寒気の王
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/23 02:56



■オープニング本文

「わぁ、雪だ雪だ!」
 子供達の声が響く。
 大人たちには冬越の苦労を増やす種の雪も子供には良い遊び道具。たちまち駆け出した子供達によって雪だるまやかまくらが作られ、雪合戦やそり遊びに興じる姿があちこちで見られた。

 異変はその翌日より起こった。前日数多く作られた雪だるまが一夜にして消え去ったのである。
 人々は不思議に思ったがそれ以上は追求しなかった。子供達もさして気にする事無く、また多くの雪だるまを作った。
 そしてまた翌日も、その翌日も雪だるまが消えることが繰り返された。雪だるまが消える度に翌日は風雪の勢いが増す。雪の重みにきしむ家の中で慄く村人達は気味悪がり、山のたたりだ、アヤカシの仕業だと噂しあった。

 子供達の間では別の噂が広がっていた。雪だるまがなぜ消えるのかと夜更かしして見張っていた子供が、丑三つ時に雪だるまがぴょんぴょんと飛び跳ねながら山のほうへ消えていくのを見たと言うのだ。
 大人たちはこれを、寝ぼけて夢でも見たのだろうと一笑に付していたが・・・・

「ギルドとしては、この子供の証言を本命と見ている」
 おそらく冗談では無いのであろう。真顔でギルド職員は言った。
「まさか、と思わせるやり口はアヤカシの常套手段だ。山中で何をしているかは知らないが、尋常ならざる大雪もこの動く雪だるまを操るアヤカシの仕業と予想している」
 アヤカシを見つけた場合、操られた雪だるまの群れとの交戦が考えられる。
「全く未知数の相手だが、雪だるまに関してはその特性がそのまま生きているのではないかと思う。つまりは火に弱く、突く・射るといった攻撃は効果が薄い。攻撃手段は体当たりや雪玉が妥当なところか」
 当然ながらアヤカシの攻撃方法である以上、冗談のようなそれらの攻撃でも命を脅かす威力になっている事は十分にありうる。
「周囲の寒さや雪も大敵だ。防寒準備は十分にしておいてくれ」


■参加者一覧
那木 照日(ia0623
16歳・男・サ
相馬 玄蕃助(ia0925
20歳・男・志
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
鬼限(ia3382
70歳・男・泰
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
白蛇(ia5337
12歳・女・シ
風鬼(ia5399
23歳・女・シ


■リプレイ本文

●準備するものたち
「さあ、ありったけの防寒装備をお願いします」
 ギルドの貸出品倉庫でわいのわいのと開拓者達が騒いでいる。
「・・・・わかっていると思うが着込み過ぎれば当然動きが悪くなるからな」
「寒くて死ぬ辛さよりマシです。もっこもこになるくらいまでは大丈夫」
 一通りの装備以上に着込もうとする風鬼(ia5399)に備品担当が呆れ顔をする。
「ダサいのが嫌よねぇ。今時藁編みなんて」
「文句を言うなら借りるな。貸出装具に実用性以外があるわけなかろうに」
 文句を言いながらも借り出した防寒具に自前のねこみみ頭巾と外套を纏う橘 楓子(ia4243)。彼女なりのコーディネートか。他にも襟巻や靴選びなど、各々寒さ対策に余念が無い。
「かんじきも持っていくかい?」
「そんなのまで要るの?まぁ、くれるというなら借りていくけど」

「雪は・・・・好き。でも、村人達の害になるなら・・・・なんとかしないと」
 白蛇(ia5337)が息で手を温めながら、一面の雪景色を眺めて決意の言葉を口にする。
「確かによそと比べても寒いで済む話じゃないわね」
 屋根から下がる巨大なつららや昼間にも関わらず壁などにはった霜を見ながら霧崎 灯華(ia1054)がため息をつく。
 家壁の僅かな隙間や皹で霜が出来れば、最悪中から崩れかねない。そうでなくても、全く溶けないそばから次の雪が積もるため家々は外から見ても危険な状態にある。
「この寒さがアヤカシの仕業なら、元を断てば村の皆さんも安心でしょう。さて、まずは子供達に雪だるまについて聞きましょうか」 八嶋 双伍(ia2195)の言葉に促されるように開拓者達は門戸を叩いた。

「で、大事な話でござるが・・・・雪だるまの核に巨石を使ったり、物騒な物を持たせたりした子はおらぬかな?怒らぬからそれがしに正直に話してくれい」
「石入れるのはズルだから止めてるよねー!」
「でも佐吉だけは入れてるんだぜー!
 村長の家の囲炉裏を囲って、相馬 玄蕃助(ia0925)の問いかけに集められた子供達が一斉に喋る。
「いるわよねー。禁止されると抜け駆けするのって」
「後ね、雪だるま、被り物してるのは多いよ!」
「鍋のふたとか良く乗っけるよな」
「鍋のふた?」
「若い衆が都に行商に出た時に、万商店で二束三文で売り出されている鍋蓋や枝払いに使える刀、笠や横笛などを土産代わりにしばしば買っておりましてな」
「・・・・何だか開拓者としては馴染深い品が並んでおりますな」
「あわわ・・・・申し訳ないことをしてる気持ちになります」
「つまり賊刀を差した物騒な雪だるまがいるということでござるな・・・・ハッ、まさか竹槍も!?」
 さすがにそこまでは無いようだ。

●雪だるまを追って
「あー、もう駄目。帰りましょ」
「目立った道標が無いとなるとこれ以上の深入りは危険じゃな」
 楓子と鬼限(ia3382)の全く異なる方向性の意見が同じ結論に辿り着く。村も大概雪が深かったが、山に入ると積雪が尋常ではない。何せ立ち木まで埋もれかけているのだ。白い斜面が延々続き、空がどんよりと雪雲で覆われているとなると下手をすれば遭難しかねない。小鳥に変えて飛ばしていた符を戻しつつ、双伍も首を振る。
「上からでは雪だるまの身に着けた小物くらいでは判別できませんね。やはり雪だるま追尾に頼るしかなさそうです」
「夜はもっと寒い・・・・皆、気をつけて」
「死ぬ要素がどんどん増えてる気がしますな」
 白蛇のもっと寒いという言葉に普段表情を露にしない風鬼が眉根だけ見て判るほど露骨に嫌そうな顔をする。寒いのが本当に嫌いなようだ。

「こんなものですかね」
「これが遊びならよかったのに・・・・」
 割と会心の出来の雪だるまを見て那木 照日(ia0623)がしょんぼりとする。これが囮で、場合によっては自分達で壊さねばならないと思うとちょっと悲しい。
「子供達も同じ思いでしょう。あの子達のためにも寒気の王を叩かねばなりません」
 良いことを言う双伍の後ろで、悪乗りした大人達がひどい事を始めていた。
「後は目立つ色に旗を差して目立つようにしておくべきじゃな」
「ついでだから帽子代わりに頭にも巻きましょう」
「何だか子供達の雪だるまと凄まじい共通点を感じますな」
「で、染めるって何で・・・・ちょっとあんた、こっち向いて鼻血噴かないでよ!」
「ふぅ・・・・それがしが紅に染めたこの旗なら百里を離れても見逃しますまい」

 そして夜。
「ほんと寒いわ・・・・風鬼じゃないけど死が間近に迫る寒さね」
「これ・・・・使う・・・・?」
 楓子に白蛇が差し出したのは小さな布包み。
「これは?」
「囲炉裏で・・・・焼いた石を・・・・包んだの。石は・・・・他にも・・・・いくつか」
 わっと家に戻って石懐炉を作る仲間達をよそに、白蛇は物見槍に巻いた松脂布の燃え具合を確かめる。
「うん・・・・大丈夫。雪に刺しても・・・・すぐに・・・・は消えない」
 これなら灯りとしても、いざという時の武器としても使えるだろう。

「さてと、後は甘酒でも飲んで暖をとりながらゆっくり待ちましょ♪」
 暖めておいた甘酒を飲み始める灯華。丸一本空にする頃、雪だるまに動きが見える。
 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、山のほうへ一目散に動き出す雪だるま達。見ていた照日が思わず口にする。
「わぁ・・・・何だかちょっと可愛いです」
 幸い、然程早い移動速度ではないので追っていくのは難しくない。最初は周囲に警戒するのではないかと身を隠して追跡していた開拓者達だが、わき目もふらず跳び続ける雪だるまはそこまでの力が与えられていないことがわかると、余計な心配はせずゆっくり休みを取りつつ追うだけで良くなったのだが・・・・
「何だか足が重くなってきました」
「休む度に寒さで体の反応が落ちているのではないかと・・・・」
「何じゃ、若い衆が情けない。わしなどレッグウォーマーだけで十分問題ないというのに」
「そりゃ、あれだけでかけりゃ十分よね」
 ドラゴンレッグウォーマー。レッグウォーマーと言うには余りに無骨で巨大な・・・・一言で言えば龍用サイズのそれは、人が使えば脚といわず下半身全体を保護できる。こと保温にかけては毛布にも勝る。
 そうして緊張感無く進む一行の前で、雪だるまの動きが止まる。
「・・・・着いたみたいね」
 楓子の声に皆素早く切り替え臨戦態勢を取る。
 開拓者達の前に広がるのは、氷の丘を囲ってずらりと並ぶ雪だるま達の姿。
「あわわ・・・・村の子たちのいっていた雪だるまもいますね」
「あぁ・・・・アヤカシ絡みで無ければ童話みたいで素敵な光景なんですけどね」
 双伍の言うとおり、ちょっとした雪だるまの村に見えなくも無い。だが、どこを見回しても肝心の寒気の王と思しきアヤカシは姿を見せない。

●雪だるまを統べるもの
 灯りを消し、息を殺して潜む開拓者達を、それまで以上の冷たい空気が包みだす。
「寒っ、そろそろ親玉のお出ましって気配じゃない?。出来れば昼までやり過ごしたいとこだけど・・・・」
「寒気の王と名乗るほどじゃ。実体化するのが夜のみなどとなると贅沢は言えんの」
「大きな・・・・雪だるま・・・・だと、思うの・・・・」
「いやいや、人を凍え死にさせる怪異と言えば相場は、むっふっふ」
「いや、言霊が怖いから鬼限も白蛇も予想はしなくていいから。後玄蕃助が碌でもない妄想をしてるのはわかったから、あたしの視界外で失血死してなさい」
 鼻血をたらしながら男らしい笑顔をみせる玄蕃助を灯華が追い払っていると、ゴゴゴ・・・・と地の底から響くような振動音が伝わってくる。
 そして氷の丘が真っ二つに裂け、中から現れたのは・・・・超巨大雪だるまである。
「・・・・当たった・・・・」
 ぱあっと嬉しそうな顔をする白蛇。一方玄蕃助は憤怒とも絶望ともつかぬ表情で呻く。
「馬鹿なっ!!それがしの『むちぷり雪女登場で寒気の王が歓喜の王状態』計画がっ・・・・!!」
「寒っ!」
「玄蕃助さんを寒気の王として退治してよさそうですな」
「ええと皆さん、そんな事より見つかってしまったようなのですが」
「あわわ、じっとこっちをみてます〜」
「あれだけの巨体から見下ろされては不可抗力じゃわい」
 最早隠密に意味は無しと鬼限や白蛇は早々に灯りを点け直している。下から照らし出す真夜中の雪だるまの顔というのは中々怖い。
 大勢の雪だるまがぴょんぴょんと列を成して開拓者に向かってくる後ろから、周囲になにやらキラキラとしたものを纏って寒気の王もズシンズシンと跳ねながら向かってくる。
「あれは?」
 頭の中の情報を総動員させ、楓子と灯華は思い当たる現象を導き出す。
「・・・・多分、周囲の空気が凍ったのが照らされて光ってるんじゃないかしら」
「伊達に寒気の王って名づけられたわけじゃ無さそうね。近づきすぎるとそれだけで凍傷くらいの目にあうわよ!」

「一番槍、相馬玄蕃助が付けさせて頂く!ぬん!」
 気合と共に炎を纏わせた槍を玄蕃助が振るうと雪だるまはあっけなく崩れ去る。
「ふむ、まずは小手調べじゃ」
 鬼限も拳を当てて雪だるまの頭を砕くが、胴体だけになった雪だるまは何事も無かったかのように跳ねかかって来る。
「どうやら下の玉を砕かねば動きは止まらぬようじゃな。皆も心せい」
 そう言ってもう一方の拳で胴体に当たる玉を打ち砕いた。

「突入路はこちらで開きます。来たれ、火炎獣」
 双伍の火炎獣が雪だるまをなぎ払う。開いた穴を埋めるべく集まってきた雪だるまを、今度は楓子の火炎獣が薙ぐ。
「考えの無い相手で助かるわぁ」
 一本大きく開いた道を前衛たちが突撃する。

 白蛇は仲間の肩を借りて跳躍すると、王の頭部に物見槍を差し込む。たちまち柄を伝うように氷が迫るが、素早く手を離すと印を組む。
「燃えて・・・・」
 青白い炎が走り、物見槍に巻きつけた松脂布に着火した瞬間小さな爆発が起こる。一気に溶けて蒸発した氷が王の表面を破って噴出したのだ。ガラガラと王の頭の一部が崩れ落ちる。
 しかし白蛇もその一度の肉迫で全身を霜に覆われる。手を動かすと痛みがある・・・・まだ感覚を喪失してはいない。
「大丈夫・・・・まだ、頑張れる・・・・」
「よし、それがしも白蛇殿に続かん!」
 玄蕃助の炎の槍は王の胴体に刺さり、周辺をどろどろと溶かしていく。さすがに頭より一回りも大きい胴体は一撃で崩れはしないが、手数で押せばなんとかなりそうだ。が・・・・
「うおおっ!?」
 迫り来る巨体を避けながらとなると中々踏み込む機会が得られない。その時・・・・
「鬼さんこちら・・・・手の鳴るほうへ・・・・」
 大声ではないが良く響く照日の歌声に誘われるように王が進路を変える。
「やれやれ、動くたびに雪が振ってきちゃって・・・・鉄傘、一応持ってきててよかったわ」
「これ以上動きたくないので早目に片をつけたいわけで」
 両側に潜んでいた灯華と風鬼が姿を現す。火遁と火輪を同時に受けた雪原に大きな穴が開く。
「自分で積もらせすぎた雪に不覚を取るなんて素敵じゃない?」
 即席の落とし穴に落ちた王は地面を凍らせて徐々にせり上がって来る。が、この好機を逃す開拓者達ではない。
「肆連撃・・・・爻・・・・!」
「士たる者は出し惜しみはせぬのだ!」
 踵を返した照日の刃が踊り、今尚炎を灯し続ける玄蕃助の槍が闇夜に一筋の赤い軌道を残す。
「ふふ、わしには炎を生む技など無くば、ただ有る炎を使うのみ!」
 鬼限は手にした松明を放ると、蛇のようにくねる腕で松脂布を巻き取りながら殴りつける。
「ふふ、炎に拳を通して火傷するのは修練が足らぬ証とからかわれたもんじゃ」
 肘上までめり込んだ腕を引き抜く。飛手には焦げ目一つ付いていなかった。

 前衛が突撃を終え後ろに下がると同時に、方々から炎が寒気の王めがけて集ってくる。陰陽術と忍術による5つの炎が集約した瞬間、目を灼くばかりの光が走り、それが消えた頃には巨大な雪だるまは影も形も無くなっていた。

●寒気の明けた日に
「あたたたた、さすがに冷やしすぎたかのう」
 寒気の王に突き刺した腕を囲炉裏の火の前でさすりながら鬼限が言う。村でアヤカシを退治したことを報告すると、開拓者達はそのまま暖を取らせてもらった。村は今も雪に包まれてはいるが、昨日までのような異常な寒さではない。
「死ぬが死ねるになっただけで十分寒いんですがな」
 風鬼は村に帰って以来囲炉裏の前から一歩も動いていない。
「ああ、それがしの腕も凍傷に冒されて危険な状態。これを治すには女性の人肌が良いと申してですな・・・・」
 べき。
 わきわきと近づけた手を楓子に火箸で殴られて悶絶する玄蕃助。
「ああ、折角式で治したんだから大怪我させちゃ駄目ですよ?」
 実際、双伍の治癒符による即座の治療が無ければ村に下りる頃には悪化していたであろう。
 どちらにしても人肌で癒す治療法は存在しないが。

「お姉ちゃんありがとー!」
「また雪だるま作るぞー!」
 子供は元気だ。そして、少々のことではめげない。
 開拓者達に口々に礼を言うと、今度は雪解けまで消えないであろう雪だるまを作るべくはしゃぎまわる。
「今度は・・・・私達も一緒に作るね・・・・」
「あわわ、わ、私も手伝います〜」
 出来上がった雪だるま達は、心なしか優しい顔に見えた。