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■オープニング本文 腹が、減った。 腹が……減った。 がつがつがつがつ。 まるで粗野な男のように、勢いよくお茶漬けをかっ食らう少女、流和。隣で流和の兄嫁が塩漬けの大根を茶碗に盛り付け、しいたけ茶を注いで出す。 「ありふぁとー」 空になった茶碗を受け取り、次のお茶漬けを準備。その間に流和は、今しがたよそわれたお茶漬けをがつがつがつがつ、と。 「我が妹ながら、なんつー品のない。つーか三江は俺の嫁なのに、なんでお前が面倒見てもらってんだ」 「ふぐ? らって佐羽ちゃんいふぁいし」 「……口にモノ入れて喋るな、行儀悪い」 「ふぁい」 がつがつがつがつ。 「そういえば……、おじい様とお師匠様は朝からどちらに行かれていらっしゃるんですか? ゆうべからお見かけしませんが」 お茶を注ぎながら、三江がたずねた。兄が記憶をたどる。 「ええと……、この一帯の村の会合じゃなかったか? まあ、言ってしまえば口実つけて酒飲むだけの会だけどさ」 「お師匠様が出ても大丈夫なんですか、それ」 「さぁ……。わからないけど、このあたりに志体は流和とお師匠様だけだからな。何かあったのかもな……」 ごっくん、と最後の一口を飲み込み、ほっぺたに米粒つけた流和はぱちくりと目を瞬かせる。そういえば祖父も、流和の師匠もいなかった。しかし、とりあえず。 「おかわり」 空の茶碗を差し出すほうが、先だ。 冬の盛りというころから、その村では不審な、けれど些細な事件が相次いでいたという。 掘ったはずのない畝の中から、大根が一本なくなった。皿洗いの途中、少し井戸から離れていたら鍋がひとつ消えた。洗濯物を干していたら、着物が一着なくなった。など。 主に食料を中心に、わずかずつ村のものが消えていくという。 そしてある雪の夜、厠へ行った帰りの子供が人影を見た、という。翌朝それを知った村の衆は、残された足跡を辿った。 その足跡は森へと続いて、獣道を歩きながらの探索となる。道の途中で紐に引っかかり、呼子が鳴った。それでもさらに進むと、焚き火のあとを残しただけの洞窟にたどり着いたという。 そこはすっかりもぬけのからで、焚き火の跡はあるのに、その他はなにひとつなかった。 雪の上に残った足跡はそこで途切れており、それ以上追うことはできなかったという。 回収した紐は蔦で、鳴子はいかにもそこらの木々を拾ってどうにか組み合わせただけの代物だった。 ふむ、と、杯を交わしながら流和の祖父は考える。うむ、と甘味をぱくつきながら、流和の師匠は頷いた。 集まった各村の有力者たちのひとりが、頼めませんか、と折り目正しく願い出た。 「はぁっ!? 仕事っ!?」 抗議の声を上げる流和、帰宅早々の大声に、祖父は顔をしかめた。二日酔いに大声はきつい。 「騒ぐな、みっともない」 「う。で、でも、仕事って……、だってあたし、まだお金もらえるようなことできないよ?」 「畑では一人前以上だろう。問題ない」 「畑とこれじゃわけが違うよ……! だいたい聞いた限り、あたし解決策思い浮かばない!」 ずびし、と師匠は手刀を流和の脳天に振り下ろした。あだっ、と頭を抱える流和。 「なーにを甘ったれたことを言っとるんじゃ。アヤカシではないじゃろうし、志体っぽい話も聞かん。小賢しさは感じるが大物でもないじゃろ。お前さんが経験を積むのにいい機会じゃ。そのなーんも入っとらん空っぽの頭でも、できることのひとつふたつは考え付くじゃろ」 「うーっ……。でも、森を洗いなおすとか、犯行の間隔……食料がだいたい何日おきに盗まれたのか調べて、次の犯行日時を割り出して待ち伏せるとか……有効かどうかもわかんないことしか思いつかないし」 「実際の依頼なんぞ手探りの場合も多かろう。それでいいのじゃ。切羽詰っているときはともかく、そうでないときはいろいろやってみたりもできるしの。 さて、かといってお前さん一人では頼りないのぉ。ワシは目付けで同行はするが、手は出さん。いつも通り開拓者についてきてもらえんか依頼を出しておこうかの」 「……ちょ、ちょっと安心した」 「頼りきりになるでないぞ。それから、ちと濃い目の茶を淹れてきてくれんかの」 甘いもの食べ過ぎて、胃もたれがひどい。 「は、はーい」 泥棒退治、はじまり。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
カチェ・ロール(ib6605)
11歳・女・砂 |
■リプレイ本文 流和の村から現場の村へと行く途中。滝月 玲(ia1409)は流和の考えを聞き出した。 「流和さんが森で雨風を凌ぐとしたらどこに隠れる?」 「あたしは洞窟、避ける。使える洞窟の見分け方知らないから」 「逆に言うなら、見分け方を知っていれば使える、ということだね」 確かな地盤と崩れないだけの堅牢さがあり、そして動物がねぐらにしていなければ、便利極まりない寝床である。秋霜夜(ia0979)も問いかけた。 「流和さん狐とか兎を狩った事あります? 用心深くて頭のいい相手は何処にどんな巣穴を作るか、思いつきませんか?」 「そもそも見つからないことが大前提だよね。で、仮に見つかっても逃げ出せる場所」 霜夜も狩の経験はないが、逃げ道は複数あるかも、ということは考えていた。逃走経路は重要である。 「『手は出さない』のは了解ですが口は出して貰えますよね?」 こっそりと師匠に尋ねてもみるが、師匠はひょいと肩をすくめるだけだった。準備したお菓子というエサを事前にちらつかせたり、具体的にどこにどんな口出しが欲しいのかを言えばまた違ったかもしれない。 礼野 真夢紀(ia1144)は甘刀とトリュフチョコを師匠に与えておく。 (五平餅だけじゃまた拗ねられそうだし) 「うむ、感心な娘っ子じゃのー。流和ととっ替えたいわい」 とっ替えられても困るが。 「警戒線を張る等用心深い相手ですから、仰々しい武装では警戒感を煽りかねません」 明王院 未楡(ib0349)は装備について話す。流和は未楡の提案に従っていつもの普段着だ。 「こんな感じでいいかな?」 「大丈夫ですよ。はい。六尺棍です」 未楡から武器を借りて、流和は頷いた。 「にしても、また真夢紀ちゃん大荷物だねー」 「普通は食事持って行きませんって。ちょっと考えた事があるので」 ずり落ちそうな荷物を抱えなおす真夢紀。軽装すぎる流和は半分荷物を引き受けた。見かけより力があるのはわかるのだが、体積というか面積というか、真夢紀はちっちゃいのである。 「被害に遭った方はお困りでしょう。なんとか解決して、ついでに流和様の勉強にもなれば言う事ありませんわね」 マルカ・アルフォレスタ(ib4596)も被害者を慮りつつそう口にする。海月弥生(ia5351)も依頼について考えた。 (えーと、今回のお仕事は。泥棒の捕縛なんだけど、現地住まいの開拓者を鍛える意味合いもあるのよね) 流和に考えさせて経験積ませるのもお仕事、だ。 「気が弱そうだし、流石に捕縛の際は手加減よねえ」 三笠 三四郎(ia0163)はその正体について言及する。 「私としては今回の泥棒の正体は「狩人の青年」と考えています」 道に迷って居ついたものの、村に助けを求められる状態でも無い。盗難品も最低限、サバイバル技能もあるのでは? ということだ。理にかなった推論である。 「何となくですけど、この泥棒、普通の泥棒じゃない気がします」 カチェ・ロール(ib6605)は小首をかしげる。 「お金になりそうな物じゃなくて、必要最低限の道具や食料だけ盗んで、2ヵ月半も居座ってますし。 何か理由がありそうです。 殆ど人目につかずに動けるのも、村の事を知っているからかもしれません」 「っていうと?」 「村長さんに、何かの理由で村を出た若者が居なかったか聞いてみようと思います。 戻って来たけど体面が悪くて顔を出せなくなっているとか」 そんなに単純な話じゃないかもしれない、そう思いながらもカチェのたどり着いた推測だ。 人が集まれば、いろいろなものの見方が出てくる。泥棒が出た、どうやって捕まえよう、のあたりに主眼を据える率直なタイプもいれば、事件の真相を探る人間もいる。その見解もさまざまで、ちょっと面白いなと思う流和だった。 村に到着すると、それぞれ自分の考えた推測をもとに行動をはじめる。 マルカは村長に挨拶へ行くと、被害にあった場所の確認と日時を確認した。 「昼間の犯行はすべて森の付近ですわね。夜は……村中どこででも。まんべんなくですのね……」 日付の規則性、というほど明確なものでもないが、平均して一週間に一度、程度だろうか。最近になって犯行の間隔が長くなってきている。前回が十日前だから、今日明日にはやってきてもよさそうだ。 同じく村長に質問したカチェは、小さく肩を落とした。 「流石にそんなに単純じゃないですよね」 ここしばらく、若者の流出はないという。あっても嫁いでいった娘たちや、既に所帯をもって生活している若者などが大半で、出戻りになりそうな人物の情報はない。 三四郎も聞き込みを行ったが、特に真新しい情報にはたどり着けなかったので仮眠をとる。 マルカは村へやってきた異邦人、を装ってぶらぶらと歩きまわりつつの見張りだ。黒ハットのつばの上、白いリボンが品よくまとまっていて、ちょっと前に短くした金髪によく似合っていた。 真夢紀は森の地形を聞き出して、地図の作成だ。大き目の紙にさらさらと概略図を書いていく。水辺は睨んだとおり、いくつかあった。小さな池、ちょっとした湧き水、そこから流れる川というのもおこがましい小さな流れなど。 「あ、森で春の山菜とれる所ってありますか?」 そろそろいろいろ出てくる時期だ。山菜がとれる所あるならそれを腹の足しにしてるだろうから、と思って尋ねると、瞬く間に地図のあちこちに注釈がつく。 「せりに菜の花にうどに……いろいろありますね」 カチェも他に気になった点を聞き込みしていた。同じく水場や隠れ場所になりそうな場所、これはやはり大した情報ではなかった。 「問題の洞窟は、村の人なら知っている場所ですか?」 「まあ、森に入る奴ならな」 村人の礼をのべ、次は子供たちをターゲットに聞き込みをしに行く。やはりというかなんというか、危険ではない森であれば、近所の子供が遊び場にするのは当然と言っていいほど当然のことで。 「でっかいケヤキの下は熊のねぐら。入っちゃ駄目だぞー。それからあそことあそこは崩れやすいから近寄っちゃいけない。お前ちっちゃいからぺっちゃんこになっちまう」 なんか妙な心配までされたが、おかげで事細かな情報を持ち帰ることに成功した。情報共有のために、と森へ行くメンバーへと伝えると、真夢紀が地図に書き込みを増やす。 「ちょくちょく村に来るなら、そこまで遠くでは無いと思います」 「ですね。にしても、おかげで一気に捜索の範囲が絞れました。崩れやすい洞窟なんかは絶対に避けると思いますし……」 狼煙銃と七輪は共に背負い袋に入れ、小刀とブローチは外套の下に隠す真夢紀。 「探索だと一般人と見られる方が有利な事が多いですからね〜」 「ふふっ、やればできるじゃないか。自信持って次行ってみようか」 出てきた洞窟や森の情報に、玲は流和を励ました。 水場の位置を確認してから、霜夜は順番にその水場を回っていた。小さな池の周囲は少しぬかるんでいて、水自体も生活用水にするには少しにごっている。周囲に霜夜以外の足跡はなかった。 湧き水の近辺は岩がごろごろと転がっているあたりで、その岩の上に足跡はない。行き来すれば泥に汚れた足が痕跡をつけるはずだが……。最後に小川を辿ってみるが、こちらは時間がかかりそうだった。 一方、痕跡を探すほうでも地道な探索作業が続いていた。まず最初に村人が痕跡を発見した洞窟に向かう。 「鳴子を使っている段階で、用心深いっていうのは確定よね。どっかに設置してないかしら」 流和の教材がてら犯人像を浮かび上がらせようと鳴子を探す弥生。煮炊きの煙も探してみるが、それらしきものはない。 「探索の基本は、痕跡探しです」 カチェも探してみたが、その場には鳴子ともども何もなく、もぬけのから。すっぱりと諦めて、例の大きなケヤキのもとへ一人向かう。ケヤキの木はちょっとした崖上に生えていて、うろには熊が眠っているようだった。下のほうに枝がなくて登りにくいが、幹も枝もどっしりしていて座り心地はいい。煮炊きの煙がのぼればすぐに気づけるように、監視する。 「雪の中足跡を残さず移動できたって事はシノビ?」 そんな推測をしながらも、決めつけるのは失敗の元、と再捜索する玲。足跡のほかに、刃物を使ったあとや身体で枝を負った跡、鳴子をはじめとする罠を警戒しながら進む。 「草の中とか、薮の中とか……、紛れて罠があったりもするから、気をつけてな」 「はいっ!」 流和が引っかからないよう呼びかけながら、超越感覚で周囲の音を拾う。仲間の足音、草木の揺れる音。 「雪も降らなくなったし調理は下で隠れ家はツリーハウスっていうのもありかも」 柔軟に探すことができるように、と頭上への注意も促す。洞窟に水場に……。探す対象は事欠かない。 「鳴子だけでなく、足跡や足音も注意深く警戒している可能性がありますから……。物音も注意、ですね」 未楡も警戒ポイントを教える。 「足元の死角や逆に目線より高い位置に、炭で汚し見え難くした縄が仕掛けてあったりもしますし……。特に、長柄武器の携帯時は、高いところにぶつけて音を立てる事があるので注意してくださいね」 「……は、はい」 ぜんぶ覚えて、いられるだろうか? 冷や汗かいた流和とは裏腹に、未楡は油断なく周囲を見回す。 「川、というか、流れだな」 玲が水音を聞きつけて、未楡だけ旅の巫女を装って食事の用意を整えて場所を離れてみるが、誰かが出てくる様子はなかった。 結局昼間の収穫はなく、夜に行動する面々が交代するように準備をはじめる。三四郎はひとつの納屋を選ぶと、いくつかある出入り口を固定して、出入り可能な場所を一箇所に絞った。そこに篝火を焚いて、積んである薪の陰に潜んで監視する。 もっとも明かりの下に堂々とやってくる泥棒などいないだろうし、やってこないのならこないで、防犯にはなるだろうと踏んでのことだ。食料庫というか、納屋はあっちこっちにあるのでどこまで通用するかはわからないが。 マルカも暗色の毛布を用意して、森に近い畑の畝の間に身を伏せる。 すっかり気温が下がって、凍えるころ。カチェは再びあのケヤキにのぼった。ここは一番高くて見晴らしがよい。眼下に黒々と広がる海にも似た森が広がり、頭上には満天の星空。 「まだ火の気無しでの野宿は辛いと思いますから」 息がうっすらと白い。白熊のマントにくるまって、じっと目をこらす。火を焚いている明かりが見えないかと探した。 ふあ、と小さく漏れそうになるあくびをかみ殺し、マルカはじっと待った。仮眠をとっておけばよかった、と少し後悔する。コートと毛布のおかげで暖かく、うっかり寝入りそうだ。 待つことしばし。宵の口をとうに過ぎた、真夜中ごろ。 枯れ草を踏む音。はっと意識が覚醒する。あえて毛布を取っ払い、姿を現した。 「こんばんわ。弟子にして頂きたくて参りましたの」 闇の中におぼろげな人影が浮かび上がる。背が高く、警戒するのが見て取れた。 「こちらの村での見事な盗みの噂を聞きました。わたくしはジルベリアの貴族の娘ですが、毎日が退屈で刺激が欲しいのです」 じり、とわずかに後ずさる影。 「泥棒というのは面白そうで、出来れば腕のいい方の教えを請いたいのですわ」 コートの中に剣を隠したまま、じっと相手の出方を伺う。 「――食べることができるのは、幸いなことだ」 がらがらに枯れた声はそれだけ言うと、あっというまに森の中へ姿を消した。すぐさま追いかける。が。 闇ばかりがわだかまる夜の森の中、もうどこにもその姿はなかった。 粘りに粘って、カチェは深夜を過ぎ、もっとも冷え込む時間にようやく目的を達成した。 極めて細い煙の筋と、葉の影にちらちらと揺れる小さな明かり。場所を記憶して、木を降りた。 夜が明けて真夢紀は地図を広げると、カチェと頭をつきあわせて覗き込む。 「このあたりでした。でも、詳細な位置じゃないので慎重に進んだほうがいいと思います」 「探索しながら、ですね。引き続き罠も警戒しないと」 そうして今度は全員でとりかかる。 「これ、鳴子よね」 近づくにつれて罠が出てきた。弥生は流和を呼んで、触らずに検分させる。高さや間隔、付近に別の罠がないかも。 ゆっくりと前進していくと、ややあって玲は小さな音を拾った。呼吸音、いや……寝息? 周囲に焚き火の跡はないが。 「この洞窟……だと思う」 こくり、霜夜は頷き脱出経路を塞ぐように人員を配置する。洞窟は大人の背丈の半分ほど。 「ここに居るのは知ってますよー。 事情あるなら聞きますから、大人しく出きませんかー?」 声をかけると、息を呑む音。這うように出てきたのは、髪も髭もぼうぼうで、落ち窪んだ目の、骸骨みたいに痩せた男だった。 「開拓者か」 がらがらの声。返事を返す一瞬前、男は洞窟の上の出っ張りに足をかけて斜面を猛然と駆け出した。弥生が足元に矢を射掛け、未楡が剣気で威圧する。玲は早駆で回り込み、相手が命を落とさないぎりぎりを見極めて峰打ちを叩き込んだ。 「流和さん!」 「あ、あたしっ!?」 戸惑いつつもすぐに駆けつけて、怖いほど細い手首を掴んだ。 事情聴取には、沈黙が続いた。そんな中真夢紀は取り返した服のかわりに小袖をやり、七輪に鍋をかけ、手早く親子丼を作ってよそう。 犯人含め全員に渡すと、暫し黙って親子丼を見ていた犯人は勢いよくかき込み始めた。痩せこけた頬につと水が一滴、伝う。 「……俺は、小さな村の猟師だった」 椀の中がからっぽになると、ぽつぽつと男は事情を話した。アヤカシに襲われて村が壊滅したこと。一人だけ生き延びてしまったこと。冬山を彷徨いいつしかここへたどり着いたこと。弓も道具もすべて失っていたことも。 抒情酌量の余地がある。村長に男を引き渡すとき、霜夜は口添えした。 「蓄えを盗ったのは罪ですが……村で働いて返すではダメですか?」 「村の防犯係として住まわせてあげられないでしょうか。知恵の回る方ですし、盗みの腕をそれを防ぐ方に使ってみるのもよいかと」 マルカも追従し、何人かも頷き同意を示す。 「しかし……村の者が納得するかどうか。最初の収穫まで、村で大人一人を養う余力も……」 かといって、放免しても生活能力がなければまた盗みに走りかねない。 「村に蓄えがあって」 マルカが呟く。そういえばあのへん、畑広くなってたな。 「実際の被害にあっていなくて」 三四郎が考える。そもそも事件現場でない場所があった。 「村の防衛意識を高めたい場所……」 未楡の視線が流和に向けられた。 「えと……。あたしほど大食いじゃなければ、一人くらいは」 流和の村に、住人がひとり増えるようだ。 |