冒険に慣れよう!
マスター名:茨木汀
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/26 22:07



■オープニング本文

 黄金に輝く田を、風が撫でて行過ぎる。
 鎌を持った村人たちがみな一列に並び腰をかがめ、田の端から端へと稲を刈っては束ねて田の中に立てていく。のどかで、そして忙しない稲刈りの風景だった。
 そんな一般的な光景の中、たったひとりでひとつの田を刈っていく人影がふたつ。
 肩までの黒髪を束ねた少女と、痩せて引き締まった体躯の老人だ。それぞれ瞬く間に稲を刈り上げて行く。あとに残るのは、数束がまとめられた稲の束。二人が田から引き揚げ別の田へ行くと、女たちが残された稲を束ねて田の中に立てていく。
 一般人ではありえない作業効率。志体の体力や腕力を遺憾なく発揮した結果だった。
「これで田んぼ三枚目、おしまい!」
 刃こぼれし始め切れ味の落ちた鎌を片手に、ぐ、と少女は腰を伸ばした。開拓者見習いの流和である。
「何をのろのろしているんじゃ。早く甘味を持ってこい、甘味を」
「はいはいはい、っと。今日は羊羹ですよー」
「うむ、不味くはない」
 土手に腰掛け、包みを開いて羊羹をぱくつく老人。流和の師匠である。ちなみに、この師匠の名前を流和も知らない。かれこれ半年のつきあいになるのだが、名前を覚えるより、慣れない甘味作りを覚えるほうが流和的に大事だったためである。
「不味くないだけでいいことにしてよ。料理とか、得意なわけじゃないし」
「文句は言っとらんじゃろうが」
「文句じゃなかったの、アレ」
「どこをどう聞けば文句に聞こえるんじゃ」
 はー、とため息をつく流和。そんな弟子の頭に拳を落とし、こぶを抑える弟子へと言葉をかける。
「まあ、ワシよりはとろいが動きもまずますよくなってきたのぉ」
「師匠稲刈りへたくそだもん」
 こぶが増えた。
「い、い、いっ‥‥」
「まったくもって礼儀を知らぬ娘じゃの。その上これくらいの攻撃もかわせぬとは」
「避けたらもっと怒るじゃん!」
「挙句、ごたくも多い」
 やれやれ、と羊羹をぱくつく師匠。いらっと来たが、流和はそれを抑えた。ここでむきになっても、やり込められるだけだ。人間、繰り返せば学ぶ。
「そろそろ基礎体力もついてきたしのぉ、まあ、駆け出しの開拓者、には多少劣るが混じっていてもぎりぎりやっていけるかもしれんの。
 お前さん、戦闘もからっきし、身体能力も志体にしちゃ低い、飲み込みが悪いわけじゃーないのに才能もいまいちで、はじめはひどいもんじゃったが」
「喜べばいいの? 腹立てればいいの?」
「ここまで育てたワシを敬えばよい」
「‥‥」
 微妙な温度差を生みつつも、師匠は言葉を続けた。
「基礎訓練はこのあたりでいっぺん切り上げようかの」
「ほんと!?」
 ぱっと流和の顔が輝いた。重々しく師匠が頷く。
「あとはのぉ、ともかく流和、お前さんのその――平和ボケをなんとかせねば」
「へいわぼけ‥‥」
「とにかくお前さん、緊迫感が足りん。年がら年中隙だらけ、ぼけぼけしすぎじゃ。
 ワシとの修行だけじゃー、どぉも気が緩んでしまうようじゃのぉ」
 師匠の言葉に、流和は困った顔をした。気を抜いているつもりも不真面目なつもりもないのだが、いつも突飛なことをやらかす師匠なので、いろいろ慣れたのだ。神経も太くなりつつある。
 ともあれ、どう考えてもこれ以上を求めるのなら師匠以外の誰かが欲しい。そんなことを師匠は流和に語った。
「誰かって?」
「うむ。どーせ部分的に突発的に刺激的にお前さんを鍛えて欲しいだけじゃから、師匠追加、にはせんぞ。だいたいワシのほかに師匠が増えたら、お前さん、ワシをどう呼ぶつもりじゃ」
「名乗ろうよ。そう思うなら」
「ワシはお前さんの師匠。それでいいじゃろ。村でも流和の師匠、で通っとるし。なんかもう今更名乗るのも微妙じゃし。
 さて、こんなときの開拓者頼み。ひとつ連絡を入れようかの」
「ちょっ、今稲刈りなんだけど!」
「何を甘ったれたことを。稲刈りはうぉーむあっぷ、じゃ。しっかり働いた後、がっつり開拓者にしごかれるがよい」
「稲刈りのハンパない忙しさをナメてない師匠‥‥?」
 引きつる流和にどこ吹く風の師匠。かくて、開拓者ギルドにひとつの依頼が並んだ。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
明王院 未楡(ib0349
34歳・女・サ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
マルカ・アルフォレスタ(ib4596
15歳・女・騎
ラティオ(ib6600
15歳・女・ジ


■リプレイ本文

 一面が黄金の収穫を待つ稲穂。さやさやと稲穂が風になびいて音を立てる。
「流和さーん」
 あぜ道の向こうから、大きく手を振る黒髪の少女。秋霜夜(ia0979)だ。
「霜夜さん! みんなも。ひさしぶり! それからはじめまして!」
 田んぼの中から、流和が上がってきた。
「心なしか頼もしくなってませんか?」
 ぺたぺた、肩だの腕だの触ってみる霜夜。
「うん、前より田んぼ刈るの速くなったよー」
「基礎鍛錬が終了と聞いて、有志の皆さんでお手伝いに来ましたっ。
 皆さん、いい具合に職種がバラケてますから、幅広い視点から、教えて貰えると思いますよ」
 相変わらずのどかな様子に小さく笑い、霜夜は背後に続く仲間を紹介するように軽く手を広げる。
「さぁ流和ちゃん、この草を毎日飛んで、それから長いマフラーを首に巻いてひたすら走るのです!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)がそう言う。一瞬の静寂。それから。
「‥‥って、基礎はもういいんですか、間違っちゃいました」
 赤くなったルンルンに、ぷっと吹き出す流和。いい感じに空気が和む。
「こういうのも面白そうだね〜〜」
 ラティオ(ib6600)が微笑んだ。
「えーと、霜夜さんたちはいつも通りよろしく。ルンルンさんたちははじめましてかな? よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げて挨拶し、流和はふと一人の少年に目をとめる。
(どっかで会ったような‥‥なんかやたらとおいしかったような‥‥)
 じー、と流和に見られて、羽喰 琥珀(ib3263)は首をかしげた。
「あー、ごめん。やっぱなんでもないみたい。とりあえずよろしくー」
「なんかよくわかんねーけど‥‥、まっ、早速準備してくるからなー」
 事前準備の必要な琥珀とルンルンは、すぐに一行から別れることになった。
「じゃあ説明しますね。流和さんは、「習うより慣れろ」だと思うんです。
 なので演習形式で行きましょー」
 霜夜が明るく説明を始める。まずは状況設定。
「一泊二日で山菜採取の依頼を受けました。熊が出没する危険性がある為就寝時に交代で見張ります」
 礼野 真夢紀(ia1144)が言う。
「熊か‥‥。朝夕だよね、危ないの」
「夜間や昼間もいたりしますよ。それと普通お弁当は1食分ですから、野営準備が必要ですよ?」
「えっ‥‥自力!? 白菜とかもってっちゃだめ?」
「流和様、流和様。開拓者としての知識、心構えを覚えていただくのに、楽しようとしたらいけませんわ」
 苦笑してマルカ・アルフォレスタ(ib4596)が窘めた。
「依頼中に、休息すらままならぬ中、心身をすり減らしながら戦闘と警戒を続ける事もしばしばある事ですし‥‥」
 明王院 未楡(ib0349)も、いつもの柔らかな口調で事実をそのまま伝える。
 この村の防衛をするための鍛錬――、そのために開拓者として経験を積みたい。そう願った流和を、未楡は知っている。
(今の内に辛い状況を経験して、疲労困憊の中で戦う時の思うように動けず、思考すら停滞する状況の怖さを身をもって知り、その時が来たとしても負けない強さを身に付けさせてあげたいですわ)
 だから、それは未楡の思いやりであった。最終的に彼女はひとりきりで戦うことになるから、と。
 とはいえ‥‥。三笠 三四郎(ia0163)はまた別の真実を告げる。
「まあ、開拓者は一日二日の指導で実戦に使える様にはなりません。
 開拓者がどれだけ大変な仕事かわかってもらえたら幸いです」
「え、えーと‥‥が、がんばります」
「でも、出来るだけ教えるつもりですがここで学べるのは基本中の基本な上にこれから厳冬期なので、習得して実戦で使えるとは思わないでください。状況に応じて対応を変えなければいけませんから」
 はっきり告げる三四郎にこくりと頷く流和。それから霜夜の細かい説明が入り、
「授業詳細は各担当の先生から☆」
 そんな言葉で締めくくられる。さらに、稲刈りに参加してくれる人もいた。
「地元は農業やってましたから、多少はお手伝いできるかと思います」
「真夢紀ちゃん‥‥」
 じーん、と流和は真夢紀の心遣いに感じ入った。マルカと霜夜も同じく挙手。ついでに真夢紀は、
「明日と明後日まできれいに晴れますよ」
 あまよみの結果を告げた。

 琥珀とルンルンは、まず鞠を隠すことにした。あちこちに隠しつつ、
「流和が来て鞠のこと尋ねたら、ヒント教えてもらえるか? 何も聞かなかったら何も教えない、ってふうに」
「構わんよ。なんだか楽しそうだねぇ」
 農夫の言葉に、にかりと琥珀は笑った。
「ま、楽しくなきゃな!」
 そんなこんなで二人がかりで設置すればあっというま。それから稲刈りを中断して昼食をとるため、田から流和たちがあがってくる。
「お昼にしよー。稲刈り中だからいつもに増して何もないけどね」
 苦笑しつつ流和はお握りとぬるくなったお茶を配ると、流和の目の前から一人前を残して取り上げられる。へ? と目を丸くする流和に、琥珀は。
「もっと食べたいなら隠した鞠を捜すこと。いくつかあるから、これと同じ物探せばいーからなー」
 見本の鞠を見せて、言う。
「どこに隠したの!?」
「それを探すんだって」
「あう。ち、ちっちゃい鬼がいるよー」
「まずはノーヒントです、頑張って探してみてください!」
「明るい鬼もいるよぉー」
 ルンルンの激励にも、半べそかきつつ答える流和。とはいえぱぱっとお握りを口に押し込むと、さっそく探しにかかる。情報ゼロでやみくもにだだっ広い村の探索。もちろん成果は上がらない。
 しばらく時間が経ったのを見て、ルンルンは探索の基本を教えた。
「誰かが物を隠す時はどうしても僅かな痕跡残るから、そう言うのを探すとか」
 足跡も重要、と付け加える。
「捜査の基本は足だって言うもの。‥‥ほら、何か見つかりたくないもの誤魔化そうとしてバレタ時の事思い出して、どうして見つかっちゃったのか、そういう原因の跡を探してみるとか」
「村中誰かの足跡とか痕跡だらけだよー!」
 普通の痕跡の中から目的のものを探し出す。そういう注意力や判別力がないらしい。結局ルンルンが隠した一つだけ探し当ててタイムオーバー。
「まず、情報を集めないのが致命的。俺とか村人とかさ」
「き、聞いてよかったの!?」
「俺は聞いちゃいけないなんて言ってないだろー? だから、まず情報収集。それから探索場所の絞り込み。
 ってわけで、明日もガンバレ」
「あうっ」
 敗者は泣く泣く田んぼに戻っていった。

 流和が持ってきたのは、火バサミに薙刀、茣蓙、毛布。櫛に銅鏡、包丁、着替え一式に手ぬぐい三枚。塩と醤油、山菜取りの籠、鈴、七輪に網に火打石、お箸にお茶碗にお椀に砂時計、お米とお味噌となぜか餡子。冒険とか依頼とかいうより、むしろピクニック気分がうかがえる。
「では、まず」
 それを見た三四郎は、いいとも悪いとも言わず――
「完全装備で村の周りを走って一周‥‥やって貰います」
「え」
 も、もっと考えればよかった‥‥! 後悔しつつ荷物を背負う。
 結果、戻ってきた流和はもう見たくないとばかりに七輪を手放した。
「わかったと思いますが、だいぶ問題のある装備です」
「ハイ‥‥」
 三四郎のやる設営を手伝いつつ、流和は息切れしながら答えた。
「重いものは他で代用、割れ物も壊れにくいもので代用するように」
「行動を妨げない様に荷物は最小限とする為、肉厚のナイフは、鉈に包丁、簡易の鋤に。煮炊きも焼物も小鍋一つで‥‥と言った風に、流用可能な品を選ぶのも重要です」
 三四郎と未楡が代用の極意(?)を語った。三四郎が続ける。
「まあ‥‥荷物なんてものは投棄される事も多いので、大切な物や腐り易い物を荷物に入れるのは論外でしょう。砂時計とか、大事なのでは?」
「う、うん。霜夜さんからもらったやつ」
「それと、水は?」
「あ」
「‥‥流和ちゃん」
 未楡と三四郎の二人がかりで、こんこんと水の重要性について聞かされる流和だった。
「屋外では体温が奪われ動きが鈍る事は命取りです」
 言いつつ笠をかぶせ、外套を着せる未楡。
「又、天蓋がない時、毛布や寝袋の上から外套を羽織るのも一つの知恵ですよ」
「あの、これ‥‥」
「基礎課程修了のお祝いですよ」
 他にもいくつかを渡してにっこり微笑む未楡に、流和は礼を述べた。茣蓙があっても毛布一枚では寒すぎる季節だ。
 そして基本はルンルンの装備を見ればいいだろう、と三四郎は付け加えた。
「明かり、保存食、水筒に毛布。武装以外はあれくらいが基本です」
 それから野営中の眠り方を未楡に学んで、一応装備のお話は幕を閉じた。

 次はマルカと共に食材探しへ出かけた。
「流和様は慣れておられないので待ち伏せ狩りが有効でしょうか」
 そう言いながら、ポイントを伝えていく。水場、餌場、獣道で待ち伏せ。各種注意事項。
「糞やふみつけた下生え、足跡があれば獣がいる可能性がありますわね」
 痕跡を辿り猪を見つける。茂みから躍り出たマルカは、ブラインドアタックを用いてあっさり仕留めた。
 流和は兎を一羽狩った。ついでに山菜も集めてしまう。
「そういえば初めてお会いした時、ご一緒にあけびを食べましたわね」
「あれから一年ちょっと? ずいぶん経ったよねー」
 お世話かけてます。とあけびを切り取りながら言う流和と、思い出話に花を咲かせつつ野営地に戻った。
 山菜については何も言うことはないようだ。

 野営では真夢紀が依頼の仲間役として参加してくれた。
「何かで流和さんが怪我しても直ぐ治療できますし」
「えと‥‥、気をつけるね」
 それから未楡が野営料理を実演し、真夢紀も夜食を整える。 
「まゆは料理が好きですし、大抵の場合複数と行動しますから小鍋2つ持ってますが、流和さんの場合はそうはいきませんし」
 言いつつ、竹筒を使ったきのこご飯。
「あは、懐かしいね」
「覚えてくださいね?」
「これくらいなら」
 そのあと、琥珀が夜は視覚より聴覚を重視し、音で大体の距離と方向と大きさを知る方法と自然体でいること、危険性の見極めを教える。
「ただ単純に周囲を見渡すだけじゃなく地面や木や草の具合も見渡したり、実際に確認してみたり」
 ラティオもそう言いながら、風の流れ具合と木々の動きの差異、そこから風によって起きた動きなのか何か動物によって起こされた動きなのか‥‥、そういった判別をつけさせる。
「ほら、風が吹くと一斉に同じ方向に揺れるよね」
「うん‥‥、これは風、と」
 言いつつも、ふあ、と欠伸が漏れる。
 ぴしっ。
「あたっ」
 ラティオのでこピンが決まった。
「リラックスはしても油断はしない、集中しきる程じゃなくても集中力は絶やさない。
 微妙な事だけど結構大事、集中具合としては農作業しながらだべる時みたいな感じだね」
 それから見張りの順番を決める。他の開拓者も別個に周辺警戒はしているが、それはそれ、だ。
「真夢紀ちゃん、先あたし見張りでいい? 一度寝たら起きる自身なくて」
「いいですよ。じゃあ、まゆ先に休みますね」
 寝に入る真夢紀を眺めつつ、ふあ、とあくびをもうひとつ。ぴし、とでこピンがすかさず入る。そうしていると、ふいに背後でがさごそっ、と葉の音がする。慌てて振り返り茂みを掻き分けるが、何もいない。暗くてよく見えないが。
(そっか、明かり‥‥)
 必要性を噛み締め、さらにがさがさっ、と鳴ったほうに振り向く。
「えっ‥‥?」
 今度は後ろ。次は右手で。不自然な葉揺れがあちこちで鳴る。すぐに飛び込んでいっても誰もいない。
 ぱきり。小さく枝を踏む音。
「そこっ」
 飛び込むと、獣の耳。白猫の顔。ふさりと風に揺れる狐の尻尾。
 びしっ。
「いたーい!」
 相変わらず強力なでこピンが決まった。
 慌てて薙刀を手にして距離をとる。ふわりと彼女は闇に消えた。
(そ、霜夜さんだよ、ね‥‥? こ、怖かった)
 とか思いつつ、あくびが漏れる。集中したので一気に疲れが押し寄せた。
 ぴし、とラティオのでこピン。霜夜ほど痛くはないが、やっぱちょっと痛い。
「リセットね〜」
 ぺろりと舐められ、一瞬びっくりする、が。
「‥‥リセットって、またでこピンが待ってるんだよね‥‥」
 ちょっと涙目だった。
 それからもがさごそ音がしたり(実はルンルンも混ざってやっていたし、霜夜などスキルを組み合わせた撹乱をしていたりする)、霜夜やラティオにでこピンを食いつつ夜は更けていった。真夢紀に交代するころにはもう眠りながら歩いていたりする。
 翌朝、寝ぼけ眼をこする流和にあれこれ動いていたはずの霜夜は端的に採点結果を伝える。
「熊対策は一応ありましたが、鈴だけじゃぢょっと弱いです。夜襲にひとりで対処してくるし、正体もわからないのにやみくもに動くのもマイナスですねー。同行者との相談も中身が薄い上、連携どころか起こしもしません。課題てんこ盛りですね」
「うん。あたしが間違ってた‥‥。眠気覚ましが必要だ」
 ひりひりするおでこをさすりつつ、流和は呟いた。なにより眠いのがやばい、と。

 二日目、琥珀が改めて隠した鞠は時間がかかりつつも四つまで見つけてきた。見本とまったく同じもの、ということで多少まごついたが、なんとかクリア。
 夕方、改めて整えた装備も最低限のものに絞られ、松明が追加。三四郎と未楡から合格をもらうと、マルカが小さな箱を流和に渡す。
「へ?」
「わたくしが襲撃者、流和様はそれを守っていただきます」
 ランダムに襲撃をかける。武器なし、箱をマルカにとられたら負け。その前にマルカに触れられたら勝ち。ちなみに、賭けの対象は朝ごはん。
「ま、負けない‥‥!」
 焚き火を睨みつつじっと待つ。そして脳みそを働かせた。
(マルカさんどっから来るかなぁ‥‥。あたしも猪みたいにグサッと狩られそ‥‥ん?)
 ふと思った。流和が猪なら、マルカは――風下を選んだりしないだろうか。
 人間相手に同じ方法をとるかわからない。ついでに、流和が食べ物以外では嗅覚も鈍感だとマルカは知らない――はず。うん、今まで匂いの話をしたことないし。なら警戒するかもしれない。
(探索は方向性を絞る。なら、警戒もある程度絞ったほうが効率いいよね。――読みが当たれば)
 食べ物がかかっているので、いつになく冴えてる流和。結果を言えば粘ったものの地力の差で敗北。
「今ので流和様は死んでしまいましたわ、もっと鍛錬が必要ですわね」
 一瞬の殺気と嘆息。朝ごはん‥‥、切なげな呟きがこぼれた。

 そんなこんなで、三日目の朝。開拓者たちは帰宅する。
「お世話になりました」
「渋皮煮作って今度来る時持ってきますね」
 頭を下げる流和に、暇を見つけて集めた栗を抱えた真夢紀が次を約束する。それから、ルンルンが明るく締めくくった。
「流和ちゃんなら、きっと立派なニンジャになれます、太鼓判です!」
「うん! ‥‥うん?」
 なんかちょっと違うことに頷いた気のする流和だった。