崩壊書物の乱
マスター名:犬彦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/13 00:44



■オープニング本文

 その店の綽名は、崩壊書店。
 初めにそう呼び始めたのは誰だったのか。其処は、街外れの通りにひっそりと存在している。
 店構えはお世辞にも綺麗とはいえず、土埃を被ったボロボロの看板からは元の店名は読み取れない。
 かろうじて読める“書”という文字から、書物を扱うのかもしれぬと予想できる程度だ。
 今では店主も病床に伏せり、長らく閉店状態――

 そんな店の前。
 黒髪をさらりとかき上げて、看板を見上げる少女が一人。
「此処ね、お爺様のお店は。崩壊書店だなんて聞いてたけれど、ただ見た目が古いだけじゃない」
 彼女の名は文花。
 長い黒髪に藍の瞳。年の頃は、十八、九歳程度か。
 実祖父である老主人の代わりに、長らく放置されていたこの店を継ぐ事となった少女だ。
 文花の隣には、三毛の斑模様のもふらさまがちょこんと行儀良く座っている。
 もふらさまは店戸に手を掛けた少女をのほほんと見上げると、大きな欠伸をした。
 土汚れだらけの扉は建て付けが悪く、ガタガタと鳴る。
 それを文花が思いきり開け放った瞬間、舞い上がった埃が一人と一匹を襲う。
 文花はけほけほと咳き込み、もふらさまも堪らずくしゅんくしゅんとくしゃみを連発。
 舞う埃が収まった頃、口元を押さえていた文花は呆気に取られる。
「何よ、この有様は‥‥っ」
 戸の向こうは――正に“崩壊”していた。
 天井まで続く書架から、奥に置かれた会計用の机の上まで。
 店内は溢れんばかりの本。本。本。
 ざっと見ただけでも数百冊は並んでいるだろうか。兎に角、一面が本だらけだ。
 但し、机上の本は危うい均衡で堆く積み上がっており、書架の中もかなり不揃い。
 その並べられ方に規則性など無く、続きものと思われる本も連番通りに並んでなどいない。
 一部に至っては書架から崩れ落ちたかの如く、床に散乱している始末。
「お爺様‥‥私、今やっと崩壊と呼ばれた理由が解ったわ」
 この惨状は、物取り等にやられたのではない。おそらく、店が放置される前からこの状態だったのだろう。
 祖父が道楽でやっていた店とはいえ、流石にこれはないだろうと文花は頭を抱える。
「これから、とっても忙しくなりそうね」
 傍のもふらさまに語りかける少女は、溜息混じりに軽く肩を落とした。

 そして数日後、開拓者ギルド内。
 ギルドへお手伝いさん募集の依頼を持ち込んだ文花は、集まった開拓者に問う。
「あなた達、本は好き? この際、好きじゃなくても構わないけれど」
 此方に真っ直ぐに向けられる、ぱっちりとしたやや釣り眼がちの瞳は勝ち気な印象を与える。
 元より問いの答えは求めていなかったのか、さくっと切りあげた文花は依頼の内容を語りだした。
「あなた達にしてもらいたい事は、うちの店の書架の整理と本探しよ」
 場所は彼女の所有する書店。
 整理とは云っても、溜まった埃や蜘蛛の巣を除去してからになるのでど大掃除に近い。
 不揃い過ぎる本の並びも綺麗に纏めて欲しいという事で、作業は重労働にもなる。
「力仕事なら、このもふらさまも手伝ってくれるわ。頼りにしてあげてね」
 文花が足元で遊んでいたもふらさまを紹介すると、彼は任せろと言わんばかりに「もふゅ」と胸を張った。
 そして、もうひとつの依頼。
 こちらは出来たらで良い、と付け加えられた。
 文花が偶然見つけた店の在庫目録に、彼女が読みたかった本が含まれていたという。
「その本が見つかったら、私に渡して欲しいの。見つけてくれた人には、報酬とは別に一寸したお礼をするわ」
 でもあまり大きな期待はしないでねと、文花は悪戯っぽく、くすりと笑った。
 開拓者達に探して欲しい本の目録を渡すと、彼女はくるりと踵を返し外へと向かう。
 意気込んで歩き出す文花の後を、もふらさまがとてとてと追う。
「そうと決まったら早速行きましょ! 善は急げともいうしね」
 日が暮れるまでに終わらせるわよと告げる少女は、妙なやる気に満ちていて。
 どうやら、今日は長い一日になりそうだ。


■参加者一覧
一之瀬・大河(ia0115
21歳・男・志
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
エルヴィア(ia5442
22歳・女・シ
華雪輝夜(ia6374
17歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓


■リプレイ本文

●幕開け

 雲ひとつない青い空。外は見事なまでの秋晴れ。
 時折吹いてゆく風は少し肌寒くも感じるが、陽射しが暖かく心地良い日だ。

 外の通りから差し込む光を眩しそうに眺め、華雪輝夜(ia6374)は視線を本棚に戻した。
 書店内は外とは打って変わり、昼とは思えない程に薄暗い。その上、異様に散らかっている。
「‥‥本がいっぱい‥‥」
 だが、輝夜の表情は嬉しげに見えた。古書といえど、大量の本に囲まれている様は本好きとしては堪らない。
 珍しい本があるかもしれないと、そわそわしている彼女はとても幸せそうだ。
 ふと、店内の様子をざっと眺めたエルヴィア(ia5442)は呟く。
「本当に人の手入れがなかったのですね」
 溜まった埃を指で掬い、ふっと息を吐くとその塊がふわりと舞い上がった。
 エルヴィアが担当する場所は入口の傍故にまだ良いが、奥に行けば行くほど崩壊は広がっている。
 しかし侍女としての教育を受けてきた彼女ならば、整頓など造作は無いだろう。
 掃除のしがいがありそうですね、と。エルヴィアにも、依然やる気が入るもの。
 その奥、からす(ia6525)は思わず咳き込み、口元を抑えていた。
「けほ、けほ‥‥っ」
 室内に充満している淀んだ古い空気が目に染み、彼女の目尻には涙が浮かぶ。
 だがそのような状況にも負けず、ぱたぱたと埃を払い更に奥へ進むからすの姿は実に健気だ。
 其処へ、大丈夫かと声が掛けられた。
「かなり埃っぽいな。まずは窓を開けた方がいいか」
 巴 渓(ia1334)が棚と棚の間に申し訳程度に見えている窓を見つけ、手を伸ばす。
 立て付けの悪い窓を苦労しながら開け放つと、爽やかな風が吹き抜けて渓は満足気に頷いた。
 そして奥からは手伝いを要請された店主、文花も掃除用具を持って出て来る。
 その後ろには、荷運び用に背に引き車を結わえられたもふらさま。其々、やる気は十分にあるようだ。
 何にせよ、まずは整理を始める前に大まかな掃除をせねばならない。
「始めようか。日が暮れるまでには終わらせたいものだ」
 文花からハタキを受け取り、一之瀬・大河(ia0115)が窓越しに空を眺める。
 夕暮れまではまだ時間もあるとはいえ、のんびりとしていたのではきっと間に合わないだろう。
 開拓者達は頷き合い、其々の担当場所に就いた。
 ある者は袖を捲くり気合を入れ、またある者は途方に暮れそうな本の量に溜息を吐いて。
 崩壊書店にて――いざ、大掃除の幕が開ける。

●本の海に埋もれて

 ――がたん。
 崩壊の序曲は、小さな物音によって告げられる。
「ん? 今、何か変な音がしなかったか」
 掃除を始めて暫く。詰まった本棚から、何とか本を取り出した渓が訝しげに辺りを見渡す。
 誰かが本を床に置いた音だろうか。だが、それにしては大き過ぎる音だった。
「‥‥確かに、妙な音です。まるで軋む様な‥‥」
 輝夜も不思議そうに周囲に視線を巡らせる。
 ――ぎ、ぎぎぃ。
 もう一度、次は先程と違う物音。エルヴィアとからすも、言い知れぬ悪い予感を感じていた。
(「随分と高い場所に本が置いてあるのだな」)
 何かに気付いた様子の大河は、からすの身を護るかのように咄嗟に本棚と彼女の間に周り込んだ。
「う、わああぁッ!?」
 突如、大声が上がったのは入口付近の西側。即ちそれは渓の声だった。
 悲鳴に近い声と同時、付近の本の山が崩れ始める。
 全ては一瞬の事だった。
 それは文字通り、雪崩の如く。轟音を響かせ、崩壊は隣の本棚へと次々と連鎖していく。
「ちょっと、何よ今の音! 貴方達、大丈‥‥夫、じゃなさそうね。本が‥‥」
 外で敷物の用意をしていた文花も慌てて中へと入り、思わず絶句する。
 西側の入り口部分から奥の机に至るまで、壁側の本殆どが床に散乱していたのだ。
 いてて、と積もった本の隙間から渓が顔を覗かせる。
 大河に庇われる形になったからすも、ごそごそと棚の下から自らの身体を引っ張り出した。
「うぅ、不覚だ。すまないな、一之瀬殿」
 心配そうに大河を見遣るからすに、気にするなと彼から言葉が告げられる。
「問題は無い、こうして無事に動けているのだからな」
 三人には大きな怪我や痛みもなく、大事には至らなかったようだが――
 彼らはこの場所を甘くみていたのやもしれない。
「そうか、だいたい分かった」
 やっと本の海から這い出た渓がぽそりと呟く。
「それなりに慎重に行う必要があるようですね」
 無事だった東側から、皆の思いの代弁するような冷静なエルヴィアの言葉が紡がれた。

 改めて。崩壊部分以外の掃除を終えた彼らは、本格的に本の運び出しに掛かる。
 一時的に本を外へ持ち出し、分別を行ってから本棚に納めようというのが彼らの作業予定だ。
 外ではエルヴィアが用意した綱と敷き物が並べられ、次々と本が置かれる。
 虫干しがてらにも、外へ出す事は最適な選択だっただろう。
 崩壊の結果として、棚から本を下ろす手間が省けて良かったじゃない、というのは店主である文花談。
 どうやら本への衝撃については大目に見ているらしい。
「ま、怪我の功名って奴だな」
 渓が冗談めかして言うと、怪我はしていないがなと、大河が返す。
 その言葉にひらひらと手を振る渓が手にしているのは、先に借り受けていた書店の在庫目録。
 記されているのは、癖のある字で書かれた本の題名らしき文字列。
 所々に横線を引かれた題を確認する事が出来、線の脇には小さく『販売済』と追記されている。
「この目録ってのは、つまり‥‥」
 渓が言葉を紡ぎ終える前に、後ろから目録を覗き込んだエルヴィアが二の句を続けた。
「残念ですが、分類分けが記されているのではないようですね」
 区分の場所情報でもあればと考えたのだが、どうやら地道に自分達で見て判断するしかないようだ。
 そんな会話が為されている中、優先的に空けられた店の中央通路をもふらさまが本を運びながら歩いていく。
 人がすれ違うのも困難な通路の脇、輝夜は小さく呟いてもふらさまを見つめていた。
「もふらさま‥‥いいな‥‥」
 その姿が完全に外に出たのを見た後、輝夜は本の整理を始める。
 この付近は動植物に関する書籍が多いようだ。輝夜は軽く見渡すと、比較的綺麗な場所へと手を付けた。
 外に運び出す本を選別しながら、気になった本を少しずつ手帳に記す。
「‥‥今はダメ。終わらなく、なる‥‥」
 読みたいと思う衝動をぐっと抑えて、輝夜は敢えて本棚から視線を外した。
 その時、ふと床に落ちていた一冊の本に目を奪われる。
「これは‥‥?」
 覚えのある題名は、そう――『もふらさま観察日記』だ。
 ぱらぱらと頁を捲って内容を眺めて見る。これが探して欲しいといわれていた本に間違いない。
「あら、文花様がお探しの本が見つかったのですね」
 運び出しの途中だったエルヴィアも本に気付き、よかったですね、と静かに告げた。
 輝夜は頷き、店外で忙しなく本の仕分けをする文花へ本を渡しに行く為に外へ向かう。
 きっと彼女は喜んでくれる筈だ。同じ本好きとして、読みたい本が見付かる事ほど嬉しい事は無いのだから。

 一方、此方にも本の誘惑と闘う青年がひとり。
 会計用の机上で見つけた一冊を手に取り、中身を軽く眺めているのは大河だ。
 それは積み重なっていた本の中に偶然に紛れ込んでいた童話の本。
「これは元の店主が読みかけていた本なのだろうか。そうならば、気が合いそうだな」
 本は妙に汚れていて、何度も読み返した跡が見て取れた。
 元の店の持ち主は老主人だと聞いている。ならば、子供や孫達に読み聞かせた本なのだろうか。
「む。いかんな。この調子だと終わるかどうかが怪しい」
 ぱたんと本を閉じ、自身への戒めも込めて運び出す本を多めに抱える。
 大河がもふらさまに本を渡し終わると、棚の奥側でからすが頭上を見上げていた。
「どうしたものか、この脚立では届かないな」
 よくよく見れば天井近くの棚には崩壊を逃れた本が幾らか残っている。
 脚立を借りたまでは良いものの、からすが手を伸ばしてみても僅かに届かなかった様子だ。 
「肩車でもするか?」
 不意に大河から提案が投げ掛けられ、からすがこくりと頷く。
 暫しの間が空き――俺は年頃の娘に対して何を言っているのだ、と大河は思い至る。
 だが既に相手は乗り気。今更、無しにしようと断るのも憚られた。
「よいしょ‥‥と。やぁ、いい眺めだ」
 ちょこんと大河の肩に乗ったからすは、普段と違う視点の高さに周りを見渡す。
 こういった事もある故、背が低いのも利点があるのだ、と。
 小柄な彼女だが、特に大きくなろうとは考えて居る訳ではないようだった。
 頭上のからすから渡される本を受け取り、床に下ろしていく大河。
 平静を装ってはいるものの内心動揺中な彼だが、手にしていた本の題名に視線を留める。
「此れは――文花の言っていた巫女姫の本か」
 文字が掠れて読み難くはあるが、その題は『任侠巫女姫のアヤカシ退治列伝・二巻』だ。
 早々に二冊目の探し物が見つかった事をからすが報せると、文花もとても嬉しがっていた。
 
 そうこうして彼らが粗方の本を外に運び終えた時、時刻は既に昼過ぎを回っていた。
 時が経つのは早いもの。誰からともなく、休憩しようという声が上がった。

●和み刻

 休憩がてらに昼食を摂るなら、未だ埃っぽい店内を使うわけには行かない。
 そんな訳で、彼らは外に並べた敷き物の隅に集まっていた。
「腹が減れば戦はできぬ。さあ、どうぞ」
 からすから皆へ差し出されたのは、人数分のおにぎり。
 行楽弁当のように豪華にとかいかないが、彼女が用意したそれは作業区切りの休憩には丁度良い量の食事だ。
 そこへ、エルヴィアが住居部の火を使って沸かしたお茶を其々に注いでいく。
 お茶を受け取って礼を告げた輝夜は、見つかった本を嬉しそうに眺める文花に問いかけた。
「‥‥文花さんは、本が‥‥お好きなんですね」
 輝夜が話しかけると「貴女もなの?」と、少女が表情を輝かせて大きく頷いた。
 何の本が好きだ、あの内容は良かった等と乙女同士の会話は広がり、盛り上がる二人。
 その最中、渓がおにぎりを食べながらふと口を挟んだ。
「俺も本は好きだ。知識や教養を知る良い手段になるからさ」
 二人の少女からきょとんとした視線が向けられ、渓はおどけたように軽く肩を落とす。
「‥‥って何だ、その視線は。てっきり本なんて読まん奴だと思ったか?」
 少女からごめんなさいの一言が告げられ、そこから渓も交えての本談義が始まる。
 横ではもふらさまが日向に寝転がってもふもふと寛いでいる。その姿を眺め、からすはのんびりとお茶を啜った。
 時間も流れ、皆が食事を終えかけた頃、大河が口を開く。
「文花、この辺に団子屋はないか?」
 付近を見渡し、食後の為に買いに行きたいのだと彼が告げると、文花は首を振った。
 生憎、団子を調達できる店はすぐ近くには無いのだという。
 だが彼女は待っていて欲しいと言い、店の奥へと引っ込むと何かの包みを抱えて戻ってきた。
「本当は、本を全て見つけた後にと思ったんだけどね。特別よ」
 そういって皆に差し出されたのは、隣街にある美味と名高い老舗の特製みたらし団子。
 彼女が言っていた報酬とは別のお礼とは、この事だったのだ。
「わたくしも頂いてよろしいのですか?」
 エルヴィアが問うと勿論だという答えが返ってくる。
 和やかに進む時間は、柔らかな秋の陽射しに優しく交じり合って行く――

 それから後、再開された整頓作業は順調に行われた。
 本の誘惑に再び負けそうになる輝夜や、詰まれた本に蹴躓きそうになるからす。
 見事としかいえぬエルヴィアの整頓術に感心が集まる矢先、もふらさまが出てきた蜘蛛に驚いて飛び跳ねたり。
 二度目の肩車をからすに要求され、困り果てた大河の様子を文花がくすくす笑ったり、と。
 忙しなくも作業は穏やかに、しかし確実に進む。
 何よりも重い本をひょいと軽く運んでいく渓の姿は、頼もしくも映っただろう。
 ――そして日も暮れ、太陽が地平の向こうへ沈み終わる頃。
「この本で最後ですね」
 最後の一冊をエルヴィアが本棚に収めると、一同がほっと息を吐く。
 一部の本は棚に収まりきらず、幾らか机に積まれているものも残っていたりはするのだが。
 しかし、それを差し引いても店として機能するには十分な整頓が為されていた。
 細々とした残りをどう納めるかは、後は店主の仕事だろう。
「見違えたな。だが、唯一の心残りは探していた本の一巻か」
 大河が気にするのは見付けられなかった本の事。何処かに紛れて見落としてしまったのだろうか。
 二巻だけだなんて、と肩を落とした少女店主だったが、店を続けていけばいつか見つかる筈だと気を取り直す。
「何はともあれ、お疲れ様だ!」
 渓が皆に声をかけ、作業の労いにと用意した蜜柑ジュースが振舞われる。
 軽い乾杯を交わした後、其々にはやり遂げたという安堵と満足感が生まれていた。

●幕引き、そして

「それじゃあ此れが今回の報酬よ。皆、本当にありがとう!」
 文花から約束の報酬が支払われ、感謝の言葉が開拓者達へ述べられる。
 もふらさまも片付けが楽しかったのか、満足そうな様子で彼らの周りをぴょこぴょこと歩き回っている。
 ギルドにも少女から報告しておくという事と、解散しても良いという旨も伝えられた。
 そこに、輝夜がおずおずと一歩を踏み出す。
「もし良かったら‥‥お買い物、しても良い‥‥?」
 片付けが終わっても未だ開店状態ではないのだが、その申し出に文花は頷く。
 店を綺麗にしてくれた者たっての願い出だ。断りを入れる理由など、何処にもない。
「それならば私も見てみたいな。動物、獣関係で良いものがあったんだ」
 からすも店へと足を踏み入れ、目当ての本の棚へと向かう。
 お客様第一号ね、と店主は微笑み、輝夜も手帳を取り出して何処か嬉しげに店内へ。

 古書の香りに包まれ、本に囲まれる幸せを満喫する彼女達。
 辺りはすっかり暗くなってしまったが、店内からは仄かな堤燈の灯りと静かな談笑が漏れ――
 崩壊書店での一幕は、未だ少し続くようだ。