【神乱】ジェレゾの休日
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/27 05:10



■オープニング本文

「あ、ん、にゃ、ろ、おーーー!」
 天儀の開拓者ギルドの事務室で、いつも仏頂面の職員が珍しく阿修羅の形相で怒っていた。
「ど、どうしたんですか先輩。大アヤカシも粉砕できそうな怒気を放って」
「出来たら苦労しない。まぁ‥‥これを読め」
 と話しかけてきた後輩職員にしわくちゃになるまで握り締めた手紙を見せる。
『拝啓。天儀春桜鮮明成哉。我今在雪帝国都。終大乱以無聊也。望遊歩、然我周皆見厭顔。我望、共遊歩案内興所開拓者。疾来。追、我他都名所、欲知駆鎧工房詳細。若其方不送開拓者、我忍入工房、若被見是国之大事、誠遺憾也。 八角翠』
「え〜〜っと、最後に名前を書いている方からの手紙という事はわかりましたけど、私古式文はさっぱりで‥‥そんなに怒りたくなる内容なんですか?」
「最近じゃ普通の生活じゃ使いもしない言葉だけど、貴族とか上流はたまに使うからこの仕事長く続けるなら一応覚えておいたほうがいいぞ。わかり易く言うと『こんにちは。天儀は桜が満開ですか?私は今ジルベリアの帝都に居ます。先の戦争も終わって暇です。物見遊山をしたいのですが、周りの連中は見飽きた顔ばかりで面白みがありません。一緒に色々行ったり観光案内してくれる開拓者を至急お願いします。そうそう、ところで私、駆鎧工房にも興味あるんで、もしギルドがすぐに開拓者を寄越してくれないならこっそり忍び込んで覗いちゃいます。もし見つかったら天儀とジルベリアの外交問題になるかもしれませんね〜、元を正せばギルドのせいで。ざまぁ(笑) はっかくみどり』という感じだ」
「うわ、ムカつく」
「そうだろうそうだろう、こういう迂遠な嫌がらせが得意なガキなんだ。まあ多少意訳はしたがほぼ確実にこういうニュアンスで言ってきてる」
「でもこんなちょっとあれな用件でも依頼は依頼ですしねえ」
「というか性格上開拓者送らないと本気で工房にスパイしに行くからな」

「えっくし!!」
 ホテルの高級客室で、話題の人こと八角翠が大きくくしゃみを一つ。
「今頃寒さが効いてきましたかな?」
「多分噂されているのでしょう。自家か他家か、ギルドかは知りませんが。それより楽しみですねー、ちゃんと人を送ってくれるかどうか」
 自らヴァイツァウの乱に参戦し、間近で見た銃士を配した布陣や攻城兵器のスケッチを清書しながらわくわくした声で言う翠。兵法と遊興は彼女の行動の二大原動力である。
「ええ、と御大将。もし開拓者ギルドがこちらの依頼を無視したら‥‥どうなさるおつもりなので?」
 覗く、といってもこっそり見るだけでは収まらない。保守点検の設備やら駆鎧の設計図面やら、彼女が知りたい事を全部知ろうとすれば、それは一般にはスパイ活動の部類に入る行為になる。勿論罪を被るときは郎党も一蓮托生。えらい事である。
 聞きにくい事をとうとう口にした部下に対し、んー、と顎に指をあてて考える翠。
「嘘はつくな、というのが八角家の家訓なので有言実行するしかありませんね」
「ちょ、御大将!自分は御大将がお生まれになった頃から既に八角家に仕えておりましたがそんな家訓聞いたことありませんぞ!それ自体が嘘じゃないですか!?」
 もの凄くあくどい笑顔でさらりと言い切った翠に、部下達は右往左往するほか無い。

 一難去ったジルベリアと天儀に新たに持ち上がりかけた波乱の火種。これを未然に防げるのは、開拓者しか居ない‥‥多分。



■参加者一覧
クノン(ia0545
18歳・女・サ
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
セルシウス・エルダー(ib0052
21歳・男・騎
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
メイユ(ib0232
26歳・女・魔


■リプレイ本文

「皆さん、おはようございます!お初にお目にかかる方々も、久しくご無沙汰していた方々も、よろしくお願い致しますっ!」
 翠、平静を装っているが明らかに普段より声が弾んで‥‥というよりも浮ついている。

(「この子も普段大人びた態度取ってるけど、若いというか可愛いとこが結構あるのよねー」)
 彼女の人となりをそれなりに知る霧崎 灯華(ia1054)は、早速翠を捕まえるように抱きつく。
「久しぶり、相変わらずみたいね。ギルドの人怒ってたわよ〜」
「わひゃあ!‥‥いいんですよ、無理難題を受け持つ仕事なんですから頭抱えるくらいが丁度」
 一通りかいぐりかいぐりしてから放してやると、翠は他の開拓者達に向き直り何事も無かったかのように咳払いして改めて挨拶する。
「帝国に仕える騎士、セルシウス・エルダー(ib0052)だ。どうぞお見知りおきを」
「同じく帝国騎士、アーシャ・エルダー(ib0054)。セラとは夫婦よ、よろしくね」
 セルシウス、アーシャの二人はそれでも丁寧な物腰を崩さず挨拶する。
「設楽 万理(ia5443)よ、はじめまして。にしても、ギルドの話や噂に聞いていた印象と大分違うわね」
 人伝に聞く翠はもっと年上で、どこか狂気じみた人物像で描写される。少なくとも灯華に頬をふにふにされて嫌がる姿には到達できない。
 とはいえこの違いは好ましいものだ。一緒に楽しむなら打ち解け易い相手の方がいいに決まっている。
「ふふ、早速距離が縮んで嬉しい限りです。では、早速街に繰り出しましょう」
 メイユ(ib0232)は微笑んで、ホテルの玄関扉を開いた。

「まずその格好よね」
 街に繰り出すなり、灯華が翠を見て言う。
「どこかおかしいですか?」
「貴族の男のお忍びなら、ごく一般的な服装だが‥‥」
 セルシウスが呻く。異邦の少女が服に外套、ハットまで男物で揃えたのではかえって人目を引く。
「でも良かったわ。翠さんの泊まるホテルが知っているお店の近くで」
「お!?」
 がしっと腕を掴んでアーシャがにっこりと笑う。
「なるほど、面白そうじゃない」
「おお!?」
 灯華がもう片腕を掴んで楽しそうな顔をする。
「灯華が言ってた事を伝え終わったら私も入るから」
「これから色々回るから、お手柔らかにな」
 万理とセルシウスが自分の護衛と何を話しているのか、外で待つ様子のクノン(ia0545)がもくもくと食べているのは何なのかを聞く暇も与えず、二人は翠を引きずって洋服店に入っていった。

「お待たせ。どう、楽しんでる?」
「ええ、似合う服がありすぎて困るくらいです」
 店に入ってきた万理をメイユが出迎える。奥からは楽しそうな声が聞こえてくる。
「いや〜ん、翠さん、似合います〜」
「こういうのの相性は出自もあるわよね。ずるいな〜」
「も、目的が変わってませんか!?」
 可愛らしい洋服を翠に着せ替えてご満悦のアーシャとニヤニヤしながら鏡を持つ灯華。
「あら、意外と暖色系も似合ってるじゃない」
「うう、アーシャ様がお選びになったこの服、目立つ気がするんですが」
 うー、と唸る翠をメイユが笑顔で諭す。
「翠さん、無理に地味な服装で固めるよりも普通に他の人が良いと思う服を着たほうが奇異の目では見られずに済むものですよ」
 人目をひかないわけではないが、という部分は黙っておいた。

「流行のお店なら早目で今行ったほうがいいわね。皆、それでいい?」
「いいですね」「いいわよ」「‥‥そうだな(もぐもぐ)」「お天気もいいし、オープンカフェで楽しめますね」「皆様がよろしいのでしたら早速♪」
「朝からそんなに経ってないのにもう入るのか!?」
 一斉に賛同した自分以外の声にセルシウスが驚く。ちなみに彼は席取りの際に、自分達以外のお客の多さにもう一度驚くことになる。
 早速店先の陳列を覗き込みながら、地元のメイユやアーシャにお勧めを聞く。
「翠さんはどんなケーキがお好きです?」
「綺麗なケーキなら大歓迎です。出来ればクリームが沢山乗った‥‥」
 見た目と実益の間で揺れ動く翠。
「でしたら大ケルニクスなどどうでしょう?綺麗ですよ」
 街や通り、地名を冠したお菓子は多い。アーシャが薦めた大ケルニクスは名の通り大ケルニクス山脈を模したケーキ。ココア粉を混ぜ堅めに焼いた黒い尖った土台に、雪を思わせるクリームが複雑な紋様を描くように搾り出されている。
「私は甘さは控えめな方が好きかな」
「パン・オ・ジェレーズが万理さんのお口に合うかと」
 パン・オ・ジェレーズ(ジェレゾのパン)は硬めのパイに干し果物と木の実をまぶした伝統的な菓子。元々は晩秋に焼いて冬の間に食べる保存食でもあった。
「食べでがありそうなのは‥‥」
「クノンはクグロフでも食べてなさい」

「はい、セラの好きなベリータルト。あーんして♪」
「ありがとう、お返しをしないとな。ほら、口を開けて。俺の可愛い小鳥さん」
「半分も食べない内にご馳走様を言う羽目になるとは思わなかったわね」
 ため息をつく万理の視線の先では、一度やってみたかったという食べさせっこを始めたアーシャとセルシウスがいつしか二人の空間に入っていた。
「あー、でもああいうのはいっぺんやってみたいわね」
 泳ぐ灯華の目線が、幸せそうな顔でケーキを頬張る翠のところで止まる。
「はい、あーん♪」
「きゅ、急にどうしたんですか灯華さん」(あむ)
 驚きながらも出されたケーキはしっかり食べる。
「あら可愛い。私もやってみよう。はい、あ〜ん」
「ふむ‥‥私のもどうぞ」(ずい)
「め、メイユさ〜ん」
 万理とクノンからも出してきたので、助け舟をメイユに求める翠。
「あらあら、皆さんすっかり打ち解けて。はい、あ〜ん」
 しかしメイユが出したのは助け舟ではなく退路を断つ一撃だった。

 甘味を十分に堪能した一行が次に向かったのは凱旋公園。
「こういう壮麗な空間ってのは天儀ではそんなに多くないのよね。ずらっと騎士が並ぶと壮観でしょうねえ」
 だーっと駆け回った万理がくるりと辺りを見回す。祭日にはパレードが行われると聞き、その様子を頭に思い浮かべる。
「貴族や寺院の庭の私的な庭園か、山野に出掛けるかになりますからね」
 市中に存在し住民にも解放されている管理された自然、というのは天儀では珍しい。都市によってはそれらしきものも作られつつあるが、文化として根付いているジルベリアとではやはり大きな差がある。
「二人はパレードとか参加した事は?」
 アーシャとセルシウスに尋ねる。
「無い訳ではないが、式典に参加するのは専門の楽隊や儀仗兵が主だな」
「名誉な事だけど、生半可な訓練より大変なのよね。表情や姿勢まで細かく定められてるし」
 あまり良い思い出ばかりでは無さそうだ。

 公園の次に向かったのはカンプラード美術館。一人の奇矯な貴族の作った美の空間である。
 ここまで、食べるかぼーっと付いて来る事が多かったクノンが突然饒舌になる。
「建物は建てられてしまうとその場を動けない‥‥人ならば不自由極まりない状況ですが‥‥それでも其処彼処に色々な自由が詰まっています‥‥例えばそのデザインや構造、それと‥‥聞いてますか?」
「ごめん翠さんが一人でじっくり聞きたいって」
「設楽様!?」
 話が延々と続くもので、つい聞き手の押し付け合いになる。が、言わんとするところはわかる。
 かつて教会だったこの建物、基部になる地上階は巨大な一枚岩を削って造られている。その上に石材を用いた繊細な鐘楼が林立している。日中、鐘楼は日の光を互いに反射し、建物全体が自ら光を発するかのように輝きを見せる。
「嘘か真か、ジェレゾがまだ小さな町だった頃からあったという話もある」
「今のように帝国が強い統率を発揮する前は、大陸の各地で様々な信仰が人々の崇拝を受けていましたから‥‥」
 メイユが隠し持っている十字架を軽く握る。皇帝崇拝の拡大とともにこの教会も衰退し、荒れるに任されていた。それを当代のカンプラード伯が自らの美術館として手入れを始めたそうだ。

 建物内の各所に警備兵は置かれているが、基本的に入る者拒まずがこの美術館の方針になっている。
「時代が下がるにつれて派手になってるわね‥‥この辺とか、本当に使い物になるのかしら?」
 伯爵家の代々の当主の武具を見ながらうーんと唸る万理。飾り気の無い初代の武具と比べ、ここ数代になると彫金鮮やかな甲冑や宝石細工の鞘に収められた長剣など、過多な程の装飾が目立つ。

「へぇ。泰や天儀の品も集めてるんですね」
「あっちを見る限り派手好みかと思ってたけど、意外と渋い趣味もあるのかしらね」
 水墨画や陶磁器の器などが、丁寧に展示されている。
「翠姫、如何です?」
 セルシウス達は勿論の事、灯華やクノンにしても綺麗か否かは判断できても価値的な基準はわからない。
「良い目利きですねぇ。来歴不明の品こそあれ、贋作は一つもありませんよ。作りも手抜きをしていない良品ばかりですね」
 翠が感心したように言う。異文化の美術品の鑑定は相当に難しい。特に、日用品としてやってくる輸入品の中から美術的価値を見出せるかは殆ど個人の才覚による。
「翠と気が合うんじゃない?」
「ですが好事魔な方は大抵性格に難がありますから‥‥」
 自分の事を棚上げしている。

 館内で圧倒的多数は、ジルベリア由来の油彩や彫刻品、細工品である。そしてその一角は、陳列された芸術品を技量を磨く教材とする絵師や彫刻家が大勢いる。中には、館内でカンバスを広げる者も居る。
「あら‥‥お久しぶりです、画伯さん。ここでお会いするとは思っていませんでした」
「おお、あんたか。偶には違うものを描くのも気晴らしに良くてな」
 メイユはその中の一人、良く顔を知る自らを画伯と称する老絵師に声をかける。皆で横からカンバスを見ると、老絵師は陳列品ではなく、それを凝視する若い芸術家達の姿を描いている。
「画伯さんは、昔からこの街の色々な姿を描いて来た方なんです」
「メイユさんにはくたばりかけていた時に助けてもらってな。礼に肖像画を描かせてくれと言ってるんだが未だに色よい返事が貰えん」
「やっぱり、住民同士ひょんなところで縁があるものね」
「折角なので、ここから港へ向かう道は私と画伯さんに選ばせてもらえませんか?ジェレゾの別の顔が見えますよ」

 二人に案内されたのは、旧市街を中心とした下町一帯。傍からは普通の民家にしか見えないパン屋や、近所のおばさん同士が路上で互いに得意分野の物を繕う姿、家と家の間の小さな農園を手入れする男など、目抜き通りとは違った生活の様子が窺える。
「この辺りは、特に旧い建築様式のようです。元々は広い敷地の屋敷が都市化と共に集合住宅化していった痕跡が覗えますね。おそらく‥‥」
「クノンさんの仰るとおり、旧市街とは呼ばれていますがかつては郊外に分類される地域でした。今でも、当時の面影は色々なところに残っているんですよ」
 さっきまで焼きたてパンを頬張っていた状態から再度覚醒したクノンの建築物論を遮るようにしてメイユが紹介する。
 そして港に出る口のところにある画伯の家には、数多くの風景画が所狭しと置かれている。
「へえ、昔はこうなってたんだ」
「やっぱり工房が建った辺りからがらりと変わっていくわね」
 絵の中でも、ここ数十年の間でジェレゾが様々に姿を変えていることが判る。
「ありがとうございますメイユ様。普通では出来ない知見の広め方をする事ができました」
「ジェレゾは、変化の激しい街です。そして、目立つ所ばかりが全てではありません。翠さん達にその色々な姿を知って、好きになってもらえればここに住む一人として、本当に嬉しい事です」
 礼を言う翠にそう返してメイユは微笑んだ。

「でかっ!店多っ!」
 驚きの声が上がるのも無理は無い。整然とした新市街とものんびりとした旧市街と異なる雑然とした空間が港から放射状に広がっている。
 最初は船員個人の輸入品等を捌く場と、彼ら相手に食べ物や酒を売る露店程度だったところだが、段々と規模が広がって今の姿になって欲しい。今では天儀や泰からの入国者を見越してわざわざここで宝飾や工芸品を売る者も多い。
「懐かしいな」
 セルシウスが足を止めて見る先には、故郷の部族の細工物の店がある。
(「後でアーシャに何か買っていこう」)
「へぇ、天儀で見かけても不思議じゃないものもあるのね」
「意図してそうしてるんでしょうね。街中のお店とはデザインが違って新鮮ね」
「それでも宝石細工には土地柄が出ますね」
 小さな仮店舗にわいわいと群がって物色する。簪のようで、少し違う風の髪飾りなど天儀への輸出を意識した品は多い。
「うん、アーシャも翠姫達も楽しそうでなにより」
 ここまでの買い物の荷物を抱えながらも、笑顔で見守るセルシウス。
「ね〜、セラ〜、これ似合うかなあ?こっちはどう??」
「あぁ、似合っているぞアーシャ。君の銀の髪に良く映える」
 そして呼ばれればすぐに向かってこの言葉。愛妻家の鑑である。

「黒髪に映える、可愛い髪飾りとかどうでしょう?」
「あっちでは軍装をしちゃうから、ブローチなんかが良いんじゃない?」
 自分の買い物がてら、アーシャも万理も翠を囲ってちょっかいをかけていく。自分以外の人に似合う物を選ぶのは割と面白い。
「んー、これとかどうかしら?あたしとお揃いにするの。何着ててもつけやすいしね」
 灯華が翠に見せたのは、翡翠を使った耳飾り。
「翠の名前も入ってるし、翡翠は好きかなーと思って。嫌?」
 ぶんぶんと首を横に振って早速付けてみる翠。気に入ったようだ。

 日も大分傾いてきた頃。
「さて、それじゃ最後に工房も見ていきましょうか」
「本当ですか!?」
 万理の言葉に反応する翠。
「勝手に侵入されても困るから、日中色々話をつけてたのよね」
「無断で翠姫の護衛を拝借したのは申し訳なかった」
(「興奮の余り暴発しないでしょうか‥‥」)
(「たっぷり遊んだし、無茶する余力は無いと信じたいんだけど」)
 灯華達のヒソヒソ話をよそに、万理とセルシウスに引率されて嬉しそうに工房へ向かう翠。
 見学中、事前の目論見は見事に外れ開拓者達は結局隙あらば図面をくすねようとしたり進入禁止区画に忍び込もうとする翠に苦労する羽目になる。

「本日はお世話になりました」
「あー、工房で頭下げてる時だけは本当にお世話してたと思うわ」
 あんまり反省して無さそうな翠を見て万理がぼやく。
「ま、依頼主様が笑顔って事はいい仕事したって事じゃないかしら?」
「‥‥」(こくり)
「依頼、というより俺達も自然に楽しませて頂きました。感謝します、翠姫」
「楽しかったわね、セラ。翠さん、是非また遊びに来てくださいね!」
「また来たいと思うようになって頂ければ私も幸いです」
 灯華、クノン、セルシウス、アーシャ、メイユ‥‥皆の顔を見回して、翠は笑顔で答えた。
「はい!!」