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■オープニング本文 その日、八角党はアヤカシ討伐に出向いていた。 魔の森を人の手で消すことは叶わないが、かといって常日頃放置していて良いというものでもない。周辺部や、時には多少中に踏み込んで下級アヤカシが事を起こす前に定期的に巡回・討伐する。 ギルドや為政者にとっては欠かさざる勤めの一つである。八角党がそれをしている理由は良くわからないが。 「全部で八十匹少々でしたか、率いるべき頭が無ければ脆いものでしたな。日が暮れる前に撤収を‥‥御大将?」 集団化しつつあった小鬼・豚鬼の群れをさっく閧ニ襲撃・殲滅せしめ上機嫌な八角党の中で、それを率いる御大将こと八角翠だけが浮かない顔をしていた。 (「駄目です‥‥こんな勝って当然の戦ばかりしていては皆が堕落してしまいます」) 実際には誰がやっても易々と勝てるわけではないのだが。少なくとも彼女にとっては満足できないらしい。 (「特に古参衆の気の抜きっぷりは問題ですね。もっとこう、血反吐を吐くような苦境に叩き込んで鍛えなおしたほうが‥‥」) 「御大将、撤収準備も終わりましたので馬を曳いてきましたよ。皆腹を空かせてますし早いとこ戻りましょう。聞いてますか、御大将ー」 労せぬ勝ち戦に気を良くしている郎党達が、程なく我が身に降りかかる災難に気付くはずも無かった。 数日後、翠はギルドで受付とやいのやいのと言いあっていた。 「というわけで、彼らを死なない程度に痛めつけて、もう少し力をつけてやりたいわけです」 「お前んとこの郎党ってうちの開拓者と腕もアクの強さも大して変わらないだろ。どこまで鍛える気だ」 「高位のアヤカシと一騎打ちできる程度には」 「超人軍団でも作る気か、お前は。どうせ大方巨勢王の武闘大会にでも感化されたんだろう?」 ギクリと翠の動きが一瞬止まる。が、平静を装ってそのまま依頼を進める。 「い、いえ、そんな事は微塵も思っておりませんヨ?所謂地力の訓練です。互いにいい刺激になると思いますよ‥‥では」 「あ、こら、依頼として認めるといった覚えは‥‥くそっ」 「まぁ‥‥そんな感じだ。普通の依頼同様報酬は出るし、アヤカシを相手にするのと違って命を失う危険はまず無いので、悪い話ってわけじゃない。武器は使う得物を伝えておいて貰えれば、刃を潰すなりして殺傷力を減らした品を用意するし、万が一の為の治療用の人員もあちらで用意するよう契約には捻じ込んだから滅多な事はおきないだろう」 話を聞く限りでは、御前大会の亜種という感じがしないでもない。 「ま、普段と違う戦り方を試すにもいい機会だ。相手も志体持ちで場数も踏んでると条件はほぼ同じだし、勝ち負けはどうでもいい‥‥と言いたいところだが、負けるとあいつらが調子に乗って煩くなりそうだから勝つ方向で頼む」 |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
白拍子青楼(ia0730)
19歳・女・巫
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
アレン・シュタイナー(ib0038)
20歳・男・騎 |
■リプレイ本文 爽やかな晴天の下。並べられた武器と控えている治療班、そしてニコニコしている翠と非常〜〜に不満気な八人が開拓者を待っていた。 「皆様、ご機嫌よう」 「これはお嬢様、お手柔らかにおねがいします」 メイド服姿の霧崎 灯華(ia1054)がメイドっぽく一礼してみせる。互いの耳の翡翠の耳飾が昼日に輝く。 「あんじょうよろしゅう。あれは‥‥うちらを甘う見とりはるんですえ?」 「せやったら血の嵐になるとこやな」 士気の低そうな八角党を見て雲母坂 優羽華(ia0792)が眉をひそめ、斉藤晃(ia3071)がくつくつと嘲笑する。 「よろしくおねがいしますですよ〜」 (「そう甘い相手でもなさそうですね〜」) アルネイス(ia6104)は可愛らしくぺこりと一礼しながら値踏みする。休みを潰された不満を隠しもしない八角党だが、それはそれとして戦いになれば躊躇せず全力を出してくるだろう。 用意された武器を持ち、闘場に入る。中から見ると闘場は狭く感じる。前衛が決壊すれば後衛まで一瞬だ。 「あの、宜しくお願い致しますの‥‥」 白拍子青楼(ia0730)は前に立つアレン・シュタイナー(ib0038)の服の裾をつまんで、物陰からこっそりと覗くようにぺこりと小さく挨拶する。 「うおおーーっ!早く闘ろうぜぇーーっ!」 「五月蝿えクロ、静かに待ってろ!」 九郎丸の吼え声にびくりと驚き、そそとアレンの背に隠れる。 「大丈夫、青桜には指一本触れさせん」 煙管を咥えたまま、アレンが軽く笑む。 「腕試しにしちゃ、物騒だな」 刀の振り心地を確かめながら緋桜丸(ia0026)が呟く。 「まぁいい、即席とは言え俺らの層の厚さを見せてやるさ。それに‥‥」 ちらと後ろを見やり、戦意を養う。 「お嬢さま方を守って戦うのは嫌いじゃねえ」 闘場に向かうのを敢えて最後にしていた灯華が翠に耳打ちする。 「一つ、賭けでもしない?負けた方が勝った方の言うことを何でもきく、なんてどうかしら」 「ふふ、灯華お姉さま、負けてから取り止めは無しですよ?」 闘場に並ぶ十六人に翠が宣言する。 「仔細は以上の通り、太鼓の音とともに開始とします。他には何か‥‥では、お互い存分に」 ドォオオン、と太鼓の音が響き渡る。 「さて、まず出方を見て一番隙が‥‥」 「うおおーーっ!」 赤マント(ia3521)の見立ても終わらない内に、刀を振り上げ突っ込んでくる九郎丸。足の速さよりも判断の迷いの無さ、というより考えの無さが動きの速さに影響している。 「出鼻くじいたれ!乱戦に持ち込まれると面倒や」 「あー、まぁ彼が一番隙だらけだしね」 拳を振りぬくと同時に真っ赤な波動が放たれる。ごつっと良い音とともに顎が上下するが、そのまま足を止めずに突っ込んでくる。 「人というよりケモノみたいな男だな。ここで通行止めにさせてもらうぜ?」 「緋桜丸、止める程度で他にも注意や。必ず二の手三の手が来るで」 「承知!」 大振りの一撃を体で受け止め、反撃の体勢に入る。 「攻撃こそが最大の防御‥‥俺の二振りの牙、受止めきれるかな?」 左右から挟むように、弐連撃を放つ。 「煌めけ‥‥覇桜散華!」 滅多打ちにされながらも、雄叫びを止めず斬りかかって来る九郎丸。剣術は単調だが、ひたすらに丈夫らしい。しかもよく見れば、敵後方より兼巳の回復術が既に放たれている。初手で袋叩きに合うことまで織り込んだ戦術らしい。 「やっぱ、兼巳を叩かなあかんな。アルネイス、わいが正面からひと当てする間に崩し方を探ってみてや。アレン、後ろに飛ぶ攻撃をしっかり防いだってや、後は‥‥」 音声を上げながらずかずかと踏み出す晃の正面から、同じくずかずかと雪柾が向かってくる。 「斉藤殿、柄に合わぬ参謀役より天儀有数の武技の見せ所ではござらんかね」 「なんや、そう言うて自分は企んどったりせんやろうな?」 「雪柾は常識人を気取っていますが基本は熱血タイマン系なんです」 お座敷でもむもむとお菓子を食べながら翠が呟く。その間にも雪柾の槍撃が次々と繰り出されてくる。 「っとと、中々やるやないか」 「斉藤殿と打ち合えるのは武人の誇り。泰之進殿!手出し無用と皆に伝えよ!」 闘場のほぼ中央で、一騎打ちの様相で打ち合う二人。 (「言うだけの事はあるわな。こりゃ、やり合いながら気ぃ配る余裕はあらへんわな」) 「アルネイス、こっちは手一杯や。後、頼むで!」 「了〜解。今は互いに前衛2人ずつが止まった状態。必要なのは回復役である兼巳殿への進軍ルート、互いに後衛への突破を狙っての攻め合いになります、中衛は確実に陽動、突入を止めてください。灯華殿、可能なら仮菜殿の打つ式への判断をお願いします!」 急に人が変わったように饒舌になったアルネイスが晃に代わって矢継ぎ早に情報を伝える。 「ええい、雪柾までが勝手をしおって」 「‥‥結果的には敵前衛を押し留めてる。問題ない。次は葉桜が敵の拳士を抑えれば完璧」 「む、無理です。赤マントさんって言えば私なんかと格違いの有名な泰拳士さんなんですよ〜」 「何、袋叩きにされても私が直してやる。軽く半殺しにされてこい」 口を動かしつつも手は休めてない。動きに無駄は無いが、緊張感もあまり無い。 「人が一生懸命式組んでる間にだらだらと‥‥いいわよ、まとめておっ死ね」 青筋を立てた仮菜が式を組み上げる。 「大技くるわよ。意味があるかどうかはわからないけど、耳塞いだほうがいいわ。それと優羽華、回復の用意をよろしくね」 灯華がそういった直後、血の涙を流す女の姿をした式の悲鳴が、辺りを文字通り切り裂くように響いた。 「精霊はん、うちらみんなの傷を癒したってなぁ」 「八百万の精霊に聞し召せと以下略だ」 闘場の両端で光が輝くと互いに仕切り直しと言わんばかりに傷が癒えていく。互いに要となる巫女を如何に狙うかという動きになりつつある。 「一箭、続けい。心苦しいが兵法の常として癒し手より狙わせてもらおうぞ」 「冗談じゃない。俺がいる限りそいつは認められねえよ!」 青楼を狙ったカマイタチと矢の連続攻撃の前にアレンが立ち塞がる。 「あ、あの。どうしましたら‥‥」 目の前でぱあっと散った血を見て、顔面蒼白になった青楼が泣きそうな瞳でアレンを見る。 「は、はは‥‥大丈夫、大丈夫だ。ただ、少し回復してもらえたなら、勇気百倍ってとこかな」 「は、はいっ」 我を忘れてふらつくアレンにぎゅっと抱きつくと、淡い光が傷を癒していく。 ひう、と一本の矢が誰もいない場所を飛んでいく。それを見て舌打ちしながら紅砲を応射する赤マント。 「あの弓術師、僕の動く先を予測して撃ってる‥‥折角、攻め入る好機なのに」 自分と敵後衛の間には葉桜しか阻むものがいない。彼女をいなすのは然程難しくないので、攻め入る好機なのだがフェイントを交えた中で本気で突入しようとすること如くを一箭の矢に牽制されている。一本の矢はそこまでの威力は無いが、それに加速を殺されると後衛に近づくより先に術の十字砲火で倒れかねない。 一箭も首を傾げている。彼にしてみれば確実に当たる軌道で矢を放っているのだが、動きを無理矢理変えるほどの赤マントの反射神経が慣性を上回っている為、結果的に全て外れてしまっている。 大きな動きが見えないまま、三面の白兵戦を中心に動いていた流れは、心身の疲労とともに変化し始める。 当初の意に反して九郎丸は中々の難物であった。下手に捌くと後衛まで突き進みかねない以上、どうしても足を止める為に切り結び続けねばならない。緋桜丸は一気に片を付けんと、九郎丸の足を踏みつける。 「悪いな、生き死にを賭けた場だ、これくらいは普通だろ?」 振りの大きい九郎丸の斬撃は内懐に入ってしまうといなしやすい。その分頭突き等の格闘攻撃を受けることにはなるが。割れた額から流れる血を舐めつつ、緋桜丸が不敵な笑みを浮かべる。 「いくら頑丈でも猪武者じゃ俺には勝てんぜ。喰らえよ。我が牙‥‥緋剣零式‥‥迅影!」 肉薄した状態からの、上半身の捻りを利用した刺突。とうとう白目を剥いた九郎丸の巨躯が倒れ込んで来る。 「やれやれ、ようやく一人‥‥っ!」 ぞくりと感じる殺気に、引き抜いた刀を横薙ぎに振る。しかし、視界を半ば塞がれた状態で背面の相手に当てることは叶うものではない。 「お嬢さん方を差し置いて一抜けかよ、格好悪いな」 「卑下するに非ず。貴君の勇戦に敬意を表そう」 死角を突いて接近した火燕の火術に呑まれながら、緋桜丸は賞賛への礼のようににやりと笑んだ。 「一人ずつ脱落‥‥赤マントさん、火燕が突出!」 「今しかないって事だね!」 アルネイスの意を正確に汲んだ赤マントが決死の突入を敢行する。 「邪魔っ!」 気圧されている葉桜をものともせず押しのけ、兼巳一人に狙いを絞って近付いていく。 「‥‥止めろ」 兼巳が回復の手を止めず回避の動きもとらず、まるで些事であるかのようにそれだけ言うと、八角党側の中、後衛から一斉に術が飛ぶ。 「泰拳士速しと言えど、当て所を選ばぬ術の斉射を受ければ‥‥」 「捕まえたっ!!一つ、二つ、三つ‥‥まだまだ、止まらないよ!」 兼巳の言葉を神速の五連撃が塞ぐ。気合で術を凌いだ赤マントの拳を浴びて無様に吹き飛ぶ兼巳。だが、殆ど気力のみで立っていた赤マントも、兼巳の隠し球、精霊砲の直撃を受け糸が切れたように倒れ付す。 「ぐぁ、かはあっ‥‥小娘がぁっ!興が削がれた、やっておれぬわ」 「兼巳先生、降参と」 体面を繕う言い回しをしているが要は戦線離脱である。回復役が消え、大きく天秤が傾くかと思えた時。 「やれやれ、これで先生のお守りは要らなくなったって事ね?」 「一人一殺、一矢必殺!」 守勢にあった中・後衛が寧ろ意気高く攻勢に出る。 「人を守りながらで拙者に勝てると思うでないぞ。身一つで挑まれい」 「断る。人を護れずして騎士を名乗れはしないさ」 眼前の泰之進は確かに他に意識を向けながらでは勝つどころか渡り合うのも厳しい相手だ。しかし後衛を‥‥殊に青楼を護る為、警戒を怠る気はない。 百合の花が描かれたアレンの甲冑の表面に、一つ二つと火花が咲く。渾身の力で振るうクレイモアが、刀と交錯し金属同士の甲高い音を立てる。 「シュタイナー様!わたくしに構わず、お体を大切に‥‥シュタイナー、様?」 打ち込みを受ける度に激しく揺れるアレンに縋るようにして傷を癒そうとする青楼。しかし、精霊の力が伝わっているにも関わらずアレンが動かない。武器を構え、守りの姿勢を取ったままの気絶。堂々たる立往生である。 泰之進は軽く礼すると、そのまま眼前を去っていく。青楼は一生懸命アレンを場外まで送り出そうとするが、女手でそうそう動かせるものでも無い。状況に気付いた医療班に運び出してもらいすこし落ち着いたところで、アレンの血で真っ赤に染まった自分の手を見た青楼の意識はふっと遠のいた。 「ほんなら、おぶうはんも入ったことやし、皆はんほっこりしよし」 開始より半刻の後。或る者は戦い倒れ運び出され、或る者は精魂尽きて離脱を選び、今闘場に残るのは僅かに三人。外では反省と慰労のお茶会のような状態になっている。 「悔しいなあ、折角一番奥まで切り込めたのに」 「当初よりこの兼巳を狙ってくることは明白、虎口に飛び込んだも同然だ」 「滅多打ちにされて逆切れしていた人物の言葉とは思えませんな」 互いの意図を読み切った後は、結局力比べになることも少なくない。 「突っ込んできたのが体力馬鹿じゃなければ、お嬢さん達に俺の剣技の冴えをもっと見せれたんだがな」 「緋桜丸さん、自信満々に迎え撃っていた気がするんですけど‥‥」 「怖かったですの‥‥」 青楼は目を覚まして以来、アレンにしがみ付いたまますんすんと泣いている。恐怖の記憶が抜けていないらしい。アレンは器用にウサギ型に剥いたリンゴを彼女に見せる。 「大丈夫、もう怖い思いはしなくていいんだ。それを食べて落ち着こう。それと‥‥酒も持ってきてるんだが、一緒に飲まないか?美人と一緒に飲むのが一番だからな」 「ほら、そないややこしい顔をせいで、泰之進はんもお飲みやす」 「忝し。御大将が実戦稽古を御所望にも関らず、戦術も無視して好き放題。雪柾までもが一騎打ちの真似事に興じおって‥‥」 優羽華から出されたお茶を啜りつつ年寄り染みた愚痴を止めない泰之進。 「折角タフな人間相手だから色々試してみたくなっちゃうのよね。アヤカシ相手だとそんなこと考える暇ないし、悪党相手だと真っ向勝負なんて滅多にないし」 闘場の中にちょこんと居座ったアルネイスが翠と談笑している。 「名の知れた開拓者の人達とここまで渡り合うとか、八角党の人達も凄いですね〜。どんな経緯で集まったのか教えてくださいなのですよ〜」 「そうですねぇ、今真ん中で殴り合ってる雪柾に会ったのは‥‥」 「へっへへ‥‥一歩引いて全体の指揮を執るんも、とっとと済ましてあっちの輪に加わる予定も狂わされたのう」 「今すぐ負けを認めれば後者は叶うかもしれませんぞ?」 「ほざけぇ、きっちり決着つけんとわしもてめぇも納得いかんやろ?」 既に百を越す打ち合いで、互いの武器はぼろぼろになっている。その状態から、互いに必殺を狙って同じ軌道で振り下ろした斧と槍が勢い良くぶつかり、粉々に砕け散る。 武器を失ったが、二人はまだ戦いを止めない。互いにニヤリと凄みのある笑顔を浮かべながら、ゆっくりと近付いていく。 「くく、がはは!」 「ふふ、ははは!」 ごすっ、めきっ! 拳が繰り出されるたび、骨の一つや二つは砕けそうな音が小気味良く響く。 「うわ、痛そう」 「講談の武侠ものみたいだな」 両者とも、顔面を腫らし足取りもふらつきながらも殴り合い、蹴り合いを止める様子は無い。 最早訓練と言うより、意地のぶつかりあいのようなものである。 「だりゃあ!」 「うおぉ!」 晃の拳が鳩尾にめり込み、雪柾の拳が顎をとらえる。ずるりと先に崩れたのは雪柾。 「くくく、わしの勝ちのよう、や、な‥‥」 勝ち誇りながら、晃も仰向きに倒れる。 その様子を見たアルネイスが満面の笑みで宣言する。これあるを予測して闘場に居座っていたのだ。 「1対0で私達の勝ちなのです。ありがとうございましたですよ〜」 「まぁ残念。ですが彼らの天狗鼻を折れたので良しとしましょうか。皆様、手当てと夕餉を出しますので屋内に入りましょうか」 翠の申し出におお〜、と開拓者達から歓声が上がる。 「み〜ど〜り〜?」 「は‥‥はい、な、何でしょうか?」 猫なで声とも威圧ともつかない灯華の声におびえながら、意を決して振り返る。 そこには紅く染まったメイドさんがいた。 「さ、賭けに負けちゃった翠お嬢ちゃまは、良い子にしまちょうね〜。隅々までお体を洗って、添い寝もしてあげますからね〜」 翠の声にならない悲鳴がはっきりと聞こえた気がした。 |