龍賊
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/02 21:26



■オープニング本文

 天儀では様々な賊徒が跋扈している。
 山では山賊が、海では海賊が。馬に乗って襲撃する馬賊が‥‥そして、龍に乗って襲撃する龍賊が。

「賊の襲撃だー!」
 地方の小さな都市で、半鐘が打ち鳴らされる。道行く人々は手近な建物に逃げ込み、住人達はしっかりと戸を閉める。無法者の襲撃に対する一般的な対応である。
 違うのは、街の顔役達が金の入った袋を用意して広場に残っている事だろうか。
「ど、どうぞお納めください。今月の分にございます」
 馬から飛び降りた賊の首領に顔役達は頭を下げると、袋を差し出す。
「ふん。いいだろう。今回はこれで帰ってやろう」
 中身を覗き、重さを確かめた賊は袋を各自が持つと再び馬に跨る。そして彼が手に布を巻いて手を振ると、上空で旋回していた4頭の龍がくるりと向きを変え、街から離れていく。
「来月また来る。金を用意して無ければお前らの屋敷を手始めに、街が炭山に変わると思えよ!」

「‥‥とまあ、そういう状況なわけだ」
 ギルドの係員が依頼書を読み上げる。賊はさして精強と言い難いどこにでも居る馬賊なのだが、傭兵として4人の龍騎兵を雇っていて、これがかなりの手練であるらしい。
「領主の持つ龍騎兵がやられて以降、あの一帯に彼らに対抗できる戦力はない。街の住人が賊の要求を飲み続けているのはそうした背景からだ」
 一つ幸いなのは、賊は毎月決まった日に襲撃をしてくるということだ。何日も警戒せずとも、その日にさえ待ち構えておけばいい。
「依頼の内容は至極簡単に言えば賊の撃退なんだが‥‥街の住民に被害を出さないよう、金の受け渡しが終わり、顔役が引っ込んでから仕掛けることになる。龍騎兵を相手にしつつ馬賊を追って金を取り返さねばならん。当然ながら龍の使用許可もおりている、よろしく頼むぞ」

 そして襲撃の日、馬賊の根城では‥‥
「傭兵の大将がた、今度はギルドの開拓者が出張ってくるみたいですぜ」
 馬賊の首領は、顔色を覗うように龍兵たちを見る。金を出して雇っている立場だが、稼ぎの源である彼らの意向は首領の意志より優先されている。
「ふん、超人力の開拓者といえど、龍の扱いは最近始めたばかりの素人に過ぎん」
「然り。空の戦は人ではなく龍の力が最も肝要。幾多の修羅場を渡り歩いた我等の龍と奴らの龍では天地の差があろう」
「お前達はいつも通り、集金を済ませて脱兎の如く逃げればよい事よ。案ずるでない」
 どこか澄ました傲岸不遜なもの言いと華美な甲冑から見るに、何処かの国か氏族のお抱え騎兵崩れであろうか。
 バサリと翼を広げ、龍達が舞い上がる。
「準備は済んだか?では征くぞ。ギルドのひよっこ共に空戦を教育してやろう」


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
相馬 玄蕃助(ia0925
20歳・男・志
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
各務原 義視(ia4917
19歳・男・陰
紅蜘蛛(ia5332
22歳・女・シ
当摩 秋臣(ia7432
29歳・男・シ


■リプレイ本文

 会話内容は聞き取れないが、外からは馬賊のものらしき罵声などが聞こえてくる。
「なまこさん、もう少しだけ我慢ですよ」
 開拓者達は分散し、街の周りの納屋などに龍ともども隠れている。鈴梅雛(ia0116)とその龍は、顔役が避難したタイミングを確認できるよう街の中にある役所の蔵を借りてその中に潜んでいる。
 やがて声が止み、遠ざかっていく蹄の音が鳴り出す。そして、顔役の一人が雛の隠れている蔵の戸を4度叩く。
「さぁ、頑張りましょうなまこさん」
 数刻ぶりの日光を浴びながら、雛となまこさんが飛翔する。

「雛が出たか。まずは俺達だな」
 風雅 哲心(ia0135)ら四人が方々の隠れ家から飛び立つ。上空に待機する龍兵達と渡り合う班だ。
「まずは高度を上げないとね」
 各務原 義視(ia4917)の言うとおり、龍同士の戦いは基本より高い高度を取った側が優位に立つ。自然開拓者は高度を上げるし、龍兵側はそれを妨害にかかる。高所からの弩による射撃だ。
「大丈夫。驚かせる程度だから、きっと当たらないよ」
 赤マント(ia3521)はレッドキャップの背をぽんぽんと優しく叩くと、そのまま速度を下げず急上昇する。

「ほう、さすがに肝が据わっているな。回避運動を取ろうと散開すれば潰しやすかったのだがな」
 効果が無いと見るや早々に弩をしまいながら龍兵の隊長格が言う。
「全部で5騎・・・・伏兵が居そうですな」
「仁、貴様の龍が一番早い。何かあれば雇い主の後詰につける用意をしておけ」
「了解!」
 そしてずらりと槍と盾を構えた龍兵達は、突撃体勢に入る。

「切り替えが早いな。さすがは熟練者ということか」
 射撃が止み、龍兵達が武装交換している様子を見て当摩 秋臣(ia7432)が言う。
 だが、そのおかげで開拓者達も位置取りはしやすくなる。
「余裕のつもりか?気に入らねえな」
 舌打ちをする哲心。だが、敵の次の動きを見て考えを改める。
「っく、突っ込んできたか!早いぞ!」
「皆さん、事前に決めた通り、一対一を心がけて!ひいな達が援護します」

 シィギィャアア!一回り大きく、猛々しい龍達が一斉に咆えると、格上の脅威を感じた開拓者の龍の身がすくむ。
「天雷!今動きを止めると逆に危ないですよ!」
 そこに、槍を真っ直ぐ構えた龍兵が乗り込んでくる。
「させないよ!」
 赤マントが薙ぐように手を振ると、裂帛の気功波が龍兵へと飛ぶ。龍兵はこれを受けつつも速度は落とさずそのまま突き進む。
「!?・・・・・なるほど。赤マントの気功をまともに受けながら堪える事が出来るのはそういうわけですか」
 穂先が届くほどの距離になって、義視は改めて龍兵の装備を観察する。手盾に見えたそれは別の盾をジルベリアの騎兵盾の如く作り変えたもの。鎧も随分と手を入れてあり、磨き上げられた首飾りや数珠を身に付けている。
「これ程の装備を整える資金がありながら馬賊の用心棒とは解せませんが・・・・その程度の装備で、私の術まで防げると勘違いされては困りますよ。急々如律令・・・・」
 呼び出された烏が龍兵の眼を突かんと襲い掛かる。

「へっ、相棒の固さを甘く見てもらっちゃ困るぜ」
 龍兵が極光牙を槍で突くが、事前に硬質化していた鱗は容易には貫けない。
「その槍、叩き切らせてもらうぜ!」
 哲心の振り下ろした一撃が槍の柄に当たると、金属同士がぶつかる甲高い音が響く。
「金属芯で補強してある。龍兵を甘く見てもらっては困るな」
 通常なら持つのも一苦労だが、鞍に固定することで持ち手の負担は随分と軽くなる。
 そのままさらに踏み込むと、今度は龍同士の格闘戦が始まる。
「ここが正念場だ、耐えてくれよ、極光牙!」
「一息に喉笛を食い破ってやれ」
 宙を舞いながら互いの急所を狙う龍の格闘は、傍目には美しささえ感じさせるものがある。当事者にとっては血煙の舞う地獄絵図であるが。



「さて、何とか上は押さえ込んでくれたようだね」
 上空の様子を見ながら俳沢折々(ia0401)が自分の龍、うがちに被せていた布を取る。
「じゃ、馬賊を追いかけるわね。玄蕃助、後ろから追いかけるのは私らのお尻じゃないわよ?」
「はっはっは」
 相馬 玄蕃助(ia0925)に釘を刺しながら紅蜘蛛(ia5332)は黒蓮に飛び乗る。ちなみに玄蕃助は曖昧な笑いを返すだけで肯定も否定もしない。
 足の速い紅蜘蛛と折々の駿龍が馬賊に追いつき、玄蕃助の炎龍、大孔墳はやや遅れてフォローに入る。
 彼らに追撃に専念する隙を与えるため、上空の五人はほぼ同数での勝負に踏み切ったといっても過言ではない。
「まぁまぁ、後ろから上の連中が追ってきた時は最悪一対四で玄蕃助君が身を挺して防いでくれるんだから、それくらいは我慢しようよ」
「はっはっは、勿論・・・・ええ!?」
 確かに押しとどめるつもりではいたが、そこまで絶望的状況は予想していない。

 動き出した折々らの様子を見て、駿龍に乗った龍兵が追撃する動きを見せる。
「させないよ!」
 そこに赤マントとレッドキャップが気巧波で牽制しながら突撃をかける。すれ違いざまに繰り出される槍を一段加速しつつ身をよじって避けると、Uターンして背中を取る。レッドキャップは大きく翼を広げ、威嚇と進路妨害の構えを見せる。
「さぁ、あっちに行くなら僕達を振り切ってからにしてもらうよ!」
 すると龍兵の龍が突然羽ばたくのを止める。当然、揚力を失い落下するが、墜落直前に軽く翼を動かし衝撃を緩和すると、そのまま地面を蹴り、地表すれすれを・・・・レッドキャップの遥か下方を潜り抜けていく。
 それなりの重装をしつつ、殆ど無装備のレッドキャップに匹敵する機動力を有し、さらにあのような運動をするのは相当に健脚でなければ難しい。
 精一杯の威嚇をいなされて呆然とするレッドキャップに、赤マントが優しく語りかける。
「まだまだ、速度で負けたわけじゃないよ。あいつに追いつく事から、レッドキャップの活躍は始まるんだ」

「ふん、さすがは駿龍、よくついてくる。だが!」
 仁と呼ばれた龍兵と赤マントの間の距離は徐々にだが広がっている。龍の地力・・・・以上に操龍技術の差が大きい。
「このまま振り切り、先行する三騎を背後から襲撃すれば奴らが逃げるだけの時間は稼げよう・・・・む?」
 前方には一頭の炎龍。三騎の内の一騎だが、幾ら駿龍と速度差があるといってもこれほど遅いはずが無い。
「まさか、挟撃!くっ、図られたか!?」

 当の本人達はそうした意図は無かったりする。
「ええい急げ大孔墳!それがしの眼福に機会が失わ・・・・明らかに全力を出していない遅れ方ではないか!よもやお二方の龍が気に入らぬから追う意欲を失ったのではあるまいな!確かにそれがしもこれで追うのが筋骨隆々の男なら別の配置を考えるが!」
 大孔墳は玄蕃助に舌を出すと殊更のっそりとした速度で進んでいた。

「くっ、仕方あるまい、強行突破をかける!」
「玄蕃助、いいところに!挟み撃ちにするよ!」
 突然後ろから声がしたかと思うと、全力で飛んでくる駿龍が二頭。
「な、何事でござるか!?ひょ、ひょえ〜〜!」
 振り向きかけた大孔墳の横っ腹に駿龍が突っ込む。
 槍の穂先に抉られ、大きくよろめくが、そのお陰で致命的な牙の一撃を運良くかわすことが出来た。さすがにこれで闘争本能に火がついたか、先程までとは見違えるような身のこなしで龍兵を追走する。
「む・・・・ふふふ、それがしの神算鬼謀、恐れ入ったか!」
「さっき『ひょえ〜〜』って叫んでなかった?」

「ええい、龍乗りどもは何をしてるんだ」
 馬賊の首領が逃げながら愚痴る。後ろからは折々と紅蜘蛛の龍が追ってくる。ここまでは等差で逃げ切っているが、山に近付いて道が悪くなればじきに追いつかれる。頼みの龍兵たちは開拓者と交戦中だ。
 仕方なしと弓を取り出し、騎射による迎撃を始める。
「ふむ、思ったよりは根性があるな」
 急回転などの激しい機動回避を行ううがちの背に捕まりながら、折々が感心したように言う。
「私は流れ矢で玉のお肌が傷つくなんて嫌よ」
 紅蜘蛛はさらに木葉隠まで用いて万全の回避体制を取る。風で髪が乱れるのは仕方なしとしても不要な怪我まではしたくない。
「玄蕃助君はまだ来ないか。仕方ない、私達だけでやっちゃうか」
「それじゃ、折々は上手く進路を塞いで頂戴ね。さあ、思う存分飛ばしなさい」
 そう声をかけて黒蓮の首筋を軽く叩くと、紅蜘蛛は速度を上げて猛追する。
「さあ、さっきまでと同じようにはいかないわよ」
 吹き上がる水の幕が弓の狙いを乱すと、その間に距離を詰めた黒蓮の背から紅蜘蛛の放った火炎が周囲を焦がす。
 火を恐れた馬達が怯み、逃げ足が落ちたところで加速したうがちが一気に追い抜くと、馬賊の進路を塞ぐ。
「さーてと、君ら相手ならこの辺りで勘弁しておこうかな?」
 折々がパチンと指を鳴らすと、うがちより数段大きな龍が現れる。
「げ、幻術だ!慌てるな!」
 とは言うものの、馬賊たちはともかく馬は大龍符の術を看破できない。たちまちに恐慌を来たし、馬賊たちを振り落として八方に逃げ散ってしまう。
「まあ、こんなとこか。どうする、まだ抵抗する?」
 言いつつ小さな式を呼び出すと。炎の輪が馬賊たちの間を通り、後には炎の轍が残る。ばらばらと武器を外して投げ捨てる賊達をうんうんと眺めると、追いついて来た紅蜘蛛に、馬賊達を指差しながら声をかける。
「後ろがいつまで経っても来ないのが気になってね。ちょっと見てくるから彼らの事はよろしくね」
「わかったわ。・・・・うふふ、紅蜘蛛の糸でしっかり縛り上げてあげるわ。少しだけ痛いけど、我慢してね」
 妖艶な声で囁かれた馬賊たちは、何故か自らお縄に付くために両腕を合わせた状態で紅蜘蛛に差し出してしまうのであった。


「くっ、怯むな、叢雲丸!」
 秋臣の言葉を受け、肩に打ち立てられた敵の鉤爪を払いのけた叢雲丸が爪を振るう。しかし相対する甲龍は鉢金のような冑でこれをいなす。傍目にも叢雲丸が苦戦しているのがわかる。しかも、開拓者が乗り手である龍兵を優先的に狙うのと対になるかのように、人龍一体の攻撃で開拓者の龍を執拗に狙ってくる。
「くく、逃げるなら追い討たずにおいてやろう」
「・・・・見くびらないでもらおうか」
 叢雲丸が限界に近いのを見て取ったか、勝ち誇ったように言う龍兵に秋臣の火遁が放たれる。
「笑止!この程度、目くらましにしかならぬわ!」
「ああ・・・・目くらましのつもりだったからな」
 火炎と煙を払いのけた龍兵が秋臣を見ると、駆けつけた雛が彼らの傷を癒しているところだった。
「ひいな達も加わります。なまこさんも絶対負けないと言ってます」
 温厚ななまこさんが叢雲丸をかばうように進み出る。
「鈴梅君の援護感謝する。一対一でなければ卑怯というものでもあるまいな?」

「しぶといな!」
 そう叫びながら哲心が放つ流し斬りを、龍兵が盾で防ぐ。彼らの足元で極光牙の牙が相手の龍に首を振って弾かれる。お返しとばかりに繰り出された蹴りを避けようと極光牙が下がることで哲心の一振りも入りが浅くなる。
 龍兵の攻撃はさほど問題ではない。が、向こうも攻めるよりこちらの攻撃を捌く事に専念しつつ龍同士の格闘戦になるよう仕向けている節がある。
「乗ってる人間は逃げに走って、龍だけで勝とうって魂胆か」
「左様。鋭気を避けて惰気を討つは兵法の常よ」
 打ち合いながら哲心が感じる一つの違和感があった。
(「どうにも本気で突破してくる風がねぇ。龍が強いならそれを使って一気に畳み掛けてもよさそうなもんだが・・・・俺達に勝って馬賊の救援に行くなら焦ってもおかしくなさそうなんだが・・・・」)

「私が貴様に当たったは正解だったな」
 顔の血をぬぐいながら隊長格の龍兵が義視に言う。
「褒めてもらっていると解釈していいんですかね」
 術具である人形に練力を込めながら義視が答える。他の龍兵では彼の術に耐える武装と生命力を持ち得なかっただろう。
 天雷に距離を取らせつつ術を飛ばす義視と全力で追いすがりつつ時に一撃を加えてくる龍兵隊長との追いかけっこが続けられていた。だが・・・・
「狼煙は上がらず、か。潮時だな・・・・」
 義視の背を見ていた龍兵隊長が懐から取り出した呼子笛を吹き鳴らす。と、心得たとばかりに残る二人の龍兵が開拓者を振り切るように急上昇を始める。
「しまった!」
 自身も身を翻して離隔を始める隊長を追おうとする義視だが、天雷には最早全力で駆ける程の気力がない。
 追い続ければやがては距離は詰まるが、その場合今度は仲間達と切り離されて一騎で三騎を相手取る羽目になる。
「仕方ない。ここは追い払ったでよしとしますか」
「馬賊のほうに向かった折々達や、最初に離れた龍兵を追った赤マントも気になるしな」
 開拓者も一度体勢を整え、仲間の援護に向かうことで一致する。
「よしよし。なまこさんも他の子も治してあげますからね」
 雛の治療で活力を取り戻した龍達は元気よく翼を動かすと、風に乗って仲間のもとに急ぐ。



 赤マントと玄蕃助は駿龍乗りの龍兵と渡り合っていた。
「レッドキャップ!もう一度後ろを取るよ!」
「そう何度も同じ手を取らせると思うな!」
 牽制しながら突撃してくる赤マントに対し、龍兵は一気に地表まで降下して後背からの攻撃を回避する。
「低高度はそれがしと大孔墳にお任せあれ!」
 甲龍がドスドスと走りながら体当たりをかけ、その背からは玄蕃助が苦無を投げつける。
「ええい、猪口才な!」
 槍を振るって苦無を弾くと、龍兵は龍に命じて尻尾を大きく振らせる。丸太のような龍の尻尾は勢いをつけて打ち付ければちょっとした鈍器のような破壊力を発揮する。
 最初に受けた槍傷が開き、悲鳴を上げる大孔墳。だがそれでも龍兵の龍をしっかと睨み、真っ向から突っ込んでいく。
「その状態で尚立ちふさがるとは良い度胸だ。踏み潰してくれる!」
 唸り声を上げながら龍兵の龍が突撃をかける
「危ない!」
 その側面から赤マントが龍ごと体当たりをかけ、勢いをそぐ。
「く、惜しい。もうちょっとで見え・・・・いやいや。ありがたい、ここが正念場、南無三!」
 何かが見えそうで見えなかったことに一瞬心奪われた玄蕃助だが、気を取り直すと苦無を手に相手の龍に飛び移り掴みかかる。
「馬鹿な!遥か昔に衰退した技を・・・・」
「うむ、習っていた頃は一生使うことなど無いと思っていた馬上組み打ちが役に立とうとは!」
 手にした苦無で手綱を切り、手を相手の脚にかけて鐙から引き剥がすと、諸共に龍から転げ落ちる。地上に相手が降りてくればこそ活かせた技術である。そのまま締め上げ、動きを封じる。乗り手を失った駿龍は、空へと飛び上がる。
「龍を失っては勝ち目はあるまい。さあ、おとなしく降伏するでござるよ・・・・む?」
 上を覆う影に玄蕃助と赤マントが顔を上げると、三頭の龍が並んで山の方へと飛んでいく。飛び上がった駿龍はそれらと合流すると共に飛び去っていく。そしてそれを追おうと紅潮した顔で翼を広げる大孔墳。
「まてまて、あの群れに挑むほどの特攻精神は見せんでいい!・・・・まさか、さっきまでの奮闘は相手が気に入った雌だったからではあるまいな!?」
 慌てて尾を掴む玄蕃助と飼い主に遠慮なく蹴りを入れて振り払おうとする炎龍は見なかったことにして、赤マントは溜息をつく。
「龍だけでも仲間のとこに逃がしたか・・・・互いを思う心だけはたいしたものだね。僕らもあんな風になれるかな、レッドキャップ?」
 鼻先を撫でながらの彼女の問いを理解してかせずか、駿龍はガーと鳴いた。

「あら、おかえりなさい」
 特殊な縛られ方で転がっている馬賊を椅子代わりに座っていた紅蜘蛛の元に、仲間達がやってくる。
「いやはや、着いた頃には終わってたよ。一人で任せて悪かったね」
「ほんとに。彼らったら大して手持ちもないし、術の使い損でしたわ」
 小銭を持て遊びながら折々にむくれたように返す紅蜘蛛。
「しかし龍兵の連中の大半に逃げられたのは痛かったかもな」
「仕方ありませんよ、追い払えただけでも十分と思わないと。一人は捕らえることが出来たわけですし」
 玄蕃助が引っ立てている龍兵を目線で指し示しつつ、義視が肩を竦めて哲心をなだめる。
「さて、こやつらをどうしてくれようか」
「・・・・突き出すなら領主殿のもとにしてもらおうか」
 縄目に付きながら不敵な表情を崩さず龍兵が言う。
「反省してる・・・・という顔じゃないです」
「まあ、捕縛しろという依頼である以上どこかに突き出す事にはなるがね」
 他の馬賊たちを引っ立てながら秋臣が不審そうな目で龍兵を見る。とは言え彼の言うように領主に賊たちを引き渡し、奪われた金を街に返すことで彼らの依頼は完了する。

 負傷した龍は、療養のための施設でパートナーが面倒を見ることが許されている。そこで開拓者達は思い思いに龍の健闘を称える。
「初めてですけど、ちゃんと出来ました。なまこさんのおかげです」
 そういって雛が撫でると、なまこさんは嬉しそうにひと鳴きし、こげ茶色の丸みのある体で擦り寄ってくる。
「あはは、なまこさんは甘えっ子ですね」

 元気に飛び回るうがち達を見ながら折々が浮かない顔をしている。茶化すような声で紅蜘蛛が話しかける。
「あら、難しい顔してるじゃないの」
「捕まえた連中の処遇はわかったかい?」
「馬賊は厳罰。でも龍兵はどうやら逃げた連中が身代金を出すことで片付いちゃいそうね。あ〜あ、私も一枚噛んでおけばよかったかしら、稼ぎ損ねちゃった」
「やっぱりそうか。龍の乗り手を取り込もうとどこも躍起になるから、彼らへの罰が緩くなる。でもそうなると、今回みたいに安易に龍を悪事に使う連中が増えて、うがち達まで微妙な目で見られる・・・・困ったものだね」

『空汚し 誰が罪かと 龍に問い』俳沢折々