|
■オープニング本文 「先一昨日は猟師、一昨日は木こり、昨日は行商人と」 「一貫性が無いな」 二人の兵士が雪を踏み分けながら歩いている。ここ数日連続して発生している行方不明事件の調査の為である。 「強いて言えば森からだんだん街道に近づいているのでは、ということらしい」 「そもそもその三人が消えたというのはどこから来た話なんだ?」 「行商人に落ち合う予定の商人仲間が、遅いと思って迎えに行ったら途切れた足跡と小さな血痕があったそうだ。そこから遡って、出たまま音信不通の先の二人の名前が上がったと・・・・」 「・・・・あんな感じか?」 話を遮って兵士の一人が指差した先には、確かに一面の白の中に薄っすらと赤が見える。 「調べてみる。やばい気配がしないか辺りを見ていてくれ」 もう一人はそう言うと、刀に手をかけ慎重に血痕へと近づいていく。 と。 足元の雪に嵌り・・・・いや雪が大きく開き、声を発する暇も無く彼を呑み込んだ。少なくとも、雪に嵌っただけの人間は千切れた腕を残して消え去りはしないだろう。 残されたもう一人は、躊躇無く走り出した。呆然とする他無い怪事はアヤカシの仕業であり、アヤカシに抗するは開拓者に任せる他無い。 「かくて四人の尊い犠牲によってアヤカシの凡その見当がついたわけだ」 眉一つ動かさず受付が言う。 「雪原を顎のように操り人を喰らう。姿は見えなかったらしいので雪中に潜んでいる、又は雪そのもので出来たアヤカシかもしれん。そして、犠牲になった兵士の片割れが無事だったことから、一定の範囲内でのみ行動していると推測できる」 推測とはいえギルドが依頼するに足ると判断した上での状況説明である。大きく外れた事は今のところ無い。 「現在の懸念材料として、森と行商人の死亡推測地点、今回の兵士の死亡地点を線で結ぶと・・・・その先、然程遠くないところに村がある。アヤカシが移動している前提で考えると早めに始末せねば村が襲われる事になるだろう。いつもどおり、宜しく頼む」 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
雲母坂 芽依華(ia0879)
19歳・女・志
金津(ia5115)
17歳・男・陰
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
ブラッディ・D(ia6200)
20歳・女・泰
迦倶土 獅吼(ia8504)
32歳・男・砂
和奏(ia8807)
17歳・男・志 |
■リプレイ本文 「雪、雪、雪ばっか・・・・寒いのも動き難いのも嫌いだな・・・・アヤカシなら尚更ね」 ブラッディ・D(ia6200)の嫌そうな言葉の通り、辺り一面が雪で覆われている。 柊沢 霞澄(ia0067)の用意した踏み俵で迦倶土 獅吼(ia8504)らが道を作っていればこそ労を抑えて進めているが、踏み固められていない雪に踏み込めば足を取られて難儀するだろう。 十分な防寒具を着込み、雲母坂 芽依華(ia0879)や設楽 万理(ia5443)が用意した温石を懐に忍ばるなど、出来る限りの寒さ対策はしている。 「寒い、寒いわ。冬なんてさっさと終わりなさいよ」 が、万全の準備をして尚冷え性に悩む万理はおかんむりである。一方で芽依華は鼻歌を歌うほどの余裕がある。 「♪ゆぅ〜きやこんこ・・・・って言うとる場合やあらへんな。遊ぶんは後回しにして、今は遊ぶんの安全を確保するっちゅう事どすな」 「どこから出てくるか判らない相手なんですから、皆さんももうちょっと警戒しておいて欲しいのですが」 「ははっ!これ位呑んでかかったほうが勝つには丁度いいってもんだ!」 和奏(ia8807)の心配を獅吼が笑いとばす。尤も、心眼哨戒担当の和奏と道の切り拓きを担う獅吼のそれぞれの反応としては当然といえるかもしれない。 「ふむ・・・・もう暫くはこのままでいけますか?」 高遠・竣嶽(ia0295)がちらと後方の金津(ia5115)を見る。 「後一刻は大丈夫ですっ!昨日頑張って計算しましたからっ」 索敵スキルも無尽蔵に使えるわけではない。姿の見えない敵との遭遇となると互いの移動速度から計算して凡そを割り出した上で警戒を始めるほうが効率が良い。相手の速度は推定に過ぎない以上、決して楽観できるわけではないが。 幸いにしてそれから一刻の間に襲撃を受けることは無かった。 「吹雪も来なかったし、今が最良の時機ですね・・・・」 「ここからは一層の警戒を。僅かでも変わったものがあれば見逃さないようにしましょう」 竣嶽の言葉に応じて前衛は互いにある程度の距離を保ち広がる。 と、突然和奏の前の雪が盛り上がる。 「しまった、既に領域内か」 刀を抜いていないことが幸いした。後の先の一撃が雪の上顎を斬り飛ばせなければ、脚の一本も千切られていたやもしれない。鋸の歯のような雪の牙を身を翻してかわし、咄嗟に退く。アヤカシとの遭遇を理解した霞澄の結界と芽依華の心眼が正体を暴かんとするが・・・・ 「なんや、小さめの何かがあっちゃこっちゃにわけも無くフラフラしてはる。しかし雪の中なのにえらい速う動けるもんどすなぁ」 「え・・・・いや、間違いじゃないです。前のほう全体に瘴気が見えます・・・・」 恐らく二人とも人喰い雪を見ているのであろうが、反応がまるで異なる。 「何だ?大小二体に分裂したのか?」 「いえ・・・・恐らくはその小さな本体が周囲の雪を支配しているのでしょう」 「知ってるよ!わざとだよ!ついだよ!」 自分の言葉を訂正した竣嶽と(一方的)ライバル関係にあるDが食ってかかる。 「はい・・・・多分そうです。瘴気がゆっくり近づいてきてます。気をつけて・・・・」 前衛がじりじりと後退する中、刀を鞘に納める和奏に獅吼が叫ぶ。 「和奏ぁ!手応えはどうだ!」 「思いの外あっさりと切れました。なので、本体には届いてないんでしょうね」 「ま、ある程度は予想通りって事よね。人を使わない囮から順番にいこうかしら」 肩をすくめて万理が言う。人を使わない、とは金津の人魂を使うという意味だ。 「任せてくださいっ、立派に囮をつとめてくるですよっ!!」 必要以上に力のこもった返事と共に、小さな兎が金津の手から飛び降りる。 そのままアヤカシのいた方向に進ませていくと、ごばっと雪原に穴が開き、人魂が呑み込まれる。 「ハハハッ、ついでにこれも呑みこんでくださいよっ!」 「頭は良くないみたいね。なによりだわ」 それを待ち構えていた金津の焙烙玉と万理の精神力の篭った矢が雪の穴に叩き込まれる。 雪が勢い良く跳ね上がっては蒸発する中、『ギィゥオォオオ』と呻きとも唸りとも区別の付かない音が響く。 「声が出るって事は、効果があったみたいだな」 「ちょっと確認してみますっ」 金津が飛ばした小鳥の人魂が上から見ると、攻撃の集中した箇所は雪が解けきって地面が見えている。アヤカシは既に他の雪の中に潜ってしまったようだ。 「動きは追えてますか?」 「霞澄はんが言うには領域全体がゆっくり動いてはるみたいどすなあ。ひょっとすると完全に周りを溶かしてしまえば、どこも行かれへんようになるかもしれまへんが」 領域はかなりの範囲に及ぶためさすがに八人で行うには現実的ではない。 そして、先程の一撃で学習したのか、囮にも同じようにはかからなくなった。雪上に降りた小鳥が雪の中に飲み込まれるまでは一緒だが、その中に本体がいなかったという。 「牙を生やすような攻撃的なことは本体がいないとできないけど、小さな目標を引きずり込む程度なら本体抜きでもやれちゃうみたいなんですっ!」 それが上手くいかない時、はじめて本体による攻撃がなされるということだろう。 「となれば、我々志士の出番のようですね」 刀を鞘に納めたまま歩み出る竣嶽にDが吠える。 「あんまり無茶して怪我すんなよ!」 「ありがとう。それ以上心配かけないように気をつけますよ」 「お、俺はあんたなんかどうでもいいけど!あんたが怪我するとアイツが心配するだろうから気に食わねぇの!」 軽く微笑み返す竣嶽に慌てたように言い返す。がるると唸りながらも、応援しているのは確かなのだ。 「しょうがないから援護ぐらいしてやるよ!その代わり確りと!」 「ええ、今度捕まえたら二度と雪中には戻らせないつもりです」 「・・・・考えられるのはこんなところでしょうか。複数に同時に襲い掛かった場合は多少難しくなりますが」 「そん時は獅吼はんの一発、頼りにしとりますえ」 「文字通り後にも先にも一発のみだがな!」 確実なのは相手は一体。ここまでの動きから一度に操れる雪の口も恐らく一つ。三人の志士のいずれかが危うくなっても残る二人が即座に援護に入り、離脱の体勢は整えられる。獅吼の地断撃と咆哮はいずれもその際には大事な札だ。 「勿論他の方々も頼りにしていますが・・・・背中に誤射はやめてくださいね」 「安心なさい。あなたに当たる時は本気でそう狙ったときだけだから」 「残念ながら焙烙玉はさっきので撃ち止めなのですっ。ここからは百発百中っ!斬撃符の登場ですっ!」 かなり物騒な物言いだが、つまりは万理も金津も己の技量は信用に値するという意味だ。 三方にやや広がる形で三人が進んでいく中、竣嶽の足に普通の雪より重い抵抗がかかる。見ると片足に蔦の様に雪が絡み付こうとしている。無論、所詮は雪の硬度なので力を入れれば砕け散るが・・・・雪折の構えと共に下からの気配に意識を集中させる。 「来ます!」 それだけいった時には、彼女の前に既に巨大な口が開いている。 (「上顎は無駄、となると下顎も恐らく同様。残るは・・・・喉奥への斬り込み!」) 雪の顎とはいっても実際に生き物の顎のように整然と牙が並んでいるわけではない。寧ろ、無数の棘の生えた二枚の板が閉じてくる罠のようなものだ。そこに踏み込むとなると鉄底の靴でもなければ無傷というわけにはいかない。それでも、竣嶽は躊躇無く踏み込むと顎の閉じる動きに先んじてその喉というべき部分を薙ぐ。 切っ先が雪の重みとは違う生き物の感触を得る。すかさず、捻る様に切り返し両手で押し込むように刺し貫く。 ギィウゥウウウウ!! 刃の先に、尋常でない奇声をあげる白いヒトデのようなものが刺さっている。これが本体であろうか。刺し貫かれながらもその力が衰える気配も無く、雪の顎は徐々に閉じようとする。 と、直後上顎の部分がDや金津の遠距離攻撃を浴びて吹き飛ぶ。 「外側からの攻撃への脆さは普通の雪ですねっ」 「あーもう、無茶するなっていったばかりだろうが!」 「無茶はしていませんよ。援護してくれると信じていましたから」 真顔で返されて、うっと返答に詰まる。 「それと皆さん、これが人喰い雪の本体です」 刀の先に目を向けると、そこには身をよじって刀から離れようとする白ヒトデ。再び雪に潜られると、今度は一目散に逃げ出すかもしれない。 「こういう時は・・・・拙速を尊ぶというやつどすな!」 距離を詰める芽依華の前に、新たに作られた雪の顎が開く。が 「甘いっ!」 予測していた芽依華のカウンターで中程からずれるように斬られ、崩れていく。 「雪折の名にぴったりの状況どすな♪」 散る雪を前に、次の襲撃に備え刀を鞘に戻す。そして・・・・ 「操れる口が一つずつでは多人数相手に守りに回れば終わりでしょうに」 妨害される事すらなく接近した和奏の一撃がアヤカシを斬る。血を流さぬ軟体のアヤカシだが、その悲鳴を聞けば弱り具合は判断できる。 今度は新たな口が和奏を襲うが、後ろに飛び退いてこれを避ける。 「抜いてしまったから切り返せないのが残念ですけどね。それより、こちらに攻撃を振り向けちゃって、肝心の本体の守りは良いんですか?」 その言葉に反応したかのように渾身の力で竣嶽の刀から離れ、雪中に逃れようとするアヤカシ。 「獅吼、今っ!」 「おうよ待ちわびたぜぇ!逃げるなんてまどろっこしい事してんじゃねえ!」 地断撃で雪を切り開きながら、怒りの咆哮を飛ばす。獅吼を狙う軌道で雪に飛び込もうとしたアヤカシは、そのまま雪の無い地面に降りるまで自由落下するほか無い。 「さて・・・・これでとどめにしましょ?」 「私も・・・・」 前衛の回復を中心に動いていた霞澄も攻撃に加わる中、万理の矢がアヤカシを地面に縫い付ける。 「さ、今のうちに!」 開拓者達の渾身の一斉攻撃を受けたアヤカシは、雪のように溶けて消え去った。 「討伐の証ってのが欲しかったが、そうもいかねえな」 「戦傷が何よりの証ですよ」 頭を掻いて残念がる獅吼を仲間が宥める。 「まーだー?」 「そない言わはるなら万理はんも手伝ったらいかがでっしゃろ」 ガタガタと震えて催促する万理にむくれながら、芽依華達がかまくらを作っている。 芽依華が強く主張したのも有るが、一休みや怪我の手当てにもキャンプになる場所が出来るのはよいことだ。 「あーほら、竣嶽は足に穴開いてるんだから霞澄に治してもらいながらじっとしてろ!」 「もう・・・・大丈夫ですよ・・・・?」 「ははっ、まぁ休んでいいって言ってるみたいだから休んどきな!大勢でやりすぎてもなんだしな!」 ちょっと窮屈くらいのほうがそれらしい、という事で4人がぎりぎり入れる位のかまくらが二つ出来上がった。その中で、芽依華が手際よく炭を起こし網の上で餅を焼いていく。 「いや〜、これが楽しみで来たんどす♪」 「かまくらの中で焼くとおいしそうですっ!」 ぷくーっとふくらむ餅にはしゃぐ者もいれば 「あ〜、お燗でやっと人心地つけるわ〜」 「甘酒もありますから、よろしければこちらもどうぞ」 酒で暖を取るものもいる。 そしてゆっくり休みながらアヤカシの脅威が除かれた事を確認した開拓者達は雪原を後にしたのであった。 |