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■オープニング本文 ●土用の丑の日 チリリン‥‥ 「すっかり夏なんですねぇ‥‥」 受付に訪れた三豊 矩亨(iz0068)に、晶秀 恵(iz0117)は氷を浮かべた冷茶をすすめた。氷を作れるというのは便利なもので、巫女でよかったと思う瞬間である。 (生活に潤いの出るスキルって本当いいわよね) 開拓者としての熟練度はあまり高くない晶秀だが、氷霊結くらいは修得している。むしろこういった使い勝手のいい術しか習得しない主義だった。 「ありがたくいただきます。‥‥苦味と冷たさが、この暑さに効きますね」 熱いお茶で暑気払いというのも悪くはないが、やはり体の中から冷たさを感じられると嬉しくなる。三豊はいつもの笑顔をさらに深くしていた。 「今日は開拓者向けの依頼でしょうか、それともまた氷が必要になりました?」 「先日は急な依頼でも引き受けていただいて、本当にお世話になりました。‥‥今日は、それとは別ですね」 氷霊結を専門にしている巫女が見つかるまでという話で、つい先日まで晶秀は三豊に個人的に雇われていたのだ。受付業務の合間に店に出向いて、氷を作るという程度ではあったけれど。 「夏ですから、氷菓子を始めるとでも言い出されるのかと」 「それも魅力的ですね! 店の者たちとで試しにやってみたら好評で‥‥こほん。今回はそういった事情ではなく、いえ近いような遠いような」 (やっぱりやったんだ‥‥) 三豊のことだから蜜も拘ったのだろう。晶秀としても気にはなるけれど、別の仕事だという話なので聞かないでおくことにした。 ●珍味? 「陸鰻というのをご存知ですか?」 「はい? オカウナギ?」 受付業務には必要だろうからと、アヤカシに関する知識はできるだけ集めている晶秀。だがそんなアヤカシは聞いたことがなかった。 顔に出てしまっていたようで、晶秀が疑問を口にする前に三豊が説明を始める。 「晶秀さんがご存じなくても無理はないかもしれません。アヤカシではなく、ケモノですから」 彼女の表情で察したのだろう、三豊は陸鰻の説明を始めた。 「この時期、雨と一緒に沼や湿地から出てくる大鰻の一種なのです。けれどケモノは天候が読めるわけではありません。ですからたまに、雨がやむと同時に地面に投げ出された状態になってしまう陸鰻が出てしまうといわけです」 「‥‥はあ、勉強になります」 妙に熱のこもった三豊の説明を不思議に思いながら、晶秀は覚えておこうと陸鰻についての情報を書き留めていた。 (でも、どうしてそんなケモノを?) 話の区切りがいいところで質問しようと思っていたが、それよりも先に、三豊が答えを告げた。 「非常に大きいのですが、鰻は鰻です」 うっとりとした視線がどこか遠くへと向かっている。 「えっ。まさか‥‥?」 アヤカシは倒すと消えてしまう。だが、ケモノはその体が骸として残る。 今は夏で、そして鰻の話。 「そのまさかです。食べられるのですよ、陸鰻は」 神楽の郊外からさらに外。建物もなく、普段であれば荒野として放置されているその場所は、格好の狩場として一部の食通には知られている。 近くの森にある沼に、件の陸鰻が棲んでいると言われているのだ。何年に一度という程度だが、確かに荒野に陸鰻が跳ねている目撃情報が出るのだそうで。 「大型生物って、浪漫だと思いませんか? 私は、これは滅多に食べられない珍味だと思うんです」 「は、はあ‥‥そうなんですか」 ここに、色の浪漫を語る男が一人。 「つい昨日、陸鰻が目撃されたらしいのです。今こちらにお願いすれば、沼に戻ってしまう前に間に合うと思うのです。ですから、どうか!」 三豊の目は『鰻!』『蒲焼!』などと雄弁に語っている。 「夏の味覚、その陸鰻を是非! 開拓者の皆様に狩ってきて頂きたいのです!」 「ええと‥‥では、倒した陸鰻を神楽まで運んできてほしい、というご依頼ですね」 「はい。うちの店、結婚式場を神楽の郊外に建てましたでしょう? そこまで運んでいただければ、私どもの方で調理をさせていただきます。そして是非、開拓者の皆様にも食べていただければと思っております。かなり大きいですからね、うちの店の者達で食べても有り余るくらいの量になると思います」 いろいろな鰻料理ができるはずですよ、勿論米飯や付け合わせる野菜類もご用意いたします‥‥などと楽しげな様子に、晶秀も食べてみたいと思いながら依頼書の作成に取り掛かる。 「小さい個体でも、10m‥‥確かに大きいですね」 「ええ、お土産などで包まないと消費できますかどうか。新鮮なうちが美味しいですからね」 「そうですね‥‥では、お食事の際は他にも人が呼べるように手配しておきましょうか?」 勿体ないことをするよりはいいだろうとの提案に、三豊は快く頷いた。 「それは願ったりです、どうぞよろしくお願いいたしますね」 |
■参加者一覧
斑鳩(ia1002)
19歳・女・巫
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ティアラ(ib3826)
22歳・女・砲
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●準備万端狩りに行け! 「大きな鰻ですね」 薔薇の葬列を操りながら、Kyrie(ib5916)は眼下で蠢く陸鰻を観察していた。 (生態は大砂蟲に近い様ですが。手早く仕留めましょう) 仕掛けるタイミングを計るため、鰻の頭の向きを追おうと意識を改めた。 「二匹ですか、これはまた神のお告げとはいえ、見た目が何ともアレですね」 荒野に居たのは二匹、それらが互いに絡み合ってぬるぬるしている。一匹ならば沼に帰れたのかもしれないが、二匹いたことが逆に仇となったらしい。 ケルプと同化して宙に浮かび上がりながら、エルディン・バウアー(ib0066)は喪越(ia1670)を振り返る。 「ご所望のぬるぬるですよ」 水着姿の婚約者に早く服を着せてしまいたいエルディンである。不埒な目は減らしたいのだ。自分だってドキドキクラクラしているというのに! エルディンの気迫を感じ取ったのか、鰻達が空中の彼に頭を向けた。 蔦が鰻達に絡まっていく。二匹が互いに絡み合っているおかげで、本来であれば一匹だけに作用するはずがもう一方にも効果をもたらしたようである。 「もっと見た目麗しいセニョリータ達を是非! サービスカット的な意味合いで!!」 蔦でデコレーションされていく鰻を見ていた喪越から上がるのは悲痛な叫び。この言葉で、女性陣が数歩後ろに下がったのは気のせいじゃない。 「潮水かけたらメスになるかもよ?」 喪越の叫びに動じなかった叢雲・暁(ia5363)が手裏剣を投げながら指摘する。鰻は雌雄同体、環境によってその性を変える生き物だ。海に下ってから性転換する個体が多いらしいのでもしかしたら? 「塩は持ってきていません。残念でしたね」 華やかな鈴の音を閃かせて舞い術を発動させた斑鳩(ia1002)は、言葉だけを投げかけた。鰻肉を持ち運ぶため氷が必要だからと、開拓者達は水を用意してきている。塩があれば試せるかもしれないが、そんなことのために貴重な水は使えない。 それはともかく、大抵の鰻はオスであるという事実が明らかになった。つまり、オスが二匹ぬるぬる絡み合っているんですね。 「そっちの趣味に目覚める気はねぇし!? ハイヨー、カトリーヌ!」 少し想像してしまったらしい。首を振った喪越がこの物足りなさを鰻にぶつけるとばかりに篭手を掲げる。発動した術は傍目には何が起きているかわからない。だが鰻達はのたうち回ろうと身をくねらせ‥‥更に絡まった。 鰻の頭の、一方が視界をちらつくエルディンに口を開けて向かおうとしている。体格に似合いで直径も1mほどある大口だ。 (普通の鰻の33倍以上の長さ‥‥と言う事は重さも) 事前に計算もしていた戸隠 菫(ib9794)だが、その大きく開かれた口を見て改めて身を震わせる。鋭い牙は無いだろうが、はたから見てもこの迫力だ、エルディンからはもっと恐ろしい光景なのではと思う。 「神父様!」 菫と斑鳩の背に隠れるような位置から飛び出し、ティアラ(ib3826)が銃を構える。愛する人のピンチとあっては黙ってなど居られない。艶やかな赤の水着をさらけ出しつつ狙撃する。 「あなたの相手はこっちなんだよ!」 もう一方の頭はフレス(ib6696)が引き付けていた。ぬるぬるの体は斬りつけにくいが、意識を向けさせるために仕掛けた攻撃程度なら、あとで肉を切り分ける時に調整は効く。近づいた頭部の中でも特に弱い部分、目に素早くナイフを突き立てた。 「頭、狙わないとね!」 菫も瞑想し、火炎の幻影を鰻の頭に打ち込む。 「止めはお任せを。‥‥皆さん、泥の跳ねには注意してください」 二匹とも弱っているのは明白で、頭はそれぞれ別の場所を向いている。Kyrieは好機とばかりに、持っていた呪本を抱えなおす。 一匹ずつ順番に。体を大きくびくりと震わせた後、力が抜けたように倒れこんだ。 ●切って運ぶよ速やかに 泥嵐を披露できずに仕留められてしまった陸鰻だが、倒れこんだ際に開拓者達に泥をかけることでささやかにだが報いることに成功していた。 まだ運搬作業も残っているのだが、それどころではない者が二人。 「ティアラ、さっきまで着ていたカソックはどこですか! というか、なぜそのような格好を!」 「その、泥で汚れてしまうのは主に申し訳ありませんから‥‥」 まさか『陸』鰻だと認識していなかったせいで水着になったなどと口にはできないティアラである。口ごもり縮こまるその様子に時間が惜しいからと、エルディンは荷車の端に畳んでおかれていたカソックを手に取り戻ってくる。 (おお、神は私にどうしてこのような試練を与えるのですか!) 普段は財布の紐も堅いティアラの恥じらう様子が悩ましい。水着の赤さに負けないその頬の紅潮といったら目に毒‥‥今はそれどころではなくて! 「主の御心を慮る態度は素晴らしいと言いたいところですが、早くこれを着てください! 後から丁寧な洗濯をすれば、神も許してくださいますよ」 こうしてエルディンは婚約者の素肌を隠すことに成功するのだった。 「はらわたが一番に痛むもの。だから、はらわたを抜いてから‥‥」 「特に肝は食べられますから大事ですね。なるべく損なわないようにしたいところです」 Kyrieの提案にも頷きつつ、途中まで言葉にしたところで一度口をつぐんだ菫。目の前には絡み合ったままの鰻が二匹。 「‥‥とりあえず、運びやすい長さに切っていけば勝手に解けるよね」 傷まないうちに行動するのが吉である。薙刀を構えなおして取り掛かっていく。輸送担当でもある鞍馬は、食べ応えのある生肉を前にそわそわしている様子を見せつつも待機中だ。 白のブルキニ姿に着替えたKyrieは率先してはらわたを抜きにかかっている。切り離した身からかき出し、自分でも用意していた樽に氷水と一緒に入れて冷やしていく。 (二匹とは好都合でしたね) 単純計算で二倍になったのだから、肝吸いを楽しみにしている彼にとっては嬉しい誤算だ。大盤振る舞いで氷を作り、早速薔薇の葬列に積み込む。練力の回復もできる彼にしてみれば消耗はあまり意味がないのだった。 「夏の鰻は冬の鰻に比べて脂が少ないんだけど、それはそれ! 季節ものは季節に食べると味があるからね〜」 暁はむしろを広げる作業を手伝っている。 「鰻の旬は冬ですが、夏の鰻も悪くはありませんね」 頷きながら、むしろで包んだ鰻肉に水をかけ、凍らせていく斑鳩。数回に分けてやっとひと塊が氷を覆えるくらい。まだ鮟鱇よりも大きいが、運ぶのは龍達なので問題はない。届けてから改めて切り分ければいいのだ。 「冬にも出てくるならいいんだけどね〜」 この肉厚なカラダで更に脂が乗っていたらもっと良さそうだと思う暁である。鰻肉の切り口から見える感じでは。普通の鰻と似ているような感じがした。 「冬にこれを食べようと思ったら‥‥面倒なことになりそうですね」 試しに斑鳩は想像してみた。輸送の手間は減りそうだが、寒い時期に沼地で、自由自在に動きまわる陸鰻との戦闘は面倒なことになりそうだ。そもそもどうやっておびき寄せればいいのか、釣れるのか? 「珍味というのも頷けますね」 これは是非ともご相伴にあずからねばなるまい。 龍達が運びやすいよう縄を調整しながら、早くも鰻料理を思って鼻歌が聞こえてくる。 「やっぱ暑い夏はスタミナのつく料理が一番なんだよ!」 普通の鰻はスタミナ料理として知られてるんだし、陸鰻もきっとそうに違いないとフレスは思う。 「ファナ、運ぶののお手伝い宜しく頼むんだよ?」 戦闘も終わっている。ファナはフレスが危険に及ばぬ願いならば叶えてくれる。 「鰻なぁ。やっぱこの時期は外せねぇよなー」 鰻南蛮蕎麦とか、俺の屋台にも導入したいところだけどと思案してみる。 「‥‥怨霊じみた式で仕留めた鰻を食べるってぇのは、イメージ的にどうなんだとも思うけれども、そこはほれ、黙っとけばバレねぇだろ」 関係ないことを思い出してしまった。とりあえず鰻肉そのものに影響ないのは事実だし問題ナッシン♪ ●願って出てくる鰻料理 「皆さんお疲れ様です。泥や血を落とす支度と着替えも用意してありますから、そちらもご利用くださいね」 開拓者達三豊 矩亨(iz0068)が出迎える。店で扱っているものなので古着なのはご勘弁くださいと言いながら出してきたのは、8名それぞれに見立てた柄の浴衣である。 「お料理は準備をはじめておりますから、お仕度出来次第庭園に出てくださいね」 脱いだ服も皆さんさえよければ泥落としと血抜き含めて急ぎ仕上げますとの申し出。天気も悪くないから日の高いうちに元の服も乾くことだろう。 (((そういえば古物屋だった))) いつも料理の話ばかりしている印象が強いこの男、元は古着を主軸に据えた古物屋だった。 「まだ大きいし、調理しやすい大きさに切り分けるね」 「捌く様子を見せてもらっても? 手伝いも雑務ならできますし」 巨大だから包丁だと難しいはず。身支度はその後と申し出る菫や斑鳩に破顔する三豊。 「それは非常に助かります、ありがとうございます」 二匹分の鰻肉は本当に大量なのだから。 ピストン輸送の甲斐もあり、はじめのうちに届けられていた肝や鰻肉は既に捌かれている。後に届けられたものはまだ捌ききれていないので、斑鳩はそれを見学しながら使用済の道具を洗うことに精を出す。 菫が切り分けるのとは別の塊を前に包丁を構える様子を見ながら、視線を向けた。 (あれだけ大きいと捌き方も気になりますね) 頭や肝以外のはらわたは、荒野ですでに焼却処分済み。留め置きにくいはずの大きな鰻は玄人でも苦労する代物だろう。 鰻肉の端に大きな釘を刺して留め、肉の崩れる様子も厭わず鰻の背側から刃を入れる。泰国の幅の広い包丁が使っているがそれでも小ぶりに見えた。 半身だけでも大きい。数人がかりで持ち出し、洗い場で血を洗い流す。 背骨の下も刃を入れて、残りの半身も切り離せば鰻の三枚おろしが完成した。 釘を刺して崩れた部分を切り離し、骨と一緒に別の桶へ。骨に残った身と、身崩れの肉をは纏めて叩くようだ。 素の味が楽しめる白焼き。 特製タレを存分にしみこませた蒲焼。 定番として外せない鰻重。 様々な薬味で楽しむひつまぶし。 食べやすさ重視のうまき。 切り分けられた骨のから揚げ。 酢の香りが爽やかなうざく。 食べ応えもある肝が入った肝吸い。 叩き込んだ薬味の香りも豊かなつみれ汁。 薬味も葱、山葵、梅肉、とろろと希望があった物の他、大根おろしや玉葱の薄切りなども揃っていた。 朝に取ってきたばかりで井戸水で冷やしておいた野菜と、香の物。 忘れてはならない白い飯。 焼き物は、じっくりしあげた半身まるごとの相棒用と、切り分けてから仕上げた人用と分かれている。 今もまだ、焼き続けられている蒲焼。その香りが漂い皆の食欲をそそる。半身焼きは特に見応えもあった。 「おかわりもできますから、お腹いっぱい食べてくださいね!」 三豊をはじめ、調理に携わっていた従業員達の口の端には蒲焼のタレらしき茶色が既に見えていた。 ●夏と言ったらこの味? 「大丈夫です。これでも大食いが特技ですから。何人前だろうと残さず食べきる所存です!」 言葉通りに箸を進めていく斑鳩。あまりにもリズミカルに彼女の体内へと消えていく食べ物の量とその速さのせいか、彼女のまわりだけわんこ蕎麦大会のようになっている。給仕の従業員もどんどん必死の形相になっていった。なおかつぶしも主に似て大食い‥‥いや龍なので胃袋は大きくて当たり前。斑鳩が龍並に食べている、なんていう事はないはず? まずは素の味を、と塩だけで白焼きを楽しむ暁。口の中に広がるのは、大味。脂控えめの良く締まった肉は、大きい分味も豪快である。 白焼きを乗せた白飯を食べるハスキー君にはそれが好評の様子。 身をほぐして、梅肉と葱であえてご飯にかける。味を足すと食べやすさが増した。 「そして蒲焼きをオーダーするのはこれからだ! 食うぜ〜! タレが更に美味くなるまで食うぜ〜〜!」 蒲焼はタレのおかげか繊細さが足されていた。うん、悪くない。 「肝吸いを合間に頂いたりもしながら食うぜ〜〜〜〜!」 「骨のから揚げは無理かと思っていたけどねぇ」 予想外に並んだ一品に、喪越が手を伸ばす。 「柔らかい骨もありましたから、刃を入れて揚げてみました」 味が物足りなければ、岩塩で作った山椒塩も用意していますよと差し出される。 「その小瓶にも、後で岩塩をお分けいたしますね。ですが、タレのお持ち帰りはご法度ですよ?」 志体がなくとも、商売人の目は誤魔化せない様である。 こだわりの食べ方を考えた菫は、熱した石の丼にご飯を盛っていた。タレと刻んだ蒲焼、山葵に葱を乗せてさっぱりと食べる。少し減ったところでとろろをかけて食べてみる‥‥なかなかあう。 「出汁もいいけど、昆布茶のお茶漬もいいよね」 言葉通りに昆布茶をかけて、最後はさらっと流しこむ。 (これって冷麺でもいいかも?) お土産で蒲焼を分けてもらって、家でやってみようかな? 蒲焼等は控えめに、待ち遠しくしていた肝吸いを重点的におかわりしていくKyrie。 「何杯でも頂けますね」 ここでしか楽しめないと思えばこそだったのだが。気付いた三豊が声をかけた。 「湯引きした肝はまだありますし、お土産に包みましょうか?」 吸い物としての仕上げは奥様にお願いしてくださいね。 ひつまぶしの薬味を色々と試しながら、フレスは帰ってからのことを考えていた。 (旦那さまも美味しいって言ってくれるかな?) 二人で囲む食卓。大好きな旦那さまと向かい合って笑いあって食べる、夏の味覚。 「大好きな人と一緒に食べる美味しい物って何倍も美味しく感じられるんだよね!」 その台詞を聞いた従業員達が、フレスに持たせるお土産をこっそり二人分にしたという話。 「普通の鰻は食べたことがありますが。これは鰻でもあり陸鰻でもある味なんでしょうかね」 烏賊と蛍烏賊の違いとか、仲間だけど違う感じをうまく表す表現が見つからない。ともあれエルディンとしては美味しいと思える味だったようだ。 (出先でおすそ分けされたのでしょう、きっと) どこかで自腹を切ってきたということはないだろうとティアラは神父様を信じることにする。ともあれ自分も食べようとと手を合わせた。 「ではいただきますにゃ」 大きくて規格外すぎるけれど高級食材のはずだし魚類だし。猫族としては気分が上ずってしまうのは仕方ない。 照れて耳が少し赤くなった耳を婚約者に見つめられながら、ティアラもパトリック、ケルプと共に美味しく食べたようである。 「あ、お土産はあればあるだけ頂いていきますので」 教会関係者は配る相手に事欠かない。 希望の品以外の料理も何やかやとお土産に持たされて、大量の鰻は無駄にすることなく食べきるめどがついたようである。 |