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■オープニング本文 「な、何だこの臭いは・・・・げほっ、げほっ」 「大丈夫か?うわっ、本当になんて臭いだ。こりゃたまらん。風に乗って村中に広がっちまうぞ」 「それより何だかどどどって地鳴りみたいな音がしないか」 「お、おい、ありゃあ・・・・ケモノだ!ケモノが出たぞーーー!」 平和な村に突如押し寄せるケモノの群れ。決してありえない事ではないが、常と異なる事があった。 異なる種類のケモノが互いを敵視することもなく動いている事、そして・・・・群れの中央に居る異様に長い爪を持つ狼の背に一人の男が乗っていること。 全身をペインティングし、ケモノの毛皮らしきものを纏い、腕や首には煙を発する怪しい装飾品をごてごてと付け、顔に奇妙な仮面をつけたケモノを操る男は、おびえる村人達にこう言った。 「ぐ、ふふふ。最早開拓者など時代遅れ。我が操獣術(そうじゅうじゅつ)こそ時代を切り開く新たなる技。貴様ら、早うギルドから開拓者を呼ぶが良い。我がそやつらを倒し、我が術の優位を証明して見せよう」 「と、いうことらしい。迷惑な話だがどちらにしろ村人を助けるためにはいかねばならないわけだ」 ギルド受付は頬杖をつきながら帳面をめくる。 「村人の話では、何でも男が現れる直前から妙な臭いが立ち込め始めたという事だ。この臭いを嗅いだ村人の中には体調を崩すものも出てきているようなので気をつけてくれ。彼らの診療の為にも可及的速やかにこの猛獣使いの男を追い払う必要がある」 緑茂以来、この手合いが多いんだと受付が嘆く。 「あの戦の際、色々な勢力と協力しての事ではあるが、大アヤカシを倒しただろう。アヤカシの恐ろしさは誰もが知ってるが、その中でも大物を倒した開拓者に勝つというのはまあ、手段を選ばず名を上げたい奴には一番判りやすい方法みたいでな」 なんであれ迷惑な闖入者には実力でお帰りいただくべきであろうか。いや、説得や、八百長で勝ちを譲って満足させる手も・・・・ 「まぁ、目的を果たしてお帰り頂くということも無いではないが、命を保証してくれるとも限らない、というか勝利の証に首の一つも持っていかれかねないのでおすすめはできないな」 ・・・・やはり丁重に叩き出すのが一番のようだ。 「村人達は開拓者への人質という事で今のところ直接の乱暴は受けていないようだが、猛獣使いが倒れて制御を失った時にケモノがどう動くか予測がつかない。その辺りも気をつけてくれ。・・・・しっかし、普通なら喰う側喰われる側のウサギと猪、狼や馬を一斉に飼い馴らすなんてどんなインチキを使ってるんだか・・・・」 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
銀雨(ia2691)
20歳・女・泰
橘 楓子(ia4243)
24歳・女・陰
仇湖・魚慈(ia4810)
28歳・男・騎
ルーティア(ia8760)
16歳・女・陰
黒鴉(ia8864)
19歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●突入開始 「この煙は・・・・」 檄征 令琳(ia0043)が顔をしかめる。村全体に薄っすらと色のついた煙が漂っている。刺激臭とも腐臭ともつかない悪臭が村からやや離れたところに居る開拓者の元まで漂ってくる。橘 楓子(ia4243)がその臭いを追い払うように手を振る。 「この臭い、汚い、ダサいがなければ良い技術なんだけどねぇ」 「こうすれば自分の臭いを通すから多少マシになりますよ」 「それはそれでダサいのよねぇ」 仇湖・魚慈(ia4810)のやり方は日頃使っていた手拭を鬼面の内側に仕込む方法。臭いは少々マシになるが、難点は常に面を被っていないといけない事と声が篭り気味になることだ。 今の位置から見渡すだけでも、特に大きな熊や馬、蝦蟇の姿ははっきりと見える。それらの立ち位置から他のケモノ達や、猛獣使い自身の配置も概ねわかる。唯一姿が見えないのは元々小柄な兎のみだ。開拓者達は風下、風上から分散して村へと入っていく。 「あわわ・・・・熊さんですか」 那木 照日(ia0623)はまず目に付いた熊に単騎立ち向かう。目的は速攻、普段はおどおどしがちな照日も積極的に攻勢に出る。 「たまには・・・・攻めます・・・・」 両手の刀が同時に閃き、×字の傷が大きく熊の腹に浮かぶ。自らの血に怒り狂う熊だが、その出血は傷具合に比して非常に少ない。 「これも・・・・猛獣使いの力?」 熊の爪を刀でいなし、抱きつきは転がるように避ける。立ち木を抱き折ると言われる怪力熊の抱擁が近くの納屋の壁を砕く。 「あわわわわ・・・・受けたくないけど、避け過ぎると村が大変です」 出し惜しみのきく相手ではなさそうだ。 「シカシ、凄まじい匂いデスネ・・・・。・・・・件の男と、何か関係があるのデショウカ?」 風下からケモノのテリトリーの合間を縫うように進む黒鴉(ia8864)。口周りを覆う布越しでも臭いが伝わってくる。 この煙に突っ込む代わりに、風下からの接近は臭いで位置や距離を悟られない利点がある。猪と熊を回避し、後は猛獣使いまで一直線というところで不意に殺気を感じて足を止める。黒鴉を掠めるように何かが脇道から飛び出すと、袖口から血が滴っている事に気づく。 「兎・・・・デスカ?」 「一寸遅れてすみません。私が引きつけます」 心眼で一際素早い気配を探していた魚慈が到着し、呼子笛を一度鳴らす。 「気をつけてくだサイ。双角兎は獰猛さでは随一デスヨ!」 一方風上から向かう側では、既に迎撃に向かってきていた蝦蟇と鉢合わせる形になった。 「これで後二匹。後はあいつが一匹相手にすると嘯いてたとおりにするなら、ケモノ使いのおっさんと戦う時はプラス一匹で計算できるわねぇ」 「ではルーティア(ia8760)さん、ここはお願いします」 玲璃(ia1114)の声と共に神楽の加護がつく。 「ありがとう玲璃。任せておいて!」 (「このケモノもあんな奴に操られてるのも辛いだろうけど・・・・今出来るのは速やかに倒して、楽にしてあげること!」) 珍しい片手槍の二槍流で、蝦蟇の舌を弾きながら突撃の構えに入る。その戦いの脇を仲間達が駆け抜ける。 楓子の言う「あいつ」こと令琳は慎重に馬の死角に近づく。 (「ふふ、他の動きにあえて一歩遅れる事で警戒の外に身を置く鬼謀。さて、精々楽しませてくださいよ」) 密かに斬撃の式を呼び、馬の首筋に喰らいつかせると同時に自らも接近して鉄爪で切りかかる。怒りの目でいななく馬を見て嬉しそうに嗤う令琳。 「ハァハハ、どうしました?こんなモノですか?」 「来おったな開拓者!」 「来てやったぜケモノ使い!」 ケモノ使いと銀雨(ia2691)が同時に吼える。 「ま、こっちはあたしが押さえ込んどくからゆるりとやってなさい」 楓子の呪縛符が傍にいた猪を縛る。その間に銀雨はケモノ使いの放つ矢をかわしながら距離を詰める。 「おめえ、色々芸達者だな。開拓者になって俺達にも教えてくれ」 「く、クククッ。貴様らと同じ立場に堕ちよとは我に対し何たる侮辱。ケモノの爪牙で膾にしてくれる」 言いつつも狼に距離をとらせ、その間に槍と盾に構えなおす。銀雨は横に回りこみながら牽制の攻撃を繰り出す。ケモノ使いはそれを盾で防ぎ、対応を狼に委ねる一方で自らは戦場全体の様子を探るように耳を凝らし、時に臭いを嗅ぐ。そして、不意を狙うように槍を繰り出してくる。 「あちち、軽く掠っただけなのに火傷したみたいに熱いぞ」 「銀雨様、先に申しました通り、毒が塗られている可能性があるので傷を負われたときはお早めに・・・・」 そう言いつつ玲璃が放つ解毒の光が銀雨を包む。 ●開拓者対ケモノ 双角兎は雑食で好戦的である。体躯は普通の兎だが脚力は凄まじく、またその鋭い角は堅い鎧にすら穴を穿つ。 「当世具足は大事な一丁裏なので、おいそれと穴だらけにしてもらっては困りますからね」 魚慈はじりじりと間合いを保ちながら、得物で受け流す構えを取る。その間に側面に回りこんだ黒鴉が円月輪を投げつける。 兎は当然のように跳んでこれをかわす・・・・が跳躍から着地まで、回避行動を能動的に取れない一瞬を魚慈が逃さず斬りかかる。 ザクリと鈍い音がして、兎の後右足が切り落とされる。ややあって魚慈の右腿からも勢い良く血が噴出す。 「避けた自信はあったんですがね」 自身の回避よりも攻撃を優先する、凶暴性のなせる業か。 「止血をいそがネバ。畳み掛けまショウ!」 黒鴉は兎の攻撃を自分に向けるべく、投擲を続けながらもソードブレイカーを引き抜き距離を詰める。二方向からの相手を威嚇するように角を振る兎だが、自慢の機動力を失った状態では迫る刃を避ける術も無い。最期の一暴れで二人に負わせた手傷と引き換えに力尽きる。 軽く止血を行い、笛を二度鳴らした魚慈と黒鴉はケモノ使いへと向かう。 「さ、一番小柄な兎でこれですからね。急がないと大変です」 「あ、あわ、あわわわわ・・・・」 二本の刀を十字に回し、熊の殴りかかりを受け流す照日。単調な攻撃なのでしっかりと見れば手ひどい一撃を受ける事は無い。が、如何せん反撃の斬撃を何度浴びせても熊は一向に堪えた様子が無い。 (「効いてない、ということはないはずです・・・・じゃあ、ギリギリまで元気なままとか、でしょうか・・・・?」) 埒の明かない状態を打開するためには出し惜しみ出来ないと踏んだ照日は熊の爪を弾きながら乞食清光を熊の喉もとに突き入れ、すかさず阿見で傷口を斬る。ぶっ、と噴出した血はやはり間をおかず止まる。 (「止血効果もついてる・・・・でも、傷口が塞がってはいない・・・・」) 熊は首の傷を隠すように姿勢を低くして体当たりを仕掛けてくる。これを最低限の動きで避けると、刀に体重をかけながら首を狙って体ごと飛び込むように斬りつける。骨に当たる重い手ごたえを、倒れこむように力をかけて断ち切る。 ごろりと首が転げ落ちると、さしもの熊も動かなくなる。 「大変でした・・・・でも、早く皆のところへ急がないと・・・・」 あわあわと他のケモノと対峙する仲間のもとへと走る。 「のんびりはしてられない、一気に決めさせてもらう!」 ルーティアが二本のランスを蝦蟇に突き立てる。さらに一度引き抜いた槍を零距離で再度突き出す。蝦蟇の舌攻撃は速度は速いが出方が読みやすいので防ぐのは決して難しくない。 だが、傷口から滝のように流れ出る体液・・・・蝦蟇の油が徐々に地面に広がっていく。 「おっ!?」 ぬるぬると滑りやすい油に足をとられるルーティア。転んだ彼女を押しつぶさんと飛び上がる蝦蟇。咄嗟に槍を立て、騎兵の迎撃に使うように構える。 ず、ずずっ・・・・ずぶずぶ。 真っ向から槍に貫かれた蝦蟇の死骸はそのまま速度を緩めながら迫ってきて・・・・丁度人間が潰れないだけの空間を地面との間に残したところで動きを止める。 油まみれになりながら這い出したルーティアは、蝦蟇に軽く手を合わせると槍を抜き取る。 「ごめん、後でちゃんと埋葬してあげるから・・・・」 「チッ・・・・」 令琳は予想外の状況に舌打ちをする。馬は動き出せば速度はあるものの、加速をつける広場の少ない村の中ではその全力を発揮できない。ゆえに真剣な脅威足りえないと戦闘を続行していたが、馬の耐久力と謎の止血能力の為に思わぬ持久戦を強いられていた。 「あまり撃ちすぎるとトドメに使う練力が不足しそうですね・・・・」 と、予断が頭をよぎったためか、回避に十分な距離を取れなかった令琳のこめかみがざっくりと切れる。刃蹄馬の蹄は触れるもの全てを切り裂く鋭さがある。傷は浅いが頭部の負傷は見た目の出血が多い。 「くそ、ケモノ風情が私に傷を・・・・肉片に変えてくれる」 怒りに満ちた目で睨んでいると、蝦蟇を片付けたルーティアが駆けつけてくる。 「令琳、正面からの攻撃はこちらが引き付ける」 「何、もう一息で片付くところだったんですがね。援護はありがたくいただいておきましょう」 ケモノ使いが口笛のような、ケモノの唸りのような声を出すと、猪は牽制に入っていた楓子を無視して銀雨に突っ込む。 「あたしを無視とはいいご身分だこと。後悔するよ」 楓子の呪縛を横合いから受け、明らかに動きが鈍る。だが、そのまま突撃をやめぬ猪には何らかの防御行動を取らねばならない。 緩慢な動きの猪をかわす銀雨に、距離を詰めたケモノ使いの槍が迫る。毒塗りの槍を避ける為、少し無理な体勢になったところで狼の長い鉤爪がざっくりと抉る。 「ぐあっ」 「一瞬だけ痛みに耐えてもらえれば癒します。踏みとどまってください」 玲璃がすかさず癒しの力で傷を塞ぐ。後ろから喰らいつくように襲い掛かる斬撃の式が猪を切り裂く。 「我のケモノはその程度びくともしない。他の開拓者どももそろそろ力尽きる頃合か」 「自信があるのは結構だけど・・・・読みの甘さは感心しないわね」 楓子が薄っすらと笑いながら指し示す方角から照日が走ってくるのが見える。 「遅く・・・・なりました・・・・」 そのまま猪の眉間を打ち据える。怯んでよろよろと後退しながらたたらを踏む猪。 「傷や痛みには強いようデスが、習性自体は変わっていないようデスネ」 「単純に力不足なんですよ、あなたの敗因は」 黒鴉と魚慈も退路に回りこむように姿を現す。 ケモノ使いは存外に切り替えが早かった。 「クク・・・・ク、おのれ開拓者ども!覚えておれい・・・・五年後、十年後・・・・次こそは、必ず!」 地面に袋を投げつけると、中からもうもうと土色の煙が舞う。 「はぁぁぁっ、はっ!」 ルーティアの対騎馬の槍構えで足の止まった馬の腹を、式の力を宿した令琳の鉄爪が深く切り裂く。さすがに中身が零れ落ちるほどの深手を負って、ゆっくりと足を曲げた馬はそのままへたりこみ、呼吸を止める。 その時、村の中央から土色の煙が昇る様子が見えた。 「あれは!?」 「む・・・・時間をかけすぎましたか?・・・・獲物が一匹どまりだと?つまらん」 後半は聞こえないほど小さな声で、令琳が舌打ちしながら呟く。 「げほっ、なんだこれは」 「あわわ・・・・目がしょぼしょぼします・・・・」 飛び切りの異臭と目に対する刺激を発生させる煙の中で、魚慈の心眼にはまっしぐらに走り去ろうとする気配が見える。 「行ける人、音の方にお願いします・・・・今だ!」 呼子笛を吹き鳴らすと同時に、黒鴉の円月輪と楓子の式が音の方に撃ち込まれる。魚慈が体を張って押しとどめた何かにそれらが当たる。 「おっしゃああああ!」 銀雨の全力の一撃が浴びせられ、どさりと倒れる音がする。 やがて煙が晴れると、そこには横たわった猪が転がっていた。 「逃したか・・・・」 村を回って確認すると、倒せたケモノは狼を除く五匹。村人達に一先ずの安全を伝え、ケモノ達を村からやや離れた野に葬る。ルーティアが率先して皮や角など、使える部分をきちんと剥ぎ取る。 「あんまり見たくない光景ねぇ・・・・」 「命を奪う以上その身を無駄にしないのが、こいつらへのせめてもの供養だからな」 「・・・・どうです?」 「食餌強化とでもいいますか、長年様々な物を食べさせて傷に強い体を作っていたようですね。出血の少なさはそれが理由でしょう。痛みへの強さは・・・・薬というか香というか、痛覚を鈍くし攻撃性を増す効能のある物でも使っていたのではないでしょうか」 照日が戦闘中に感じていた疑問を口にしたところ、万が一にもケモノの血肉が何らかの毒物に変化していれば大変なことになることもあって開拓者達は知識を総動員してケモノの体を調べることにしたのである。 「残念だな!あいつを捕まえれればどうやったかとか食えるかとか聞けたのにな」 調べている間は割と蚊帳の外だった銀雨がぴょんぴょんと跳ねながらあまり残念そうにも聞こえない大声で言う。 「まあ・・・・ケモノをこうするまでには数年がかりの仕事である事と、香や薬抜きでは自由自在に操れるわけでもないとわかっただけでも十分でしょう」 「少なくとも、人に広く広めて回るような御仁には見受けられませんでしたからね」 そしてケモノ使いの去った方角を開拓者達はふと眺める。 願わくば、彼が再び人を害する日の来ぬことを願って。 |