婆娑羅姫様の紅葉狩
マスター名:咬鳴
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/10 15:54



■オープニング本文

 紅葉が色づき始める頃。
 北面で一つの噂が流れていた。曰く、角の代わりに紅葉の木を生やした鹿が出没する山があるらしい。
 人々は興味を惹かれたものの、大方アヤカシかケモノであろうと考え、危険を冒してまであえて見ようとは考えなかった。君子危うきに近寄らず。
 だが‥‥

 翡翠庵――仁生の外れにあるこの庵の主である姫君は、君子になるつもりは無かった。
「紅葉鹿を見に行きましょう」
 八角 翠。普通の貴族の姫君の好む衣裳ではなくジルベリア産の男物の外套を好んで纏い、戦勘を鈍らせぬ為と言っては山賊討伐や辺境の小競り合いに姿を現す彼女にとってはアヤカシやケモノであれば尚更の事見に行く価値があるものだった。
「は。ですが御大将、未だ理穴の一件が騒がしい故、貴女様が物見遊山に大人数を動かす事は上が承知せぬかと」
「理穴ですか‥‥残念ですね、私達も瑞鳳隊に加えてもらえればひと暴れいたしましたのに」
 傍らに控える侍の言葉に笑いながら答える翠。
 彼女と私的に主従関係を結んでいる一党は、貴族らしからぬ戦力を持っている。しかし、堅苦しい一部重臣から「朝廷の貴族たる八角様を北面戦力に組み込むのは畏れ多く、戦場へ送る等もっての他。八角党は北面の防備に残って頂くべし」との進言があり、瑞鳳隊選抜から漏れてしまったのだ。今回の提案はそんな状況での暇潰しも兼ねている。
「開拓者ギルドに頼みましょう。個人のギルドへの依頼にまでは口出しできないでしょうし‥‥そうそう、折角なので依頼のついでに開拓者の方たちも招待して紅葉を見ながらの野点も楽しみましょう」
「はっ、直ちに」
 依頼を出しに退出した部下を見送りながら翠はふと思う。
「ケモノの場合、角は仕留めたらその内枯れてしまうのでしょうか?そうでなければ素晴らしい角飾りになりそうなのですが‥‥」


■参加者一覧
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
安達 圭介(ia5082
27歳・男・巫
夏葵(ia5394
13歳・女・弓
流星 六三四(ia5521
24歳・男・シ
景倉 恭冶(ia6030
20歳・男・サ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
神咲 輪(ia8063
21歳・女・シ


■リプレイ本文

●翡翠庵前庭にて
 紅葉狩の約束の日。開拓者達は庵の前庭で枯山水を見ながら待っていた。新咲 香澄(ia6036)が辺りを見ながら感嘆の声を漏らす。
「庵っていうから質素な所かと思ってたけど‥‥凄いなぁ」
「貴族のお姫様とお近づきになる好機!いいとこみせるぜ!」
 早朝の空気を吸いながら流星 六三四(ia5521)がパシィンと両の手を合わせて気合を入れるのを見て、景倉 恭冶(ia6030)が笑って応じる。
「紅葉狩とは風流だねぇ。さて楽しむ為にもひとつ頑張りますかー。六三四はついでにお姫様とお近づきに‥‥てとこか?」
「いや、さすがに守備範囲外だぜ。俺は」
 俺は、の言葉に反応するように夏葵(ia5394)がちらと鷲尾天斗(ia0371)を見て溜息をつく。

「お待たせいたしました。では、参りましょうか皆様」
 屈強な供回りに大きな荷を担がせ、自らは陣羽織にジルベリア製の羽帽子を被った翠が姿を現す。
(「可愛い‥‥!ああでも会って早速撫でさせてもらうのは失礼かしら。お友達になれると嬉しいのだけれど」)
 神咲 輪(ia8063)が悶々と悩む。年の頃を考えると特別小柄ではないのだが、後ろに大柄な男達を従えている為か非常に小さく見え、その姿が彼女の琴線に触れたようだ。
 安達 圭介(ia5082)が一同を見渡した後、進み出て挨拶をする。
「では俺達がご一緒させていただきます。途中麓の村で情報を集めてから登ろうと思いますが、よろしいですか?」
「宜しく事を進めるに、私への確認など不要に。皆様が良きと思うようにお願いいたします」
 圭介に軽く微笑んで会釈すると、翠は皆に出発を促した。

●紅葉山の住民達
「そちらはどうでした?」
 巻物を手に大笑いしている翠と六三四に困り顔で話していた圭介が向き直る。夏葵と恭冶がきょとんとしつつ、答える。
「あ、ああ。近くに小川の流れる絶好の見所があるみたいだ」
「村の方々も使われる所で、広さもあるからこの人数でも大丈夫だそうですけど‥‥どうしたんです?」
「話を聞いたら、本当か嘘か益々わからなくなったみたい」
 夏葵の言葉に圭介より先に答えたのは荷物の山で頬杖をつく虚祁 祀(ia0870)だった。
「確かに、文献で調べたところ、樹の角を持つ鹿、というのは各地で目撃されるケモノではあるらしいのですが‥‥ねえ」
「村の人にどこで見かけたか聞いてたら、あの巻物を渡されて‥‥」
 輪も困った笑顔で言葉を濁す。巻物には紅葉鹿の「想像図」が描かれていた。山に鹿が出るのは確かだが、紅葉鹿は誰とも無く始まった噂の域を出ないらしい。
「だっはっははは!この絵なんてもう鹿って域じゃねえぞ!」
「ふふふ‥‥いないならいないで、紅葉を楽しみましょう。皆様が良い見所を探してくださったようですし」

 山中の道‥‥
「翠姫は、山道も自分で歩くんだね」
 香澄の記憶では貴族のお姫様といえば籠やもふら車で移動する人達だ。
「絶景は道中苦労してこそ楽しめるものですから」
「あ、わかるわかる!やっぱり、皆で歩いて行くのが一番楽しいよね!」

「お姫様のお付きとはねぇ」
 天斗は着かず離れずの距離を保ち、翠を注視しながら登っていた。
「‥‥まぁいいか」
 言いかけた言葉を飲み込む。

 結局、村の猟師たちから聞いた普通の鹿が出る辺りを中心に探す事になった。翠は供回りを野点の準備の為に目的地へ先行させ、開拓者達に同行する。
「いいのかい?あいつらを別にしちまって」
「あら、護衛なら皆様がいらっしゃるのでしょう?頼りにしていますよ」
「あ、あー‥‥おう」
 翠の笑顔に、照れくさそうに目をそらす天斗。そんな二人を見ながら
(「は、早くも危険水域に!?」)
(「鷲尾様‥‥罪を犯すなら、あたしが止めます‥‥!」)
 はらはらするような顔の圭介と、何故か弓を構える夏葵。

 鹿狩りの起点に着き罠や経路相談を始める中、祀が何かを決心した面持ちで翠に話しかける。
「ちょっと良い?」
「はい」 
「角飾りが欲しいって事は、やっぱり首ごとよね?確かに角だけだと小さな紅葉の木にしか見えないかもしれないけど‥‥でも、被害があったわけじゃないし、命を奪わなければ捕らえた事実が消えてなくなる訳でもない‥‥」
「私も心配なのですよ。普通の鹿と同様の心胆の持ち主で、狩るに及ばぬものであったらどうしようかと‥‥」
「‥‥え?」
 不興を買うことも覚悟しての意見だったが、翠の返事は祀にも予想外だった。
「生活の為ではなく遊興ですから‥‥逆上して襲ってくるくらい獰猛な存在だと良いのですが」
「いや、そういう事では‥‥」
 無為に命を奪う事を制しようと思ったが、このお姫様の望む事は命を奪わざるを得ないほどの相手との遭遇であるらしい。やれやれと頭を抱えて持ち場に戻ろうとする祀にこっそりと翠が言う。
「危険を望むなどと不埒な事を私が考えているのは、皆には秘密ですよ?」

 圭介と輪は、仲間達の仕掛けた罠へと追い詰めるべく、山道を静かに登っていく。
「殺めるのは群れで一番強い一頭のみ、という話で妥協していただいたようですが‥‥」
 角の大きさ位しか比較になるものはないのではいだろうかと圭介は思う。
 やがて、前方からなにか騒がしい声が聞こえてくる。
「私が先に行って様子をみますね〜」
 輪はシノビの抜き足で、音も立てず歩く。木の裏から騒がしさの元を覗く。
 そこには数頭の鹿‥‥よくみると雄の角から紅葉の葉が生えている‥‥と熊が睨み合っていた。大方冬篭りの餌を求めてふらつく熊に出くわしたのだろう。
 対峙は長くは続かなかった。群れの中から一際大きな紅葉鹿が進み出ると、吠え猛る熊の胸元で頭を一振りする。たったそれだけで、熊は血を噴きながらどうと倒れていた。
「嘘ぉ!」
「はは、ケモノと獣の格の差ですか‥‥小石で驚いてくれるといいんですけど」

「群れが行きます!準備を!」
 圭介は聞こえているかどうかは考えず叫んだ。紅葉鹿で驚異的な力を持つのは雄だけのようで、雌は見事に恐慌を来たして逃げ回り、雄達はなし崩し的にそれを護る為同行する。
「よーし、まずはボクが!」
 先頭を走る鹿に狙いを絞り、香澄の呪縛符が飛ぶ。先頭が式に捕まり動きが鈍ると、後ろの群れも減速する。
 そこに、祀が投網をかける。
「ここで抵抗されなければ無益な殺生も必要ない‥‥止まって!」
 ふぁさ、と被せられた網に捕われもがく鹿達。上手くいった、と思った祀の上を、大きな影が飛び越える。
 罠諸共二人を飛び越えた頭の大鹿が、仲間を奪い返さんと敵意の篭った目で祀を見る。

「おおっと、相手にするならこっちが先だぜ!」
 恭冶の声と共に放たれた衝撃波を、大鹿はすんでで避ける。捕獲の為に控えていたが、大鹿を本命と踏んで前に出てきていた。
「あんまり傷つけないように外してやったんだ。来いよ!」
 突撃してくる大鹿を前にして縄を手に不敵な笑みを見せる恭冶。

「あ、危ねぇ〜」
 恭冶の縄は大鹿の角で綺麗に切り裂かれていた。避けるのが遅れていれば腕の一本も持っていかれていたかもしれない。
「天斗ぉ、そっち行ったぞー」

 鹿の勢いを見た天斗は、咄嗟に槍を咥えると夏葵と翠を抱え素早く横踏する。六三四は自分で避けるだろう。
「はへにはっへへぇぞ、ほひ(洒落になってねぇぞ、おい)」
 槍を使えば渡り合う自信はあるが、傷を付けすぎないよう事前に「拳で殴り倒す」と吹聴してしまっていた。
 見ると、三人の目がなにかを期待する視線を天斗に送っている。
「‥‥おうよ!やってやろうじゃねえか!」
 天斗はそう叫ぶと大鹿に向き合った。夏葵や六三四の威嚇射撃をものともせず向かってくる大鹿の二本の角を両手で掴み、踏ん張りをかける。
「うおおおおおお!」
 そのままひねり倒そうとするが、鹿も良く堪えて倒れない。
「あ〜!めんどくせぇ!」
 両手が塞がったままなので、天斗は頭を振りかざすと鹿に思いっきり頭突きをかます。
「もう‥‥一丁ぉお!」
 自分の額が割れるほどの強烈な頭突きにさすがの大鹿もふらついたところを強引に組み伏せる。すかさず六三四もやって来ると、足を押えて翠に声をかける。
「姫様、今だぜ! 腰の刀ですぱぁんとやってくれ!」
「あっ、てめ、美味しい台詞を!」
 騒ぐ二人を脇に、翠が刀を抜く。
「天晴れな武辺。貴方の御首、有難く頂戴します」
 一礼すると、いまだ息を荒げる大鹿に白刃を見舞った。

 別に一頭の角を切り取ると、紅葉鹿の群れは放たれた。互いの生活圏を犯さない限り脅威になる事は無いだろう。
 大鹿の死骸は、供回りの一人が早速持ち帰って加工の手配を始めるらしい。
「出来上がったら、是非見てくださいませ」
 刀の血を拭いながら嬉しそうにいう翠は、やはりどこか浮世離れした感がある。

●演目「紅葉鹿縁起」
 一行が目的地に着くと、既に毛氈が広げられ、赤い野点傘が紅葉に溶け込むように差してある。甲冑から裃に着替えた供回りが平伏し、その横では茶釜がいつでも沸かせる状態で準備されている。
「すげぇ!さすが貴族って感じだぜ姫様!」
「六三四様‥‥その一言で私を語らぬ約束です」
 軽い言動には鷹揚な翠が、貴族という言葉には露骨な拒否反応を見せる。色々あるようだ。
「いやまぁ、これだけ見事に準備されるとそうも言いたくなるぜ」
 風流や礼法の心得のある恭冶の見立てでも、露骨な贅沢品は無いものの細かな道具の一つ一つまで良い品が使われていることがわかる。
「ところで、あちらの舞台のような場は?」
 見ると、少し離れた紅葉の木の麓が足運びをしやすく整えられている。
「は、道中開拓者の方々が舞を行うとの話を漏れ聞きまして‥‥勝手ながら準備をば」
「まあ‥‥鹿狩でお疲れでしょうに、舞まで披露して頂いてよろしいのですか?」
「ええまぁ‥‥八角様のお眼に適うかわかりませんが楽しんで頂ければ」
 ぶっつけ本番の不安を押し隠しながらそそくさと舞台に向かう圭介。
(「緊張するな、普段なんて命の取り合いの中皆を鼓舞してるじゃないか‥‥よし!」)
 
 舞台の裾には奏楽と語りを兼ね、この舞の筋を考えた輪が。六三四は演出の用意をするとどこかに向かっている。
 舞台では紅葉の郷の暴れ鹿を退治に向かった男を演じる圭介が、鹿を懲らしめる荒事を舞う。
 やがて鹿を追い払った男の前に、香澄の演じる紅葉の精が姿を現す。
 二人は言葉を交わすことなくただ目で、手で永遠とも思える刹那に語り合う。

「綺麗ですね‥‥」
 翠が感嘆の言葉を漏らし、目の前に広がる幽玄な世界に見入る。
「綺麗だなぁ‥‥」
 盃を傾けつつ、翠と紅葉景色を重ねて見て優しげな表情を見せた天斗が呟く。
 何の弾みか、振り向いてきた翠と一瞬目が合う。
「い、いや、紅葉がな。真っ赤で」
 夏葵や祀の胡乱な視線を感じつつ慌てて誤魔化す天斗。
(「ホント、紅葉が血の海の様に‥‥真っ赤だ‥‥」)

 舞台はいよいよ締めに入る。
 二人の心は重なり、そして紅葉の精は鹿へと変じ山へと戻っていく。
 香澄が舞いながら紅葉鹿を想起させる式を呼ぶ。
「よっし、今だ!」
 それに合わせて、舞台の陰ににじり寄っていた六三四が集めてきた紅葉の葉を木葉隠で舞い散らせる。
 正しく、人の姿を借りた紅葉の精が鹿に転じ紅葉の渦の中に溶け込むように消えていく様子が描き出される。
 そして全てが終わり、男もその場より去り行く。
「以来、郷には紅葉鹿が生まれるようになったと言い伝えられる‥‥」
 輪の語りとともにかき鳴らされる琵琶が演目の終わりを告げる。

「やったー、大成功!」
 はしゃぐ香澄と手を叩くと、輪は満足げな翠に話しかける。
「如何でした?」
 翠は演者達に拍手を送ると、居住まいを正して礼をする。
「良き舞を見せていただきました。お礼になるかはわかりませんが、一服点てますので是非召し上がってくださいませ」

●野点
「なー姫様、やっぱりこういう席ってきちんと座らないと駄目なのか?」
 団子をつまみながら完全にくつろいだ姿で六三四が尋ねる。
「いいえ、形式や作法を気にしないのが野点ですから。楽にして頂いていて結構ですよ」
「よかったー。ボクもそろそろ足が痺れてきてて‥‥」
 自らは綺麗な姿勢のまま茶を点てる翠の近くで、自分のお茶を待つ香澄がへたりと足を崩す。

「あ、これです。ご苦労様でした」
「私のもその辺りに入れておいてもらったんですが‥‥」
「何やってるの?」
 がさごそと荷物の中を見ている夏葵と輪に、祀が声をかける。
「用意したお茶菓子を荷物の中に入れてもらってたので、探してもらってる所なんです」
 供回りに声をかけるだけで探し出されたお茶菓子を恭しく渡されていると、自分達も軽くお姫様気分が味わえる。

「カステラ!?」
 冷淡なほど涼しい表情を崩さなかった翠が、別人のように目を丸くする。
「ええ、お好きだと伺ってましたので」
 ざっくりと大きく切ったカステラと輪の手作り塩団子の乗った皿を夏葵が笑顔で渡す。
 ほくほく顔でお菓子をつまむ翠。カステラと塩団子を幸せそうに食べる。
「おいし〜〜」
(「かわいい〜」)「そのお団子、誰かに食べてもらうのは初めてなの。気にいってもらえたならうれしいわ」
(「ず、ずるいくらい可愛い〜」)「機会があったら、私が経営する診療所も覗いてみてくださいね。今回みたいに賑やかな人達がいますから」
 念願叶って翠の頭を撫で撫でする輪と、緊張が解けて色々積極的に話しかける夏葵。

 そんな彼女達に注がれる視線が一つ。
「正直なところ、鷲尾さんがこの依頼受けるとは思いませんでしたよ。お固い席とか鹿狩みたいな遊興は苦手と思ってましたから」
 紅葉の葉と茶菓子の取り合わせを愛でながら茶を啜る圭介。
「おう、美少女が好きだから!」
 翠から目を離さない天斗の返事にぶっ、と噴き出す。
「鷲尾さん、ロリ‥‥」
「いや、少女が好きなわけじゃないからな。『美』少女が好きなわけで。其処を間違えてもらっては困る」
「いやでもやっぱりロリ‥‥」
 むせ返りながら冷めた目で見る圭介の視界に、天斗の頭をかすめる一本の矢が見えた。

「あ、危ねえ!何すんだ夏葵!」
 見ると、さっきまで談笑していたはずが何時の間にか弓を取り出した夏葵が凄い目で睨んでいる。
「邪念の篭った視線を感じましたので‥‥姫様、折角なので弓術の演武をご覧になりませんか?的は鷲尾様の咥えた林檎で」
 何時の間にか背後に回った圭介と六三四が天斗をぐるぐると縛り始めている。
「鷲尾さん‥‥あの一矢で煩悩を射抜いてもらってください」
「すまねえ天斗の兄貴!これもあんたを前科者にしない為なんだぜ」
「お、お前ら!何か誤解を!?」
 祀が林檎を刺した串を天斗に咥えさせる。
「暴れると武運が飛ぶよ‥‥それでもいいけど」
(「お前ら何で鹿狩の時より連携が取れてるんだ‥‥おい夏葵!その矢、明らかに俺の顔面狙ってないか!?」)

 そして矢が風を切る音と、天斗の声にならない悲鳴が響き‥‥