夕闇手鞠唄
マスター名:犬彦
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/28 23:26



■オープニング本文

 ひとつ、一夜の子守唄。
 ふたつ、二人の磔地獄。
 みっつ、三日月、血ノ池うつし。
 よっつ、四辻の宵闇目玉。
 いつむ、ななやで、極楽七余。
 灯火消えて、ここのたり。

 夕暮れ過ぎ、寂びれた神社に響く声。
 それは、呪いの言葉。死の道へと誘う、手鞠唄――

 煤けた紅い鳥居の下、白い着物を纏った幼い少女がひとり。
 その手には、大きめの手鞠がひとつ。少女は暫しぼうっと虚空を見つめた後、鞠を地面に落とす。
 鞠突きを始める少女の唇から、ぽつりぽつりと小さな声で数え歌が紡がれる。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。少女は無表情ながらも何処か楽しげに、たったひとりで遊び続けた。
 然しその手鞠は地面に落ちて跳ねる度に、徐々に形が歪に崩れてゆく。
 そうして、ついにそれはコトリと音を立てて割れた。その中から転がり落ちたのは、二つの眼球。
 彼女が遊んでいたものは、そう――人間の頭蓋。
 少女は今までと変わらぬ表情のまま、静かに壊れた“手鞠”を見下ろした。

 ――遊んでくれるおともだちを、また見つけなきゃ。

 ふわりと宙に浮かび上がった少女の周囲、何処からか現れた鬼火が揺らめき舞う。
 ふと、鳥居の外に向けられた少女の視線の先。雑木林の道の向こうに、数人の少年の姿が見える。
 新しい友達、否――新たな犠牲者を見定め、少女はにたりと歪んだ笑みを浮かべた。

 数日後。
 開拓者ギルドの職員から、アヤカシ退治の依頼が告げられた。
「そのアヤカシが現れたのは、丁度この辺りです」
 職員は、町の周辺地図を指差しながら説明を続ける。
 少女の姿をしたアヤカシが現れたのは、町外れの雑木林の中にある古びた神社。
 件の場所は神社とはいっても既に廃屋と化しており、危険だという事で出入りを禁止されている。
 だがここ最近、一部の子供達が肝試し半分に神社を遊び場にしていたのだ。
「其処がただの古い神社だったら、彼らは怒られるだけで済んだのですけれど‥‥」
 既に被害は数人。
 現在はアヤカシの噂も広がり、神社には子供達さえ近付かない。だが、このまま放っておく訳にもいかない。
 少女は己の周りに数体の鬼火を従え、夕刻頃になると周辺を浮遊して彷徨っているらしい。
 今の処、雑木林から出る様子は無いようだが、いつ新たな被害が出るとも限らない。
「見た目が少女とはいえ、アヤカシはアヤカシです。これ以上、被害が大きくならない内に‥‥」
 ――危険ですが、向かって頂けますか。
 最後までは口にしなかったが、真剣な職員の眼差しがそう語っていた。


■参加者一覧
天青 晶(ia0657
17歳・女・志
鶴嘴・毬(ia0680
24歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
巳斗(ia0966
14歳・男・志
鬼灯 仄(ia1257
35歳・男・サ
ジョン・D(ia5360
53歳・男・弓
日野 大和(ia5715
22歳・男・志
鬼灯 恵那(ia6686
15歳・女・泰


■リプレイ本文

●日暮れ過ぎて

 夕焼けが鮮やかな朱を映す。
 雑木林には鬱蒼とした木々が生い茂り、暗く成り往く時刻と相俟って奥に進む程に薄暗くなっていくように見える。
 木の葉の隙間から夕陽の色が射す様相は、心境さえ違えば綺麗だとも感じられただろうか。
「この先からは、一本道のようですね」
 天青 晶(ia0657)は周囲へ視線を巡らせ、林の中の様子を探る。
 程無くして見えてきたのは件の神社。
 今は廃屋とはいえど、手付かずの場所と比べればその場所は十分に戦い易い空間となっている。
 未だ此方の気配に気付いては居ないのか、少女アヤカシの姿は見えない。
「手鞠遊びにしちゃ、随分と悪趣味なこって」
 ギルドでの話を思い返した酒々井 統真(ia0893)は、遊びは自分も他人も楽しくなくちゃいけない、と語る。
 彼の言葉に頷くジョン・D(ia5360)は静かに瞑目した。
「その上、未来有る子どもが犠牲になるとは」
 思うのはアヤカシの犠牲者となってしまった子供達の事か。
 前を歩く鶴嘴・毬(ia0680)も、これからのアヤカシ退治への心積もりを口にする。
「これ以上被害者が増えないように元を断たねばな」
 あどけない少女の姿をしていようと、それは倒すべき敵であり、どうあっても相容れない存在だ。
 巳斗(ia0966)はきゅ、と唇を噛み締める。
「情けは不要、ですね。‥‥心の弱さに付け込まれないよう気を付けないと」
 本物の幽霊ではなくアヤカシなのだと自分に言い聞かせ、彼は己を奮い立たせた。
 そして、彼らはすっかり色褪せてしまっている鳥居の前へと辿り着く。
 神社を見据え、心眼を発動させた日野大和(ia5715)が何かを感知した。
 それは人の気配などではない。間違いなく、この気配こそがアヤカシだろう。
 ころり。
 その時、神社の境内から小さな手鞠が転がり落ちてきた。
 人の頭ではないかと用心した開拓者達だが、それはごく普通のありふれた手鞠だった。
 ほっとする間もなく、建物の暗がりの奥から煌々と燃える鬼火を従わせた幼い少女が現れる。
 咄嗟に身構えた彼らの間に、緊迫感が漂う。
「人じゃないのは判っちゃいるんだが、相手をするに気分いいものじゃないのは確かだな」
 警戒を続ける鬼灯 仄(ia1257)が少女の姿を見て、後で飲む酒が不味くなるのだと呟く。
 そんな思いなど露知らず、少女は落ちた手鞠を拾い上げると身構える開拓者達をぼんやりと見つめた。
 その背後、よくよく目を凝らせば少年達のものであろう亡骸が転がっている。
 亡骸に気付いた鬼灯 恵那(ia6686)は、思わず「うわ」と声を漏らしてしまう。
 様子を見るに、アヤカシは少年達が死体になるまで恐怖を与え、喰らいながら遊んで居たのだろうか。
 いくらなんでも自分はあそこまでする趣味はないし、と恵那は胸中でひとりごちた。
 ――ねぇ、あそぼ。
 声こそ聞こえなかったが、少女の唇がそう言ったかのように動き、鬼火の炎が揺らめいた。

●呪い唄の少女

 少女は鳥居を背にし、鬼火はその周囲を守るように左右と正面に分かれている。
 厄介なのは少女のアヤカシだが、鬼火をどうにかせねば彼女へと近付く事は容易ではないだろう。
 いの一番に動いたのは、鬼火対応面子の中で一番の素早さを誇る統真だった。
「悪ぃが、迷惑な手鞠歌はそこまでだ!」
 威勢良く飛び出し、少女にも声を掛けながら真正面を守る二体の鬼火へ向かう。
 まずはアヤカシを二分する事が先決。統真の体から八極門の気が立ち昇る。攻撃に耐える備えは万端だ。
 彼に続くように毬が正面左側の鬼火へ、気を引くための蛇拳を放つ。
 名の通り、蛇の如く繰り出された拳は炎の中心を捉える。そこからは確かな手応えが感じられた。
「効かなきゃどうしようかと思ってたが、いけるみたいだね」
 若干の不安も抱えていた毬だが、鬼火とてアヤカシ。彼女達の攻撃は確実に響く。
 毬の後方、ならば弓も効くのだろうと判断した晶が追撃とばかりに、同じ標的に矢を打ち放った。
「弓の心得も、少しはあるのですよ」
 普段は刀を得意とする晶だが、その言葉通りに矢は一筋の銀線を描いて命中する。
 ぐらりと大きく揺れる鬼火。
 反撃を食らわぬように毬は素早く位置を変え、一歩後退。狙い通り、相手は鞠の方へ引き付けられた。
 正面側のもう一体の鬼火は、目前の統真へと向かって体当たりを仕掛けに飛びかかる。
(「まず酒々井様は押される振りをすると言っていましたね」)
 統真と組み、彼の後方に控えていたジョンは動向を見据えながら思う。
 体当たりの一撃を喰らってじりじりと後ろに下がっている統真だが、本当に押されている訳ではない。
 少女の相手を務める仲間が存分に戦える様、鬼火を引き離す作戦なのだ。
 ジョンの視線が、呟くように唄を紡ぐ少女へちらりと向けられる。その表情は能面のようでもあり、全く読めない。
『ひとつ‥‥一夜の、子守唄‥‥』
 その幼い声には未だ呪いが込められていないのか、ただ微かに歌声が聞こえるのみ。
 鬼火を引き離す毬と統真が順調に距離を開けていく最中、少女の人差し指がすぅっと一点を指し示す。
 華奢な指先で示された先に在るのは、統真の姿――
「酒々井様、お気を付け下さい!」
 一斉に揺らめいた鬼火のただならぬ気配に、ジョンは声高に呼び掛けた。
 案の定、鬼火達は攻撃の照準を統真だけに定めつつある。全てから炎を受ければ、気を纏う彼とて危うい。
「おっと、簡単には行かせないよ」
 毬側の鬼火が炎を噴こうとする直前、彼女の鋭い一言と共に毬の蛇拳の一撃が与えられる。
 その攻撃により揺らいだ炎の体は次第に萎むように小さくなり、完全に消え去った。
 そしてもう一体、今まさに統真に襲い掛からんとする鬼火へとジョンが矢を番える。
「集中攻撃なんて‥‥させません」
 ほぼ同時に、晶も精霊の力を借りた一矢を標的目掛けて放つ。
 一瞬の間にジョンと晶の鋭い矢に貫かれた鬼火は、攻撃を行う事も出来ずにゆらりと揺れながら消失した。
 それでも鬼火は未だ残っている。少女の左右に浮かんでいるそれらは、統真へ勢い良く炎を吹き付けた。
「まだまだ、負けねぇッ!」
 襲い来る痛みと熱さ。八極門の効果もあり、統真は自身の気合で耐え切った。
 残りの鬼火は二体。あと少し押し切れば――此方の勝機が見える。

「今だ。一気に向かうぞ」
 鬼火が倒された機を逸早く察した大和が仲間達へ声を掛ける。
 障害となっていた鬼火は既に消え去っている。大和の声に呼応するようにこくりと頷き、巳斗が弓を構えた。
 恵那もまた、その小柄な身体に似つかわぬ蛮刀を手に、少女の元へと駆け出す。
「その唄、素敵だね。‥‥あなたを死に誘う手鞠唄、自分で楽しんでね」
 不敵に笑った恵那の様子を気に掛けながら、仄は炎魂縛武の力を使い彼女の得物に紅の炎を纏わせる。
 その横を擦り抜け、放たれた巳斗の矢が少女へと真っ直ぐに向かう。
 そして大和も近付き様に一撃をお見舞いし、恵那も炎を纏った刀を振り下ろした。
 だが、どの攻撃に対しても相手は一歩下がったのみで大きな反応は見せない。
「衝撃はあったはずだが、痛みを感じてないのか?」
 痛覚のないアヤカシなのだろうかと、仄がその様子を見据えて首を傾げる。
 無表情のまま、少女は持っていた手鞠を翳すと大和に向かって投げ付けた。
「く‥‥過去にはもう戻れない。あいつはもういない。いないんだ!」
 相手を正面から見た大和は沸き上がった過去の思いを振り払い、手鞠を剣で切り裂くように受ける。
 剣越しに衝撃が伝わり、瘴気の塊であった手鞠は霧散した。
 すぐに次の矢を番えようとした巳斗は、ふっと妙な違和感を覚える。
『ふたつ、二人の磔地獄‥‥』
 突如、巳斗の脳裏に響いた声。それは少女の囁くような歌。
 ずきりとした鈍痛に巳斗は思わずよろけ、頭を抑えてその場に蹲ってしまう。
「気をつけて、下さい。手鞠唄が直接、頭に響いてきます‥‥っ」
 巳斗が痛みを堪えながら立ち上がり、仲間に注意を促す。
 しかし傍に居た仄には瞬時に何が起こったのかさえ分からず、歌声も聞こえなかった様子。
 呪いの唄は強力なれど、一度にひとりの相手にしか聞こえぬようだ。
 大丈夫か、と言い掛けた仄の言葉は紡がれないまま、彼の視線は少女へ釘付けになった。
 ――少女は、哂っていた。
 苦悶の表情を浮かべている巳斗を見て、ケタケタと。実に愉しそうに。
 ただならぬ様子に、大和もじりじりと後退して様子を見ざるを得ない。
 眼を見開いて口角を吊り上げ、ニヤリと笑む愉悦の表情は幼子のものとは思えないほど邪だった。
 一同に緊張が走る。
 これが少女――否、アヤカシの本性。
 襲われた少年達はソレによって何よりも深い恐怖を味わわされたのだろう。
「さすがアヤカシ。あれと比べると、私はまだまともなんだね」
 くすくすと恵那が笑う。手鞠の少女と比べれば、それはとても無邪気に映った。

 その頃、鬼火を相手にする四人はうまく残りの二体を分断して、誘き寄せていた。
 少女の様子も視界に入ってはいたが、毬達は気圧されずに鬼火を倒す事へと専念する。
「合わせて行くぜ、D」
 もう一押しで倒せると判断し、統真は後方のジョンへ呼びかけた。
「承知致しました」
 短く応えたジョンは弓を構え、何時でも彼に合わせられるように機を計っている。
 統真の身体の痛みは未だ残っていた。だが、後ろを支えるジョンが居るからこそ敵に立ち向かう事が出来る。
 鬼火の体当たりをひらりと避けた統真は渾身の気功掌を喰らわせ、其処にジョンの矢が続く。
 二人の攻撃に掻き消される様に炎が散った。
 残る鬼火は、一体。
「こちらも、一気に片付けてしまいましょう」
 晶の言葉に大きく頷いた毬が、素早く蛇拳を放った。
 浮遊する鬼火はひらりと毬の拳を避けたが、晶が打ち込んだ矢が精霊の力を纏い、その炎の体を貫く。
「これで終わりにしとかないとな!」
 避けられたお返しとばかりに、毬が再び揺らめく鬼火に力いっぱい攻撃を叩き込む。
 ゆら、ゆらり。最後のひとつだった灯火が、完全に消え去った。

 歪んだ笑みを浮かべる少女は、目前の恵那を指差す。
 しかし、既に従えていた鬼火は全て倒されており、何も起こる事は無かった。
 隙をついて少女に向かう大和に、少女の鞠が投げつけられる。ぎりぎりで其れを避けた彼の口元が緩んだ。
「と、この笑みはよくないな‥‥」
 つい出てしまった笑みを押し込めた大和はそのまま少女へ斬り掛かる。
 反対側より仄の炎魂縛武を受けた恵那も刀を振るい、少女の浮遊する身体がぐらりと揺れた。
「アヤカシでもしっかり感触あるんだね、ふふ」
 恵那が身を翻すと、巳斗の放った矢が少女に突き刺さった。
 立て続けに繰り出される攻撃にも彼女は歌う事は止めず、仄の脳裏に呪い唄を響かせる。
「く‥‥」
 直接脳裏に響くような痛みに耐え、奥歯を噛み締める仄。
 ――おともだちに、なろ。
 少女はまるでそう言っているかのように目を細めた。その様子を見た巳斗は、己の思いを露わにして憤る。
「命を奪う事でしか、友と呼べないだなんて‥‥そんなの、間違ってます‥‥!」
 其処に鬼火を倒して駆けつけた四人の攻撃が加わった。
 毬と統真は真横から少女へ向かい往き、晶は放つ矢に精霊の力を込めて。
「失礼。少々強めに撃たせていただきます」
 三人の攻撃が止んだ瞬間、すかさずジョンが朔月を打ち放った。
 少女はもう目に見えて弱っている。今ならば、当たり難い攻撃も当てる事が出来るだろう。
 蛮刀を振り上げた恵那の一撃が、見事に少女の肩に食い込む。
 手鞠を胸に抱えた少女に縋る様な瞳を向けられた大和は、視線を合わせないように横を向いた。
 今更、子供の見掛けを利用した弱みを見せたとて、時は既に遅い。
 ぎりり、と引き絞られた巳斗の弓が撓る。
「あなたの様な方の友になるだなんて、こちらから願い下げです」
 凛と告げられた言葉と共に、炎を纏った矢が少女の頭蓋を一直線に貫いた。
『灯火‥‥消え‥‥‥あ、あ‥‥』
 歌にさえならなかった言葉を紡ぎ、少女はその場に崩れ落ちる。
「終わった、か」
 彼女を形作っていた瘴気が霧と化す様子を見つめ、仄が小さく呟いた。

●終わりの静けさ

 全てが終わった時、夕日は殆ど沈みかけていた。
 夜へ映りゆく空の色合いは、静かに佇む廃屋をより一層物寂しく感じさせている。
 薄暗い空を見上げた後、晶は持参していた薬草と包帯を使い怪我人の手当てを始めた。
「少し染みますが、我慢して下さいね」
 完全に傷を癒せる訳ではないが、彼女のてきぱきとした動きは応急手当てとして上出来だ。
 一番疲労の見える統真は手当てを受けながら、傍に控えていたジョンを見上げた。
「さっきも思ったんだが‥‥姓で呼ぶなって言ってんだろ」
 戦闘中、姓名に様付けで呼ばれた事について統真がぽつりと漏らす。
 それが彼の癖だという事は分かっているのだが、どうしても気に掛かってしまう。
 嫌がられているように感じたジョンは暫し考え込み、こう告げる。
「それでは、今後は統真様とお呼びいたしましょうか」
 苦笑いながらも、頷く統真。何だかんだで納得した様子に、ジョンは行きましょうか、と前方を見て促す。
 その先には子供達の冥福を祈る毬、そして大和の姿がある。
「安らかに眠れるように祈ってやらないとな」
 折角神社に来たのだからと、毬は犠牲者の事を想う。
 其処に、気まぐれに子供達の供養事を始めたのは恵那。
「清め塩でも撒けばいいのかな。なにかちょっと違う?」
「おいおい、お祓いじゃないんだからよ」
 本当に塩を撒きそうな彼女に突っ込みを入れ、仄は困ったように息を吐く。
 仄としては同じ姓を持つ者として気には掛かるのだが、己もとやかく言える立場ではないと肩を竦めた。

 そしてジョンと統真、晶も仲間に倣い、静かに瞳を閉じる。
 鳥居に花を添えた巳斗は、手を合わせてお悔やみの言葉を送った。
「こういった悲しい依頼を増やさない為にも、ボク達が頑張らなければいけませんね」
 その口調に込められた思いは強く、そして静かに響く。
 残された遺体をどうこうするのは彼らの仕事ではない。然るべき人物、依頼主に任せるのが良いだろう。
「では、行くとするか」
 大和が呟き、踵を返した。事を終えた彼らには報告という仕事が未だ残っている。
 その場を離れる開拓者達の最後尾、晶がふと振り返って鳥居へと視線を遣る。
(「少女を斬って心を痛めているのは、私かもしれません‥‥」)
 その思いは口にされる事は無く、彼女の中だけに仕舞われた。

 開拓者達が去った後、冷たい風が廃屋の神社に吹き抜ける。
 もう此処で呪いの手鞠唄が歌われる事も、アヤカシが現れる事も無い。
 後に残るは――夕闇を湛えた静寂のみ。