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■オープニング本文 あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。 おじいさんもおばあさんも、干しかぼちゃなんかをせっせと庭先でこさえては冬の楽しみにとっておきます。 茄子とかにんじんとかもいけます。 むしろ大抵の野菜はオッケーです。 もうちょっとしたら柿なんかもいいでしょう。果物もわりと大丈夫です。 ともあれそんなおじいさんとおばあさん、今年ももちろんせっせとこさえておりました。いつぞや金持ちのお馬鹿な娘様ご一行に軒先の干し柿を荒らされましたが、開拓者の皆様が知恵を絞ってひっそりこっそり退治してくださったので安全です。開拓者万歳。閑話休題。 「いい感じにできましたねぇ、おじいさん」 「いい感じに干せましたのう、おばあさん」 ここんところからっからに空気が乾いてお天道様もきらっきらに輝いてくださいましたので、なにもかにもいい感じです。 秋にとれた茄子はおいしいっちゃおいしいんですが、皮が厚くなるのでこの二人、干して食べるほうがお好きなようです。なんて贅沢な。でもごろんごろん収穫できるとそんなもんでしょう。わっせわっせと食ったって余りまくったら有り難味半減だそうです。やっぱり贅沢でした。 幸せな気分でにっこにっこと干し野菜を家に取り込もうとした、そのときです。 「おいしそうな干しかぼちゃやぎ!」 「おやつによさげやぎ!」 なんだかもっこもっこしたぬいぐるみっぽい山羊様らしき生き物(?)が、おじいさんとおばあさんと一緒にざるの中を覗き込んでおりました。干しかぼちゃの危機です。超危険です。あ、まるっと奪われました。でっかい袋にざらざらざらーっ、とかぼちゃのざるだけ投入です。 「頂いたやぎ!」 「ごちそうさまやぎ!」 見事なすばやさです。とんずらしました。もう見えません。その才能、別のところに使う気ないんでしょうか。……ないんでしょうねぇ。おじいさんとおばあさん、目が点です。そりゃー驚きます。山羊ってけっこう凶暴ですよ。蹴られたらあざになります。あのぬいぐるみチックなお山羊様はどうだか知りませんが。 「お、おじいさん。わしらの干しかぼちゃがっ……」 「お、おばあさん。大丈夫、茄子は残っとる。大丈夫、大丈夫……」 涙が浮かびます。かぼちゃってつる性の植物ですから、どこまーでも伸びていっちゃうんですよほんとに。他の野菜と一緒に植えるとうっかりよその畝まで侵食しています。庭先に植えるとお隣さんの敷地まで侵略していっちゃいます。おじいさんとおばあさんのお宅はちょっとまばらな住宅地なのであんまり神経質にならなくてもいいんですが、そこはそれ、やっぱりよそ様の敷地を侵略するのはよろしくございません。ですから好き勝手に伸びるつるを引き戻したりなんだりと、手間をかけて育てたんです。泣きたくなるに決まってました。 悲しみに暮れる二人でしたが、もちろん被害がそれだけってこたーないです。だってお山羊様方は軽快に出て行かれましたから。 町ではあっちこっちで悲鳴が上がっておりました。 いわく、預かった手紙食われたどうしよう!? いわく、せ、せっかく書き上げた恋文をおのれ……! いわく、とっておきのお菓子が! あの人のために真心こめて作ったお団子がー!! 商品返せー! だそうです。主な被害報告はお菓子とお手紙。なんでしょうねこれ。けっこうカオスな被害です。謎、謎すぎです。しかもお山羊様がただけでなく、ふよっふよと浮かんで飛んでくる橙色のかぼちゃ様も加わったご様子です。かぼちゃ様はお顔がついていらっしゃいまして、お手紙には見向きもされないそうですがお菓子はがっつがっつとやるそうです。たいへん迷惑です。お子様がたの敵です。甘党の大敵です。許すまじかぼちゃ様。滅べお山羊様。むしろあたしが滅ぼす! と意気込むひとりの女の子。 「許せない……! あたしが奪っても許されるけど、あたしのを奪って許されると思わないでよ……!」 どこその金持ちの娘様、桐月です。闘志を燃やしていざ出陣! 目指すはお山羊様の袋。 「行くよあんたたち! 絶対あいつらとっ捕まえてとっちめて、お菓子を奪い返すよ!」 おー、と応える桐月の子分ズ。奴らは町に繰り出しました。 そんな被害あふれる町ですが、ただいま収穫祭の準備中でございました。そもそもの始まりはいつぞや桐月が撃退された折のことです。開拓者の方々はアヤカシの仮装をして桐月一味を脅かしまくって再犯防止したわけですが、その後えらい桐月一味がびびるもんで、こりゃーいいと町の皆様、あっちこっちにおどろおどろしい飾りだのなんだのを好き好んで飾るようになっちゃったんだそうで。何気にけっこう影響あったんですねぇ、依頼人にすら会わなかったのに。あの依頼。 そんなわけで、おどろおどろしい飾りが有難がられて、お祭りの折にはおどろおどろしい格好をするのが今んとこ流行っているそうです。おかげで町はどこもかしこも不気味なナニカがてんこもり。怖がりにゃーたまったもんじゃありません。桐月一味もそりゃー大層怖がるんですが、半泣きになってでもお菓子は奪い返しにゆきます。変なとこだけ根性据わっとります。これまた別のところに労力使ってくださりゃいいもんを。 そんな町から依頼がまいりました。かぼちゃ様とお山羊様、どうにかしてくださいマジで。お山羊様方はかぼちゃ様のいるところには出てこないんですが、かぼちゃ様はとっても楽しそうに人が祭りの準備でてんてこ舞いのところに出没して、お菓子ばっかり狙い済まして食ってゆきます。桐月まで行動開始しました。なんていうかお手上げです。へるぷみー。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ロゼオ・シンフォニー(ib4067)
17歳・男・魔
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
エリアス・スヴァルド(ib9891)
48歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ● 「人様に迷惑をかけるなんて、困った山羊さん? と南瓜さん? 達ですね! 町の人達の為にも何とかしないと!」 調理器具セットを取り出すのは神座早紀(ib6735)。まずは下準備です。月餅に必要なのは皮と餡。まず皮はノーマルタイプでよろしいでしょう。ぱぱっと作ってしまいます。次に餡を……おや? いかがされました、ヴォトカなんか取り出し……えええー!? どっぱどっぱ入れましたよこのお嬢さん! 香り付けとかそんなレベルじゃーありませんよ! あああ、詰めちゃった。どうするんでしょうねぇ……。 続きまして作るのはケーキ、ってあー! またヴォトカ染み込ませてるー!? うわぁ、マジですか。袋に詰めて、準備完了のようです。おっかねぇ……。 ロゼオ・シンフォニー(ib4067)、まずそこらの屋台でお菓子を購入。次にそこらの店舗で糸購入。続きましてお菓子を糸で縛り、炎龍・ファイアスに乗り込みます。え? 何、簡単じゃーないかって? そうですねぇ、やってることは結構簡単なんですけども。続きは今しばらくお待ちくださーい! これちょっと面白いですよ! 続きましてエルレーン(ib7455)、こちらも駄菓子を買い込むとこから始まりました。 「さあ、もふもふ! 悪いやぎさんやかぼちゃさんをこらしめるよ!」 「……めんどくさいもふ〜」 もふらのもふもふ、たいへん乗り気じゃございません。エルレーンはお構いなしにあれこれ適当に買い込んで、その他にも、えーと……ん? 激辛……唐辛子せんべい……? なにか不穏な気配です。 「はいっ、もふもふ!」 「もふ? ……も゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 赤くて危険そうなせんべい、効果は抜群のようです。……ああ、哀れもふもふ。超のたうってます。もちろんエルレーンはちゃくちゃくと準備を進めるだけでまるっきり頓着しとりません。縄持ってまるごとしゅんりゅうに身を包み……。 「う、うーん……もしかしたら、なんか違うかも」 おっどろおどろしい町ではいささか浮きますが、なんだかちびっ子たちがきらきらと見上げておりますので構わないでしょう。よろけたもふもふが哀愁漂いますが、エルレーンの準備も完了しました。 ● さてはて、大通りは……っと。おやおや、現地スタイルに合わせた羅喉丸(ia0347)、合わせすぎて超物々しい格好になっとります。なんですかその足は。爪。爪!! 歯の高い下駄履いてますから地面抉らないけど! ちょっとそれはやりすぎじゃーございませんかほら道行く人がさすがにびっくり……してないですねぇ、おおやるなにーちゃん! みたいな眼差しが投げかけられとります。なんつうおおらかさ。 「郷に入っては、郷に従えと言う事か、何かの祭りなのか?」 「収穫祭のようですね」 答えるのは羽妖精のネージュです。燐火剣があたりの明かりを照り返して青白くゆらゆらと。この町ではそれだけでも不気味です。 ともあれまず行くべきは屋根の上。目立ってなんぼです。ざわめく通りから外れ、ひょいひょいとあたりの物を伝って家屋のてっぺんへ。 うーむ、しかしお山羊様がた、いったいぜんたい何者なんでしょーか。ギルドにはあっちこっちで似通った依頼が張り出されてて、少なくとも局地的な現象じゃーなさそうです。精霊っぽいよーな話も聞いたわけですが、はて? 「何か知らないか?」 「聞いたことはあるような気はします。これのことなのか、確証は持てませんが」 ネージュの答えを聞く限り、少なくとも今年ぽっと発生したわけじゃーなさそうです。だめ元でしたのでそれだけ聞ければ充分でした。夕暮れの町を見下ろします。あちこちに灯がともって、ぼんやり浮き上がる夜の町です。幻想的というより不気味なのはご愛嬌、鬼が闊歩するにゃーよろしいじゃございませんか。 「逢魔が時か。ネージュ、百鬼夜行としゃれ込むか」 「喜んで、羅喉丸」 さあさあ、行動開始です! ちゃちな造りの屋根を傷つけないよう軽く蹴り、次の屋根へと着地。沿うように青白い小さな揺らめきが舞っておりました。さながら鬼と鬼火の如し。 ……と、ここで場面はさらに上空。町の依頼なのになんでかファイアスに乗り込んだロゼオ。さてはて、何やってますかね? 夕闇迫る空に羽ばたいたファイアスの背中から、ロゼオは身を乗り出して地上を探索します。うーむ、ここからだとあんまりよく見えませんねぇ。あ、羅喉丸があっちの屋根の上を駆け抜けてるのが見えました。これだけならただの偵察になるわけですが。 じゃーん! 先ほど用意した糸付きお菓子を取り出して、するする垂らしてみます。つまり釣りです。 山羊釣り。 や・ぎ・つ・り! ご本人は至って真面目、窮めて真剣。山羊の一本釣り! 浮きも釣り針もないけどいけるかっ!? 鬼さんと釣り人さんが上で頑張ってますが、下はどうでしょう? おお? おどろおどろしい騎士様とその霊騎がおいでです。エリアス・スヴァルド(ib9891)ですね、お店の人と何話し込んでんでしょー? 「子供みたいな精霊なら、悪戯して人を困らせて楽しんでるフシがあるんじゃないか」 「それだけならいいんですけどねぇ……食欲で動いていやしませんか?」 おや、こちらは自力で捕まえに行くより、全体的な底力を上げるつもりですよ。 「商品や食べ物を取られても、追いかけたり悲鳴を上げず、ニヤリと笑って「それには毒を仕込んでおいた、好きに持って行くがいい」と言ってみたらどうだろうな」 うわぁ、えげつなーい! おいしいお菓子、素敵なお菓子。それが毒入りかもしれない……なにそれ怖い! 「そんくらいなら」 お店の人、あっさり請け負っちゃいました。さあ、なんかだんだん混沌としてきたぞ……? エリアスが町人によからぬことを仕込んでいるとき。早紀は金髪碧眼の美女、いやからくりにあのおっかないブツが詰まった袋を持たせて路地裏を歩いておりました。 「美味しいお菓子ありますよ〜」 「何で俺がこんな事……」 ぶつぶつ文句垂れる月詠をまるっとスルー、どこかにいるはずのお山羊様を探します。途中でちびっこどもに捕まってちょっと慌てましたが(酒入りなんてあげられません)、ごめんねーと謝ってやりすごします。 「これは大人用なんです。子供用は……」 「エルレーンが配っていた」 「そうそう、確かあっちにいましたから、もらってくるといいですよ」 多少ブーイングを頂きましたが、子供にとっちゃーお菓子のほうが大事です。さっさと行ってしまいました。 そのエルレーンはといいますと、まるごとしゅんりゅうで確かに子供たちにお菓子配布をしとります。もふもふは復活した模様。よかったですねぇ。口の中ひりひりしませんか。……まだちょっとするみたいですけど。まあ大丈夫でしょう。大丈夫ってことにしましょう! そうしてお菓子配りをやってると、もちろんいい子から悪い子まで来るもので。堂々と子分を引き連れた女の子、やたら態度がでかくて一目で誰だかわかります。 「あたしも子供よ!」 まるっきり尊大でかわいげのない態度でしたが、エルレーンはにっこりお菓子をぶら下げます。 「ふふん、おねーさんたちの邪魔をしないんだったらあげるよぉ」 「もっふ〜……恩着せがましいもふ。心が狭いもふ。 だから胸も小さいもふね」 「?! ……も、もふもふぅっ!」 ぎゅうう! うっわ思いっきり抓った! 「ぴぎゃあああああ?!」 絶叫、悲鳴、騒乱。エルレーンの注意がそれた隙に桐月、お菓子奪取。 「あ!」 「ふふん、胸が小さいと視野も狭くなるのかしらね!」 「……!!」 「もふ……ほら見るもふ、言われてるも……ふ……?」 逆立つ髪、立ち上る妖気(?)、なんか妙に得体の知れない悪寒――。 「桐月ーっ!」 「んきゃー!?」 口は災いのなんとか、桐月一味はもれなく捕縛され、焦点の合わない目でぶつぶつうわごと呟いてたそうです。合掌。 ● 最初にお山羊様と接触したのはやっぱり早紀でした。場所絞り込んだのがよかったようです。しかし、ん? 「お菓子やぎ〜!」 「ほしいやぎ!」 一匹はぽーんとなぜか、お空へダイブ。なめらかなフォームで……ぱくついた!? 「釣れた……!?」 わぁ。山羊の一本釣りー。 ロゼオが一匹釣り上げて持っていきました。奪われ……じゃなかった。処理してもらったと考えましょう。硬直しているもう一匹に優しくほほ笑みまどた。 「作りすぎて駄目になりそうなので、よかったら食べませんか?」 にっこり普通の月餅差し出します。受け取ろうとしてお山羊様、はたと硬直されました。 「毒入ってないやぎ?」 ああ、何気にエリアスの脅しがここに。むやみにがっつくのはやめたようですねぇ。もう一匹はともかく。 「平気ですよ。ほら」 月餅をちょっと千切り、ぱくりと食べてみせます。ほっとしたお山羊様、喜んでお受け取りになられました。超油断してます。きらりと早紀の目が光りました。 「日持ちしないので全部食べて下さい」 さも親切げです。日持ちしないんならそりゃー胃袋に詰めるしかございません。ヴォトカ入り月餅・ケーキ。ぺろっと食べて、いい気分。しかし……。 「ん、と。じっと、しててください! 月詠、押えて!」 ふらっふらとうろうろするのでふん縛るのに苦労します。開拓者にとっては動きも遅いし捕まえられるんですが。 「こんなんばっか……」 ぶつぶつ言いながらも手伝ってもらい、一匹、確保! ところで釣り上げたロゼオですが、こちらのお山羊様はあちらより見境がないようで。あっちゅーまに残りの紐付きお菓子を制覇してしまいました。 「ごちそうさまやぎ!」 「あ、待ってください! まだありますよ」 慌てて取り出す、激辛饅頭。無警戒にぱくついて。 「どうですか? 僕、特製お菓子は?」 「やぎ〜!?」 辛い、これは辛い! 超びっくり、超パニック。 「うっわ!?」 暴れるお山羊様のせいでバランス崩しかけるロゼオ、ファイアスが上手く動いて落下は免れる。しかしお山羊様はぽーんと地上へ。 「いい? 兄さん。火炎は使っちゃダメだよ! 攻撃するなら殴ってね!」 ファイアスに指示出して自身はサンダー。ぎゃーとかお山羊様の悲鳴が聞こえますが、なかなか頑丈のようです。上空から追い詰めていったのですが、途中でどこかの隙間に潜り込んだのか、見失ってしまいました。 さて、お山羊様も問題ですがかぼちゃ様も問題です。桐月一味をとっ捕まえたエルレーン、今度はやってきたかぼちゃ様が獲物でございます。 「うふ、おかし欲しいの?」 お菓子をあげて夢中にさせて、なでなで。 「かぁいいねぇ、いい子だねぇ」 お菓子で目を眩ませ、油断させて。 「えいっ!!」 縄をかけ――あっ、引っかからない。厳密にはちょっと引っかかりにくい。もっしゃもっしゃと駄菓子を食い尽くされてしまう……! しかしお仕置きはせねばっ。 「人のものを盗む悪い子は、おしおきなのッ」 その口にぐい、と激辛せんべい投入。 「っ――!!」 かぼちゃ様の悲鳴。絶叫。 「笑ったり、泣いたりできなくしてやるッ、なの!」 逃げたかぼちゃ様を追いかけて、呼子笛を吹きました。スヴェアにまたがり駆けつけたのはエリアス、手に持つのは投網。うっわぁ用意いいー。 「はっ!」 気合一閃、投げた投網に獲物がかかるっ! 「そ、そうか投網が必要だった……!」 何はともあれよかったじゃーございませんか。 「ジルベリアにはスケープゴートという言葉がある」 唐突に、エリアスはその渋い声で重々しく切り出した。いったい何を。 「贖罪の山羊……生贄ってことだ」 もしくは、見せしめでしょうかね? 「カボチャは、どんなジャックランタンに刳り抜かれたいんだ?」 えっ、これ以上くり貫くの? 腰に下げた十字剣で? それってむしろ、くり貫くっていうか……! つ・ら・ぬ・く! ぎゃー! もう目も口もあるのでこれ以上穴はいりませんー! 別にけっこうです間に合ってます遠慮します助けてー! 騒ぐかぼちゃ様、ああ哀れ。しっかり網を握ったエリアスからは逃げられませんけど。 (子供みたいな精霊なら、ちっと可哀想だけどな ) たっぷり後悔していただきました。 そういえば羅喉丸は? と思ったら、こちらは屋根の上。 「我が宝刀を奪わんとするものはだれぞおるか」 あ、何か黒い塊が。 がぶっ。 突如現れて甘刀の切っ先にかぶりつきます。ばりぼり食われる前に重く重心を下げ、ひらりと回避。切っ先はちょっとなくなりましたが甘刀はまだ無事です。 ネージュに合図して迫るお山羊様をかわし続けます。なんかこげくさい。からいー、からいー! と呪詛も。何があったんでしょう。 お山羊様を歪みの前に誘導します。 「甘いものー!」 ぱっ、と透明化を解いたネージュと、ネージュがなんとか抱えてた南瓜行灯が出現。白い和紙には小さなかぼちゃの模様です。 「やぎー!? ま、負けないやぎー!」 模様が小さかったのもあるのか、お山羊様めげずに羅喉丸へ、じゃない甘刀に突進。あ、刀身食われました。 「やぎー!?」 再び悲鳴、脱兎。 「とりっく・おあ・とりーと! 楽しいですね、羅喉丸」 「ああ、でもなんで逃げ……」 どん、と体当たり。ぽろぽろと持ってたみたらしの包みが落下、そこへ飛びつくかぼちゃ様。こいつか原因。少し考えて、甘酒を準備。お酒を混ぜ込んで、はいどーぞ。 ご機嫌そうな雰囲気で甘酒かっ食らうかぼちゃ様。うんうん、いい感じです。ふわっふわとご機嫌に飛んでおります。気持ちよさそうです。 「まんまと寝こけたわ」 「空飛ぶかぼちゃ、いかなる珍味であることか」 ぎゃー! 食われるぅー!? え、食われるっ!? こいつら・精霊・食う気でいるっ! 鬼がいるー!! 酔った頭でろくな思考なんぞ働きません、そりゃそーです、酔ってますもの! ふらっふらとした足取り(?)はけれど必死で、かぼちゃ様は楽しい楽しい町から一目散にあっちこっちぶつかりながら脱兎いたしました。 ところ変わって裏路地。早紀は目覚めたお山羊様へ甘味マップを見せました。 「実はアル=カマルには天儀以上に甘くて美味しいお菓子が沢山あるんですよ。他の山羊さん達も向かってるし、早くしないと無くなっちゃいますよ!」 「それは素敵やぎ!」 ちょろいもんです。 「いた! よかった……、開放する前に没収できますか?」 駆けつけたロゼオ、声を潜めて早紀に打診。何ってそれですそれ。袋! 「朦朧としてますし、大丈夫だと」 一つは無理でしたが、もう一つは取り返せました。 「ふしぎな生き物もいたもんだねえ」 町は静かになりました。これで解決でいいんでしょうか? まあいいんでしょう。エルレーンはため息一つ落とします。 「はい、これはもふもふの分だよ」 「もふー!」 苦労したもふもふもむくわれたようでございました。おしまい! |