【水庭】止まり木
マスター名:石田牧場
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: やや易
参加人数: 20人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/08/08 21:13



■開拓者活動絵巻
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でぼー






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■オープニング本文

●新たな儀

『冥越の瘴気が薄れると共に、嵐の壁の一角が弱まった』

 その知らせが開拓者たちに届けられたのは、つい最近の出来事だ。
 今まで不明とされてきた地形が明らかになったことを意味している。
 その先には、何が待っているのか?
 期待と怯えと、それらを合わせても凌駕するほどの好奇心。
 そんな開拓者たちの目の前に現れたのは、小さな儀であった――

●夏を過ごす

「羽休めには良さそうな、まるで夏を満喫できるかのような島‥‥ね」
 例えばこの儀が、今ある状態と同じままでもっと広く大きい儀だったら。どこの傘下に置くかとか、そういった面倒なことになったのだろうか。
(それどころじゃないわよね、さすがに)
 浮かんだ考えを首を振って否定する。暇ができてしまうと、何でもかんでも面倒な考えを当てはめてしまうのは悪い癖かもしれない、と晶秀 恵(iz0117)は自分を冷静に見つめなおしていた。
 日々、気温は高くなっていて、過ごしにくくなっていく。せめて思考だけでも冷静でいなければと努めようと努力はしているつもりだ。
(‥‥まあ、言い訳よね。もしくはただのかっこつけ)
 ちらりと視線を横に滑らせる。晶秀の居る受付、机の上には水が張られた桶がおいてあった。これは晶秀が、暑さに耐えられなくなったら氷水にして涼もうと準備している代物だった。
 暑さの前には、体面など気にしてはいられない。暑さに倒れないためにも、これは必要なことなのだからと勝手に理由をつけて持ち込んでいるのだ。
 はじめこそ開拓者達への対応が疎かになるなどの理由で、内勤の上司はこれを排除しようと躍起になっていたのだが。
 暑さにやられてギルドで倒れこむ開拓者なども居たりして、そういう時によく役立つものだから、今では黙認もされているのだった。
「晶秀ー、冷茶頼むー」
「良いように使われてるんじゃない」
 事務所の方から上司の声がしたと思えば、足元からも声がする。猫又のまくるである。
「でも、暑いのはわかるのよ。‥‥練力切れするほどこき使われているわけじゃないしいいんじゃない。まくる、うるさく言うとそれ、取り上げられちゃうわよ?」
 実際、まくる用の小さめの桶も用意されていた。尻尾だけを入れて冷やしている。
「‥‥いってらっしゃい、冷茶なんでしょ」
 ちゃぷっ、尻尾の片方だけをふって送り出した。

●夏季休暇?

「晶秀、お前も行ってきたらどうだ?」
「何がですか?」
 出された冷茶を飲みながら、持っていた瓦版を晶秀に差し出す上司。
「開拓者なら、新しい儀って興味あるものじゃないのか?」
 先ほどまで晶秀も見ていた、例の島のことである。
「俺は一般人だからわからないけどな」
「‥‥別に、志体があるからって一般人とそう変わりませんよ。誰しも意欲満々ってわけじゃないんですから」
 だから私、ここで受け付けやってるんじゃないですかという晶秀に、そうだったなと頷く上司。
「最近、休みもあまりとってなかったんじゃないのか」
「交代でとってますよ?」
「‥‥っ! ああもう、ちょっと長めに休みをとれって言ってるんだ!」
 察しろ、と逆に怒られる晶秀。
「こうなったら無理にでも取らせるぞ!? この島、お前行って来い」
「はいっ?」
 十分に羽を伸ばしてから仕事に戻ってこい。そう言いながら席を立ち、上司は自分の机へと戻っていった。
(‥‥なに、あれ‥‥?)
「なんか、最近氷の件でいろいろ言っちゃったの、悪いと思ってるらしいですよ」
 通りがかった同僚に言われてなるほど、と頷くのだった。

●旅行の準備

「まくる‥‥貴女も水着って必要なの?」
「仙猫ならまだわかるけど」
「そうよね‥‥お揃いとかなら、恥ずかしさも軽減されると思ったんだけど」
「道連れとか有りえないから」
「ごめんなさい‥‥ああ、でも地図を描く道具くらいはいるのかしら」
「遊びに行くの、仕事しに行くの?」
「何かしていた方が落ち着く気がするのよ」
「休み、強引に取らされて正解だったんじゃないの」


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 叢雲・なりな(ia7729) / フェンリエッタ(ib0018) / 御陰 桜(ib0271) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 針野(ib3728) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 叢雲 怜(ib5488) / ユウキ=アルセイフ(ib6332) / アムルタート(ib6632) / 澤口 凪(ib8083) / 戸隠 菫(ib9794) / 紫ノ眼 恋(ic0281) / ジャミール・ライル(ic0451) / リズレット(ic0804) / リーズ(ic0959) / サライ・バトゥール(ic1447


■リプレイ本文

●やってきました、新たな儀!

 二つの島が向かい合った儀。西の島の南端に開拓者達は降り立った。
 天儀などの儀に比べれば確かに小さい島だ。だがそんな言葉だけでは表すことができない『雰囲気』というものがある。
 未開の地。
 まさにそう呼ぶにふさわしい、自然のままの姿がそこにあった。

 空賊団『夢の翼』は、天河 ふしぎ(ia1037)率いる4人でやってきた。
 ふしぎは胸元が隠れるデザインのものを、天河 ひみつと色違いで身に着けている。
(男物の筈なんだぞ…きっと)
 本人がそう信じているので触れないでおこう。
「行くよみんな、この旗に続け! 水着を着て空賊らしく新しい儀を探検しちゃうよ!」
 翼とゴーグルの描かれた旗を掲げ、新たな儀へと踏み出した。

(本当に来ちゃったわね‥‥)
 強引に休暇届を作成させられた晶秀 恵(iz0117)は、場の空気に飲まれてやや放心状態。
「恵ちゃーん」
 そこに抱き付いてくる戸隠 菫(ib9794)。勢いに負けてよろけつつも何とか踏みとどまる。見た目の体格はそれほど変わらないはずなのにと菫を見れば、大きな背負い荷物にぎょっとした。
「それ、何?」
「夏と言ったら焼き玉蜀黍が定番だよね、美味しいよ」
 後でみんなと食べる分だよとの言葉に、まくるがこっそり尻尾を揺らした。

「小さくても未開の儀なんよね、なんだかわくわくしますさー」
 右手を庇に遠くを眺める針野(ib3728)、その視界の隅で何やらがさりと音がしたような。
「‥‥うにゅ?」
 しづるもそれに気が付いて、ふよりふよりと近づいていく。そーっと、そっと‥‥
 「・△・」
「‥‥えっ?」
 かき分けた先で、四角い何かと目が合った。
 (^O^)ぴー!?
「は、はりちゃーん! おまんじゅうが鳴いたよー!?」
 もう一匹、丸い方の声に驚きしづるが針野を呼ぶ。
 二匹もしづるの声に驚いて、開拓者たちの目の前を横切って消えた。逃げ足には相当自信があるらしかった。

「未知の生物を捜しに、島を調査するよレオナ」
「えぇ〜私はサライきゅんと遊びた〜い♪
「じ、時間があったらね」
 押しかけ相棒レオナールの頬ずりを受けながらサライ(ic1447)は師匠の教えを思い出す。
(かつて、不死系アヤカシの群れの中を短刀一本帯びたのみで単身突っ切り、見事依頼をやり遂げたシノビがいると‥‥)
 その姿が豆腐にそっくりだったらしく、先ほど見かけた杏仁豆腐こそ伝説のシノビではないかと考えたのだ。
「確かめなければ!」
 迷うことなく駆けていく。首にはしっかりレオナールを抱き付かせたまま。

「新しいケモノさんですね♪」
 逃げ去った杏仁豆腐をしっかり視界に収めた柚乃(ia0638)は、改めて新しい出会いに意欲を発揮していた。他の土地とは隔絶されていたこの場所に、初見の生き物が多いと踏んでいたのだ。
「アビスコレクションが一気に充実する気がしますね☆」
「アヤカシじゃなかったわね」
 伊邪那は瘴気を確認していた。
「なんで逃げたんだと思います?」
「自分で確認すればいいと思うのよね」
 気のないふりをしながらも、伊邪那の尻尾は揺れている。気が向いたら手伝ってくれるだろうと見当つけて、柚乃は杏仁豆腐の消えた先にと歩みだした。

「ともかくシヅー、一緒に探検しに行こう!」
「うん、シヅも探検に行くのー! 何かおいしい食べ物、あるといいなっ」
 決意新たに仕切りなおす。
「さっきの杏仁豆腐みたいなのは?」
「美味しそうだったけど、鳴いてたよ!?」
 ぷるぷるの見た目は、確かにつるりと喉ごしがよさそうだったけど。あの逃げ足をもつ何かは食べるのに勇気が必要すぎると思うしづるだった。

「お父さんたちに負けないような、すごい発見しちゃうんだ!」
 冒険家の娘リーズ(ic0959)はお弁当持参。これなら、途中で補給に戻らなくても時間をかけて散策ができる。
「準備万端っ、友達へのお土産も見つかると良いな♪」
 楽しい発見なら、話すだけでも面白いお土産になるはずだ。でも持って帰れる成果もあったら一番だと思うリーズだった。

●海は広いな楽しいな

 東の島に続く道はまだ見つかっていないが、必ずわたる手段はあるはずだと信じて進む。
 まずは北上。南北に長い湖を発見。その北西側には湖に沿うように山が連なり山岳を形成している。大きな滝もあるようで、近くを通るときはその音の勢いに圧倒された。
 滝を見つけたあたりで湖の東側に平野が広がる。ここで休憩所をつくるからと菫は仲間達に告げた。

「このあたりでいいかな?」
 菫が大きな荷物を下ろした。海岸から少し離れて平野が広がっているこの場所は、海を挟んで、東の島も視界に収めることができる立地だ。
「一休みできる場所をつくっておくね」
 そうして天幕を支度する菫。皆が戻ってくる頃合いで休憩所にできるようにとの配慮だ。七輪と玉蜀黍も近くに置いて。それでやっと肩の荷が下りる。
「すぐに食べるんじゃないの?」
 乗鞍 葵の言葉に、菫は笑って首を振る。
「それもいいけど。でもせっかくなら、楽しくすごしてちょっと疲れてから食べる方がもっと美味しいじゃない?」
「体に染み渡る、っていうやつ?」
「そうだよ。恵ちゃんも一緒に、遊ぼう!」
「菫ちゃんっ!?」
 葵に答えてから、それまでの道順を地図に書き込んでいた晶秀に向き直って再び抱き付く。
「お休みとって来いって言われたんでしょ? 遊ばなきゃ勿体ないよ!」
 水着持ってきてるんでしょ、着替えて遊ぼうと強引に急かし始めた。それくらいしないと晶秀も素直に頷かないので、強引なくらいがちょうどいい。
「氷だけは置いてってね」
 まくるはちゃっかり天幕の中。日陰で荷物番よろしく昼寝を決め込むようだ。

「海だー♪」
「夏だー♪」
「「ひゃわわぁ〜い!!」」
 アムルタート(ib6632)とサイが同じポーズで磯に向かって歓声をあげた。そっくり似た者同士の二人は、早速二人だけの簡易拠点を作り始める。
「泳いでもよかったんだけど、サイ小っちゃいから磯の方が流されないの! 私頭いい!」
 敷物を敷いて、パラソルをさして広げる。
「アム頭いいー!」
 荷物を敷物の上に置いて、飛ばないように抑える。
「「完成〜!!」」
 再び歓声。このポーズさっきも見たような?
 ひょいひょいっと服を脱いで、予め着ていた水着姿にそして駆けだした。
「「とっつげき〜!!」」

 6月に結婚したばかり、叢雲 怜(ib5488)と叢雲・なりな(ia7729)の新婚夫婦も水遊びを目的にやってきていた。
 勿論水着は準備済。怜はなりなの着替えが終わるのを待ちながら、何をして遊ぼうか計画を練っていた。なりなの水着がどんなものかの予想も一緒に。
「おまたせだよ♪」
 実際に見せるまでは内緒にしていたのだ。そわそわしつつも素直に待っている怜に、少しはにかみながら声をかけた。
「へへ、どうかな?」
 体の線を崩さないフィットさせたデザイン。スタイルの良さが際立って、さらに少し上目遣いのはにかむ表情の合体技だ。
(なりな、可愛くて眩しいの‥‥!)
「俺の奥さんは、素敵でドキドキしちゃうのです」
 真っ赤な顔で、でもなりなの顔を見つめて言うのだった。

「早速泳ぎたいところだけど、日焼けはお肌の敵だから日焼け止めは忘れずにっと♪」
 黒のレースもなまめかしい水着姿の御陰 桜(ib0271)は自分の美貌の維持に余念がない。
「久しぶりの水練ですから気を引き締めて頑張ります」
 桃は主の命を今か今かと待っている。きりっと落ち着いて待っているように見えて、尻尾は今にも振りたそうに耐えているところが可愛い。もふもふは正義。
「桜様、水練の前に準備運動です」
 体を温めてからだと張り切って走り出す桃を追いかける。波打ち際なので、波の中を通る時は水が大きく跳ね上がった。
 パシャッ!
「ヤったわね♪」
 もう十分だからと、そのまま水のかけっこにシフトする桜。桃もご機嫌な主につられて水を跳ねさせるために効果的な動きを模索し始めた。

●空から描いて

 ひみつやフレイヤの人魂、岳やスヴェイルに乗って空から見下ろしたりしながら、ふしぎの書く地図は埋められていく。まずは外形、次に大まかな地形、そして建物があるかどうか‥‥
 場所を確認し、地図に書き、また移動して、周囲を確認して。
(服装は水着‥‥ちょっとだけ、恥ずかしいですね)
 隣を歩くふしぎの様子を伺いながらリズレット(ic0804)は頬を染めた。
(‥‥水着、いつもポロリって‥‥ふしぎ様に見られてばかりのような‥‥)
 お決まりのように起こってしまう事件が思い起こされて、頬の赤みが徐々に顔全体、首にまで広がっていく。今はふしぎと恋人同士、共に居るのも女性ばかり。見られて大きく困るようなことはないのだけれど。そう思っていたら、丁度振り向いたふしぎと目があった。
「リズの水着、ほんと素敵だね」
 そういうふしぎも顔が赤い。
(やっぱり、恥ずかしい‥‥)
 その度に照れてしまうのは、慣れていない証拠だ。
「暑いの〜、でも楽しいの〜」
「あっこらプレシア、意味が違うのはわかるけれど、空気読みなさい」
 とてとて歩くプレシア・ベルティーニ(ib3541)の言葉が二人の間を流れていく。フレイヤの鋭い突っ込みがさらに追い打ち。こちらも姉妹のようにそっくりだ、行動が小動物系なのに出るとこ出ているプレシアが妹で、お目付け役のフレイヤが姉担当だけれど。
「そっそそそそんなんじゃ! みんなも水着、似合ってるよ!」
 慌てるふしぎは三人の水着を見比べる。確かに三者三様、それぞれ違う魅力を引き立てる装いだ。
「ありがとうございますねぇ」
 念のために周辺警戒でも、と殿を務めていた澤口 凪(ib8083)はのんびりとした様子で答えていた。
(目に毒じゃないですかねぇこれは)
 のんびりと団長殿についてまわるつもりでいたが、今のところ一番気になるのがリズお嬢のぴこぴこ動く猫耳なものだから、触りたい欲求を抑えるのが少し大変だったりする。照れながら、少し赤みがかった猫耳はちょっと貴重だ。

 カルマの背に乗り地上を見下ろしながら、ユウキ=アルセイフ(ib6332)は息をついた。
 この儀は、上空から見るとさらにその特殊性が際立っているように見えたからだ。
 龍達が空を舞っている。猛禽類も、爬虫類のような皮膚を持った生き物さえ空を飛んでいる。
(ここは確かに先日まで、嵐の中にあった‥‥はずだよな?)
 嵐こそが、この場所を隠す壁だったのではないか。仮説だけならいくらでも立てられるが、その答えを教えてくれる存在は見つかりそうになかった。

 光の翼を生やして、フェンリエッタ(ib0018)も儀の風を感じようと宙に浮かぶ。
(山岳、丘陵、平野に、湖と川に海。森と‥‥あれは密林?)
 小さな儀に、様々な地形がまるで寄せ植えのように集められている。
(どんな名前で呼ばれることになるのかしらね。調べれば、答えは見つかるかもしれないけど‥‥のんびり過ごしたいかな)
 人気のない湖岸に降り立ち、ブランスィーカに告げた。
「アスカ、後は自由に羽を伸ばしておいで」
 水面を歩けば、あたりは一面の青。空を歩いているのか、水中を歩いているのか。有るはずの足場は見えず、浮遊感がフェンリエッタを包んだ。

(一人で過ごしたそうだった、かな?)
 フェンが宙を飛んでいく様子を目で追いながら、アルマ・ムリフェイン(ib3629)は親友の心中を想う。のんびりすると言っていたから、日々全力で砕身している彼女にとって、この島が優しくあればいいと思う。
 今日は、新たな友人達と共に来ている。自分も楽しく過ごそうと、共に居る二人に笑顔を向けた。
「来る途中に実に美味そうな水饅頭を見かけたが、あれはいったいなんなんだろうな」
「涼しげな見た目なのはよかったなー、暑い分触ったら気持ちよさそー」
 尻尾を振り興味津々の紫ノ眼 恋(ic0281)に、ジャミール・ライル(ic0451)も首をかしげる。暑さにだれても仕草の色気は消えていない。
「小鳥の囀りで寄ってくるのかな、試してみる?」
 アルマが歌いだす。
 チチ‥‥にゃぁお。
 ゲコッ、キキー!
 キュキュキュ!
 ‥‥シュル。
 (^O^)ぴー!
(来た‥‥!)
「捕まえたらアルマ殿にもご馳走しよう!」
 即座に飛びかかる恋に驚き、種類も規則性も何もない小動物たちが驚く。勿論杏仁豆腐も例に漏れず逃走を図った。
「逃がしはしない!」
 刀を振り回しながら追いかけていく恋。
「わ。わ。待って恋ちゃん‥‥!」
「えっ走るの、さらに暑いーって待って二人とも!?」
 のどかに見えるがここは未開の地。一人で行かせるなどもってのほかとアルマが駆け出す。ジャミールは手を引かれてバランスを崩しながらも追いかけた。

●探求心

 親友で恋人同士。二つの関係を同居させている二人は揃って滑空艇で移動していく。目指すは勿論人気のないところだ。
「あの滝はどうじゃ」
 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)が示すのは200メートル以上もある非常に高い崖と滝。よく見れば流れ落ちる滝は途中で霧となっているほどの勢いだ。
「飛び込みとか、あれは流石に危ないよ?」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)の答えに首を振るリンスガルト。
「あれだけの勢いじゃから、音も大きいと思うのじゃ♪」
 どれだけ声をあげても紛れるぞとその赤い瞳が言っている。
(ずっとお預け食わせてたから暴走しそう♪ 何とかしないとね♪)
 最近会える時間が減ったせいか、寂しい時間を過ごしていたリンスガルトの意図にリィムナが気付かぬわけがなかった。

 湖の北端から先は河口で、すぐ傍は海。そして周囲の様子は急に変わり密林が待ち構えていた。
「こういう場所は何かあるってのが相場だけど、目的は東の島なんよね」
 出来れば地図も完成させたい。針野は涙をのんで密林を迂回することにする。
 密林から東北の方角にも山岳が連なっていた。その南側を進んでいく。
「橋さー!」
 西の島と東の島が最も近づく場所。そこで、ついに橋を見つけることができたのだった。

(もっと面白いもんがあるといいけどねぇ?)
 仲間達の様子を横目に凪は視線を走らせる。すると密林の方角から何かが聞こえたようで、つられるように凝視した。
 グルルルル‥‥
「居たぁ?」
 遠目にもわかる猫科の耳。頭をぐるりと囲うように生えた毛色の違う長い髪。尻尾の先も筆のよう。そして抱き付き甲斐のありそうなその大きさ!
「早速っ‥‥あれぇ?」
 ぷらーん。
 背中のあわせの部分、水着の端をうまい具合にひっかけられて。岳が凪の動きを止めた。
「岳ちゃん、ボクもやってやってー!」
 それを見てプレシアがねだる。新しい遊び、というわけではなかったような?

 リーズは川の上流に向かっていくルートを選んでいた。
(水はどんなものにも欠かせないものだって教えられてたからね、水飲み場になってる場所とか、もしかしたら遺跡とか昔のお家があるかもしれないし!)
 いくつかの川を見つけ、地図に書き込んでいく。
「やっぱり湖に繋がってるよね。一周したら、あの山を登っちゃおうかっ」
 棒を倒し倒れた方角を見上げる、視線の先にあるのは湖に流れ込む大きな滝だ。
 湖の西にある山を見上げて、その先で見つける何かを思い笑顔がさらに輝くのだった。

●水遊び

「たまにはこうやって息抜きするのもイイわよねぇ♪」
 一休みとばかりに全身の力を抜いて海辺に浮かぶ。同じように浮かぶのは柴わんこの体には難しいはずだが、桃も似た姿勢を保って桜の隣で浮いている。多分これも水練の一環にしているのだろう。
「桜様は息抜きの方が多いと思いますが?」
 言外で、もっと自らを鍛えたいとの意思表示。
(すきるまで使われるとついてけないしねぇ‥‥)
 桜自身は羽を伸ばしに、遊びに来ているのだ。それならこうすればいいじゃない、と一計を案じた。
「見ててあげるから行ってらっしゃい♪」

「見て見てなりな、色んなお魚さんが居て綺麗だよ♪」
 食べ物として見覚えのある魚に交じって、色鮮やかなものも泳いでいる。
「本当だ、これとかそれとか、どっちも怜の目みたいな綺麗な色」
「それじゃなりなの目みたいなコは‥‥あっ、待って〜♪」
 黒く光る鱗を持った魚を見つけて、そのまま泳いで追いかけていく怜。それを更に追いかけながら、なりなは思う。
(もう。あんまりほっとくと拗ねちゃうよ?)
 口には出さないけれど。何かに夢中になって置いていかれるのは前からあったし、そんな純真なところも好きだけれど、今はもう夫婦なんだし。
 でも、今の怜はなりなのために、なりなに見せようとして魚を追っているのもわかるわけで。
「なりな〜! 今、岩場に追い込んだからゆっくり見れそうなの!」
 早く早く、と手招きする笑顔の旦那様を見ていたら、そんなことはどうでもよくなってしまった。
(仕方ないかあ)
 だって、奥さんなんだから。

 杏仁豆腐を見つけるより前にジャミールが根を上げて、三人は海辺で小休止。
「海? って思ってたけど。ちょっとは悪くねぇかなー。アルカマルってあんまり海とか、ねぇし‥‥」」
 膝くらいまでを海水に漬けて、波が来たら逃げるを繰り返しながらおっかなびっくり楽しむジャミール。少し離れた場所の二人を見やる。
「アルマ殿、もっと潜ったりしないのか?」
「‥‥濡れたら、尻尾とかが」
 パシャッ!
 手入れが大変、と言おうとしたところで恋が放った水が遮る。波の端を歩くくらいで控えていたのに。
「せっかく来たのだから楽しまねば! ‥‥いや、これは足場の悪い場所での戦闘訓練、修行でもあるのだ」
 言葉が途切れたアルマの様子に我に返った恋だが、時すでに遅し。
 バシャバシャッ!
「あ、アルマ殿っ!?」
「こうなったら思いっきりやるよ? ねぇ、ジャミールちゃんも。暑くない?」
「俺は可愛い女の子が遊んでるの見てる方が楽し‥‥うわっ!?」
 バシャパシャバシャッ!!
 二人からの水攻撃に、ジャミールも参戦が決まったのだった。

「よぉーし、もう少しだよ! 準備はいい?」
 小魚を追い込むアムルタート。目指すは少し先で待ち構えているサイの居場所。
「うん♪ 私泳ぐ! それで捕まえる! このじまんのいっぴんで!!」
 すぐに狙えるよう水に浸かりながら、サイは妖精サイズのチビ銛を掲げた。帰るときに海に帰すので、先端は安全仕様の吸盤タイプ。たかが吸盤されど吸盤。相棒用武器を利用したそれはカニの甲羅だけでなく、魚だってくっつかせるのだ!
「いまだ!」
「えいっ!」
 シュバッと一突き‥‥一付き?
 サイが持ち上げた銛の先には、ぴちぴちと跳ねる小魚がくっついている。
「「とったどー!」」
 そうして獲った生き物は、水を張った桶の中に増えていくのだった。

 物陰で着替える時間だって大事なスキンシップの切っ掛けだ。スク水型の日焼け跡があるリィムナは、褌型の水着のおかげでバックが丸見え。
「リィムナ‥‥美味しそうな桃が丸見えじゃぞ♪」
 そこを逃すわけもなく、リンスの手がくるりと滑る。
「にゃっ♪ リンスちゃんだってTバックじゃん♪」
 ビキニも布面積は少ない。リィムナの手も滑る。
「ひゃっ! ‥‥ふふ、ゆくぞーっ!」
 しかしスイッチの入ったリンスはリィムナに向かって飛びかかって‥‥
(夜、発動っ♪)
 気付くと、リィムナの手により荒縄で緊縛されていた。
「‥‥何じゃこれはっ!?」
 突然の状況変化についていけないリンスガルトを、リィムナはさらに追い詰める。
 まずは執拗な擽り。そのあと湖の水で作り出した氷をつたわせ、リンスガルトの思考を奪う。
「ふひひひ!やめ‥‥冷たっ!」
 最後は白面式鬼で生み出したもう一人と共に、リンスの耳や足、二の腕や指の付け根などからはじめて、じわじわと全てに攻めこんでいく。
「んううっ2人がかりは反則なのじゃっ‥‥あにゃあああ!」
「んふふ、リンスちゃんの思ったとおりだったねー?」
「‥‥何がじゃ」
「声が紛れるってこと♪」
「うぅっ‥‥うむ、汝の言う通りじゃ‥‥」
「いやーリンスちゃん超興奮してたし。こうしないと大人しくならないかな、って♪」
 にんまりと笑顔を向けて、縄を解くとリンスに手を差し出した。
「‥‥ね、水遊びしよ?」
「そうじゃな。では遊ぼうかの♪」

●珍妙なケモノ?

 草を食む鹿。
 寝ていた梟。
 角のある馬。
 穴を掘る兎。
 ‥‥兎に心惹かれかけたサライだが、目的の豆腐をめざし駆け回った。
 ぷるんっ♪
 夜や早駆、手段を駆使したサライは丸いそれを抱き付き確保することに成功したのだった。
 (^O^)ぴーっ?
 改めてまじまじと観察する。丸いけれど確かに豆腐のような感触の推定ケモノらしい生き物。
「お菓子食べますか?」
 落ち着いた声で話しかければ、驚いていたそれも次第に落ち着いていったようで。
「サライきゅん、誘惑の唇いらないの〜?」
「大丈夫みたいです」
「じゃあサライきゅんにちゅ〜♪」
「これからこの子と遊ん‥‥レオナ!?」
 抵抗は成功したので、杏仁豆腐とは無事に遊べました。

 「・△・」ぴー?
 (^O^)ぴー♪ ぴーぴーぴー♪
 狐獣人姿になった柚乃が杏仁豆腐に歌いかける。四角いぷるぷるからは、柚乃が丸い杏仁豆腐に見えているはずだ。
 徐々に近寄ってくるその体に、ついに触れた。
 ぷにっ♪
 つるつるすべすべのぺったりとした感触。夏場の夜のお供に、一家に一匹いると便利そう♪
 「・△・」ぴぴー!
 逃げられてしまったが、報告に十分な情報は得られた。
(それにしても凄いですね)
 杏仁豆腐を探す間、柚乃と伊邪那は様々な動物を見てきたのだ。
 相棒としても見かける龍やミヅチ等はわかる。だが、まさかセイレーンのような妖精まで見かけることになるとは思っていなかった。嬉しい誤算というべきなのだろうか?

 地図も完成させたところで、改めて四人で地図を覗き込む。
「このしるしは〜?」
 東の島の北の方、入り江の近くに書き込まれた部分を指さすプレシア。そこは岳と一緒に飛んだ凪が見つけた場所だ。記憶を探る凪が答える。
「遠目に見た感じで、何かあった感じでしたねぇ」
「これから、確認しに行きますか‥‥?」
 恋人の手伝いがしたいリズレットが提案するけれど、ふしぎは少しだけ考えて、話を変えることにした。
「アヤカシはいないみたいだけど、何か変わった生き物は‥‥わぁ、みてみてあそこ!」
 「・△・」ぴっ♪
 ちょうど現れた四角いぷるぷるを指さす。
「豆腐〜、揚げておあげさんにする〜♪」
「プレシアっ、話の途中ですよ!?」
 駆けていくプレシアをフレイヤが追っていく。
「私も加勢しますかねぇ、岳、回り込んでっ!」
 凪も駆けていく。仲間たちの背を見送って、リズレットがふしぎの顔を見上げた。
「あ、あの、ふしぎ様! いいんですか‥‥?」
「また来る機会があるはずだし、地図はできたしね! 次の時でもいいかなって。それより今日はみんなと‥‥リズとの時間を大事にしたいかな」
「ふしぎ様‥‥」
 照れたように笑うふしぎと、それを見つめるリズレット。そっと顔が近づいて‥‥ぐいっ!
「ふしぎ兄、妾もいることを忘れないで欲しいのじゃ!」
 シャァー!
 スヴェイルもひみつに同意するように、一声鳴いた。

●やさしい時間

 空を飛んだせいだろうか、駿龍がユウキたちの様子をうかがってきていた。似ているけれど違うカルマが気になるようで、上空を旋回したかと思えば離れたところにわざとらしく着地、しかし近寄ろうとはせず顔だけをこちらに向けてくる。
「行っておいで」
 気もそぞろになったカルマにユウキが声をかけると、感謝とばかりに頷いてカルマは駿龍と交流に向かった。
(どうしようかな)
 手持無沙汰だなと視線を転じれば、興味津々とばかりにこちらをうかがう小さな、細長いリスに似たケモノと目があった。
「‥‥」
 小さく微笑んでみる。ごく間近で触れたその感触は温かかった。

 色鮮やかな魚を追いかけ潜った先に、フェンリエッタは硬質的な筒を見つける。それは透明で大きく、中に空気が入っても居るようで、水中に渡されているようだ。
(出入口がどこかに?)
 浮かび上がり、仰向けに漂いながら思案する。これだけの自然の中、邪魔をしないように、けれど当たり前のように存在する高度で人工的な仕掛け。
(人の手でつくれられた、箱庭みたいな‥‥)
 ゆるりと首を振る。今日はのんびりすると決めてきたのに。
 そうだ、友人はどうしているだろう、楽しんでいるのだろうか。
 吟遊詩人の友を真似るように、小さく紡ぎ始めた。

 止まり木の無い、雲の海を泳いでゆく
 その先の未知を、明日を手繰り寄せて
 翼を失くしたら、空へ還るさだめでも
 だけど心だけは、さいごまで、自由…

「あー‥‥まじ癒されー」
 日陰に腰を落ち着けて、ジャミールが二人の耳にもふもふと触れる。手触りの柔らかさもあるけれど。容赦のない日差しとは違う温かさは触れていると何とも言えない気持ちよさだ。
「もふもふする方も大概だろうが、される方も暑いのだと心得よ」
「じゃあ俺ももふもふしていいからさー」
「ジャミール殿の何をもふれと言うのかっ」
 払いのけるほどではないけれど、恋がすかさず後ずさってその手から逃げた。
「髪とかー? 確かに、こっちの夏はなんていうか、暑いよね」
 無理に追わずに、空いた手もアルマの耳に乗せる。
「俺のいた所も暑かったけど、なーんてゆうか、ぐったりー」
 冗談めかした口調にくすくすと笑って、アルマは団扇でそれぞれを扇いだ。
「恋ちゃんも暑いといけないから扇がないとね」
 尻尾をぱたぱたと動かし、ジャミールの反応を楽しむ。
「アルマ、それは反則ー」
 すかさずじゃれつくジャミールに更に笑みが深くなる。
「潮水のせいで少しごわついてるかもしれないけれどね」
「いやいや、結構なお手前でー」
 もふりもふられる二人を微笑ましく眺めてから、恋は改めて景色を見回した。
(‥‥新しい儀は美しいな)

「リンスちゃん、あーん♪」
「♪ ‥‥冷たいが、甘いのじゃ♪」
 たくさん遊んだあとは、用意してきた甘いシロップでかき氷。水遊びで疲れた体に、日差しで暖まった体に氷の冷たさと甘さが優しく広がる。
 ふいに二人の視線が合わさって、顔が近づいていく。
 ちゅっ。
「‥‥んっ」
 上ずった声に、リィムナがと笑った。
「シロップ味、だね♪」

 遊んではしゃいで、笑いあって。へにゃんと力が抜けた。陽の高さを見ればだいぶ時間が経っている。
「れーい♪ 疲れた?」
 後ろから抱きしめてくれるなりなに、思わず頬ずり。
 お日様ギラギラ。海水はひんやり。どっちも極端だけど‥‥なにより一番気持ちいいのは、奥さんの体温。そうだ、今は二人きりの時間なんだなあと目を伏せて、なりなの熱を感じる。
「ずっとこうしていたいなあ‥‥」
 ぽかりと浮かんだ言葉。それが自分の口からじゃなくて、大好きな奥さんの口から零れる。同じことを考えていたんだとわかって嬉しさが募る。きっと『二人で』ってところも同じはず。
「このままノンビリ、波間を揺蕩うのもいい気持ちなの‥‥♪」
 首だけで振り向いて、怜は顔を近づけていく。なりなも気付いて瞼を閉じた。

●夏の味覚でお疲れ様!

 特に時間を決めていたわけではないけれど、お腹をすかせた開拓者達がちらほらと集まってきていた。近くに居た者は醤油の香ばしい匂いに誘われて。遠くにいた者も、菫の話を覚えていたから。
 どうしても戻ってこれないものは、各自でお弁当なり補給の支度もしていたはずで、そこは大丈夫だろうと晶秀もあたりを付けて息をはく。
「たくさん用意したから、どんどん食べてね!」
 焼きたての玉蜀黍は熱いけれど、だからこそ甘味が強くて美味しくて。
「夏真っ盛り、満喫してる証明みたいな味よね」
 気を張らない緩んだ笑顔で、友人の張り切る様子を見ながら晶秀が呟いた。
(ここにいない二人は、何か面白い発見でもあったかしらね)

 湖は西の島の2割ほどを占める広さ、東の島は西の島の半分ほどの広さのようだ。東の島、その北西地点に辿り着き、改めて声が漏れる。こちらの島は全体が森のようになっているのだ。
「遠目に見ても木が多い思ってたけど、ここまで来ると圧巻なんよ」
 儀に降り立った最初の場所は、丘陵地帯だったおかげで見晴らしは悪くなかった。
 だがここは違う。密林ほどではないにしても木々が視界を邪魔しているのだ。
(全部を巡るのは難しいっかな)
 樹糖を見つけ、汲んでおいた水を飲みながら考える。針野は苦渋の決断として、東の島を南下し島の形を知ることを優先した。
 そして彼女は森の中で、ひとつの廃墟を発見する。木々に紛れているおかげで、空からは見えないその場所に。
「人が住んでたんかなァ‥‥詳しく調べたい、調べたいっけど」
 ここに来るまでに、既に一日費やしている。復路を考えると、戻る算段をつけなければいけなかった。

 滝口に近づいたところで、リーズはその気配に気づく。
(えっ、あの影‥‥大きくないっ!?)
 日差しのせいで直視できないはずの場所に、黒い大きな影がかかっている。
 次第に慣れてきた視界にうつったのは、翼の代わりに大きな鰭を持った、水に棲む龍だった。

 集まって、情報を照らし合わせてみた結果。
 他の儀に居る生き物はもちろん、妖精も存在しているらしい。
 この儀でしか見かけないような生物も生息していて、それらは地形に合わせある程度の棲み分けを互いに行っているらしい。
 水中の硬質的な、透明な筒。人が中を歩けるくらいの大きなそれは海、湖、川‥‥水中ならばそこらじゅうに存在していた。
 試しに、とある筒の方角からあたりを付けて全員で地上を探したところ、たくさんの木々や蔦草で隠された状態の出入口が見つかった。
 中に入って、水中から魚達を観察するための設備のようだった。

 このあたりでタイムオーバー。続きはまた、別の機会に?