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■オープニング本文 重たい観音開きの扉を開くと、そこに広がっていたのは無明の闇だった。 鏡の間。そう名前の掲げられた観音開きの扉を、両手で押し開いた。広がる無明の闇が現れ、廊下の灯りを頼りにその中に足を踏み入れる。 かつり、かつ、足音と共にかちゃかちゃと鎧の音が響く。音の反響具合からしてそれなりに広い部屋のようだった。天井も高いだろう。仲間の足音が後ろに続いてくる。 数歩進んだところで、周囲にぼうっと灯りが灯った。これまでの道のりで見慣れた照明用の宝珠が、遠くの壁や天井に埋め込まれている。 光源が不意に現れたからだろう、わずかな眩暈と眩しさに目を眇め、瞬く。 その瞬間だった。 ばたん、と背後で大きな音が立ち、扉がひとりでに閉まる。 かつり、かつ。足音と共に、かちゃかちゃと金属音。 その音の後ろに続いて、よく馴染んだ足音が従ってくる。 目の前に、鎧を纏った少女がいた。少女の後ろには見覚えのありすぎる、自分の背後にいるはずの仲間の顔が並んでいる。 「私……?」 まるで鏡のように自分と同じ顔をした少女が、こちらが笑う前にほほ笑んだ。 「戦闘に興味はおありですか?」 受付嬢の説明は、そんな質問から始まった。 「ある遺跡探索の任務を引き受けた別の開拓者たちが、途中に出てくる部屋を攻略できずに帰還しました。幸い命に別状はありませんが、半数以上が重傷を負った危険地帯です。遺跡の探索は置いておき、その部屋の攻略に集中して頂くことになるでしょう」 どれくらいの戦力が必要なのか。問う開拓者に受付嬢は首を横に振る。 「特に制限はありません。強いて言うのなら……、撤退時期を見分けられるのでしたら、どなたでも。 敵というのが……自分、になるのです」 その部屋は、侵入した者と同じ姿、同じ能力を持った存在を産み出すのだ、という。 故に自分の能力を上げていけば相手も強力になるし、自分のスキルや装備を下げていけば相手も弱くなる。 「ですから、いかにぎりぎりのラインを見分けて戦うか、ということになると思います。強力なスキルを持っていけば、それが自分に跳ね返ってくるわけですから。 戦い方までは真似されることはありませんが、ある程度の知能もあるようです。つまり、こちらにとって嬉しくない行動を仕掛けてくるわけですね。たとえば回復役を狙うだとか、攻撃を誰か一人に集中させる、だとか。 相応の危険が伴いますが、引き受けていただけるでしょうか」 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
風瀬 都騎(ia3068)
16歳・男・志
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
一之瀬 戦(ib8291)
27歳・男・サ |
■リプレイ本文 風読のゴーグルに、幾つかのアクセサリ。そして何より目を引くのが――下着にか見えない、ローライズだ。 「……すげぇな」 玖雀(ib6816)の突っ込みに、ぱっと天河 ふしぎ(ia1037)の肌が真っ赤に染まった。 「こっ、これは写し身と戦う為に必死に考えて……仕方なく、仕方なくなんだからなっ!」 そのそばで歌が聞こえる。琉宇(ib1119)の小鳥の囀り。 「お、狸」 ひょい、と持ち上げる玖雀。こて、と狸は気絶した。 「ちょうどいいや。そのまま連れてきてもらえるかな」 「食うのか? ちゃんと処理しないとマズいが」 「食べないよ。実験なんだ」 「わかってるって」 軽口を叩きながら、遺跡の中へと足を踏み入れた。 扉の向こうの闇。暗視と超越聴覚を併用した玖雀は、室内を見渡す。 「いねぇな……何も」 「……瘴気は……、けっこう、あります」 アルネイス(ia6104)が所感を述べる。アヤカシが出てくるには充分だろう。夜光虫を召還して先導するように先へ行かせ、進んだ。 ぱっと周囲が明るくなる。背後で扉が閉まり、同時に部屋の瘴気が動き、かたまり、八人と一匹の姿を模す。 開拓者側はそれぞれ準備した赤い布や包帯、紐などを腕に巻く。用意のなかった霧崎 灯華(ia1054)とトカキ=ウィンメルト(ib0323)には、アルネイスが包帯を配った。 「この赤い布が絆の印しだっ!」 きっちり巻いて上空に人魂を放ち、宣言するふしぎ。『灯華』が灯華そっくりの顔で、灯華らしくない笑みを浮かべる。狸と『狸』が部屋の隅目指してすっ飛んでいった。 (……逃げた? ……!) 「離れろっ! なにか来るぞっ!」 陰陽刀「姫切」を投げ捨て、身軽になったふしぎは警告して駆け出した。アルネイスも重しとして持ってきた荷物をかなぐり捨ててあとに続く。他の者もそれに習った。 灯華と『灯華』は動かない。 「まずはお手並み拝見ね」 灯華の言葉に、応えるように『灯華』が力を解き放った。己の生命力を差し出して威力を底上げした悲恋姫。呪いの悲鳴が敵味方の区別なく襲い掛かる。 無事だったのは真っ先に逃げだした狸たちと、身軽なふしぎたちだけ。 「灯華たちからは離れたほうがよさそうだ。範囲内にいたら、やられる」 『トカキ』の片鎌槍を受け流しながら、風瀬 都騎(ia3068)は『都騎』を探した。敵側は一対一をやるつもりなどないらしく、てんでばらばらに散ってしまっている。一之瀬 戦(ib8291)は槍で周囲を牽制しながら、『戦』を追っていった。 「幸い広い部屋ですからね。散るとしましょう」 『トカキ』を割って入ったトカキが引き受け、都騎は己を模倣したものへと駆け出した。 いまだ効果範囲内にいる味方と敵の数を視界の端で確認し、灯華は遠慮なく呪いの声を響き渡らせる。 「お構いなしか、灯華!」 「大丈夫でしょ」 寸前で範囲外に出た都騎の突っ込みにさらりと答える灯華。ちょっとやそっと味方を巻き込んでも、敵のほうを多く巻き込めればよし。最後にあたしが残ってればいい、と。 首を狩るように振るう『灯華』の鎌を自分の鎌の柄で跳ね上げ、怨嗟の声を振りまいて一歩下がる。血の契約を使った分だけ『灯華』のほうが不利、畳み掛けるように悲恋姫を放つ。 「さて、あたしもそろそろ全力全壊モードでいくわよ!」 柄で打ち合い、弾かれ合って距離をとる。すぐに詰めてぶつかる相手に、灯華は呪縛符をかけた。 「この鎌は飾りじゃないわよ。切れ味試してみる?」 『灯華』も呪縛符を放つ。互いに鎌の刃を絡めた。 瞬く間に決着をつけたのは、ふしぎだった。 敵の連携を崩すように、ふしぎは『ふしぎ』へ挑み、徐々に皆から引き剥がす。 「僕は、そんなに女っぽい顔してないんだからなっ!」 戦闘と平行して人魂での状況確認は厳しい。人魂の視界を切り、広間を駆け抜けた勢いで呪声を『ふしぎ』に叩き込む。『ふしぎ』も呪声を返し、二刀へ瘴気を纏わせた。間合いを一気に詰め、ふしぎが射線上にやった人魂を軽く払って消し去り刀身を一閃させる。閃いた刀身が、薄い胸を切り裂いた。灼熱感。 「っ……」 一気に生命力を持って行かれた。今体勢を崩し、敵を倒せなければ。倒されるのはこちらだ。 逆に言うのなら。確実にこの手で『ふしぎ』を落とせる。 ぐいと床を踏みしめ腹に力を込め、『ふしぎ』の妖刀「血刀」を払い落として呪いの声を響かせる。己の「血刀」に、精霊力を纏わせた。 「正邪の力で今偽物を断つ……妖なる瘴気に精霊の気を纏い輝け血刀!」 手ごたえと共に胴を切り裂くと同時、『ふしぎ』は消え去った。 琉宇の戦いは、戦いというより知恵比べに近いものだった。 (活性化した呪歌はどれも非戦闘用。刃物も持っていないし、これならば敵は攻撃もできない) 琉宇は怪の遠吠えを奏でた。『琉宇』はしばし考え、自らもバイオリンを奏でた。その音は琉宇には聞こえない。 『琉宇』は納得し、気を散らしたらしい仲間に片手を上げて問題ない旨を伝えた。 (えー……。納得しちゃったよ) 琉宇は残るスキル、偶像の歌で持ってきた道具へ意識を向けさせた。知能があだになり、『琉宇』はふんふんと偶像の歌を聞いている。ヴォトカがあったので、飲酒を勧めた。 (僕はお酒が飲めない。飲むと引っくり返っちゃう。同じ体質ならば倒れちゃうはずだよね) ごくごくと飲み干す『琉宇』。しかし、倒れる気配はない。ぷはっと空にして、それから無造作にバイオリンの首を掴み、琉宇に振り下ろした。 咄嗟に避ける琉宇。 「わぁ。そう来ちゃうんだー……。できないとは言わないけどさ、吟遊詩人としてやっちゃだめだよね?」 つまりこれは、視界の端で取っ組み合ってる狸と同じ原理なわけだ。スキルがないなら撲殺すればいいじゃない。的な。 『アルネイス』は、本当に鏡でも見ているかのようにそっくりだった。目元のスリットなどもなく、カラクリではないのだろう。 迷いなく砕魂符を放ってくる。知能はともかく、意思があるかは微妙だ。アルネイスは砕魂符で反撃する。 (行動に癖らしい癖はない。あえて言うなら攻撃も防御も支援も無難……ですか) 『アルネイス』を観察しながら戦う。確かに無難に攻撃しかしてこないが、途中で治癒符で回復。手数の違いも気づいたらしく、重しの獣靴「ヒシ」を投げ捨てた。 そして。 先にアルネイスの練力が切れた。厳密に言えばあと一回は治癒符が使えるが、これは重傷者に残しておきたい。 次に『アルネイス』の練力が切れた。 「……どうしましょう」 あとは拳くらいしかない。 頬をかすめた攻撃に、トカキは持久戦を覚悟した。 装備せずに携帯していた投文札も、しっかり模倣されているらしい。願わくばこちらと同じように八枚だけであってほしいが。 「まぁ、俺の弱点ってあれですよね……圧倒的な打たれ弱さ」 透き通った瑠璃色の光を纏わせた投文札を、腕の振りだけで『トカキ』へ投げつける。ワンテンポ遅らせてもう一枚。一枚目を槍で叩き落した『トカキ』の腕を、二枚目が切り裂いた。 『トカキ』が槍を構え、踏み込んでくる。瑠璃色の輝き。気を読み取り、大きく飛んだ。槍の軌道が変わる。こちらは着地したばかり、避けきれない。 咄嗟に慣れない槍で払いのけた。わずかに軌道が反れ、左肩のすぐ横をかすめていく。 がら空きの『トカキ』の胴を、片鎌槍の鎌部分で切り裂いた。ほのかに白い光が『トカキ』を包む。回復された。 戦いは泥沼の消耗戦となる。 槍の穂先が『戦』の髪をひと房、散らした。 「敵が俺の動きを真似しねぇって事は単純に槍術なら俺のが上ってぇ事だ。 我流だが自分の体の使い方は自分が一番知ってるしな」 突き出した槍を引き戻し、戦は『戦』ににやりと笑いかける。戦と同じように右目を包帯で覆った『戦』が、大きく踏み込みその勢いで槍を突き出す。間合いを読んで軽く横っ飛びに避けながら、右目の不利が与える影響を読み取る。 (いきなり片目失った奴の動きじゃねぇ、か) 死角があるのは間違いない。慣れもない。ただ、戸惑いもない。それだけ読むと速攻で仕掛けた。隼人で死角になる右側に飛び込み、力任せに薙ぎ払う。柄から伝わる手ごたえ。体勢の崩れたところへさらに踏み込み、首へ穂先を突き落とす。 『戦』は飛び込み前転の要領で逃れ、距離をとり体のばねを使って飛び起き構えた。戦は背後から飛んできた苦無を槍で払う。振り返らずに床を蹴りつけ、一息に間合いを詰めた。 鋭い斬撃に血が舞う。能力が同じだけあり、避ける確率も当たる確率もほぼ同じ。じりじりと互いの生命力を削って。 戦は敵の槍へ槍を絡め、叩き落す。そのままくるりと柄を回し、石突で右目を狙った。 強引に右目を狙う槍の柄を下から腕で跳ね上げ、『戦』は低く足払いをかける。ひょいと戦が飛んで避けた隙に槍を拾い上げた。その顎を蹴り上げて、倒れた頭を踏みつけた。荒い呼吸を整える。睨みあげてくる左目を見下ろした。 「お前ぇの顔面は如何なってんだろうねぇ?」 乱暴に包帯を引き剥がす。よく見慣れた、傷跡の残る顔だった。自嘲の笑みが浮かぶ。 「ッハ、俺は所詮其れがお似合いってぇ事か」 その喉笛をかき切った。 普段の穏やかさなんて、どこにもなかった。 「俺は俺が憎い。偽者とはいえ良い機会だ、全力で潰しに行くぜ?」 殺気も露に、不敵な笑みで流星錘を握る玖雀。静かに笑む『玖雀』がぶんぶんと流星錘を回し、玖雀へ投げた。射線上からすいと身をかわす玖雀。『玖雀』は思い切り縄を引いて錘を引き戻す。その手の動きを読んだ。遠心力で薙ぐような戻し方。 身を屈め、たん、と片手を床につく。そのまま脚力と指先の力で床を蹴り、伸び上がるように間合いを詰める。手にした流星錘を『玖雀』の足を絡めるように投げたが、こちらもかわされた。 詰めた間合いの最後の一歩を『玖雀』が踏み込み、錘近くの縄を握って玖雀へ叩き付けた。怯まずに殺気立ったまま、足払いをかけ体勢を崩した『玖雀』の腹に膝をめり込ませる。かふ、と身体を曲げる『玖雀』は、握った拳を鳩尾へと返した。 「自分の事は、自分がよく知ってる……そう思うからな」 己との一対一。都騎は両手の刀をそれぞれに構え、『都騎』の懐に飛び込んだ。篭手払いで手元を狂わせ、次の一手を弱める。さすがに両手の刀を手放すまではいかなかったが、手首を狙って斬り付けた。 ざっくりと手首から手の甲へ傷が走る。が、浅い。『都騎』は傷もそのままに、左の刀を閃かせた。上体を背けてそれをやりすごす都騎を、開けた間合いに踏み込んだ『都騎』が袈裟懸けに斬りつけた。 血飛沫が飛ぶ。ざり、と足を開いて体勢を維持する。刀が振り抜かれて開いた懐を、刀「嵐」で切り払った。一歩引いた『都騎』を追わずに右手首を斬りつける。 「前に進む為には、今までの、過去との自分とは……さよならだ」 過去が重なる。でも。 前に進むと決めた今、心が揺れることはなく向かって行ける。 水平に突き出された刀を下から払い、軌道を反らした。もう片手の突きは避けきれない。歯を食いしばって左肩で受けた。そのまま『都騎』が攻撃のために伸ばした右手を切り捨てる。 肩に刺さった刀を抜いて捨てる。左手が小さく痙攣していた。出血も多い。――手当てをすれば治るが、この戦いで使うのは無理だろう。 鋭い呼気と共に床を蹴る。残った『都騎』の左手を払い、体重を乗せた斬撃を浴びせた。 視界の端に、今しがた払いのけた刀が映る。倒れゆく『都騎』のその刀は、払われて不自然な位置にあったにもかかわらず。 まっすぐ、なめらかに都騎を切り伏せた。 まだほんのわずかに生命力を残した『都騎』へ、呪声を放ったのは唯一戦い終えていたふしぎだった。 「都騎っ! みんな、重傷者一名だっ!」 腕に結わえ付けていた布をほどき、声を張り上げる。アルネイスが応じた。 「撤退しましょう! 合図をしたら武器を捨ててください」 全員が肯定したかに思えた。たったひとりを除いて。 「逃げるなんて選択肢ある訳無いでしょ」 呪縛符で『灯華』の動きを遮り、鎌の刃でその皮膚を切り裂く灯華だ。存分に削り取ったところで、細い首に鎌をかける。 「所詮、写し身だとこの程度よね」 ざくり、と刈り取った。 『琉宇』と『アルネイス』を協力して倒したあと、残るは『トカキ』と『玖雀』だけだった。 「手伝うか?」 「これが決まらなかったらお願いします」 トカキの返事に戦が頷き、いつでも割って入れるよう待ち構える。互いに練力も、投文札もない。あるのは槍だけ。 すっと息を吸い、止めた。踏み込み、薙いだ槍の柄をがっちりと受け止められる。が。 くるりと噛み合った柄を支点に反転させ、『トカキ』の懐に飛び込む。 手ごたえは、人を殺すのと同じで。 「自分を切り刻むってのも中々出来無い体験で新鮮ですね」 身を起こし、一閃させた槍の石突でこつんと床を叩き、霧散する『トカキ』を見送った。 ぎりぎりと全身全霊で、『玖雀』の首に巻きつけた錘の縄を絞める。ありったけの怒りと憎しみを込めて。 『玖雀』は震える拳を握り、肘を入れた。わずかに緩んだ隙に頭を真横から殴られる。絡んだままの縄を引いて蹴倒した。苦無を首に立て、引き裂く。 憎くてたまらない、己の姿はあっさりと消えた。 都騎はほほ笑みの下に痛みをきれいに押し込めて、玖雀に声をかけた。 複雑さは消えないまま、殺気は納めて応じる。 「はは、お互い傷だらけだな」 どこか自嘲気味な玖雀。ふしぎに肩を借りた都騎の表情は、静かだ。 「俺の命は我が君のものだ。あの時も、後を追う事すら許されなかった」 我が君との契約だから。 だから、生き恥晒そうと血塗れになろうと生きる。そんな玖雀へ、かつて己が命を軽視し、怒られ、守るべき者ができた都騎は口を開く。 「俺達は生きてる。それが、一番だと俺は思うよ」 今は躓いても。 道を、見失っても。 さて、残るは二匹の狸。 「……どっちが偽物だ?」 「目印つけておくべきだったなぁ……」 もみ合う二匹を引き剥がして床に押さえつける玖雀と、困った顔をする琉宇。都騎に治癒符を使ったアルネイスが、見分けられますよ、とあっさり言った。 「ほら、ここ。ちょっとだけですが、瘴気が滲み出ています。こっちが偽物ですね」 「あっ、本当だ。よく見てたね」 「私たちの偽物もこうなってましたから」 ざくっと玖雀が始末をつける。同時に、重たい音を立てて扉が開いた。入ってきた入り口と、その真向かいにある扉の二つだ。 「これだけ妨害のある部屋の先何があるか楽しみね」 灯華が興味津々、扉の先に足を踏み入れる。わくわくとふしぎがあとに続いた。 結局のところ探索場所も絞らずに探したせいで、仕掛けなどはまるで不明。ただ扉の先の階段を下ると、新たな部屋があることが判明した。 |