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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ※このシナリオは、シナリオリクエストにより承っております。 ● ――もし、あのとき。 ――もうひとつの道を選んでいたら? 護大と呼ばれていた力ある存在。 世界の在り方に影響を及ぼすほどの強大な力を、ただ呼吸と同じようにふるっていた意思のない存在。 その眠る場所に降り立つのは、力をもち立ち向かうことを決めた開拓者達。 会話など成立するはずがないのだと、その撃破を胸に武器を振るい術を放ち、持てる力と知識を駆使して。 天儀の未来を掴みとるために、大願成就への階を駆け上っていった。 歯を食い縛り、拳を開かず。声を出すことも久しぶりだと思うほどの長い時間を戦いに費やしていたように思う。 終わってみれば、それらはすべて瞬く間の出来事だったようにも思えてしまう。 それだけすべての生き物が決められていた未来に抗う事を望んでおり、戦える力を持った者達が、なりふり構わず力を絞り、体がひとつの動きだけを正しいと感じてしまうほどに同じ攻撃を繰り返し‥‥ただ同じ曲を繰り返し流しているだけのような大戦が――終わりを迎えた。 開拓者達は、勝ったのだ。 ――! ――!! ――!!! 快哉の声が響き、喜びが広がっていく。 しかしそれは開拓者達の物。残された護大派の者達は崩れ落ち視線を彷徨わせる者や、我を忘れ暴れようとする者など様々な反応を見せていた。 開拓者達がそれらの対応に追われる中。 パリ‥‥ッ 突如響く、澄んだ音。 透明で硬質な何かが割れるような。 割れ続けるような音がどこからか、どこまでも響いていく。 最初に気づいたのは、誰だったのか。 ――なんだ、新たな敵が居るというのか? ――そんな、やっとの思いで倒したのに ――護大がすべての元凶、すべてのはじまりではなかったのか? はじめは数名。しかし少しずつ広がっていたその音は、世界に存在している全ての開拓者達へと届けられていく。 どこかから聞こえる、しかし発信源を見ることのできない音。 頭に直接響くような、すぐ近くで壊されていくようなつかみどころのない、音。 次第にその数も大きさも増していき、聞こえる者も開拓者、アヤカシ、ケモノ、人間‥‥増えていく。 そして、すべての生き物にその音が届いたとき。 カシャー‥‥ン‥‥! ひび割れた全てが一度に、地に落ちるような音。 その音の、先に―― ● 護大は世界に干渉するほどの力を持っていた。 しかし、その存在のすべてが消えたときにその力も消えてしまった。 その影響は如何ほどのものなのか、予想できた者は居ない。 しかし、開拓者達は今、その答えを目の当たりにしていた。 ――ここは、どこなんだ? 見覚えがあるような、ないような。どこか違和感を覚える風景が広がっている。 そもそも、自分達は護大の墓所に居たのではなかったか。 取り巻く環境の変化に戸惑い、自らの姿を見下ろす。 ――よかった、いつもの自分だ。 自身の姿を確認してから、改めて周囲を見回す。近くには同様に警戒をあらわにする開拓者も居るおかげで、自分だけがおかしいのではないと少しばかり安心も出来るけれど。 ――化け物が、化け物が出た! ――食われるぞ、逃げるんだ! ――逃げるってどこに? どこまででも追ってくるに決まってる! できることなんて! ――それでもそうするしかないだろう、生きられる可能性があるなら! 悲鳴の先を見ればわかる、あれは瘴気の塊、つまりアヤカシと呼ぶべきものであると。 しかし初めて見るかのような人々の様子など気になる点が多すぎる。しかし首をかしげている時間はない。まずは彼らを救わなければ。 護大を倒したというのにどうして―― ――!? 術を使うその手応えが記憶と違う。 精霊力が―― 満ち満ちているのだ。 ● 世界には、護大が存在していた事実がすべて、綺麗さっぱりなくなっていた。 これまでに歩んできていたはずのすべての歴史は、護大とともに消えてしまった。そう考えるのが妥当なのだろうか。 文献のような資料はもとより、文明的な、例えば宝珠のような道具など、彼らが持っている他にはちらとも見たらなかった。 そこに暮らす人々の記憶にも、それらしい記憶は存在していない。 この場に立っている、開拓者達を除いて。 ● 開拓者達の活躍はたちどころに知れ渡った。 志体という素養についても、同時に広まることになる。 彼ら開拓者達が存在することで呼び水になったのだろうか、それまで素養がなかったはずの者達にも同様に、志体の兆しが見えはじめるようになっていった。 しかし精霊力と瘴気の存在。それはまだ不安定なままだ。 人々の戸惑いも少なくはない。 ふとした拍子に力が暴走し、事故となるような問題まで起きるようになっていた。 ――この力は、制御できないのだろうか? 誰かの疑問が、人類の希望の欠片として、願いとして集まっていく。 力の制御が可能な開拓者達は、その技術を広めるために奮闘もしていた。しかし状況には追い付いていなかった。 彼らは、根本的な対策を講じなければならなくなっていたのだ。 そしてまた歳月が流れ―― ひとつの可能性を導き出した。 精霊力と瘴気のバランスをとることが可能な存在、唯一の可能性。 この世界に、新たな「護大」を作り出そう、と―― |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●新たな護大に至るまで 全人口に比べて、開拓者達はほんの5人。 数の少なさは考えの擦り合わせには有利かもしれないけれど、一所に集まるには世界は広すぎた。 だから、彼らは彼ら自身の選択で道を分けた。 一つの可能性だけに絞って五人全員が賭けるには、様々なものが足りなかったのだ。 ●強きもの 暮らしそのものに慣れることは容易かった。それは経歴に依るところが大きい。 (こんな事になるとはな) まずは身を落ち着けてから道を探ろうと、羅喉丸(ia0347)は日々の暮らしを優先していた。しかし頭の中には常に現状を打破するための思考が巡っている。落ち着いた中で思考を編む方がより製錬された域に辿り着くと、そう考えていた。 「こうなってしまった責任の一端がある以上、何もしないわけにもいかないな」 生活そのものなら何の問題もない。だが志体を持っているからこそ世界の均衡の危うさに気付いてしまう。その言葉は常に脳裏に刻みつけられていた。 鍵は墓所に在った三柱の神と、泰の羌大師の言葉。 「陰が極まれば陽に変じ、陽が極まれば陰に変ず。陰が極まれば陽が生じ、陽が極まれば陰が生ず‥‥」 陰陽の教えから何を選び取ればいいのか。 (護大は空だったはずだ) それは精霊力と瘴気からなる膨大な力の象徴であり、存在しないことにも通じる状態。膨大で存在しないゆえに均衡を取ることが可能だった存在。 (志体が練力を介して、精霊力と瘴気を使った技を制御できることにも意味があるはずだ) それは墓所の三神と護大の関係に通じるものではないのだろうか。 三柱の神と三つの力、神より上位に扱われていた護大と、神ではなくとも力を扱える開拓者。そこに何の違いがあるのだろうか。 力そのものの大きさか。力を操る器の大きさか。 「他に試したものが居るだろうか。ならばその一手を踏み出せばいい」 基本に据えるのは精霊力だ。ただひたすら純粋に、精霊力を自らの体内で高めていく。 術を繰り出す時の感覚を元に、ただ力そのものだけを集めるには集中力も必要だ。 (大師の言葉を是とするなら‥‥) 高まった精霊力こそが瘴気に変じるはずだ。だからひたすらに力だけを集め、高める。 精霊力あるところに、瘴気あり。 高まった力が変じたものか、それとも強い力に引き寄せられたのかはわからない。内なる精霊力と外なる瘴気が混ざり合おうとぶつかりあう。 (徐々にでは駄目なのだ、全てを一度に合わせなければ‥‥) 成否の分かれ目がどこか、より成功に近づけるにはどうすればいいのか。 ――命の輝きを見せよ―― 密度の高い力の狭間で自身の体を維持すること。 その上で力を高めきること。 意思の力こそ鍵とできるのが志体だ。 失敗したならまた試せばいいと気軽に思える程度ではいけない。この一回しか不可能だ、そう言いきれるほどの意思がなければ限界など超えることはできない。 だからこそ、因果の証、気力も使い切るほどのに注ぎ込む。 「陰陽揃いて大極に至らん」 その言葉が声となって出ていたのか、ただ言ったつもりになっていただけなのか。 未だ力に抱かれたままの羅喉丸本人にもそれはわからない。 ●己を得るもの 空を飛ばない空賊は泳げない魚と同じ。そう、死んでいるようなものだ。 「今のままの危険な状態じゃ、安定した宝珠の技術も生まれないんだ‥‥」 ぽつりと零れる天河 ふしぎ(ia1037)の声。その声音を耳にして更に肩を落とした。今の自分には覇気がないと耳から理解する。 今日も駄目だった。飛空船も、グライダーも。飛ぼうと試すところまではできるけれど、地を蹴るところまでは行けるけれど。そこから先、翼を広げることができない。 飛ぶことが生きがいで、それが無くては生きていけないと思っていたのに、それでも生き続けている僕は今何をしているんだろう。 「これじゃ死んじゃってるのと同じだよ」 毎日手段を変えてやってみたのだ、バランスが悪いなりにやりようがあると信じて。技術があれば超えられる、再び飛べると信じて。 (バランス‥‥?) 思考に自分で引っ掛かりを覚える。とぼとぼと歩いていたその足も止まった。 不安定なままでどうにかするのではない、力そのもの、世界そのものを変えることはできるのだろうか。 「護大と対話をした世界は、どうなってたんだろうな?」 その可能性だってあった。なら今から、その道を辿ることはできるかな? 次第に、ふしぎの瞳に力が戻る。 倒したものを作る、その矛盾は考えないようにする。新たな「護大」はもう別のものの筈だ。 「世界の管理人さんとか、響きも変えてさ」 別の記憶がよぎって、口元に笑みが浮かんだ。 まずは精霊力。持っていた宝珠を参考に塊となるよう、一時的な器を用意してその内に籠めていく。飛ぶために出歩いた場所の中でも特に精霊力を多く感じた場所から集めることとで、少しずつでも力の乱れを落ち着かせようと奔走もした。 次に瘴気。アヤカシを倒し封印することで同じように塊にしていく。先に完成していた宝珠を持ったままアヤカシを探しに出れば、勝手に寄ってくるのだから便利ではあった。同時に危険は伴うけれど、護大を倒した時に比べれば容易い。なにより今この世界ではじめから志体を持っていた開拓者達は強さの面で他を圧倒している存在だったから。 二つが均衡を保つようになったことでアヤカシもふしぎを追うことをやめた。落ち着ける場所に戻ってきて、二つの珠を元に再び考えを練り上げる。 「もふらの生態とか、人妖の成り立ちってどんな感じだったかな」 脳裏をよぎるのはもう一つの選択肢。対話が可能だというのなら、意思を持つ存在でなくては護大にはならないと思うのだ。 「最初から意思があって、対話ができなくちゃ」 この世界が再び瘴気にまみれることになったら意味がないのだから。 「ねぇひみつ、協力してくれる?」 今も傍に居る家族と、これからも一緒に居るために。 ●均すもの 『卵が先か、鶏が先か。 不幸の種を蒔いて、安定の花を咲かせなければならない。 再び不幸の種を実らせるとわかっていても――』 のちに狂言者と呼ばれたリューリャ・ドラッケン(ia8037)の手記はその言葉で始まっている。 『面白い話がある。 昔、それはどうやっても結晶となる事は無かったが、偶然か神の悪戯か、ある一人が結晶化したものを確認した後、次々に結晶が出来たというものだ。 グリセリンの結晶の話だ。 勿論これは都市伝説、唯のお話に過ぎない――』 精霊力を結晶化することが可能なら。瘴気に意思を持たせることが可能なら。精霊力を精霊として、そして意思を持たせることだって可能なはずだ。 (始めは機会を司る精霊がいい) これから繰り返す実験の助手として、実験から生み出された存在を使う。 それが最初の結晶だ。 『ここは精霊力は充満しているのに、瘴気を感じる事は少ない。 旧世界の関係を見るに、アヤカシは本来何かを害するものではない。 人を襲うアヤカシが生まれるとは考え難い。 その行動理由はどこから来たのか?』 精霊力は精霊に成らず、瘴気はアヤカシに成る。 精霊は力としてそこに在るなら、アヤカシもただ在るだけではないのか? 理由は他者から与えられたもの。もしくはそう在るべきと押し付けられたもの。 アヤカシが人を襲うのは、そもそも現れたのは自分達がここに至ってからではなかったか。 (想いを叶える力を持った俺達の思い込みが最初の一体を化け物とし、認識が広がるほどにそう確定させた‥‥) 今はもう取り返しがつかない。 『力を混ぜずに重ねる。打ち消さず、高次元の関係を保てれば無垢もそれを自然と捉える筈――』 核は無垢なる精霊。意思よりも前に、汚れていないことが重要だ。 瘴気と精霊力を交互に重ねる。それぞれのの合間には練力を必ず重ねる。 繰り返し繰り返し、薄い膜を重ね、寄り添わせ纏わせる。次第に形を成すように、精霊ではない存在として、重みを増すように。 息を吸うように力を取り込み、吐き出す力として余剰な力を消費する。どちらかが足りなければ、その場所に息を吐く。 ただ存在するための呼吸を、世界の安定に、ただの副産物として利用するのだ。 『護大の結晶化には長い時間が掛かるだろう。 もう、俺には時間が残されてはいない。 後は機械の精霊に全てを任せよう。 未来の人よ、どうか赦してほしい』 手記に助手が宿る。失くしてはならない大事なものを護る為に。 『始まりのアヤカシはきっと、我々の認識が作り上げてしまったものなのだ――』 最後の一文が書きこまれることはなかったが、実験は繰り返されていく。 ●思うもの 「精霊力も、瘴気もどちらも強すぎて、釣り合いがとれていないように思えるけれどね」 今日も、戸隠 菫(ib9794)は子供達に勉強を教えている。天輪宗の僧院であり孤児院としても機能しているこの場所で、菫は孤児たちのお母さんとして日々を過ごしていた。 「ちょっとしたバランスの傾きが、大きく表れてしまうだけなの」 天輪宗の教えだけではなく、他の宗教についても教えることで、様々な考えが世の中にあることも教えていく。 今日は世界に満ちる力についてだ。孤児たちにも志体の兆しが見え始める者が多かったから、早いうちに教えておく必要があった。 僧院の主として暮らす方が簡単だったはずだ。武僧としての技術は完成しているから、それを教えるだけでも入門者は現れたし、修行も可能だ。 けれど菫の目的は他にもあったから、多少家計が苦しくなろうとも子供達を育てて、家族と言う温もりに常に満ちている必要があった。 実際、孤児たちを引き取り始めた頃は周囲の視線も芳しくなかった。それでも貫き通してきたのだ。 キャッキャッ♪ 「うん、咲耶にはまだ難しかったかな?」 腕の中で笑う娘の顔を皆で覗き込む。ひとりで奔走していた菫に弟子入りし、次第に協力しあい、共に歩みたいと望んでくれた男との間に産まれた娘だ。生活も安定し、今では夫婦二人足並みをそろえて僧院を切り盛りしている。今、夫は入門者の修行の方へ行っているはずだ。 娘には夫婦からは勿論、兄ちゃん達が守ってやるからなとか、大きくなったらお姉ちゃんが縫物を教えてあげるとか、子供達の愛情も存分に注がれていた。 護大との戦いの時、菫自身が行った技術。精霊力と瘴気、二つを結び付ける練力。 その技術を元にして、自分以上に自然に行えるように。菫は練力の核と二つの力の結晶を作り出していた。 それをあえて自らの胎内に収め、咲耶と共に産んだ。収める時も、産むときも菫は全ての負担を自分で請け負っているし、今も力を抑えている。娘が力に負けないように、暴走させないように。少しずつ教えながら慣らしていくために。 どれも、志体もちの菫だからこそできたことだ。 今も咲耶の体からは三つの珠の存在を感じ取れる。抑えているからでもあるだろうが、咲耶の内面は安定しているように思える。全幅の信頼を寄せられている実感と共に、後ろめたさも存在していた。 (産まれる前から重荷を負わせるように義務付けちゃってごめん‥‥) 確かに道は敷くけれど、貴女は私の娘だから。その道を歩むかどうか、自分で選んで欲しい。 いずれどんな選択肢を選んでも、貴女を嫌いになったりしない。みんなが貴女の家族で、貴女を愛してる。 ●繋ぐもの さらなる見聞を、知識を求めた柚乃(ia0638)は定住を選ばず、旅装で各地を転々としていた。 (ここが旧世界?) 何が起こったのかを知るために、落ち着いて状況を知るために。様々な人に話を聞いて、実際に確かめることが状況の把握にもいいと思った。 (でも‥‥護大ってつくれる、の?) 安定した世界の為に、必要な存在としての護大。倒した筈の存在を思う。 (生み出すということ?) しかし護大は誰かに生み出されるものではなく、既に在るものではなかったか。 (ちょっと、頭が混乱しているみたい‥‥ううん、大丈夫) 一度は在ったものを改めて在ることにする。それは修復出来る可能性もあるということではないだろうか。 (でも、また瘴気に満ち溢れてしまったら?) 今は精霊力を多く感じることができた。だからこのバランスを保ったまま、安定させることができたらいいのに。 (ここに住まう人々はどう思うのかな‥‥) 不安定なほどの力が溢れたことが彼らにとって非常事態なのだ。志体も同様。今起きていること全てが不慣れなもので、アヤカシはその付随現象で。 自分達がここに居なかったら、あるいは平穏な世界が在った? 考え過ぎだろうか。 (まずは深呼吸‥‥うん) 次の村に着く前に、姿を変えておこう。 世界に溢れている力を感じ取りながら、それでも体得している術は使えていた。志体の兆しが見えたばかりの者達は、不安定な世界に翻弄されていることが多かった。 「力を制御する為には‥‥飲み込まれない強い意思と抑える器が必要なのかな?」 護大を生み出す切っ掛けにするために思考を編む。 力を行使するならば、負担を軽減する為の媒介となるモノが必要だろう。力を収束凝縮して結晶化、それをヒトの身に宿らせ遺伝して‥‥ 「‥‥って、志体みたい」 それこそ今の自分達、今の世界の在りようだ。 (全てではなく界の力の一部を、人々の暮らしを守る為に役立てるとか‥‥) 力が強大な一つ塊だったなら、安易な場所に置いてはおけない。悪用の可能性が高まってしまうからだ。 ならば複数に分散させて世界を安定させる力へと、ちりばめていけないだろうか? 「意思持たぬなら、自然の支え‥‥大地育む力に変換‥‥とか」 既に志体は広まっている。自分達だけでなく、この世界に元から在ったヒトの身にも。 今から同じように広めていくことは叶うのだろうか? 余計に混乱してしまいそうだ。 (ひとりで考えているから‥‥?) 少しずつ、同じ考えを、同じ気持ちを広めていけたら。一人ではなく全てに広がるのではないだろうか? 「定住は、それが終わってから‥‥かな」 ●希望の五つ星 失敗を繰り返し、研鑽を積み重ね、その上で起きたただ一度の奇跡は最高の力の結晶となった。 願いを重ねて絆を費やし、失敗も受け入れて歩み続けた先で生まれた1人が自我を示した。 無機質に永遠を思わせるほどに繰り返された結晶は平均たる技術を得た。 愛情を覚え悲しみも苦しみも痛みも知った娘は思いやりを持った心を示した。 概念が人々に定着したその時、願いの先に精霊が生まれ、世界の全てを覆った。 彼らは五であり一。 個であり全で、世界そのものに触れた。 彼らが世界に触れたことで、世界の安定が成され、安定がもたらされる。 かつての護大のようにただ無意識に行われたものではなく、そこに在る命に変化を感じさせないほどの静かなもの。 彼らはもう、護大ではない。 |