【殲魔】与えるよろこび
マスター名:石田牧場
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/01 00:06



■オープニング本文

●風雲の調べ

 ギルド長大伴定家の机の上に積み上げられた文は、冥越解放に向けた布石として展開された作戦についての報告書である。喜ばしいことに作戦の多くは概ね順調に進んでいるというのだが、しかし。
「アヤカシに不穏な動きあり」
 報告に訪れた職員たちが、新たな報告書を取り出し、大伴の顔をじっと見やった。
「アヤカシが、不穏でない動きを見せたことがあるかの?」
「お戯れを……これをご覧下さい。各地で我々の動きに呼応しています」
 職員が懐から取り出した懐紙を開く。
 ここからは慎重に対策を講じなければならない。これらの報告書も、数名で手分けして情報の秘匿に努め、アヤカシに悟られぬようその影を警戒してのことである。
「うむ、ならばこちらも、次の一手を打たねばなるまい。開拓者たちには密かに連絡を取るのじゃ。アヤカシに後の先を取られてはならぬ。よいか、ゆめゆめ慎重にの……」
 柔和な顔に、深くしわが刻まれた。
 それから数刻後のこと。冥越での前哨戦となる依頼が数多張り出された、神楽のギルド。自らの力を振るうべき場を求めて依頼を眺めていたあなたに、見知った依頼調役が接触してきた。依頼をお探しであれば、どうでしょう、あちらの個室でじっくり検討なさいませんか――

●あやしの姿

 場所は天義東北部、魔の森からはさほど遠くない山間部だと言われています。
 小さな村に住まうのは、そう多くない数の人々。集落に住まう者は皆、全員の顔を知っている。それくらい密接に肩身を寄せあって、細々と暮らしておりました。
 その村から続く道を、歩いて行く男が一人。男は大きな町へと物資を買いに、これから出かけるところだったのです。
「もし、そこの方ぁ?」
 しばらく歩いた先で、聞き覚えのない女の声に呼び止められました。傘を被った女の顔は、俯いているのでしょうか、よく見えません。
「なんだ、道案内はいらないだろう? 道沿いに行けば迷う事は無いんだからな」
 山間部とはいえ、人が何度も通る道です。獣道よりははっきりした、踏み固められた道がそこにあります。しばらく続くのは一本道。男の言う通り、迷うようなことは無いでしょう。
 ただ、気になることがひとつ。女がどうも軽装で、ひとり旅に見える事でした。
(物騒だな)
 男だって悪人ではありません、念のためにと教えてやることにしたようです。
「疲れているんだったら、この先にある村に寄っていけばいいだろう」
「ありがとうございますねぇ」
 笑みを浮かべたような声が返ってきた事を確認すると、男は女に背を向けました。甘えるような声を向けられるのに慣れていない男は、居てもたっても居られず、早くこの場から立ち去ってしまいたいと思っているのでした。
「でもぉ‥‥わたしぃ」
 しゅるり、と背後から聞こえる衣擦れの音に、男は耳まで赤くなりました。村人だって男です、この会話の流れ、そしてこの音。期待してもおかしくありません。
 ここが屋外だとか、周りが木々に囲まれているとかそういう事より、なにより今は男と女の二人だけ。邪魔が入る様子はないのです。ならば大事なのは相手とのまぐ‥‥触れ合いに決まっています。責任だったら後で取ればいいのです。男は丁度独身なのです。
 期待に胸を弾ませ振り向く男の目の前に、現れた肢体は悪くないバランスでした。
「貴方が相手してくれるならぁ、それで疲れも吹っ飛んじゃいますよぉ!」
「え、え、ええぇぇぇぇぇえ!?」
 男は叫び声をあげてしまいました。
 体の線を隠さない上に、太ももまで露わになった露出の高いみっちりした素材の服。これは趣味の問題でしょうが、嫌いな人は少ないでしょう。
 手には鞭。護身用だと言われれば、納得する人はいるでしょう。
 そして顔‥‥女の顔は、甲殻に覆われていていました。虫の体を覆っているつやぴかした感じのあれです。おかげで、顔の造作はほとんど分かりません。何処から声が出ているのか、考えてはいけないレベルです。
 更に後頭部には二対の翅が生えていました。時折動いているところを見る限り、偽のかぶり物ではないようです。本物の、例えるなら蜂のような翅。
 翅が動いて、女はふわりと浮かびあがりました。鞭も地面にピシィと当てて、こちらを牽制しているような気がします。
「お、おま、お前‥‥アヤカシ‥‥っ!?」
「そんなことよりぃ、遊んでくださいよぉ。仲間も待ってますからねぇ!」
 じり、じり。男の顔も今では真っ青。なんとか逃げる隙を作ろうと、必死に言葉を探します。しかし言葉は出ないまま。ただ、口をパクパク開け閉めするくらいしかできませんでした。
「うふふふふふふふっ、貴方はぁ、どんな声で鳴いてくれますかぁ?」
 ピシィッ‥‥!
 アヤカシの鞭が、男を捕まえようとしなりました。
「ひ、ひええええぇぇぇっ!」
 地面を打ち叩く音を合図に、男は街の方へと駆けだしました。いくら村が近くとも、村に戻っても開拓者の助けは呼べないのです。このまま街に向かって行って、無事に辿りついたなら‥‥急いで助けを手配できたなら‥‥一縷の望みにかけて、男は全速力で走ったのです。

 結果を言ってしまうなら、彼は助けを呼ぶことに成功しました。その時の第一声は、こうだったということです。
「俺、このままじゃ危ないモンに目覚めて最期になっちまう!」
 緊迫感に欠ける叫び声ですが、必死なのは伝わっていると思います。


■参加者一覧
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
鎌苅 冬馬(ic0729
20歳・男・志
サライ・バトゥール(ic1447
12歳・男・シ


■リプレイ本文

●前置き

 この報告書には青少年の教育によろしくない表現が含まれています。
 閲覧時は周囲に気を配り、音読は避けるようご協力をお願いします。
 新たな道への一歩を踏み出されましても、責任を負いかねますのでご了承ください。

●尖兵は妹達

「もし、お兄さん達ぃ? お願いがあるんですぅ」
 甘えたような声に呼び止められて、振り返ったのは4人の開拓者達でした。
「むっ、女?」
 はじめに答えたのはラグナ・グラウシード(ib8459)で、傘を目深にかぶった二人の女の胸元を遠慮なく凝視しています。
「‥‥俺達に何か用か?」
 値踏みするラグナの視線を遮るように、鎌苅 冬馬(ic0729)が身を乗り出しました。その紳士的に気を使う冬馬の両側へと寄りそう女達。両側からむぎゅっと当たってます。
(作戦だから仕方ない‥‥)
 思った以上に柔らかい感触に、冬馬の動きがぎくしゃくしはじめました。それに気を良くしたのか、女達は更にぎゅっぎゅっむぎゅう。
「あたし達ぃ、遊び相手が欲しいんですよぉ」
「そ、それって‥‥」
「どんな遊び? 教えて欲しいな」
 期待と熱のこもった目をしたサライ(ic1447)と、興味深々と言った顔の戸隠 菫(ib9794)が女達の前へと回りました。菫は髪を纏めて男に見えるよう装っています。
「その、どのようなことか、詳しくっ」
 身を乗り出すサライの勢いは普通の人ならたじろいでもおかしくないのですが、女達は嬉しくなったようです。冬馬の腕を離し、サライにその身を寄せようとして‥‥
 バサッ!
「きゃぁ!? なんですぅ?」
 開拓者達がその場からとびすさると、網が飛んできました。三人が女達の気を引いている間にラグナが準備していたのです。死角からにも関わらず女達は素早く動き、網にかかったのは片方だけでした。
「何するんですのぉ。手荒な真似は嫌ですのぉ」
「惚けても無駄だ! 蜂なんて頼まれたってお断りだ、なあうさみたん」
 勝ち誇ったラグナの視線の先には、笠が外れ甲殻の頭が露わになった女改め蜂女郎の姿。このつやぴか頭、近くで見ると結構気持ち悪いのです。そして特徴的なのは複眼。覗き込むと自分がいっぱい映り込んで自己崩壊しそうな勢いです。
「男ってこういうの好き‥‥と、言い切れないわね、これじゃあ」
 雑木林に身を隠していたユリア・ヴァル(ia9996)が、すぐ近くに他の敵が居ない事を確認して合流しました。網を避けようとする瞬発的な身のこなしを見るに、早く倒してしまった方がよさそうだと判断したのです。
「貴女も正体を見せたらどうですか」
 矢を番え狙いを定める篠崎早矢(ic0072)の声に、網から逃れた女も笠と着物を脱ぎ捨てました。携えた鞭を見た途端早矢の表情が緩んだような。気のせいでしょうか。

「そんな面で男が落ちるかぁ!」
「お前達のいう『遊び』にも、そしてアヤカシ、お前にも興味はない」
 飛ばぬうちにと、炎の色を帯びた魔剣が二振り蜂女郎へと振るわれます。
「助けてっ! 御姉様ぁーっ!!」
 開拓者達に囲まれはしましたが、上空はあいています。蜂は悲鳴と共に飛び立ちました。すぐに高度があがっていきます。
「‥‥仕方ないわ。貴女を痛めつけて、巣なり仲間の居場所なり教えてもらいましょうか」
「まだ私の弓ならまだ届きます!」
 すぐに切り替えるユリアと、蜂の背に追いすがる早矢。
「させませんのぉ!」
 ヒュンッ!
 残された蜂も黙ってはいませんでした。鞭は無理でもこれならと、網の隙間から針を早矢に飛ばします。
「これは‥‥毒?」
 傷口からじわりと染み込むような感覚が惑わせたのか、早矢の一撃は飛び去った蜂を仕留めることができませんでした。消えて行った方角から、じきに御姉様‥‥仲間達がやってくるのでしょう。
「向こうから来るというなら都合がいい。アヤカシに情けを掛ける理由等も無いし、直ぐに消えて貰おう」
「貴方達なんかぁ、御姉様に遊び殺されてしまえばいいんですぅ」
「そんなことはさせません」
 貴女は先にさようなら。形勢逆転があるわけもなく、恨み言を残してその蜂は消えていくのでした。

●反撃の姉達

 ブブブブブブブブブーン
「御姉様、あいつらですぅ」
「末が居らぬではないか」
 先ほどにも聞いた声のほかに、偉そうな別の声が聞こえてきます。
「10匹か」
「大きな針‥‥槍みたいな武器を持ってるのも居るみたい」
 菫の言葉通り、大きな針を手に向かってくる蜂が彼女達の半数を占めていました。蜂のおしりにある針を大きくしたような感じです。
「あの針もまた毒があるかもしれません」
 ユリアに解毒してもらった早矢の言葉に開拓者達もそれぞれ武器を構えました。

「妾の仕置きが欲しいようだの。妹達よ!」
「「「わかってますのぉ、御姉様ぁ」」」
 雑木林を生かして有利に立ち回ろうとする蜂達。御姉様と呼ばれる鞭持ちの蜂が指揮をとっているのは明白です。
 ビシピシビシビシィピシィィ!
 女王の鞭が雑木の隙を上手く縫うように開拓者達に襲い掛かりました。その素早い鞭さばきは木々の間を鞭がすり抜けたのかと思うほどで、鞭をふるわれた開拓者達は思う様に動くのが難しくなったように感じます。
「えすえむな上に姉妹の契りとは、このアヤカシ達わかってますね」
 一人射程外で鞭から免れた早矢は別の何かに頷いていました。

「弓と、男を特に狙いや」
 ヒュヒュヒュンッ
 一斉に放たれる毒針の雨。接近戦を避け、少しずつ削るような戦い方をする蜂達の近くに行こうと、サライはずいと前に進み出て行きます。
(これくらいの痛み、耐えるくらいわけありませんよ)
 師匠の教えを胸に進む顔は、内心とは別にとろけるような笑み。
「ああああっー! 痛いようっ。でもなんだか体が熱く‥‥っ」
 恍惚とした顔で向かってくる姿に、蜂達は遊び相手が来たと思ったようです。その隙を逃すはずがありません。
「‥‥熱くさせてくれた分、本気でいきますよ?」
 鳥の羽根が蜂達の死角に舞い、羽根と共に一匹が消えて行きました。

「大丈夫? 今回復するからね」
 全員が毒にむしばまれる中、特に傷を多く負ったのは冬馬でした。蜂達がラグナより冬馬が好みだという表れなのかもしれません。ちなみにサライは自ら蜂に近寄って行ったので選外です。
「そういえば私、あまり針を受けて無いよね?」
 回復の合間に浮かんだ疑問は、意識せずに菫の口からこぼれます。
「そのなりでも女であろ」
 胸の下で腕を組む女王蜂。ふふんと勝ち誇った笑いとその自信はたわわな果実のせいでしょうか。
「へー‥‥」
 プツンと切れた音が聞こえたような。菫は和装だから目立たないだけですよ、ね?

(先に解毒する手もあるけど)
 一人ひとり解毒しても、敵が再び仕掛けて来るなら数が多い蜂達が有利です。長期戦になれば話は別ですが、早く倒して後からゆっくり回復する方が手間は少ないと見て、ユリアは戦舞布を構えます。
「また飛んで逃げられては面倒よね」
 小さく笑って、近くの蜂を絡め取りました。
「たまには縛る方じゃなくて、縛られる方はいかが? 新しい道が開けるかもしれないわよ」
 くすくす、余った布をぴんと張って、笑顔を向けて。戦場にもう一人女王が居たようです。
「御姉様よりいいかもぉ‥‥あぁっ」
 締め具合か笑顔の凄みか、本当に目覚めたようですよ。
「誰か!」
「わかっているっ」
 冬馬が叩きこんだ剣戟で消えていく蜂。見出した新たな道はほんの数秒の世界だったようです。

「はっ! どうした? これしきの力で、私の守りをくつがえせなどしないぞ!」
 女王を見据えて叫ぶのはラグナでした。司令塔を早めに崩すのが一番と考えているようで、しきりに挑発しています。
「蜂が女郎などと、たわけたことを! そんななりで、どこの男が引っ掛かるものか!」
「胸元を凝視しておったと聞いたがの」
「それはそれ、だが顔は好かん!」
 つやぴか甲殻の部分が、兜みたいに脱げて美人だったら好みだったりするのでしょうか。
「顔も体もつまらぬ男はいらぬ。妾の方から願い下げや、出直しや」
「さっきから口ばっかりでぇ動かないとかぁ、いらないぃ」
 女王はなかなか前に出てこない上、蜂達の方からお断りまでされてしまいました。能力調査の為にと、攻撃しないで耐えていただけなのにあんまりです。
「ぐぬぬ。後で後悔させてやる、泣いても許してやらないからな!」
 アヤカシ退治のはずですが、会話だけ聞いていると‥‥いえ、なんでもありません。

 早矢の弓から放たれた矢が乱れ降り、雑木林のあちらこちらに散らばった蜂達を射抜きます。後衛として下がっていたおかげで仲間達は射程外、心置きなく乱射できるこの好機を生かさない手はありません。
(弓の私も狙っているそうですよ)
 狙いを定めなくて構わない技だからこそ、心は先ほどの女王蜂の言葉を繰り返していました。
(私を、あの鞭で‥‥)
「ふふふふふふふふ」
 痛みへの期待に高まる鼓動、抑えきれず笑んでしまう口元。体に残る毒のせいだけではないようです。近くに仲間達が居なくて良かったのか悪かったのか。
「さあ、射落とす私にかかってきてください!」
 喜色満面の時点で手遅れみたいです。

●女王の出番

「下がりや、後からついておいで」
 半数に減らされ女王蜂は焦れてきたようでした。ラグナの挑発も遅れて効果があったのかもしれません。
「お前達は妾が直接仕置いてやるわ」
 ビシィ!
 再び雑木林を縫うよう一撃を加えた後、サライの体へと鞭が巻きついていきます。絡めて動きを封じたことを確認した女王蜂はサライを抱き寄せようと手を伸ばしました。
「ああ‥‥何でも言う事聞きますから‥‥だから‥‥」
 熱い吐息をこぼし、尻尾をぴこぴことふりながら自身のローライズをおろしていくサライ。
(まさか今からまぐ‥‥いやしかし‥‥!)
 その様子を瞬きも忘れて早矢は凝視しています。
 グサッ。
 女王蜂にサライの針が刺さりました。着用していた女児ぱんつ「蜜蜂」のお尻についている針のことですから、決して比喩表現ではありません。
「蜂の針を持つのは貴女達だけじゃないですよっ」
「赤面顔もらいましたー!」
 一番得をしているのは早矢のようです。

「御姉様を侮辱とかぁ、ふざけてますぅ」
 毒針手裏剣、鞭での絡みつき攻撃、そして針による攻撃は全て早矢とサライに集中することとなりました。
「遂に私にもご褒美が」
「ああっこの針、手裏剣よりも強力な毒が仕込まれているみたいです‥‥」
 蜂達に都合が悪い飛び道具を扱う開拓者を選んでいるだけなのですが、痛めつけられてよろこぶ相手を選んで攻撃しているように見えてしまいますね。

「仲間の移動も阻まれるけど‥‥気付いていた? 貴女達も動きが制限されていることに」
 絡め取られた二人を横目で見てから、その鞭の主である蜂へと仕掛けるユリアの表情はやはり笑顔です。
「本気で彼らが魅了されてるとでも思っていたの? 私より魅力的な女が、そうそういるはずがないじゃない」
 くすくすと蜂達に聞こえるように笑いながら、槍を振り下ろすユリア。
「ねえ、自分より綺麗な女に。貴女達の御姉様より魅力的な女に痛めつけられるってどんな感じかしら?」
 ザシュッ
「教えてくれない?‥‥あら」
 答えは聞けぬまま、蜂は消えていきます。

「うまく隠してるつもりだろうけど、随分歳食ってるよね」
 集中攻撃をうけたサライと早矢を回復させながら、女王に話しかけるのは菫。戦う間、女王の全身をわざとらしく見まわして、首元や胸の位置、肌の張りを確認していたのです。
「胸回りや腰回りの大きさにかまけて、お手入れちゃんとしてないんじゃない?」
 良く見ると汚れも目立つよね、と細かく指摘していきます。
「妾に手入れなど要らぬ」
「そうかな。跪いて泣きながら頼むっていうなら、教えてあげてもいいけど‥‥でも若さの強みもあるよね」
 アヤカシは年齢よりも強さで優劣を決めているような気がしますが、菫に馬鹿にされている空気は伝わったようでした。
 はじめこそ何を言っているのかと相手にしていなかった女王蜂も、声に怒気が混ざり始めています。

(女性って‥‥)
「どうした同志」
 無言で武器をふるっていた冬馬は、非モテ騎士から同士扱いされ始めていました。むぎゅっと押し付けられた時の対応が誤解を呼んでしまったようです。
「俺は別に」
 否定しようかと思いましたが、うさみたんと目があった冬馬は口を閉じました。戦闘中に長話になりそうな空気は避けるべきでしょう。進んで話したい過去ではないのです。
「さっさと退治するに限る」
「そうだな。我が大剣の前にひれふすがいいッ!」
 決め台詞と共に一撃。ラグナの本気は一回で蜂を昇天させるほどなのでした。

「年増だから遅れを取ってるんじゃないかな、やっぱり」
 残りも数匹と減り、殲滅も時間の問題、開拓者達にも余裕が生まれています。
「愚弄するのも大概にせえ!」
 ビシィッ
 菫を間合いにとらえた女王はきつく縛りあげました。その上急所を狙って突き出される猛毒の針。回復役の菫が今一番生命力を削られています。
「憤るのは図星だって証拠だよね」
 体をむしばむ毒の痛みに耐えながらも、明るい声を貫くのは誇りの表れでしょうか。今では数でも開拓者達が有利ということも理由にあるのでしょう。
「だから魅力で劣っているのよ‥‥勿論、強さもよ」
 ユリアが女王蜂に笑顔で優しい声音を贈ります。
「もともと蟲など眼中にないがな!」
 また一匹切り倒しながら叫ぶラグナの声が続きました。
「耐性があるとはいえ、痛みに耐えながらは面倒でしたね‥‥」
 サライの散らす羽が別の一匹に止めを刺しています。その目に宿る光は今は鋭いもの。
「楽しく拝見させてもらいましたけどね、ありがとうございます!」
 言葉どおり一番楽しんでいたのは早矢なのでしょう。
「仲間ももう残っていない。心置きなく妹達とやらを追うといい」
 冬馬の一撃が、女王蜂の止めとなりました。
「知ってた? 女王様って最後には姫には敵わないんだよ」
 物語にもあるよね。菫の言葉は届いていたのかどうか、消えてしまったあとでは分かりませんでした。

●調査報告

『蜂女郎』

後頭部の翅で空を飛べる、女性と蜂をあわせたような姿
素早い攻撃、回避能力に優れる
針タイプの手裏剣を持ち、毒の効果がある

鞭もしくは刺突型の武器を持っている
鞭→全体攻撃、絡め取りや牽制が可能
刺突型の武器→急所を狙う事がある、針手裏剣よりも強力な毒攻撃が可能

 仲間達が報告書を作る傍らで、ユリアは戦舞布を目撃者の男に巻き付けていました。
「報告書に、協力‥‥って呼ばれただけじゃねぇのか‥‥あああっ!?」
「勿論それもあるけど。なんとなくよ。ええ、な・ん・と・な・く」
 にこにこと笑顔で締めあげる彼女の姿は、本当に美しかった。新たな道に目覚めた彼は、後に村で語ったそうです。