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■オープニング本文 アーマー。 ジルベリア帝国の技術の粋。騎士の証。戦場の華。 その数は未だ少なく帝国騎士といえど須らくが持てるものではない。 反乱軍による襲撃が多発しているためとは言え、輸送部隊の護衛に二騎も回されているのは珍しい事である。 「ご苦労、帝国輸送隊の諸君」 これを待ち受けていた反乱軍部隊は、狙撃兵数名と・・・・アーマー二十騎。反乱軍もアーマーを保有している旨の報告はあったが、これだけの数が補給路遮断のために来ているとは、誰が予想できるだろうか。 「俺はこの遊撃隊のリーダー、『元』帝国騎士のダヴィドヴィチだ」 二十騎の内、一番年季の入ったアーマーが進み出ると、騎士の礼をする。 「戦力比はご覧のとおり。もし君達が物資とアーマーを置いて『転進』するなら追わない事を約束しよう」 何を愚かな、君命を放棄する気は無いと答える騎士たちにダヴィドヴィチは余裕の姿勢を崩さずに言う。 「ならば騎士の流儀により、一騎打ちで決めるとしようか。こちらはまず俺。そちらは・・・・何なら二騎一緒でも構わんよ?」 この挑発を受けて、帝国騎士の一人が剣を高々と掲げて名乗り出る。 (「やーれやれ、冷や冷やしたが何とかここまで持ち込めたか。・・・・注意力不足と我慢不足で減点2、帝国騎士も人手不足かねぇ」) 勝負は一瞬だった。 ダヴィドヴィチは剣と盾を構えて正面より切りかかった帝国騎士の一撃を内懐に踏み込んで威力を殺すと同時に、自分の盾を相手の足に絡ませすくい上げる。転倒したところで脚に飛び乗り、全重量をかけてへし曲げる。 堪らず救援に来たもう一人の騎士には、足元の土をひと掬い投げつける。それに視界を遮られた僅かな間に踏み込んで、正面装甲を力づくでずらしわずかな隙間に剣をねじ込む。 騎士としては外道の技だが、いずれもアーマーへの慣れと基本の技量に圧倒的な差がなければこうも見事には決まらない。 アーマーを有する部隊に、残る輸送部隊の戦力では到底勝ち目が無い。目こぼしとして帝国騎士・・・・一人は重傷、一人は即死・・・・の身柄を貰いうけ撤退する。勿論補給物資は丸ごと反乱軍に奪われる形だ。 「マチェクとヘギンに言っておいてくれ。あと二日は粘れるだろうが、それ以上は保証しかねると」 ダヴィドヴィチは奪った物資を後方に送る兵に言付ける。そして自分の部隊の兵達に、今尚一列横隊のまま直立する19騎を指しながら指示する。 「それじゃみなの衆、次の仕事の準備だ。木偶は壊れやすいから、運ぶときは気をつけろよ。鹵獲した2騎のアーマー、乗れる奴は調整急いでくれ」 (「はったりで何とかしてきたが、さすがに限界だろうなあ。いや、孤立する前に逃げれる好機と見ておくべきか」) 「何故反乱軍がここに二十騎ものアーマーを繰り出してきたかを詮索する余裕はない。目下の課題はこの敵部隊をいかに排除するかだ」 「反乱軍アーマー隊、発見しました!」 「でかした!」 アーマー部隊は強力だが弱点もある。その一つは、嫌がおうにも目立つ隠密性の低さである。故にその動きは斥侯によって逐一確認する事が出来る。 一方で輜重部隊も隠密性や走破性に甚だ欠ける為、限られた輸送路で待ち構えられると遭遇を回避する事は難しい。 「既に輸送路で封鎖を展開中。数はアーマー二十、及び狙撃兵少数!先日の戦闘で鹵獲された二騎も確認しました」 「ふむ?」 帝国輜重将校は首をかしげる。鹵獲された二騎を加えたのならば、二十二騎となるはずである。抽出されたか・・・・もしくは何か、見落としている理由があるのか。 「いずれにしろ、アーマーを持つことが確実な敵部隊に輜重軍では歯が立たん。かといって主戦場からこれ以上アーマーを抽出することは出来ん。よって依頼を回し、ギルドの開拓者を先鋒に立てる」 反乱軍の封鎖地点手前で輜重部隊が停止する。進むにしろ戻るにしろ開拓者の勝敗を見届けてから動く予定だ。 「ではお願いします」 輜重隊長が開拓者に敬礼する。 「敵の部隊長ダヴィドヴィチは一代目アーマーの運用試験の頃から乗りこなして来たベテランです。お気をつけて」 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
佐久間 一(ia0503)
22歳・男・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
嵩山 薫(ia1747)
33歳・女・泰
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
タクト・ローランド(ia5373)
20歳・男・シ
メグレズ・ファウンテン(ia9696)
25歳・女・サ |
■リプレイ本文 「うわー、これをとび越えるのはちょっと大変かな」 開拓者達は二手に分かれ、迂回して後背をつく心積もりで居た。 その途中赤マント(ia3521)達右翼勢の前で、駆鎧がごろりと木を横倒す。他にも横転した荷車や岩など、手近なものを駆鎧の力で持ち上げては転がしていく。 「反応があるとは思っていたが、これは・・・・まずいな」 焔 龍牙(ia0904)の懸念に在るとおり、障害物を避ける事によって生じる時間差は、両翼挟撃の利点を著しく殺ぐ上、左翼の危険度が増す事になる。 「形振り構わないやり方ね・・・・こうした小細工の時点で二十騎揃えたというのはブラフだって白状してしまっているわ」 「その木の陰に狙撃兵が一人潜り込んだ。残りは長距離か?心眼でかからないという事は」 嵩山 薫(ia1747)の言葉を証明するかのように、駆鎧を前に押し立てながら弓を持った軽装兵が細かく牽制射撃を仕掛けてくる。明らかに、時間稼ぎを狙った動きだ。 「仕方ねぇ。デカブツは俺らで抑えるから龍牙は上手い事狙撃兵をやっちゃってくれ」 手裏剣を抜いたタクト・ローランド(ia5373)が身構える。 右翼が障害物越えに難儀している頃、左翼は展開を完了した駆鎧十九騎と相対する。 「さて開拓者の諸君!・・・・無用とは思うがあえて口上は聞きたいかね?」 ダヴィドヴィチが開口一番そう切り出す。 「自分達に対しても数で威圧しながらの一騎討ちに持ち込むつもりだったのですか?」 「まさか。何度も同じ手で行くなんて芸のない事はしないよ」 「何かもの凄く軽いノリの人だナ」 佐久間 一(ia0503)の問いかけに大げさに頭を振って答える。 「すまないが、もう片翼のお仲間は色々と足止めをかけさせてもらってるよ。これでさくっと勝てれば嬉しいんだがね」 「そこまでして、こちらの数を絞ろうとする理由はないでしょう・・・・本当に、十九騎全てが駆鎧ならば」 一に言われて、大仰に肩をすくめて見せるダヴィドヴィチ。 「ああ、そこまでばれてるなら話は早いかね。ちなみに両端の二個だけは壊すのは勘弁してくれ、色々と・・・・手間かけてるんでね」 「うわ、そう言われると俄然罠っぽく聞こえるナ」 「あの言葉自体の真偽もわかりません・・・・最初に決めたとおりやってみましょう」 焙烙玉を抱えた梢・飛鈴(ia0034)が笑顔をひきつらせる。ヘラルディア(ia0397)にしても、確実な保証があるわけでは無いが、相手の言葉に踊らされる事を避ける事を優先しての考えだ。 「さて、反乱軍騎士ダヴィドヴィチとヤーコブが相手だ。逃げ帰ってくれるなら大歓迎だよ」 (「佐久間さん、狙撃兵の位置は判りましたか?」) (「三人までは。離れたところにいるかもしれないからそちらも注意してください」) メグレズ・ファウンテン(ia9696)と一が小声で話しあう。 「始まったか」 本隊の位置から響く爆音を合図に右翼側と対峙する駆鎧も動き始める。 「進みたければこのテレザを退けてからにしてもらおう」 「心意気は買うけど・・・・その武器で戦うには自分で作った障害物が邪魔じゃないかな!」 赤マントは素早く駆鎧の近くの木の陰に駆け込む。テレザ騎の武器はランス、邪魔の多い戦場では突撃は行いにくい。 「正面から戦うなら厳しいけれど・・・・私達はそうする必要もないのよね」 タクトの上げた水柱が視界を封じ、その隙に懐に入った薫の一撃が姿勢を崩す。 そのまま一気に駆け抜けたいところだったが、転倒しながらの駆鎧の大振りと狙撃兵の射撃が動きを阻む。 「南側、真っ直ぐのほうから2本、撃ったらすぐ下がってる。それと、西側からのは多分さっきがさがさ言った木の上から!」 矢の飛んできた方角を元に、赤マントが即座に狙撃兵の位置を割り出す。 「わかった。が、まずは近場からだ」 龍牙は駆鎧の転倒で逃げそびれた狙撃兵に近寄り、弓の弦を斬り飛ばすと槍の柄で締め上げる。 「命が惜しければ降参しろ・・・・否、嫌でも虜囚になってもらわねばならん」 「ほいナっ!」 「火種よ!」 飛鈴が投げた焙烙玉にヘラルディアが空中で着火すると、そのまま駆鎧の群に転がり込んで爆発を起こす。 この期に及んでもぴくりとも動かない後列の駆鎧は開拓者達の予想通り張子だったようで、爆発の一撃で崩れ落ちる。が、ダヴィドヴィチの言っていた「端の騎体」は他と違い、中身の火薬が爆発し信号用の煙が立ち上る。 その煙に紛れて距離を取る狙撃兵を追おうとする一の動きを、ダヴィドヴィチが剣先で土を飛ばして牽制する。 「ヤーコブ!踊らされても構わん、時間稼げ!」 「承知!」 もう一騎を一、メグレズへの牽制に入れると、自身は焙烙玉を投げた二人に近寄る。 「お痛のツケはきっちり払うもんだ」 「やられる方がアホアル」 真っ直ぐな下突きを順当にかわして、盾の死角に入る。 「甘いぞ嬢ちゃん、盾の影ってのはな・・・・盾の攻撃範囲なんだぜ!」 足首だけを90度近く捻って真横に全力突進する。 「わわっ!」 殆ど弾き飛ばされる格好で後ろに下がると、そこに左足を軸に全身を回転させた駆鎧の剣が振り下ろされる。 「は、早くこっち来イ!一人は限界ネ」 「・・・・だ、そうです。咆哮で引き付けますからその間にあちらの援護と、狙撃兵の撃破に」 「一人で耐えられますか?」 「短い間なら、おそらくは」 そういってメグレズは声を張り上げる。 「私が相手をしましょう。纏めてかかってきなさい!」 「猪口才な挑発、捨て置けん!」 「捨て置けよ・・・・と言ったところで練のこもった言葉には勝てないよな」 メグレズ一人に向かっていくヤーコブ騎をすり抜けて、これもメグレズへの射撃に集中する狙撃兵を狙おうと動く一にダヴィドヴィチが立ち塞がる。 「正気に戻れば後退する相手を狙うよりも、大物と戦ってはくれないかね?」 「無駄と判っていてもお喋りするのは騎士の流儀ですか?」 メグレスは狙撃兵の矢、そしてヤーコブが両手で振り下ろす斧槍を刀と盾の十字受で防ぐ。 「神楽の力です・・・・耐えてください!」 ヘラルディアからの援護を受けて尚、防御を抜けて衝撃がメグレスを襲う。盾がみしみしと嫌な音を立てる中、歯を食いしばって耐える。 一方で飛鈴と一は奮迅の動きをするダヴィドヴィチへの対応で手一杯になっていた。 『人の形をしているが、人ではない』駆鎧は、関節などの問題で人では出来ない動きをやってのける。その為間合いや立ち回りが通常の戦士を相手にしたときとまるで異なる。 「守りの構えのためか、踏み込みが浅くて助かっていますが・・・・」 「狙撃兵を狙う隙も見つからないネ」 大きく迂回して攻めようにも、攻撃に入る段階での距離を詰めたときを狙われると結局堂々巡りになってしまう。 転機は相手のほうからやってきた。 「よぉし、目は覚めたか?」 咆哮の効果が切れた狙撃兵達にダヴィドヴィチが背中越しに声をかける。 「敵さんの優先目標はお前達だ。という事で援護が出来るうちに一目散しろ。殿は駆鎧が居ればどうにかなるだろ」 その言葉に狙撃兵達は迷い無く動く。遮蔽物にしていた木偶の残骸に火を点け、口元を布で覆うと武器を投げ捨て身軽になって逃走する。 追いすがろうとする開拓者を駆鎧がすかさず牽制する。 「がっかりするなよ。こっちはぶっ壊れるまでお相手してやるから・・・・と、言いたいとこだが。ヤーコブ!」 「は!攻勢に出ますか!」 「テレザを引っ張ってくる!それまで何とか耐えろ。損傷は目を瞑る!」 「は・・・・ははっ!」 二騎の駆鎧が背中合わせに合流すると、ヤーコブが斧槍を振り回し始める。 「当たればおっかないけど・・・・地面の際が甘いネ!」 飛鈴が滑り込むように刃の下をかいくぐると、駆鎧の脛に打撃を加える。ぐらりと斧槍ごと倒れる駆鎧を避けるために開拓者達が距離を開けた瞬間、ダヴィドヴィチが全速で突破をかける。 「くっ、逃がすものか!」 「褒め言葉と受け取っておこう」 そのままメグレズの咆哮にも応じる事無く、右翼側へと移動してしまう。 「これで芯まで感電しろってんだ!」 水遁の水柱を被った駆鎧に雷の手裏剣を放つタクト。テレザはこれを様々な術的処理と己の精神力で無理やり弾く。駆鎧の操縦法が為に、その操縦者は比較的精神力の強いものが多い。 そのまま、膝立ちでランスを繰り出したところで、再度薫が足元を掬う。 「ええい、こざかしい戦い方を!」 「あら、巨人相手に人が使う、昔から当然の戦い方よ?」 盾を地面に押し付け完全に横転するのを避けると、赤マントがすかさず盾を踏み、指の付け根をこじあけるように蹴る。 「逃げの一手に徹さず潜んでの射撃に色気を出したのが仇になったな。俺の心眼に擬装は無意味だ!」 周囲に同化すべく姿勢を低くしていた狙撃兵の一人の鳩尾を、龍牙が石突で突く。仲間がもんどりうつ中逃げを試みる別の狙撃兵を撃とうと弓を取り出したその時。 「苦戦してるじゃないか。あっちは皆逃げてるぞ、早く行きな」 射線に割り込むように、ダヴィドヴィチが現れる。 「仲間が質に取られているのに強気だな」 「そりゃあ、殺しちまったら君の交渉材料がゼロになるんだから気楽に構えれるさ」 槍の穂先を今しがた気絶させた狙撃兵に突きつける龍牙にもまったく動じる様子が無い。 「テレザぁ!そっち行く前に逃げ出せる姿勢まで回復しとけ!それと駆鎧を鎧と思うな、頑丈で大きい自分の体だと思え!」 「随分余裕だな。だが、足元が留守になっているぞ!」 龍牙の平突は、狙い違わず足首の付け根に当たる。が、貫き通す手応えの代わりに鈍い金属音がする。 「こいつは元々練習機でね。動きが遅い代わりに壊しやすい部位の守りが厚いんだよ」 すれ違いざまにそう囁くと、ダヴィドヴィチはそのまますり抜けていく。 「新手が来るよ!」 「なら、その前にこいつを仕留め・・・・っとぉ!?おいおい、人間なら足の折れる角度だぞ」 転倒しているテレザ騎の脚部関節に愛刀を差し込もうとしたタクトに対し、そのまま足で蹴り上げてくる。 「乗り手ですら勘違いしがちだが、駆鎧は人間より鈍重なわけじゃない。大柄な分そう見えるだけでね」 その動きは先程までと異なり、一つ覚えのように武器を振り回していたのが嘘の様に体術を駆使した鋭い攻撃へと変化している。 無茶な機動に騎体の所どころが悲鳴を上げているが、それを精神力でねじ伏せるようにして動かす。動きの変化に惑わされた間にダヴィドヴィチ騎が間合いの内側へと侵入しながら水遁でぬかるんだ周囲の泥を辺りに飛ばす。 それを開拓者が避ける一瞬は攻撃のための隙を作るには不足だが、後退の為の道を開くには十分な時間だった。 「まずいわね・・・・向こうのペ−スで動かされてるわ」 「そう悲観したものでもないぞ薫、隊長騎以外は打撃が蓄積してきている」 ライザ騎は無理が祟って足回りがよろめいてきている。そして・・・・ 「もっと腕を伸ばさないと当たらないナ♪」 飛鈴の軽い攻撃と回避の繰り返しが徐々に慎重さを奪ったところでメグレズの太刀が伸びた腕に振るわれる。 「斬れぬなら、斬れるまで斬る!牙刃、剽狼!」 その幾太刀目かで、ついに頑丈な駆鎧の腕が斬り飛ばされる。それを見て口笛を吹きながらタクトがニヤリと嗤う。 「あれじゃ十分に戦えないだろ。散々かき回されたけど、そろそろ年貢の納め時って奴だ」 「さすがにもう変な作戦も打ち止めでしょ?決着をつけようよ!」 「残念ながら、その通り。坊ちゃん嬢ちゃん、ここからは本気で相手をしてやろう」 部下ふたりに目配せをしていたダヴィドヴィチが赤マントの言葉に応え、今までと異なる構えを見せる。 「縦切り・・・・いや、振り下ろしから切り返して構えなおせる隙の少ない構えです!気をつけて!」 牽制攻撃を始めた泰拳士達に一が叫ぶ。 「三人がかりの空気撃を凌ぐなんて・・・・!」 「散々戦い方は見せてもらったんでね」 盾と剣で衝撃を散らして、体勢が崩れぬよう受けてくる。 「でも、盾さえ叩き落せば・・・・わっ!?」 内側に潜り込んで腕筋を叩こうとする赤マントに、手を引いて盾と体で挟み潰そうとすることで回避を取らせる。 「聞いてはいたが・・・・強い!」 駆鎧の腕を斬り飛ばしてみせたメグレズの一撃も動じず踏み込んで受ける。 「いや、いい攻撃だ。確かにこの技量差じゃあの二人にはきついが、いい経験になっただろ」 「経験・・・・?いや、貴方ほどの騎士が何故反乱に加担していたか、読めた気がします」 一の言葉に、その場にいた全員が注目する。一自身もヘラルディアが連戦で傷ついた仲間達を回復させる間の時間稼ぎ程度のつもりだった・・・・が、事実として駆鎧は攻撃を止め、守りは固めながらもその言葉を聴いている。 「若い騎士を帝国や開拓者相手に戦わせて、急速に経験を積ませようとしましたね」 「成程、戦後の新世代を育てるためとか?無茶するわね」 呆れたような薫と、剣を止めて一に拍手を送るダヴィドヴィチ。 「驚いたね、正解だ。多分あんたがそれに最初に気付いたんじゃないか・・・・じゃあ、次に俺がしたい事の意も汲んでくれるかい?」 「遠雷に乗る騎士二人の逃走補助・・・・これはもう済んでいますけど」 言われてダヴィドヴィチから視線をずらしてみると、既に二騎の遠雷は駐騎姿勢で胸甲が開いたまま放置されている。 「ついでに俺と、捕まった連中も逃がしてくれるならこの騎体もプレゼントしちゃうが?」 「やめておきます。貴方は、悪意は無いがここで逃がすには危険過ぎる。それに・・・・」 「不意打ちのようで悪いが、手を止めたはお前の勝手。卑怯ではあるまい!」 龍牙の炎魂の槍が右腕を肩まで貫く。じっと炎の燻る自騎の手を見るダヴィドヴィチ。 「いや、手間が省けた。ありがたい」 そう言ってその右手を頭部に近づけると、煙がもうもうと上がり始める 「自爆用に火薬を詰めておいてなにより。早く逃げないと道連れだぞ?」 虚言かもしれない、と思ったが。 「火薬臭いゾ、多分本当だ!」 飛鈴の叫びと同時に飛び退って伏せる開拓者。ややあって爆発とともに、駆鎧の甲冑の破片が辺りに飛び散った。 開拓者達の前を輜重部隊の列が通っていく。頬杖をつく薫に赤マントが尋ねる。 「ダヴィドヴィチさん、死んだと思う?」 「死人は、宝珠を持っていかないと思うのよね」 ダヴィドヴィチ騎の残骸からは、死体と宝珠が見つからなかった。そもそもが、外装を派手に飛ばした割に骨格部分は殆ど無傷だったので自決用というよりは脱出用のギミックであった可能性が強い。 遠雷からも宝珠だけは奪われていた。 「もう一戦挑んでくるかもしれない、か」 「少なくとも宝珠売り払って余生を静かに暮らすようには見えなかったな」 それは、遠からぬ再戦の可能性を示唆していた。 |