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■オープニング本文 ● 「どうも、以前に受け付けて頂いた係の方は‥‥」 聞き覚えがあるかないかと言われれば、特別に特徴がない声ほど記憶にひっかからないものである。 ぼんやりと手遊びをして暇をつぶしていた受付係は、自分のそばにやってくる気配を感じ、はじめてその男へと視線を向けた。 平均よりは高い背、髪を束ねるれぇす。いつぞや、洗濯物の仕事を依頼してきた古物を扱う店の主人だ。 「こんにちは、また仕事をお願いしたく思いやってきました」 「あぁ‥‥夏頃の。それでは、洗濯の続きですか?」 開拓者達が仕事を終えた後に、依頼人本人からも話を聞いていた受付係である。その際に書き付けたものをどこにやったのかと探しはじめる。 「いえ、それについては‥‥店にそういった仕事を得意とする者もおりますし、そちらに任せてきておりますよ」 頂いた助言も、参考にさせて貰っていますと律儀に答えるあたり、几帳面な性格なのかもしれない。 「冬物の仕入れも順調ですし、店の方は大分落ち着いてきたところです」 年始の晴れ着に古着を使う者はそう居ないはずで、年の瀬まではそれほど忙しくないということだろう。 「では、どのようなご用件で?」 書付は必要ないと結論付け、受付係が男へと向き直る。それをまってから依頼人は話し始めるのだった。 「先日大きな戦がありましたでしょう? あの時、なにもできなかったことを少々悔やんでおりまして」 「あぁ‥‥でも、おたくの商売では、そう手を出しにくいでしょうね」 衣服や装飾品にはじまり、最近では骨董も扱っているとはいえ、基本的には使い古しの品ばかり扱う商売である。例えば物資援助をしようとして、商売にかかわり、なおかつ役立てられる品はと倉庫を探す‥‥品があったとしても、数が多くないというのが現実で、それだけのために物資を送るのも忍びない、と断念するばかりだったということだ。 「でも、今から援助と言うのも難しいのではないですか?」 話の先が見えない受付係はしきりに首をかしげている。 「えぇ、ですから復興援助のような形ではなく‥‥ある程度都や周辺が落ち着いた今の時期に、ささやかながら慰労の会を催そうと思っているのですよ」 そう大勢は呼べませんけれど、腕によりをかけさせていただきますよ、と依頼人が微笑むのだった。 ● 「材料の都合で、二組にわけてのお誘いになっているんですよ」 なんでも主役となる食材だけは、参加される開拓者の皆さんに運んできて欲しいとのことで、山村と漁村二つの行き先があるとのこと。 「こちらは山の味覚をとりに行って頂く皆さん用の依頼ですね。秋のものですと、少々旬が過ぎているので形や大きさは悪いらしいのですが、その分高級な食材が揃うという話ですよ?」 それらを肴に宴会なんてのもいいですよねぇ、開拓者限定じゃなければ私が行きたいくらいですよ、と受付係が溜息をこぼすのだった。 |
■参加者一覧
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
桐(ia1102)
14歳・男・巫
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
橋澄 朱鷺子(ia6844)
23歳・女・弓
九条 乙女(ia6990)
12歳・男・志
士(ia8785)
19歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ● 「依頼人の人は良い方ですねー」 斉藤晃(ia3071)が引く大八車の上、篭や鋏といった道具と一緒に乗り込んでいるのは桐(ia1102)で、その顔に浮かぶのは微笑み。 「三豊さんでしたっけ、折角の心使いですから無碍にしてはいけませんね」 依頼人の名を思い出し隣に並んで座る水津(ia2177)に同意を求めれば、彼女もこっくり深く頷く。だがどこかその目は遠いどこかを見ているようで。 「焚き火を作って食べる焼き芋は最高ですよ‥‥!」 どうやら、すでに調理過程へ空想がひろがっている模様。握り拳で虚空に力説するような素振りは、今にも火種を作り出しそうではあるのだが。 「あの美味しさは異常ですよ‥‥異議は認めるです‥‥」 早くも食べる所にまで想像が進んだらしくその勢いも収まった。想像上の火だけでは彼女に変化を促す効果も弱いようである。 「秋は過ぎてしまいましたが、まだまだ秋の食材はありますね☆」 思いつく限り、秋が旬とされる食材を並べ挙げ連ねるのは紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)で、今日も愛用の鍋と包丁を背負い持ち込んでいる。 「いくつも揃えられるようなら‥‥やはり鍋にすると美味しいのではないかと‥‥」 鍋の出汁には何を使うべきだろうかと、今度はそちらへの興味も膨らんでいく。 「食べたい食材はいろいろあるけど、わたしはきのこを中心に当たってみるよ」 きのこだけの鍋もできそうだよね。ちょうど隣にいた俳沢折々(ia0401)が言えば、干し椎茸もあれば一緒に交渉をお願いしますと紗耶香が頼む。山の食材の中でも、干した椎茸を戻した汁はよい出汁になる。 「海組の集めた食材にもよるけど、鍋だけでも数種類とかやったら面白そう!」 体がぽかぽかする料理が一番だと思う折々である。 「あたしも一応料理人ですので、料理の手が足りないようなら手伝えますし‥‥そうやって食べ比べるのも悪くありませんね」 この子達の出番がありそうです、そう紗耶香は背負った道具を振り返り微笑んだ。 「料理の基本は食材からともいいますからね。いい食材をとりにいきましょう」 見極める基本は、色や形、手触りだったと聞いたことがありますと橋澄 朱鷺子(ia6844)が言えば、そのうちの色という単語にぴくりと反応したのは士(ia8785)だ。 「ああ、そうだ見事な見栄えのものがあったのなら軽く筆をとってみたいかもしれん」 ぽつりと呟く。それまでは道の脇に僅かに萌える草や、空を舞う鳥に意識を奪われがちだったが、それは絵の被写体を探すゆえでのことだったようだ。 「料理も芸術の一つだからな」 だが興味のあるところ以外、上手く聞き取れていなかったらしい。僅かに話の軸が逸れていた。 「なるほど‥‥」 思いがけず料理だけではなく芸術も見れそうだ。朱鷺子はそちらも楽しみになった。 大八車の上には、各自が必要と思い定めて用意した道具と、少年少女が合わせて二人。 「ところで桐よぉ、てめぇはなぜ空の大八車にのってるんや?」 力仕事は率先して担当するつもりの晃ではあるが、やはり自然に乗り込んでいる二人、少女はともかく少年の方に聞かずにはいられなかった。 「だって何かを運ぶものなのですから空では勿体無いですし、斉藤さんの力なら私程度軽いものでしょう?」 わざとらしいと思うほどにこやかに笑いかけられて。さすがは鬼にぃちゃんやでとぼやく晃なのだった。 ● 食材の買いつけは分野ごとに分担することにした一行、提案した折々自身ははじめから決めていたとおり、きのこを求めて村を歩く。 (「ひとつのところに時間をかけて少しでも馴染みになれば‥‥」) それだけ、値切の交渉に時間をかけられる。それだけ、粘って相手の譲歩を引き出すことも出来る。時間をかけることで誠意を示そうという意図を汲み取ってもらえるはずだ。 「ねぇお兄さん、今が美味しいきのこってなにがあるかな?」 秋に旬のきのこが、まだあれば一番だけど、控えめにかけた声が、逆に村人の注意を引いた。 「お兄さんなんてぇ嬉しいことを言ってくれるねぇ」 うちのきのこに旬は関係ないぜと、上機嫌に品を見せてくる親父の様子に、折々は手ごたえを感じる。特に今美味しく食べられるきのこの食べ方を聞きながら、多人数で食べる宴会料理の食材を探しに来ている旨を伝えた。 「山の味覚と海の味覚、それぞれ分かれて調達してて‥‥せっかくの機会にいい物を多くそろえたいんだよね」 海の魚たちに負けないようなものがいいと付け足せば、早速親父が話に乗ってきた。それまでも値段交渉においていくつものほめ言葉を尽くしてきたわけではあるのだが‥‥勝負ごとにすると、また人によって反応が違うよい例だと言えた。 「今言ったお野菜、あるものをいくつかずつ出してみてもらえますか?」 大根にはじまる根もの、白菜の葉もの、野菜に限らず里芋に茸。今すぐにでもこの場で鍋をはじめてしまいたいような食材が、紗耶香の目の前へと並べられる。それらを一つひとつ手にとってしっかりと見つめることで、どの品が美味しい、よいものかを見極めるのだ。 (「やはりお鍋が基本ですが‥‥具沢山の炊き込みご飯も見た目や味の幅を広げられそうですね」) はじめはじっくりと、戻ってからどんな料理になるべき食材かも考えながら時間をかけていた紗耶香だが、同じ品、同じ人が育てた野菜と環境の差がないものを繰り返してみるうちに、それぞれどこを見れば判断の境目が生まれるかが自然にわかるようになってくる。ほんの一点見れば区別できてしまうような品は目の前に近づけずとも結果がわかることもあり、紗耶香の手が迷う時間も短くなっていくのだった。 「ふぅ、こんなものですか。これだけ纏めて買うとしたら、おいくらですか?」 食材を分けた山は三つ。中でも紗耶香自身が良い品と見極め抜いた数種のみを纏めた山はそのうちの一つだ。それを指差しながら、都で普段買い付けている品の値段を頭の中ではじき出す。暴利を取られないよう、対策もばっちりだ。 「ぜひお勉強してくださいね☆」 「お芋‥‥焚き火様であっつあつのほっくほくに焼き尽くされたお芋‥‥!」 握りこぶしをぎゅっと掲げた水津だが、早速晃によってその手を阻まれる。 「ちぃと落ち着き。わしらはそれほど詳しくない、紗耶香に教えを請うてからでも遅くない」 水津の首根っこをつかむようにして軽々と持ち上げた晃は、水津を膝上に乗せ座り込み、まずは観戦とばかりに紗耶香の手並みを見物する‥‥だが検分まですぐに真似るわけには行かないようで、結局野菜は彼女に任せ、肉類の買い付けへと回ることにした。 「焼き芋に使う分の芋だけは交渉を任せてもろうたから、それで構わんちゃうんか?」 「はい‥‥最高の焼き芋を作って見せますよ‥‥」 目安は一つにつき幾らかもあわせて水津に伝え、落ち着かせるように頭をわしゃりとなでた。 「さぁて、獣肉はどこにあるかね」 猟師のもとを訪ねれば、ちょうど早朝に仕留めたばかりの猪があるとのことで、聞いたとたんに豪快な笑みを浮かべる晃。鍋用に分けてほしいと交渉を始めれば、視界の隅に軒先に吊るされた干し肉を見つけ更に口元がにんまり。 「高いとはいわんから、あっちの肉もいくつかつけてや」 酒のつまみといこうかね。美味い酒が飲めそうだと言えば猟師もいける口のようで。ならあれも出してやろうと、秘蔵の酒を少しばかり分けようと席を立つのだった。 桐、朱鷺子、士の三人はそれぞれに別の食材を求めていたのだが、村人が見極めたものではなく、自分達で収穫したものを持ち帰りたいと考えているところで共通していた。 とはいえ本来ならば村人達の生活圏である。誰に許可を取ればよいかの問い合わせで少しばかり時間を食ったものの、桐の提案した道案内として村人を雇うと言う案を採用したことで、うまく村人達との折り合いもついた。 「ここの山の幸が豊富で美味しいからとこちらに私達をよこしたのだと思うのですよ、些少ですがお金はお払いしますし、こちらの産物の宣伝にもなると思いますし‥‥よろしいでしょうか?」 丁寧な物腰に話しぶり。それらの言葉に添えられた笑顔に目を奪われ言われるままに頷いた村人も居たかもしれない。性独特の特徴が主張せず中性的な外見と幼さを備えた彼にしてみれば、狙い通りの結果なのかもしれないが。 案内人の存在は十分に効果を発揮した。成長期に差し掛かったばかりの小柄さや服の裾の長さは、樹上の果物を手に入れるには弊害で、笑顔で頼めば応じてくれる存在は、彼自身が思っていた以上に重宝したのだった。 朱鷺子が狙うのは小柄な動物である。冬眠する前で警戒心が強くなっている時期のため、村人に借りた兎罠はあくまでも保険だ。本命は射て得るつもりでいる。 罠を貸してくれた猟師が、親切にも設置場所の目安と、例年冬眠で使われると思しき場所の一部を教えてくれたこともあり、場所を探す手間も省ける。 「なぜそれほどまでに気をかけてくれるのでしょうか」 あまりの親切ぶりに首をかしげ訪ねれば、三豊の使いで来た方達だからだという答え。これまでにも幾度か季節の食材を融通したことがあるとのことだ。開拓者達が品を選びに来たのはこれがはじめてだということもあり、罠などの支度がなくて申し訳ないとまで言うのだった。 ガサッ! 匂いで異変を感じたか、すぐ先の茂みで小柄な何かが動く音。すぐに射かけられるよう取り出していた一矢を放てば、呻きに近い悲鳴があがり、暴れ足掻くような物音が続く。 そろり 静かになった頃合いを伺えば、横たわるのは兎が一羽。茶の毛並が残っているところを見るに、他にもまだ活動している兎がいるようすも伺えて。 「この調子なら、肉も十分に揃いそうですね」 士が担当となったのは、川魚や山菜といった水場周辺の食材だ。 「鮭が産卵で戻ってくるのもこの季節だと思ったが‥‥」 雌の卵巣を狙うと考えれば正しい選択だ。産卵期の鮭は次世代を残すことが第一のため、川をのぼるうちは食事もとらないし、身も他の時期より味が落ちる。かわりに通常よりも捕獲しやすくなっているため入手は容易で、適当な網や籠を置くだけでも、鮭が自分から捕まりにやってくる。 「食べるだけの雌魚だけあればいいか」 予定のない雄魚は改めて川へと帰した。 「あとは山菜か‥‥」 振り返り改めて見回す。ものにも寄るが、見つけ方や採り方にコツが必要なものもある。猟とは違い、採集は村の奥方達の仕事で、求める食材については教えを乞い知識としての準備はしている。実際に食べているものが地面から生え生きているという発見を楽しみたいと案内を断ったのだ。 「‥‥‥」 樹、草、枯れ枝、樹、切り株、樹、また樹、草、草、草‥‥ (「なんとかなるだろう」) 慣れぬ者がひとりで探すには、少なからず根気が必要のようだった。 ● みなさん、どうもお疲れ様でした。漁村に向かった方々が戻るまであともう少しかかると思いますが、こちらで買い付けていただいた食材から順次調理させていただきますね。 それにしても、ずいぶんとまた量がありますね、これら以外にもう一組の方達が買い付けた食材の量を考えると、今回だけで食べきるのは難しいかもしれません、いくつか長期保存の出来る加工も必要でしょうか‥‥ ところで、私のほうでもある程度調理法は考えておきましたが、何か食べ方に希望がございますか? 遠慮無くおっしゃってくださいね。 それにしても皆さん手際がいいですね‥‥材料の買出しをお願いした分、力の限り腕をふるわせていただくつもりでしたが、指示してばかりで申し訳ありません。 「自分の食べる分だけならわかるけど‥‥人数が多いと、こうも量が多いんだね」 そうですか? いつも賄いで店の者達の食事も作っていますし、これくらいなら慣れもあるんですよ。あ、その栗はもう少ししたら湯からあげてください、お願いします折々さん。 「鍋の具材、大きさを揃えれば大丈夫でしょうか?」 はい朱鷺子さん、それくらいが食べやすくていいですね。え、栗御飯を炊く出汁の量ですか? えぇと‥‥後で書き留めておきますね。いつも目分量なものですから。士さん、山菜の下茹ではどれくらいになりましたか? 「いい色を出すまでもう少し待ってくれ」 おや本当、綺麗な緑ですね‥‥みずみずしさも伝わってくるようです。 トタタタタタタンッ♪ すばらしいリズム‥‥紗耶香さんの手さばきは御見事、まるで包丁が閃く蝶のようです。え、お鍋も持参されてるんですか? それじゃあ一品お願いしたいです。私、あまり鍋振りが得意ではないものですから、ぜひご教授お願いしたいのですよ。 「‥‥♪」 はい水津さん、お芋なら里芋もありますよ、これも焼くとまた格別ですよね。 「お〜い水津」 晃さんがお呼びみたいですよ? ‥‥今もっていた塊、まさか食べ物でしたか? パタリ 「むなしい勝利や」 食べて倒れる程なんて、何が入っていたのでしょうか。 (「三豊さんの料理を食べよう」) どうかしましたか桐さん、強張ってますよ? ● 山海の味覚、秋冬の味覚。 並んだ料理の中でも一番に目を引くのが、一番大きな土鍋を使い、使える食材をすべて投入したといっても差し支えないであろう鍋である。それを中心に据えれば、やはり海組の料理が主菜として顔を並べてしまう。 山組の買い付けた食材で特に目を引くのは松茸料理の数々だ。形や大きさは悪い分安く買い付けることに成功したおかげで、定番の松茸ごはんや土瓶蒸しだけにとどまらず、茶碗蒸しや天ぷらといった多彩な調理法を施され食卓に香りをそえている。七輪で姿ごと焼いたものも盛られており、その香りが一段と空気を変えている。 そのほかにも栗御飯、茸御飯、山菜御飯、芋御飯と別の釜で炊かれたものも並んでいる。水の代わりに出汁を使っているのだが、鍋と同様その出汁に使う素材も変えている。特に茸御飯を炊く際は鶏がら出汁を使っており、鳥の油が御飯に光沢も与えつやつやと光っている。 イクラは海組の魚をネタにした寿司の流れの中に軍艦巻きとして参加していた。 デザート代わりに十分に焼いて甘みを引き出した焼き芋と、その芋を潰し水あめを加えたものを餡にしたおやきだ。 「美味い料理があれば酒もすすむちゅうもんや」 「こちらの天麩羅なんて、酒の肴に丁度いいのでは?」 「お芋の天麩羅までありますよ‥‥!」 友と会食を楽しむ者達。 「寒い時期だからこそこうやって辛いものを食べて暖かくするのですよ」 「美味しそうに食べる顔を見ながら食べるというのは本当に楽しいですね☆」 自身のこだわり、趣を追及する者達。 「これは一見の価値ありだな」 「『食べ比べ 踊る風味や 名残秋』 俳沢折々」 興に乗るまま感情を発露させる者達。 そうして開拓者達の宴の夜は過ぎていくのだった。 |