|
■オープニング本文 ● 「へたくそ」 言い放たれた言葉に、木刀を振り回していた青年が肩を落とした。白髪の女は舌鋒を緩めない。 「肘が張りすぎ。踏ん張りが甘い。何より重心ぶれてる。どこをどうやったら切れるかほんとにわかってるの。町一番ってただの力自慢の間違いじゃないわけ」 「そ、そう言うのなら手本を見せてくださいよ!」 「……」 めんどうくさそうに顔をしかめつつ、女は包帯にくるまれた手を腰の刀にかけた。すらりと抜き放って構える。 無駄なく、力みもない姿勢。なめらかに踏み込み振り下ろす。空気を切る音。 どこまでも無駄を削ぎ落とした太刀筋。 「で」 肩越しに振り向いた色のうすい目は、きわめて冷ややかだった。 「わたしは刀を抜くのが心底嫌いなの。抜かせたからには理解してきちんとできるんでしょうね」 「は、はぁぁ!? できるわけないじゃないっすか! 一回こっきりで!」 「そう。つまりわたしに無駄な労力を払わせたというわけ。お金とるわよ」 「がんばります! 誠心誠意がんばります! ですからどうかそれだけは!」 ため息ひとつ。それが許容の合図だと察して、青年は再び木刀を構えた。 「……へたくそ」 気にしたら負けだ。気にしたら負けだ……! ● その町にはご神体がある。 「榎並のつるぎ」。かつて町を救った英雄の刀だといわれている。いろいろあって崇められるだけだったそれを、開拓者のひとりから祭りの演舞に使っては、という提案がなされ、使い手が選ばれたわけだが……。 「水盛はどうだい」 縁側で青年を見守りつつ白湯をすする匂霞に近づく男。町長である。 「だめね」 ばっさりであった。 「……おめがねにかなわないか……」 「顔と体格で選んだんじゃないの。重心定まってないわよあいつ」 「別にそういうわけでもないんだがねぇ……」 「あんな男にあの子を任せるなんて。ぞっとするわ」 「そこまで言うか、そこまで」 「適正な評価こそ今後に繋がるわ」 「……暮谷、演ってくれないかい?」 こと、と匂霞は空にした湯飲みを置いた。 「無理ね」 「いや、でもねぇ……。暮谷は身のこなしもいいし、刀差してるじゃないか」 「わたしは完璧主義なの。 付け焼刃で適当なことをやるのは主義に反するし、研ぎ以外を極める気もないわ」 今研げなくてもね、と言外に主張する。爪先まで包帯に覆われた手に、町長は微かに眉をひそめた。 「言っておくけれど、わたしのこれはただの手荒れよ」 「ひどくなっていないか。去年はそんな、包帯なんて……」 「うちの薬師が過保護なのよ。べたべたと薬塗りたくってぐるぐる巻きにしてくれちゃって。皮膚が再生するまで研ぎ禁止ですって。あいつ何様のつもりかしら」 「よほど腕のいい方なんだ、暮谷がおとなしく言うこと聞くなんて」 「……別に。普通だと思うけど」 彼は笑みを浮かべて言葉を続けなかった。少し不満げに顔をしかめつつも、それより、と話題を戻す。 「あれ、当日までにものにならないわ。もう一週間切ってるじゃない」 「どうにかしてくれ、暮谷」 「いや。また開拓者にでも頼めば」 「また怒られるかもしれないじゃないか」 匂霞は彼を見つめた。 「怒られるがいいわ」 いつまでたっても、彼はほんとうに頼りない。 ● 受付嬢が少し申し訳なさげに問うてきた。 「剣舞、など嗜んでいらっしゃいませんか?」 なんだ、それは。 |
■参加者一覧
鬼島貫徹(ia0694)
45歳・男・サ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
熾弦(ib7860)
17歳・女・巫
巌 技藝(ib8056)
18歳・女・泰
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志
音羽屋 烏水(ib9423)
16歳・男・吟
秋葉 輝郷(ib9674)
20歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● ひとつの題目に沿って、羽喰 琥珀(ib3263)は剣舞を作ってきた。 「やりてーって思っても子供は出来ないって不公平だろ? 皆が参加出来るほーが楽しーし」 考えていなかった年齢層の取り込み。それを目指して琥珀は演じた。 そうっと芽吹き始めて、ほろほろと咲いて、だんだんうきうきと空気も甘い春の華やかさ。 飛んで跳ねて、躍動的に激しく動く夏の賑やかさとあの活気。 次第に緩やかに動きを落ち着け、ひらひらと扇を振り翻す。長閑な秋と、落葉。 その扇を高く放り上げた。背負った朱天を居合いで引き抜く。 峰に弾かれて鉢金の結び紐がぴんと踊る。ぱさりと扇が地面に落ちる。 とん。とん。 足を踏み鳴らす。 とん。とん。 雪が降るように。 静かに、凛と。 身を切るような冷たい空気。 静かに刃を滑らせてその冷ややかさを演じる。 その冷ややかさを楽しむように笑いながら。 鬼島貫徹(ia0694)の提案は泰国風のものだった。榎並のつるぎを手に取ると、軽く素振りをして感触を確かめる。 「中々良い刀だ」 そして、おもむろに手元でぎゅらぎゅらと回転させ始めた。激しい突きやかわしを見せ、飛んだり跳ねたり受身をとったりしつつ回し蹴り。 敵の攻撃を受け、走り、振り向きざまに膝蹴りを入れて隙を作り、斬る。そんな場面を演じ、最後に構えて。 「――っ」 歳ゆえにか、動きを止めた瞬間激しい息切れが。 「…あまり無理は…しないほうが…」 秋葉 輝郷(ib9674)が差し出した水をひったくると、一気に煽って飲み干した。 ● 高下駄を履き、マルカ・アルフォレスタ(ib4596)はオーガスレイヤーを構えた。 「みていてくださいまし」 不安定な一枚歯の下駄で器用に踊り、重くバランスをとりにくい剣でひらり、ひらと舞う。 一通り見せてから下駄をそろえて差し出した。おとなしく履く水盛。 「今日からは四六時中これを履いていただきますわ」 「しろく、じちゅう」 「さらにその状態で足腰を鍛える為にランニングも」 「走れと!? これで!?」 膝がぷるぷるしている。走る前に、立っているのもあやしい。 「榎並様は貴方の、貴方の町の誇りなのでしょう?そのお方の為の演舞の役割を外から来た方々に取られて、悔しくはないのですか?」 「ちょっと悔しいですが! こけるー!?」 「一度や二度転んだくらいで音を上げてはなりませんわ」 まじで! 叫ぶ前に地面に転がった。 巌 技藝(ib8056)はしなやか、という言葉がほんとうによく似合うひとだった。 引き締まっていて、しなやかで無駄のない筋肉。なめらかな小麦色の肌。めりはりのある身体つき。高い背丈に見劣りしない、長い腕。手にした名剣「デル」を寸分の狂いもなく操った。 純白の衣に褐色の肌がほんのりと透けて見える。 「水盛様?」 「だめね、鼻の下伸びきってるわ」 マルカと熾弦(ib7860)は頭を抱えた。足のふらつきはいつのまにかなくなっている。がくがくしてたら視線がぶれてちゃんと見えない――なんぞという、下心と集中力が無駄に発揮されたのだろう。これは進歩だと喜んでいいのだろうか。 「舞は武に通ず…その逆もまた然りってね」 技藝は舞い終えると、見るべき点を教えた。 「演じる空間を把握し、余す事無く己が演じる場とし、場を制する流れに逆らわず、動きの緩急も、周囲の観客の意脈さえも引き込み、味方とす。これぞ舞の基本であり、武の極みでもある互いに通じる本質さ」 …しかし。 「偉そうな事を言ってるあたいも、まだその麓にすら辿りつけてないんだけどさ…聞いてる?」 「はっ。…や、その」 見るべきところを、あんまり見ていなかったようだった。 ● 吟詠の部門はだいぶ和やかだった。 「声量については無理をすることはないかの」 音羽屋 烏水(ib9423)は梅を見てそう言った。 「でも、もう少し…」 「姿勢や口の開け方、息の吸い方、声の出し方、発声する際に力を入れる場所…。 それらによって自然と声も出るようになるからのっ」 無理して声を出して、喉を痛めたり声が割れては本末転倒。 「家出した身なれど、こうした芸事は納めておるし、教えられる事もあろう」 べべんっ、と弦を弾いて気の逸る梅を落ち着かせた。 「何が一番苦手かの?」 「大きな声を出したりするのだと思います」 「息の制御を覚えるのがよさそうじゃの。喋り方も細いのではないかの?」 「ええ。子供たちをまとめるのに苦労します」 うむうむ、と頷き、励ます。 「共に克服してゆこうぞっ!」 「よろしくお願いいたします」 発声練習、呼吸の仕方。それらを教えながら烏水も子供たちの世話を手伝う。 「にーちゃん鳥さんだー!」 「鳥天狗じゃからのっ。 おおっ、そうじゃっ。希儀の話もしてやるぞぃ」 「あたししってるー! あたらしいぎがみつかったって」 「そうじゃ。こんなに大きな遺跡があってのう」 ● 「水盛は顔と体格が良いのであれば、逆にそちらを活かすのも手ではないか」 あっさりと。 実にあっさりと、貫徹は言ってのけた。 「お綺麗に纏めようとするから無理が出る。誤魔化せば良いのだ、大胆かつ強引に」 何気に真理だった。具体的な計画案ではないが、発想の転換としては上手い。 「鬼面も持ち合わせているし、敵役をさせて貰おうか」 見栄えするよう上手く誘えるように考えながら、輝郷が引き受ける。上手く仕込めば本番までに仕上がるかもしれない。 ふらつかなくなったところで、熾弦は一度水盛に刀を置かせた。余談だが、熾弦も高下駄である。 「剣舞だからって剣に意識をやり過ぎないこと。むしろ最初は剣を持たずに舞をやってみましょう」 「何していいかわからないんですけど…」 「それを今から教えるのよ。舞が安定すれば、手に持ってる剣の動きは後からついてくるはず」 ぴしりと舞扇を差す。水盛がそれを真似、熾弦はひとつひとつ問題点を指摘した。 「その手。肘伸ばしすぎね、あくまでも自然に肩から伸ばすの。それだとがちがちで不自然よ」 「こ、こうですか」 「よくなってるわ。 あとは、動と静を意識すること、ね。動く時は動きがぶれないように足や下半身に重きを置いて、手の動きは舞の要所で魅せるために姿勢を決める時にだけ重きを置けばいいんじゃないかと」 「結局足か…!」 「あれだけダメ出しされてりゃそうでしょう」 立ち居振る舞いがまともになると、今度は藤田 千歳(ib8121)が扇を置かせた。 「何事も、基礎が大事だ。華々しい動きも、土台があってこそ」 基礎からきちんと道場で育てられた千歳の剣は癖が少ない。基礎のあやしい水盛には最適だろう。 (俺は土台を伝えていこう) マルカが足腰を意識したように。熾弦が舞を仕込んだように。剣の土台を作ってやろう。 ●準備 「こう、丸い生地にさ、物入れて三方向から生地を畳んで焼いたせんべい作れないか? 中にハリセン型に折ったお御籤とか、ハリセン型の小物とか入れてさ」 せんべいの焼ける香ばしいにおいの中で、少年は店主と頭をつきあわせていた。 「こーゆー変わったもんがあったらこれ目当てに人が来ねーかなって思ったんだけど、どだろ?」 「…おもしろそうだなぁ」 にやり、と笑う店主ににっと笑い返す。こうしてものにするための奮闘が始まった。 板でやってみると下手なものでは生地がくっついて離れない。紙など論外、生地にくっついてしまって分離しない。これは来年かな、と思いながら失敗作の山を見る琥珀。半生のせんべいをびろーんと箸でつまむ。まだ生焼けでやわらかい。中では入れたおみくじがべったりくっついてる予感。焼けばあんなにぱりぱりになるくせに、なんだってこう…。 …焼け、ば…? 「なー、もしかしてさー」 「あー?」 「焼いてから、熱い内に三角に折ったら…?」 「…あー!!」 少し水分が残っていて熱ければ、曲がる。ほんの少しなら余熱で水分を飛ばせる。焼いたあとなら紙や小物を入れてもくっつかない。米を使う一般的なせんべいよりも、こうなると小麦粉を使ったほうが繊細な折曲げができていいかもしれない…。 大急ぎで材料集めから始まった。材料のよさそうな比率を割り出したのは夕を過ぎていて、戻ってこない琥珀を案じて烏水が顔を出す。事情を聞くなり手伝いを申し出てくれて、芋づる式に他の仲間も人手があるほうがいいだろうと手を貸してくれた。 「間に合うかー?」 「間に合わせようではないか! まさか作る側に回るとは思わんかったがな!」 「水盛様だってずいぶんよくなりましたもの。それにくらべればおせんべいくらい、きっと大丈夫ですわ」 「うわ、空白み始めたね。あとお御籤何枚必要? なんならちょっと余分に書いとくけどさ」 「隈できたら化粧必須でしょうね…。誰か持ってる?」 「最初は鬼面だから平気だが。…少し眠ったらどうだ」 「ここで眠ったら負けじゃ! せめてこの箱は仕上げんと足りんじゃろ」 「一晩くらいならなんとかなる。これよりきついこともあるしな」 町が明るくなる。 人々が活動をはじめる。 最後の一枚が焼きあがり、中にお御籤が入れられる。 「できたー!! ありがとな、みんな! よし、行こーぜっ!」 「おじさん、売るのは頼んだよ。あたいたちはもう行かないと」 「舞台もこの勢いで成功させましょう」 片付けもそこそこに店を飛び出した。最後のおさらいをして、衣装を身に着けて。 ● 細いけれど明瞭な発音で、梅が吟じる榎並の物語。 町を護らんと、立ち上がる若者あり。 舞台袖から水盛が出る。技藝の舞台使いを真似て、大きく右側で立ち回り、反対側で、と広く使った。それだけで見栄えする。 あまたの敵を討ち果たし、ついに頭の鬼と対峙せん。 翻る裾裏から立ち昇る炎が赤く映える。帯に差した大輪の菊の簪が、黒の無地袴に黒地の着流しに赤い曼珠沙華。 鬼面の奥で水盛を見据え、輝郷は大きく踏み込んだ。 噛み合う刃と刃。輝郷の持つ刃が光を照り返して煌き、煌きの中で甲高い音を立てて水盛の鎬を削った。刀を引いて水盛が激しく打ち込んでくるのをひとつひとつ弾き、一歩も動かずその場で捌ききる。水盛が姿勢を崩して転んだりしないよう、次の一撃へ繋げやすいよう呼吸を読んで応じながら。 その鬼揺らがぬこと岩の如し。 反撃に転じる。連続的に打ち合える技量が水盛にはない。必然的に見栄えのする大技が多くなる。大振りの上段振り下ろし、気迫を込めた突き。合間に入る水盛の攻撃を弾いて下段からの切り上げ。 追い詰めに追い詰めて、そして。 水盛の切っ先が鬼面の眼孔をとらえた――ように見せた。目を押さえ、めちゃくちゃに見えるようホムラを振り回す。足音で水盛の気配を読み、その刃が突き降ろされる空気の流れを読んで。 かくて鬼は討ち取られ、榎並は町を救いたまう。 倒れたまま、湧き上がった歓声で成功を知った。 ● 各人の演目は様々だった。まず琥珀が今後のために四季の演目を舞い、貫徹が先よりは幾分縮めたもので賑やかせて。 瑠璃の玉が飾る手首を差し出す。透き通る雫型の薄青い石が、胸元できらりと輝いた。 抜いた刀身を手の中で躍らせて純白の薄衣を翻す。舞台として切り取られた一角を広々と舞い踊る。 空間を把握して死角も埋める。軽快に足はリズムを刻む。 マルカのフルートの音がやわらかく流れるのにあわせてなめらかに斬撃を。 三味線が小刻みに空気を震わすときには細かな斬撃を。 ひらりひら、技藝は舞う。 ふわりふわ、純白に踊る。 艶めく紫の髪に寄り添う枝垂桜が流れた。 ゆったりと全身を覆う羽衣「天女」に薄く透ける精霊の羽衣を重ね、さらにその上から氷のように冴え冴えと、淡く透き通ったマントを重ねる。 幾重にも薄く淡い衣を重ね、その上に高く括った長い髪を垂らす。冬の滝のような輝く髪を飾るのは、しゃらしゃらとさざめく千羽鶴を模した簪。首元に小さな石の飾り。 フルートの淡い音色がそっと歌う。綺羅、と陽光を弾く霊剣。滑らかに純白の刀身を躍らせはじめる。フルートの音色は徐々に濃くなり、べべんっ、と三味線が遊ぶように参入したと同時。 ぱっと扇子を広げる。華やかに陽光を撒き散らした。差す手返す手、細かく角度を変えて光を弾きながら、ときに霊剣と扇子の間で光を乱反射させて。 巧みに光をも躍らせて、熾弦は舞った。 三味線が静かに簡素な音を奏でる。輝郷は静かに舞台へ立った。 周囲の音が遠くなる。楽の音、人々の呼吸音、衣擦れの音。 研ぎ澄ませた意識の中で手を柄にかけた。一呼吸分の間を置き、抜き放つ。 鋭く虚空を切り裂いた切っ先を、追うように赤い曼珠沙華の袖が翻る。 正眼に構えなおし、斬り込み、斬り上げ、斬り払い、斬り棄て、そして膝を落とすと同時、突いた。 ぴんと張り詰めたまま、切っ先はぶれずにまっすぐ空を穿っている。ゆっくりと立ち、静かに納刀して観客席に一礼を送った。 弓掛鎧の上に陣羽織を羽織り、錦の手甲を両手につけて千歳は舞台へ出た。 飾りらしい飾りは麒麟を模った琥珀の石くらいで、薄く渦模様のある黒い鉢金も面頬も、舞台の華やかさを意識してはいなかった。観客へ一礼し、左腰に差した刀――榎並のつるぎに手をかける。 すばらしい刀をお持ちのところ申し訳ないが、使ってくださいと頼まれたものだった。 水盛ではまだ扱えず殺陣では自前のものを使ったし、貫徹も使ったとはいえ刀そのものが見えにくく、他の面々は衣装や演舞と合わせているようだし――何より一番映えるだろうと。 千歳の剣には華やかさはあまりない。 抜き放った白刃はよく研ぎ澄まされていた。もっとも適切に斬ることができる――そのためだけのもの。 (…俺は、剣術はアヤカシを斬り、人を斬るものと考えてきた) 祖父に習い、弛まず毎日修練を重ね、鉄が鍛え上げられるように繰り返し鍛えていった剣。 無駄を削ぎ、速度と精度を高めた。 空気をほとんど揺らさずに、すぅと斬る。 刀と同じ。拵えがなくともその刀身の美しさは少しも損なわれない。研ぎ澄まされた機能美が魅せるのだから。 自分がその域に達しているかは定かではない。 (だが、人に見せて恥ずかしいものではないと自負してはいる) 返す刀で斬り返した。 ただただ正確に鋭く、素早く。 刀をおさめて一礼する。 息をのんで見ていた観客が沸いた。歓声、拍手、声援。全員に向けられたのだろう。今日、ここでいくつもの様々な剣舞を魅せてくれた全員へ。そして吟詠と楽の音へ。 この刀は、ただ実直に戦いの中で磨いてきたものだった。 (だが、剣術でも人はこんなに楽しませる事ができるんだな) ありがとう。 ● 何かもふらっぽくない、もふらの置物屋にて。 「どうやら俺の目に狂いは無かったようだな…この色この形、まさに宝よ!」 貫徹も正しく本来の目的を遂行していた。 |