|
■オープニング本文 そのアヤカシには、足が無かった。為に逃げる相手を追う事はかなわず。 そのアヤカシは、非常に巨体であった。為に遠くからでもその姿は容易に見える。 故に、見つけ次第回れ右して引き返す限りは然程問題の無い相手だった。 だがしかし、今現在このアヤカシは近隣で大問題になっていた。 なぜなら、このアヤカシが現れた場所は街道の急所とも言うべき隘路であったからだ。 他の道を通って迂回する事自体は不可能ではない。だが近場の道は魔の森との距離が近い危険地帯があり、安全な道ははるか遠くにある。 移動に手間がかかるという事は、その費用がかさむという事であり、費用がかさむという事はそれが物価に反映されるという事だ。既に食料を始めとして色々な品の値が上がり始めている。 それが、このアヤカシを早急に退治すべしとの依頼をギルドが出した理由である。 「無視できれば無視しておきたかった相手なんだがな、はっはっは」 普段愛想笑いすらしないこの受付が乾いた笑いを上げるときは、大概はどうにも面倒な仕事の場合だ。 「岩で出来た上半身だけの鬼の像みたいな外見をしているんだが、生き物には容赦しない。近づけば腕を振り回し、目から熱線を放ってくる。離れれば口から火球を吐き出したり、鼻からの怪光線でなぎ払ってきたりする一筋縄ではいかない相手だ。正直、他にいくつか予想も付かない攻撃方法があっても俺は驚かない」 特定の部位を狙う事が決して効果的ではないという意味らしい。 「さっきは便宜上隘路と説明したが、あの街道はこのあたりで一番大きな道で、問題の地点も普通の街道よりは広いくらいだ。足場や間合いに困る事はない。が、その広い道を全て塞げるくらい相手の射程は長いわけだ。前後の別なく身を守る事にはいつも以上に注意したほうがいいぞ」 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
獅子王 燥牙(ia5574)
18歳・男・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰 |
■リプレイ本文 問題の鬼は、遠くからでもはっきりとその姿を確認できた。その材質ゆえか日の光を受けて妙なてかりを放っている。 鬼と聞けば駆けつける、月酌 幻鬼(ia4931)が嬉しそうに眺める。 「こいつぁ珍しい鬼もいたもんだねぇ。その場から動かない鬼『不動鬼』のふーちゃんと呼ばせてもらおうかねぇ」 「聞いた時は興味深いと思ったが・・・・実際見ると気持ち悪ぃな、あれはあれで。玄関や庭において防犯用にしたがる金持ちはいるかもしれねえが」 鷲尾天斗(ia0371)が額に手を当てて鬼を見つつ、一番の疑問を口にする。 「って言うか・・・・アレはどうやってここに来たんだ?」 「動けないことに意味があるのか・・・・いや、意味が通らぬからこそアヤカシかもしれませんが」 「久遠は心配性だな!通してくれねぇのならぶっ壊すのみってな、ギャハハ!」 ふむと考え込む志藤 久遠(ia0597)にブラッディ・D(ia6200)が笑い飛ばすように言う。 その時ぐぐぐっと鬼の首が動き、開拓者達のほうを向く。 「見つかった・・・・騒ぎすぎたか?」 が、そこから何をどうして来るというわけでもない。 「・・・・射程外か?気をつけて進みましょう」 「近づく最中は私の後ろに。何かあればすぐに壁を張ります」 高遠・竣嶽(ia0295)の言葉を受けて、朝比奈 空(ia0086)を先頭に隊列を組む。鬼面と呼ぶにふさわしい憤怒の表情を浮かべる不動鬼へと慎重に近づいていく開拓者達。 「どの辺りまで進めば攻撃して来るんだろうな?」 「その辺までじゃないかな」 獅子王 燥牙(ia5574)に答えるように新咲 香澄(ia6036)が指差した先では弧を描く線のように焦げ後が走っている。その周囲には無理越えを試みた跡であろうか、荷車の残骸や炭が転がっている。 「このままでは交通が麻痺して、色々不都合がおきるからね。ボクたちで排除しよう!」 香澄の言葉を証明する如く、不動鬼の目が輝き、一瞬後に開拓者達の前で地面が加熱される。 「脅しのつもりか挑発のつもりか知らねえが、甘く見られたもんだな」 「皆さん、なるべく壁の後ろに来てください・・・・精霊よ、災いからの護りを貸し与え給え」 空は精霊壁を張ると射程内へと踏み込んでいく。その後に仲間達が続く。 「隘路の死地も皆で渡れば怖くないってな」 鬼の口から火球が放たれる。火球は精霊の力とぶつかると爆散し、火の粉を辺りに飛び散らせる。 「大丈夫!?」 「無傷とは行きませんが・・・・大丈夫です。見た目ほどに恐ろしくはありません」 符を手に回復の準備をする香澄に空が微笑んで答える。しかし間髪入れず、鬼は口を閉じると鼻を膨らませ、二筋の光線を飛ばしてくる。 「見た目的には鼻水みたいで一番嫌だな」 「何、鼻糞じゃないだけ綺麗なもんだ」 「やめてくれ、想像しちまうじゃないか」 暢気なことを言う幻鬼や天斗、燥牙を含め、縦隊になった開拓者をやはり高熱を持った光線が縦に薙ぐ。先頭の空の防護が減衰させているものの全員を射程に収めた攻撃は厄介この上ない。 「まだ二町はあるぞ。どうする、攻め方を変えるか?」 「いや、今のような術の類ばかりなら空の壁で被害を抑えながら進むほうが・・・・」 などと話していると鬼が突然自分の左腕をもぐ。 そして投げつけてくる。 「質量攻撃だ!空殿、危ない!」 久遠がすかさず空を押しやるようにして逃がす。先程まで彼女が居たところには柱のように鬼の左腕が突き立っている。 「自分の手をぶん投げるなんてまさしく鬼手だな。おじさん感心しちまうぜ」 一度岩陰に避難したところで、幻鬼がなぜか嬉しそうに言う。 「さすがに腕は連続して投げつけれるもんじゃねえだろ」 天斗がそう言ったその瞬間。鬼の腕が地面にしみこむように消えて行き・・・・不動鬼のひじから先がにょきにょきと生えてくる。 「・・・・きったねぇな、おい」 「物理遠距離まで出来て、攻撃手段を選択する知能があるとなると空さんでも危険です。多少危険は増しますが、相手の出方に応じて合流・分散を繰り返す位はしないとここからの接近は難しいかもしれませんね」 「なるほど、高遠殿の言に理がありますね。ここで誰かが倒れる訳には行きませんから」 「反対はんたーい!久遠にクリティカルな一発が来たらどーすんだ!」 久遠とDから同時に賛同と反対の声があがる。 「俺も竣嶽に賛成だ。空が消耗し過ぎるのが一番やばいからな」 「じゃあ行くか。もたもたしてると岩ごと吹き飛ばされかねねぇ」 燥牙も右手を上げて同意を示すと、天斗の急かす言葉に従い前進を再開する。 「直線です!皆さん、こちらに!」 鼻光線の照射前に駆け込むように空の後ろに集まる。防具の上からちりちりと肌を焼くような熱が伝わってくる。 「焦るなよ・・・・苦痛を怒りに、怒りを力に変えて爆発する時まで溜め込め」 天斗は自分に言い聞かせるように、低い声で呟く。徐々に光線が弱まってくると同時に一斉に駆け始める。 「急げ急げ!次が来るまで一瞬だぞ!」 「次、火球来ます!伏せて!」 球状の爆発を伴う火球は直撃の確率は低いが爆風と飛礫が脅威になる。伏せる事が被害を抑えやすい。 直接的な火力も問題だが、これら鬼の攻撃は地面への影響も激しい。溝やクレーターだらけになった地面は開拓者の進撃を鈍らせ、時には転倒をもたらそうとする。 「おわっ」 足元が崩れ、クレーターに引きずりこまれそうになった燥牙の腕を幻鬼が掴む。 「ファイトー!」 「い、イッパ〜ツ!・・・・?」 禅問答の掛け声のようなもので、そう言われるとこう答えなければいけない気になる。 「よぉし、ここからなら当たる!これでひっくり返っちゃえ!」 香澄が低い射角で放った霊魂砲が唸りながら鬼に当たる。振動と共にぐらつくように見えたがそのまま倒れこむような様子は無い。 「うーん、さすがに無理か。攻め方を切り替えようかな?」 「腕は私と志藤様が引き付けます」 「高遠殿、無理はなさらずに。行きますよ」 久遠と竣嶽が真っ先に前進し、鬼の両側に回りこむとあえて足捌きに頼らず受けの構えを取る。 「横になぎ払われると正面の方々が危ないですからね」 竣嶽は鬼の拳を篭手払で迎撃する。軽く逸らす位の心積もりだったが、鬼の手首から先はあっさりと切断される。そして、切り口から生えてきた新たな拳がそのまま襲い来る。 久遠のほうにも大きく広げられた手が叩き潰すように迫ってくる。 「頼るは愛槍の強度・・・・もって下さい!」 地面と鬼の手の間に立つ柱のように石突で地面を叩き、穂先で迫る掌に迎え撃つようにしてそのまま堪える。目的である片手の拘束の為には逃げ回るわけにはいかない。 二人の状況を傍から見ると、大きな掌に押しつぶされたように見えただろう。特に心配するDの目には。 「ぎゃああ!久遠ー!竣嶽ー!・・・・のやろう、かんっぺきにぶっ壊す!」 支援に近い立場だったことも忘れて駆け寄ると、鬼の胸板を足場に一気に駆け上がると、両手の剣で滅多打ちにする。最後の一撃・・・・本来なら足元を崩す一撃が見舞われた時、鬼の上半身が大きくぐらつく。 「面白いな。根元はあれほどびくともしないのに」 「その先は言わなくてもわかるよ!」 すかさず香澄が頭部に霊魂砲を撃ち込む。のけぞるように揺れる不動鬼の上半身。 「この木偶がぁ!今までのお返しだ。遠慮無くとっときな!」 炎を発する槍を大きく回しながら、天斗が鳩尾めがけて一撃を繰り出す。手応えはずぶりと豆腐のような、しかし岩のようななんとも言いがたいものだが呻きが聞こえるからには効いているには違いない。 頭も両手もふさがった状態だが、何と鬼の出臍が鞭のように伸び、天斗の足元を強かに打つ。これに堪えてにやりと笑いながらさらに挑発する。 「攻撃手段の万商店だな。それで終いか?この俺の灼熱と化した血肉をもっと熱く!もっと愉しませてみろ!」 足元はがくがくと震えているのでやせ我慢のきらいがあるにはあるが。 「地面ごと・・・・ぶった切るっ!」 地裂撃を放つ燥牙に鬼の目線が向く。 「卑怯とは言うまいね」 こっそりと鬼の背に回りこんでいた幻鬼が嬉しそうな顔で金砕棒を振る。 「かっ飛ばすぜぇ。葬らん!」 全方位からの攻撃に業を煮やした鬼は、毛髪を針に変え周囲に飛ばす。 「っつ!危ない!怪我した人は一度下がって!」 「香澄さんはそのまま攻撃に参加しても大丈夫です。私がいる限り重傷者は出しません」 空の呼んだ精霊達が仲間の傷を癒す。 「ありがたい!にしてもどういうつもりなんだ?俺達も痛いが、あいつ自身にも針が刺さりまくってるぞ」 「燥牙、ああいうのはな・・・・余裕が無いときの最期の足掻きって奴だ。遠慮なくフクロにしてくれって合図だ。お望み通り、さっさと逝かせてやろうじゃねえか!」 一度間合いを取った天斗が全力で駆ける。 「フクロか、いいねぇ。おじさんの大好きな作戦だ」 ぺっと血反吐を吐き捨てた幻鬼が顎をひと撫でして金砕棒を持ち直す。 「先手はD・・・・って聞いちゃいねぇな。やることはやってるが」 「くぉのやろ!久遠に汚ねえ手を押し付けやがって!放せ!死んで詫びろ!がるるるる」 鬼の肩を足場にしながら執拗に頭部を攻撃するD。打ち払おうと鬼の手が少し持ち上がった瞬間、その両手が切り落とされる。重圧の弱まりを感じた久遠と竣嶽がすかさず攻撃に転じたのだ。 「一気に畳み掛けるか!俺の全力の一発だ、喰らえ!」 燥牙の地裂撃が直撃すると、巻き上がった土煙が煙幕となり突進する天斗の姿を隠す。さらに香澄の霊魂砲も立て続けに撃ち込まれる。 「空も攻撃に回って大丈夫だよ!」 「はい。清なる炎よ・・・・アヤカシを焼き尽くせ」 更に空も淨炎で攻撃に加わる。 そしてその時、煙幕の中から天斗の槍が喉首めがけて繰り出される。 「炎魂縛武からの流し斬り・・・・『紅蓮翼』。こいつを土産に地獄に行きな!」 「迷わず逝けよ、逝けばわかるさ!ってかぁ?」 連続攻撃を受けてややのけぞり気味だった鬼の後頭部を幻鬼が殴りつけると、ずぶりと不動鬼の喉が槍に貫通される。 悲鳴ではなく空気が抜けるような耳障りな音が聞こえると、鬼の体はガラガラと崩れ岩から小石、小石から砂と変じ、最後は塵も残さず消えていった。 「さて自然発生か他のアヤカシの持ち込みか・・・・どっちにしても楽しめたからよしとするか」 「ブラッディ殿の機転で助かりましたよ、ありがとう」 「いや・・・・ほら、久遠が前で俺達を守ってくれたから、じゃあ俺なりに久遠を守れる方法を・・・・ごにょごにょ」 「志藤様も私も心配をかけましたね」 「だ、お前なんて心配してないからな!助けたのも久遠が・・・・久遠を助けたついでだ、ついで!」 幻鬼は鬼の居た辺りをうろうろとする。破片の一つも残っていないかと探してみたが、残念ながら見当たらない。 「んー残念、何か欲しいところなんだがね・・・・んー。お、そういやぁ・・・・」 目をつけたのは、鬼の拳で変形した岩。 「ちと重いが、鬼の手形なんて珍しくて良さそうだねぇ」 「おっさん、面白そうなもん見つけたじゃねえか」 「あげないよー、これはおじさんの戦利品だからねぇ」 「くれるって言われてもいらねぇよ」 「うーん、さすがにこれはギルドに報告して何とかしてもらわないと駄目だね」 香澄の前には鬼の火球や光線で掘り返された街道が広がっている。防ぎようは無かったとはいえ、戦闘の副次被害としても凄まじいものがある。これが目的だった・・・・というのは考えすぎだろうか。 空の言葉がそんな思考の迷路から香澄を引き戻す。 「危険は排除しましたから・・・・少しは良い方向に向かうでしょう」 「・・・・うん、そうだね!にしても、変なアヤカシだったなぁ」 |