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■オープニング本文 かつて、一つの村があった。 だが、その村はある日襲ってきたアヤカシによって滅ぼされた。そのアヤカシもまた開拓者によって打ち倒された。 今に残るは廃墟と無念、怨念のみ‥‥のはずであったが。 「よし、まずはお前ら二人だ。あの屋敷の奥の間の壁に名前を書き付けるんだぞ」 暇を持て余した若者達が、罰当たりにも度胸試しとしてこの廃村を訪れていた。 「書けなかった奴は100文払いだったか。悪いな、俺達は払う側じゃなくてもらう側だ」 そういって二人の若者が屋敷の入り口に近づいた刹那。 「ぎゃあああああ!!」 屋敷の中から何体かの影が若者に飛び掛る。影‥‥小鬼達は不運な若者に爪や鉄杭のような得物を突き刺す。そして、崩れ落ちる死体に我先にと食らいつく。目の前で上がる血飛沫に腰を抜かしたもう一人の若者を一際大きな鬼が掴み上げると、大きな口を開け若者の頭に齧りつく。 「ば、ば‥‥化け物だあ!」 一部始終を目撃してしまった他の若者達は、我先にと逃げ出した ●物見の目 「グォオオオオオオ!!」 屋敷の前で防具を着込んだ一匹の小鬼が棍棒を振り回す。その様子を、やや離れた所にある小さな廃屋の陰から二人の物見が観察している。 「威嚇はすれど動き回る様子は無し‥‥奴は囮で、建物の陰に数匹居ると見るべきか」 「あちらの倉のほうに数匹入っていくのが見えた。恐らく建物毎に数匹ずつ潜み、囮につられて不用意に近づいた者に八方から襲い掛かる手筈なのだろう」 「この土壁のすぐ向こうにも居るという事か。心の臓に悪いな」 屋敷の板戸に小石をぶつけ、臨戦態勢に入った鬼達の動きを調べる危険な強行偵察だ。 「よし、お前はこの事と村や鬼の様子の情報を持って一度戻れ。俺は交代まで張り付いておく」 ●開拓者ギルドにて 「度胸試しと称して廃村に向かった良家・商家のぼんぼん達がアヤカシに出くわしたらしい」 ギルドの係員が説明を始める。人が立ち寄らず、他の集落からさほど遠からぬその廃村はアヤカシが人間狩りの根城にするには適地であったようだ。 「不幸な犠牲者は出たものの、本格的に動かれる前に見つけられたのは僥倖だった。居座るアヤカシどもを全て打ち倒し、再び根城にされぬよう廃村の建物は破壊してもらいたい」 今は亡き村人達も、自分達の村がアヤカシに利用されるのは不本意であろう。 「物見の報告によると相手は鬼、大多数は小鬼だろう。数は十よりは上、二十には至らない。知恵は回らぬが奇襲や囮を使い、不利を悟れば逃げるくらいの機転は利かせるだろう。注意して欲しい」 そして、依頼の内ではないが‥‥と前置きし、事が済んだ後に村人の為に石を積んで手を合わせるくらいはやってくれまいかと言うと係員は説明を結んだ。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
鷺ノ宮 夕陽(ia0088)
14歳・女・陰
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
ラフィーク(ia0944)
31歳・男・泰
錐丸(ia2150)
21歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●合流 開拓者達は廃村に近い茂みへ向かう。 「確かこの辺りで借りてきた小槌で木を3回叩けと‥‥」 羅喉丸(ia0347)がギルドで聞いた連絡法を試みる。コツーンと高い音が三回響くと、村のほうから人影が駆けてくる。 「おお、ギルドの衆が到着なすったか」 「見張りの任、ご苦労様です。早速ですが‥‥」 「親分鬼はどこにいまっしゃろか?」 焔 龍牙(ia0904)が言い終わらぬ内に鷺ノ宮 夕陽(ia0088)が物見の持つ情報を求めて食いつく。 「他の小鬼達の配置なども可能ならば頼む」 羅喉丸が言い足す。 物見の報では鬼は屋敷から何度か小鬼達に吠えかける姿が確認されている。納屋や家側の小鬼の数は多くともそれぞれ3を越す事はないだろうとの事。屋敷と蔵近辺で動く小鬼の数から逆算した予測だ。 「ありがとう‥‥ございます。帰途、お気をつけて‥‥」 柊沢 霞澄(ia0067)が物見に労いの言葉をかける。物見は軽く礼をすると、開拓者達の来た道へと駆け去っていった。 「さ〜て、攻め方は最初の通り、射ってばらして最後に囲むでよさそうだな」 羅喉丸の手帳に描き込まれた村の略図を覗き込みながら鷲尾天斗(ia0371)が言う。 「そんならまずは弓持ちの方々の出番やな。あんじょうよろしゅぅ♪」 雲母坂 芽依華(ia0879)はにぱっと笑って遠距離攻撃手段を持つ仲間達を送り出す。 ●嚆矢 「先ずは囮とやらを引っ張り出すか。ここの三匹の中から出てくれると楽でいいんだがな」 心眼で間近の建物内の小鬼の様子を感じながら錐丸(ia2150)が矢を番える。 「初手をしくじると後が苦しいからな。頼むぞ」 こちらも軽弓を構えながらラフィーク(ia0944)が言う。 「任せとけって‥‥よっ!」 放った矢は吸い込まれるように戸板に突き刺さる。ガタリと戸板が動く音に鬼達が反応を始める。物見の言葉通り、防具を着込んだ小鬼が唸り声を上げながら歩み出る。 「まず一匹目、引き寄せた所で確実に仕留めるぞ」 ヒュウと放たれる二本の矢、さらに時間差で夕陽の矢が小鬼に襲い掛かる。 錐丸の一撃が深々と小鬼を貫き、致命傷の状態で残る矢に射られた小鬼は声を上げる暇も無く倒れ伏す。霞澄の張った瘴索結界に、建物より出ようとする瘴気の動きがかかる。 すると屋敷の方からグルル、と低い呻きが聞こえ、一度は持ち場を離れかけた瘴気は再度もとの位置へと戻っていく。 「待ち伏せを‥‥続けるようです」 「鬼が兵法の真似事とは小賢しい。ならばこちらは建物ごと壊すとしようか」 龍牙は手斧を持ち、家の壁に近づくと羅喉丸、芽依華と共に柱や壁に切れ目を入れていく。そして天斗へと目配せ。 「へっ、鬼さんはかくれんぼが大好きみたいだな!そら、みぃつけた〜!」 陽気に言いながら、振り回して遠心力を乗せた長槍「羅漢」を壁に叩きつける。風雨に晒されすっかり脆くなっていた壁は崩れながら内側へと倒れこみ、それを切欠に家全体が崩れだす。 「一匹は下敷、2匹が出ますよ!」 心眼で小鬼の動きを察知した龍牙が声を発すると、それぞれの小鬼に三本の矢が放たれる。 一匹は倒れるが、もう一匹は致命傷には至らず、転がるように納屋へと駆け込む。 「チッ、仕損じた!」 「外に逃げ散って行かいなかったやけ幸運どす」 舌打ちをするラフィークを夕陽がフォローする。村の外に逃げ出されると、追撃の為に敵中に身を晒す危険を冒さねばならない。逃げたのが他の建物であれば先程と同様の手段が通用する。 「小鬼の残りは8、鬼が屋敷におるんなら屋敷と蔵に4ずつどすなぁ」 二軒の家と納屋を崩し、中に居た小鬼を駆逐した後。 芽依華が心眼で改めて鬼達の状態を確認している。決戦を前に、錐丸が確認がてらに問う。 「さて、いよいよ大将首を狙うわけだが、二手からの挟撃はどうしたもんかね」 「蔵は俺らでも簡単には壊せないんだ。外から蓋しちまえば、小鬼4匹程度の力じゃ簡単には這い出てこれないだろうぜ」 「なるほど、しかる後屋敷のアヤカシ達をいぶり出し、これを叩くと‥‥」 天斗の案により、荒縄で蔵の入り口を縛り封鎖する事が決まる。 ここまでで手慣れた戦術である夕陽、ラフィークらの牽制射撃から開拓者達が動き始める。矢を警戒し扉の裏、蔵内の物陰に隠れる小鬼達。 「生兵法は怪我の元とはよくいったものだ」 羅喉丸らがすかさず駆け寄り、扉を完全に閉ざし荒縄で閂金具を幾重にも縛る。閉じ込められたと気付いた小鬼達が壁や扉に体当たりする音が聞こえるが、村唯一の漆喰塗りの石壁と金属で補強された扉はびくともしない。 「これでよしっと。最期を迎えるまでの間、じっくり味わうんだな、恐怖って奴を」 歪んだ笑いを浮かべながら天斗は蔵に背を向けた。 ●血戦 「勿体ねえなあ。鬼共に味あわせてやるのは」 そう言いながら錐丸は荒縄の切れ端にヴォトカをしみ込ませていくと、集めた木片の上に乗せる。 「では、始めます‥‥皆さん、準備は宜しいでしょうか‥‥?」 仲間達が応と答えると、霞澄は火種の精霊を呼び、荒縄に火を灯す。木片から勢い良く煙が上がり、開拓者達に煽られて屋敷内へと入っていく。 ややあって。 ズン、ズンと足音を立て、4匹の武装した小鬼を従えた鬼が姿を現す。 「ふふ、小知恵をつけたことが仇となったようだな」 龍牙がほくそえむ。アヤカシは、煙を吸った程度では苦しまない。だが、小鬼を統率するこの鬼は常より賢しいがゆえに煙を見たときに『火攻め』の可能性に思い至ってしまったのだ。 「鬼さん、今日ここから‥‥消えて貰いますえ♪」 夕陽の言葉で、決戦の火蓋が切られた。 「囲え!囲え!」 羅喉丸が声を上げると、開拓者達は鬼達を包囲するように動く。 「先に小鬼を潰すぞ。頭を倒して逃げ出されても厄介だ」 ラフィークは言うが早いか、守りの構えと取る小鬼の一匹に切りかかる。さらに羅喉丸、芽依華が確かな手ごたえを与えるものの構えを崩すことなく踏ん張り、天斗の一撃でようやく動かなくなる。 「優秀な手駒を手元に残していたってわけか」 「とは言え小鬼は小鬼、嵩にかかって攻めきるぞ!」 叫びつつ龍牙は次の小鬼に狙いを定める。 「大気に眠りし焔の力よ!炎の力を我に授けよ!刀に纏いて、その力を解放せよ!炎魂縛武!」 「鬼を喰らう鬼がいると‥‥知らぬが仏たぁ言ったモンだな」 赤熱化した傷口に、さらに錐丸の巻き打ちが叩き込まれる。それでも尚構えを崩さない小鬼だが‥‥ 「ぼーっと棒を握ってても、私の黒鎌鼬は防げませんえ」 夕陽の斬撃符を受け、血飛沫を上げて倒れる。 残りの小鬼に天斗達を牽制させつつ、進み出た鬼がラフィークに殴りかかる。 「動きは緩慢なままだな!」 直撃は難なく避け、風圧がかすめた程度だ。だが‥‥ラフィークの頬を一筋の血が伝う。 「掠っただけでか‥‥さすがにたいした馬鹿力だ」 自分の僅かな慢心を血と共に拭い落とすと、鬼の挙動により一層の注意を払う。 「うおっと!?」 天斗が一息に小鬼を叩き潰そうと大きく振ったが為か、羅漢の穂先は屋敷の軒先にひっかかり止まってしまった。 「っち。後でちゃんと崩してやるから、焦るんじゃねーよ」 ひっかかり方が悪かったのか中々抜けない得物を引っ張りながら悪態をつく。 「遊んでんじゃねえぞ‥‥っとと」 天斗をからかいながら小鬼に斬りかかる錐丸だが、こちらも蹴躓いて危うく刀で大地を耕しかける。 「お前もな」 霞澄は仲間達のやや後ろから、戦いの様子を見つめる。鬼の重い一撃を受けた者を即座に癒せるよう準備しているのだ。 「精霊さん‥‥次は羅喉丸さんの怪我を癒してください‥‥」 彼女がいればこそ、前衛は多少の怪我は気にせず戦い続ける事が出来る。 仲間達が背中で示す信頼が嬉しかった。 小鬼を殲滅し、いよいよ残るは鬼のみ。 「まずは私からいきますえ。彼者を縛れ、地の怨霊!」 夕陽が気を込め放った呪縛符によって鬼の影から湧き出る魍魎達が鬼の足にしがみつく。 「よし、次は俺が奴を転ばせる。後は一気に畳み掛けろ」 動きが鈍った鬼へとラフィークが空気撃を使って斬りかかる。鬼は自由に動く上半身を逸らし一撃を避けるが‥‥ 「間合いの取り方が悪かったな。丁度踏み込める距離だ!」 ラフィークは振り下ろした刃をそのまま捻り込むように突く。鬼は足を刺し貫かれ、平衡を崩しどうと尻餅をつく。 「頑丈なのが仇になったな。貫かれる痛みと焼かれる熱さ、ゆっくり味わっていけよ」 紅い炎に包まれた槍の穂先をゆっくりと鬼に刺し込みながら天斗は嘲う。呪縛の戒めを受けた上に転び、避けも受けもままならない今であれば渾身の一撃でなくとも容易に急所をいたぶれる。 「ほんま、頑丈どすなぁ」 あれだけ斬られ、突かれ、今芽依華の炎魂縛武の刃を受け、わめき悶えながらもその活力に衰える様子が無い。 だが、その無尽蔵に見えた生命力も、限界を超えた瞬間一気に尽き果てる。 「アヤカシの鬼さんよ!鬼ごっこは逃げてからだぜっ!!」 錐丸が体重を乗せて頭部に刀を突き立てた瞬間、断末魔の悲鳴とともに鬼は瘴気のもやとなり、霧散していく。 「へへっ‥‥俺に捕まると消えちまうっていっただろ?」 ●始末 一行は心眼で他に生き残りがいない事を確認すると、改めて蔵へと向かう。 「よし、この蔵なら崩した際に一網打尽も可能だろう。霞澄さん、『目』の役目を頼みます」 「はい‥‥」 龍牙の指示に応じ、霞澄が蔵全体が入る立ち位置で瘴索結界を張る。 「さて、ぶっ壊していこうか」 「おきばりやす〜♪」 羅喉丸達が斧や槍の石突で蔵の壁を崩していくのを見ながら芽依華は声援を送る。開拓者の膂力をもってある程度の時間をかければ、頑丈な石壁も砕けていく。 「よし、下がれ!崩れるぞ」 龍牙の声で皆が下がると、接地部を砕かれた蔵は沈みながら倒れていく。 「そちらの瓦礫に‥‥消えていない瘴気が一つ」 霞澄が指を指すほうへと天斗が嬉々として駆け寄り、瓦礫の下の小鬼に止めを刺す。 「喜べよ、攻め鷲の槍が冥土の土産だ」 「今ので最後だな、皆、お疲れ様!」 「大事になる前に対処できたのが、不幸中の幸いだったな」 依頼の完遂を表す龍牙の言葉に羅喉丸が返す。 屋敷も崩し終えると、開拓者達は村のあった場所の中央あたりでかつての村人達の供養の為に石を積み上げていく。 「成仏しておくれやす」 「すまねェな‥‥色々壊すことになっちまった。だが安心しろ‥‥もう鬼が此処に来ることはねェ」 芽依華は手を合わせ、錐丸はヴォトカを注ぎながら鎮魂の言葉を積み上げた石にかける。 「もう二つ積んでおいてくれ」 ラフィークはそう言うと自分で二つ、積み石の上に石を置く。 「今回死んだ二人の分だ」 「残された人は‥‥これからも生きていかなければなりませんから‥‥」 屋敷跡で見つけた二人の若者の衣類の切れ端を手に霞澄が誰へともなく呟く。遺族へ届ける遺品なのだろう。 開拓者達が去った後には最早人の声もアヤカシの声も無く。 村はようやく、とこしえの眠りにつこうとしていた。 |