技殺し、術殺し
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/13 16:25



■オープニング本文

 二体のアヤカシがずんずんと進んでいく。一体は石のような質感の縦長の頭部のみの姿。もう一体は触手‥‥のようなものの塊の中に眼球が埋まっているとでも表現すべき姿。いずれも、象ほどの大きさがある。
 この二体のアヤカシは進行方向に存在するあらゆる物を踏み潰して前進してきた。木々も、橋も、人家も、迎撃を試みた戦士達も。

 二体の進路脇、小さな丘の上で二人の開拓者が待機している。
「気付かれずに済むでしょうか」
 弓を持った開拓者がもう一人の陰陽師風の開拓者に話しかける。
「心配するな、ギルドの情報通りならおそらく既に気付かれている。説明を受けただろう、『奴らは炭小屋から小集落まで、人の気配がある手近な所へ一直線に向かっている‥‥ここから、非常に範囲の広い心眼のような能力を持っていると考えられる。一方で、少人数で牽制、陽動する動きに対してはよほど強力なものでない限り無視を決め込む。つまりこれから行ってもらう調査で襲われる確率も低い』と」
 徐々に近づいてくる二体のアヤカシの威圧的な姿を見ながら、二人は呼吸を整える。
「いいな、それぞれに一射ずつ、効果は考えず確実に当てにいけ」
「わかりました」
 人が歩く程度の速度で進むアヤカシの側面から、弓術師が矢を放つ。矢は石頭には弾かれ、触手にはぶすりと突き刺さる。
 その後に続いて、陰陽師が斬撃符を飛ばす。すると、触手の目玉が大きく見開き、触手を狙った符も、石頭を狙った符も、触手の方へと吸い込まれるように向かっていく。
 二枚とも当たりはするものの、強力な抵抗に阻まれさしたる効果は出ていないようだ。
 アヤカシは開拓者からの攻撃を無かったかのように無視して、そのままゆっくりと進んでいく。
「さすがに、目の前を通り過ぎるときは緊張しましたね」
「これで報告すれば俺たちの仕事は終了。後は、退治の依頼を受ける連中の仕事だ」


「と、いうのが先に一仕事させた連中から得た貴重な情報だ」
 受付が二体のアヤカシの似姿の描かれた紙を開きながら言う。
「この二体、それぞれ術と武器に強い。強いというか、殆ど弾き返す勢いだ。そこで俺は武器に強い石頭のほうを技殺し、術に強い触手のほうを術殺しと呼んでいる」
 また勝手に名付けたらしい。
「報告によると術殺しは術を自分の方に引き寄せる力を持つようだ。そして、先だって壊滅させられた集落からの難民の話では、警備兵たちは二体それぞれに向かっていったが、石頭が一声吼えた瞬間そちらに矛先が集中したそうだ。サムライの咆哮に近い能力だと予測できる」
 まず攻撃を技殺しが引き寄せ、その内で術に相当するものは術殺しが受け止める。なかなかの難敵である。
 唯一幸いなのは、アヤカシの現在位置から最寄の集落までは相当の距離があるということ。その為、どこでこのアヤカシと戦うかの裁量はある程度開拓者に委ねられている。
「わかっていると思うが、情報収集の際は最低限の攻撃だったからこそ無視されたようなもので、倒すつもりで攻撃を続けていれば当然向こうも反撃してくるからな。くれぐれも油断しないように」


■参加者一覧
那木 照日(ia0623
16歳・男・サ
虚空(ia0945
15歳・男・志
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
マリー・ル・レーヴ(ia9229
20歳・女・志
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962
15歳・女・騎


■リプレイ本文

「おお、こりゃ大きい」
 風鬼(ia5399)が呟く。渓谷に引き込んでみると、周囲に比較対象になるものが多い分二体のアヤカシの大きさが際立つ。
 幸か不幸か、アヤカシは十人の開拓者を進路を変えてでも倒したい相手と認識してくれた。その為、有利が見込める渓谷を戦場にするのはさほど問題は無かった。
「あああ‥‥まだ舞い終わってないのに‥‥」
 倉城 紬(ia5229)が嘆く。が、さすがに十人全員に神楽の加護を維持するというのは精霊にも厳しい相談である。
「一先ず、術殺しに向かう方々の保護が出来れば十分でしょう」
 宿奈 芳純(ia9695)が助言する間にも、アヤカシは真っ直ぐに進んでくる。
「話じゃ俺達の配置は知ってるだろうに、余裕の直進か‥‥ありがたく、有利な状況で仕掛けさせてもらうか!」
「よし、初手でなるべく損害を与える努力はしよう」
 九竜・鋼介(ia2192)に続いて虚空(ia0945)が、輝夜(ia1150)が、二体のアヤカシの間に割り込むように突入する。
「一発目くらいは術殺しを狙っておかねばな」
「真空刃がぎりぎりの距離なら‥‥」
 ナイピリカ・ゼッペロン(ia9962)や那木 照日(ia0623)、白蛇(ia5337)は術者の防衛も行うため、初手から肉薄はしない。代わりに各々、遠距離で叩く手段も用意している。
「純粋に発動の手順でわけて引き寄せるか、見た目を元に判断するかですね」
「どちらかに引っかかってくれればありがたいのですわ」
 芳純は全く物理的な式、岩首を。そしてマリー・ル・レーヴ(ia9229)は炎魂縛武の宿った矢を放つ。術殺しの性質を見極める役目だ。

 アヤカシの巨体は、さすがに身軽に回避するような事は無い。一見技殺しに勝るとも劣らない硬質の外見を持つ術殺しだが、開拓者達の一斉攻撃はその外装を容易く貫く。
「我は初手から主一筋じゃ。喰らえモ‥‥技殺し」
 輝夜の焙烙玉が技殺しに当たり爆発する。効果の程はその間の抜けた無表情からは伺えないが、前情報通りなら少なからぬ損傷を与えているはずである。
 と、技殺しの口がまるで顎が外れたように縦に大きく開く。
「む、早速来ますか。寄った所を一網打尽、は困りますな」
 風鬼が影を伸ばして技殺しに纏わりつかせる。直後の咆哮は防げずとも、それに続く攻撃は阻害できるだろう。
「これで‥‥止めれれば‥‥」
 急接近した白蛇が技殺しの口に藁人形を押し込み、不知火の印を組む。だが、術殺しの青い硝子球のような目がギラリと輝き‥‥本来起こるべき目の前で炎は巻き起こらず、術殺しの方向から業炎が吹き上がる。
 そして、技殺しの口から
「オロロロロロ〜〜〜ン」
 と間延びした重低音の声が響き渡る。決して耳をつんざくような大音量ではないが、深く広く、浸透するように広がっていく。
「皆、異常は?」
「特に意識とかに影響された気はしないな」
 そういって鋼介は術殺し目掛けて長巻を振り上げる。が‥‥何故か振り下ろした先には技殺しの硬い体がある。他の仲間達も同様である。
「成程‥‥白蛇様のお蔭で術殺しの能力が、前線の皆様のお蔭で技殺しの能力が見えてきましたね」
 芳純が頷く。
「技殺しの咆哮はサムライ達の技と異なり、意識ではなく攻撃を誘引する一種の妖力。術殺しの術吸引は技殺しを目標にした術の発生物ではなく術そのものを吸引する。つまり‥‥」
 芳純が技殺し目掛けて呼んだ式が、術殺しの上で実体化する。そして、式は岩石の生首となりそのまま術殺しに叩きつけられる。
「術による効果で選り好みできるほど器用な力では無いようで」

「どの程度精密に狙えるかは知らないが、この位置なら容易にはいかないはず」
 技殺しの攻撃法を考え、二体のアヤカシをつなぐ線上を中心に間合いを取る。と、術殺しの触手がするすると伸び、熱線、冷凍光線各4本の斉射が絶妙の角度で放たれてくる。
「つっ、嫌らしい攻撃をする。というか今のを炎弾、氷刃と表現した奴ちょっと出て来い。明らかに槍以上の長さがあるじゃないか」
「むむ、我としたことが。技殺しに気をとられていたが、今の四門射撃、まごうことなき巨大核の系譜に連なるものの撃ち方ではないか。ならば何処かに四枚の遮蔽板が‥‥」
 ありません。

「むむむっ、この距離でも先程の声の領域か」
 技殺しを狙うつもりで矢を射っても、何故か狙いが技殺しに定まっている。
「ならば半端なことをするより突貫じゃ!ナイピリカ・ゼッペロン、参るぞ!」
 早々に射撃戦に見切りをつけ、剣を抜いて白兵戦の構えに入る。風鬼の術で動きが鈍っている上、先に切り込んだ面子に狙いを定めるため技殺しは後ろを向いている。接近には絶好のタイミングだ。

 接近していた開拓者の中で、唯一技殺しの声の力に抵抗できたのは白蛇。自由に動ける機会を利用して、術殺しへと狙いを定める。
「‥‥邪魔」
 進路を塞ぐように寄ってくる触手を切り裂くと、中心にある目玉に手裏剣を一気に投げつける。目玉は触手部分と「全く同じ」手応えでさくさくと貫かれ、術殺しの触手が苦悶に蠢き、青い硝子のような目玉の上で金属質の瞼が忙しなく開閉する。しかし、芳純のおそらく技殺しを狙ったものであろう岩首は相変わらず術殺しへと引き寄せられている。
「技殺しの口も、この目玉も‥‥能力の要ではない‥‥?象徴的なものなら‥‥集中して狙うのも不要‥‥」
 斬られた触手が早くも再生し、技殺しに向かう仲間に先程のような十字砲火を撃とうとしている。また全てを切り裂いても、白蛇の行動の隙を突いて斉射は行われるだろう。
「それなら‥‥」
 あえて全てを斬らず、まばらに数本ずつ数を減らす。残った触手と再生する触手とで、タイミングがずれれば向こうも避け易くなるだろう。

 距離を取った位置では、マリーが狙撃戦を続けている。
「う〜ん、やっぱりあまり効いているようには見えませんわ」
 1町近く離れている彼女ですら、技殺しの能力から逃れることは出来なかった。術殺しに届かせんと引き絞る曲射も、いつの間にか技殺しを狙う力加減になっている。
「当たりさえすれば、いつかは貫けます。さながら石を穿つ水滴の如く」
「それは、何年もかかるということでしょうか‥‥」
 芳純は地に片手を付け、真言を唱えている。巨体のアヤカシ二体が存在するこの場所は周囲より瘴気は濃い。練力として吸収するには十分だ。

 がぱっと技殺しの口が開く。
「待っておった瞬間じゃ。れーざーびーむと呼ばれし我の肩を甘く見るでないぞ」
 輝夜がすかさず、手にした焙烙玉を放り込む。
「やったか!?」
「それは‥‥明らかに駄目な言霊だと思います」
 虚空の言うとおり、爆煙の中から口を開いたままの技殺しがぬっと姿を現す。
「くそ、仕方ねえ。流れ弾が術殺しにも飛ぶのを信じて盾で受けるか。ただ、横からは勘弁な‥‥盾(縦)だけに!」
 鋼介の駄洒落に咆哮並の力があったのか、技殺しは彼のお望み通り正面から何故か「ポワワワワ」と音を発しながら円月輪を飛ばしてくる。
 その数、数十枚。
「ちょ、待、やっぱ今の無しで!うおぉおおお!?」
「鋼介、汝の犠牲は無駄には‥‥地面や壁で跳ね返るとは聞いておらんぞ!?」
「避ければ‥‥避けきった分は、後ろに行くはず‥‥!」

 円月輪は命中と同時に光の粒になって砕け散る。遠目に見れば花火のようで綺麗だ‥‥現場は阿鼻叫喚だが。
「あぁ、あれは駄目ですな」
「風鬼さん、冗談でもそういうことは言っちゃ駄目です‥‥治療に、専念したほうがいいですか」
「盾は‥‥私が務めます。ご心配なく‥‥」
 技殺しと術殺しに挟まれた位置にいる前衛に治療を行うとなると、それなりに危険が予想される。紬を護衛する形で照日も前進する。
「いってらっしゃい。おっと、そろそろ次の影縛りの時間ですな」

 数枚の円月輪は開拓者の後ろに抜け、術殺しに当たっている。もっとも、一枚一枚の手傷は微々たる物、大きな損害を与えるには至っていない。
「思ったよりも後ろに抜けていない‥‥俺もまだまだ未熟だな」
「当たった瞬間すぐ壊れちまうから、弾き飛ばすわけにもいかないしな」
「そもそも仲間に誤爆している時点で十分間抜けじゃ」
 口々に呟く。
「しかし、とりあえず引き寄せられるように技殺しを殴るしかないんだよな」
「我は端からそうしておるがな!」
 血をぬぐいながら溜息をつく鋼介に対し、輝夜がふんぞり返りながら焙烙玉に火をともす。
「出し惜しみをしている余裕は無いな‥‥なんとか隙を見つけないと」
 いつでも霊力を矛先に送れる準備をしつつ、虚空は技殺しの様子を伺う。
「やーいやーい、鉄面皮めがー!」
 技殺しの巨体の向こう側から、ナイピリカの罵声になっているのかなっていないのか良くわからない声が聞こえる。
「悔しかったら攻撃してみるんじゃな!」
 果たして、悔しかったのかどうかはわからないが、技殺しがくるりと向きを変え彼女に狙いをつける。
「ふふん、大人数にばら撒く攻撃を行う輩は一人に対する攻撃の密度は弱まる、鉄則じゃな」
 オーラの光を纏いながら、勝ち誇った表情で防御の姿勢を取る。
 と、技殺しが細く口をすぼめる。この形からなら、横に散らずに正面の相手のみに集中的に攻撃できてしまうだろう。
「こ、こ、この卑怯者〜〜!!」

 ポワワワワ、という間抜けな音とナイピリカの悲鳴を聞けば、技殺しの向こうで起きている事態は想像がつく。
 この絶好の好機を逃すまいと近付いた虚空の両横から、触手の先端が顔を出す。
「くそっ、向こうのほうが一手先か」
 毒づいた時、触手に三本の手裏剣が突き刺さる。
「僕が支援する‥‥術殺しは気にせず、技殺しに‥‥集中して」
「ありがたい!」
 霊力を込めた槍を、今度こそ技殺しの後頭部に突き立てる。普通に攻撃していた時の硬さが嘘のようにあっさりと突き立つ。

 白蛇が術殺し本体への攻撃を再開しようとすると、不思議な現象が起きていた。
 術殺しの目玉の色が、青から黄色へと変わっている。
「これは‥‥何か新しい能力を使う先触れ‥‥?」
「否!弱っている証じゃ!恐らく赤に変わって、最後は砕け散るであろう」
 投擲手‥‥というよりは爆弾魔と化している輝夜が術殺しを一目見て叫ぶ。
「あのアヤカシの特徴を知ってるのか輝夜!?」
「いや。ただの勘じゃ」

 だが事実、術殺しの目玉の色は黄色から赤へと変貌する。
「やれやれ、弱点を突いて尚数多の攻撃を要するとは、厄介な相手でした」
 芳純は頭を振ると、手にした笏に練を込める。
「そろそろ、終りにしたいところですね」
 岩首の落着とほぼ同時に、白蛇の手裏剣が術殺しに突き刺さる。術殺しの眼球は硝子のように砕け散り、全身が希薄になって消えていく。
「‥‥さよなら‥‥あの子も一緒に送るから、一足先に眠ってて‥‥」

「ようやく流れが傾いてきたか。連携が崩れれば恐るるに足らず!」
「ああ、盛り上がっているところ申し訳ないんですが」
 いつの間にか岩陰に隠れた風鬼が告げる。
「なにやら全方位攻撃が来そうなんですわ」
「早く言え!!」
「はわわ‥‥紬さん、私の後ろに隠れて‥‥!」
 程なく、クルクルと回りだした技殺しが大量の円月輪をぶち撒けた。

「ふ、ふはははは!無闇に全方位に飛ばせば、其々に対する攻撃は薄くなる!この程度攻撃の内に入らぬわ!」
 さすが、一人でほぼ全弾を受けたことのあるナイピリカの言葉は重みがある。
 術殺しの消滅によって開拓者の負担が減り、さらには術による攻撃が可能になり、技殺しも目に見えて崩れていくのがわかる。
「しかし、硬いな。術の無い俺達だとどうやっても威力に欠けるぜ」
「もう一息だ、頑張れ。これが最後の精霊剣だ、喰らえ!」
 虚空の一突きとともに、技殺しの全身にひびが入り‥‥消滅する。アヤカシの存在を証明するのは、大地と開拓者に残る傷跡だけである。
「連携が良いのか悪いのか‥‥やはり、どんな能力も扱う者次第ということじゃの。ところで、音楽と景色が変わって二幕目とかはあるまいな」
「なんだそれは」
 辺りをきょろきょろと見回す輝夜に突っ込みが入る。

「ええっと、こんな外見だったでしょうか」
「もう少し鼻が高くなかったですか?」
「目玉、そんなに可愛げは無かったと思うんだが‥‥」
「手が痛くなるほどの硬さじゃったから、その辺りを色合いで上手く表現してじゃな」
「それは文字情報‥‥」
 マリーがアヤカシ手帳に描き付けた技殺し、術殺しを見て皆が勝手に修正点を口出しする。
「こうして記録しておけば、役に立つかもしれませんわ!」
 ふふんと鼻を鳴らすマリー。

「良い連携だったよ‥‥仲良く、眠って‥‥」
 白蛇の吹く哀桜笛の鎮魂の音は、技殺しの咆哮に劣らず良く響き渡った。