【負炎】窺い進め
マスター名:石田牧場
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/12 22:48



■オープニング本文


「先日はどうも?」
 受付係の元を訪れたのは、先日依頼を持ち込んだ商人の男。恰幅のよさ、口元を扇で隠す仕草は、受付係の記憶に新しい。
「おかげさまで、陣中食の取引はうまくいっておりますよ」
 まだ会釈を返しただけで特別挨拶も返せていない受付係に、聞かれてもいない話を続けるあたり、ずいぶんと機嫌がよいらしい。ここにくる道中もこれからの商売の算段を考えていたようで、早く話を聞いてくれとその目が訴えているような気におそわれる。
「それで、今回はどのようなご用件ですか? また在庫の補充‥‥干飯作りの手伝いでしょうか」
 受け答えはあくまでも事務的に。依頼人となる商人の目を直接見ないようにして話を切り出す受付係を気にも留めず、商人はせきを切ったように話し出すのだった。

「どうやら買い手側の都合のようですが、陣中食‥‥干飯を現地へと届けて欲しいという依頼になります」
 現地、つまり戦が繰り広がられている最中、注文された量の干飯を運ぶとのこと。
「後方支援の方々へ運ぶことになりますので、輸送する皆さんに前線に出てもらうようなことにはならないのですが‥‥懸案事項がいくつかありまして」
 アヤカシは、人が多く集まる戦場に続々と集まっている。道中に単独のアヤカシなどから襲撃を受けるようなことはないはずだと受付係は続ける。
「問題は、戦に巻き込まれぬよう、周辺へと散らばったケモノの類ですね。いくら季節が実りの秋とはいえ、彼らもなかなか食べ物にありつけていないというのが現状だそうです」
 腹を空かせたケモノが出る地域。そんな場所に戦う術のない店子達を、売り物である大荷物を運ぶという使いに出すわけには行かないという話になったようで。
「いくら腹をすかしているとはいえ、人が運ぶ食べ物を狙ってくるようなケモノが、そう強いとも思えませんけど」
 油断は禁物ですから、十分に警戒して向かってくださいね。


■参加者一覧
土橋 ゆあ(ia0108
16歳・女・陰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
水津(ia2177
17歳・女・ジ
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
ジンベエ(ia3656
26歳・男・サ
千麻(ia5704
17歳・女・巫


■リプレイ本文


 道行く大八車は二台。山と積まれたその荷の高さ、運ぶ者達の風体から、彼らが開拓者であることが窺える。向かう道の先にある場所を思えば、戦の物資を運んでいる者達であることは明白だ。実際これまでにも、開拓者や輸送軍が、物を運ぶ姿がたびたび見られていたはずで、彼ら八人もそのうちの一隊だといえるだろう。

「おまんま運ぶは開拓者〜ってか」
 二台のうちの一方を引きながら、鼻歌のように調子をつけているのは斉藤晃(ia3071)。彼が言うとおり、運んでいるのは食事、つまり陣中食であるところの干飯で、荷台にはそれがいっぱい詰め込まれた布袋が山となって積み上がっている。
「通し板を出しておいた方がいいかもしれないな」
 その横で晃と共に車を引いているのは水鏡 絵梨乃(ia0191)で、彼女が振りかぶるように空模様を確認すると、その胸元が揺れた。確かに今の風は強く吹いている方だが、揺れるのは豊かであるからこそだ。隣の晃の視線に気づかないまま、板を車のどのあたりに乗せたかどうか、記憶を探るように首をかしげる。
「すぐ使えるように、横に差し込んでありますよ‥‥」
 水津(ia2177)が位置を指し示せば、荷台とかけ布の隙間に長めの板が二枚積んであるのが見えた。そこならすぐに取り出せるし、急ぐこともないだろう。
「晴れますようにってお祈り、無駄にならないで欲しいのよ」
 出発前、てるてる坊主を作っていた千麻(ia5704)が溜息をはく様にこぼすと、彼女達のやり取りに振り返った晃が割り込んでくる。話しかけるタイミングを待っていたらしい。
「ちまっこ今日もちまっこいの」
「「「‥‥‥」」」
 何の話かは、晃の視線から察して欲しい。
「ふふ‥‥こんがりと焼いてあげますですよ‥‥」
「がるるるるる‥‥」
 むき出しになっている晃の腕に、火傷と歯型が追加されたのは言うまでもない。
「名誉の負傷というやつだね」
 小さく『不』と囁いてから呟く絵梨乃だったが、どこか羨ましそうな視線も帯びていた。

 もう一方の四人の方でも、やはり天気の具合が気になるようである。
「蝋を塗った布に、予備の縄と車輪か‥‥結構、要望は通してもらえた方かな?」
 野営用の寝袋もあることを確認した九法 慧介(ia2194)が頷く。さすがに大工道具のような重いものは、大八車の負担が大きいという話で準備されず、代わりに針道具が追加されるなど変更はあったようなのだが、道中の食と住の最低限が保証されていたので一安心だ。
「な〜な〜、猪とかなら食えるかなぁ?」
 ルオウ(ia2445)が共に大八車を引いているジンベエ(ia3656)へと尋ねれば、クカカカカカ‥‥と面の奥から不気味に笑い声が響く。
「『とか』や『似た』とつく今のうちはわからんが、実際に戦って、その足を見ればわかるだろうよ」
 足のつくりで、食えるか否か見分けられると聞いたことがある、そう説明されて、ルオウの目が輝く。
「じゃあ、食えるやつが向かってきたらいいな! 返り討ちにして美味しく食べてやるぜ!」
 移動中の食事として提供されたものの大半は、運ぶ物資と同じ、人数分の干飯だ。ルオウを含め年若い者や、体が資本の者達も多く居る開拓者達にしてみれば、もう少し食べ応えのあるものがあっていいくらいである。勿論、戦の中ではそう贅沢も言っていられないのだが。
(「弓の腕があれば、肉の調達ができたかもしれませんが‥‥」)
 二人の会話を聞きながら、鳥を警戒するため空を見上げていたのは土橋 ゆあ(ia0108)。いくら見上げても、今にも雨が降りはじめそうな黒い雨雲が空を覆っている事実は変わらない。だが鳥の様子を見続けていたおかげで気づいたことが一つ。
(「雲の流れが‥‥はやい?」)


 通り雨程度の雨に見舞われはしたものの、道を進むにつれ雨雲は減っているようだった。水溜り程度のぬかるみならば、通し板を渡して橋のように越えてしまえばどうということもない。風は変わらず強いものの雨量が少ないおかげで、しっかりと布と縄で覆われた干飯にも大きな被害はないようである。
「湿気てしまわんか多少不安だが、陣中食にそこまで期待する者もおらんだろう」
 後に晴れるようなら、風通しを良くしておくべきだとジンベエの提案に皆も頷いていた。

 それらの気配が近づいてきたのは、空にかかる雲の色が大分淡くなった頃。
「ボクの番か、『い』‥‥芋よ‥‥‥‥‥来てる!」
 しりとりの順が回ってきていた絵梨乃が、ケモノらしき何かが近づく物音に気づくとすぐに酔拳の構えをとる。彼女の警告の声に気づいた開拓者達も、各々武器を構え、荷を守るように広がった。

 ガゥ‥‥グルル
 不意討ちが失敗に終わったケモノは二頭。開拓者達の前に現れたそれらは犬に似ている。
「ケモノ風情が‥‥この焔の魔女に出会った不幸を思い知るです‥‥」
「‥‥うー‥‥がう!」
 水津が火種をそれぞれに差し向け、ルオウが威嚇を真似て脅かしてみる。しかしイヌ達は極度の空腹に襲われているのか、開拓者達を甘く見たのか去る気配も見せず、むしろより強気の構えを見せた。
「容赦の必要は、ないようですね‥‥」
 すかさずゆあが霊魂砲を放った。数が少ないなら早く退治すべきと思ったのだろう。意識せず生み出された人魂はただ丸く、淡く白く光るだけのはずだったが、雨雲を透かして差し込む光の反射で菫の蕾のように色づいていた。その色が気に入ったのか、続く二撃目は意識してその色を式に反映させた。
 ‥‥グゥゥ
 倒れはしないものの、効いてはいるようだ。その弱った一匹はゆあに反撃しようとしたがルオウに道を塞がれる。結局ルオウへと牙を向けたが、かする程度の傷しか作ることは出来ない。
「逃げないなら仕方ねえ、いくぜ!」
 ルオウが珠刀の撃を叩き込めば二撃目がうまく心臓を突き、その息の根を止めた。肉の塊として存在がその場に残る分、留めの手ごたえは段違いだ。
「‥‥近寄る前にっ」
 慧介が残る一頭へと駆け寄る。数が居ないこともあり、ゆあ同様に攻撃が近道と考えたようで、ルオウと同じく珠刀を二度ふるった。すぐに後退し避けたおかげで被ってはいないが、イヌの傷口から血がふき出している。
 先に倒れた方とは違い傷からの流血が目に見える分、足元がおぼつかなくなってきているのがよくわかる。逃げるに逃げられなくなった二頭目に止めを刺したのは、絵梨乃の繰り出した蹴りなのだった。


 先を急いだ開拓者達ではあるが、序盤の天候不良に足並みを遅らせられたおかげで野営は避けられなかった。木々が並び屋根代わりとなる場所を見つけ、早々に休息の段取りをつける。野営順は希望とじゃんけんで決まった。
 食事は道中に見つけた野草と干飯、干物の身をほぐしたもの‥‥それらを煮込むようにして合わせ、炊き込みご飯のように仕上げたもの。干した茸と海草の戻し汁でとった出汁と、これまた野草を具にした味噌汁。少量ではあるが、干飯の他にも食材の支給を願い出た千麻と、家事がこなせる絵梨乃がうまく調理した結果であった。

 パチパチッ‥‥バチッ
「‥‥‥♪」
 薪とは別に用意した小枝や枯れ草の先に火種で火を灯し、それがただ燃える様を見るだけでも楽しい。食い入るように小さな火を見つめる。時々、狙ったとおりに爆ぜさせることができると、その火の粉の軌跡が輝く様が嬉しくてほうと息をつく。
 野営の見張りは交代制。名目上はケモノ避けの火の番だけれど、水津は自分の楽しみのために火と向き合っている。
 その水津が飼い主と慕う晃は、どこから入手したのか手酌で晩酌の風情だ。そろそろ交代の時間が近いとのことで、寝酒のつもりらしい。
「それは食材でもらったものなのよー!」
 肉を焼くときのためなのに、と千麻が気づいてたしなめる。休んでいる者を起こさぬよう声は潜めているが、しっかり響きに棘を含ませた。
「そうけちけちすんなや」
 あと一杯と注ごうとしたところを、ルオウがさっと奪い取った。
「猪のケモノが食えるやつだったら、焼いてくれるってことだよな?」
 なら俺は千麻の味方だ、空振りに終わった杯代わりのお椀を見つめる晃を見ながら、ルオウが楽しそうに笑った。

「明けての荷車引きはチト辛いな」
 先に休んだ分で足りるといいが。ジンベエがごちると絵梨乃が薄く笑う。
「それはボクもだよ。それにじゃんけんなんて、時の運だろう?」
 この仕事が終わってから、たっぷり休めばいいさ。言いながら、追加の薪を火にくべる。
「俺が引くの交代できますから、言ってくださいね」
 慧介の言葉が追うように後に続き、少しの間。
「‥‥とにかく今のうちにしっかり暖まって、休んでおきませんとね。ゆあさんも、そこじゃ寒くない?」
 三人より後方で腰掛けていたゆあに水を向けた。
「秋の夜はあまり好きではないですね‥‥増すばかりの肌寒さも、乾いた葉と風の音も。‥‥でも、慣れてます」
 ぽつりぽつりと『大丈夫』の意味をこめて答えた。


 襲撃もなく一晩があけると、それまでにあった雨雲はほとんど見えなくなっていた。風も弱まっており、穏やかささえ感じる。
 昨夜のあまった出汁と味噌で味をつけた簡易の干飯雑炊で腹を満たし、夜通しあかあかと燃えていた火に土をかけて消し、布の位置や縄の具合を確認すると、あとは出発するだけである。
 夜のうちに固まったのか、道にはぬかるむほどの水溜まりはない。見上げる先の空に黒いものも見えない。この調子なら、現地に着くころには晴れ間も見られるだろう。

 森というほどでもなく、背の高い木々が道の脇に連なり枝葉が屋根のように日を遮るような薄暗い道。周り道を選べば避けることもできただろうが、早くに飯を運んでやりたい思いが勝ったからか、恰好の狩場とも呼べる自然のトンネルの一角で群れの襲撃にあったのは必然と言えた。勿論開拓者達はそうなることを予測していたから、すぐに迎え撃つ用意が整う。
 前日にも見たイヌと同じらしきケモノが五頭、荷車と開拓者達を囲うように散らばり牙を向けてきている。
 グル‥‥グルルガルゥ‥‥
 五頭が皆人ではなく荷にその熱く切実な視線を向けている。ここはより戦場に近いため、食料の確保はより厳しいのだろう。凶暴性だけでいうならこちらの方が強いようにも見えた。
「かも〜ん、畜生らが!」
 強さは昨日の一戦で見当をつけているが、数が増えたことで同じ戦い方が通じる保証はない‥‥そこまで皆が考えるよりも先に、晃が咄嗟に咆哮を放った。結果としてそれは正解なのだが、何の予告もない大声は心臓に悪い。
 だがそれはイヌたちにとっても同じだったようである。驚きと共に気を引かれたそれらはすべて抗えず、干飯から晃へとその刃の矛先を変えるのだった。

 伏兵のイヌが居る様子でもなく、目に見える獣たちは皆晃へと向かっていく。おかげで荷車へ集中的に護衛をつける必要はなくなり、後衛としての術を持つ千麻と水津、ゆあの三人を中心にして車を守る形で残り、他の四人が様子を見ながら晃へと群がろうとするイヌたちを蹴散らすような配置となった。
「ふぅんっ!!!」
 真っ先に飛び掛ってきたイヌに向けて塵風を振り回すのは晃、先の一閃に篭めた膂力をうまく流すように、同じイヌへ再び斜めに一閃。体の動きを追うように流れる赤髪とそれを束ねる幾重もの髪紐が、斧の冠する名のとおり薄汚れたイヌ達にむけて吹き付ける鮮血と相まって一つの完結した景色を作るようである。
「脅しで退くような状態は越えてしまったか」
 ゆあが霊魂砲で弱らせたケモノへと、ジンベエが長巻を振り下ろす。所詮ケモノ、必死に生きようとしているならやたらと殺生はしたくないとも思いつつ、生きようとするからこそこうして自分達へと向かってきている事実に、隠した口元を歪めることしか出来ない。数の不利をわかっていてさえ、人の食料を狙わねば生きられないと考えているならば、弱肉強食の摂理に付き合うまでだ。
 晃へその牙や爪を突き立てる前に倒されるイヌもあれば、かろうじてかすり傷を負わせることに成功するイヌも居る。しかしどれほど彼らがあがこうと小さな傷の範疇である。千麻と水津によって即座に回復し傷跡もなくなるため、ただ無為な現象の繰り返しにしかならないのが現実なのだった。


 ‥‥ドドドド‥‥
 五頭が倒れてすぐに出発することは出来なかった。飛び散る鮮血の香りに誘われたようで、新たな襲撃者が開拓者達を狙ってきていたのだ。
 ドドドドドドドドド‥‥!!
 土煙を巻きあげ騒音と共にやってくるのは猪に似たケモノのようで、数はこれまでよりも多いようだ。
「数が‥‥荷車を避けさせるんじゃ間に合わないのよー!?」
 思考自体は冷静なものの、イノシシの勢いに飲まれているのか叫ぶように千麻が声を上げる。その千麻を含め後衛の三人を背でかばう様に前に出て絵梨乃が改めて酔拳の構えを取れば、ルオウと慧介が周囲にこれ以上の追撃がないかを確認し、その両脇へとついた。
 仲間達が配置を取る間、ジンベエと晃は目配せで息を合わせた後,左右二手に分かれてイノシシの両側を迎え挟むように駆け出していく。二方向から咆哮を仕掛け、進行方向を逸らす算段だ。
「「きやがれこん畜生!」」
 鬼気迫るほどの地響きも、彼ら二人の雄叫びに抵抗しきることはできなかったようである。群れのうち四頭ずつがそれぞれ晃とジンベエへと気をひかれて足を緩め、射程から外れた残りの二頭が絵梨乃達が待ち構える車の正面へと速度もそのままに突進することとなった。合わせて十頭。勢いを殺せたため大事には至らずにすんでいるが、作戦が失敗していれば背筋が冷えるどころではなかっただろう。一頭ごとは弱くとも、イノシシのようにまとまって来られればその弱さも強さに変わるのだ。

「みんな頑張ってなのよー」
 千麻が扇子と采配を時折打ち鳴らし、節を取るように上下左右に振る。それに合わせて短めに揃えた髪をなびかせ、繰り返し跳ねながら神楽舞を披露する。
 そうやって開拓者達の力の強化をしたこともあるが、やはりイノシシを分散させられたおかげで特別厳しい戦況にもならずにすんだ。イノシシは勢いがある分、イヌよりも体力がなかったようで、開拓者達が思っていたほどの長い時間はかからなかったことも幸いだ。
「俺たちで食べる分くらいなら、運んでも構わないよな?」
 ジンベエの見立てでイノシシ肉は食べられると判明し、ルオウが喜び勇んで一頭を塊肉へと捌いた。


 連戦をこなした後では、どんな襲撃も開拓者達にとっては雑魚であった。戦地に近づくにつれてケモノ達の数も減っていたせいもあるだろう。
 無事に干飯を後方部隊へ運び込めば依頼は終了だ。
 調理されたイノシシ肉を美味しく頂いたり、酒の肴に呑みに行ったり、現地で前線へと向かったりとそれぞれ好きに過ごしたようだが、それはここで語られることではないのであった。