蟷螂騒動
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/19 20:26



■オープニング本文

 ひっく、え、ひっく。
 しゃくりあげる声。対処のしようがなくて、薄くため息をこぼす。かわいいといえばかわいいが、ダダをこねられると面倒でしかたがない、というのが偽らざる本心だった。
「諦めな。たぶん食べられちゃってるよ、とっくに」
「や、だぁ‥‥!」
 おろおろと、母は泣きじゃくる少年の機嫌を取ろうとするばかり。父親は酒飲んで知らん顔。だめだ、こいつらに任せたら。少女は何度も繰り返した言葉を、心のうちでまた呟いた。
「諦めな。自殺志願じゃないなら」
「ねぇ、李火。そんな言い方はないわ。
 火化、ねぇ、来年も蟷螂を育てましょう?」
「だ、だって、あれ、ぼくの‥‥」
 一途と呼べばいいのか、それとも子供の我侭か。鬱陶しさを振り切るように、少女は夕食の席を立った。

「依頼をお願いします」
 開拓者ギルドを訪れたのは、日焼けして真っ黒い少女だった。
「アヤカシの討伐です。町の近所の雑木林に出ました。姿は巨大な蟷螂のようです。あたしの知る限り、犠牲者はゼロ」
 緊張しているのか、少女は早口で告げる。
「数はわかりません。数える余裕はありませんでした。見る限り十はいなかったと思いますけど、逃げるのに必死でしたから」
「討伐だけで構いませんか?」
「‥‥一応」
「一応?」
 窓口担当が問い返すと、きゅっと薄い唇が引き結ばれた。
「‥‥あたし、弟と雑木林に入ったんです。エサを探しに」
「エサ」
「蟷螂の」
 思わず担当も黙りこくった。
「飼ってるんです。弟が。そのエサを捕りに入ったら、なんの冗談か、蟷螂のアヤカシ。笑いたくなりました」
 少女は鼻で笑った。図太い子供だった。
「あやうくあたしたちがエサに。逃げたはいいものの、蟷螂の虫かごを投げ捨ててきちゃって」
 次の言葉を紡ごうとして、少女は幾度か口を開いては閉じ、言葉を紡ぎかけては飲み下す。
 ややあって、長く重いため息と共に続きが語られた。
「弟は、取りに戻るって」
「それは‥‥」
「いっそそのまま見送ってやろうかと思うくらいダダこねてくれました。さすがに後味悪すぎるので止めたけど」
 言葉の端々から苛立ちのにじみ出るセリフ。年頃としてもイライラしやすいころだ。担当は無言で続きを促す。
「虫かごの残骸だけでも構いません。雑木林の中、悪いんですけど『結果』を持ち帰って頂ければ。虫かごだけでもあれば、泣きじゃくって終わると思うから。いくらあの子でも」
 お願いします、と少女は頭を下げ、ギルドを出た。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
水津(ia2177
17歳・女・ジ
景倉 恭冶(ia6030
20歳・男・サ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ノルティア(ib0983
10歳・女・騎
マーリカ・メリ(ib3099
23歳・女・魔


■リプレイ本文

 町で開拓者たちを迎えたのは、色黒の姉と、姉に半分隠れた弟だった。簡易なあいさつののちに、琥龍 蒼羅(ib0214)は二人へ林についてたずねる。
「面積や、獣道の分岐など、わかるなら」
 蒼羅の言葉に、思考をまとめるため一拍置いてから口を開く。
「町からの入り口はひとつです。面積はあまりよくわかりません。入ると、獣道はすぐに二本に分岐します。そのあとの道は分岐点も多くて入り乱れていて、あたしも把握してません。ただ、下草が少ないです。道を外れて突っ切るのは簡単だし、地面もあまり起伏していません」
 よどみない回答。そこへもうひとつ、質問が投げられる。マーリカ・メリ(ib3099)からだ。
「アヤカシについても聞いていい? 場所が場所だから飛んだりはしなかったと思うけど、走ってきたり、木にぶら下がってたり、逆さになってたり、とか。そういうのなかったかな?」
「‥‥ちょっとわからないです。必死だったし」
「そっか、じゃあ、こっちで気をつけてみるねー」
「はい。
 ほら、火化。あんたも挨拶しな」
 李火は隣の弟を引っ立てる。へっぴり腰のまま、火化はこわごわ開拓者たちを見上げた。
「お、お願い‥‥します‥‥」
「よろしくお願いします」
 ぺこり、と小さな二つの頭が下げられる。橘 天花(ia1196)が笑んだ。
「李火ちゃんは優しくて弟想いですね」
 ぴた、と姉弟の動きが止まる。まじりっけなく笑顔を向けられ、ぎゅっと李火の眉根が寄る。隣の火化が姉の顔にびくりと震えた。この姉がやさしい‥‥? 火化は耳をうたがった。
「わたくしは一人っ子ですから、子供の頃李火ちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しかったですよ」
 活きた瞳がまっすぐに李火を射抜く。李火はうつむいた。
「‥‥そんなんじゃ、ないです」
 苛立っていたからこそ、善意の動機を見抜かれるのはいたたまれないのだろう。まるごと好意で依頼しに行ったならともかく、たしかに李火は苛立ちや不快感を抱えていた。無邪気に天花の言葉を受け入れるには、残念ながら李火の性格は捻じ曲がりすぎている。その上理性派――と言えば聞こえはいいが、ようは理屈っぽかった。素直ではない。
(なんだかんだ言って火化のことを考えてる、んかねぇ?)
 みずからも弟だった記憶を持つ景倉 恭冶(ia6030)は、天花ほどは断言しかねた。それでも少なからず――、過去と重なる。姉が、いた。
 しかし、なにはともあれ。
「ま。俺らに任しときな」
 ぺこり、と深く李火が頭を下げる。慌てて火化もぎこちなくお辞儀した。

 たちこめる腐葉土のしめったにおい。リリ、となにかがどこかで鳴くのを、耳が拾う。虫。
「虫‥‥虫、か。虫は‥‥ボクにとって、虫とは‥‥」
 ひとりごちり、口を閉ざすノルティア(ib0983)。そばで天花が、ひろげた瘴索結界のなかをさぐる。同じく滝月 玲(ia1409)も注意深く目を凝らした。その髪も纏うコートもあざやかな赤。木漏れ日が毛先をかすめるたび、火の粉がおどるかのような輝きを跳ね返す。光のさえぎられた林で、ひときわによく映えた。
 その一行の先頭からは、アルコールの香りが薄く漂う。水鏡 絵梨乃(ia0191)だった。豪快にラッパ飲みする絵梨乃のゆき過ぎたそのあとに、独特の香りがしばし残る。
「――止まってください」
 不意に天花が告げる。かさり、早くに落ちた葉が足元で音を立てた。虫の音は――しない。
「いたのか」
「右手側に反応があります。瘴索結界のぎりぎり端に、一体」
 ひらり、絵梨乃の纏う外套が翻り、小さな鱗の飾りが木漏れ日を弾いて輝いた。獣道をそれて道なき道、木々の狭間を縫うようにゆく。纏った外套はワンテンポ遅れてひらり、ゆらりと彼女を追い、時折きらりと光を返した。このあたりだろうか――、歩みをゆるめた、その刹那。
 じゃっ!
 ひらめく鎌、飛び散る鮮血。目の前にあらわれる、逆三角の顔。
「っ――!」
 しくじった。枯葉色をした彼らは、意図して隠れずとも林の中へと紛れやすいいでたち。無造作に近寄れば、先に気取られ仕掛けられる。
 けれどもそんなことはひとまず棚上げして、絵梨乃は取るべき行動をとった。瞬脚をもちいて地面を蹴りつけ、すぐさま仲間のもとへと駆け戻る。一瞬その絵梨乃を見失ったアヤカシだが、次の刹那には――。
 いったいどこに潜んでいたのか。ぞろ、と湧いて出る。枯葉色の細い肢体をせわしなく動かせ、瞬く間に迫り来た。十、いるかどうかか。玲とノルティアは、それぞれに刀を抜き放つ。待ち構える彼らはアヤカシには狙いやすい的だった。隠れようと特別に工夫していない人間を、やすやすと隠すほどの大木は――この林にはない。作戦と土地とが、合っていなかったのが問題だっただろう。
 ざん、と枯葉色の鎌が大きくノルティアを薙いだ。かすり傷――そう呼ぶには、すこし深い。脇から放たれる二匹目の鎌をかわしたところ、背中から深く切り裂かれた。――囲まれた。いくぶんか離れて、玲と絵梨乃もまた、分断されておのおの二匹、三匹と相手取る。振りかぶられる鎌めがけて放った玲の刀は、しかし木々におかしな角度で引っかかり、幹の表皮を削ぐにとどまった。がら空きの胴めがけて鎌が振り下ろされる。とっさに飛び退く玲を、真横から別のものが切り裂いた。幸い、浅い。
 絵梨乃は真一文字に薙がれた鎌をかわす。よろめくようなあやうげな動作ではあるが、二撃、三撃、それをかわしきり――、その流れをそのまま辿るように、勢いよく蹴りを叩き込む!
 踵がアヤカシの首をわずかにかすめた。――浅い。
 彼らの後方で、天花は閃癒を放つ。回復具合を確認する間もなく、天花は振り回される二本の鎌から身をかわした。玲は赤褐色の呼子をくわえる。一息に吹ききった。甲高い音が響き渡る。
「天花さん、あっちが来るまで持ち堪えられそう!?」
「逃げるくらい、でしたら――大丈夫です!」
 言った矢先、避けようと身をかわした先に幹があり、天花の動きを遮った。逃さず迫るアヤカシ。咄嗟に身を伏せたが、その肩を鎌がとらえた。飛び散る鮮血。痛む間も惜しみ、振り下ろされた鎌をかいくぐってその場を抜け出した。ノルティアも、逆手に握った刀を握りなおしてアヤカシを斬りつける。リーチの長い刀。だが動きを最小限にとどめることで、小回りをきかせる。嫌いな虫の中、むりやり自分を鼓舞し、息を整え――、遠心力と自重ものせて、一匹の蟷螂の足を切り落とした。
 がくり、と動きの鈍るアヤカシ。息をつく間もなく、ほかの二体から猛攻を受ける。
「――っ!」
 飛び散る血飛沫。それがアヤカシを濡らし、地面の落ち葉を染め上げる。次の鎌が振り上げられ――二撃目を覚悟した。その刹那。
 ざんっ!
 横合いから、白銀の軌跡がアヤカシの腹をなぎ払う!
「‥‥無事だな」
 さわ、と。風が吹いた。漆黒の絹衣に縫われた銀の刺繍が木漏れ日を照り返し、風に踊る。おちついた声は、質問ではなく断定した。傷だらけだが、まだ問題なく戦える範囲内。こくん、と白い頭が頷いた。
 既に納められた刀を持ち、蒼羅は柄に手を沿わせる。腹に傷を受けたものが、瞳に闘志を燃やして襲い掛かってきた。脳天から切り裂く一撃を半身を引いて避け、すれ違いざまに納めた刀を打ち抜く。
 ――今!
 そのアヤカシのふところに、飛び込むノルティア。刃がひらめき胴をとらえ、深く切りつける。さらに返す刀で切り返し、身を捻るように力をくわえ――。
 その上から蒼羅が切り裂き、それは瘴気へ戻り、霧散した。

 蒼羅が着くのにわずかに遅れて、水津(ia2177)と恭冶、それからマーリカもそこへたどり着いた。
 着くなり立ち止まらず、恭治はスパートをかけて天花と相対するアヤカシへと突っ込む。すれ違いざまに払い抜けで斬りつけ、そのままそれと切り結んだ。
「あ、ありがとうございます」
 ようやく後衛に下がり、一息つく天花。小さく術を唱え、さっと舞う水津。そして。
「眼鏡び〜む!!」
 びーむは出なかったが、天花を水が包んで傷を和らげる。眼鏡があやしく木漏れ日を照り返した。
「眼鏡ふぁいあ〜!!」
 恭冶と鎌で鍔迫り合い、やや圧されていたアヤカシが――燃えた。
「っと!」
 驚いて思わず飛び退く恭冶。炎がおさまると同時に振りかぶられた鎌をなぎ払い、弾いて隙を作る。大きく隙のできた胴を、一刀のもとに切り伏せた。
 ふわり、と瘴気に戻り大気中に溶け込むアヤカシだったもの。恭治はすぐさま踵を返し、前衛での戦いに身を投じる。同時にマーリカが、
「鎌落としちゃって」
 物騒なエールと共に、ホーリーコートを恭冶にかけた。
「ぼちぼちな」
 軽く手を上げてそれに応え、玲へと向かううち一匹へと肉薄する。払い抜けた直後、軌道上にあった枝葉も同時に地面に落ちる。やはり、戦うには手狭だ。連帯を取るのも難しい。
「順番まってなさい!」
 絵梨乃にまとわりつく一匹を眠らせるマーリカ。後衛の術のほうが使いやすい空間かもしれない。同じく水津の術だろう、玲の相手取るアヤカシを、炎が飲み込み消えてゆく。
 玲の瞳がアヤカシの状態を推し量った。いける。握った刀に炎を這わせ、一気にぶった切る!
 さわ。吹いた風が、瘴気を吹き消す。その奥で、蒼羅とノルティアが戦っていた。蒼羅がアヤカシの攻撃を誘い、
「速さなら‥‥、俺の方が上だ」
 すぱん、と振り抜かれた鎌を避け――、刃が腹を掻っ捌く。
 あえなく瘴気へかえるアヤカシ。彼らが相手取った三匹のうち、残るは、あと一匹。最初に足を切り落とした、それのみだ。

「寒さには弱いはず!」
 放ったフローズが、絵梨乃を襲う一体に直撃。虫ではないので特別に弱いわけではないが、その動きはたしかに鈍った。
「もらい、と」
 どがっ、と思いっきり蹴りを叩き込む絵梨乃。容赦のない重い攻撃が、もろに入る。ぐしゃりと木に叩きつけられたアヤカシの身体は、一瞬だけ姿を保ち――、消えた。
「やった! 次!」
 きわめて明るいノリでエストラロッドをかざすマーリカ。白い手の中で、きらきらと木漏れ日を乱反射する杖だった。眠るアヤカシに、すらりと伸びた絵梨乃の足が――踵落としを叩き込む。
 びくんと跳ねてよろよろと飛び起きるアヤカシ。
「効くことは効くのよね!」
 アヤカシの周辺の空気が凍てつき、その身がこごる。その頭を絵梨乃が蹴り落とし、駄目押しに胴を踏みつけ――すぐに、手ごたえは失せた。ふわりと瘴気がとけて消える。
「残りは――」
 目を上げると、恭冶と玲がほぼ同時に各自の相対するアヤカシを切り伏せたところだった。残るは一体、蒼羅たちの相手取るそれだが――。
 こうっ!
 紅い炎に飲み込まれ、あとかたもなく消え去る。
 それを放った水津が、す、と攻撃態勢をとく。ざわり、木々が揺れた。アヤカシはいない。踏み荒らされた地面だけが、その存在を物語る。
「所詮人とアヤカシは相容れないのでしょうかね‥‥やりきれない物です‥‥」
 瘴索結界を張りなおし、ふらりと虫かごを探しに歩き出す水津。やたらとむやみにアヤカシを狩ることに、あまり肯定的ではないようだ。小さな背中が寂しげに林の奥へと消えていく。それを合図に、めいめい虫かご探しに移った。
 うろうろしたのち、玲がそれを見つけた。地面に転がる、真っ二つに裂かれた虫かご。
 だめだったか、とため息をつく。同じものを用意して、嘘をつきたくもない。死骸がないのが救いと言えば、そうなのだろうか。それを抱えて戻ると、マーリカも眉尻を下げた。
「あちゃあ‥‥。こーいうのって、なんでか、新しいのじゃダメだったりするのよねー。壊れちゃってるけど‥‥機嫌、直してくれるかなぁ」
 困ったね、と裂かれた片方を受け取って眺める。途中でばらばらに散った開拓者たちは合流し、町へと戻った。

 町の入り口で――飛び出してきたのは火化だった。
「――っ!」
「火化!」
 裂かれた虫かごに、みるみる涙をためる火化。あわてて李火が追いかけてくる。
「あ、よかった。虫かごあった‥‥」
「よくない!」
 叫んだ火化。迷わず李火は拳を振り上げる。それを、そっと玲が押しとどめた。
「どうして! あなたたち怪我までして――なのに火化は」
「いいきっかけだろう?」
 ぐ、と押し黙る李火。薄い唇を引き結ぶ。わんわんと泣く火化に、噛んで含めるように、玲は語った。
「蟷螂は冬を越せないんだ。それが自然ってもんさ。
 でもアヤカシは退治したし、きっと新しい命を産み落としてるんじゃないかな?」
 蟷螂が逃げていれば――、の、話になってしまうが。
「ぼ、ぼくの蟷螂‥‥」
「蟷螂にも暮らし易い場所があるんよ」
 恭冶がやんわりと告げた。
「わかる、かな」
 聞き分けなく、首は――横に振られた。
「だって、だってあれは、ぼくの‥‥!」
 処置なしかな、と恭冶と玲は目配せした。どうも、火化は理屈が通じない。ええと、とマーリカが口を開く。泣いてる子供は得意じゃないのか、だいぶ焦った口調だった。
「これからは鈴虫とか、松虫とか、鉦叩とかいい音の虫を捕まえると、家族で楽しめるかもね。あ‥‥探すとしたら夜? 庭先で探すといいと思うっ」
 えぐえぐ泣きながら、火化は小さく頷いた。やっぱりまた飼うんだ、とノルティアが内心呟く。ボクの場合は無理だなぁ、偽らざる本心だった。
「虫と‥‥一緒に‥‥生活。できるん、だ。すごいな。これから‥‥も、大切に、ね」
 ぽむぽむと火化の頭を叩いた。こくん、小さな頷きが返る。
「わたくし達は李火ちゃんに頼まれて来ました。火化くん、李火ちゃんにお礼を言ってあげて下さいね?」
 マーリカと恭冶が虫かごを返すのにあわせて、天花が促す。
「あり、がと‥‥」
「‥‥なら、お礼言うよ。しゃんとしな」
 はじめのように、二つの小さな頭が下げられる。
「ありがとうございました。‥‥お大事にしてください」
「虫かご‥‥ありが、と」
 ぎゅ、と半分の虫かごを抱きしめる火化。もう半分を抱え、李火は開拓者たちを見上げる。
「しつけ、がんばります」
「‥‥ほどほどにな」
 思わず恭冶は返した。伝わったかどうかは、さだかではない。