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■オープニング本文 開拓者。 それは開拓者ギルドと契約を交わした志体のことだ。 その仕事の中には、遺跡に関するアレコレも含まれる。 ――というわけで。 「次は遺跡じゃの」 老人の言葉に、少女はぱっと顔を輝かせた。 「ホントっ!?」 「うむ。――なんぞ、嬉しそうじゃの」 「そりゃ、もちろん!」 たいてい今までの修行と来たら、えー、だの、無理ー、だの、できないー、だの、頼りないことこの上ない返事ばっかりだったのだが。 少女はにこにこと以前もらった、見習いの刀を引っ張り出した。 「遺跡だったら、薙刀よりも剣とか刀のほうがいいんだよね? 狭いかもだし」 「うむ。――剣ももらっとったじゃろ。刀でよいのか」 「どっちかといえば薙刀に使い方似てるかなって。間合いや重さは同じだから、刀に慣れたら剣も使ってみる。性能もだいたい似た感じだよね」 「その刀は刃が薄いから、扱いは丁寧にの。血糊がついたら必ず拭うんじゃぞ。へんな方向に力を入れるでないぞ。それから……」 くどくど続く説明に苦笑して、少女は簡単に装備をそろえる。 「やる気があるのぉ」 「だって、遺跡だよ? 敵がいるのはたしかにちょっと怖いけど、なんかわくわくするじゃない! 宝珠見つけたりとか」 「見つけても、配布なんぞは朝廷の指示に従わねばならんぞ」 「知ってるよー! 見つけることが楽しいんじゃない。ねぇ、何があるかなー。えへへ、見つけられたら嬉しいな」 すっかりご機嫌な弟子に苦笑して、師匠はギルドへ出す依頼へ一言、宝物をどうにかしてくれるよう付け加えることにした。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
ノルティア(ib0983)
10歳・女・騎
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
カチェ・ロール(ib6605)
11歳・女・砂
桧(ib9177)
15歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●準備 ノルティア(ib0983)は、だいぶ小柄な女の子だった。 「……はじめまして、だね。ノルティア、言います。言いにくいなら……ノルクレセントヘンリエッタティアターナ、で。良いよ」 「うえ!? え。あの、ノ、ノルク……?」 「ん、冗談。嘘……ノル。だと、嬉しい」 「ノルちゃんだね。よろしくお願いします、流和です!」 ほのぼの自己紹介する横で、鴇ノ宮 風葉(ia0799)は興味津々、ぽっかり黒く口をあけた遺跡の中を覗き込んだ。 「さてさて、っと……何か面白いモンでもあればいーんだけど……」 太陽の下では思った以上に暗く感じるものの、目さえ慣れればじゅうぶん明るそうである。 「遺跡ですかぁ……まゆもあまり縁無いですからねぇ。 今回も引き続き、まゆも教えてもらう側っぽいですの」 礼野 真夢紀(ia1144)の言葉に、桧(ib9177)も頷く。 「私も遺跡の探索はそんなに経験ありませんし、足を引っ張らないように頑張りますね」 「今まで学び、訓練してきた様々な事を総合的に活用する訓練と言った趣になりそうですね」 慣れたように明王院 未楡(ib0349)は分析し、方向性を決定。真夢紀は流和の装備を一通りながめ、真夢紀は止血剤と緑茂鉢巻を渡した。 「髪の毛で視界遮られたらうす暗い所は致命的になる事ありますし」 「わー、ありがとう。上等の布じゃない?」 いそいそと頭にぐるりと回すが。 「……む、結べない」 「流和さん……」 「だ、だって。後ろ見えないのにどうやって結んだらいいの?」 情けないこと言う流和に、苦笑しつつ未楡がかわりにちゃちゃっと鉢巻しめてやった。それから、真夢紀も忠告と説明をする。 「まゆは今回あまり戦力になりませんからね」 持ってきたのは、神風恩寵、瘴索結界、閃癒だ。 「大抵の場合、持てる術って三つまでですから、巫女は回復と解毒や探索系で攻撃術入れる余地ないですの。 子鬼程度なら一応剣や弓でも倒せない事もないですけど」 そんなわけで攻撃に参加しない身の上となった真夢紀だが、荷物の中には筍のお握りも詰めてきた。 (小さい遺跡だからご飯いらないと思うけど、流和さんは終わった後お腹すいてるだろうし) それから、師匠の八つ当たり回避の名目で持ってきたのはワッフルセットともち米に餡子を詰めて、桜の葉っぱでくるんだ桜餅。ちょこんと並べて師匠に渡すと、相好を崩して受け取った。 「流和、これが真の開拓者のあるべき姿じゃ」 祟り神への供物じゃないんだから、と微妙な顔をする弟子。まあ、これで大人しくなってくれるんなら御の字だが。 「なんか、わくわくします」 自分も探索系は苦手なので、便乗して学んでしまおうというのは秋霜夜(ia0979)。カチェ・ロール(ib6605)も相槌を打った。 「遺跡って聞くと、やっぱりわくわくしますね」 「ですよねー。というわけで」 未楡と目配せしてあえて地図の存在を隠蔽した霜夜は、見習いを励ますこととした。 「遺跡って、えげつない罠は付き物ですよね? でも、流和さん、先の修行で実地に罠の検分を体験されたですから、この前のこと思い出して落ち着いて対処すれば、大丈夫ですよ♪」 「遺跡にはどんな仕掛けがあるか解りませんから」 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)も、流和に注意事項を説明。足元に気をつけ注意深く行動、扉等があってもむやみに開けない事、策敵スキルを持つ仲間がいたら事前に確認してもらう事……などなど。カチェも、続けて遺跡講義。同じアヤカシでも外をうろつく奴らとは行動が違ったり、倒してもふと気づけば復活していたり。 「遺跡のアヤカシは、外には出て来ないので、危険だと思ったら外に逃げるのも手ですよね」 「逃げられるって、いいよね」 気弱なことを嬉しそうに言う流和。未楡も装備についていろいろと解説する。明かりに松明、落とし穴等に縄。手鏡で視覚の探索。略図や目印を書き込んだ地図の作成と、傷や墨、五色米で目印をつけること。 こっそり霜夜がカリカリと、仲間の説明をメモしていた。 ●下り階段 遺跡の中、そろそろと階段を下りていく一行。すぐに分かれ道に行き当たった。 「あ……どうしよう?」 「流和さん、リーダーになって貰ください」 「え、あたしっ?」 カチェの言葉に、異論があったのは流和だけのようだった。 「遺跡探索では、チームワークが大事です。 罠が作動してしまったときや、狭い通路でたくさんの敵に囲まれたときはどうするかとか、遺跡内で起こる色々な事に、流和さんが判断して指示を出してください」 その判断が、瞬時に出来る様になればと思っての提案だ。 「えーと、じゃあ……、桧さん、あたしと一緒に最初前衛お願い。この階段、とりあえず下ろう」 「遺跡……か。ちょと……不思議なところ、だね」 準備で入ったのが初めてのノルティアは、今もちょっとそわそわしているようだ。列の中心付近にちんまり陣取って、宝珠の色を確認しながら進んでいく。 石の壁は無機質にどこまでも続いている。階段も同じ材質なのだろう。先頭の桧は毛に覆われた狼の耳をぴんと立てて下へと気を配る。敵の足音などがしないか、注意しているのだ。ショートスピアの穂先近くを握り、襲撃に備えつつ進む。 やがて奥から複数の足音をその耳がとらえる。 「気をつけてください、来ます」 小さな警告の言葉に、空気が張り詰める。薄明かりの中に影が浮かび上がり、近づいてくるのが見て取れた。三体。駆け下りるような愚はおかさず、じっと待つ。駆け上がってきた最初の一体の突き出した刀を穿つように跳ね上げて軌道を逸らし、その胸へ深々と穂先を突き立てた。顔をしかめつつ、流和も一体を引き受けて刃を交える。中衛から飛び出したノルティアは流和と桧の間から飛び出し、敵の攻撃ごと盾で押し込めた。もう片手の破山剣で切り伏せる。 早々と敵を片付け、再び一行は階段を下りだした。霜夜はふむ、とその背中を追いかけながらお手玉を取り出す。 もう少しすると出てくる、小鬼の扉。 (これ、結構厄介そうです。 近づかないのが一番ですよね) 床は石材だが、焦げ目や傷などが他の場所にくらべて多くついていた。お留守な足元に気づくだろうか? ぽて、と前を歩く流和の足元にお手玉を投下。桧と流和が揃って足元を見る。 「お手玉?」 「それはいいとして……、なんだか物々しいですね。戦いの痕跡がずいぶん……」 そこまで言って、はたと桧は気づいた。 「……古いものから新しいものまで、よりどりみどりの痕跡。ということは」 「あ。……もしかして、毎回毎回、ほぼ必ずここで戦闘になるとか」 「でしょうねー。どっかに起動装置あるんじゃないの」 投げやりに言いながら汚れた壁をじっと見つめる風葉。のっぺりした石壁にはようやく変化が現れていた。とはいえ、線がまっすぐ入っているだけだが。その線を辿ると、扉のように見えなくもない。 「桧さん、なんかちょっとこの階段だけ変じゃない? もしかして……」 「ええ、この段が仕掛けだと思います」 流和の意識が階段に向いている隙に、桧は拾ったお手玉をぽてりと霜夜の手に戻した。 一つ目の罠を跨ぐことで回避して、しばらく。多少の戦闘があったもののつつがなく乗り越え、気も緩み始めたころ。 薄明るい下り階段の奥、佇む影に身を硬くする。が。 「……もふらさま?」 木彫りの大もふ様像が、灰色の壁に溶け込むように薄汚れて黒ずんでいた。 仕掛け人である未楡が最後尾で無言で見守り、目ざとく罠に気づいた風葉とノルティアが身構える。 「なんでこんなとこ……」 ころっとミスリードに引っかかり、近づく流和。その足がなにげなく階段を踏む。 ごごっ、と音を立てて、すぐ横の石壁が開いた。 小鬼。 「え。うえ!?」 慌てる流和のそばに、小さな影が飛び込む。硬い音を響かせて、掲げた盾が敵の攻撃を跳ね返した。わらわらと出てきた敵に囲まれ、二人だけが仲間と分断される。回り込まれたおかげで、攻撃が防ぎきれない。欠けた刀の切っ先がフリルシャツの襟をわずかに引っ掛け、一筋の傷を華奢な首につける。 「ノルちゃんっ」 「流和さん、指示出してください。 挟まれると戦い難いですから、片側を突破するのも手だと思います」 カチェが冷静にアドバイスし、マルカと桧が前衛に出て戦線を維持した。 「っ! 風葉さん合図でブリザーストームお願い」 「あんたらそこにいたら、巻き込むわよ」 「えと……、ノルちゃん、引き続き防衛お願い。下のほうに逃走経路開いて。あたし移動。霜夜さん」 「すぐ駆けつけますよー」 「じゃ、いち、にの……さん!」 マルカと桧が飛び退り、風葉が一歩踏み出す。翳した霊杖の先から激しく吹雪が荒れ狂い、小鬼たちに襲い掛かった。下段に位置する小鬼にノルティアがシールドノックで押し倒す。流和がノルティアの腰を抱え込み、空いた下段へと飛び込んだ。 僅差で白魔が小鬼たちを飲み込み、瞬く間に体温を、生命を、存在を白く染めて根こそぎ奪い取る。走っては間に合わないが、幸か不幸か階段。走るより、落ちたほうが早い。 空中で身をひねり、ノルティアは盾を下敷きに着地した。紙一重の差で落ちてきた流和を支える。 「ご、ごめ」 「うー。気……つけないと。痛い、目。あう……ね。気、つけて?」 にへらと笑うノルティアに、ばつの悪そうな苦笑を返す流和。すぐに霜夜が駆けつけ、周辺の警戒にあたる。真夢紀も降りてきて、治療してくれた。 「で、この置物……もふらさまだよね?」 ひょいと持ち上げると、その裏に埃を被った旅立ちのブローチが。 本命を隠す為に、罠や品に目を向けさせる事がある事を教える。そんな意図で未楡が置いたものだった。 そこから先は存外早かった。あらかじめ瘴索結界を頼み、似たような罠を察知して回避する。突き当たりの中部屋も同じく看破し、戸を開けるなり風葉のブリザーストームであらかた片付け、範囲外にいた残存戦力を豊富な前衛で一気に制圧。そして出入り口に戻ってきた。 「宝物は奥にばかりあるとは限りませんわ」 にこりと意味ありげに言うマルカ。きょとんとしつつ、周囲に目を配る。 「あ、みっけ!」 入り口付近、前しか見てないと気づかないあたりに宝箱。嬉々として空けるが……空。 「……あ、あれ?」 「その宝箱、よくご覧下さいまし。少しぐらぐらしていませんか?」 「あ……あああっ!」 「……ん。手帳だ。かぁいいね。おめでとう……ございます、かな」 手帳と、筆記用具もついている。ぱあ、と表情が明るくなった。 「えへへー、宝箱に、罠に、仕掛けに宝物! あ、でも全部一個しかないね。どうやって分ける?」 思わず開拓者たちは顔を見合わせた。どうやっても何も……。 「……そうねぇ、まゆちゃんしかマッピングしていませんでしたから、左の道は流和ちゃんがマッピングしてくれますか?」 「宝箱、像、とか。荷物、持ち……するね」 とりあえずごまかすことにした。 ●罠だらけの迷路 中央とはまるで違う複雑な迷路。がり、とノルティアが目印をつけ、真新しい手帳に流和が拙い地図を書き。 「枝道が多くて大変ですね」 背後から現れた小鬼二匹を、殿を受け持つ未楡は霊刀でばっさり切り伏せる。枝道が多いせいで、敵に背後をとられやすい。 (依頼の際は情報の整理が肝心、きちんと聞いた事を書きとめて置く習慣をつけて欲しいですわね) 前衛に出ているマルカは隣の流和を盾で隠すようにしながら、的確に急所を狙って次々と小鬼を切り伏せていく。罠や横道、敵に気を配って地道にマッピングし前進……、もしかしなくとも流和はそんなに得意ではない。 周囲にいっときの静けさが戻ると、真夢紀は流和の口にチョコレートのかけらを放り込んだ。 「大きな遺跡ですと、集中力切れる事も有りますし。そんな時安全性の高い所で適度な休息取る事もありますから」 「真夢紀ちゃん……」 きらきらと目を輝かせる流和。師が師なら弟子も弟子だ。現金に復活して探索再開。 「あれ?」 「すぐわかりました?」 霜夜が言う。 「人の目は異質な物ほどすぐ見分るので、似た色に紛れさせてみたのですが……あれ?」 四角くて、「一」の面がこちらを向いた賽子が宝珠に紛れて埋まっていた。 「やだー、なにこれ! 誰がやったのかなぁ、お茶目だね。外すのなんかもったいないなぁ」 そう言いながらもかこりと外し、かわりにどんぐりを押し込む。真似っこしたくなったらしい。やっぱり、誰も何も言わないので開拓者が宝物を用意してくれたことに気づいていない。 「なんでそんなの持ってたんです?」 「村のちびっこがくれるから、入れっぱだった」 賽子のおかげで壁への注意に比重が置かれ、結果として罠の宝珠を見つけ、炎の矢を一度引き当てた以外はすべての罠の回避に成功した。相変わらずノルティアが庇ってくれている。 地道なマッピングを終えてたどり着いたのは、がらんとした小部屋、ぐるりと室内を見回す風葉。罠もなければこれといって何もない。何もないが、やはりここも継ぎ目のない石の部屋だった。 ポツンと置かれた宝箱。 「真夢紀ちゃん、なんか感じる?」 「これといったものは何もありませんね」 それを聞いてから、周囲の罠を警戒しつつ宝箱に手をかける。 「わぁ、見てみてー! かわいい、刺繍の靴だ。こっちはゴーグルとかいうやつ?」 「冒険者といえばゴーグルでしょ」 「そうなの?」 それは風葉の持論だったが、なんらかに騎乗するとあったほうが断然便利だ。一番安い簡素なつくりのゴーグルだったが、流和は靴と一緒にノルティアの持つ宝箱に移し替えた。 気づくかな。ちょっと楽しみにカチェは見守る。 (遺跡と言えば、やっぱり宝珠ですよね。 遺跡のアヤカシを倒すと、たまに出てくるらしいですけど、ここだと余り期待できませんし) 事実今までの道のりでひとつも見つけられなかったのだから、帰り道も似たようなものだろう。 「あ、そーだそーだ。箱の下!」 わくわくと箱を持ち上げる。きらりと輝く宝珠のかけら。 「箱に気をとられるせいで、意外と気付かなかったりするんですよね」 「やりましたわね!」 にこにこしながらマルカも喜んでくれる。 「ちょ、これ宝珠!? ちょっと違うのかな? でもギルドに報告しなくっちゃ!」 「じゃあ、報告をお願いしますね」 どさくさ紛れに桧が取っ掛かりをつくる。 「そうですね……、地図もあわせて提出をお願いしますね、流和ちゃん。宝物はお駄賃ということで」 未楡がにっこり付け加えた。 ●その後。 「あによ、冒険の心得? ……あー。何でもいいから野望だけは決めておいたら?」 「……おいしいもの食べるっ! もっとたくさん!」 もきゅもきゅ、風葉の隣で真夢紀の筍おにぎりをさんざんほおばりつつ自信満々言う流和だった。 |