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■オープニング本文 ● 「ギルドなら、どんな仕事でも人を雇えるというのは事実ですか?」 「確かに開拓者ギルドは仕事の内容に文句はつけません。とはいえ、内容に相応の報酬があってこそのお話ですよ」 ギルドに現れたその男は、依頼をするのもギルドを訪れるのも初めてのようで、入口から中へと入ったもののキョロキョロと落ち着かなげだった。手すきの受付係が声をかければ、やっと希望が見えたかのように、ほぅと安堵の息を漏らした。 男は古物屋を営んでいるのだと言った。特に服や装飾品、手持ちの小物といった着飾る品が主力商品なのだとか。 平均よりは背が高いようだが、豊かに髭を蓄えるでもなし、恰幅がよいわけでもなし、特別に目立つ特徴を持たない男であったが、服を装い身を飾る術だけは達者とのこと。 言われて改めて服装を確認すれば、確かに珍しい‥‥最先端の流行を取り入れたような装いだ。帯に差し込まれ先端を覗かせている扇子には、金物細工の施されたボタンを使った根付がぶらさがっていたり、髪を束ねる紐の役目を果たしているのは、細かい編目が目を引くれぇす。新しいものをいち早く、自然な形で取り入れた装いだと言えた。 「勿論お礼は用意します、相場に少ないようなら、期間中の食事もつけます」 男が示した額を見て、食事付なら大抵の人が集まるかと思いますよと受付係が請け負う。 「おっと‥‥いけない、順番を間違えました。仕事の内容を話してください」 依頼人となる男の様子から察するに荒事ではなさそうだと思いながら、受付係は話の先を促すのだった。 ● 「店出し前の商品の洗濯とは‥‥また随分と地味な仕事ですね。‥‥そのかわり物量が半端ないようですが」 「買い付けたまではよかったのですが、土汚れやら食べ零しやら汚れが思いの外多くて。纏めて店に並べたいものですから、人手を多く集めて洗ってしまいたいわけなんです」 ひのふのみ‥‥受付係が指折り数えて報酬と相場を試算する。 「集まった面子に期待する形になりますが、商品の洗濯を最優先か必須条件にすれば、この額でもなんとか‥‥」 「なりますか? お願いします!」 初の依頼ということで、そのあたり諸手続は勉強しますねと請け負いながら、受付係は必要事項を纏めたものを書き留めていくのだった。 |
■参加者一覧
当摩 彰人(ia0214)
19歳・男・サ
香椎 梓(ia0253)
19歳・男・志
七里・港(ia0476)
21歳・女・陰
天青 晶(ia0657)
17歳・女・志
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
霧葉紫蓮(ia0982)
19歳・男・志
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
小路・ラビイーダ(ia1013)
15歳・女・志
暁 露蝶(ia1020)
15歳・女・泰
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
花流(ia1849)
21歳・女・陰
蔡王寺 累(ia1874)
13歳・女・志 |
■リプレイ本文 ● 皆さん、本当にありがとうございます。 言葉だけで表しきれない感謝は、深く頭を下げることで伝わるでしょうか? 頭を上げた私の前には、集まった開拓者達、その数12人。 「血なまぐさくない依頼というのも、たまにはいいものですね」 香椎 梓(ia0253)さんの涼やかなあの視線、私を見分しているのでしょうか? ‥‥落ち着かない、と言うよりも少しどきどきしますね。最近仕入れた深紫のわんぴぃす、あれ纏ったら綺麗でしょうねぇ。 「微力を尽くす。宜しく頼む」 わざわざ挨拶まで下さった蘭 志狼(ia0805)さん、ああいった固そうな外見の方にはぜひれぇすを試して欲しいものです。さりげない程度のかわいらしさというのも、深みがあっていいものですし。 「ご期待にそえるよう、頑張り、ます」 肩で息をしている花流(ia1849)さん、急いだのか髪や服が少し乱れて‥‥あ、袴を縛るという着方は面白いです、今度私もやってみましょう。 「開拓者の仕事らしくないかも知れませんが、これも立派な人助け。戦う以外で出来る事があるのはありがたいことです。」 助けてもらうこちらの方がありがたいことです。出水 真由良(ia0990)さん‥‥いけない、つい胸元に目が。大振りの髪飾りで、そちらに視線を集めるというのも手でしょうね。 「皆と力を合わせて頑張るぜ」 巴 渓(ia1334)さんは使いまわしのきく柄入りの風呂敷でしょうか。飾りとして巻くだけの小さな手ぬぐいより、用途の広い大きなものを。大は小を兼ねると言います。 「あらら、聞いてはいたけど凄い量ね」 尻尾のような髪が揺れる暁 露蝶(ia1020)さんには、動きを追うように揺れる紐飾りをあわせたいですね。あえて青のものにすれば、強く印象に残るし生来の存在感が引き立つでしょうから。 「立派な売り物にするためにも、じゃんじゃんきれいにしてしまいましょう!」 七里・港(ia0476)さん、艶やかな装いがお似合いで、魅せ方を知っているようですね‥‥強いて挙げるとしたら、裾を引きずるくらいの長さのどれすとか、違った魅力を引き出せそうです。 「敵は大量の洗濯物か‥‥腕が鳴るな」 霧葉紫蓮(ia0982)さんは、目の色に合わせた小物があると落ち着きそうですね、紫の水晶が一番ですが、古物で流れてくる程度のものは‥‥残念です。 「洗濯や裁縫は、得意、です」 目を伏せた様子が気になりますが、天青 晶(ia0657)さん‥‥ものすごく腕の振るい甲斐のありそうな方ですねぇ。何を着てもそつがない雰囲気というのは、こういう子にあう言葉でしょう。せめて、青の結紐だけでもあれば‥‥勝手に髪をいじるのも失礼ですし、やめておきましょう。今は洗濯物をやっつけなくては。 「おせんたくもの、いっぱい、いっぱい、たいへん‥‥でも、皆、いっしょ‥‥嬉しい」 洗濯物で笑顔になる方は小路・ラビイーダ(ia1013)さんがはじめてですね。この量を見ても動じないと言うのは流石です。小ぶりの花かんざし、出来れば季節の花を模したもの‥‥いや、つくりものよりも、その時に咲く季節の花そのものを髪や帯に挿すほうがいいかもしれません。 「では、始めましょうかね‥‥」 蔡王寺 累(ia1874)さんの声にきっとあうはずの、音色の可愛い鈴は‥‥今度探しておかなくては。綺麗な音が常に添う、考えただけで楽しくなります。でも、向けられている視線は意味が違うような? 「はりきって行こう〜☆」 当摩 彰人(ia0214)さんには緑色を薦めてみたいですね、青だと冷たくなりすぎますが、穏やかさを示す緑はちょうど良いかと思います。 ‥‥おっと、つい癖で妄想見立てをしてしまいました。黙ったままで変に思われていなければいいのですが。 ● 開拓者さんというものは凄いものです。 「役割分担して適材適所で当たった方がよさそうですね」 店主という立場上、人を雇い、人を使うことが多い私ですが、ここまで積極的に動いてもらえるものだとは思いませんでした。いつもの臨時雇いならば、私が説明するのですが、その必要や不安はまったくの無用だったみたいです。 「染物は色落ちや色が移ったりするから、同じ色同士のもので洗わないと。あと、素材にも気をつけて仕分けしましょう」 言いながらも、適当に分けた山から似た色のものを集中的に取り出していく港さん、服だけでなく手つきも鮮やかです、素晴らしい。 「汚れを落とすためにいくつか必要になるのですが」 港さんに続き、数名から思い思いの材料を告げる声が。大根おろし? なるほど墨汚れ用ですか。ご飯やお酒と一緒に追加しますね。 とぎ汁とぬかはあらかじめ、道具と一緒に用意してありますよ、今取りに‥‥ 「量があるはずだし取りに行こう、場所を教えてくれ」 「少し早いが、物干し竿も設置してくる」 倉庫で入り口の横です。陰干しですか? それなら洗濯物をしまっていた倉庫は空いたままですから、そこを使って下さい。軽々と洗濯物を運び出していたかと思えば‥‥志狼さんも紫蓮さんもすぐに向かってしまうし、ついていく隙がないですね。 「お湯を沸かそうと思うので、竈とお鍋貸してくださいね☆」 あ、露蝶さんですか、厨房は倉庫の角を出て右手です。‥‥いよいよ、私の役割が減ってきました。場所を教えておけば良さそうな気がしてきましたし、このまま邪魔になるよりは、厨房に篭ったほうが良さそうです。 私は食事の支度をしていますので、何かあったら呼んでくださいね。 ● ぎゅっぎゅっ‥‥ 「大物を洗うのは男の仕事でしょう! シレちんとシロりんも頑張っていこう!」 分類したなかでも、丈夫で色落ちしにくく、汚れの程度も低い着物や帯の類は踏み洗いでこなしていくこととなった。彰人が元気よく掛け声をあげ、そこに紫蓮と志狼が足踏みをそろえる。 大の男三人、それぞれに専用の桶にぬるめの湯をはり、そこに一定数の着物を纏めて入れ、踏んでいく。 ぎゅーぅ、ぎゅっ 「幼い頃にやった記憶があるな」 目を閉じれば、昔の幼かった自分が思い出せそうな気がして、志狼が想いを過去へと飛ばす。性根を鍛えるためにと無心に洗濯物を踏んでいた時期。あの頃自分は何を考えていたのだろうかと。 今しがた洗い終えた着物は別の綺麗に洗っておいた桶に入れ、次の一着はと手に取ったのは、紫紺の薄衣。 「‥‥む」 髪を束ねる結紐の端を探り寄せ、それがそこに在ることを確認してから、後で手洗いにする方の山に薄衣を重ねた。 「ものにもよるが‥‥素材次第では手洗いの方がいいだろう」 紫蓮をはじめ露蝶らが事前に話していたこともあり、一部の着物は一着ずつ汚れの様子を見ながら洗うこととなる。あらかじめ湯につけておけば落とせる土汚れが大半を占めていたおかげで力いっぱいこする必要はそう無いのだが、布地の広さと桶の広さの都合で、汚れの有無を確認するのが少しばかり手間となっている。 「慣れない手つきだな?」 作業の細かさに苦労している様子の志狼ににやりと視線を向けると、ちょうどサーコートを外している様子が見えた。 「暑いな‥‥埒が明かん」 志狼の鍛え抜かれた肉体が惜しげなく露になるまでは、そう時間がかからないようだ。 小物類は基本的に手洗いとなっていた。型崩れの心配のない紐類は踏み洗いでも構わないのだが、汚れの確認が手間取ることを考えると、端から順に手で洗う方が効率的といえた。 れぇすや髪飾りは言わずもがな。網目や、あらかじめそうなるよう組み合わされ作られた形を崩さないためには、丁寧な作業が必要となる。 着物類ほど数が多くないのが幸いだ。最先端として、いくら別の国の品を仕入れているとはいっても、まだまだ数は多くないのが現状である。まして古物ならば、着古したものが商品として売れるという概念は、まだ広まっていないのが現状ではないだろうか。 ごしごし‥‥ 「面倒な汚れのものが少なくて、よかったですねぇ」 洗濯といえば家事、家事と言えば女性という印象が強いせいもあるのだろう、今回の仕事に集まった開拓者達の大半は女性だ。そして小物の洗い物を担当する側となればその比率は更にあがる。そして集まれば‥‥真由良が一石を投じると、たちまち話が広がっていく。 「そうね、あの山を見たときは、分けるほうが時間掛かるんじゃないかって思ったもの」 色物は結構あったけど、近い色がある分助かったわ。露蝶は色物を担当するつもりであったのだが、小物の山が少なめだったため、小物担当の皆と共に手洗いの輪に加わっている。 「そう、ですね。大半が着物でしたから、大小どちらも、数としては少なかったということではないですかね‥‥」 累も同意しながら推測を告げる。確かに、大きいものと小さいものが同数あったとすれば、それぞれを積み上げた山の高さは全く違うことになる。 「貴殿のような年若の者も開拓者になるのかと思っていたのだが、なるほどな」 年と知恵は必ずしも密接に関係しない。神妙な顔で頷きつつ花流が呟いた。 ぎゅう、ぎゅう 「きれいなるよう、きもち、こめる」 変わらずに笑みを浮かべながら洗濯に没頭するのはラビイーダ。 「綺麗に汚れが落ちると、達成感が、あります」 手は動かしているものの、空を見上げていた晶が、その声に視線を向けて微笑む。自分の腕を拭うついでに、ラビイーダの手だけでなく腕にまでとんだたくさんの泡も拭ってやっている。 「きる人、よろこぶ、うれしー‥‥あわ、ありがと」 「どういたし、まして」 ぎゅー、ごしごし 「仕分けは終わったぞ。修繕が必要な奴や、売り物になりそうにない奴は程度で分けた」 簡単な繕いものは俺がやっといた。渓が新しく小物の山を運んでくる。 「作りなおしなんかの面倒な奴は、休憩のときに依頼人に聞くのがいいだろうな」 仕分けに最後まで残っていたのは修繕のためだったらしい。色物の山を運んできたかと思えば、着物の山を運ぶためにと再び倉庫へと戻っていった。 汚れを落とし、板などで押して水気もきった洗濯物は、ある程度たまった順に物干し竿へと吊るされていく。 身長も高く体力もある彰人が特に目まぐるしく動き回っている。踏み洗いのときも調子をとっていた分消耗が多いはずなのだが、疲れを見せない様子で作業を続けている。 「体力勝負〜♪」 鼻歌のように声に節をつけながら、笑顔を絶やさないあたり持続力は高いようだ。だが洗う人数の方が多い分、干しきれない洗濯物がたまる方が早い。 小物類と一部の色物を干し終わったところで、依頼人の声が掛かり昼食を兼ねた休憩となるのだった。 ● お待たせしました。 主食はごはんです、混ぜご飯や炊き込みも考えましたが、皆さんの好みの差も考えてとりやめです。そのかわりおかずの種類を増やして‥‥皆さんのお口に合うといいのですが。 汁は海草と貝だけの出汁に細切り大根を加え、味噌を薄めに溶きまぜただけですが、海の味と磯の香りを楽しんでください。 お肉は‥‥もし駄目な方がいましたら、すみません。山椒と塩で漬け込んだものを、一度洗って焼いたものです。辛味が強いと感じるようでしたら大根おろし、たくさんありますからどうぞ。これと一緒に食べれば、いくらか緩和されると思います。もちろん洗濯用とは別に用意したものですよ? 魚は酢で締めて‥‥え、御託はもういいですか? 「‥‥長すぎです」 そうですね、お疲れなのにすみません、冷めないうちに皆さんどうぞ召し上がってください。それにしても私、梓さんの外見に弱いのでしょうか。ああいう女性に、笑顔のままスッと言われる一言は、ききますねぇ。 「こっちは漬物とわかるのだが、これは?」 食べてみるとわかりますよ‥‥どうですか? なんでも果物を味噌漬けで保存するという話を噂に聞きまして、試しにやってみたのですよ。面白いでしょう? 紫蓮さん、貴方が漬物にこだわりがあると伺いましたので、お出ししてみました。おかずというより、甘めの肴ですけどね。 「甘味、でますか」 後で休憩のときにお出ししますね。みたらしですか? わかりました、お団子を餡とみたらし、両方用意します。 洗濯、この後もよろしくお願いします。 ● 「はいはいは〜いっ! 質問でっす。もし洗っても汚れが落ちなかったり修繕不可能なくらいに壊れていた場合は、染め直したり他の小物に造り替えちまうってのは如何よ?」 「捨てる、ざんねん。つくり直す、だめ?」 器を下げる依頼人へ一番に尋ねるのは彰人で、ラビイーダが追うように声をかけた。続いて他の面々からも思い思いの提案が飛ぶ。 少し考えた後の答えには、是非が両方含まれていた。 染料の類は普段から利用していないために、急ぎの準備が難しいとのことで無理。渓が既に使用していたように、裁縫道具は揃っているため別の服への仕立て直しや、小物への作りかえは問題ない。香り袋は小物として店でも扱っているので作成可能。洗濯物とは別だが、店の倉庫で備蓄している、用途未決の歯切れの類は使用可能。刺繍用の糸もある程度の色は取り揃えてあるとのこと。 ただ、皆が危惧していた通り、あくまでも洗濯がすんでからという条件付ではあった。 改めて、累が残りの洗濯物の山を見た。後は洗って干すだけとはいえ、まだ結構な量がある。 「畳むことまでを考えると、難しいかもしれません‥‥ね」 洗っては干し、乾いたものから取り込み、またその場所に別のものを干す。洗濯物一点一点に同じものはないのだが、大きさや色が近いものは多いのは否定できない。 何度も、何十も同じ手順を繰り返し、山の終わりが見えた頃には‥‥夕方になってしまっていた。 「なんとか洗うところまでは終わった‥‥のよね?」 倉庫内に絹の着物を広げて干しながら、露蝶が誰にともなく呟く。 「汚れを落とす、という仕事でしたからね、無謀な汚れ物を例外とするならば」 大丈夫では? 火のしをそっと押し付けて皺をとりながら、梓も呟きで答える。 「時間の限り、出来ることを尽くしましたもの」 港の言葉は事実そのままを示している。 「‥‥む。後は、天気が崩れぬうちに乾くことを祈るとしよう」 その場にいた全員が、志狼に心のうちで同意するか、実際に頷いていた。 ● ええ、本当に予想以上でした。世の中ああいった方達がいるものですね、普段商売のことばかり考えていると、見落としが多いということがよくわかりました。 受け付けてくれた貴方の進言にも助かりましたけど、実際に皆さんに会うまでは信じ切れていませんでしたし。今となってはお恥ずかしい限りです。 皆さんの仕事ぶりですか? もちろん全て綺麗にしてくださいましたよ、一部酷い状態の品があったようで‥‥これは私の仕入れが悪かったということですからね。 またあれば、こちらでお願いすることにしようと思います、そのときはまた、お願いしますね。 |