【人形】地這う古龍
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/16 22:48



■オープニング本文

●機械の心
 遺跡発見の報に、ギルドは大いに湧きかえった。
 その中で、ひとりぽつんと三成は目を閉じている。元々、皆で騒いだりするのを好む性格ではない。
「まだ、出発地点です。ここからが大変ですね」
 その落ち着いた一言にギルド職員が笑った。
「えぇ、内部は広大です。遺跡の探索隊を組織せねばなりません」
「もちろん。さっそく手筈をお願いします」
 頷く三成。
「それに、遺跡内部の探索だけではありません。探索のバックアップ体制然り、クリノカラカミとは何か、朝廷の真意など……どれも一筋縄にはいきませんから」
 遺跡内部の探索が始まる前に、遺跡の外で起こる事件への対応も必要だ。からくり異変対策調査部は、にわかに慌しさを増していった

●地這う古龍
 龍とは、空を飛ぶものだ。
 それは常識と言ってよい。現にその森に棲む多くの野生種の龍たちは自由奔放に翼をはためかせ、その強靭な肢体で悠々と空を舞う。
 その森のヌシは、ひときわに大型の龍だった。鈍い苔色の鱗をまとい、一般的な龍の三倍に迫ろうかという体躯を持つという。
「……しかし、長い年月を経るうちに……空を飛ぶことはできなくなったそうです」
 資料片手に、受付嬢は説明をした。開拓者ギルドの受付窓口。依頼内容の詳細説明である。
 別に、龍には問題はない。飛べないのも構いやしない。なんたって飛べなくなったのは、各種伝承や資料によれば三、四百年前。今に始まった話ではないのだ。
 しかし、無関係ではない。
「今回の調査対象である、遺跡。ほかにも依頼が出ていると思いますが、大々的に調査すべき土地と、このヌシ、地這う古龍の治める森の領域が……見事に被りまして」
 森の中に遺跡があった。
 その森は、古龍の領域だった。
 つまり。
「一時的にお邪魔するだけでは済みそうもないので、ギルドとしては先方に挨拶をして了承を得るべきだとの結論に達しました。菓子折り持ってお宅の地下にお邪魔しますよと挨拶に伺うわけです」
 まあ、菓子折りは比喩としてもだ。侵略したいわけではないのだし、礼をもって承諾を得ようという話である。
 しかし、ただ挨拶するだけで済むなら開拓者に話が来るわけもなく。
「古龍の治める土地には、数多くの龍が生息しています。普通、野生というのは気が荒いので」
 縄張りに入れば、もれなく獲物認定されるという。
「これらの龍を退けて、古龍のもとへたどり着くことが必要です。最終目標は、古龍との交渉。領域内での活動許可をもぎ取ってきてください。
 ヌシである古龍に関する情報は少ないのですが――なにぶん居場所が居場所で活動範囲も狭いので――性格は理知的。飛べたころは気性も激しく、どこぞのアヤカシと戦ったとか、龍を捕まえに来た人間を皆殺しにしたとか、ぽつぽつと過激な話も残っています」
 話、通じるのだろうか。
 不安だが、受付嬢は小さくうなづいた。
「人語を解し、会話が可能。ここ三、四百年で性格も多少は丸くなったようで、古龍に捧げられた人が命乞いして生還した例も。これは二百年くらい前のことですが」
 野生の龍が古龍のために食事を持ってくるのは珍しいことではなく、たまたま生きたまま捧げられて生還した人間がいたという。詳細な状況についての話は伝わっておらずに不明だが。
「理不尽な暴力を振るった記録は残っていません。過激で苛烈とはいえ、自分や自分に属するものを守護するための手段でしかないようです。敵対者へは容赦ないようですが。
 ですので、がんばって敵対せずに古龍のところへたどり着いてください」
 詳細な性格や好みなどはわかっていないので、とりあえず会って、喋ってみないとなんとも言えない。
「意外と楽しいことを好むかもしれませんし、いまだにやんちゃな性格が健在かもしれませんし……。どんな状況になるのか大雑把に予想して、誰がどういう状況にどう対処するのか、決めておくといいでしょう。
 情報不足で申し訳ありませんが、殺傷沙汰にせず、礼儀をわきまえて対話すればいきなり敵対、なんてことはないと思います。お願いできませんか」
 受付嬢は静かに頭を下げた。


■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
无(ib1198
18歳・男・陰
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ


■リプレイ本文

●ギルド
 調査に長々と時間が裂けず、ギルドでの確認となった。
 鞍馬 雪斗(ia5470)は資料の少なさに肩を落とす。元一匹狼、現引きこもりは伊達ではないようだ。
「ヒントが一つでも増えればと思ったけど……」
 古龍側から積極的に人間に関わるつもりがさらさらない、ということだけは嫌でもわかるが。
(古龍との交渉か……彼の性格にもよるだろうけど……。
 どうなるか……慎重にいくに越した事ないか)
 そんな雪斗とは逆なのは、ユリア・ヴァル(ia9996)。
(人言が話せる龍ね。
 会うのが楽しみだわ♪)
 ぺらぺらと資料をめくる。伝承の共通点の洗い直しだ。同じく古龍の特徴に手をつける无(ib1198)。しかし、あまり新しい情報は出てこない。口伝や伝承の類もまとめてあって、スレダ(ib6629)も一通り読み漁る。ただどれも単なる目撃情報程度。古龍は駿龍などとは違う種族では、という憶測や、引きこもりを始めてから龍がそばに集うようになったのだろうとか、あやふやな話はいくらでもあった。一番まともなのが二百年前の命乞い事件である。それも簡素な内容なので、よくある地域ごとに違うなんていうヴァリエーションもろくになかった。品揃え悪すぎである。
「近づいてはいけないと言われる場所の特徴はないかしら」
 ユリアの問いに、受付嬢は難しい顔をする。
「いい悪いの前に、近づきようがないんですよね。志体持ちならまあ、それなりにどうにかなるのでしょうけれど……入り込んで何か利益があるわけでもありませんし」
「んー……。それじゃ、ざっと周辺の地理・水の流れは? 地図を作っておきたいのよ」
「周辺の地理変化もありませんか」
 ユリアと无の言葉に空白の多い簡単な略図が渡された。大きな地理変化はなかったようだが、詳細不明。
 思うようにいかない情報収集に見切りをつけ、スレダはギルドから古龍に譲歩できる条件を確認した。受付嬢は、遺跡周辺の伐採をあまり遠く広げないようにするとか……、などとぶつぶつ呟いている。
「もう少し、何かねーですか?」
「人と馴れ合わない古龍に、何を譲歩したら喜ぶのかがまずわかりませんので……」
 切り札にはなり得そうもない。ないよりましですか、とぶつぶつ呟いていた内容を脳裏にとどめた。
(何百年と時を生きた龍でありんすか……偉大でありんすなぁ)
 おっとりと華角 牡丹(ib8144)は絵巻を見る。素朴な絵柄で龍が描かれていた。
 最後に无が基本的な龍の生態を確認し、ギルドを出る。――十分とはいえなかったが、今ある手札でどうにかしなければならなかった。

●探索
 森へとやってきた開拓者たちは、手分けはせずに全員で動くこととなった。
(こちらが龍の住処に出向くわけでありんすから、古龍は勿論、他の龍にも礼儀を弁えて対応するつもりでありんす。
 害を与えるつもりは毛頭ございんせん)
 皆同じだ。牡丹は今回の仲間たちを見回した。選んだのは逃げとかわし、そして拘束。
「先ず森を流れる川を辿って、滝を探す事になるか……。
 川幅広いほうが主流になるのだろうかね。
 支流も気にはなるけど……」
「川は人里ちけー場所の方から辿る方が良さそうでしょうか。とはいえ……どっちもどっちですかね」
「こちらもなんとも言えず、ですね」
「小さい滝がありそうなのは東側かしら?」
「どうとも言えないのが、なんとも」
 東をユリアが、西を雪斗が選び、无とスレダは判断情報が揃わず。
「わっちは皆はんの経路に従いやんす」
 牡丹は言う。つくづく情報不足が悔やまれるが、ここでぐずぐずしているわけにもゆかない。雪斗が決めた。
「広いほうからあたろう、西側の。……それでいいかな」
「ま、いいんじゃないかしら。どっちにしろ博打みたいなものだしね。
 悪路だけど、川に沿いつつ森の中を移動しましょ」
 真面目に川を遡れば、上空からのいいマトだ。探索経路が確定したところで、ユリアは余白の多すぎる地図を无に渡す。
「では、記録していきますね」
 筆記具を取り出し、請け負った。雪斗は広げたカードの中から、一枚を取り出す。
「……節制の正位置か……良い影響……悪くないね」
 占いの結果に頷いて、森へと足を踏み入れた。

 无の地図は、しばらくは平穏に書き記すことができた。ところどころ迂回が必要だったが、今のところ川と大きく引き離されることはない。人魂を空へ放った无が哨戒を担当し、空から、あるいは望遠鏡での確認をしながら進む。
「このまままっすぐ進むと、川のほとりで休んでいる龍と当たりますが……、どう迂回しようと、この先はもう接触なしでは済みそうもありません。徹底して人魂を使えば抜け道も見つかるかもしれませんが、時間もかかりますし……最後まではもたないでしょう」
「龍も近寄らない場所か逆に密集している場所が怪しいわね。
 古龍を慕って群れるか、敬意を払って近寄らないか。そんなところはない?」
「探しましたが、見える範囲では」
 ユリアの問いに答える无。まだここは森の浅いところだ。さらに川沿いに行くしかない。何か隠密に動けるための作戦か準備をしてくればよかったのだろうが、今言っても詮無いことだ。
 程なくして、案の定旋回中の駿龍とばっちり目が合った。真っ先に反応した雪斗が距離を測り、アムルリープを放つ。とろりと目を閉じた駿龍は、そのままどこかへ滑空していった。それで終わればいいものを、異変を感じたのか他の龍たちがばっさばっさと集まってくる。
「走って!」
 道なき道で足をとられながら、逃走が始まる。しかし、いかんせん龍のほうが速い。すぐに追いつかれ、回り込まれる。木々の隙間を縫い、一頭の炎龍が炎のような気をまとって急襲してきた。牡丹は鮮やかに舞い、それをかわす。牡丹の背後にあった太い木へと激突し、一瞬で吹っ飛ばした。当たったら、一撃で沈められる。それでも。
(わっちから攻撃するつもりはありんせん。
 きっとあちらから見れば、害成す者にしか見えないのでありんしょうし)
 くわっと口を開いて噛み付こうとした攻撃を、ひらりと紙一重で翻す。スレダが口早に呪文を唱え、眠りの底へ炎龍を誘った。
「きりねーです」
 次々に同じ呪文を紡ぎながら、ほんの合間にぼやく。
「続々とおいででありんすなぁ。留まれば留まっただけ、不利でありんしょう」
「スレダさん位なら抱えられるから、なんとかはなるけど」
 なんといってもきりがないし、必ずしも一発でアムルリープにかかってくれるわけではない。耐性が強いのか運がいいのか、かからない奴はかからない。ユリアがそんなしぶとい甲龍に鞭を巻きつけた。強きに従うのは野性の掟、とばかりににっこり強気な笑みを浮かべて。
「通して貰うわよ」
「致し方ありませんか」
 毒蟲で、動き出す直前の龍たちを一時的に鈍らせる。
「スレダさん、迎撃頼む」
 ひょいとスレダを抱え上げ、雪斗はユリアと无が作り出した進路へ走った。雪斗が移動を担ったために呪文に集中できるスレダが、アムルリープを繰り返す。
 どうにか振り切ったのは、スレダの練力が半分以上切ったあとだった。

 危険地帯のど真ん中で練力切れは恐ろしすぎる。それが唯一の回復手であればなおさらだ。それからはスレダの練力をかなうかぎり温存しつつの行動となる。幾度となく戦闘を繰り返しながらも、調査に気を配った。
「空を飛べないなら地面に大きな移動の跡が残るはずよ。
 水飲み場が近いはず」
 ユリアは地面を見つめる。スレダも這った跡がないか、視線を落とした。
「森を荒らさないようにって気遣い無駄にしやがったですね……」
 ふと蘇る龍たちの行動。強敵認定されたのか、炎こそ吐かないもののスキルを全力で使ってくださった。そんな気合はどっか別の方向へ向けてほしいものである。数もいるので始末におえない。
「滝の周りで、木々に囲まれながらも開けた場所……か」
 少し遠く、大きな水音が聞こえるので遠くはないだろう、と雪斗は思う。
「龍たちが遠巻きにしていますね。……いました」
 人魂を通じて、无はその大きなものと目を合わせた。

●地這う古龍
 開けたところだった。陽だまりの中、苔色の鱗をまとった巨躯。そこに出てようやく、足跡も現れる。この巨体だ、狭い木々の間は通りにくいのだろう。
 ヴィヌ・イシュタルを使って古龍の気持ちを伺いながら、口火を切ったのは牡丹だった。
「主はんの住処に断りなく入り込んだ事、御許しください。わっちらは危害を加えにきたわけではありんせん、どうか御話しを」
「……騒がしいと思うたら。人の子たちか」
 地響きめいた声だった。ゆったりと喋っているだけなのに、びりびりと大気を揺らしていく。牡丹はその言葉の中に、ものめずらしさを聞き取った。ただ好意らしき好意はなく、人間で言うのなら「この花こんなところに咲くんだ」程度のものらしい。出方をうかがっている雪斗も、含まれる微妙な無関心さを読み取る。
「僭越ながら……タロット師をさせて貰ってる者になる。
 一つ、お話宜しいだろうか?」
「話、とな」
「初めまして无と申します、よろしければお名前を」
「名か。そなたらは我をなんと呼ぶ」
「地這う古龍、と」
 伝承の名だ。
「では、それでよい」
 スレダも敬意を払いつつ調査理由を伝え、許可を求める。
「今困っている事があれば私たちで協力させて貰うですし、領域に発生したアヤカシは退治するですし」
「心配無用だ。アヤカシが現れれば我々が戦う。それで滅びるのなら、それまでのことだ」
「……その人形の友人もいるです。
 その子の目を覚ませてあげてーんですよ」
「人は死ぬ。物は壊れる。形あるものもないものも、消え行くのは自然なことだ」
 でも、と、スレダは言った。
 それでも。
「この世界の事を、もっともっと知って欲しいですから。
 だから、個人的な約束としても出来る限りの事をさせて頂くです」
 ギルドが確約をくれなくても、相手の望みがまるでわからなくても、それでも。
 ――ふむ。
 古龍が少し考えているのが牡丹にはわかった。ただ、気持ちが届いているかは……別だ。
 スレダが真剣なのは、伝わっただろう。それは牡丹も雪斗も確信していた。瞳に理性の色がある。理解を示している。ただ、共感ではない。
「言いたいことは相わかった。そなたは友のためにどうにかしたいと思うておる。その手がかりが遺跡か」
「そうです」
「しかし、それはそなたの都合であって我らの都合ではない」
 正論過ぎるほどの正論。
「まあ、そりゃそうなんだけど……。とりあえず、お酒でもどうかしら」
 ユリアはなみなみと朱塗りの大杯に花濁酒を注いだ。
「水ではないのか」
「人によったら命の水かしらね?」
 進められるままに興味本位でぺろりとひと舐め。
「人間も、たまにはマトモなものを造るではないか」
 こくりと同じ花濁酒を一口飲むユリアの前で、あっというまに大杯は干された。
「もう一杯いかが?」
「うむ」
「こちらもどうぞ」
 无も持ってきた酒を、すぐに干される杯に注ぐ。
 それから、ユリアはいろいろと話をした。おバカな怪盗の話、小さい女の子の無茶苦茶な領主ぶり。それから、ユリアの愛する幼馴染たちのこと。
「優しくて、愛らしくて、真っ直ぐな子たちなのよ」
 長く森から出ていないなら、きっと外の世界の話は楽しいだろうと思ったが。
「よくわからぬ。そなたが幼馴染を可愛がっているのはわかるが」
 雪斗はそれまでの古龍の言動を、慎重に分析していた。
(人間の生活や文化に詳しくない? ……飛べたころすら人間と関わらなかったからか)
「それでは、ひとつ舞ってみせんしょう」
 言葉でだめなら、行動。牡丹ははらりと彩雅檜扇を開き、かざす。楽のない無音の舞。ふわり、水色に桜吹雪の羽織が翻る。しゃらり、簪の短冊が銀色にさざめく。
 緑色に色づき始めた下草を踏みしだき、さらり、衣擦れの音を立てて。
「――うむ。優美な舞だ」
「ヌシの古いお話も聞いてみてーです。
 遺跡や過去に神と崇められた存在についてですね」
「我の知ることは少ない。戦うこと、獲物を狩ること。四季折々の美しさと、空を飛ぶ記憶。
 それだけだ」
 本当に知らないのか、それとも違うのかはわからなかった。ただ古龍は古い記憶を語らず、スレダは礼儀正しくわずかに滲んだ憧憬の感情を見なかったふりをした。それがダイレクトに伝わったのは、やはり牡丹である。
(それにしても飛べぬとは……飛びたいでありんしょうに……。龍でありんすから、わっちの朋友にも乗せれんせんし、何か手立てはありんせんでしょうか……)
 悩むが、なんともしようがない。无は持ってきたお弁当を広げて、中身を古龍と分けた。
「やはり、人の子はせせこましい。牛を担いでくればよかろうに。余計な味ばかりつけおって」
「牛ですか。……お弁当箱には入りませんね」
 重箱あけたら、牛がぎっしりモーモーと。……古龍は喜ぶかもしれないが、どうやって運べと。文句を言いつつぺろりと重箱の中身を平らげる古龍。
「どうですか、食後に」
「付き合うが」
 无と雪斗の誘いに、古龍は苔色の巨体を起こした。
「ほう。ならば」
 女性陣が見守る中、「遊び」が始まった。

 結果だけ言うと、多少は攻撃を通した二人だがおおむね古龍に遊ばれた。動きはやや鈍いものの、なにせ硬いわ術への耐性が高いわ攻撃は重いわ、連戦後の後衛二人には重たすぎる。とはいえ「遊び」ゆえに、古龍も手加減しつつ楽しんだようではあった。
「少し周りを騒がしても構わないかしら?」
 ころあいを見計らってユリアは改めて問う。スレダも続けた。
「伐採などもあまり広げねーようにします」
「よかろう。森の端を行き来する程度なら好きにいたせ。人にも森の資源を使う権利はあろう。
 ただ我らの生活を脅かすようであれば、相応の対処を取らせてもらう。無為にぶつかることがないとよいが。
 我はすべての人間がまともだとは決して思わぬ。また何か用事があるときはここへ来てもかまわぬが、この森に入ってきた人間は今までどおり襲い、食する。龍たちをさほど傷つけずに我が元へたどり着けた者であれば言葉を交わそう。龍たちに重傷を負わせる、あるいは捕まえて連れ去るのなら会話の余地などない。敵として排除する。以上だ」
 方針は変えないようだが、顔見知り程度にはなれたのだ。必要ならまた訪れればいい。それができる程度の伝手は作れたのだから。
「主はんに御逢いできて嬉しゅうおざんした。何時かまた、御逢いしんしょう」
「うむ。そのときにはまた、酒と牛を持ってくるがよい」
 どうやって。
 最後、餞別代りに古龍は五人へ治癒をかけ、送り返した。さすがに帰り道は野生の龍に襲われることもなく、森を抜ける。
 依頼は無事、果たされた。