の品定めをする」と言って戯れていたはずの羊飼いの声がする。 「えっとぉ、こんにちはぁ」 「誰に挨拶してんだ、あいつ?」 「通りすがりの人の顔が見えましたのでぇ」 「なぁ、ちょっといいか?」 すこし引きつった表情の八十八彦が手を挙げて言う。 「さっきから、何か一人分人影が多い気がしとってな」 そう言う間にも何やら人間大の不穏な気配が移動しているのが感じられる。恐る恐る目を凝らしてみると‥‥一見全裸の変態中年、よく見れば人間にはありえない数の腕と、腹部にもう一つ顔を持つ化け物が怪しい動きを繰り返していた。 「出たぁ!」 「てめぇら、周りの雑魚は俺が片しとくからさっさと仕留めろよ!」 Dが飛びだし、宣言通り化け蜘蛛を相手取る。豪快なようでいて切り上げや小刻みな突き等遺跡への被害を抑える戦い方をする辺り中々細やかだ。 他の開拓者達は餓鬼蜘蛛、大蜘蛛に攻撃を集中させる。餓鬼蜘蛛は体の様々なところから糸を吹き付けてくる。遺跡が過剰なまでに蜘蛛糸で覆われていたのはこれのせいだろう。 「見た目が怖すぎますぅ」 人面が口から糸を吐く光景は中々にグロテスクだ。しかも人の手足を模した八本の脚が指をわきわきと動かしながら殴りかかってくる。真っ向から受ければ糸で絡め取られるだけに、有効打が与え辛い。 「毒も厄介なので、まずは取り巻きを仕留めるでござるよ」 玄蕃助が大蜘蛛の頭を突き伏せる。牙から毒を出す個体が数体居る。どれが、というのは見てはわからないので兎に角片っ端から頭を潰すのが確実な対処法だ。 「え〜い、これでもくらえですぅ」 羊飼いがねこのてで綿菓子状に絡め取った糸を投げつける。とりもちのような使い方が出来るか‥‥という試みだが、残念ながら地面にはしっかりとへばりついても蜘蛛の足は悠々とその上を通り過ぎる。 「え〜ん、インチキですよぅ」 「存在自体がインチキみたいなものだから仕方ないわね」 大蜘蛛の毒は搦め手型の厄介な効果を持っている。先ずは眩暈や手足の一瞬の脱力、息切れが早まるなどちょっとした、しかし戦闘中には命取りな異常をじわじわともたらし、やがては臓腑の動きを麻痺させ強烈な胸の痛み、吐き気などを催す。永く放置すれば危険な状態に陥るだろう。だが、頑健な開拓者の場合、こんなこともある。 「さすが親玉だな!分身の術まで使うか‥‥皆、注意しろよ」 「銀雨さん、相手の動きは早いですが残像が残るほどではないと感じますが‥‥?」 「‥‥ひょっとして毒もらっとるんじゃなかろか」 他とかみ合わない会話に違和を感じて、八十八彦が解毒の準備をしてみる。 「よぉし見えた、正拳を喰らいやがれ!」 「あんまり動くなばーたれ!」 気にせず餓鬼蜘蛛と丁々発止を繰り広げる銀雨に追いついて解毒する。 「おお、分身が解けたぞ。八十八彦、面白い技を持ってきてるな」 「面白いのはわしじゃなくておまえじゃ!何毒くって平気な顔しとるんじゃあ!」 回りくどい攻撃は使う相手を選びましょう、という教訓。 大蜘蛛の数が減りだしたところで、生が術に集中を始める。 「残る力を出し切ってでも糸の射出口を塞ぎます。その間になんとしてもあの餓鬼蜘蛛を!」 立て続けに放たれるフローズが徐々に餓鬼蜘蛛の脚や胴を凍りつかせていく。時間がかかれば氷の呪縛は解けてしまうので、速攻が鍵になる。 「ではそれがしが突き伏せよう。皆は全力で撃ち込んでくだされ」 玄蕃助の槍がぐっと押さえ込む。動きの止まったところに一斉に攻撃が行われる。 「うりゃあ!もう一丁!」 銀雨の拳と地面の間で餓鬼蜘蛛の頭が揺れる。試し割りの要領と言われるこの殴り方は、動けない相手に対しては効果的だ。 「ほれほれ、あんたも今は普通に攻撃術!」 「メえぇ〜〜」 灯華に促されて羊飼いもとっておきの眼突鴉を呼ぶ。 「はあっ!」 一の斬撃で脚が切り離される。苦痛で暴れる餓鬼蜘蛛が、玄蕃助を振りほどいて距離を取ろうとする。 「この程度では倒れませんか‥‥ならばもう一つ!」 裂帛の気合を込めた一撃が、上半身と下半身を切り離した。 餓鬼蜘蛛を失い、残った蜘蛛達は我先にと逃げようとする。 「お前らを掃除するとこまでが仕事だ、悪く思うなよ!」 待っていたとばかりにDが手当たり次第に斬りつける。ほぼ一方的な攻撃は、荒々しくも演武のような美しさがある。 やがて動くものが居なくなると、締めの結界で残敵の有無を確認した八十八彦が一息つく。 「大丈夫みたいじゃな」 「あーー!」 羊飼いが悲鳴を上げる。 「どうしたの?」 「糸が消えちゃいますぅ。色々使えそうでしたのにぃ」 蜘蛛の糸は蜘蛛達の全滅と共にゆっくりと消えていく。暫く待てば、鬱蒼と覆われていたのが嘘のように綺麗になるだろう。 「人の為になる要素を残さないからこそ、アヤカシは恐れられているのですよ。尤も、遺跡のアヤカシは宝珠を残しますけどね」 「おー、あったあった。何か真珠みてーだよな」 「アヤカシから直に取れるものがあるってのは楽しめるわよね♪」 他の面々は膝をつき、床を注視してアヤカシが死に際に吐いた宝珠を捜している。 「そこそこの数にはなったな」 殆どは破片のように小さなものだが、中にはごろりと大きな珠も残っている。一番大きかったのは勿論餓鬼蜘蛛が残したものだ。 「壁の浮き彫りの意味がわかればもうちょっと色がつくかもしれないんだけどなー」 「専門でないそれがし達にはさっぱりでござったな」 心がけた甲斐あって、遺跡の状態は殆ど悪化していない。後から学者達が入念に調べれば、研究も進むだろう。 「しっかし糸だ埃だで汚れてもうたな。帰ったらぼちゃ入って汚れ落として、甘いもんでも皆で食べにいこうやあ」 んんー、と伸びをして八十八彦が言う。 「おおー」 「いいぜ」 「混浴でござるな」 「玄蕃助は黙れ」 「で、何食べようか」 「餡蜜とか、お汁粉とか‥‥」 「綿菓子とかですねぇ〜」 「うひぃ、それだけは堪忍してくださいのぅ」 蜘蛛の巣に似たものは見たくないと大仰に恐れる姿に、どっと笑いが起こる。 |