【AP】変態していた!
マスター名:石田牧場
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/07 22:46



■オープニング本文

●目が覚めるとそこは

(あたたかくて、いい陽射し‥‥)
 差し込む陽射しが全身にまんべんなく当たる。とにかく眠気を誘う暖かさに晶秀 恵(iz0117)はまどろんでいた。桜もほころぶ春、眠くなるのもいたしかたないというものだった。
(‥‥もうちょっと寝て居たいわね‥‥ああでも、珍しく仕事を受けたんだった‥‥?)
 それなら起きなくては、同行の開拓者達にも迷惑をかけてしまうではないか。ぴくりと尻尾を立てて頭をあげる。
「尻尾?」
 おしりの方で何かが動いた気配。頭では違和感があるのに、体は自然に動いている。もう一度言おう、尻尾だ。一カ所から生える、二つに分かれた尻尾。
(まくるの尻尾よね、これ)
 相棒の猫又の尻尾のはずだ、見覚えがあり過ぎる。というよりも、今自分のおしりから生えていなかったか‥‥?
(考えたくはない、考えたくはないけれど‥‥)
 全身が日差しで温まっている感覚、これはつまり服を身につけていないという事ではなかったか。そして自身の事だけではない。視界に映ってはいたけれども、あえて意識したくはなかった周囲の様子という現実を直視することにする。
「ここ、港よね」
 ‥‥どうやって出ればいいのか、見当がつかなかった。

●開拓者御一行(外見において)

「行きましょうか」
 仕事の内容が小鬼退治でよかった、そう思うのはまくるである。だがその体は晶秀の姿をしている。勿論、同行している開拓者達もまくると同じように、中身は開拓者達の相棒であった。
 受けていた仕事は、神楽に近い村での小鬼退治。普段から開拓者達の戦い方を見ている相棒達だからこそ、そう大きな失敗をすることはないだろう。
(問題は、戦闘とは別のところね)
 どうしてこうして、このような者ばかりが入れ替わってしまったのか。まくるは溜息を吐いた。そういう仕草が晶秀とそっくりなのは、まくる自身気づいているのだろうか‥‥?

●港の飼育小屋(再び)

(どうするべきかしら)
 晶秀は考えていた。強行突破してまくるの元に向かうか、無事に依頼を遂行している事を信じてこのまま時間をつぶして待つか。それにしたって、自分だけではどうしようもない。
 自分は開拓者ではあるものの、受付係としての道を選んだ身なのだ。あまり技量は高くないし、相棒のまくるにもそれが当てはまるのだ。
 だからといって時間をつぶすにしても、他の相棒達と話があうのかどうかも甚だ疑問だ。
「一人で考えてもどうにもならないって、こういう事を云うのかしらね」

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


■参加者一覧
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
不破 颯(ib0495
25歳・男・弓
刃兼(ib7876
18歳・男・サ
来須(ib8912
14歳・男・弓
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
ナツキ(ic0988
17歳・男・騎


■リプレイ本文

●変態者達の朝

「うおおお! なんじゃこりゃああああ!!」
 ルオウ(ia2445)より少し高い声が輝鷹の嘴から迸る。留まり木の上で目覚めた彼は、周囲の迅鷹達が驚いて騒ぎ出すほどの音量で叫んだ。視界は妙に広いわ、足元に地面が見えないわ、空中に居るように思えるわで驚いてしまったのだ。でも体は安定している。ヴァイス・シューベルトの体がバランスのとり方を覚えているのだ。
「なんだ、迅鷹? でも俺のほうがでかい?」
 なにこいつ喋ってるぞ、と周りの迅鷹達に遠巻きにされていることは気にしない。ルオウは自身がヴァイスの体になっている事を理解したのだった。

(叫び声‥‥戸締り忘れてたっけか)
 ごろりと寝返りをうとうとして、上手くできない事に違和感を覚えたナツキ(ic0988)は目を開けた。視界に広がるのは漆黒の鱗、とても見覚えのある鱗だ。
「な、なんだよこれ‥‥うわっ!」
 起き上がろうと体を起こせば、グンと視界が高くなった。声も自分の記憶より低く別の音が混じっているようで、更に驚く。
 ゴンッ!
 勢い余って頭を強打する。この音は痛い、痛いに決まっている、そういう音だった‥‥!
「‥‥あれ?」
 目を瞑りうずくまってみたが、痛くない。そして周囲に見覚えがない事に気づき、更に自分の足元に、見覚えのある鉤爪をみつけた。
(シキの姿になっているみたいだ)
 すとんと頭が理解する。ぶつけた場所が痛くなかった事は、いつの間にか忘れていた。

 戸隠 菫(ib9794)の意識は徐々に鮮明になってきていた。眠っていたような、気絶から醒めたような不思議な感覚だ。
(なんだか視界が高いな‥‥)
 寝床で横になっていたはずが、立っていた。いつもより地面が遠い気がして、目頭を押さえようと手を動かした。
「あれ、この手、からくりの手みたい。桐ちゃんの手に似てる、よね」
 すべすべつるつるの白と青の手は、相棒の穂高 桐のもので間違いなさそうだ。それに声も本来の自分のものではなく、桐のものに聞こえる。服装も記憶にある相棒のものだと確認すると、菫は首を傾げた。
「困ったなあ。桐ちゃんも困ってるよね」
 どうすればいいのか、とりあえず考えてみることにした。

「‥‥ちょっと待て。なんぞこれ」
 黒毛に白の靴下模様、尻尾の先にも雪化粧。長年一緒に居る相棒、キクイチの姿になっている事を理解した刃兼(ib7876)は眉毛をふるふると震わせていた。口から発せられる声も間違いなくキクイチのものだ。
(この体はどう考えてもキクイチだが。じゃあ、俺の体は?)
 先日ギルドで依頼を受けた。今日はその依頼、晶秀 恵(iz0117)が同行する小鬼退治に出発する日ではなかったか。なのになぜ自分は港と思われるこの場所で、キクイチとしてここに居るのか。導き出せる答えは、つまり。
「まさか、あいつが代わりに依頼に行った、のか‥‥?」
 無意識に後ろ脚で立ちあがるが、視界はさほど高くならない。その事実に物足りなく感じながら、依頼に行ったであろうキクイチの事を想った。

●小鬼退治へ

「よかった、皆来たわね」
 こんなことがあったからって、受けた依頼――厳密には私達じゃないけれど――を放っておくと後が面倒。とまくるは参加者達を集合場所で待っていた。
「小鬼、つまり獲物。狩りに行く」
 喋るのは不得手なのか、ヴァイスの声は控えめ。しかし殺気のような強い視線でやる気は十分。
「視線が高いでありんす、手足が長いでありんすーっ」
 はしゃぎ過ぎて服が着くずれてしまっているのはキクイチ、刃兼のイメージをぶち壊す序章は始まったばかり。
「しかし前から思ってたんだがこの布っ切れは邪魔じゃないのか?」
 服を邪魔そうに、脱ぎたそうにバサバサといじっているのはシキ。ナツキの評判も崖っぷちの気配。
「菫の代わりに何とかしてやるのも、相棒の務めだからな。‥‥そこ、脱いでは駄目だ、やめておけ」
 もともとからくりだけあって、桐は忠誠心が高く、面子では唯一の良心。彼女が居ればなんとかなりそうだ。
「それじゃ、行きましょう」

●作戦会議

 まず仲間を探そうと、菫は周囲を探索する事にした。相棒達は、開拓者達に同伴されない間は港で待機するように訓練されている存在だ。ならばそれと違う動きをする者を探せばいいと考えたのである。
(結構、自由に動けるんだね)
 訓練されているからこそ、相棒達の専用区域より外に出ない範囲なら行き来はし放題。とはいえ同種で集まっている様子が多いのは、それぞれに過ごしやすく用意された区域があるからだろう。
(あれ、なんだか挙動不審な子がいる?)
 視線の先には、喋る相棒。鳥やら龍やらの喉が人の言葉を発する不思議現象に、引き寄せられるように菫は近寄っていった。
「ねえ、もしかして、きみも変態‥‥と言うか入れ替わり?」
「話が分かりそうな奴、他にも居るじゃん」
「良かった‥‥でいいのかな」
 羽ばたいたり大声を出していたルオウの声に導かれて、ナツキ達も既に合流していた。彼の足元に刃兼と晶秀も居る。
「一人でこの状況に放り込まれる事に比べたら、悪くない状況だと思うね」
 刃兼の声に、そう言えばとナツキが思いだす。
「よりによって同じ依頼を受けた面子でこうなるなんて‥‥」
「こんな事ってあるんだなあ」
 のんびりとしたルオウの声。そのまま腕を組もうとしたようだが、バランスを崩しただけで溜息が出る。
「これじゃあ予定してた依頼にも‥‥いや、行く事はできるかも?」
 相棒達が退治に行っているとは言え、気になるものは仕方ない。
「抜け道を探すとか?」
「いや、一日一度、外に出してもらえる時間があったはず」
「あまり遅い時間だと、追いつくのも大変にならないか?」
 菫の案は可能性の話、ナツキの記憶はタイミング次第。ルオウの言葉に再び三者は頭を捻る。とりあえず、両方やってみればいいのでは? と、方針は纏まった。

 相談に混ざらずに眺めているのは刃兼。
「無理に依頼場所に向かって入れ違いになるのもアレなので、大人しく港で待機しておくよ」
 そう言う刃兼は、普段の相棒の様子を思い浮かべる。
「キクイチなら、小鬼退治ぐらい難なくやり遂げるだろ‥‥多分」
 少し不安がよぎった気もするが、長年のつきあいを考え振り払った。
「なにぶん猫だから」
 仲間がいると知って安心したのか、晶秀も待つ姿勢だ。

●力技

「とにかく! まずはこの港から脱出する事だよな!」
 陽射し柔らか、日向ぼっこの誘惑に少し気をひかれるけれど、ルオウは翼を広げ気合を入れた。
「んじゃあとりあえず! 空を飛べる俺が空から見回ってみるぜぃ!」
 強く踏み出して宙に。風を捕まえて、その一部になる。
「おおっ! 飛べた飛べた! すげー! お、風が気持ちいーなあー‥‥」
 春の香りも混じる風を感じ、ヴァイスも普段はこうなのかと羨ましさが募る。いっそいつまでもこうしていたい‥‥
「って、ちげーーーーー!」
 偵察の為の飛行だということを思い出し、眼下に広がる港や設備等、地形を把握しようと努める。くるり、くるりと旋回。どう動いていけばいいのか、ルートを見定め、脳内にしっかりと焼きつけてから仲間達の所に戻る。
「‥‥恐ろしい罠だったんたぜ」
 戻るなり、羽で頭のあたりを拭う仕草をするルオウ。
「そんなに警備が厳しいのか」
 空は飛べるが大きくて目立ってしまうと偵察を自粛していたナツキが、ルオウの仕草で勘違いしそうになる。
「あたし達も探検した分、見取り図を作ってみたよ」
 簡単なものだけどと菫が取りだす紙を見ながら、ルオウが見てきたものを報告する。それにあわせて菫が書き足していけば、ルオウの脳内で描かれていた脱出経路も形になった。
「監視と見回りのタイミングも確認したけど‥‥」
「外に出られる時間も昼過ぎだそうですし、自分達で突破するしかないみたいです」
 考え込んだ菫の後を引き継いで、ナツキが続けた。それで菫の覚悟も決まる。
「そうだね、何か仕掛けて騒動を起こし、その隙に脱出だ」

 待機場所を脱出したナツキ、菫、ルオウの三者は空を駆けていた。菫はナツキに騎乗している。目的地に直線距離で向かえるのは利点だ。
「出てしまえばこっちのもの‥‥!」
 炎龍のシキの体は大きくて目立ってしまうが、騒動を起こしたおかげで見咎められずに飛び立つ事が出来た。後の巡回時に不在がばれてしまう可能性は残っているが、時間が稼げればそれで十分だった。
(う、わぁ‥‥!)
 眼下に広がるは神楽の都。普段シキの体の上で感じ取っているものではなく、そのシキ自身の体になったことで、風や陽射しや空気の匂いも全く違うものになる。
(なにより、自分で飛ぶって気持ち良いな!)
 ここにきてナツキは飛ぶことへの興味を満たせたのだった。

●にゃんだほー

「‥‥これは」
 つい登りたくなってしまう段差のある踏み台、高い場所に設えられた通り道、そこに至るまでの階段、ボール、毛糸玉、鼠や鳥や虫を模したぬいぐるみ‥‥猫又や仙猫といった猫系統の存在ならば飛びつきたくなる品揃えに、刃兼は溜息をもらした。視界の端では職員が櫛で毛並みを整えてくれたり、おやつを出してくれていたりする様子が見える。
(‥‥すごく‥‥猫喫茶っぽいです‥‥)
 思わず、自分本来の口調を忘れてしまう。そんな刃兼はおやつの美味しそうな匂いを捉えた。これは魚の油漬だろうか?
「まぐろね」
 結構いいもの出してるみたいね、と晶秀が言う。
「そうみたいだ‥‥しかし、お互い災難だよな」
 意図せずにしみじみとした声が出てしまった。
「‥‥夢なら楽しんじゃえばいいと思うわよ。とりあえず食べましょう」
 夢以外あり得ない、夢としか認めたくないといいつつ積極的に受け入れつつある受付係に、刃兼もそうであればいいと思った。
(キクイチの体が欲しているだけで、俺はそんなに好きなわけでは‥‥ああ、でも美味いな)
 まんざらでもない様子で櫛を通されたり、陽射しの柔らかないい場所を陣取ってみたり‥‥猫生活を満喫する事にするのだった。

●作戦っておいしいの?

「とにかくアイツの代わりに小鬼を倒せばいいんだな」
「そうよ。皆普段から戦い方を見てると思うし大丈夫と思うけど‥‥ああ、そろそろかしら」
「小鬼、倒す!」
「少しくらい作戦を確認してから行け」
「倒す! 邪魔するな、桐!」
「せわしないでありんすねえ」
「怪我しても治せると思うし、突っ走ってもいいんじゃない?」
「いいぜ、どんな姿でもオレは強いって所を見せてやるよ!」
「‥‥気を使ってやろうと思うのはわたしだけか」
「桐はん、気にしいも過ぎると疲れますえー?」
 遠目に見えた小鬼に突撃しようとするヴァイスに、楽しむ気満々のシキ。楽観的なキクイチとまくる。桐の心労は途切れそうになかった。

 戦闘ともなれば空気は切り替わる。
 術で更に素早くなったヴァイスとキクイチが前に出て斬りかかっていく。回り込もうとする小鬼はシキに動きを鈍らされたり、桐に吹き飛ばされ別の小鬼ごと倒れたりしながら攻撃そのものを邪魔されていく。まくるの応援もあるようで、各々の攻撃も重くなっていた。
 普段目にしている戦闘、そして開拓者達の体そのものが覚えている動き。相棒達は順調に小鬼達を倒していった。
「ヴァイスーーー!」
 いち早くルオウが辿り着き、同化する。小鬼達の殲滅まであと少しだ。

●出会ったくらいじゃ終わらない

 遅れて到着したナツキと菫は、降りられる場所を求めながら眼下の様子を確認していた。
「な、なんだありゃ‥‥俺がいる‥‥」
 予想をしていなかったわけではない。だが自分の体の中身がシキになっている現実に息をのむナツキ。
「‥‥よかった、小鬼は退治できたみたい。ナツキ君、あの辺りなら降りれそうじゃない?」
 戦闘が終わったのを確認し安心した声で菫が言えば、首だけで頷いてナツキが滑空していく。

(菫の事だから、恐らく必死にこっちへ向かっているんだろうな)
 途中まで迎えに行ってやるか。あれでも、可愛いところあるし、あたしの体になっているのかも確認したいね‥‥戦闘を終えて頭を切り替えようとしたところで、上空から聞き覚えのある声が降ってくる。
「桐ちゃーん!」
 ああ、本当に菫なんだなと、自分の体を見ながらどこか他人事のように考える。
(私はこういう風に見えるのか)
 客観的に自分を見る機会というのは興味深いものだ。そうだ、次に作る細工の参考にできるかもしれない‥‥仕事も終わり菫とも合流したことで、知らず口元も気持も緩んだ。

「おっナツキじゃん、おとなしく留守番しててくれてもよかったのに」
 心配するようなことはなかったぜ? 幸いにも、服を脱ごうとした事は誰からも言及されずに再会を果たす。
「本当に、シキなのか?」
 普段は会話ができるわけではない分、嬉しさ半分驚き半分といった様子のナツキに当たり前だろと笑いかける。元は自分の体だ、些細な違いで表情を読むくらいわけない。
「そっか‥‥そういや、これってちゃんと元に戻るんだよな‥‥!?」
「まぁあんまり気にすんなよ。なんかあったらオレが守ってやるからさ」
 元に戻ろうがそのままだろうが、お前はオレの相棒だからな、そうだろ?

「お疲れさんだ、ヴァイス!」
 入れ替わっても俺達のコンビネーションは鈍らないな! 満足げに笑うような声でルオウが言えば、くるくると自身の周りを飛び回る彼にしっかりとヴァイスも頷き返した。
「力、出した‥‥少し、物足りない」
「また別の仕事で一緒に暴れようぜ。今度はもっと強いアヤカシがいーな!」
「倒し甲斐、大事」
 道中ほとんど無表情だったヴァイスも、ルオウと一緒なら笑う事もあるようだ。

「刃兼はーん、ただいま戻りましたえー」
 気配を感じて一目散に駆け寄った刃兼を迎えるのは、気の抜けた、自分のものとは信じたくない声。
「‥‥ほ? なんでうずくまってるでありんすか?」
 頭でも痛くなったのかとしゃがみこんで尋ねてくるキクイチに、うずくまり頭を抱えたままの刃兼はなんとか平静を装った声を出した。
「い、いや‥‥なんでもない。少し放っておいてくれるか」
 長い付き合いだ、こいつの喋り方は重々承知している。だから聞き慣れていると思っていたはずなのに。
(脱力感ハンパないんだが‥‥)
 小鬼退治、わっちがんばりましたんえーと楽しげに報告するキクイチは狙ってだか自然となのか衣服も少々着崩れていて、直させる気はないと思いつつも、こっそりと溜息をついた。

●夢のあと

「怪我、皆なくてなにより‥‥っ?」
 自分の寝言に驚いて、晶秀は目を覚ました。見慣れた天井、見慣れた寝床。自分の部屋だ。
「ちゃんと戻ってる」
 手を見て確認するように声を出した後、首を傾げた。
「‥‥何のことかしら?」
 自分で自分の言葉がわからない。そうだ、きっと変な夢でも見たのだろう。