|
■オープニング本文 ●桜の季節に 「晶秀さん、依頼を‥‥いえ、参加者を募りたいのですがお願いできますでしょうか」 ひょこりと受付に顔を出した三豊 矩亨(iz0068)に、受付係こと晶秀 恵(iz0117)はやはり、といった顔で姿勢を正す。 「宴会ですか?」 「ええ、まあ。そういうことになりますねえ」 なんだかんだと理由をつけては、季節のイベントにかこつけた依頼として、参加者を集めるのがこの三豊という男だ。この時期は桜の季節、つまり花見の募集がくるだろうとは思っていたので驚きはしないものの。 (本当に見境ないわよね) お得意様でもあるし、担当の受付係としてはこれが食いぶちでもある。表立って言う事はないが、内心では感心を通り越して呆れている部分もあった。顧客として結構長い付き合いになるが、この男が商売で失敗をしたところを見たことがない。 「お忙しいと聞いていますし、今年は流石にいらっしゃらないかと思いましたが‥‥?」 別件の仕事についてをにおわせてみる。 「景気よくしていれば、幸先もいいと申しますから」 だから大丈夫ですと言われれば、晶秀には特に反対する理由もない。なんだかんだと、毎回招かれている身でもある。綺麗な花と美味しい食事に文句をつけるつもりもない。 「では、今回の人数はどうされますか?」 「‥‥そうですねえ、八名ほどでお願いしましょうか」 ●肴に芸を 「それと、今回は皆さんに何か、出し物をしていただけたらと思いましてね」 手続きも終わりにさしかかった頃、ぽんと手を打つ三豊の言葉に、晶秀が小さく眉をひそめた。 「出し物‥‥?」 「ええ、宴会芸と言いますか、かくし芸と言いますか‥‥付き物ですよね?」 専用の舞台も用意してあるんですよ、とにこにこ話す三豊だが、対する晶秀の笑みは引きつっていく。 「そう言えるかもしれませんが‥‥今年はなんでまた」 しかもそんなとってつけたようなタイミングで言いだすあたりに、嫌な予感が隠せない。 「うちの子が、遂に芸を会得したんです」 「‥‥それって、まさか」 (聞きたくない、聞きたくないけど聞かなきゃいけないのよね、これって) 三豊は開拓者ではない一介の商人だ。だが看板マスコットとして、一匹だけ世話をしている相棒がいる。その件について、晶秀は浅からぬ因縁がある。 「勿論、ぬちょ太郎です。せっかくの大技ですよ、お披露目したいと思うのが飼い主というものではありませんか」 「‥‥ですよねー」 触手と吸盤を装備したもふら、それがぬちょ太郎の完成形だ。古物屋にやってきたばかりの頃、不幸な事故で晶秀は文字通り絡まれた事がある。開拓者達の協力があり救出されたのはずいぶんと過去の事。過去の事として箪笥の奥にでもしまっておきたい記憶だ。 それから数年が経っている。躾やら芸の仕込みやらがついに完了してしまった‥‥ということらしい。 (つまり‥‥うちの子の芸も披露したいから、開拓者達にも芸を要求すると、そういうこと‥‥) 「あの、今回は私、欠席させていただいても‥‥?」 一段階、いや二段階ほど低くなった晶秀の声に、三豊も理由に思い至った。 「ぬちょ太郎、同じ事はもうしませんから大丈夫ですよ」 「わかってはいるのですが。例の装備も揃った状態で冷静に対応できるか自信が‥‥」 装備がなければ、普通に対応できるという実証もあるのだが。件の事故を思い出す状況になると自信がなくなるのもしかたのないこと。 「晶秀さんは、芸は免除‥‥これならば、舞台近くに居るぬちょ太郎に近付かなくてもいいかと思うのですが」 それでどうでしょうか。依頼人にここまで言われてしまえば、晶秀も妥協せざるを得なかった。 ●花見の席で宴会を 桜が美しい季節、その美しい景色の中で、互いの芸を肴に宴会などいかがでしょうか。 開拓者さんご自身、相棒との連携技等など‥‥ 花見弁当と飲み物をご用意してお待ちしています。 古物屋店主 三豊 矩亨 |
■参加者一覧
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●花見の宴を 薄桃の花弁ひとつひとつは薄く小さく儚い。数が集まり花を象り枝を飾り、更に風に舞う様は独特の魅力で春という季節を彩っている。 「天義の桜は美しい‥‥」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)の言葉は端的。しかしそれこそ今この場所に一番似合いの言葉だろう。絶好の花見日和だと言えた。 「お弁当と飲み物、実に楽しみでござる!」 「雁の字は稼ぎが悪いからな。遠慮なく食わせてもらうぜっ」 ピンクの髪が馴染んでいるのは霧雁(ib6739)で、ジミーと共に重箱弁当の前で待機している。 「腕によりをかけた甲斐があるというものです」 三豊 矩亨(iz0068)がにこにこと参加者達を席へと誘う。お弁当も飲み物も、多めに用意してありますから足りなければ言ってくださいねと添える彼の傍には一匹のもふら。 「ぬちょ太郎さん、ですか‥‥?」 話に聞いていた姿と違う事に首を傾げるKyrie(ib5916)には、晶秀 恵(iz0117)が答えた。 「ずっとあの状態は嫌だって、私が頼んでるんです」 「そうなのですか。貴方の芸を拝見するのがとても楽しみです」 「任せろもふー」 好意的に微笑みを向けてくれるKyrieに、ぬちょ太郎も嬉しそうだ。 「大所帯で来たけど、大丈夫かな?」 首を傾げる戸隠 菫(ib9794)の相棒達はどちらも小柄。むしろ華をそえているから大丈夫と晶秀が背を押した。 ●賑やかす 「いやー美味しい! こういう催しが毎日続けば拙者大喜びでござる!」 「確かに絶品。LOもそう思うだろう?」 グォー ドグェシャッ! 「げはぁっ!?」 優雅に過ごすフランヴェルとLOののどかな一幕をぶった切り、霧雁の頭にジミーの重い飛び蹴りが入った。 「そんなうめぇ事いくわけねえだろ♪」 「‥‥綺麗に決まってらっしゃいますね」 「ええっ! 晶秀さん、回復を!」 冷静に分析するKyrieの声と、慌てる菫の声が続く非現実めいた流れに、知らず皆から笑いが漏れた。 「は、早くぅ〜‥‥ガクッ」 (漫才のような掛け合いですよね) そう思ったのはきっと三豊だけではない。 各々が寛ぎ始めた頃合いになると、ひとりそわそわとし出すのは主催者、三豊。ぬちょ太郎を呼んでもふもふと手触りを楽しんでいたかと思えば、開拓者達の顔を見回したり。相棒達に微笑みかけていたかと思えば、設えられた舞台の方をちらりと見たり。 (ああ、芸を早く見たいんだな) 開拓者達は皆そう理解して、誰からともなく目配せしあう。順番を譲りあった結果、一番手に決まったのはフランヴェルとLOだった。 「ボクは芸達者と言う訳ではないが」 ぐるりと周囲を見回した後、そう言って舞台に上がって‥‥行かなかった。 「この素晴らしい宴席を設けて頂いた、せめてものお礼に頑張るよ」 颯爽とフランヴェルが跨れば、踏み込みの重い走りのあと宙へとLOは飛び立つ。 カッ! 舞い上がるLOの飛影を追う様に皆が視線をあげた先で、太陽を背にしたフランは宙へと身を躍らせた。 ―――危ない!? 眼下の観客は皆驚いているだろう、だけどこれは予定通りの行動。落ちながらも、フランヴェルの思考は鮮明だ。 (ふふ、落ちていくね‥‥だが!) 余裕のある笑みを浮かべたフランヴェルは、予定地点をめがけて足を突きだした。同時に体から練力の渦が迸る。 (まずは初撃!) えぐるほどの勢いを持つ蹴りが大穴をあけるより前に、再び練力の渦が噴出し堅く握った拳が前へと突き出される。蹴りの勢いに乗せるように繰り出された二撃目は、人の走る速度を超えたように見えるほど。一見疾走しているように見えるフランヴェルは、足は地を蹴っていないように見えるほど軽やか。観客に瞬く間も与えないほどのこの速度は、全て天歌流星斬の効果によるものだ。 (そして仕上げ!) 三度、練力の渦が放出される。今度は空へ拳を突き上げた。同時に軸足で地を踏みこんで飛び立つ演出も抜かりない。 ふわり。 技の効果が切れてすぐ、機を見計らって待機していたLOがフランヴェルの真下へすべるように舞い込んだ。何もなかったかのように、LOに跨った状態へと戻ったフランはゆっくりと、地上へと戻る。流星の欠片が余韻となって、舞降る花弁となったように、花吹雪の中をゆるゆると。 「ふぅ‥‥」 物憂げなようにも見える息を一つ落としてから観客へと向き直った。 「ここまで天歌流星斬を連発できるサムライは、そうそういないんじゃないかな♪」 打って変わって朗らかな様子に、見惚れていた者達の時が動き出した。フランヴェルの言葉のどこかに「無駄に」という言葉がひっそりと紛れこんでいた事に気づかないほど。洗練された技は流星の名を持つ通り、光と共に見る者を魅了したのだ。 二番手はジミーに首輪をつけ、そこからのびたリードを持って舞台に上がった霧雁。 「では、世にも珍しい猫又回しを‥‥」 隣を示そうと視線をやれば、肝心のジミーが共に舞台に上がっていない。リードを辿って視線を向ければ、怒り爆発まであと数秒といった形相と、前足による手招き。観客には背を向けている状態のため、可愛らしく招き猫の真似をしているようにも見えるけれども。 「ジミーどうしたでござる?」 「‥‥ちょっと裏こいや」 色々なものを押し殺した平坦な響きで霧雁を呼ぶと、そのまま舞台裏へと揃って去っていく。 ―――あれ、芸は? 待っていた者達がわけもわからず首を傾げたところで、壁の向こうから声だけが聞こえてきた。 「いつからてめぇはそんなに偉くなりやがった!」 ドカッ‥‥バキッ! 「ひぃいい! 暴力反対でござる!」 ‥‥ザシュッ! 不穏な音は聞こえるが、舞台は壊れていないようなのでひとまず静観する面々。しばらくすると、さらに低くなった声が、ジワリと響くように聞こえてくる。 「‥‥てめぇは支配する側か、される側かどっちだ? どっちなんだよ?」 「し、支配される側でござる‥‥」 震えているような霧雁の声に、満足そうな声が続いた。 「聞き分けがよくて助かるぜ」 カチャカチャ‥‥カチッ。 声も音も聞こえなくなった少し後、現れたのは首輪をつけられ四つん這いでやってくる、美麗な素顔をさらした霧雁と、そのリードを持ったジミーの姿。 「世にも珍しい‥‥」 「ね、猫又回されにござるっ」 舞台中央に着くや否や、容赦のないジミーのお仕置きが始まる! 「お手! お回り! 取ってこい!」 「はいでござる!」 ぽーんと投げられた鰹節を、霧雁もぴょーんと追いかける。 「いい子だ。三角跳! 10連発でいけ! ‥‥次はブラッシングな」 「‥‥はいでござる‥‥」 律儀に鰹節を咥えたまま舞台の天井や柱を足場に縦横無尽に跳ねる霧雁。しかしすぐに飽きたのか、ジミーはその場でごろりと転がった。きっかり10回跳んで元の位置に戻った霧雁が毛並みを丁寧に梳けば、ごろごろと喉を鳴らして寛ぎ始めた。 「いい気持ちだぜ‥‥てめぇの毛繕いは最高だ‥‥」 ‥‥すぅ。 眠り込んだジミーを抱きかかえた霧雁は一礼し、舞台から降りる。 「因みに舞台のやり取りは演技にござる」 この弁明は誰も信じなかった。 「そうそう、うちの子の芸も見ていただけますか」 親馬鹿の顔をした三豊が、いそいそとぬちょ太郎にアイテムを装着させる。それまでは一般的なもふらだったぬちょ太郎が、名前の通りぬちょっとぺたっとした姿に早変わり。 「やるもふ! おどるもふー!」 ダダダッ! 柱に向かって駆けだしたかと思えば、その勢いのまま柱を登り、天井を地面のように駆け、後方の壁を伝い下り、元の位置へと戻ってくるぬちょ太郎。 そう長い時間ではないとはいえ、立派に壁走りができている。 ―――ちょっと待って、踊りは? そしてゆらゆらにゅるにゅる触手を震わせながら、海中のワカメの如く身を震わせた。しばらく揺れていたかと思ったら、ドヤ顔で決めポーズらしく動きを止めたので、どうやらもう終わりらしい。 凄い。凄いけれど‥‥それは踊りではなく、壁走りでは? 「皆様、興味深い芸をお持ちですね‥‥」 我々もやりましょう、†Za≠ZiE†。Kyrieの声に細身の土偶ゴーレムが従い舞台へと上がる。 ばたり。 観客達が見守る中、舞台に転がったまま微動だにしないザジ。操り人形の糸が切れてしまったかのような倒れ方は、人に似せられた姿、そして精巧な顔とその化粧も合わさってひとつの絵の様なワンシーンとなる。自然と観客達も声を潜め演目に入り込んだ。 「‥‥‥」 舞台袖からKyrieが登場し、ザジを見守る位置で立ち止まる。 シャラン。 連なる鈴の音が、静かな会場に響けば途端にザジが起き上がった。倒れた時と真逆の動きで、まるで時間を巻き戻して蘇ったかのように。 シャラン‥‥シャララッシャラッ。 Kyrieの奏する精霊の鈴の音は緩急をつけて振るわれる。単一なはずの鈴の音が調べを創りだし、ザジはその調べにあわせて舞った。 (それでは、私も) 音の途切れる隙を使い、鈴の柄が手から口元へと移された。音もなく、くるりくるりと回転しステップを踏むザジの手を空いた両手で取れば、二人での舞へと変化した。 シャラララララララ‥‥シャン! 首を振ることで新たな調べを奏でながら、Kyrieの体はザジと舞う。ゴシック調の二人が舞う姿は、観客にジルベリアの宮廷を幻視させるかのようだ。 シャラララッ! 激しく首を振って奏でるKyrieを抱えあげたかと思えば、両手を掴み自身を軸にして体ごと振りまわす。ザジは次第にアクロバティックな動きになっていく。 ‥‥シャ‥‥ とにかく無音にするまいと精霊の鈴を離さないKyrieの根性も見事なもの。だがそろそろザジの動きに抵抗はできなくなっている。その機会を待っていたかのように、ザジはKyrieを頭上に持ち上げ、ゆっくりと後ろに引いた。 ブゥンッ! ‥‥シュタッ! 花弁が舞う中、Kyrieの体もゆっくり飛んだように見えた。 (あとは月歩でフィニッシュです) しかし思っていた以上に振り回されたせいか、月歩の途中でよろめく体。幸か不幸か、倒れた先には未だ完全装備状態のぬちょ太郎が。 「遊んでくれるもふー?」 もふぬちょぺったーん。 助けを求めた腕で抱きついたことで衝撃は吸収され、怪我はない。けれども鈴の音が気に行ったのか、遊んでくれそうな相手に嬉しくなったのか、ぬちょ太郎はKyrieにぬちょぬちょペタペタ絡みついた。 「や、やめて下さい私には妻がっ‥‥」 背徳感あふれる台詞をこぼしつつ、小さなお子様には見せられないような顔で身悶えするKyrie。周囲には大人ばかりなので規制はされないけれど、皆どこか視線を合わせようとしなかった。 小さな存在を二人連れた菫が、順番としては最後になった。劔 楡の伴奏に合わせて乗鞍 葵が長唄を担い、菫が舞うという趣向。 (本当に、みっちり練習してきたんだもの) 今は傍に居ない相棒も含めた練習を思い出して、菫は神経を研ぎ澄ます。文句はたくさん言われたけれど、それだけ完成度の高い、息の合った仕上がりになるよう気を配ってくれたからだ。手伝ってくれた桐にも、共に演じる楡と葵にも、見てくれる観客にも‥‥そういった楽しい気持ちと、舞の成果を伝えられるようにたくさん気持ちを込めなくちゃ。 菫の準備が整った事を確認して、楡が葵と目配せ。一拍置いて、葵の声が朗々と響く。 ―――稲荷山三つの灯火明らかに。 楡の三味線の音色もあわさり、菫がぱっと顔をあげ、袖を閃かせる。氏神の居る神聖なる山の様子はあくまでも表情を控えめに。そこへ知恵を得ようと祈りに向かった刀鍛冶の姿は、神妙な動きを意識して、すり足を。 腰を低く手を合わせ、じっと祈りを捧げれば‥‥ ―――神の使いの相槌を 打つや。 神の使いが手助けを遣わせる事を約束してくれる。その答えに安堵の笑みを浮かべ、刀鍛冶は鍛冶場へ戻る、その足さばきは軽快に。 楡の伴奏も菫の足の動きにあわせ、高く軽い音を弾き出す。 曲調も、軽快なものへと徐々に変わっていく。家に戻り鍛冶場でさぁ刀を打たんとする頃には、菫の表情も明るく、希望に満ちたものへ。 それまでは始めと同じ場所のまま演じることに徹していた楡と葵も、菫の動きにあわせたのか、ふわりと場所を変えた。約束の神の使いが、まるでそこに来たかのように。 ―――こがるる色を金床に 火加減湯加減 秘密の大技。 早速刀が打たれ始める。菫が腕をふれば、楡の合の手が返る。葵の唄に調子を合わせ、三人の動きがひとつの流れに纏まっていく。 はじめこそ大振りに、次第に振りが小さくなるのは、刀も整えられているから。菫の振りが落ち着いてくる頃に、観客も刀の完成があと少しなのだと感じ取った。 ―――麗しきは今この業もの切ものと 四方にその名はひびきけり。 完成した刀を構えた型が決まり、葵の唄も楡の弾く最後の音を合図に終わる。その時ちょうど強めの風が吹いて、桜も舞の一部のように吹雪いた。 ●のんびりと 菫達の演目が綺麗に締めて、あとは桜とお食事と。皆思い思いに過ごしはじめる。 「皆、期待以上の出来だったと思うわよ」 晶秀は皆を労って回る。 (全く、幸せそうに寝ているでござるなぁ‥‥) 鼾をかく相棒を抱えたまま、寝心地のいい場所にあたりをつけているのは霧雁。自身も横になって、その上にジミーを乗せ直す。 「拙者も一緒に寝るでござるよ」 弁当も飲み物もしっかりおかわりをもらって、おなかにも幸せがいっぱいだ。 「皆さんの芸も、桜も、料理も。実にすばらしい♪」 大技を三度繰り返したにもかかわらず、お腹がすいただけで済んでいるフランヴェル。二か所ほど地面が凹んだが、重量のあるLOがならせばすぐに元通り‥‥という事で、今もLOはじっと座りこみお弁当のお代わりを食べている。その大きな体に寄りかかりながら、彼女はそっと瞼を伏せた。 「‥‥やはり子猫ちゃんたちを連れてくれば良かったかな? 次はそうするとしよう♪」 きっと皆喜ぶだろうな、と笑う彼女の子猫ちゃんとは? 目の輝きが危険だ。 危険と言えば、Kyrieはまだぬちょ太郎に絡みつかれていた。 「‥‥誰か助けてくれませんかね」 呟いては見たものの、楽しんでいるように見えたのか、第二の被害者になりたくないだけなのか、誰も手を出さない。 「それは、流石にごめんなさい」 菫のようなうら若い女性に助けを求めるのは酷というもの。フランヴェルは自分の世界に旅立っている。経験者の晶秀は断固拒否の構え。霧雁にいたっては夢の中。 「外すのを忘れてしまっていたんですね、申し訳ありません」 そういえば飼い主だった。三豊が慣れた手つきで外し、やっと元の通り。今少し、のんびりとした花見の席が続くのだった。 |