朋友に慣れよう!
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/31 09:10



■オープニング本文

 杉っ葉集めなんていう、ちびっこの仕事をするのはいつぶりだろうか。
「流和ー、袋いっぱいになったぞー」
 ぱんぱんに膨れた麻袋を引きずった男の子が、他のちびっこたちを引き連れて戻ってきた。袋の中には杉っ葉がぎっしり。ちょっとだけ他の葉っぱも混ざっていたが、問題ない。
「おつかれー。よし、じゃあ次はこれね」
「まだあんのか!?」
 空袋を渡すと、全員揃ってのブーイング。その団結力にはじめは怯んでいた流和だったが、怯めば怯むだけ子供たちはつけあがる。
「まだあるに決まってるでしょー。せっかくゆうべの大風でたくさん落ちたんだし、集められるだけ集めちゃいなさい。冬に冷たいお風呂はイヤでしょー?」
 キッパリ言って作業を促した。が、子供たちも一筋縄ではいかないもので。
「オーボーだーっ!」
「流和ねーちゃん、おててつめたーい。あたしもうやだぁ」
「流和ちゃん、みーちゃんおなかすいたってー」
「おやつー」
「ねーねー、流和ちゃーん。あたし焚き火の準備したー」
「なっちゃんえらーい、じゃああたし火ぃつけるー」
 文句を言い、準備していることを主張し、そして焚き火を実行。
 ここまでみごとに連携を決められると、いかんともしがたい。
「わかったよ、もー。あたしの負け、ちょっとだけ休憩ね」
 わーい、と歓声が上がった。

 茜空の下で子供たちを帰すと、流和は杉っ葉の袋を荷車に積んで納屋へ運んだ。杉っ葉を一掴みしたものに火をつければ、あっという間に高火力が出せる。それはほんとうに数十秒の話なので、杉っ葉の上に小枝、小枝の上に薪を乗せて火をつけるのだ。この村での、火熾しの基本はこれだ。わずかの熾き火の上に杉っ葉を置いて風を送ってもいい。
 運んだら納屋で着替え、戸締りして家へ帰る。既に夕餉の支度をしていたようで、米の甘い香りが漂っていた。
「ただいまー! 三江さん、今日は何?」
「流和ちゃん。雑炊とお漬物と……、お魚がすこしです」
 流和よりいくつか年上の兄嫁が、七輪を玄関に運び出すところだった。かわりに持っていき、魚を焼く。魚から滴った油が熾き火に落ちると炎がごうっと燃え上がるので、そういうときは焼き網を持ち上げるのだ。火傷注意。
「うん、いい感じ!」
 お皿に魚をとって家へ入る。七輪は放置だ。取り込むのは火が消えてからでいい。
 すっかり並べられた食事を前に、いそいそと席に着く。兄と兄嫁と流和、若者三人。そして、祖父と師匠のジジイ二人。最近の夕食はいつもこんなんだ。佐羽がいないのが、少し寂しい。
「どうじゃ、流和。修行のほうは」
 師匠に水を向けられて、流和はため息をつく。護衛と周辺警戒の訓練にと、子守を任されているのだ。
「だめ。ぜんぜん言うこときかない」
「どあほう。子守でなく、護衛のほうじゃ。ワシはお前さんを子守り女にする気はないぞ」
「なる気もないよ」
 そんな半ば漫才じみたやりとりに、兄と兄嫁が笑った。祖父だけが深々とため息をつく。兄のほうが結婚したからまだいいが、流和は結婚できるか心配なのである。男勝りではないが、女の子らしくもないために。
「まあ、そんなすぐにがーっと成長するなんて期待しとらんから安心せい。ところで、そんなお前さんの補佐に朋友を使ってはどうじゃと打診されておってのぉ」
「へー。朋友。朋友ね、龍でいいんじゃない?」
 貸してくれるでしょ、とあっけらかんと言う流和。以前とある宿泊施設で朋友の必要性を説かれていたものの、身の回りにいなかったので具体案なんぞないに等しかった。よくわかんないならギルドで貸してくれる子にすりゃいいじゃん、とたいへんな大雑把を発揮している。
「最終的にこの村の防備はお前さん一人でこなすことになるし、そうでなくとも依頼に朋友を連れて行く機会もある。
 とりあえずお前さんもよくわからんじゃろうから、朋友とふれあったり、朋友と一緒に戦ったり、朋友について学ぶとよかろう」
「……へ」
「詳しいことは、まあ開拓者任せでよかろうて。ばりえーしょん豊富に今までもいろいろやってくれたからのー」
「……じーちゃん、平気なの? 村にどどんと朋友来るかもしれないけど」
 果たして、沈黙を守っていた祖父は頷いた。
「構わん。田なら広く場所をとれるし、川端でもいいだろう。小型のものならどこを歩くにも、さして困らぬだろうしな。
 開拓者の朋友はきちんと調教されていると聞く。傷害事件や器物破損などの事件を起こさないのなら問題なかろう。それにいずれお前が朋友を持つのなら、村の衆にも馴染んでおいてもらったほうがよい」
 どのみち冬になれば娯楽に飢えるのだから、嬉々として受け入れるだろうが。祖父はそんなことを付け加えた。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
音羽 翡翠(ia0227
10歳・女・巫
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
からす(ia6525
13歳・女・弓
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
針野(ib3728
21歳・女・弓
カチェ・ロール(ib6605
11歳・女・砂


■リプレイ本文

 故郷の姉たちから、贈物を抱えてきたのは音羽 翡翠(ia0227)だった。本来ならそれだけのはずだったのに、なぜか受け取り手の礼野 真夢紀(ia1144)に巻き込まれている。
「外なら鍋が良いよね……」
 すき焼きと、チーズフォンデュに決定。この前やってきたらしく、ものめずらしさからセレクト。鍋や調味料の準備をして台車に乗せ、その台車を翡翠が引いた。
「今回は猫又の小雪を連れて行くのでしょう?
 食材は私が運びます……黒疾風、鈴麗と一緒じゃないからってしょげないの」
 翡翠の相棒、駿龍の黒疾風。彼は真夢紀の連れてきた朋友が思い人……じゃなかった、思い龍でなかったので、しゅんと気落ちしている。
「じゃあお願いします」
 あとは……。
「……初日の夕食に出せるよう鳥の丸焼き作って行こ」
「ああ、クリスマスとかいう行事がもうじきですからね」
 お手伝いします、姫。そう言う翡翠とともに、調理にとりかかった。
 準備した干し肉などを抱えて、おのれの龍を迎えに行ったカチェ・ロール(ib6605)。
「フィーさん、今日はお出かけです」
 相棒は砂漠の砂によく似たサンドブラウン。やや大柄な駿龍で、小柄なカチェと並ぶとなおのことその大きさが強調される。
 そのフィーは、カチェの抱える荷物に鼻を寄せた。
「こ、これは未だ食べちゃ駄目です」
 匂いをかぎ、ぐいぐいと鼻っ面でカチェを押すフィー。なんとか干し肉を死守して、名残惜しげなフィーの背中に乗り込んだ。
 目指すは、流和の村。
 そろそろ通い慣れたそこに、フィーを連れて行くのははじめてだ。

 小麦色に日焼けした肌。屈託のない笑顔。
 針野(ib3728)が村に到着すると、流和は歓声を上げた。
「きゃーっ、針野さん久しぶり!」
「流和ちゃんに会うの、ものっそい久しぶりっさねえ」
「うん、すごいうれしい! こないだね、真夢紀ちゃんにあのときの竹筒のごはんの作り方習ったんだよ」
「よく覚えてたんねー」
「流和さんが野外炊飯するときに丁度いいかと思いまして」
 教えた当人・真夢紀が答える。
「あと、佐羽ちゃんが村を出て町に行っちゃった! 料理人になるとか言って」
「あらあら、流和ちゃん大はしゃぎですね」
 ほほえましげに駿龍を連れた明王院 未楡(ib0349)は言った。
「からすさんは夏ぶり? かき氷ごちそうさまー」
「どどんとウチの朋友達を連れていこうと思ったがな」
 十七体の朋友を養うからす(ia6525)……。自宅は朋友屋敷かなんかだろうか? つい流和は、よりどりみどりの朋友に囲まれてお茶飲むからすを想像した。……なにかカワイイ。
「今回はその内の一体だ。仲良くして貰いたい」
「うん、よろしくね」
「流和さん、カチェのフィーさんです」
「わー、霜夜さんのくれた砂時計そっくり。よろしくね、フィーさん」
「砂時計、ですか?」
「えーとね、アル=カマルの砂だって。カチェちゃんのご実家の儀だよね、あとで見せてあげる!」
「はい」
 カチェのフィーは、速度自慢の駿龍とはいえだいぶのんびり屋だ。
「臆病だったり、勇敢だったり、皆個性的なんです」
「そういうトコ、人間と同じなんだね」
 それから真夢紀と未楡の贈り物に流和とやってきた子供たち、師匠までが大喜びした。

●一日目
「管狐のヴァルコイネンと言います……。
 ジルベリアの地方の言葉で白と言う意味で、その通り真っ白な狐さんです……」
 宝珠を見せながら、柊沢 霞澄(ia0067)はその中にいる相棒のことを話す。白く華奢な霞澄の手の中で、きらりと宝珠が輝いた。
「管狐は召喚・同体系の相棒と呼ばれていて、騎乗する相棒と異なり自分の練力を使って呼び出すんです……。
 泰拳士の流和さんが選ぶ事は無いかもしれませんが、このような相棒もいる事を知って頂ければと……」
 とりあえず実演してみましょう、そう言って霞澄は練力を注ぎ込む。
「このようにいつもは宝珠の中に入っているのですが、呼べば出てきてくれるんですよ……」
 ぽむっ、と、足の揃っていない姿で現れる。言葉のとおりに真っ白な姿で、ふよふよと浮いていた。そっか、管狐って浮くんだっけ……、当たり前なことをしみじみ再確認する流和。
「ヴァルコイネンと申す、宜しく頼む」
「流和です。よろしくお願いします」
 思わずきっちり敬語で返す流和。
「管狐は精霊魔法を使ったりして助けてくれます……。
 戦う時にも頼りになる相棒です……」
 それから、一直線に飛んでいく飯綱雷撃も見せてもらう。
「わー、強そう! いいなぁ遠距離攻撃!」
「管狐の力は召喚者次第だからな、本人が頑張っておればそれに応えられると言うことだ」
 無論ヴァルコイネンの能力もかかわってくるが、そもそも召還してもらえないと始まらないのだ。
「それと、同体化する事で私の能力を高めてくれるんです……」
 そう言うと、ヴァルコイネンはきらめく光へと姿を変えた。その光が霞澄を取り巻き、同化する。
 ――が。
 ひょこ、と霞澄の前髪の生え際辺りから毛に覆われた耳が、ふさ、とお尻のあたりから尻尾が生える。
「耳と尻尾は私だけかも知れませんが……」
 照れたようにそう言う霞澄。神威人のようにも見える。
「かわいー! 聞こえたりするんですか?」
「いえ、外見の変化だけのようです……」
 まじまじと見つめられて、少し居心地が悪い。まもなく同化を解除したので、隣にヴァルコイネンがふよふよ浮く。
「欠点としては、練力を消費するのであまり長い時間一緒にはいられない事でしょうか……」
「……うん、すごい練力いっぱい使いそうだった」
「うむ、その点は精進あるのみだな」
 ヴァルコイネンはそんなふうにして締めくくった。

 村人にも慣れてほしい。そんな思いで、カチェはフィーを連れて散歩に出ていた。あぜ道を先導して歩くカチェに、ひょこひょこついて歩くフィー。気づいた子供たちが真っ先によってくる。
「フィーさんは大人しいので、触っても大丈夫ですよ」
「ほんと?」
 年が近いのもあり、瞬く間に子供たちに取り囲まれるカチェだった。

「うちの子は忍犬の「霞」です。女の子ですー。
 霞はあたしより年下なのに、すっかりお姉さん気取りなのです」
 自慢げにもふもふ尻尾を振る霞。秋霜夜(ia0979)の相棒だ。
「あは。霜夜さんにはいつもお世話になってますー」
 つい佐羽の真似して礼儀正しそうな言葉遣いになってみる流和。つぶらな真っ黒い瞳が流和を見返してきた。
「わんこは古くから人の傍に居てくれた友人なのはご存知ですよね?
 戦闘を仕込まれた忍犬も、根は人が大好きなわんこですから、とても頼り甲斐のある相棒なのです。
 これからの季節、抱いてると温かいですし」
「座敷犬かぁ。冬は暇だからいいけど、普段あんまり面倒見てあげられないんだよね……」
 足を洗ったりする手間を考えると、難しい、とこぼす。それはまた今度考えましょうか、霜夜はとりあえず問題を棚上げした。
「ただ生身のわんこの限界はそのままです。
 特別な力はありません。人語で会話もできません。
 それだけに、目と目で通じ合えるよな、主従関係を作ることが大事だと思うのです」
 ちょこんと座る霞。差し出した霜夜の手に、たし、と小さな手を乗せる。
「そか。……気をつけてあげなきゃだね」

●二日目
「人妖は、ギルドでは一般的に貸与してない、珍しい朋友なんよね。
 ただ、連れてる開拓者って一定数おるから、この機会に色々知っておいて損はないと思うさね」
「よーす、オイラ矢薙丸ってんだ。名前、流和でいいのかー?
 今回はよろしくなァ」
「よ、よろしくですー」
 ち、ちっちゃい! はじめて目にする人妖をまじまじと見つめる流和。他の朋友との違いを教えるためにも、針野は矢薙丸にいくつか頼みごとをした。
 くるりと黒いリスに化けたり、宙に浮いたりする矢薙丸。わー、とノリよく拍手する流和。
「戦闘は……うーん、正直な所、直接的な戦闘って、人妖には不向きだと思うんよね。
 龍みたいな速さも、忍犬や猫又のような爪と牙もないし……。
 神風恩寵、解毒、守護童とかの術で戦闘を補佐してもらうのが、主な戦い方になるんかな」
「術者さんなんだねー」
「オイラ達朋友と主人って、一応生き物同士だし、相性ってあると思うんだよなァ。
 流和は相性のいいヤツと出会えっといいな」
「うん。仲良くなれるようにするよー」
 それで矢薙丸は? 流和は視線でたずねた。
「ん? オイラはどうかって?
 あー……まァ、針野に見つけてもらえて、感謝してるよ、オイラは」
 ぼそっと言う矢薙丸。荷物にまぎれてうっかりと……、そんな経緯があるとは知らず、流和はにっこり笑う。
「矢薙丸? 小声で何ぶつぶつ言ってるさー?」
「な、なんでもねぇよっ」
 照れ屋さんだなー。針野と矢薙丸のやりとりに、あながち間違ってはいないのだろうけど若干履き違えた感想を持つ流和だった。

『はじめまして、こゆきです』
 ちょこ、とお辞儀するちっこな真っ白い猫又。それが小雪の姿だった。
「うわー、ちまっこい。この子戦わせて大丈夫なの?」
 あんまりにも柔かな姿に、流和が不安がる。
『ふくあるけどまださむいのぉ』
 白の外套を纏っているとはいえ、冬真っ盛りの季節だ。困った顔をする流和に、真夢紀は口を開いた。
「気持ちはわかりますけど、ちゃんと戦えるんですよ?」
「そ、そう……」
「攻撃手段は主に精霊魔法ですから。まゆもそうですけど、小雪も後衛担当です」
「ちょっとほっとした。猫又ってよく獰猛とかいわれるから、ばりばり前衛こなすのかと」
 偏見である。いや、正しくはそれがメインではない。
 そんな流和の大雑把な認識を改めるためにも、真夢紀は具体的な説明をする。
「普通の猫と同じ大きさですから大抵の場所には連れ歩けますし、街中での偵察等も可能、攻撃も精霊魔法が使えます。
 小雪はちょっと違いますけど、普通は獰猛なものも多いですし、知恵が回ってずる賢いのも多いですし、生意気とか最初は言う事をなかなか聞かないといいますね。
 身体は小さいですから直接戦闘は厳しいですし、空を飛べない不便さもあります。移動手段も限られてしまいますしね」

 さて、移動手段としての話題が出たところで、主要な手段である龍に話題を移すこととした。
 未楡はざっと龍の利点を説明する。特に駿龍についてだ。斬閃の姿を見せ、特徴を挙げていく。
 機動力・俊敏性に優れ、偵察や緊急時の連絡・移動手段に向いているということ。比較的防御面が弱く、持久戦には不向き。大きさから共闘したり、乗降出来る場所はある程度制限されること。斬閃はおとなしく未楡のそばにたたずんで、じっと主の言葉に耳を傾ける。言葉は理解していないのだろうが、なんとなく自分のことを話している、くらいはわかるのかもしれない。
「例えば、急病人が出て、街まで薬を調達に……。
 医者を呼んで来ないと……なんて事態を考えると、心強い仲間ですよ」
 途中に山があろうが川があろうがショートカットできる。空路の強みだ。
「ただ、乗員は一名なので、傷病者の搬送は考えない方が良いですが」
 そんな未楡の説明を受けて、翡翠は補足を加える。
「機動力は大幅に落ちます……万一戦闘になれば回避もろくに出来ませんし移動力も大幅に落ちますし。
 でも二人乗りは可能ですよ」
 安全が確保できている場合の手段、と
「私の住んでいる所は島で、海の恵みも豊かですが荒れると船は出せませんし。
 そんな中で街にどうしても行かなければ行けない人がいる場合二人乗りで送る事有ります」
 空も荒れている場合は考え物だが、海だけという日もめずらしくはない。そんなときの交通手段に便利だ。
「そっかー。同じ理由で土砂崩れとかも活躍しそう。橋が落ちたとか」
(私の場合、急病人は巫女姫様の甲龍と鬼姫様の炎龍と三匹で編んだ籠を吊した綱を三匹で分担して
足に結わえて運んだりする事もあるし)
 ただ、翡翠はそのことを口には出さなかった。難しいのだ。これは。
 まず朋友との絆がそうとう強くないとならない。そんな強固な信頼関係を築いている主と竜が三組必須。自分と朋友との絆を計り間違えれば、輸送中に耐えかねた朋友が好き勝手な飛行をはじめて大惨事、と、リスクも大きいためだ。

 さらにからすが補足して、炎龍や甲龍の性質をざっと説明。
「家畜と同じと見られては困るのでな」
「ふぅん……?」
 あまりからすの言いたいことを汲み取れなかったようだ。農民にとって、道具も家畜も大事なものだ。土地とどちらが大事か、と言われたら、土地、と答えざるをえないけれども……。
 土地さえあれば、自分や家族の一人二人が欠けても存続していける。そんな考え方を、全面的でなくてもどこかで持っている。だからたぶん……すこし、流和にとってからすの言葉は難しかった。流和自身「村のために」開拓者を目指した程度には、土地に根ざした思考回路をしている。
「……稀に道具の様に扱う開拓者もいる。哀しい事にね。
 共に命懸けで仕事をする相棒だ。しっかり学んで頂きたい」
「無理やりとかだめで、朋友の気持ちも考えるってこと?」
「大きくは違わないかな。じっくり考えるといい。まだ時間はあるのだろう?」
「うん。すぐ決めることでもないし」
 それは今後の課題とするとして、流和のこれからのためにミヅチについて説明する。
「とはいえもふら程ではないが一般にもよく知られた朋友だと思うが」
 水の精霊であり、液体を操る力があること。湖や沼に住み着き、個体数は少ないこと。そして戦闘は苦手なほうだということ。
「魂流、挨拶」
『ミュー』
 持ってきた容器から、魂流が顔を出す。
「かわいいねー」
 ほわ、と流和が相好を崩した。
 それからは多少の実技も入る。
『んっと、いまはぴかってひかるのと、ひをつけるのと、かぜできるのができるの』
「え、ええと……、じゃあ火!」
『……どれにひつければよいの?』
「小雪まだ子供ですから、的確に指示しないとだめですよー」
 そんな突込みをもらったり。
「では、消しておこうか。魂流」
 からすが魂流の火消しを兼ねた水柱を披露したり、した。

●三日目
 魂流の雨占いの結果は、降らない、とのことだった。
「ということで、折角色々な相棒が揃いましたので」
 ひと段落もしましたし。霜夜は三日目の朝、明るく切り出した。
「流和さん、村の皆さん含め相棒囲んでのお食事会しましょー。
 相棒がご飯食べてる姿見るのも癒されますよね? よね?」
「え、うん……?」
 勢いにおされて頷く流和。知らないのは当人ばかりで、しっかり準備していた開拓者たちは準備を進めていく。
「空の上はより一層冷え込みますよ。
 悴んで操作を誤ったり、落ちてしまったら元も子もありませんからね」
 そう言いながら未楡が貸してくれた白き羽毛の宝珠と、毛皮の外套、それから手袋。初心者の流和への配慮だった。特にこの宝珠、落下時のダメージ軽減のあるしろものである。
「おお、防寒ばっちり。ありがとー、未楡さん!」
 あんまりちゃんと性能のわかっていない流和は無邪気だが、未楡はにっこり微笑んだ。それから師匠の龍に騎兵の鐙をつける。これでよし。斬閃も隣ですっくと待っている。
 流和も基本的な乗り方をカチェからレクチャーしてもらい、鐙に足をかけて跨った。真夢紀から買い出し物を列挙してもらったメモを受け取り、翡翠も黒疾風に跨る。
「姫、では準備宜しくお願い致しますね」
 軽く龍の腹を蹴り、空へと舞い上がる。
「うわっ」
「慣れない内は、落ちない様にだけ気をつければ大丈夫です」
「け、けっこう怖いもんだね……」
 手綱をしっかり握って、身体を低くするといいです。カチェの助言のとおりに、ゆっくりと体勢を変える。
 流和がいくぶん余裕を持って周囲を見渡せるようになると、カチェは姿勢を正し、巧みな手綱捌きでフィーに指示を伝える。砂色の翼を大きくはためかせ、フィーはその指示に応えて全力で飛行した。さらにその状態でアサドを引き抜き、くるりと手の中で回してまた鞘へとおさめる。
「すごーい! カチェちゃんかっこいー!」
「一流の砂迅騎は、人龍一体の動きが出来るんです。カチェはまだまだですけど」
 騎乗への適正が非常に高い砂迅騎ゆえの技だ。存分に自分の力も朋友の力も発揮する。
「そんなことないよー! いーないーなぁ!」
「流和ちゃん、薙刀を下手に振り回すと龍を傷つけてしまいますよ。あとでちゃんと教えますから、それまで我慢してくださいね」
 にっこり斬閃を駆る未楡にたしなめられ、はしゃぎすぎた自分にちょっと恥じ入る。カチェの余興が程よく緊張も緩和して、往路、復路ともに問題のない飛行と相成った。

 朝っぱらから出かけた四人だが、居残り組みもただ待っていたわけではない。霜夜は興味を示すのは主に子供だろう、とあたりをつけて、その面倒役を買って出た。
「霞、見守ってあげてくださいね?」
 了解したわー♪ とでもいうように、しっかと頷く霞。わんわんだー、と寄ってくる子供にもみくちゃにされつつ、嫌がらずに相手する霞。さすがお姉さんである。
(大人達も、子供が相棒達になついてるのを見れば、将来、この村を守る「一人と一匹」も信頼してもらえるんじゃないかと思うのです)
 霜夜はそう願う。土地に根ざして生きるのなら、土地の人々の理解と許容が必要だから。
 調理や準備については、三江をはじめとする女たちが手伝ってくれた。真夢紀の指揮のもと田の畦をぐるりと使った会場がセッティングされ、調理が整えられていく。からすや霞澄、針野と、居残り組みは大忙しで、魂流も(爪弾きにされた)男衆や子供たちと遊んでいる。昼前には翡翠たちも帰還し、準備に奔走した。

●四日目
 二度目にもなると、要領というのは掴めてくるものである。
「少し余裕がありますね、姫」
 襷をときながら、翡翠は苦笑する。昨日は忙しくててんてこ舞いだったのだ。思った以上に参加者が多かったのもある。
「勝手が違いますし、結構任せたほうがいいのかもしれません」
 もはやコトは真夢紀の手を離れ、女たちがそれぞれあちこちで真夢紀の真似をしつつ独自解釈を含んだ「モドキ」を作っていた。村ひとつとなると大人数で、開拓者だけでカバーするのは土台無理な話。ここは意外と人口も多い、豊かな土地だ。あちこちで車座を組んで勝手に盛り上がっている。おおらかな土地なのだろう。人に混じって犬猫もうろついていて、うっかり霞や小雪は紛れ込んでいた。フィーもお待ちかねの干し肉をもらっている。
「如何かな?」
「あ、ありがとー、からすさん」
 お茶をもらって一口含む。熱い液体が喉を下った。
「朋友が何を食べるかを知る勉強になるだろう」
 基本雑食のミヅチだが、魚と冷茶を与える。好物はお酒だけれども。
「美味いかね」
『ミュー!』
 うれしげに魂流は返事を返した。なるほど、確かに食事風景は和む。小さな矢薙丸も針野に取り分けてもらいつつ食事だ。
「人妖って瘴気からできてるから、食べ物から瘴気を取り込んでたり、瘴気の薄い神社に長時間いると体調を崩したりするんよー」
「へー、さすが。陰陽師ってとにかく瘴気をあれこれ活用しちゃうもんね」
 ナニコレおいしい、とチーズフォンデュ野菜スープヴァージョンを次々と胃におさめつつ頷く流和。……こってりしたもの、好きなのかもしれない。数十杯を空にしたところで、流和ちゃんちょっと、と未楡に呼び出される。
「お約束の薙刀のお勉強をしましょうか」
「はいっ!」
 師匠の龍を連れてきて、練習だ。
「龍の動きも考えて薙刀を振るわないと、龍を傷付けてしまいますから息を合わる事が大切なんですよ」
「気をつけます!」
 そんなふうに、時間は過ぎていった。